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水稲根における呼吸作用の生産生理学的意義に関す る研究

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

水稲根における呼吸作用の生産生理学的意義に関す る研究

山口, 武視

https://doi.org/10.11501/3083859

出版情報:Kyushu University, 1995, 博士(農学), 論文博士 バージョン:

権利関係:

(2)

第6章 水稲茎基部からの出液速度と根の呼吸速度との関係

前章までは, 71<稲根の呼吸速度を測定することで根の活性を代表できない かと 考えて一連の研究を行ってきた そのなかで, 登熟期の根の呼吸速度と葉身窒素

含有率およ び籾当た り葉面積に高い正の相関のある ことを明らかとした .

聞場条件下で-水稲 根の生理的活性を把握すること は, 栽培管理のうえで重要 で あるが, 根は土壌中に伸長しており, 肉眼で観察することができない. した がっ て, 土壌ごと根を掘り上げた後, 根を洗い出して根の呼吸速度を測定すると いう 方法を用いてきたが, これ は部分的な損傷は不可避であるうえに多大な労力が必 要となる. も っと簡便な診 断法が確立されるならば農家自らの手で実施する こと

も可能となろう.

一方 , 水稲茎基部からの 出液は呼吸エネルギーを使った養水分の積極的吸収の 結果起こると考 えられている. この出液量で根の生理活性が 把握できれば, 根の 掘り取りが不要であるうえ に, 特殊な装置や試薬を必要 とせず, 容易に根の 活力 を測定することが可能となり, 現場での有効な生育診断のひとつとして採用する ことができる. 本章ではこのような目的で, 出液速度 に関与する要因を明ら かと い 出液速度で根の生理活性を把握できる かどう か を検討した. さ ら に, 出液中 のアンモニア態窒素, 珪酸ならびにカルシウム濃度と根の呼吸速度との関係を検

討した (山口ら 1995a, 1995b) .

第1節 水稲の茎基部からの出液速度に関与する要因の解析

切断した茎基部か らの出 液現象は古くから注目さ れており, 出液は根と培地と の水ポテンシャル勾配によ るという説(Klepper 1967)と, それは根のエネル ギ一代謝に依存しており, 水ポテンシャル勾配に逆らう水吸収 であるとの説 (House and Findlay 1966)がある. 水稲 では, 呼吸阻害剤で出液が低下する こ とを岡島(1960)や平沢ら( 1983)が認めており, 田辺(1971)は水稲根のαー

ナフチルアミン酸化力と出 液量との間に正の相関のあることを報告している. ま

(3)

た, 大立で も根 の呼吸 速度と出液速度とは高い相関の あることが報告〈李ら 1994b)されている. したがって, 出液 速度が根の呼吸に関連する生理活性と関 係していることは確かであろう.

しかしKr am e r (1 98 6 )は, 同ーの齢で同じ処理をした根系から得られる出液 でも不明な理由により 量が大きくばらつく場合のあることを指摘してお り, 著者

も過去にそれを経験しているので, これの採用には跨賭してきた. そこで, 出液 の測定条件を厳密に検討す るた めに, 1 9 9 1年にそれを実施した(山口ら

1995b) .

材料と方法

供試材料は容量6 Lのポットで土耕栽培 した品種ヤマビコと, 当地域の慣行 で 圃場栽培した品種コシヒカリである.

根の呼吸速度と出 液量との関係 の検討には, 面積が約5m 2と7 m 2 (し1ずれも 深さ3 0 cm)の箱型水田に20株m-2の密度で移植(1株2本植〉したヤマビコ を用いた. これ らに, 生育量や根の生理活性に差をつけるために第6-1表に示 した11処理区を設け た. これらの処理区において, 幼穂形成期から登熟中期ま

でに合計5回, 茎基部付近からの出液を採取した.

出液の採取は, 以下の手順で行った. ①とくに断 らない限り, 午後4時に茎を 地際から約1 2 cm の高さで 水平に切断し , ②茎切断部 にビニール管(内径 9mm, 長さ25 mm)を挿入した. ③茎とビニール管 は薄いゴムチューブ で外 周より緊締して, しっかり と固定し, ④茎切断部より の出液はビニール管上端に 設置した0.3 7 gの脱脂綿に吸収させた. ⑤脱脂綿からの水分蒸発を防ぐために,

食品包装用ラップフィルム(商品名:サランラップ〉をビニールチューブ上端に かぶせて, 輪ゴム でビニール管に緊縛した(実際に はこの操作を短時間で行うた め④, ⑤は測定前に行い, サランラップも含めて重量を測定しておいた)

取り付け後の出液吸収管 の重量増を出液量とし, 5茎の平均値で求めた. なお,

(4)

第6-1表 各区の施肥条件と処理内容(品種:ヤマビコ)

処 理 区 元肥(gm-2) 追肥(gm之) 処理内容(jj包用量はm2当たりで表示) N P20S K20 堆肥 N K20

日召 4.0 6.0 4.7 o 4.0 2.5 7月11日 硫安9.5g, 7月29日NK化成

(16-0-20) 12.5 g追肥.

多 窒 7Tミ 6.0 6.0 4.7 o 4.0 2.5 元肥窒素2g増.

未熟堆 肥 4.0 6.0 4.7 2000 4.0 2.5 堆肥2kg(乾重720g)を耕起時施用 (堆肥のN%:1.86%).

緩効性肥料 4.0 6.0 2.6 o 4.0 2.5 被覆NKイヒ成100日夕イ70 (20-0-13)20g.

P20Sは過燐酸石灰で、施用.

ゼオライト 4.0 6.0 4.7 o 4.0 2.5 セやオうイト(Si02:66%,CaO:2%)2kgを耕起時 施用.

堆肥ゼオライト 4.0 6.0 4.7 2000 4.0 2.5 セ。オうイト2kgと堆肥2kgを耕起時施用.

生 ワ 4.0 6.0 4.7 o 4.0 2.5 生ワラ1kgを細断して耕起時に施用.

多 追 日巴 6.0 6.0 4.7 o 8.0 2.5 元肥窒素2g増.標準追肥+8月12日硫安

199追肥.

75%遮光 4.0 6.0 4.7 2000 4.0 2.5 8月15日より9月z7日まで寒冷紗で覆い,

75 %減光.

腐敗でんぷん 4.0 6.0 4.7 o 4.0 2.5 2%腐敗でんぷん液を8 月 24日と27日に 計8 L表面施用.

穂 切 除 4.0 6.0 4.7 o 4.0 2.5 8月31日に全ての穏を穂首節で切除.

耕起日:5月30日. 移植日:6月5日. 出穂、日:8月24日. 栽植密度:20株m♀

元肥は緩効性肥料区以外は高度化成肥料(12-14-18)で施用.

(5)

この脱脂綿は最大5.5gの出液を吸収することが可能であった. また, 出液を採 取する日は田面水深を 約1cmtこ調節した さらに, 出液を採取した茎切断面は 楕円とみな して長径と短径をノギスで測定し, 面積を求めた.

出液採取 後, 出液測定株を中心にし て周囲の土壌を約8L掘りあげ, 根を土壌 より洗い出して, 1茎ごとに分離した後, 出液測定茎に着生する根のみをひとま とめにして, 既述と 同様の方法で根の呼吸速度を 測定した. そして, 根の呼吸速 度の温度係数(Q 10)を2.0 として(第2-2図 ) , 出液測定期間の平均地温で ある230Cの値に補正して, 乾物1g・ 1時間当たりの呼吸速度として表示した.

結 果

1 . 出液速度に関与する要因

出液採取茎以外の茎に葉が着生していると, これ の 蒸散のために測定茎への 水 分供給が減少するの ではなし1か 考えられた. そこで, 1株1本植えの土耕ポット 栽培の材料を10ポット用意し, 半分は戸外で自然光のも と(明所〉におき, 残 りの半分は写真用暗室( n音所〉に搬入した. 暗所は搬入3時間後に, 明所はそれ とほぼ同時刻にいろいろな比率でl個体内の茎を切 除して, 出液に及ぼす影響を 調査した.

この結果は第6-1図に示した. 光に曝されて, 残存する葉身が蒸散してい る 条件では, 相対葉面積比率( 1株 の全葉面積に対して切断しない茎に着生してい る葉面積 の比率〉 が19'"'--'73%の範囲で, 全茎を切除した場合(相対葉面積 比率o %) の11 '"'--' 1 7 %しか出液を得ることができなかった. 一方, 暗所にポッ トをおいて蒸散を抑制した ときの出液速度は, 相対葉面積比率18 %では明所よ りも上昇したが, 全茎を切除した場合 の48%であった. このように暗所におい て蒸散を抑制しても, 個体 内で他茎に葉が着生していると出液速度が低下するこ

とは注目される. これは, 個体内では茎相互間で'71<の競合の あることが考えられ,

切断茎より発根している根が吸収する水は, 節網維管束(猪ノ坂 1961)を通し

(6)

150

H (』 125

F吋

U日ω

100

εbQ

75

性震H

5 0

ヨヨ

25

20 40 60 80 100

相対葉面積比率 (%)

第6-1図

相対葉面積比率と出液速度との関係.

相対葉面積比率=残存葉面積/株全葉面積.

0:明所(気温30.20C), .:暗所(気温28.60C).

測定時間は5時間.

記号に付した棒線は標準誤差

(7)

て株内の葉を有する他の茎に送られていることを示唆するものである. 第6-1 図より同一個体内で出液を採取しない 茎に葉身が着生していると出液速度の低下 をきたす ことが明らか となったので, 以後の出液測定では測定株の全茎を切り取 ることにしfこ.

次に, 茎の太さ と出液速 度との関係を検討した. これには圃場栽培の材料を用 い, 1株内のすべての茎に ついてl茎ごとに出液量と切断部茎断面積 とを測定し た. 幼穂形成期から穂ばらみ期にかけて4回の 測定を行った結果, いずれの場合 も両者の聞に は, 高い正の相関関係(0.799* * ,,-,0. 96 0*つが認めら れた ので,

その代表例とし て第6-2図を 示した. 切 断部茎断面積が大き い ものほど出液速 度が高い ことが図 より明らかであるが, 回帰式より 単位断面積当たりの出液速度 を計算すると , 断面積20 mm2では3.9 5 mg, 同4 0 mm2では4 .5 6 mgとな り, 太い 茎の方が単位断面積当たりに多くの出液があった.

地温と出液 との 関係につい ては, 穂積(197 0)が水稲で10,,-,350Cの範囲 では地温の上昇と共に出液が増加することを 認めている. 小麦で、は16"-'200C で出液は最高値をとり, その前後で は低下するとの報告(小柳ら 1989)がある.

一方, 佐藤( 19 6 8)に よると水稲で の出液は個体差の影響を強く受け, 地温と の関係は明確でない と報告している.

そこで, 本実験でも地温と出液速度との関係を調査するために, 登熟初期にあ るポット栽培の水稲で, 均一に生育しているものを選び, あらかじめ所定の温度 に設定した恒温室に3ポットづっ搬入した . そして, 3時間温度平衡を保った後 に茎を切断し, 出液量を測定した. この結果を第6-3図に示した. 地温が7 oC から29 oCの範囲では, 出液速度は指数関数的に上昇し, 温度 係数(Q 10)を求 めると, 2.2で あり, 根の 呼吸速度の温度係数(第2-2図〉とほぼ同程度の値 であった. このことから, 根の呼吸速度と出液とは, 密接な関係にあることがう かがえる.

さら に, 茎切

後の出液速度の経時的変化を調査し, その結 果を第6-4図に

(8)

Y=5.17X-24.5

r=0.868**

200

150

100 300

250 (H'ZH

'EMm制緩'迫ど∞∞日)

50

0

15 35 40 45

司Lm m

30

茎切断部面積 25

20

第6-2図 茎切断部断面積と出液速度との関係.

ー 幼穂形成期に6時間測定.

(9)

Ql0=2.2

100 80

20

60 40

10

(HaZH'E

8∞∞日)恒例川以将司

5

30 25

20

(OC)

15

地温

10 5

第6-3図 地温と出液速度との関係.

測定時間は3時間.

記号に付した棒線は標準誤差.

(10)

示した. これは困場で栽培した水稲を幼穂形成期に測定した結果であるが, 茎切 断1時間後の出液速度が最高でその後は時間を追うごとに低くなり, 8時間以後 は29時間後まで50 mg stem-1程度でほぼ一定とな った . 樹木簡管液を採取す

る場合も箭管内の筒板にある飾孔にカロースが形成されて, 子しがふさがれる ため (茅野 1983)に, 出液の低下が認められている. 水稲茎基部からの出液は導管

から溢出するが, 飾管と同様の現象が起きている可能性が考えられた. このカロー ス形成の防止には, 2 0 mMのEDTA 液を切口に塗布するとよいとの報告 (Fell ows e t a 1. 1978)がある. そこで, 茎切断後直ちに切口に20mMEDT A液を塗布して 1 7 I時間出液を採取した結果, 無処理のものより約43%増加し

た. もちろん, この程度の増加率では出液低下の原因をカロースの形成だけに求 めることはできないが, 少なくとも, 水稲でも傷口をふさごうとする機構が作動 しているものと推察され た. しかし, 本実験の場合, 出液中のアンモニア態窒素

や珪酸などの無機成分を定量する必要があったので, E DT A液は用いなか った.

なお, これら無機成分の動態については次節で述べたい.

2 . 根の呼吸速度と出液速 度との関係

本実験では幼穂形成期より登熟中期 に出液と根の呼吸速度を測定した. したが っ て, 測定時の地温 は約8ocの1隔があり, 第6-3図 および第2- 2図の関係からみ てこれは無視し得ない. そこで, 根の呼吸速度は温度係数を2.0として(第2- 2図), 出液の温度係数は2.2として(第6-3図)2 3 ocの値に補正した. この 理由は, 出 液採取11寺の地温は18.2 ---2 6.80Cの範囲にあり, それの平均値は 23.10Cであ った から である. 出液は, 午後4時より翌朝の9時までの1 7時 間に採取した出液量を採取時間で除して, 1茎当た り平均出液速度(以下日平均 出液速度と記す〉を 用いて検討した.

ま た , 地際より1 2 cmの部位で茎を切断して出液を採取したが, 穂、ばらみ期 (出穂前9日〉以降は第皿節間部を切除したのに対し, それ以前の幼穂形成期 (出穂前25日〉に採取したものは節間伸長が始ま った頃で, 茎切断面の大部分

(11)

600 500 400 300 200 100

,,--.、

..c

も聞.. c/) ω ol) E

\、../

倒閣以将司 nu nu

{ト」

12

18:00

6 8 10

茎切断後時間

14:00 時 刻 4

10:00 2

6:00

第6-4図 出液速度の経時的変化.

品種:コシヒカリ. 穂ばらみ期に測定.

記号に付した棒線は標準誤差.

(12)

を葉鞘部が占めていた. 切断部を構成する器官, 組織が異なることより, 幼穂形 成期に測定したものは穂ばらみ期以降の測定値との比較は避けた.

さら に, 前項で述べ たように茎断面積は 出液速度と比例関係 にあり(第6-2 図), 測定された茎断面積は20 "-' 3 6 mm 2の範囲にあった. そ こで, 断面積が

3 0 mm2以上とそれ以下に2区分して, 根の呼吸速度と日平均出液速度との関係

をみたのが第6- 5図上図であり, 茎断面積ごとでそれぞれに正の相関関係が得 られた. 両回帰式を比較すると, 方向係数に有意差はなく, 切片の差が断面積に よって異なった. つまり, 断面積が10 mm2大きくなると, 出液速度が約4 2 mg stcm -1 h-1増加する. そこで, 根の呼吸速度に茎断面積を乗じた指数を算出 し, これと日平 均出液速度との関係を見たのが, 第6 -5図下図であり, 両者は 高い正の相関関係が成立し た.

ここで, 第6-5図のデータについて, 根の呼吸速度(Ro)と茎断面積(A) の2要 因を説明変数とし , 日平均出液速度(BL)を目的変数として重回帰分析 をおこなうと,

BL=105.8Ro 十2.9 A-54.8 R=O.851*本

となり, 上記2要因で出液速度を72%説明できた. 両要因の標準偏回帰係数は,

根の呼吸速度がo . 5 5 , 茎断面積がo .5 1でほぼ同程度の強さで日平均出液速 度に関与していることがわかった.

考 察

本実験で得ら れた結果より, 出液速度で根の生理活性を代表させようとすると きの留意点を整理すると以下の通りである.

1) 1株内で出液を採取する茎以外の茎に葉が着生していると出液が抑制される ので(第6-1図), 1株すべての茎を切除すること.

2)茎断面積と 出液とは高 い正の相関がある(第6-2図〉ので, 茎断面積すな わち茎の太さのそろったもので比較するのがよい.

(13)

F子,Z 18O 円 160

ω 140

120 M f燦w

100

80 60 自 40

0.2

Fiコ 180

r-< 160

t5a

140

1制 緩凶

凶E 120

100 80 60

ヨヨ 40

0.4 0.6 0.8 1.0 1.2

Ro (mgCOgLU2g ・1 h勺

10 20 30 40 50

RoxA (mgC02 g-l h-1 *mm2 stem-1)

第6-5図 根の呼吸速度(Ro)と出液速度との関係(上図) および根の呼吸速度と茎断面積(A)の積と出液速 度との関係.

・:茎断面積34.8+3.1mmベ0:茎断面積25.2+4.2mm2 根の呼吸速度はQlO=2.0, 出液速度はQl0=2.2

を用いて230Cの値に補正した.

(14)

3 )地温 の 上昇とともに, 出液は指数関数的に増加する(第6-3図〉ので, 地 温を測定し , 温度補正して一定温度で比較すること が必要である.

切断後の測定11寺聞に関しては, 本実験では午後4時より翌朝の9 11寺まで採取を 続けたが, 茎切断1時間後の出液量 は, 切断した当日の日射量, 蒸発量などの気 象条件の影響を受ける可能性があることがわかった. すなわち, 午後411寺に茎を 切断して1時間後と1 7時間後に出 液を採取したと き , 1時間後の出液速度 (B L1)と1 7時間平均出液速度(BL17)の 比(BLl/BL17)を算出し , これと 切断当日の日射量当たりの蒸発計蒸発量と の関係を求めると, 第6- 6図の結果 となった. 蒸発量は日射強度や飽差の影響を強く受け る ので, 日射当たりの蒸発

量が小さ い, つま り飽 差が小である日は, 第6-4図のように茎切断1時間後の 出液速度が高くその後減少するが, 日射当たりの蒸発量が多い(飽差が大〉日の 午後4時に茎を切断すると , 切断1時間後の出液速度が低い値となった. こ の原 因としては, 蒸散が盛んなとき, 体内水ポテンシャルは負圧であり, 茎を切断す ると水は根部方向に一時的に引き込まれ, 再び導管を上昇して溢出するまでに時 間がかかる もの と推察された. なお, 第6-4図の場合は早朝に切断しており,

この 時は体内水ポテンシャルが高く, すみやかに溢出したものと理解できる.

さ らに, 考慮、しなければならないの は測定茎 の 根量である. 本実験では, 圃場 条件下での出液の測定を前提としているために, 圃場栽培した材料を用いており,

全根量 を把握する こと は不可能である. しかしながら , 森田ら( 1987) はl株 の茎平均直 径と株当たり1次根数を示している. これから茎直径とl茎当たり根 数との相関係 数を著者が計算するとr =0.786**の 高い値が得-られた. もちろん,

これには発根節数が同ーであることが前提となるが, 茎断面積が大きい, すなわ ち, 太い茎から の 発根数は多いとみなすことができ る ので, 根量要因 は茎断面積 に包含されているとみなせよう.

本研究では, 根の活力を表現する形質として, 圃場から掘り上げた根の呼吸速 度を測定する方法を採用してきた. こ の方法では, 全根量の把握ができず, また,

(15)

2.5

2.0

1.5

0.5

0.0

Y=-2.24X+l.38 r= -0.839* *

0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35

蒸発量 (mm2 MJ・1m之)

第6-6図 日射量当たり日蒸発量と出液比との関係.

-出液比=茎切断後1時間の出液速度/

玄切断後17時間の平均出液速度.

記号に付した棒線は同一採取日の処理聞 の標準偏差.

(16)

養分吸収に重要な役割を担っていると考えられる1次根の先端部を完全に採取で きない. しかし, ポット栽培で採取した全根の呼吸速度に関与する形質(津野 ・

山口 1 987) , すなわち, 根部窒素含有率と根 部全糖含有率の2要因と , この 方法で得られた呼吸速度との聞に密接な関係があること(山口ら 1995)より,

この方法は圃場での根全体の活力をよく表現していると考えられる. 一方 , 出液 も上述した諸測定条件を考慮するなら ば, 根の積極的吸水能を相互に 比較しうる 指標となるものと考えられる. こうして得られた出 液速度と恨の呼吸速度との聞 には, 第6-5図で示したように高い相関関係が認められたので, 本実験で採用 した呼吸測定法は, 根の積極的吸水に関与する活力 を表示できたと考えて差し支 えあるまい.

なお, 第6- 5図では遮光区の値は除外している. 遮光区の個体は, 根の呼吸 速度が0.7 5mg CO2 g-l h-1 と比較的高い値でも, 日平均出液速度は低い値で あった. 遮光区の根の特-徴としてあげられるのは, 根の全糖含有率が他の区より も極端に低下していたことである. 登熟期平均で遮光区の全糖含有率はo .2 :t 0.1%で あるのに対し, 他の処理区は0.6%以上の値であった. 遮光区以外の

根では全糖含有率と日平均 出液速度との聞には明確な相関関係は捉えられな かっ た 極端に根の全糖含有率が低下すると出液が減少するのかも知れないが, これ を含めて遮光による根の活力低下は, 今後究明しなければならない課題である.

摘 要

水稲茎基部からの出液は, 根の呼吸速度に関連する生理活性と関係していると 考えられるが, 同ーの齢でも出液速度が大きくばらつくことが指摘されている.

そこで, 出液の測定条件を検討し, 出液に関与する要因を明らかにして, 出液速 度で根の生理活性を把握で きるかどうかを検討した.

同一個体内で出液を採取する茎以外の茎に葉が着生していると, それの蒸散の ために出液量が減少した. したが って, 出液を採取する際には, 測定個体のすべ

(17)

ての茎を切除する必要を認 めた

切断部の茎断面積 と1茎当たり 出液速度とは高い正の相関関係があり, 断面積 の大きい茎, すなわち太い茎は茎断面積当たりの出液速度も高い値であった.

地温が7 ocから2 9 ocまでの範囲では, 出液速度は地温に伴って指数関数的に 増加し, その温度係数(Q 1 0 )は2.2で, 根のl呼吸速度の温度係数とほぼ同じ 値であった.

上記の測定条件を考慮、したうえで, 穂ばらみ期以降の根の呼吸速度と出液速度 との関係を検討した結果, 両者の聞には高い正の相関関係が認められた. これよ

り, 根の生理活性が重要な問題となる登熟期では, 出液速度から根の生理活性を 推定することができ, 出液速度の測定は, 根の診断のうえで有効で簡便な手法の ひとつとしてあげることができる.

(18)

第2節 登熟期における水稲茎基部からの出液中のアンモニア態窒素濃

度ならびに出 液のカルシウムに対する珪酸の比と根の呼吸速度と の関係

前節では , 切断した茎基部からの出液速度に関与す る要因を検討して, 1株 ( 1個体〉すべての茎を切除することで安定して出液を採取でき, 根の積極的吸 水能を相互に比較しうる指標となることを明らかとした.

本節では前節と同じ実験で得た出液について, 出液中のアンモニア態窒素, 珪 酸お よびカルシウムの3成分に着目して, それらの濃度と根の呼吸速度との関係 を明らかにし ようとした.

上記3成分に 着目した理由は, ①アンモニア態窒素については, 第5章第1節 で登熟初期に粒重肥大が抑制された玄米中には多量のアンモニアが存在している ことを明らかとした. この アンモニアが由来する経路は明確に指摘で きない が,

本来アンモニアは生理毒であり, 根で吸収されたアンモニアは, す みやかにグル タミンなどのアミノ酸に合成される(Yoneya ma and Kumaz awa 1974) . もし,

根の活性が衰えるとアミノ酸代謝が不調と なり , アンモニア態窒素が高濃度で地 上部ヘ送られるのでは ない かとの推論をたてた.

②珪酸について は, 馬場(195 7) が出液中の 珪酸量は根の活力診断の手が か りになると報告している. また, 根の呼吸阻害剤に よる無機成分の吸収阻害実験 によると, 水稲では珪酸の吸収阻害順位はカリウム ・ リン酸に次いで高く, ③カ ルシウムのそれは最も低いとの報告 が多い〈馬場 1958, 三井ら 1951, 岡島・

高城 1 953) . また, 津野 ・東(1984), 津野 ・竺原(1984)は水稲の葉身 の 珪酸含有率 とカルシウム含有率との聞に負の相関関係を認めており , カルシウム

が多いと珪化機動細胞の形成が抑制さ れると報告している.

そこで, 積極的吸収の代表成分として珪酸を, 受動的吸収を示す成分としてカ ルシウムを取り上げて, 葉身でみられた珪酸とカル シウムの負の相関関係が , 出 液中でも認められるかどうかを検討し, 出液中のカルシウムに対する珪酸の比と

(19)

根の呼吸速度と の関係を明らかにしようとした(山口ら1995a).

材料と方法

前節に記載した材料と方法で得た出液を試料としたが, 1回の測定につき5茎 より脱脂綿で出液を採取し たものを一括して搾汁し たのち, アンモニア態窒素を インドフェノール法で, カルシウムを原子吸光法で 定量した. また脱脂綿で採取 した茎以外に2茎を選び, これに直径55mmのろ紙(Advantec No.6)をl枚 押し あてて吸収した出液を珪酸の分析試料とした. これは, 脱脂綿では出液採取 中に珪素が酸化されて沈澱して, 脱脂綿に付着して 搾汁し でもそこ に残存するこ とが懸念された からで あ る. 試料ろ紙も一括し てるつぼにいれ て電気炉に て 5 4 0 ocで5.5時間焼いたのち, 5 % NaOH 2 0 "-' 3 0 mLで‘珪酸を溶解させ,

1 0 0 mLに定容した. その一部をモリブデンブルー法で比色定量した. 測定し た珪酸はシリカ(Si02)濃度として表示した.

稲体については, 乾式灰化後, 珪酸濃度を重量法で, カルシウム濃度を原子吸 光法で求めた. また, 根の全事者含有率は, ソモギ・ ネルソン法で定量した.

結 果

1 . 各処理区の生育量と珪酸およびカルシウム吸収量

各処理区 の収穫時の乾物重 お よび珪酸とカルシウム の吸収量を第6-2表 に示 した. 最も生育量が大であったの は堆肥ゼオライ ト区の18 9 8 g m-2で, 次い で多追肥区であり, 最低は75%遮光 区の1 0 1 7 g m-2であった.

茎葉部の珪 酸含有 率は, 生ワ ラ区が13 .0%と最も 高く, つい で堆肥ゼオラ イト区, 未熟堆肥区の順であり, 稲ワラを母材とする堆肥を施した区と ゼオ ライ トを施した区の珪酸含有率が高かった. 稲ワラは優れた珪酸供給資材であること を馬場(1957)は指摘しており, 著者(山口ら 1994 )も稲ワラを投入した区の 土壌溶液中の珪酸濃度は市販の土 壌改良材を施用した区よ りも高いことを認めて

(20)

第6-2表 各処理区の収穫時の穂、数, 乾物重ならびに珪酸とカルシウムの吸収量.

処 理 区 穂数 乾 物重(gm之) 珪 酸 カノレシウム

含有率(%)吸収量含有率(%) 吸収量 (m-2) 茎葉 穂 地上部 茎葉 穂 (g m-2) 茎葉 穂 (gm之) 対 日召 276 852 581 1433 9.1 3.7 99.0 0.36 0.02 3.18 多 窒 素 310 874 589 1463 9.4 4.0 105.7 0.35 0.02 3.18 未熟 堆 肥 306 896 615 1511 11.2 3.7 123.1 0.33 0.02 3.08 緩効性肥料 272 724 568 1292 9.7 3.8 91.8 0.42 0.02 3.15 ゼオライト 318 942 714 1656 10.1 3.0 116.6 0.30 0.01 2.90 堆肥ゼオライト 388 1041 857 1898 12.0 3.6 155.7 0.31 0.02 3.40 生 284 781 650 1431 13.0 3.0 121.1 0.33 0.01 2.64 多 追 1巴 318 1076 621 1697 7.2 3.3 98.0 0.28 0.02 3.14 7 5 %遮光 296 708 309 1017 9.9 4.4 83.9 0.31 0.03 2.29 腐敗でんぷん 256 868 494 1362 9.0 4.1 98.2 0.26 0.01 2.33

穂 切 除 296 1145 1145 9.3 106.5 0.22 2.52

(21)

いる. また, 多窒素追肥区 の珪酸含有率が低い点も指摘できる.

一方, 穂、部の珪酸含有率は3.0"" 4.4%の範囲で, この部位は籾殻の珪酸が 主体であり , 処理問で大差が なかった. 珪酸吸収量は, 生育量が大であった堆肥 ゼオライト区が最も多く, 乾物重の多いものほど吸収量が大となる傾向がうかが える. そこで, 珪酸吸収量と乾物重との相関係数 を算出すると0. 730本であった.

しかし, 茎葉部の珪酸濃度と吸収量との間の相関係数は 0.67 3*で, 吸収量は茎葉 部の珪酸含有率の高低にも影響を受けていた.

カルシウム含有率は, 茎葉部で緩効性肥料区が高く, 穂、切除区が最も低く, 他 は0.36""0.26%の範囲であった. 穂部は全区0.02%前後で一定しており,

吸収量も2.3""3.4gm・2の範囲 にあって, 処理問で大差は なかった.

2. 出液中のアンモニア態窒素濃度

登熟期におけ る各処理区 の出液速度, 根の呼吸速度 ならびに出液中のアンモニ ア態窒素, 珪酸およびカルシウム濃度を第6- 3表に示した. 数値は登熟期間に 4回にわた って採取した平均値に標準偏差を付して示した. この 表の各成分の濃 度に出液速度を乗ずると1茎・ 1n寺間当たり の吸収量を求 めることができる. 出 液量が多く なれば, 各成分の濃度低下が懸念されるが, アンモニア態窒素とカル シウムについて, 出液量と濃度との聞の相関係数を求めると, アンモニア態窒素:

O. 1 1, カルシウム: 0.0 8で, この2成分については出液量と濃度との聞に

は相関は なかった.

根の呼 吸速度と養分吸収量との関係を問題とする場合は, 呼吸速度と出液量と が正の相 関にあること(第6-5図)より, 出液量とそれに 含ま れる成分濃度双方 の検討が必要である. 珪酸 については出液量と珪酸濃度との聞には正の相関関係

( r = 0 .608 *勺が認められ, 出液の多いものほど濃 度も高いという結果であっ

fこ.

出液中のアンモニア態窒素で特徴的なのは遮光区で, 処理開始4週間後(穂揃 後 23日〉で11 pp mと なり, 出液中のアンモニア態窒素量としてはo .6 3μg

(22)

6-3表 登熟期の出液速度, 根部呼吸速度ならびに出液中のアンモニア態 窒素(NHJ, 珪酸(Si02)およびカルシウム(Ca)濃度(平均値*i=標準偏差) 処 理 区 出液速度 呼吸速度** NH3 Si02

(mg stem-1h-1) (mgC02g-1h-1) (ppm) (ppm) 対 日召 77+33a 0.58 i= 0.13a 0.0 i= O.Ob 579+ 46c

多 窒 素 60+17a 0.38 i= 0.05a 0.6 + 1.1b 488+ 83bc

未 熟 堆 肥 76+34a 0.43 i= 0.07a 0.2i=0.1b 551 +210bc

緩効性肥料 56+24a 0.45 +0.15a 0.5 +0.6b 523 + 131bc

ゼオライト 84+44a 0.49 i= 0.14a 0.9 i= 0.8b 530+ 91bc

堆肥ゼオライト 71 + 18a 0.49+0.10a 1.1 i= 1.2b 504+ 23bc

88+22a 0.48 i= 0.14a 1.8 i= 1.4b 520+ 31bc

多 追 1巴 70+21a 0.47 i= 0.10a 0.2 i= 0.2b 390+ 66b

75 %遮光 45 i= 11a 0.38 i= 0.02a 8.3 i=4.5a 198+ 96a

腐敗でんぷん 63 + 11a 0.49 i= 0.23a 0.3 +0.3b 542+ 56bc

穂 切 除 84+23a 0.56 i= 0.11a 0.1 +O.Ob 464+ 11bc

*穂、揃後1 ---- 4週間に3回採取した平均値.

**温度係数(QlO) = 2を用いて出液採取時の平均地温で補正した値.

同ーのアルファベットは処理聞に5%水準で‘差のないことを示す.

ca

(ppm)

28.0 i= 5.9abcd 25.2 i= 4.8abc 25.5 i= 0.6abc

33.2+ 9.8cd 18.1 + 3.8a 26.6 + 4.0abcd 23.2+ 5.0ab 35.1士6.0ae 24.7 + 2.7abc 32.6 + 4.5bcde 40.0 i= 5.7e

(23)

stem -1 h-1と際だって他の処理よりも高い値を示した. 登熟期間平均で8. 3 p pm

(0 .3 7μg s te m -1 h -1 )であり, 他の処理区中で最高の生ワラ区の1 .8 ppmと 比べても著しく 高い値であった(第6-3表). このアンモニア態窒素濃度およ び含有量と根の呼吸速度との聞には明確な関係は認 められなかった(濃度 r - 0.162NS, 量: r = 0.335勺 . また, 出液中のアンモ ニア態窒素と根の窒素含有 率との間にも有意な相関関係は認められなかった(r=0.117NS).

さらに, 遮光区の根の全糖含有率 は登熟期平均でO.2i=O.1%, 他の処理区 は0.6%以上と遮光区 は極端に低い 値であった . この点に着目して根の全糖含 有率と出液中の アンモ ニア態窒素濃度との関係を示したのが第6-7図である . この式の窒素濃度を出液中 のアンモニア態窒素含有量におきかえても全く同じ傾

向であり, y= - 0.2 02 lnX + 0.007 r = -0.915**で示された 根の全糖含有率 が低下すると出液中のアンモニア態窒素濃度が急激に高 くなることがわかる . 遮 光処理で出液中のアンモニア態窒素濃度が高まることは, 著者の他の実験で も観

察された(未発表)

3. 出液中の珪酸およびカルシウム濃度と恨の呼吸速度との関係

第6 -3表 で登 熟期に おける出液中の珪酸濃 度を詳細にみると , 対照区 が 5 7 9 ppmと最も高い値になったが, 遮光区では19 8 ppmと極端に低い値であっ た. 出液中の珪酸 量では, 最多が生ワラ区で46μg s tem-1h-I, ついで 対照, ゼ オライト区が4 5μgstem-1h-1であったが, 遮光区は8.9μgst em -1 h-1と量にお いても最少であった. また, 収穫時の茎葉部珪酸含有率が最も低かった多追肥区 (第6-2表参照〉は, 出液中の珪酸濃度も3 9 0 ppm, 含有量は2 7μg st em -1 h・1と低し、値であった.

出液のカルシウム濃度は, 珪酸資材としてゼオライトを施用した区が 低い値 (18.1ppm) であるのに対し, 穂、切除区は高い値(4 0.0 ppm)となった.

第6-1表の処理区のうち, 対照区の他に処理の影響の強く現れた4区(未熟 堆肥区, 堆肥ゼオライト区, 生ワラ区, 遮光区〉を選んで, 根の呼吸速度, 出液

(24)

Y=-4.39 lnX-0.16 r= -0.914* *

(日仏仏)

並区 10 晴名鱒 蜘H組。

ト トtJ

ト 15

5

0

0.0 1.0 1.2 1.4 1.6

全糖含有率(%) 0.6 0.8

0.2 0.4

第6-7図 登熟期の根の全糖含有率と出液中のアン ーモニア態窒素濃度との関係.

記号に付した棒線は標準偏差.

(25)

速度な らび に出 液中の珪酸 およ びカルシウムの生育に伴う変化の詳細を第6-8 図に示した. 全般的な傾向として, 1茎当たり出液 速度は穂ばらみ期に高く , そ の後登 熟 の進行ととも に漸次低下し た. 処理問では , 穂揃期の生ワラ区 が

1 5 5 mg s t em -1 h-1と他の4区よりも高い値であったが, 他の時期 では処理聞に

差は認められなかった. 根の呼吸速度も出穂前より 登熟後期にかけて低下すると し、う出液速度と同様の傾向であった. このことは両者は密接な関係にあることを 示唆してい る. 珪酸濃度は, 全般的に出穂、1週間前から穂揃期にかけて高く推移 し, その後は低下するという動きをとり, 根の呼吸速度と概ね同様の変化であっ た. 出液中の珪酸含有量は生ワラ区の出穏期の値が著し く高いが, それ以外は時

期の経過に伴う濃度変化と同様の傾向であった.

一方, 出液中のカルシウム 濃度は出穂前に高い値で, 穂揃日から登熟中期にか けては一定濃度で推移する 区が多く, なかには登熟後半にかけてやや上昇する区 (対照区, 生ワラ区〉もあ った. 第6-8図でカルシ ウム の濃度変化を概括的に みれば, 時期 によ る濃度差 は少ないといえよう. なお, 根の呼吸速度とカルシウ ム濃度との聞の相関係数はrニ0.332本と低い値であった. また, 根の 呼吸速度と 1茎当たり出液中のカルシウム 量との間の相関係数はr =0 .750本本であ った. こ れは, 時期の経過に伴 って出液速度が低下したためである.

出液中の珪酸濃度と根のl呼吸速度との関 係をみると(第 6-9図上図) , 根の 呼吸速度が高い場合には, 珪酸濃度も高くなるという正 の相関関係が成立した.

また , 珪酸 濃度 に出液速度を乗じて茎当たり珪酸量と しても同様の結果となり (同図下図) , 呼吸速度の 高い根を有する茎で地上部に送られる珪酸量が多くな ることが指摘で きた. この関係 は第6-9 図のように時期に関係なく1本の回帰 直線で示すことができ, かつ, それぞれの時期においても, 正の相関関係の ある ことがわかる. このことより, 珪酸の吸収と根の呼 吸速度とは密接な関係に ある ことが確認 できた.

(26)

40

20 言30

巳4

巳4

υ Cぢ

35

15 1000

1.2

0.8 0.6 0.4 0.2

(H'Zマ∞NOυ

∞日)ω世間関一怯一Q嬰

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二100

Q r、A

50 40

v)

40 穂、揃前後日数

第6-8図

根の呼吸速度, 出液速度および出液中の珪酸とカルシウムの時期的変化.

.:対照, 0:未熟堆肥, 口:堆肥ゼ、オライト, 園:生ワラ,

":75%遮光.

根の呼吸速度は出液測定時の地温に補正した.

120 100 80 60

o

10 20 30 穂揃前後日数

O

-10 40 10

0

40 ・10

o

10 20 30 穂揃前後日数 20 ・10

(H'zqES∞∞日)μ世情巡'迫

- H U () |

(27)

1000

CCL L 800 600 1

語術軍M話慰 400 200

イ」「コ 0.20

Y=0.116X・0.020 r=0.818*本

bEO 0.10 鐙 剖酬 0.05

0.00

0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 根の呼吸速度 (mgCO') g-l

h勺

gLu2g

第6-9図 根の呼吸速度と出液中の珪酸濃度および 珪酸量との関係.

・:出穂、前, 0:穂、揃日~穂、揃後16日,

.:穂揃後21日'"'-'30日.

根の呼吸速度は出液測定時の地温に補正した.

(28)

考 察

出液 中の アン モニ ア態窒素は根で吸収されると直ちにアミノ酸 に同化される (Yoneyama and Kumazawa 1974)が, 折谷 ・ 鼓田(1970)が水稲の 出液中の

アンモニア態窒素の生育に伴う変化を調査した結果 , 生育初期より幼穂形成期ま では次第 に増加し, Ý)J穏形成期の o . 4 mgN pl an t -1 day -1を頂点として, 穂揃期 ではo .1 mgN plant-1 day-1以下に低下したと報告している. また, 彼らは多窒

素条件で出液 中の アンモニア態窒素は高まることを認め, 穂積(1969) も同様 の結果を示している. 土壌溶液中の窒素は大部分がアンモニア態 であり, これの 濃度が高い場合には, 出液中のアンモニア態窒素濃 度が高まることが予想できる が, 別の実験では, 土壌溶液中のアンモニア態窒素が高濃度であったのは幼穂形 成期までであった(津野ら 1993) . 第6-3表で登熟期の多追肥区のアンモニア 態窒素濃 度をみる とo . 2 i: 0 . 2 ppmと低く, 窒素施肥量を反映していない . む しろ多窒素処理よりも75%遮光という地上部への 処理が, 出液中のアンモニア 態窒素濃度に強く影響を及ぼしている. これは, 第6-7図に 示したよう に, 遮 光による根の全糖含有率の 低下に原因があるようで, 土壌環境よりも根の質的な 要因の影響を強く受けると考えられる.

本実験では, 根の呼吸速度が低下すると出液中のアンモニア態窒素が増加する のではないかとの仮説のもとで出発したのであるが, 両者には明確な関係は得ら れなかった. しかし, 根の 全糖含有率は根の窒素含有率とともに, 根の呼吸速度 に関与す る要因である(津野 ・山口 1987, 山口ら 1 995) . そこで本実験で も, 両要因を説明 変数とし, 根の呼吸速度を目的変数として重回帰分析をした結 果, 0.81 0**の重相関係数が得られ, 根の全糖含有率も呼吸速度に関与する要因 であることが当年も確認できた. この全糖含有率と出液中のアンモニア態窒素に 関していえば, 根の全糖含有率が低下した根では, 吸収されたアンモニアが根中 のアミノ酸代謝に取り込ま れる割合が低下して根中に多く含まれ, それがアミノ 酸とともにアンモニア態窒素の形で出液中に多く存在するものと推察できる.

(29)

次に, 出液中の珪酸と葉身珪酸含有率との関係を検討する. 茎の切断によって 水のマスフローは正常なものより著しく減少する. Morrison (1965)に よれば,

出液中の無機成分は2"-'5倍に濃縮されているといわれているが, 本実験のデー タで試みに出液中の珪酸濃度とその時 の葉身珪酸含 有率との聞の相関 を各時期ご とに求めると, いずれの時期も有意な相関は得られなかった. さらに, 出液中の 珪酸量と葉身珪酸含有率との間にも同様 に有意な相関はなかった.

奥田 ・高橋(1962)に よれば , 水稲の珪酸吸収は積極的吸収 であり, 4 8時 間という短時間では蒸散の 影響は受けないとの結果 を得ているが, 長期間では蒸 散流に よる影響 を 無視できないとも指摘(高橋 1987 )している. また, 津野

ら(1989)は, 葉身の珪酸含有率は葉面が受光した日射量と指数関数で示され,

蒸散量の多い葉に珪酸が多く集積すること を報告している. 実際栽培の水稲 にお いても若齢の葉よ りも老化した葉で珪酸含有率の高いこと (津野ら 1988) , さらに晴天日の多い年には 珪酸含有率の高いことな どが当方 での他の実験結果よ り得られており, 葉身の珪酸含有率は蒸散量を考慮、しなければな らないと考えら れる.

過去の実験結果よ りみれば, 1茎当たりの葉面積を1 0 0 cm2とすれば, 晴天 時の蒸散速度は2g H20 stem-1 h-1程度と推定さ れる. 第6-3表の出液速度 をみ ると最低が4 5 mg, 最大でも88 mgであり, 推定蒸散速度と比べて出液速度の 割合は2,...,4%にしかすぎない. 葉身の珪酸含有率と出液中の珪酸濃度およ び珪 酸量との聞に相関関係が認められなかったのは, 葉の齢および蒸散量を考慮、しな

かったためであると考えられる.

一方, カルシウムも蒸散流によって葉身に運ばれると考えられるが, 津野・東

(198 4) , 津里子・ 竺原( 1984 )は葉身の珪酸含有率とカルシウム含有 率の間で 負の相関関係が認められる ことを報告している. こ の点に関して, 出液中 でも同 様の関係が成立するかどうかを全データについて検討した. 出液中の珪酸濃度と カルシ ウ ム濃度との聞の負の 相関関係は, 穂揃期の みに認められ( r =一

(30)

0.713勺 , 他の時期(幼穂形成期, 穂、揃後7日~同3 0日〉ではそれが認められ なかった.

しかしな が ら, ここでカル シウムに対する珪酸の比 (Si02/Ca)を求め , そ れと根の呼吸速度との関係は第6-10図に示した関係があった. すなわち, 根の 呼吸速度が高い場合は, カ ルシウムに対する珪酸の比が高まり, 根の呼吸速度が 低下するとその比が低下し た. これは, カルシウムは出液中でほぼ一定濃度であ る( 第6-8 図〉の に対して, 珪酸が根の呼吸速度と正の相関を持つという第6-

9図の関係に基つeいて いる. もし, 出液中の珪酸:カルシ ウム比が蒸散流にも同 様に保持されるな らば, 葉身内に両成分が集積して, Si02/Ca比の 高い葉では 珪酸含有率が高まるはずである.

この点を確かめるために , 1 9 8 7年に本試験と同じ大型箱水田で実施した試 験成績(津野ら 1988 )を検討した(試験の内容は第6 -11 図脚注に示した) 個体の全葉身を対象にするとageの異なる葉が混入して明確な関係が乱されるの で, 葉位を特定し て葉身のS i02/Ca比と葉身珪酸含有率との関係をみると明確 な傾向があった. 本試験との整合をはかるために, 十分な積算蒸散量を有する第

1 3葉(止葉 葉位 は1 5)を選んで, その登熟期間におけるSi02/Ca比と葉身 の珪酸含有 率との関 係を調べて 第6 -11図に示した(この関係は上位各3葉いづ れも同様 であった). みられるごとく, 出穂、後3日 (・:9月3日〉でも, また 出穂、後38日(0 : 1 0月8日〉においても1次回帰式で示される関係があり,

両者の聞に は高い相関関係が認め られた. す でに第6- 10図でみたとおり, Si02 /Ca比は根の呼吸速度を反映し ているので, 呼 吸速度で代表される活力の強い

根を持つ水稲では, 葉身の 珪酸含有率が高くなる可能性が大である.

問題は, 葉身の珪酸含有率は土壌中の有効態珪酸が多いときに高まるのではな いかという設問にど う答えるかである. 別の実験結果(山口ら 1994 )によれ ば, 生ワラ施用, 珪酸カルシウム施用などによって, 土壌溶液中の水溶性珪酸濃 度に処理の差が顕著に現れるのは分げつ期であった. その後, 濃度低下とともに

(31)

35

30

LC4O 25

‘o o.

- 々�

〆.

15ト ν・〉

10ト

5 0.3 0.4 0.5 0.6

根の呼吸速度

/

Y=37.94X-0.71

0.7

r=0.763* *

0.8 0.9

(mgCOgLU2g ・1

h勺

1.0

第6-10図

登熟期の根の呼吸速度と出液中のカルシ ウムに対する珪酸の比(SiOiCa)との関係.

.:穂揃日~穂揃後14日, 0:穂、揃後15日,.._,30日.

(32)

,'O O ,' O ,' 。 ,' 。 , O O / o fO O,' Gγ / 0 0 '

Y=0.37X+7.21 [=0.916* * 20

Y=0.20X+7.08 [=0.894* * 18

14 12 16

(民) 時律相鐙剖吟鰍

10

8 15 30 35 40

Si02/Ca 25

20

第6-11図 登熟期における第13葉のカルシウム 含有率に対する珪酸含有率の比(SiOiCa)と 珪酸含有率との関係.

品種:ヤマビコ. ・:9月3日, 0:10月8日.

試験区は無肥料, 生ワラ, ワラ堆肥, 野草 堆肥, 厩肥などを約1'"'-'2 Kg m-2施用して,

それぞれの区の半分に石灰120gm・2を加え た合計14区で, 各区より1点の資料を得た.

(33)

出穏期にかけて差は縮小し, 登熟期 には 低濃度となり, かつ区間差は 認められな かったが, 珪酸全吸収量の20%程度は登熟期間に吸収され, 特に堆肥区は 28

%と大であるのに対し, 生ワラ区は3%と区間差は大であった. この事実か らし て, 第6-11図のS i02/Ca比は根の活力の長期にわたる発現が反映の結果と考え られる.

摘 要

水稲の幼穂形成期より, 登熟期にかけて出液を採取し, 出液中のアンモニア態 窒素, 珪 酸および カルシウムを定量して, それら と 根の呼吸速度とを検討した.

処理 として, 堆肥, 生ワラ などの有機物を施用する区, 多窒素区および75%遮 光区などの合計11区を設けた.

出液 中のア ンモ ニア態窒素濃度は, 遮光 区が登熟期平均で8.3ppmと他の処 理区平均o .6 ppmより 高い値を示した. 遮光区の根は, 全糖含有率が0.2%と 極端に低下(対照区1 .0 %)してお り, 根の全糖含有率が低下す ると出液中の アンモニア態窒素濃度が上昇する傾向が認められた.

出液中の珪酸濃度は, 幼穂形成期に高く, その後登熟の進行とともに漸次低下 した. これは根の呼吸速度の変化と同様の傾向であった. 出液中のカルシウム濃

度は生育期間を通して, 概ね一定濃度で推移した.

根の呼吸速度と出液中の珪酸濃度および出液中の珪酸含有量とは, 高い正の相 関関係があった. 根の呼吸速度と出液中のカルシウムに対する珪酸の比との聞に は, 正の相関があり, 根の呼吸速度が高い場合は, カルシウム に対する珪酸の比 が高いこ とを認めた. 従って, 根の呼吸速度の高い根を有する水稲では, 葉身の

珪酸含有率が高くなる可能性が示唆された.

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第7章 総合考察

本論文では, 水稲の幼穂形成期から登熟後期に至るまでの根の活力を呼吸速度 としてとらえ, その機能発 現を作物生産に関連する生理現象と対応させて論じて きた. 本章では, 得られた結果について総合的に論議を行い, そこから本研究の

栽培学的意義について考察を行うこととする.

1 . 環境ストレス下での根の機能発現

移植栽培の水稲は, 一定の育苗期間を経て本田へ移植され, その後, 分げつを 始める. 分げつ期 に おいて通常の水田では, 有機物 の多量投入などに起因す る根 圏土壌の強度の還元状態がもたらすところの根の障害がない限り, 根自体の機能 はさほど顕在化しないであ ろう. なぜならば, 分げつ期の根は発根後の日数経過 が少なく若い 根であると同時に, 稲体の高い窒素含有率を反映して呼吸速度が高 く(山田 1959, 稲田 1967 )維持され, 不良環 境に耐えうる力が大であると

みなすことができるからである. 根の機能の良否が発現するのは, 水稲が高温,

低温 および日照不足などの不良環境に遭遇したとき であり, 通常の状態では, 根 の老化が進行する登熟期間であると考えられる. 登熟期の根の機能維持とそのた めの栽培管理については後述するとして, ここでは環境ストレス下での根の機能 発現 について論議 したい.

水稲は湛水条件下で-生育しているので、土壌水分が充分であるにもかかわらず,

飽差が大で蒸散が 盛んなと きは気孔開度が減少して , 光合成速度が低下する 現象 が認められている. たとえば, 石原ら( 197 1 a , 1971 b, 1978 a, 1978 b, 1978 c) は水稲の気孔開度の日変化の実態を詳細に調査しているが, 蒸散の盛んな晴天日 の午後に は 気孔開度が減少すること, また, 気孔開度は葉位, 生育時期で差異が あり, 出穂、後は出穂、前に比べて最大開度が小さいこ とを 認めており, これらの現 象と根の発育や老化との関係を考察している. またHirasawa et a1. (1992a)は 日中の気孔開度の低下は根自身の水の通導抵抗の増大が主たる要因であると報告 している.

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一方著者の別 の報告(津野ら 1991b)によれば, 飽差, 日射強度および 葉色 の3要因で, 気孔開度の日変化を説明でき, 日中の気孔開度を減少させないため には, 葉色を濃く保つことの必要性を強調している. この報告では, 根の 呼吸速 度と気孔開度との直接的な関係は明確に示されていないが, 別の実験(津野ら

199 5)で葉身木部水ポテンシャル, 葉身窒素含有 量および光 合成速度について 詳細に検討したところ, 1茎のうちで上位から数え た第3, 4葉, つまり下 葉の 葉身木部水ポテンシャルは その個体の根の呼吸速度と高い負の相関関係を認め た.

これ は, 根の老化した個体 では, 下位葉の水の通導抵抗 が増 大するため気孔開度 を減じて, 葉内水分を保つため葉身木部水ポテンシャルは高まるが, 気孔抵抗の 増大のため光合成速度 は低 下すると考察した.

このように, 飽差 が大である日中や葉の老化 が進んだ下位葉では, 根の機能の 良否が通導抵抗をとおして気孔開度に影響を及 ぼし , それ が光合成速度に影響を 及ぼしている.

本研究では, 高温条件を 水稲個体に与え, 総光合成速度の高温低下現象と根の 呼吸速度との関係をみた結果, 11予吸速度が高い板を有する個体では, 4 0 oc の高 温でも総光合成速度の低下 が認められず, 3 0 ocよりも4 OOCの方が高い値であっ た〈第3章第1節). さらに, 葉身に対する水分供給を根の質と量の2面よりと らえ, 前者を根の呼吸速度, 後者を根重に対する葉面積の比で代表させると, 根 の呼吸速 度か高く, 葉面積:根重比が小さいものほど総 光合成速度の高温低下現 象を軽減でき るという結果を得た. つまり, 幼穂形成期では葉面積に対して相対 的に根重が少ないが, 高い根の呼吸速度でそれをカバーしており, 根の呼吸速度 が低下する登熟期では葉面 積に対して相対的に根重が多くなって水分供給を助け るという調 節機能の作動が認められた.

一方, 水稲5品種に 対し て穂ばらみ期と登熟中期に夜間100C, 12時間の低 温処理を施すと, すべての個体で翌朝の光合成速度および蒸散はともに抑制され たが, 光合成速度が 低下しにくい個体 は, 比葉面積(SLA)が小で-かつ根の呼吸

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速度の高いものであった(第3章第2節) このSLAと根の呼吸速度との聞には 相関はなく, 互いに独立して機能 して いるものと考えられる. また, SLAの小で あるもの ほど呼吸速度が高いことも明ら かと した. すなわち, SLAの小である葉 は呼吸で示されると ころ の 生理活性が高く, これが 葉内水分の保持に寄与 してお り, さら に加え て根の呼吸 速度の高い場合に積極的吸水が高いため, 低温の後に

与えられた好適条件下で 光 合成速度の回復が速やかであると言え る.

以上の結果より, 環境ストレスに耐えうる水稲'の姿が浮かび上がってくる. そ れは, SLAが小さ く充実した葉身を持 ち , 葉面積に対して相対的に根 量が多く,

根の呼吸速度が高い稲であ る. このよう な稲を作るには, 個体に充分 な光を与え ることと , 一度に多量の窒素を施肥 しないことが肝要である. この理由は, 本実 験の遮光処理によって弱光下で生育 した水稲は, SLAが大で, 葉 身長を増大させ てい たこと, 高窒素含有率の稲は軟弱な生育を したことより明白である. また,

低い窒 素条件で 生 育さ せると 根 が よ く発達し, 吸水能力が 高まるとの報告 (Hirasawa et al. 1992a)もある. もちろん, 気孔開度を高く保つうえで葉色を 落さずに(葉色板示度で5"-'6)維持しなければなら ない. したがって, 稲の生 育状態, 特に葉色の変化に着目して, 適切な葉色の維持が可能である追肥重点の

肥培管理は合理的である. さらにし1えば, 良質な完熟堆肥を施用することが 根の

健全性を 保つうえで望ましい.

2. 不良環境への調節機構に関与する根の機能

日本の水田の約半分は標高4 0 m以上のと ころに位置し, しかもその多くは中 小河川水系内に分布して いる. 一般に中小 河川水系では, 下流と上流との 標高差 が著しい. 例えば, 第3章第3節で山あげ処理を施した安蔵 は, 鳥取市の南東に 位置す る野坂川水 系の 上 流に位 置する が , 野坂川は標高差約3 0 0 mを 約 20kmほどで流下 して日本海に注いで いる. この水系内の気象条件を詳細に調

査し た結果では , 標高が1 0 0 m上昇するごと に , 稲作期間の 平均気温 は

0.7 30C低下 し, 用水 温度 は平地(湖山〉が25 oCの時, 安蔵で は1 6 oCと約

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9 0Cも低水温 で あった(津野ら 1982, 1983) . 同時に上流では谷聞がせばま り, 山の稜線で日射が遮られるために安蔵では晴天日の日射量が平地の25%も 減少していた(津野ら 1982) . これらは, 全国の中小河川水系で共通する環 境であり, いわゆる谷間の水田では低温と日照不足の不良環境に恒常的にさらさ れている.

このような不良環境 への水稲の調節機能の発現に関して, 根の機能が関与して いることを明らかとすることができた. すなわち, 弱光下におかれた水稲は乾物 生産が抑制されるが, 窒素吸収量の抑制度は軽度 で, そのため体内窒素含有率お よび葉身窒素含有率が高ま り, 光合成能力を高く維持する方向に調節機構が働い ていた. ま た, 体内窒素含有率の上昇は, 根の窒素含有率を引き上げ, そのため 処理個体の根の呼吸速度は無処理よりも高い値を維持する. そして, 根の呼吸速 度の促進は, 窒素吸収量の増加を促して, 体内窒素含有率を高く保持する(第3

章第3節〉

さらに特記すべきことは, 上記した体内窒素含有率の調節を適当に発揮する品 種と, 体内含有率が過度に高まり, イモチ病などの耐病虫害抵抗性の低下などの

好ま しくない形質を誘発する品種のあることを指摘できたことである. 例えば,

平地 向き品種と言われている日本晴は, 分げつ期の山あげ処理により著しく 窒素 吸収の低下を見た. 逆に, 遮 光処理では著しく窒素吸収が促進された. したがっ て, この品種は中山間部の日照不足の地帯では穂、数の確保が困難であり, 徒長気 味の軟弱な生育となり, 病虫害への抵抗性が劣ることが予測される. 日本晴が当 地の山間部で普及しないのは, 熟期の遅いことの他にこうした生理的要因も関与 していると考えられる. 一方, 当地 で中山間部向き の品種とされているアキ ヒカ

リは遮光処理による窒素吸収量の低下が他の品種よりも著しいが, 分げつ期の山 あげによる窒素吸収量の低下度は他の品種よりも小である. この特性が, 穂、数の 確保にあずかつて, 中山間部で安定した作柄を示す 品種として位置づけられるも のと考えられる. コシヒカリは, 窒素吸収の面からみるとアキヒカリに似た傾向

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であるが, Ý)]穏形成期から登熟初期に遮光処理によ り窒素吸収が促進された . こ

れは節間伸長を促して倒伏に至る危険性を示唆するものであった. 水稲品種の適

地を考えるとき, 標高だけではなく日照条件にも配慮、することの必要性を指摘し fこし、-

3. 根の機能と作物体の健全性

谷間の水田では, 平坦地 よりイモチ病の発生が多いのは広く観察されると ころ である. これは, さきに述べたように低温と日照不足により, 水稲の生育が, 軟 弱, 徒長気味と なり, 病虫害の抵抗性が弱まるからである. このようなときは,

珪酸の吸収を促して, 健全性を保つ必要がある.

秋元(1939 )は珪酸含有率の高いほどイモチ 病擢病率が低く, 窒素含有率の 高いほど擢病率の高いことを認めている. また吉田 (1965)は, 珪酸は水稲体 表層部にポリ珪酸として沈着し, クチクラ ・ シリカ2重層を形成し, この層は外 部からの病害虫の進入を防御するとともに, クチクラ蒸散を調節して水分経済に 貢献すると指摘している. さらに, 珪酸は葉の直立性に関与して, 受光態勢に改 善をもたらすことも報告さ れている(岩田 ・馬場 1962) .

この珪酸の吸収は根の呼吸作用によるところが大であることは多くの報告があ る(馬場 1958, 三井ら 1951, 岡島・高城 1953) . 本研究でも , 水稲茎基 部からの出液中の珪酸含有率および珪酸量と根の呼吸速度との聞には高い正の相 関があることを明らかとし た(第6章第2節) しかしながら, 珪酸は蒸散流に よっても運ばれるものであり, 水分吸収量に対する積極的吸収量の比はごく僅か であることから考えると, たとえ根の呼吸速度が強くて珪酸の吸収が増加しても 葉身の珪酸含有率にはさほどの影響を及ぼさないのではなし、かという懸念は否定 できない.

そこで, 葉身で珪酸と括抗作用を示すカルシウムに着目し, 切断茎からの出液 中のカルシウムに対する珪酸の比(Si02/Ca)を検討した. カルシウムは根の 呼吸速度と関係な く蒸散流によって運ばれることは多くの報告(馬場 1958,

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三井ら 1951, 岡島・高城 1953 )があり, この濃度が高いと葉身の珪酸含有 率が抑制されることを津野ら(1984, 1989)は認めている そこで, 出液中の Si02/Ca比と 根の 呼 吸速度との 関係を検討したところ, 両者には高い正の相関 が認められた(第6-10図) もし, 出液中のSi02/Ca比が蒸散流にも同様に保 持されるならば, Si02/Ca比が高い 葉では珪酸含有率は高いはずである. これ は第6 -11図に示した関係で証明することができた. したがって, 呼吸速度で代 表される活力の強い根を持つ水稲では, 葉身の珪酸含有率が高くなり, 健全な稲 となる可能性を 認めることができた.

4. 登熟期における根の機能維持と栽培管理

水稲栽培の最終目的は玄米生産であることからし て, 登熟期間が 玄米収量 の決 定に重要であることは言うまでもない. 登熟期では , すで に穂数や葉面積は決定 されており, 根群も出穂期前後に完成し, 以後は減少するとの多くの報告(佐々

木 1932, 佐藤 1940, 岩槻・石黒 1938, 林ら 1956, 山田 ・ 太田 1956,

岡島 1960 , 稲田 1967, 川田 ・ 副島 1974 )がある. また, 老化にともなっ て茎葉および根部の機能低下は避けがたい現象である. 戦前の水耕法を中心とす る栄養生理的研究では, N, p, S, Mgなどは稲体内で移動しやすい要素であ り, このことが 出穏期の保有分で賄えるとの考えに たって, 登熟期間にお ける培 地(土壌〉からの吸収量は比較的軽視されてきた. しかしその後, 多収穫の 水稲 では出穂後も窒素をはじめ各種養分 を 多量に吸収している事実が明らかにされて きた. ここにおいて登熟期における根の養分吸収機能が重要視されてきたのであ る.

本研究では, 養水分の吸収に関与する根の呼吸速度には, 根の窒素含有率 と全 糖含有 率 の2要因が関与して いることをポット試験で 認め, 株を中心とする約

1 5 Lの土壌中に伸長す る根を洗い出して, その呼吸速度 を測定 した園場試験で も, ポ ット試験と同様の結果を認めることがで きた(第4章および第5章第3 節) . 根の窒素含有率は, たんぱく質を包括的に示しているもので , 根の窒素含

参照

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