Author(s)
新城, 将孝
Citation
沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL
OF LAW & ECONOMICS(22): 53-67
Issue Date
2014-11-30
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/18228
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【研究ノート】
取締役の報酬についての講義
A topic on the compensation for the duties of directors
新 城 将 孝 Masataka SHINJO 専 門 分 野:会社法 キーワード:〈取締役の報酬〉〈総会決議の欠缺〉〈同族会社・一人会社〉 1.はじめに 株主が会社のガバナンスの状況を把握し、会社の評価を行いうるためにも、役員報酬の状況は その業績やインセンテイブ等の観点も含め、開示が重要な要素となることは言うまでもない。会 社法361条は、取締役の報酬等につき定める。同条は、取締役の報酬、賞与その他職務執行の対価 として株式会社から受ける財産上の利益についての①報酬等のうち額が確定しているものについ ては、その額、②報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法、③ 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容を定款に定めるか、または株主総会 での決議をもって定めることを求める。本条はお手盛りの弊害を防止するための規定といわれ、 旧商法269条規定を承継したものである。 周知のように、会社法は、有限会社法を廃止し、有限会社の株式会社への一元化を図った。こ のことは、会社法が従来基本形態(規制の原型)とする、所有と経営の分離に対する例外を求め ることに繋がり、かつ、機関構成の多様化をもたらすものであった。具体的には、個人企業の法 人なり、零細企業の株式会社なりという実務実態からの作業であり、従来の有限会社と株式会社 という二本立て規制から、有限会社を廃止した、株式会社規制への一本化である。当然、ここで は従来の有限会社規制の実質も取り込むことを必然とするもので、その規制の基本形態に、有限 会社規制が継受されてくることをも意味する。 所有と経営の分離は、大勢の株主が直接会社経営に携わることは困難であるところから、会社 経営はその専門家(取締役等)に委ねるシステムにある。いわゆる、それ相当規模の会社を想定 しているものといえる。このシステムの下では、経営委託者としての株主の利益を守るために、 経営陣の専横を防ぐ仕組みが強く求められてくる。取締役等への報酬規制もその一つといえる。 旧商法269条規定は、取締役が受くべき報酬は定款にその額を定めざりしときは株主総会の決 議をもってこれを定めるものとする(1項)。この規定については、既述のように、お手盛りの弊 害を防止するための規定であるとか、取締役の会社に対する忠実義務から報酬については自ら決
−54− 定ができない故との説明等をみることができる。とはいうものの、旧法時代においても、取締役 の報酬につき、定款での定めたりまたは株主総会の決議での定めも行われず、その支給等が行わ れたりしてきたことは周知のところである。 本稿では、会社法361条(旧商法269条)規定の趣旨と総会決議を経てない取締役の報酬等につ いて、判例の動向を観察しつつ、その考察を行う。 2.会社法361条の趣旨と判例の動向 (1)会社法361条の趣旨 取締役の報酬等については、会社法361条(旧商法269条)が定める。会社と取締役の法律関係 は、委任(契約)関係にある。この視点からは、取締役報酬等の決定については、本来の業務執 行の一つとして取り扱い、業務執行の範囲にあるとの説明を可能とする(酒巻俊雄「取締役また は監査役に支給される報酬」金判113号2―3頁)。しかし、取締役らが自らで自らの報酬を決定 できるとすると、必要以上の高額での決定を行うおそれがでてくる。いわゆる、お手盛りの可能 性である。会社法361条は、このお手盛り防止のための規定と理解され、政策的規定と理解されて いる(新津和典「取締役の報酬と株主全員の同意―大阪高判平成21・3・12判時2075号133頁―」 金判1363号11頁。菊田秀雄「株主総会決議を経ないで支給された退職慰労金にかかる不当利得返 還請求の拒否―最二判平成21・12・18金判1338号22頁―」 金判1356号4頁。政策的規定か、非政 策的規定かの議論につき、酒巻 前掲判研 金判113号3頁参照。)。 具体的に、取締役の報酬等であるが、これは取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価とし て株式会社から受ける財産上の利益のことである(会361条1項本文)。金銭または金銭以外の現 物出資の形態での支給が可能であり、その名目、支給形態は問われない。 ただ、会社法は指名委員会等設置会社を除き、金額等の相当性についての実体的な規制を行っ ていない。理由は、取締役の報酬決定を株主の自治的判断にゆだね、そこでの報酬の相当性を確 保しようとするところにあるといわれる(菊田 前掲判研 金判1356号4頁)。会社法は、今日、 そのことにより、会社と取締役との利害の調整、取締役による費消の防止と、社会との調整、そ して、取締役の働きに見合った、基本報酬のほか、賞与、退職慰労金、ストックオプション等の 選択も認容する。 会社法は、取締役の報酬に関する規制として、手続規制と開示規制を行う。開示規制は、ガラ ス張りの経営の一環である。開示規制は公開会社において行われるが、例えば、公開会社は事業 報告での開示が求められている(会435条、施行規則119条2号、121条4号5号、124条6号)。ま た、書面による議決権行使・電磁気的方法による議決権の行使が可能な場合、株主総会参考書類 の交付が必要であり(会301条、302条)、議案、提案の理由が記載される(施行規則73条1項)。 そして、提案の理由の説明も行われる(会361条2項)。会社法施行規則82条は、株主総会参考種 類には①算定基準、②株主総会で定められている報酬の額等の変更における変更理由、③取締役 等の員数等についての記載を求める。既に、株主総会では報酬総額の最高限度額の決議で足りる ことがみてとれる。
−55− 勿論、株主総会参考書類の交付が行われない場合にも、取締役は、招集の際に、取締役の報酬 等に関する概要を定め(会298条1項5号、施行規則63条7号ロ)、招集通知に記載しなければな らない(会299条4項)。 会社法361条は、定款規定又は株主総会決議によって決定することを求め、手続規制を行う。 取締役の報酬決定をめぐる実務一般は、取締役の報酬を定款で定める例はほとんどなく、総会 委任決議によるのが一般的であるとされる(菊田 前掲判研 金判1356号4頁)。定款の記載事項 となると、定款変更の手続の煩雑さが加わる(会466条、309条2項11号)。加えて、株主総会にお ける決議も、総額上限方式によって行われてきている。株主総会においては取締役に支払われる 報酬総額を決議承認し、そして、その分配については取締役会に委任する形態が取られている。 この方式は、判例においても認容されている。理由は、本条規定が「お手盛り防止」にあるから である。そして、この実務慣行ないしその運用は、個別の具体的報酬額の開示機会の減少を提供 する。しかも、毎決算期における株主総会における報酬決定の決議が明文規定をもって求められ ているものでもない。当然、枠の増額等がなき限りにおいて、一度の株主総会の決議でたりると いうことにもなりうる。 ここにも、高度の専門性を持った経営者が必ずしも求められているのではなく、労働者(ある いは生活者)としての側面を有しつつ、経営を担当するという形態の存在の認容と把握を導き出 しうる余地が存在するように思われる。これはおそらく、所有と経営の分離、所有と支配の分離 が行なわれていない会社での、実態規制との関わりからもきているもののようにも思える。そも そも、わが国における新入社員の4月一括採用、役員の社内登用、いわゆる従業員の出世の行き 着き先としての会社役員、この経営慣行はこれまで指摘されてきたところである。役員の報酬体 系にしても、従業員の報酬体系と近似した形態、「定例報酬+役員賞与+退職慰労金」にある(商 事法務2016号141頁)。この制度は、従業員が会社役員となる道に違和感を感じさせないものであ ると思われる。 ただ、近年においては、報酬体系の見直しが進められ、その中で、役員賞与の見直し、役員退 職慰労金の廃止増も指摘されている(商事法務2016号140頁)。 指名委員会等設置会社の場合、取締役と執行役(会計参与会社の場合、会計参与も含む)の個 人別報酬等の内容は報酬委員会で決定される(会404条)。報酬委員会は、まず「個人別報酬等の 内容に係る決定に関する方針」を定め(会409条)、この方針に従い個人別報酬等の内容を決定す る(会404条、409条)。報酬委員会は過半数の社外取締役で構成され(会400条)、執行役等の合理 的な報酬システムの構築と執行役等の業績の報酬への反映、そして、株主との利害調整を図ると ころにその趣旨があるとされる(江頭憲治郎 『株式会社法(第5版)』563頁注1)。 (2)判例の動向 会社法361条規定は、お手盛り防止規定であろうか。政策的規定であり、強行規定と理解するの が一般的である。原則論的には、手続の欠缺は無効であり、任用契約から当然に報酬請求権の発 生をもたらすものではないとの厳格な解釈を導き出しても異論はないように思われる。 この点、最高裁昭和39年12月11日判決は、「定款にその額の定めがない限り株主総会の決議を
−56− もって定むべきものであり、無条件に取締役会の決定に一任することは許されない」ものとする (民集18巻10号2143頁)。そして、「本件決議に当たっては、右慣例よって定むべきことを黙示し て右決議をなした」、すなわち、Y会社は「退職した役員に対し慰労金を与えるときには、その都 度株主総会の議に付し、株主総会はその金額、時期、方法を取締役会に一任し、取締役会は自由 な判断によることなく、会社の業績はもちろん、退職役員の勤務年数、担当業務、功績の軽重等 から割り出した一定の基準により慰労金を決定し、右決定方法は慣例となっている」旨、その理 由を説明する。これは、「前記退職慰労金支給決議は、その金額、支給期日、支給方法を無条件に 取締役会の決定に一任した趣旨でなく、前記の如き一定の基準に従うべき趣旨であること前示の とおりである以上、株主総会においてその金額等に関する一定の枠が決定されたものというべき であるから、これをもって同条の趣旨に反し無効の決議であるということはできない。」ものへと 繋がる(民集18巻10号2143頁)。 そして、「法は此種支給は兎角取締役のお手盛に流れやすく株主に往々不利益を蒙らすことを 慮ばかってそれを防ぐため商法第269条が設けられたもので従ってその解釈は厳格とし本件の場 合の如き曖昧な支給に付いてはそれがたまたま妥当な額であったとしても絶対許されるべきもの でないことはいう迄もない。」・・・「商法269条は会社の取締役監査役(以下役員と略称)に対す る報酬はその額及び支払方法等を会社役員に一任するときは何れの会社に於いても会社役員は会 社の実権を掌握するものであり自分等に対する報酬を自己一存にて決定せしむることとなり往々 にして会社の利益を度外視し自己の利益のみを図る専権に走る弊害を防止する為に設けられたる 強行規定である。」と説明される(民集18巻10号2143頁)。 この立場は、その後の裁判例にも踏襲されていく。最高裁昭和60年3月26日判決は、「商法269 条の規定の趣旨は取締役の報酬額について取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害 を防止する点にあるから、株主総会の決議で取締役全員の報酬の総額を定め、その具体的な配分 は取締役会の決定に委ねることができ、株主総会の決議で各取締役の報酬額を個別に定めること までは必要でなく、」とする(判時1159号150頁)。そして、東京地裁平成2年4月20日判決は、 「退任した取締役に対する退職慰労金は、商法269条の報酬とみるべきであり、定款に定めのない 以上、株主総会の決議をもって当該取締役に対する支給額を決定して、初めて支給が可能となる ものであり、右決議は退職慰労金請求発生の要件となる。・・・・・ ところが、取締役を退任し た原告に対し退職慰労金を支給する旨の被告株主総会決議そのものがないことは当事者間に争い がないのであるから、退職慰労金請求権は発生していないものというほかない。」とする(判時 1350号138頁)。また、東京地裁平成3年3月8日判決は、「原告は、右退任に伴う退職慰労金を請 求するが、商法269条の規定上取締役の報酬については、定款の定めがない限り、株主総会の決議 によって定めることを要することは、明らかである。そして、取締役の退職慰労金も、同条の適 用を受ける報酬に含まれる。本件においては、原告への退職慰労金の支給について定款の定めも 総会の決議もないところ、原告は、総会決議なしでも退職慰労金請求権が発生すると主張するが、 独自の見解であって、採用することができない。」ものとする(判タ766号265頁)。加えて、最高 裁平成15年2月21日第二小法廷判決は、「株式会社の取締役については、定款又は株主総会の決議 によって報酬の金額が定められなければ、具体的な報酬請求権は発生せず、取締役が会社に対し て報酬を請求することはできないというべきである。けだし、商法269条は、取締役の報酬額につ
−57− いて、取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するために、これを定款又は 株主総会の決議で定めることとし、株主の自主的な判断にゆだねているからである。・・・・・・ そうすると、本件取締役の報酬については、報酬額を定めた定款の規定又は株主総会の決議がな く、株主総会の決議に代わる全株主の同意もなかったのであるから、その額が社会通念上相当な 額であるか否かにかかわらず、被上告人が上告人に対し、報酬請求権を有するものということは できない。」ものとする(金判1180号29頁)。これは、「(1)株式会社の取締役と会社との関係に おいては、通常の場合、有償である旨の黙示の特約があるものと解され、同特約がある以上、株 主総会の決議がない場合には、取締役は会社に対し社会通念上相当な額の報酬を請求することが できると解するのが相当である。このように解しても、株主総会の決議がある場合には、それに 従うべきことになるし、同決議がない場合には、社会通念上相当な額に抑えられるから、取締役 の報酬額について取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するという商法 269条の趣旨を損なうことはない。(2)本件取締役の報酬の相当額は、少なくとも現実の支給額 を下回ることはないと認めるのが相当である。(3)したがって、本件取締役の報酬の支給は、 商法269条に違反するものではなく、適法であるということができる。」とする、原審(東京高裁 平成11・4・19判決)の判断を否定する(金判1180号29頁)。 これら判例の動向をまとめてみると、旧商法269条(会社法361条)規定はお手盛り防止規定で あり、政策的規定であり、強行規定との理解となる。理由は、取締役の報酬決定を株主の自治的 判断にゆだね、そこでの報酬の相当性を確保しようとするところにある(菊田 前掲判研 金判 1356号4頁)。ところが、取締役の報酬等については、会社と取締役とのその法律関係が委任契約 関係にあるところ、かつ、商法の有償性からは、取締役報酬等の決定について、本来の業務執行 の一つとして取り扱い、業務執行の範囲にあるとの説明を可能とする余地がある。しかし、それ は結局のところ「独自の見解であって、採用することができない。」ものとされる(最高裁平成 15年2月21日第二小法廷判決 金判1180号29頁)。 判例の立場として、定款又は株主総会の決議が必要であり、それなしには、具体的な報酬請求 権の発生はなく、取締役は会社に対して報酬請求をすることはできないことになる。 ただ、既述もしたように、取締役の報酬決定をめぐる実務一般は、取締役の報酬を定款で定め る例はほとんどなく、総会委任決議によるのが一般的であるとされる(菊田 前掲判研 金判 1356号4頁)。加えて、株主総会における決議も、総額上限方式にあり、株主総会においては報酬 総額を決議承認し、そして、その分配については取締役会に委任する形態が取られる。この方式 は、個別の具体的報酬額の開示機会の減少をもたらす。しかも、報酬決定の決議が毎決算期にお いて求められているものでもなく、枠の増額等がない限りにおいて、一度の株主総会の決議でた りるということにもなってくる。 さらに、留意すべきは、会社設立以来、株主総会、取締役会を開催しない会社も存在する。確 かに、取締役の報酬につき、会社法391条が株主総会の決議を求めた趣旨は、取締役ないし取締役 会によるお手盛りの弊害防止にあるが、株主総会の開催が行われず、仮に開催されたとしても、 取締役の報酬が議題とされなかったときの取り扱いをどのように理解すべきであろうか。この点 について、会社法は必ずしも明確に対応しているものとは思えないところがある。とりわけ、株 主の利益が実質的に害されてない場合の取り扱いはどうなるのであろうか。以下、検討を試みる。
−58− 3.株主総会の決議を経ない取締役の報酬 (1)会社法規定と総会決議 戦後の商法は、取締役会設置会社を求めていた。というより、取締役会は必置の機関にあった。 発起人は7名以上で、発起人は必ず株式の引き受けを求められていた。取締役の員数は、3人以 上で、取締役会を構成するものとされていた。ただ、かかる会社においても、一人会社の存在が 認められてきたことは周知のところである。加えて、一人会社と株主総会との関係においては、 招集手続を欠いた総会の成立が認容されている(最高裁判昭和46年6月24日判時636号78頁)。ま た、実質が個人企業と認められる会社のおける取引において、その実態となる個人とを同一視す る、いわゆる法人格否認の法理の展開も行われている。確かに、社団法人において、その構成員 である社員は、法律上別人格であることは言うに及ばない。しかし、これは立法技術上の問題で あり、法人格が形骸化している場合または法人格が法の適用を回避する手段として濫用される場 合においては、その取引に関し、法人格を否認すべきものとされる(最高裁判昭和44年2月27日 判時551号80頁)。その理由は、法人格の利用が本来の目的に照らして許容できないところに由来 する。判決は、「株式会社は準則主義によって容易に設立され得、かつ、いわゆる一人会社すら可 能であるため、株式会社形態がいわば単なる藁人形に過ぎず、会社即個人であり、個人即会社で あって、その実質が全く個人企業と認められるが如き場合を生じるのであって、このような場合、 これと取引する相手方としては、その取引がはたして会社としてなされたか、または個人として なされたか判然としないことすら多く、相手方の保護を必要とする」ものとする(判時551号80 頁)。また、営業譲渡においては、旧商法245条1項1号をもって、株主総会の特別決議を求めら れるが、一人会社において一人株主の意思決定をもって特別決議に代置できるとするものもある (大阪地裁昭和44年3月18日判決 判時562号71頁)。取締役会の職務権限に属する事柄(会社と 取締役間の取引)でも、株主全員の合意によってされた場合には取締役の承認を要しないとされ る(最高裁第一小法廷昭和49年9月26日判決 民集28巻6号1306頁)。加えて、一人会社において は、または実質的に全株主の同意があった場合においては、株主総会の決議なしに行われた取締 役への報酬の支給は適法とするものもある(東京地裁平成3年12月26日判決 判時1435号134頁)。 これらから推論していくと、一人会社や実質的に全株主の同意が得られる会社にあっては、株主 総会の手続き等に関する会社法規定は実質上、不要となる。会社法300条は、株主総会は、株主全 員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができるとする。また、会社法 319条は、取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提 案につき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決 する旨の株主総会の決議があったものとみなすとする。 会社法は、今回、有限会社制度を廃止し、株式会社への一元化を図った。本来、有限会社は株 式会社と同じく出資者の事業リスクを限定する(有限責任社員)も、社員同士の関係に緊密さを 求めている。気心の知れた仲間内での会社経営を意図した会社形態を基礎としている。会社規模 としては、小規模向けを想定したものである。確かに、これまで有限会社制度は多数利用されて きた。しかし他方で、有限会社にふさわしいような株式会社も多数出現していた。中小企業等
−59− の、本来その利用を想定された企業が有限会社制度を必ずしも利用するものではなかったといわ れる(江頭 前掲書3頁注3)。多くは、すなわち有限会社より株式会社が信用されやすいという その表見的信用等から、株式会社形態が利用されてきたといわれる。加えて、個人企業の法人な りは節税の配慮等からともいわれる。そこで、現行会社法はその実質面から、従来の有限会社と 株式会社という二本立ての規制から、有限会社を廃止し、株式会社規制に一本化したものとされ る(特例有限会社制度あり)。そして、同時に、旧有限会社法に近い規制も導入された。いわゆる、 会社法は「株式会社制度の中に有限会社法制の実質を取り込む」こととなり(江頭 前掲書3頁 注3)、さらには、中小企業団体からの抵抗の強かった、資本金制度も廃止された。 周知のように、従来、株主有限責任制度は、株主責任の限定から、その特色は以下の点にあっ た。①株式の流通性を促進し、投下資本の回収を容易とする、②少額の遊休資本の集積(多額の 資金の集まり)から、大規模事業の展開を図る、③大勢の株主が直接会社経営に携わることは困 難であり、またそれは非効率的であり、会社経営は、その専門家(取締役、執行役)に委ねる、 であった。すなわち、所有と経営の分離が基本形態とされた会社にあった。そこで、株主の利益 を守るために、経営陣の専横を防ぐ仕組みが強く求められてきたことはいうに及ばないところで ある。また、所有と支配の分離は、市場に株式が広く分散した会社での現象であり、多くの会社 では、株主は会社経営陣に全幅の信頼を置くことになる。 しかし、現行会社法は全株式について定款による譲渡制限をした株式会社(全株式譲渡制限株 式会社)を基本形態としている。そして、機関設計に関しても広い定款自治を認める。機関設計 においても、「株式会社制度の中に有限会社法制の実質を取り込む」(江頭 前掲書3頁注3)こ ととなったといえる。そこで、会社法が基本とする株式会社は、小規模の、単純な組織・機関を 備えた会社で足りることとなった。現行会社法において、株式会社の機関の原型は、株主総会と 取締役とにより構成される。これは、従来の有限会社の形態を踏襲したものとなる。機関の設置 は定款により任意追加できるが、追加強制の場合の大会社でも公開会社でもない場合、株主総会、 取締役だけの会社、株主総会、取締役と監査役のみを置く会社もでてくる。取締役会設置会社が 必須というものでもない。また、所有と経営の分離を図る必要もない(会331条2項但書)。 (2)総会決議を経ない取締役の報酬(判例の動向) 会社法は、いわゆる一人株式会社すら可能である(会25条、471条)。また、その実態からは、 個人を会社と同一視する場面、会社即個人であり、個人即会社との取り扱いを必要とする場面も あった(最高裁昭和44年2月27日判決 判時551号80頁)。その実質が全く個人企業と認められる が如き場合を生じる実質が個人企業と認められる会社における取引においても、一人会社におい て一人株主の意思決定をもって特別決議に代置できるとするものもある(大阪地裁昭和44年3月 18日判決 判時562号71頁)。また、取締役会の職務権限に属する事柄(会社と取締役間の取引) でも、株主全員の合意によってされた場合には取締役の承認を要しないとされる(最高裁第一小 法廷昭和49年9月26日判決 民集28巻6号1306頁)。このような場面は、取締役の報酬の決定に おいてもみられる。 まず、(Ⅰ)大阪高裁平成元年12月21日判決は、「本件支払金については、Y会社(被控訴人)
−60− の定款にも規定はなく、株主総会の決議もないことは弁論の全趣旨により明らかであるが、前記 認定のとおり、X会社はCとEが中心となって経営してきた小規模な閉鎖的同族会社であり、名 目上の株主は他にもいたものの、実質的に出資してY会社を設立経営してきたのは右両名であ り・・・・・・またY(控訴人)においては、従来取締役会も株主総会も開かれたことはなく、 本件支払金をYに支払うことについては実質上の株主であるC及びEが承諾していたのであっ て、このような場合、前記商法269条の趣旨からすれば、実質的な株主全員の承諾を得たことによ り、その目的とする弊害は防止しうるのであるから、本件支払金については株主総会の決議が あったものとして扱うのが相当というべきである。現に、現在X会社の代表取締役であるD自 身、自分の報酬についても形式的には株主総会の決議を経ていないと供述しているのである。」と する(判時1352号143頁)。 事実の概要は以下の通りである(判時1352号143頁)。 X会社は、A保険会社との間でBを被保険者として生命保険契約を結んでいたところ、Bが死 亡したため当座預金口座に振り込まれる方法で右保険金の支払いを受けた。その後、Bの妻であ るYが右口座から保険金額(一部。全額ではない。)を引き出したところから、X会社がYに対し て、不当利得としてその返還を求めた。 裁判においては、「右金員は、XからYに支払われたものであるが、その動機・目的やX会社の 帳簿にも記載されておらず、他方、Bには本件支払金以外に退職金は支払われていないのであっ て、少なくともBの生前の取締役としての職務執行の対価ないしその功労に対する報酬の性格も 併せ持つものであることは否定できないというべきであり・・・・・また取締役報酬のお手盛り により会社・株主に損失を与えることの防止を目的としている商法269条の立法趣旨からすれば、 本件支払金についても同条が適用され、定款の定め、又は株主総会の決議あることが必要である」 としている(判時1352号143頁)。 加えて、X会社は、Cが個人事業として始めた溶接所を会社組織にしたもので、Bは先代の代 表取締役Cの長男、現在の代表取締役Dの兄であり、家族全員で経営する町工場であることから、 従来取締役会も株主総会も開かれたことはなかった。Bが死亡し、3人の子どもを抱えて残され たYの生活を心配したCらの配慮でYは右金員を取得したというものである(判時1352号143頁)。 その後、Cが死亡し、遺産相続をめぐってDらと不仲になり、本件訴訟を含む紛争が生じるに 至った。 本件事案は、まとめると、小規模な同族会社(家族全員で経営する町工場)にあり、従来取締 役会も株主総会も開かれたことはないが、実質的な株主全員の承諾を得ていたことから、株主総 会の決議があったものとして取り扱うことを相当としたものである。 (Ⅱ)東京地裁平成3年12月26日判決は、「取締役の報酬を株主総会の決議によらせた趣旨はい うまでもなく株主の保護にあるところ、実質的な株主が一人しかいない、いわゆる一人会社のよ うな場合、正規の株主総会の手続が取られなかったとしても、唯一の株主の意思によって取締役 の報酬額が決定されたときには、株主保護の実質は図られているということができるから、正規 の株主総会の決議がなかった場合であっても、これがあったと同視すべきであり、これによって 取 締 役 報 酬 を 取 得 し た 者 も こ れ を 不 当 に 利 得 し た こ と に は な ら な い も の と い う べ き で あ る。・・・・・したがって、本件においても、唯一の実質的な株主である訴外Aの意思によって被
−61− 告の取締役としての報酬額が決定されている以上、被告は、これによって取得した報酬を返還す る義務はないものとせざるをえない。」とする(判時1435号134頁)。 事実の概要は、以下の通りである(判時1435号134頁)。 Yは、X会社の代表取締役在任中に、取締役報酬を取得したが、その在任中において、Xの株 主総会は開催されていなかった。そこで、Xは、Yが株主総会の決議なしに取締役報酬を取得し たとして、Yに対し、右報酬の返還を求めた。これに対し、Yは、Xの実質的な株主はAの1名 であり、報酬額はAが決定したものであると主張した。 本件事案も、「株主総会の手続が取られなかったとしても、唯一の株主の意思によって取締役の 報酬額が決定されたときには、株主保護の実質は図られている」とし、株主総会があったものと 「同視すべき」とする(判時1435号134頁)。 (Ⅲ)京都地裁平成4年2月27日判決は、「YはA(代表取締役)を中心とする同族会社である とともに同人のいわゆるワンマン会社であって、被告においては、少なくとも原告の在職期間中 は、株主総会や取締役会が開催されたことは一度もなく、議決権、利益配当請求権その他の株主 権が行使されたこともなかった。・・・・・被告の株主が何人であるかは必ずしも明らかではない が、被告が株主と主張する名義人は少なくともAの影響下にあるものと解される。また、右名義 人に対する株式譲渡については、少なくともXの在職中は右譲渡承認についての取締役会が開催 された事実はない。・・・・・Yにおいては、株主総会の決議という形式においてXに対する退職 慰労金の支給が承認されたことはないが、AはXに対する退職慰労金の支給を決定した。右決定 方法は、商法上で株主総会や取締役会の決議事項とされているものも含め、Yにおいて通常行わ れている意思決定の方法でもって決定されたということができる。・・・・・しかも、Yは、Aの 名で、しかも内容証明郵便という厳格な形式でもって、既にYを退職し社外の人間となっている Xに対して、退職慰労金を決定したこと及び右退職慰労金を計上している旨を通知した。このよ うにして、右決定は、単なる内部的な決定に止まることなく、外部的に、しかも意思表示の相手 方であるXに対して直接表示されたものである。・・・・・加えて、Yは、未払退職金をYの損益 計算書にも計上し、これに基づいて法人税の申告も行っているのであって、公的にも右未払退職 金の支払義務があることを表明しているのである」とし(判時1429号133頁)、加えて、「退職慰労 金の支給することを決定し・・・・・・・・被告が原告に対して右の決定をしたことを公式に通 知しながら、商法に規定されている退職慰労金支給承認の株主総会決議を行わなかったとの手続 違背のみを理由に、その支払を拒絶することは衡平の理念からして許されないものといわなけれ ばならない。」とする(判時1429号133頁)。 本件事案は、代表取締役を中心とする同族会社で、しかも、ワンマン会社にあり、株主も同人 の影響下にある中で、同人が退職金の支給を決定したものである。そして、通常会社において行 われている意思決定の方法で行われてものとされる。加えて、決算書類への計上、法人税の申告 とその実務的取り扱いへの着眼が行われている。 (Ⅳ)東京高裁平成7年5月25日判決は、「取締役の報酬を株主総会の決議によらしめた趣旨は 取締役ないし取締役会のいわゆるお手盛りの弊害を防止し株主その利益を保護することにあるこ とは明らかであるから、株主総会の決議事項について株主総会に代わり意思決定する等実質的に 株主権を行使して会社を運営する株主が唯一人である場合に、その一人の株主によって退職金の
−62− 額の決定がされたときは、実質上株主保護が図られ取締役のいわゆるお手盛りは防止されること になるわけであり、したがって、株主総会の決議がなくてもこれがあったと同視することができ るというべきであるのみならず、X会社のように、株主総会が一度も開かれず、計算書類の承認、 取締役の選任、退職金を除く取締役の報酬の決定等法律上株主総会の決議でなすべき事項がすべ て代表取締役Aによって意思決定されてきた場合には、他の株主はAに対して株主総会の決議で なすべき事項の処理をゆだねていたものといわざるを得ないから、前示事実関係のもとでは、A が決定した退職金について株主総会の決議の欠缺を主張してその支払を拒むことは、信義則上許 されないものというべきである。」とする(判タ892号236頁)。 また、(Ⅴ)平成25年8月5日東京地裁民事第50部判決は、「株主総会を経ないで取締役の報酬 が支払われた場合であっても、株主総会決議を経た場合と同視できる事実が存在する場合、すな わち、株主総会決議に代わる全株主の同意があった場合には、上記趣旨を全うする事ができるの であるから、当該決議の内容等に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情が認 められない限り、当該役員報酬の支払いは適法有効なものになるというべきである。」としている (金判 1437号54頁)。そして、論理の前提として、最高裁平成15年2月21日第二小法廷判決を引 用し(判タ1172号96頁)、「会社法361条1項が、取締役の報酬等の額については、定款に定めのな いときは、株主総会の決議によって定めるとし、取締役の報酬の額の決定を株主総会の決議にか からしめている趣旨は、取締役の報酬の額について、取締役ないし取締役会によるいわゆるお手 盛りの弊害を防止するために、これを定款又は株主総会の決議で定めることとし、株主の自主的 な判断にゆだねているからであると解される」ものとする(金判1437号54頁)。 本件事案は、原告の株主全員の同意があったものと同視することができる事実の存在として、 「平成23年9月事業年度のX会社(原告)のYに対する360万円の役員報酬の支払については株主 総会決議に代わるC及びEを含む全株主の同意があったものといえるし、その他の事業年度にお けるX会社原告の被告に対する役員報酬の支払いについても、C及びEは、その役員報酬が支払 われた当時は、いずれも株主総会の不開催に異議も述べない経営に関心のない株主であり、実質 的な株主とはいえないし、C及びEはいずれも原告において株主総会を開催することなく一定の 役員報酬が支払われていたことを認識し、これを許容していたといわざるを得ないものだから、 実質的には、X会社の株主全員の同意があったものと同視することができるといえる。」とする (金判1437号59頁)。この判例の留意点は、「経営に関心のない株主で、実質的な株主でなく、し かも、株主総会を開催することなく、一定の役員報酬が支払われていたことを認識、許容してい た。そこで、実質的に株主全員の同意があったものと同視できる」としているところにある(金 判1437号54頁)。いわゆる、これは実質的な株主にないものについては黙示の同意をもって足り るものとしているとの理解を可能とする。 事実の概要をみると(金判1437号54頁)、X会社は、昭和27年2月設立の会社である。昭和50年 12月付けの作成の定款には、定時株主総会を営業年度末日の翌日から3ヶ月以内に開催する旨の 記載あり、X会社の主張によれば、創業以来株主総会を開催していなかった疑いがある。具体的 に、「X会社において株主総会が開催されたことを示す議事録や招集通知等の客観的証拠が無く、 亡Aが代表取締役であった時に株主総会が開催され、株主総会において役員報酬枠や報酬額の取 締役会に一任する旨の決議をした事実は認められない」とされている(金判1437号57頁)。X会社
−63− は、設立者である亡Aと配偶者B及び直系卑属及びその配偶者のみが株主である家族会社であ る。平成2年頃には、既に定時総会すら開催することなく、その経営判断も取締役会を開催して 決定するのではなく、乙山税理士に対して相談するなどした上で判断している。( i )役員報酬の 支払いについても、乙山税理士と相談の上、①その収益から亡Aの後継者であった亡Dに対して 毎年720万円ないし360万円の役員報酬を支払っていたこと、②Eは役員報酬の支払いについて経 理責任者として認識し、③Cも株主総会が開催されることなく役員報酬が支払われていたことを 認識していたが、異議を申し出たことはなかった。( ii )亡Bが代表取締役として就任した後も、 X会社においては、乙山税理士と相談の上、株主総会を開催することなく、①貸しビル業の収益 の範囲内で1事業年度に150万円ないし420万円の役員報酬が亡Bに支払われ、②Cは同支払いの 事実を認識していたが、③異議を申し出たことはなかった。( iii )Yは、平成15年頃にはX会社に おいて経理業務を行い、亡Dが存命中にはX会社から給与を受領していたほか、亡Dが死亡した あとは、経理業務を継続するほか、テナントの間の契約業務やビルの清掃業務等も行うようにな り、乙山税理士と相談の上、亡A及び亡Bが存命中のX会社の運用と同様に、株主総会を開催す ることなく、①貸しビル業の収益の範囲内で役員報酬を決めてその支払いを受けていたものであ り、役員報酬額も∼∼∼の範囲内にとどまっており、②Cも平成20年頃にはX会社において役員 報酬の支払いの事実があったことを認識していたが、③その当時は異議の申出には至らなかっ た。( iv )Cが実質的にX会社の経営を行うようになっていた平成23年9月には、同月事業年度の 役員報酬として、①C及びEに対しても役員報酬を支払い、②Yに対しても役員報酬を支払って おり、加えて、③決算報告書をもって自ら開催した定時株主総会において報告・承認をえていた ことが認められている(金判1437号54頁)。 会社内規等との関わりについては、以下の判決がある。 まず、(Ⅵ)大阪高裁平成16年2月12日判決は、「株式会社の取締役については、定款又は株主 総会の決議によって報酬の金額が定められなければ、具体的な報酬請求権は発生せず、取締役が 会社に対して報酬を請求することはできないところ、取締役の退職慰労金は、それが在職中の職 務執行の対価として支給されるものである限り、商法269条が規定する報酬に含まれるのである から、退職慰労金に関する支給規定が存する場合であっても、定款又は株主総会の決議によって 退職慰労金の金額が定められない限り、取締役が会社に対して退職慰労金を請求することはでき ないと解される・・・・。もっとも、株主総会の決議がない場合でも、たとえば株主総会の決議 に代わる全株主の同意があるなど、株主総会の決議があったと同視しうる特段の事情が認められ る場合には、会社が取締役に対して、株主総会決議がないことを理由に、退職慰労金の支給を拒 むことは信義則に反すると解される。・・・・・・イで認定した事実、ウ(ア)aで認定した本件 内規の文言に加えて、上記(ア)の説示及び商法269条(現会社法361条)が強行法規であること に鑑みれば、本件内規は、訴外会社の株主総会において、退職慰労金の支給金額、支給時期、支 給方法等を取締役会又は代表取締役に一任する旨決議された場合に適用されるべきものであり、 株主総会において、退職慰労金の支給金額等を具体的に決議した場合には、もはや本件内規を適 用する余地はないものと解されるから、本件内規は、退職慰労金を支給する旨の株主総会決議が ない場合に、本件内規は、退職慰労金を支給する旨の株主総会決議がない場合に、本件内規に基 づく退職慰労金を請求する権利を具体的に発生させるものではないというべきである。」とする
−64− (金判1190号38頁)。そして、(Ⅶ)東京高裁平成20年9月24日判決は、「控訴人においては、昭和 51年9月1日(平成7年6月1日改定)、退任した役員の退職慰労金について、本件退職慰労金内 規を制定し、遅くとも昭和57年5月以降は、控訴人の株主総会において、退職する役員について、 本件退職慰労金内規に従い、金額、時期、方法等については取締役会に一任するとの内容の退職 慰労金支給決議をし、これに基づく取締役会の決議により、各役位別年数に各役位別定額を乗じ た計算方法により算出された金額の退職慰労金(基本的退職金部分)を支給するという運用がな されていた。控訴人についても、本件定時総会において、従前同様、『会社内規に従い、金額、時 期、方法については後日開催する取締役会に一任する』との内容で本件退職慰労金を支給する旨 決議がされたのである。・・・・・・そうすると、本件定時総会において、会社内規(すなわち本 件退職慰労金内規)に従い退職慰労金を支給することを決めた以上、基本的退職金部分について は、自動的に算定され、取締役会には、その額を増やしたり、減らしたりするといった裁量の余 地はないことになるのである。すなわち、基本的退職金部分の支給は株主総会の決議により確定 的になったものということができる。(後は単に機械的に金額を計算する事務的作業が残るだけ である。)。取締役会が裁量判断をなし得るのは、主として、基本的退職金部分に上積みして功労 加算するかどうかという点(8条)と、退職慰労金は株主総会の決議後1か月以内に支払うとさ れているのを、当該取締役と協議の上、会社の業績等に照らして変更するかどうかという点(9 条)であったのである。なお、本件退職慰労金内規において退職慰労金は1か月以内に支払うと されている以上、支払時期の変更等の判断は、原則、株主総会の決議後1か月以内にすることを 要すると解すべきであり、特段の事情がある場合は別として、1か月以内に協議、変更がなされ ない限り、基本的退職部分の支給時期は株主総会の決議後1か月以内で確定すると解するのが相 当である。・・・・・・このように、本件退職慰労金内規の定め方に照らすと、本件退職慰労金決 議において取締役会の判断にゆだねた部分は、主として功労加算をするかどうかという点と1か 月以内に支給という原則を会社の業績等に照らして変更するかどうかという点にあったのであ り、基本的退職金部分は、取締役会の決定を待たず、支給することに確定したものと解されるの であるから、基本的退職金部分については、取締役会の決議を経ずとも、被控訴人と控訴人との 合意の内容になったというべきである(なお、このように解したとしても、会社法361条の趣旨目 的(取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害の防止)を潜脱することにならないこ とは明らかである。そもそも会社法は、取締役に対する報酬の支給につき株主総会の決議を要求 しているが、取締役会の決議を要件としているわけではないのであるから、株主総会の決議で内 容が確定し、取締役会でもはや変更できない部分まで、取締役会の決議を経なければ、内容が確 定せず、当事者間の合意の内容にならないと解する必要性はないのである。)」とする(判タ1294 号154頁)。 加えて、(Ⅷ)最高裁第二小法廷平成21年12月18日判決は、「上告人に対し退職慰労金を支給す る旨の株主総会の決議等が存在しない以上は、上告人には退職慰労金請求権が発生しておらず、 上告人が本件金員の支給を受けたことが不当利得になることは否定しがたいところである。しか し、前記事実関係によれば、被上告人においては、従前から、退任取締役に対する退職慰労金は、 通常は、事前の株主総会の決議を経ることなく、上記2(4)記載の支給手続によって支給され ており、発行済株式総数の99%以上を保有する代表者が決済することによって、株主総会の決議
−65− に代えてきたというのである。そして、上告人が、弁護士を通じ、平成18年3月2日付けの内容 証明郵便をもって、本件内規に基づく退職慰労金の支給をするよう催告したところ、その約10日 後に本件金員が送金され、被上告人においてその返還を明確に求めたのは、本件送金後1年近く 経過した平成19年2月21日であったというのであるから、上告人が、本件送金の担当者と通謀し ていたというのであればともかく、本件送金について被上告人代表者の決裁を経たものと信じた としても無理からぬものがある。また、被上告人代表者が、上記催告を受けて本件送金がされた ことを、その直後に認識していたとの事実が認められるのであれば、被上告人代表者において本 件送金を事実上黙認してきたとの評価を免れない。さらに、上告人は、上告人が従前退職慰労金 を支給された退任取締役と同等以上の業績を上げてきたとの事実も主張しており、上記各事実を 前提とすれば、上告人に対して退職慰労金を不支給とすべき合理的な理由があるなど特段の事情 がない限り、被上告人が上告人に対して本件金員の返還を請求することは、信義に反し、権利の 濫用として許されないというべきである。・・・・・・上記催告を受けて本件金員が送金されたこ とについての被上告人代表者の認識や上告人の業績等の事実について審理判断せず、上記特段の 事情の有無についても審理判断しないまま、被上告人代表者が民事再生手続開始の決定を受けて いることのみを説示して、本件請求が信義則に反せず、権利濫用にあたらないとして原審の判断 には、審理不尽の結果、法令の適用を誤った違法があるといわざるを得ず、この違法は判決に影 響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を 免れない。そして、信義則違反等の主張の当否について更に審理を尽くさせるため、本件を原審 に差し戻すこととする。」とする(金判1338号22頁)。 事実の概要(判旨指摘の支給手続等)は、以下の通りである(金判1338号22頁)。 被上告人は、その取締役会(昭和48年11月30日)において、役員の退職慰労金の算定基準等に 関する内規を定め、平成4年3月31日にはその改定を行った。そして、被上告人は、退任取締役 に対する退職慰労金は、通常、事前の株主総会の決議を経ることなく、発行済株式総数の99%以 上を保有する代表者が決済することによって、株主総会の決議に代えてきたものである。具体的 には、次の手続により支給していた。 ( i )代表取締役は、経理部の担当者に対し、当該取締役に支給すべき退職慰労金の額の算定 を指示する。 ( ii )代表取締役は、経理部担当者が本件内規に従って算定した退職慰労金の額を確認し、そ の支給について決済する。 ( iii )代表取締役は、上記退職金を当該取締役に送金するよう改めて指示する。 ( iv )代表取締役は、時期の定時株主総会において、支給済みの退職慰労金の額を退任取締役 ごとに明らかにして、計算書類の承認を受ける。 ただ、本件の場合、被上告人代表者は、平成18年2月ころ、上告人に対し、退職慰労金を支給 しない意向を告げている。そこで、上告人は、弁護士を通じ、内容証明郵便をもって、本件内規 に基づく退職慰労金の支給を被上告人に催告した。被上告人は、本件内規に従って算定された額 を送金したが、本件送金は、株主総会の決議も、被上告人代表者の決済も経ずにされたものであ る。本件送金後に開催された定時総会株主総会において承認を受けた計算書類においても、上告 人に対して支給された退職慰労金の額は明らかにされていない。
−66− 4.むすびにかえて 周知のように、指名委員会等設置会社においては、報酬委員会において、執行役等の個人別の 報酬等の内容を決定することとなっている(会404条3項)。報酬委員会は過半数の社外取締役で 構成され(会400条3項)、執行役等の個人別の報酬等の内容に係る決定に関する方針を定めなけ ればならない(会409条1項)。そして、報酬委員会は、この方針に従い個人別報酬等の内容を決 定する(会404条3項、409条2項、3項)。これらは、執行役等の合理的な報酬システムの構築と 執行役等の業績の報酬への反映、そして、株主との利害調整を図るところにその趣旨があるとさ れる(江頭 前掲書563頁注1)。 監査等委員会設置会社の場合、委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、取締役の 選任・解任・辞任、取締役の報酬等について意見を述べることができる(会342条の2第4項、361 条6項)。委員会の権限としての意見陳述権であるが、これは監査を超える役割を期待してのこ とといえる。ただ、この意見陳述権は「監督というほどのものではない」とされる(稲葉威悠 「平成26年会社法改正を考える」 法時1078号68頁)。すなわち、監査等委員会はその意見の決定 に関し、取締役に対し、委員会に出席して説明をするよう求める権限を有するが(会399条の9第 3項)、監査等委員の権限は意見陳述権であり、決定権ではない(江頭憲治郎 「会社法改正によっ て日本の会社は変わらない」 法時1078号64頁)。加えて、この監査等委員会設置会社の利用は、 中小の上場会社に限られるであろうとの認識が示されている(江頭 前掲 法時1078号63頁)。 確かに、企業統治は主に株式会社、それも社会的影響の大きい規模の大きな会社において話題 とされる。企業統治の目的は、経営の効率性と健全性を確保し、企業の持続的な発展を図ってい くことにある。確かに、株主は出資者であり、株式会社の支配者であり、当然に利益追求者と いってよいであろう。ただ、経営を担当するか否かについて、会社法は原則所有と経営の分離を 唱えている(会331条2項)。例外は、公開会社でない株式会社に認められる(会331条2項但書)。 本稿で取り上げてきたケースは、実態として公開会社でない株式会社の例である。それも、個 人企業ないしは同族企業にある。所有と経営の一致、所有と支配の一致が見られる。そこで、取 締役の報酬についても、その実態から、特に会社法361条の規定の趣旨から、何らかの形での株主 全員の合意があれば、総会決議があったものとしての取り扱いにある。その取り扱いをもって、 お手盛りの弊害は防止されるとの理解に導くものである。具体的には、前掲、( i )個人事業とし て開始した溶接所を会社組織化した、同族経営の会社で、総会も開かれたことはないが、実質的 な株主全員による決議があったものとされた事例(大阪高裁平成元年12月21日判決 判時1352号 143頁)、( ii )実質的な株主が一人しかいない、いわゆる一人会社の、唯一の株主の意思によって 決定が行われた事例(東京地裁平成3年12月26日判決 判時1435号134頁)、( iii )代表取締役を中 心とする同族会社で、株主も同人の影響下にあり、ワンマン会社で、総会や取締役会の決議事項 されている事項等も総会や取締役によることなく同人において通常行われている意思決定の方法 で決定されている事例(京都地裁平成4年2月27日判決 判時1329号133頁)、( iv )株主総会の 決議事項について株主総会に代わり意思決定する等実質的に株主権を行使して会社を運営する株 主が唯一一人で、株主総会の決議でなすべき事項がすべて代表取締役によって意思決定されてき た事例(東京高裁平成7年5月25日判決 判タ892号236頁)、( v )役員報酬が支払われた当時、
−67− 株主総会の不開催にも異議を述べない経営に関心のない株主(実質的な株主とはいえない株主) も含め、株主総会を開催することなく一定の役員報酬が支払われていたことを認識、許容してい た場合に、実質的に株主全員の同意があったとされた事例(東京地裁平成25年8月5日判決 金 判1437号54頁)、( viii )事前の株主総会の決議によることなく、内規に従い、発行済株式総数の 99%以上を保有する代表者が決済する会社において、送金につき、代表者の事実上黙認をもって 株主総会の代えうるとした事例(最高裁平成21年12月18日判決 金判1338号22頁)等がある。そ して、( vi )株主総会の決議がない場合に、内規に基づく報酬の請求権は発生していないとする 事例(大阪高裁平成16年2月12日判決 金判1190号38頁)、( vii )会社内規に従った支給を取締役 会に一任した場合においても、株主総会の決議で内容が確定していたとき、取締役会の決議を必 要とするものではないとする事例(東京高裁平成20年9月24日判決 判タ1294号154頁)等である。 これらケース等からみていくと、中小零細規模会社において、株主総会の決議ないところから、 会社による法のゆがんだ利用が懸念される側面がある。例えば、一部株主・取締役の専横による 一方的な報酬の減額や不支給、意図的に役員報酬の支給案を株主総会に上程しない、株主総会・ 取締役会で報酬額等を決議することなく放置したり等、あるいは不支給議案を可決する等であ る。また、支給された報酬の返還を求めたりとする等である。これらは、取締役間における公平 感の喪失、意欲・監視機能の低下、事実上の解任・辞任等へと繋がることの可能性を示唆する。 会社の統治機構そのものにも大きな影響を与えてくるものといえる。取締役の保護に基づく、会 社経営の効率性と健全性の確保、その持続的な発展は、中小零細規模の会社においても当然求め られているものと理解する。 詳細等については、今後の検討課題としたい。