【論 説】
地方交付税制度にかわる財源委譲は 地域間格差を拡大するのか?*
―マクロ成長モデルにもとづくシミュレーション分析―
宮 﨑 悟
†1 は じ め に
近年,地方分権に関する議論が活発に行われている.これに関連して地方 交付税制度による国から地方への財源再分配の問題も,林(1996)や赤井・佐藤・
山下(2003)をはじめ多くの研究がなされている.一般的に地方分権の問題を 経済学のアプローチから考える場合,公共経済学的な視点で制度的な問題を 中心に議論されることが多い.また,確率的フロンティア分析によって生産 効率性の低下を実証分析した宮崎(2004)のように,効率性の問題が議論され ることもある.しかし,構造的な不況に見舞われる近年においては,地方分 権の問題をマクロ経済からの視点を絡めて考えることにも意味がある.地方 分権の問題とマクロ経済や地域間格差を絡めた分析は十分な蓄積があるとは
* 本稿は2005年6月の日本経済学会春季大会(於:京都産業大学)で報告したものを大幅に改訂し たものである.討論者である名城大学の赤木博文先生,フロアより名古屋商科大学の福島淑彦先 生から有益なコメントをいただきました.また,本誌匿名レフェリーより改訂に向けた的確かつ 有益なコメントをいただきました.本稿の作成にあたり同志社大学の八木匡先生,定年退職され た森一夫名誉教授よりご指導をいただきました.ここに記して感謝いたします.言うまでもなく,
残っているかもしれない誤謬についてはすべて筆者の責に帰すものであります.なお,本稿の作 成にあたって,平成18年度私立大学等経常費補助金特別補助高度化推進特別経費大学院重点特別 経費(学生分)の助成を受けました.
† 同 志 社 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程・ 日 本 学 術 振 興 会 特 別 研 究 員DC(E-mail:
(投稿受付 2006年9月 5日,
査読を経て掲載決定 2007年1月23日)
いえない.たとえば,公共投資の乗数効果や社会資本の生産力効果の面から 地域間財政配分の問題を考える中東(2004)1)や,地域間格差を財政の観点か ら分析した高林(2005)のような先行研究があるものの,これらの研究ではマ クロ経済成長との関連については,明示的な議論がなされているわけではな い.
本稿では,地方交付税制度によって地方に財源が重点的に再分配されてい る現状と,国から地方に財源委譲されて各地域が地元からの税収に依存する 場合について,経済成長パターンのシミュレーション結果を比較する.この シミュレーションは,近年の「三位一体の改革」の議論における,国から地 方自治体への権限委譲や財源委譲に関する問題に対して,重要な示唆を与え ると考えられる.たとえば,財源委譲を行った場合には国が行ってきた都市 から地方への財政分配効果が弱まるため,各地方自治体が地元からの税収で まかなう必要性が高まる.マクロ経済成長への影響を分析することにより,
このような財源委譲が,効率性の観点から正当化できるか否かの判断を行う 際の根拠を与えることになる.ただし,地方交付税以外にも国庫支出金を含 む補助金の問題が財源委譲の問題とともに考えられることが多いが,本稿で は地方交付税による制度的な財政面の再分配2)がマクロ面への再分配にどれ だけの影響を与えるのかという部分のみに問題をしぼる.
本稿における具体的な分析ステップは次のとおりである.まず,国から地 方自治体への財源委譲によって結果的に起こる公共投資の地域間移転がGDP
(もしくは県内総生産)やその成長率にどれだけの影響を与えるのかを分析する.
この点に関しては,資本の収穫逓減性が考慮されている新古典派的なマクロ 成長モデルでも収束性の問題として議論が数多く存在する3).この収束性に ついては,Barro and Sala-i-Martin(1992)(1995)で地域間の差異について実証 研究が行われており,地域間で時間の経過と共に一人あたり経済規模が収束
1 )ただし,中東(2004)では国庫支出金による補助金を問題にしており,公共財・サービスの格 差が生じないように地方交付税は必要としている.
2 )中村・國崎(1996)などでは国庫支出金による実質的な再分配効果も指摘されている.
3 )新古典派成長モデルと収束性の理論的な関連についてはBarro and Sala-i-Martin(1992)参照.
していくことが示されている.
地方交付税制度から財源委譲へと地方財政制度を変更することは,GDPや 県内総生産に影響を与えるが,それらの成長率にまでは影響を与えないと考 えられる.この問題に対して,宮﨑(2003)では内生成長モデルの原点である AKモデルに公共投資(政府支出)を入れて拡張し,2地域の存在を考えて公 共投資の地域間移転の有無によって成長率が変わることを理論的に分析して いる.また,Miyazaki(2004)では,生産部門と教育部門の2部門内生成長モ デルにそれぞれ公共資本と教育という2種類の公共投資を入れたモデルを理 論的に分析し,通常の公共投資の地域間移転では生産水準が変化するだけで 成長率にまでは影響しないが,公共教育投資の地域間移転は実質的な技術水 準の向上につながり,成長率に影響することが理論的に確認された.
本稿では実際のデータを用いたシミュレーション分析によって,地方交付 税制度にかわる国から地方自治体への財源委譲が経済規模のみならず成長率 にまで影響を与えるのかどうかを分析する.さらに,シミュレーション結果 からジニ係数や変動係数を尺度として用いた県内総生産の地域間格差を計算 し,それが時系列的にどのような変化をするかについても調べる.
本稿における構成は以下の通りである.第2章では推計するモデルを示し て分析方法と使用するデータを確認し,第3章では推計結果を示して検討を 行う.最後に第4章で検討結果をまとめた上,財源委譲による政策的効果を 考える.
2 分析方法とデータ
技術水準をAi,1人あたり県内総生産をYi,1人あたり民間資本ストックを Ki,1人あたり公共資本投資をIi,1人あたり公共教育投資をEiとして,(1) 式で表されるような各地域における生産関数をパネル分析によって推計する.
ここでの下付iは地域を表し,本稿では日本の47都道府県を意味する.本稿 では公共投資部門での変化を考えるため,民間資本の変化による効果と公共
投資効果を分けて考える.さらに,公共投資を従来的な物的投資と教育投資 に分けることで,教育による人的資本蓄積の効果を意識した生産関数とした.
このとき,公共投資ではなく公共資本ストックを入れた形の生産関数を考え ることもできるが,財源委譲による公共投資の変化がもたらす効果を直接的 に考慮するために公共投資を入れた生産関数とした.
Yi=F(Ai,Ki,Ii,Ei) (1)
本稿では,現状のように地方交付税によって財源の再分配が行われている場 合と,地方交付税のかわりに国から地方自治体への財源委譲が行われた場合 を比較検討する.冒頭で述べたように本稿では地方交付税交付金部分に絞っ て議論を行うため,国庫支出金部分に関しては考慮に入れない.ただ,現行 制度では財源委譲された場合のデータが存在しない.このため,各地域での 各歳出項目への配分割合は変わらないものとして,比例的に各項目の歳出額 が変化するものとする.
また,歳入面では地方交付税によって再分配されている額が,すべて財源 委譲によって直接地方税として徴税された場合を想定してシミュレーション をおこなう4).なお,本稿では財源委譲によって各都道府県間の地方交付税 部分の配分割合を変化させる.これによって,財源委譲によって実質的に地 方交付税額分が再分配されたとして,各項目の支出額が収入額の変化と比例 的に変化したものと考える.このため,各地域における税収負担は変化して いないものとして考えている5).
具体的には,以下の手順で財源委譲後の公共資本投資と公共教育投資を推
4 )どの税目で税額を変化させるかによってマクロ経済に対する影響は大きく変わる可能性が高い.
しかし,本稿では地域間の財源移動の部分を議論の中心としたいので,単純化してすべての税目 で比例的に変化したものとしてシミュレーションした.また,本稿のモデルでは1地域(都道府県)
につき 1つの地方自治体が存在しているものと単純化した設定をおいている.
5 )各都道府県における財政収支を考慮すると,地域ごとに税率を変化させるなどの税収確保への 対応が必要になる可能性はある.しかし,本稿では財源委譲による実質的な地域間再分配のみを 考慮しているため,この問題については考慮していない.この問題については,今後の課題とし たい.
計する.まず,(2)式のように地方交付税交付金総額RSに地方税割合(地方 税総額RTに占める各地域の地方税RTi)を乗じて,各地域の財源委譲額FTiを求 める.
F Ti=RS×RT RTi
(2)
次に,各地域の収入RRiに財源委譲による変化分を調整して,財源委譲後 の各地域の収入RRiSを求める.ここでのRSiは各地域における地方交付税交 付金額とする.
RRiS=RRi−RSi+FTi (3)
各項目の支出額は収入額の変化と比例的に変化することを想定している.
(4)式と(5)式のように財源委譲前後の各地域の収入であるRRiとRRiSの 変化割合を乗じることで,財源委譲後の各地域の1人あたり公共資本投資と 1人あたり公共教育投資のそれぞれの推計値IiSとEiSを求める6).
IiS=Ii×RRi RRiS
(4)
EiS=Ei×RRi
RRiS
(5)
公共資本投資と公共教育投資の財源委譲による変化は第 1 表のようになる.
ここでは,分析期間中最新の2003年度のみ掲載した.以上の方法で得られた1 人あたり公共資本投資の推計値IiSと1人あたり公共教育投資の推計値EiSを(1) 式で推計された生産関数に代入した(6)式から県内総生産の推計値YiSを計算 する.
YiS=F(Ai,Ki,IiS,EiS) (6)
6 )地域ごとの公共投資額を調整することを考えているため,本来ならば各地域の総額で考える必 要がある.しかし,ここでは人口変化を考慮しておらず1人あたりで計算しても結果が変わらな いため,1人あたりで計算している.
(1)式の生産関数で表される現状と,(6)式の生産関数でのシミュレーショ ン結果を比較することで,財源委譲と地方交付税による効果を分析できる.
1人あたり公共資本投資IiS 1人あたり公共教育投資EiS
現実値 推計値 現実値 推計値
北海道 207,385 176,289 168,485 143,222
青 森 151,430 122,577 186,133 150,669
岩 手 158,820 126,359 196,041 155,971
宮 城 118,767 112,939 156,703 149,014
秋 田 189,147 147,509 196,307 153,092
山 形 174,611 141,041 170,242 137,513
福 島 136,931 121,398 177,944 157,757
茨 城 126,610 127,035 149,232 149,733
栃 木 139,438 142,233 150,931 153,957
群 馬 110,890 109,171 157,301 154,861
埼 玉 93,845 105,023 121,636 136,124
千 葉 85,576 96,278 124,437 139,999
東 京 126,140 161,535 127,850 163,724
神奈川 105,257 128,800 116,781 142,901
新 潟 188,187 166,771 158,414 140,386
富 山 176,510 159,876 166,996 151,257
石 川 207,283 188,629 175,003 159,253
福 井 214,398 194,178 182,747 165,511
山 梨 215,275 189,265 195,353 171,750
長 野 135,097 119,448 147,283 130,223
岐 阜 150,045 141,773 156,929 148,278
静 岡 128,607 142,172 140,345 155,148
愛 知 134,179 163,420 133,303 162,352
三 重 128,346 124,325 151,075 146,341
滋 賀 137,895 132,512 170,324 163,676
京 都 123,017 119,928 140,011 136,496
大 阪 136,205 153,116 139,872 157,239
兵 庫 168,746 168,084 150,652 150,061
奈 良 152,115 134,430 159,672 141,109
和歌山 178,645 147,963 171,085 141,702
鳥 取 205,928 165,463 186,491 149,846
島 根 277,529 214,995 234,588 181,730
第 1 表 財源委譲による1人あたり公共投資の変化(2003年・単位:千円)
次に,使用データについてであるが,県内総生産は『県民経済計算年報』
より1995年基準の「実質県内総支出」のデータを用いる.本稿の分析では公 共投資部分を別に考えるため,民間資本ストックについては『民間企業資本 ストック』のデータを使いたいが,この都道府県別年次データは公表されて いない.しかし,土居(2002)によって『民間企業資本ストック』を公表され ているデータをもとに配分する形で1998年度末までの都道府県別の民間資本 ストックが推計されている7).この推計方法を参考に,補論に示す方法で推 計を行い各年度末の値を民間資本ストックの代理変数とする.以上について は1990年度から2003年度までの利用可能な最新のデータを用いる.
さらに,各都道府県について『地方財政統計年報』の「目的別歳出額」の うち「土木費」と「教育費」(いずれも決算値)の都道府県分と市町村分の合計 額に,『国民経済計算年報』の「公的固定資本形成デフレーター」で実質化し たものをそれぞれ公共資本投資と公共教育投資の代理変数とする.
なお,公共投資には国からの直接投資部分もある.『行政投資』による2003
岡 山 152,813 138,031 165,046 149,081
広 島 171,756 167,036 156,668 152,363
山 口 179,036 159,982 154,219 137,806
徳 島 188,009 162,344 188,335 162,625
香 川 143,699 132,027 164,398 151,045
愛 媛 164,491 140,931 153,479 131,496
高 知 234,574 178,755 183,149 139,568
福 岡 136,533 134,280 131,852 129,676
佐 賀 152,369 125,444 168,393 138,636
長 崎 175,171 140,990 172,737 139,031
熊 本 138,158 114,097 155,376 128,316
大 分 168,300 140,148 171,095 142,476
宮 崎 170,278 135,884 166,467 132,843
鹿児島 186,652 146,158 179,441 140,511
沖 縄 173,500 144,593 206,102 171,762
7 )土居(2002)では都道府県別の公共資本ストックも推計している.しかし,本稿では財源委譲 での歳出変化による直接的な効果を見るために,フロー変数のラグを取って対応している.
年度データでは国からの直接投資部分(国が主体となって支出している部分8))が 30%であり,公共教育投資にあたる文教施設に限定すると18%とそれほど大き くない.本稿で考える公共教育投資は人的資本の蓄積に関わる部分で施設だけ を考慮しているわけではなく,『行政投資』における区分とは異なるので,国か らの直接投資部分を合わせて考えることは極めて難しい.また,本稿では地方 財政部分を主眼においているため,国からの直接投資部分は変化しないものと して考える.このため,国からの直接投資部分は生産関数の公共投資には含め ず捨象した.
公共投資の効果は瞬時的ではないため,ラグ構造を持つものと考えられる.よっ て,これらのデータは10年分のラグまで取れるように1980年度以降のものを用 意した.すべてのデータについては人口数で割った1人あたりの値を用いている.
本稿では1990年度から2003年度までの14年分のデータを用いて,固定効 果モデルによるパネル分析をおこなう.先述の通り,公共投資部分について は効果が1期のみにとどまらないので,ラグも考慮して過去になるほどウエ イトが軽くなる加重平均をとって推計した9).ラグの長さはダミーを除く推 計結果の係数がすべて正値で5%有意となるものの中から赤池の情報基準量
(AIC)を基準として選択した結果10),(7)(8)式のように公共資本投資は1 期ラグ,公共教育投資は10期ラグまでとなった.
Iit= 3 2Iit+Ii,t-1
(7)
Eit=
66
11Eit+10Ei,t-1+9Ei,t-2+8Ei,t-3+7Ei,t-4+6Ei,t-5+5Ei,t-6+4Ei,t-7+3Ei,t-8+2Ei,t-9+Ei,t-10
(8)
各都道府県の技術水準を考慮した固定効果をFEi,全国的な経済変動の影響
8 )国が主体となっていても,費用負担がすべて国であるわけではなく,都道府県や市町村による 費用負担も一部含まれている.これは,都道府県や市町村が主体となる公共投資でも同様である.
9 )アーモンラグをとる方法などもあるが,自由度確保のために加重平均を取って説明変数をそれ ぞれ1変数ずつにまとめた.
10 )候補となる式の説明変数の数はすべて同じなので残差二乗和が最小のものが選択される.
を考慮した時間効果ダミーをDt(ただし1991年度以降),誤差項をuitとすると,
具体的な回帰式は(9)式のようになる.
logYit=β1logKit+β2logIit+β3logEit+FEi+Dt+uit (9)
都道府県データでの分析で不均一分散の問題が生じる可能性が懸念されるた め,一般化最小二乗法(GLS)によって回帰をおこなった.
3 分析結果
3. 1 地方交付税全額分が財源委譲された場合(9)式の回帰結果は第 2 表の通りである.Wu-Hausman検定でのχ2検定量
は150.29となり固定効果モデルの妥当性が確認される.これに基づいて,(9)
式のIitの代わりに推計値IitSを,Eitの代わりに推計値EitSを入れて,国税と して徴税される地方交付税額分が財源委譲によって地方税として徴税された 場合をシミュレートした生産量の推計値YiSを計算する.
この結果,各地域(都道府県)について財源委譲時の推計値を算出すること ができるが,県内総生産の全国総計での現実値と推計値は第 1 図のように推 移する.現状の地方交付税制度によって結果的に他地域の歳出分を負担して いる地域を「負担地域」と呼ぶこととし,負担地域での県内総生産を集計し たものが第 2 図である.具体的に負担地域は栃木・埼玉・千葉・東京・神奈川・
静岡・愛知・京都11)・大阪・兵庫の10都府県を指す.逆に,地方交付税制度
11 )京都は逆転する年度もあるが,分析期間を通算すると負担額が多いため負担地域に分類した.
第 1 図 県内総生産の全国総計(兆円) 第 2 図 負担地域の県内総生産総計(兆円)
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 540
530 520 510 500 490 480
470 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 310
300 290 280 270 260
現実値 推計値 現実値 推計値
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 240
230 220 210 200 190
現実値 推計値
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 4
3 2 1 0
−1
−2
第 3 図 受取地域の県内総生産総計(兆円) 第 4 図 県内総生産の全国総計の成長率(%)
現実値 推計値
説明変数 係数 t値 決定係数 0.999994
K 0.3253 11.3707*** 自由度調整済決定係数 0.999993
E 0.1879 5.9179*** ダービンワトソン比 0.819361
I 0.1325 13.2057*** 残差二乗和 0.272439
F値 6673120
時間効果(時間ダミー・年度)
1991 -0.0034 -0.9539 1998 -0.0941 -9.0817***
1992 -0.0359 -7.9562*** 1999 -0.0958 -8.7613***
1993 -0.0591 -10.7660*** 2000 -0.0802 -6.9583***
1994 -0.0756 -10.4982*** 2001 -0.0971 -8.1602***
1995 -0.0757 -9.4501*** 2002 -0.0935 -7.6508***
1996 -0.0625 -7.0496*** 2003 -0.0689 -5.6430***
1997 -0.0809 -8.4040***
個別効果
北海道 8.4430 東 京 8.9411 滋 賀 8.6023 香 川 8.4426
青 森 8.3046 神奈川 8.5960 京 都 8.5449 愛 媛 8.3509
岩 手 8.3670 新 潟 8.4371 大 阪 8.6645 高 知 8.2414
宮 城 8.4929 富 山 8.4384 兵 庫 8.4365 福 岡 8.4750
秋 田 8.3310 石 川 8.5071 奈 良 8.2970 佐 賀 8.3578
山 形 8.3353 福 井 8.3999 和歌山 8.2900 長 崎 8.2574
福 島 8.4439 山 梨 8.4075 鳥 取 8.3796 熊 本 8.3486
茨 城 8.5170 長 野 8.4540 島 根 8.2580 大 分 8.3929
栃 木 8.5481 岐 阜 8.4467 岡 山 8.4642 宮 崎 8.2803
群 馬 8.5140 静 岡 8.6059 広 島 8.4949 鹿児島 8.2749
埼 玉 8.4945 愛 知 8.6461 山 口 8.3929 沖 縄 8.2302
千 葉 8.4834 三 重 8.5261 徳 島 8.3110
第 2 表 固定効果モデルによる推計結果
(注) 推計期間は1990年から2003年.1%有意であれば***を付けている.
教育費,土木費にはラグを含めた加重平均を用いたが,ラグ数はAICを基準に決定した.
不均一分散が懸念されるため一般化最小二乗法(GLS)で回帰している.
によって他地域からの移転を受けている地域を「受取地域」と呼び,受取地 域での県内総生産を集計したものが第 3 図である.また,県内総生産全国総 計の成長率は第 4 図のように推移している.
県内総生産〔百万円〕 成長率〔%〕 政 府 支 出 t値 現実値 変 化
平 均
推計値 平 均
相関
係数 t値 現実値 平 均
推計値 平 均
相 関 係 数 全国総計 12.121*** 503,615,311 510,296,234 0.9931 0.143 0.8385 0.8499 0.9778 1.0000 負担地域計24.863*** 281,979,808 297,271,689 0.9599 0.089 0.7107 0.7241 0.9286 1.1674 受取地域計83.637*** 221,635,503 213,024,544 0.9992 0.450 1.0068 1.0292 0.9958 0.8740 北海道 16.665*** 20,052,027 18,922,674 0.9350 0.193 0.7002 0.7580 0.6831 0.8411 青 森 10.493*** 4,411,454 4,061,762 0.9097 1.268 0.9630 1.5244 0.7219 0.7781 岩 手 11.396*** 4,651,044 4,277,368 0.9740 0.461 1.4819 1.2126 0.7218 0.7773 宮 城 10.540*** 8,453,127 8,297,602 0.9920 0.543 1.1516 1.2769 0.8576 0.9442 秋 田 23.499*** 3,817,042 3,494,757 0.9873 0.035 0.9760 0.9654 0.8261 0.7667 山 形 21.142*** 4,087,289 3,802,751 0.9755 0.144 0.8150 0.8712 0.8262 0.8035 福 島 5.189*** 8,003,560 7,678,660 0.9825 1.576* 1.6376 0.9369 0.8237 0.8844 茨 城 0.579 11,139,134 11,111,982 0.9469 0.478 1.0443 1.2620 0.7657 0.9888 栃 木 1.236 8,101,700 8,141,466 0.9374 0.286 1.0836 0.9625 0.6964 1.0135 群 馬 1.170 7,650,449 7,606,404 0.8440 0.680 0.5112 0.8215 0.5968 0.9804 埼 玉 8.355*** 20,409,199 21,136,936 0.9509 0.322 1.1733 1.2936 0.6923 1.1064 千 葉 7.907*** 18,649,228 19,341,318 0.8833 0.099 0.9321 0.9787 0.6316 1.1119 東 京 8.644*** 83,738,506 90,119,330 0.3573 0.668 0.6967 0.3637 0.2705 1.2638 神奈川 13.822*** 31,849,463 34,054,520 0.7845 1.389* 0.3779 0.8286 0.7808 1.2311 新 潟 10.838*** 9,263,416 8,903,725 0.9478 0.108 0.9344 0.9678 0.8655 0.8834 富 山 6.725*** 4,603,934 4,478,975 0.9125 1.132 0.8898 0.4891 0.8651 0.9200 石 川 10.942*** 4,583,334 4,464,955 0.9846 0.797 1.0118 1.2447 0.8046 0.9215 福 井 11.284*** 3,343,179 3,243,880 0.9731 0.815 0.8984 0.6919 0.8011 0.9119 山 梨 7.623*** 3,173,811 3,028,141 0.9117 0.930 0.9306 1.5346 0.5393 0.8603 長 野 2.944*** 8,288,927 8,005,870 0.8789 1.151 1.2853 0.6929 0.7385 0.9042 岐 阜 5.541*** 7,285,250 7,163,137 0.9802 0.628 0.8681 1.0274 0.8169 0.9435 静 岡 8.692*** 15,660,438 16,212,478 0.9441 0.133 1.0633 1.0055 0.7498 1.1126 愛 知 9.449*** 33,482,805 35,558,668 0.9778 1.167 1.5554 1.0664 0.8115 1.2096 三 重 4.886*** 7,031,170 6,932,865 0.9840 0.218 1.5654 1.4840 0.8410 0.9536 滋 賀 1.014 5,658,874 5,621,082 0.9371 0.460 1.2743 1.5615 0.8440 0.9770 京 都 0.830 9,700,895 9,729,546 0.8799 0.291 0.6302 0.7499 0.8089 1.0064 大 阪 10.969*** 40,425,992 42,755,132 0.4743 1.384* 0.1624 0.4908 0.8927 1.1873
第 3 表 現実値と予測値の平均値検定
これらの図から現実値と推計値を比較すると,全国総計で見ると県内総生 産の総計は,財源委譲された場合の推計値のほうが大きくなっていることが うかがえる.第 3 表ではそれぞれの場合における現実値と推計値に有意な差 があるかを検定した結果を示している.県内総生産の全国総計で見ると推計 値のほうが有意に大きいこととなり,財源委譲によって県内総生産の全国総 計が大きくなっていることが示されている.日本の統計上,各都道府県の県 内総生産の総計と国内総生産GDPは一致しないが,それほど大きな違いはな い.このため,本稿では各都道府県の県内総生産総計をGDPとして扱うもの とする.地方交付税制度にかわる財源委譲は一国全体としてのGDP水準には プラスの効果を持っていると言えよう.一部で有意な差が確認されない府県 兵 庫 1.107 19,961,582 20,222,296 0.3058 2.112** 0.0353 0.9362 0.8461 1.0375 奈 良 4.308*** 3,730,807 3,600,551 0.9760 0.860 1.4161 1.0454 0.6719 0.8981 和歌山 20.852*** 3,368,403 3,173,323 0.9140 0.158 0.5699 0.6222 0.6805 0.8355 鳥 取 10.606*** 2,074,543 1,914,122 0.8642 1.829** 0.5671 1.2350 0.7453 0.7841 島 根 28.359*** 2,425,884 2,216,741 0.9824 0.508 1.1439 1.3395 0.6873 0.7628 岡 山 4.930*** 7,347,865 7,154,814 0.7264 0.457 0.4824 0.7627 0.3019 0.9214 広 島 0.896 11,248,793 11,186,597 0.7466 1.643* 0.4056 0.8551 0.8378 0.9851 山 口 6.973*** 5,659,793 5,471,729 0.8487 0.833 1.0439 0.6039 0.4794 0.9062 徳 島 21.678*** 2,563,648 2,394,465 0.9787 0.393 1.4578 1.3000 0.5097 0.8139 香 川 7.368*** 3,718,445 3,618,224 0.9334 0.139 0.9281 0.8583 0.4310 0.9187 愛 媛 9.958*** 4,804,028 4,550,695 0.9161 0.110 0.8423 0.7787 0.6974 0.8495 高 知 12.230*** 2,438,582 2,224,931 0.8990 0.708 1.2648 0.8556 0.3949 0.7599 福 岡 5.841*** 17,447,209 17,215,653 0.9840 0.060 1.2121 1.1934 0.6927 0.9600 佐 賀 13.702*** 2,828,137 2,622,876 0.9784 1.143 1.4437 0.9891 0.7602 0.7978 長 崎 10.965*** 4,361,681 4,051,426 0.7887 0.653 0.6918 1.0009 0.4523 0.7988 熊 本 13.085*** 5,699,915 5,325,532 0.8821 0.331 0.9062 1.0911 0.5807 0.8127 大 分 8.760*** 4,446,773 4,163,353 0.9740 1.126 1.7753 1.1631 0.5820 0.8214 宮 崎 25.553*** 3,478,323 3,200,013 0.9744 0.391 1.1756 1.0526 0.6269 0.7793 鹿児島 19.122*** 5,110,776 4,709,070 0.9643 0.091 1.3266 1.2899 0.5767 0.7798 沖 縄 21.191*** 3,384,878 3,133,843 0.9809 0.823 1.4028 1.7461 0.3871 0.7903
(注) 片側検定で1%有意なら***,5%有意なら**,10%有意なら*を付けている.「政府支出変化」
とは地方交付税制度にかわり財源委譲が行われた場合の政府支出額推計値を現実値で割った ものである.政府支出変化が1以上の地域を負担地域とし,1未満の地域を受取地域とする.
もあるが,全体的に見ると財源委譲によって負担地域では県内総生産が大き くなり,逆に受取地域では小さくなっている.これによって,地方交付税廃 止にともなう財源委譲が地域間配分にも大きな影響を与えうることが確認さ れる.しかし,成長率での比較を見ると全国合計や負担地域,受取地域の合 計でも有意な差は見られない.また,ほとんどの都道府県において現実値と 推計値の間に有意な差は見られないことから,財源委譲が成長率にまでは影 響を与えないと考えられる.
負担地域と受取地域のそれぞれでの県内総生産総計の成長率を比較すると,
受取地域のほうが高いように見える.そこで,受取地域のほうが有意に高くな るかを平均値検定したものが第 4 表である.現実値では10%水準でも有意な 差が見られず,推計値では10%水準で受取地域の成長率のほうが有意に高く なることが示された.宮﨑(2003)で示されたように内生成長モデルでは技術 水準が成長率に影響を与えるため,技術水準が高い地域ほど成長率が高くなる はずである.一般的には,負担地域,すなわち都市部のほうが生産性も高く,
人的な意味も含めた広義での技術水準は負担地域のほうが高いと考えられ,本 稿の分析でも技術水準を表す固定効果は負担地域のほうが高くなっている12). しかしながら,少なくとも技術水準が高いほど成長率も高くなるという内生成 長モデルでの理論的帰結通りになっていない.これは新古典派成長モデルで考 慮されるが一般的な内生成長モデルで考慮されない収束性の存在によるもの と考えられる13).
12 )負担地域と受取地域の固定効果平均値は負担地域のほうが高いが,平均値検定によっても有意 に高いことが確認できる(t値:2.888,自由度:13).
13 )ただし,Barro and Sala-i-Martin(1995)では収穫逓減性を持つ部分と内生成長する部分に加法 分解できる生産関数で内生成長モデルを考える場合は,収束性が存在するとしている.しかし,
本稿では収穫逓減性が含まれない一般的な内生成長モデルだけを考えている.
t値 負担地域平均 受取地域平均 相関係数
現実値 1.273 0.7107 1.0068 0.8286
推計値 1.656* 0.7241 1.0292 0.8904
第 4 表 負担地域と受取地域の成長率の平均値検定
(注) 片側検定で10%で有意であれば*を付けている.
Barro and Sala-i-Martin(1992)(1995)では,相対的に貧しい地域ほど成長率 が高くなり富裕な地域に追いつく傾向があるというβ収束性が示されている.
β収束性が存在する場合,地域間格差は縮小する傾向にあることが示される.
そこで,β収束性の存在をBarro and Sala-i-Martinによる一連の研究と同じ方 法で確認する.次の(10)式を非線形最小二乗法によって推計する.
( l /T)・log (yiT/yi0)=Ϸ+{( l−e−βT) /T}・log (yi0)+ui0,T (10)
Tは分析期間の長さで本稿の分析ではT=13となる.yiTは地域(都道府県)i における最終期(2003年)の1人あたり県内総生産,yi0は地域(都道府県)iに おける初期(1990年)の1人あたり県内総生産,ui0,Tは誤差項である.βの値 が正値になればβ収束性が確認されたこととなり,βの値が大きくなるほど 収束速度が速くなる.Barro and Sala-i-Martinによる一連の研究や塩路(2000)
では日本のデータを長期的にとり,期間を分けてパネル分析を行ってβ収束 性を推計してβの値の推移も見ている.しかし,本稿では時系列的なβの値 の変化よりもβ収束性が成立するかを問題としたいので,期間分割せずに1 期間のみで推計を行った.この推計結果が第 5 表である.現実値,推計値と もにβの値は有意な正の値となることからβ収束性が確認される.すなわち,
いずれの場合においても長期的な視点では地域間格差は縮小傾向にあること がわかる.しかし,現実値と推計値を比較すると,推計値のほうがβの値が 低くなっており,財源委譲によって収束速度が下がることとなる.財源委譲 によって地域間格差の縮小傾向に変わりはないものの,格差縮小は遅くなっ てしまうこととなる.
β値 t値 自由度調整済決定係数
現実値 0.0137 3.53*** 0.2320
推計値 0.0123 6.41*** 0.5068
第 5 表 β収束性の推計
(注) t値の後に1%で有意なものには***を付けている.
第 6 表では,ジニ係数や変動係数,対数値標準偏差によって県内総生産の 地域間格差の推移を表している.どの指標においても地方交付税制度にかわ る財源委譲によって地域間格差は大きくなることが確認された.現状では,
地方交付税制度によって財政力の低い地域に財源が重点的に配分されている が,これが財政的な地域間格差だけではなくマクロ経済的な意味でも地域間 格差を小さくしていることがわかる.人口ウエイトをかけない1人あたりの 県内総生産ではかった指標で,現実値と推計値の差は期間を通じてジニ係数 で約0.02前後,変動係数で約0.04前後となっている.都道府県別の人口ウエ イトをかけた指標では人口格差分も加わるために,1人あたりの指標よりも 全体的に格差は約5倍強と大きく計測される.この場合での現実値と推計値 の差は期間を通じてジニ係数で約0.02強,変動係数で約0.05から0.1となり,
1人あたりでの指標と比較してもそれほど大きく差は拡大していない.さら に,すべての指標で1994年頃までは現実値と推計値との差が拡大しているも のの,それ以降は縮小傾向にある.いずれにしても,通時的に差が縮小して
年度
人口ウエイトなし(1人あたり) 人口ウエイトあり ジニ係数 変動係数 対数値標準偏差σ ジニ係数 変動係数 現実値 推計値 現実値 推計値 現実値 推計値 現実値 推計値 現実値 推計値 1990 0.1036 0.1231 0.2125 0.2592 0.1853 0.2188 0.5130 0.5337 1.3172 1.4131 1991 0.1045 0.1237 0.2105 0.2599 0.1870 0.2198 0.5114 0.5344 1.3006 1.4133 1992 0.0991 0.1227 0.2037 0.2571 0.1792 0.2181 0.5091 0.5332 1.2959 1.4042 1993 0.0953 0.1205 0.1957 0.2516 0.1729 0.2143 0.5049 0.5306 1.2768 1.3880 1994 0.0917 0.1178 0.1906 0.2456 0.1678 0.2100 0.5011 0.5274 1.2652 1.3705 1995 0.0916 0.1155 0.1888 0.2404 0.1673 0.2063 0.4996 0.5253 1.2556 1.3573 1996 0.0940 0.1134 0.1922 0.2353 0.1709 0.2027 0.5004 0.5237 1.2578 1.3472 1997 0.0936 0.1118 0.1949 0.2310 0.1710 0.2002 0.5016 0.5225 1.2760 1.3396 1998 0.0899 0.1097 0.1901 0.2258 0.1658 0.1969 0.5003 0.5207 1.2770 1.3303 1999 0.0880 0.1078 0.1861 0.2236 0.1624 0.1940 0.4990 0.5204 1.2726 1.3335 2000 0.0885 0.1068 0.1839 0.2218 0.1621 0.1923 0.4987 0.5206 1.2641 1.3348 2001 0.0876 0.1056 0.1875 0.2189 0.1616 0.1902 0.5015 0.5203 1.2874 1.3317 2002 0.0897 0.1052 0.1883 0.2188 0.1636 0.1898 0.5022 0.5215 1.2845 1.3374 2003 0.0898 0.1048 0.1875 0.2190 0.1638 0.1891 0.5029 0.5230 1.2855 1.3460
第 6 表 ジニ係数・変動係数・標準偏差の推移
いることから,地方交付税制度による財源再分配が持つ地域間格差の縮小効 果は小さくなっていると考えられる.
多くの指標において長期的な格差縮小傾向も確認できる.Barro and Sala-i-
Martinの一連の研究で示されている1人あたり生産量対数値の分散(標準偏差)
は通時的に低下するという「σ収束性」が第6表から現実値と推計値の両方 において確認できる.Barro and Sala-i-Martin(1995)とSala-i-Martin(1996)で はアメリカでの地域間移転額の変化が州間の所得分散の長期的低下に関して 主要な要因ではないことを示しているが,ここでも地方交付税による再分配(地 域間移転)が分散の長期的低下傾向には大きく関わらないことが示されている.
3. 2 財源委譲割合を変化させた場合のシミュレーション
ここまでは,財源委譲が地方交付税全額分行われたことを想定したシミュ レーションを行ってきた.では,財源委譲割合を変化させた場合,経済規模 や地域間格差はどのように変化するのだろうか.財源委譲割合を10%ずつ変 化させてシミュレーションを行った.
地方交付税全額分の財源委譲の場合は,地方交付税制度そのものがなくな ることを想定していた.しかし,ここでは地方交付税制度が一部残ることを 想定している.この場合,地方税額の変化によって基準財政収入額の変化を 通じて地方交付税の配分額がさらに変化する可能性がある.しかし,赤井・
佐藤・山下(2003)で詳しく議論されているように,地方交付税の制度的な配 分のしくみと現実の配分とは異なる面も多い.また,このことによる地方交 付税配分変化はそれほど大きくはならないと予想されるため,支出部分の変 化にそれほど大きく影響を与えるとは考えにくい.このため,本稿では地方 交付税のさらなる配分変化については考慮しないものとする.
このシミュレーション結果を第 7 表に集約した.まず,県内総生産の全国 総計によって国内の経済規模の変化を見てみると,財源委譲割合が増えるほ ど経済規模は拡大することがわかる.ただ,14年分のデータの平均値検定に
よって現実値と推計値に有意な差が存在するかを検定すると,地方交付税額 のうちの1割を地方税として財源委譲した場合には有意な差が存在していな い.このことから,ほんの一部分のみを財源委譲した場合には,一国全体と しての経済規模に影響を与えない可能性もあることが分かる.なお,第7表 には入れていないが,成長率はどの場合でもほとんど変化しておらず,平均 値検定でも有意な差は認められなかった.
次に,人口ウエイトをかけない1人あたりジニ係数に目を移すと,委譲割 合の上昇とともにジニ係数が上昇している.ここでも,1割委譲の場合では 平均値検定の結果,現実値と有意な差が存在していない.このことから,1 割程度の財源委譲では,経済規模にも1人あたりで見た地域間格差にも有意 な影響を与えないこととなる.しかし,人口ウエイトをかけたジニ係数では,
財源委譲割合の上昇とともにジニ係数も上がり,平均値検定より1割委譲時 でも有意な差が存在することとなる.
β収束性の推計による収束速度を見てみよう.この結果をまとめたものが 県内総生産全国総計 1人あたりジニ係数 人口ウエイト付ジニ係数 平均
(億円)
平均値検定
平均 平均値検定
平均 平均値検定
t値 P値 t値 P値 t値 P値
現実値 5,036,153 0.0933 0.5032
1割委譲 5,042,619 1.009 0.166 0.0943 1.288 0.110 0.5054 3.100 0.004***
2割委譲 5,051,305 2.492 0.013** 0.0963 3.890 0.001*** 0.5077 6.602 0.000***
3割委譲 5,058,846 3.784 0.001*** 0.0983 6.398 0.000*** 0.5099 10.025 0.000***
4割委譲 5,066,070 5.055 0.000*** 0.1003 8.889 0.000*** 0.5122 13.480 0.000***
5割委譲 5,072,983 6.303 0.000*** 0.1023 11.331 0.000*** 0.5144 16.951 0.000***
6割委譲 5,079,586 7.527 0.000*** 0.1044 13.710 0.000*** 0.5166 20.432 0.000***
7割委譲 5,085,884 8.722 0.000*** 0.1066 15.984 0.000*** 0.5188 23.900 0.000***
8割委譲 5,091,878 9.888 0.000*** 0.1088 18.140 0.000*** 0.5211 27.309 0.000***
9割委譲 5,097,570 11.021 0.000*** 0.1111 20.213 0.000*** 0.5233 30.684 0.000***
全委譲 5,102,962 12.121 0.000*** 0.1135 22.210 0.000*** 0.5255 34.031 0.000***
第 7 表 財源委譲割合の変化によるシミュレーション
(注) 片側検定で5%有意であれば**を,1%有意であれば***を付けている.
第 5 図である.すべてのケースにおいて,収束速度を表すβ値は1%有意と なる.この結果,地方交付税の2割分を財源委譲した場合がもっとも低くなり,
それよりも財源委譲割合を増やすにつれて収束速度は高まっている.しかし,
前述の通り,財源委譲を行った場合のほうが収束速度は低くなるという傾向 に変わりない.
4 結論
本稿では地方交付税制度にかわり国から地方自治体に財源委譲された場合 のシミュレーションを行い,財源委譲によるマクロ的な影響について実証的 に分析を行った.まず,財源委譲によって一国全体としてのマクロ経済,す なわちGDPは大きくなったものの,GDP成長率にまでは影響を与えなかった.
次に,地方交付税制度によって他地域の財政歳出を負担する負担地域と他 地域から財政移転を受ける受取地域に分けて比較した.一国全体で見たとき と同様に,いずれの地域でも県内総生産の水準が変化することはあっても,
成長率の変化は確認されなかった.ただし,財源委譲され地方交付税による 0.0140
0.0135 0.0130 0.0125 0.0120 0.0115 0.0110
0
財源委譲割合(%)
β値
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
第 5 図 財源委譲割合とβ値のシミュレーション
財源再分配を行わなかった場合の推計値において,負担地域と受取地域の成 長率に有意な差が見られなかった.これは,相対的に技術水準(個別効果)の 高い地域(負担地域)の成長率は低い地域(受取地域)より高くなるという内生 成長モデルから理論的に得られる結論と必ずしも一致しない.一般的な内生 成長モデルでは新古典派成長モデルのように資本の収穫逓減性は考えられて いない.内生成長モデルでは地域間の収束性を考慮に入れていないが,実際 には収束性が存在するためにこのような結果になったものと考えられる.そ れを裏付けるように今回の分析において収束性の存在は確認されている.ま た,地方交付税制度にかわる財源委譲によって収束速度が高まることが確認 された.これらのことから,新古典派的な資本の収穫逓減性を考慮したモデ ルによるアプローチのほうがより現状を説明しうることがわかった.
さらに,ジニ係数などを用いて地域間格差について調べると,財政面での 地域間格差を縮小させる地方交付税制度がマクロ経済の地域間格差も縮小さ せていることがわかる.ただし,地方交付税による格差変化はそれほど大き くなく,地域間格差縮小効果も縮小しつつある.また,地方交付税の有無に 関係なく長期的な格差の縮小傾向は変わらないことがわかった.
改めて政策的な観点からまとめると,地方交付税制度にかわる国から地方 自治体への財源委譲には,短期的にはマクロ経済の拡大という正の効果があ る.ただし成長率にまでは影響しないため,財源委譲を行ったときの拡大効 果は一時的14)なものにとどまる.一方,財源委譲によって地域間格差は拡大 するものの,収束性の存在による格差縮小傾向は財源委譲の有無にかかわら ず変わらない.むしろ,財源委譲によって収束速度が下がるため,長期的に は地域間格差の縮小傾向が弱まる.ただ,収束性によってストレートに地域 間格差が縮小するわけではないという高林(2005)による指摘もあり,各地方 が自らの努力で地域経済を活性化させる点を含めて改めて考慮する必要があ る.今回の結果からは,財源委譲によって地方交付税制度による財源移転が
14 )財源委譲による効果としてのマクロ経済の水準拡大は一時的だが,拡大直後に財源委譲前の水 準に戻るということではない.
受けられなくなる地方の経済がより苦しくなりうることがわかった.
今回の分析では,財政制度面の再分配がマクロ経済面の再分配に与える影 響を見るため,地方交付税額分の財源委譲のみに範囲を限定している.シミュ レーションのために設定をかなり単純化した部分が多い.例えば,地方によ る資本の効率性の違いなどの地域の特性を考慮に入れていない.また,国か らの直轄事業による公共投資部分を考慮していない.さらに,財源委譲によ り収入が減少する地域が別の方法で地域経済を活性化させる政策を行うなど の,各地域が自ら努力するインセンティブによる効果もモデルには考慮され ていない15).これらの設定を考慮して詳しく分析することにより,より重要 な結果が得られる可能性も残っている.また,シミュレーション結果を際立 たせるために,本稿では過去の値に挿入して比較を行っているが,将来的に はどうなるのかを詳しく検討する余地も大いに残されている.資本の収穫逓 減性も入れたモデルを理論的に再構築してこの問題を分析することも,今後 の課題として残されている.
15 )これには,地方のインセンティブが高まり創意工夫を行うことで地域経済を活性化させるメカ ニズムが必要となる.例えば,経済産業省による産業クラスター計画や文部科学省による知的ク ラスター計画のように,地域経済を活性化させることにつながる政策も進められており,徐々に 各地域に根付こうとしている.
補論 民間資本ストックの都道府県配分の推計について
土居(2002)では公表されたデータを用いて『民間企業資本ストック』を都 道府県別に配分推計している.しかし,このデータは98年度分までしかなく,
旧系列の68SNAをもとに推計されている.また,1955年からの長期データ
であるために1980年代後半に民営化された旧公社分は除去されている.本稿 では被説明変数の県内総生産データが新系列の93SNAによるものなのでデー タを統一する必要がある.本稿の分析期間では1991年に新幹線鉄道保有機構 保有分が民間資本として追加される以外はすべて旧公社分が民間資本となっ ている.このため,本稿の分析期間を考えると旧公社分も入れた形で推計す るほうが妥当と考えられる.そこで,土居(2002)を参考にして,以下の方法 で再推計して各都道府県の民間資本ストックデータとして用いることとした.
都道府県iでのt時点での資本ストックをKit,純除去額を前年度の資本ス トックで割った全国共通の純除去率をNDt,新設投資額をIitとすると,
Kit=( l−NDt)Ki,t−1+Iit (A1)
となる.基本的には(A1)式によってストックを積み上げていくと考える.
ここでIitは『民間企業資本ストック』の「新設投資額」に,『県民経済計算年 報』「総固定資本形成」の「民間企業設備」の全国総計に対する比率をかけた ものである.
旧公社が民営化されるのは1985年度以降なので,1984年度末の土居(2002)
によるデータをそのまま利用してベンチマークとして1985年度以降のものを 推計しなおす.1985年にNTTとJTが,1986年に電源開発株式会社が,1987 年にJRが民営化され,また1991年には新幹線鉄道保有機構保有分が『民間 企業資本ストック』に追加されている.これらの年度においては,
Kit=( l−NDt)Ki,t−1+Iit+差額 (A2)
と差額が発生するが,この差額分を旧公社から民間資本に入ったものとして
各年度末に組み込むこととなる16).各社の都道府県別資本データは存在しな いため,その年度末における差額以外の部分の全国比率によって配分する.
ただし,1987年のJRは沖縄県には存在しないため沖縄以外の都道府県の比 率で配分し,1991年の新幹線は駅がある都道府県のみの比率で配分する17). 先述の通り新系列93SNA指標にあわせる必要があるが,新系列指標は1990 年以降しかデータが存在しないため接続する必要がある.本稿の推計では旧 系列指標で1985年から90年まで積み上げ,1990年時点での推計された民間 ストックの全国比率を新系列指標に接続した.ただし,1991年から新幹線分 のストックが追加される関係で1990年度末分は91年度末の追加ストック分 に除去率分を加えた額分を加算する必要がある.このときの除去率は法人企 業における運輸・通信業の除去率を用いる.
また,土居(2002)では1995年1月の阪神大震災による阪神地域の除去率 への影響も考慮に入れている.本稿でもこれにならって推計に入れる.この 推計ではすべての都道府県において共通の除去率を仮定しているが,阪神大 震災によって特に大阪・兵庫で多くの資本ストックが失われている.そこで,
通商産業省(当時)『工業統計表』の「土地以外除去額」を「産業合計・土地 以外年初現在高」で割ったものを控除率として都道府県別に求める.大阪・
兵庫の控除率をそれ以外の都道府県の平均控除率を割った比率を(A1)式で 用いる除去率にかけて,(A1)式によって1994年度末のストックを計算する.
ただし,この時点では大阪・兵庫でより多く除去された分過小となるので,
計算された比率で過小部分を配分しなおして合計額が民間企業資本ストック 額と同じになるように調整する.
以上の手順によって『民間企業資本ストック』を配分して,各都道府県に おける年度末の民間ストック額を推計することが可能であり,本稿ではこれ を利用している.
16 )土居(2002)ではこの差額分を前年度末に組み込んでいるが,(A1)式と(A2)式を比較する と該当年の年度末に組み込むほうが好ましいと考えた.
17 )東北新幹線は茨城県を通過しているが通過区間が短い上に茨城県内に駅がない.このため,新 幹線の県民経済への効果はきわめて小さいものと考えて茨城県は除外している.
【参考文献】
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The Doshisha University Economic Review Vol.59 No.1
Abstract
Satoru MIYAZAKI, Does Fiscal Transfer instead of Tax Grants for Local Governments Expand a Regional Gap? : A Simulation Based on Macroeconomic Growth Model Decentralization has recently been one of the major topics in Japan. This paper assumes that national government transfers fiscal resources to local governments instead of the traditional tax grant allocations, and analyzes the effects of the fiscal transfer on economic growth and regional gaps. Three main results obtained by the analysis are as follows: (1) The fiscal transfer has no effect on economic growth, but expands on nationwide economic scale. (2) The regional gap is expanded by the fiscal transfer, but diminishes irrespective of this transfer in the long term. (3) The β-convergence and σ-convergence exist irrelevantly to the fiscal systems, and the fiscal transfer decreases the convergence speed.