博 士 ( 農 学 ) 当 真 要
学 位 論 文 題 名
農地から発生する亜酸化窒素の年次変動に関する研究 学位論文内容の要旨
二 酸化 炭素(C02)の298倍 の 温室 効果 を持 つ亜 酸化 窒素(N20)は、 農地 から の発 生量が人為 起源発生量の約42%(2.8 TgNyf1)を占める。しかし1.7〜4.8 TgNyr"の大きな不確実性があり、
発生量の正確な定量が求められている。農地からのN20発生量の見積もりには、排出係数(Emission FactorEF)がよ く用いられている。従って本研究では北海道三笠市のたまねぎ畑における長期モニ タリ ングからN20発生量の定量およびメカニズムを明らかにし、EFを用い たN20発生量の年次変 動推定モデルの構築とその精度を検討した。また作成したモデル式を用い、将来の気候変動がN20 発 生 量 に 与 え る 影 響 お よ び 幾 春 別 川 流 域 の 農 地 か ら のNz0発 生 に つ い て 検 討 し た 。
1. たま ねぎ 畑2圃場 ( グラ イ低 地土GL, 褐色 低地 土BL)に4処理区(FOP:化学肥料施与・有機 物施与・作 物栽培、F:化学肥料施与・無栽培、OP:有機物施与・作物栽培、C:無施肥・無栽培)
を設けた。 クローズドチャンバー法を用い、各処理区からのN20発生量のモニタリングを行った (GLで5年 間 、BLで2年 間 )。 化学 肥料 窒素 くN)の 投入 量はGLで237 242 kgNhIlyrIであ り、
BLで284お よ び184kgNhlyrlで あ っ た 。 ま た 有 機 態 窒 素 の 投 入 量 はGLで81〜117kgNhflげ1 で あり 、BLで181およ ぴ675kgNhIIげ1で あっ た。 化 学肥 料および有機 物のEF(それぞれEFc、 EF0)は以下の式から求めた。
EFc( % ) 气 FOP区 の N20発 生 量 ー OP区 の N20発 生 量 ) /f匕 学 肥 料 N投 入 量xl00 EFd% ・ ) 气 FOP区 のN20発 生 量 一 F区 の N20発 生 量 ) / 有 機 物N投 入 量 ×loo EI℃およぴEIbともに大きな年次変動が確認された。EfIcはGLでl132〜5.50%、BLで1.30および 1.54%であった。GLでのEFcと年平均気温との有意な正の相関から(PくO.Ol)、投入した化学肥料N から生じるN20の割合が気温の上昇に比例することが示唆された。EFoは(也では‐5.22〜9.06%、
BLでは1.51および‐1.51%であった。説明変数聞の共線性の問題からGLのみのデータでおこなっ た重回帰分析の結果から、EFoは年平均気圧およぴ年降水量に正の影響を受けており¢く0.Ol)、よ り 湿潤 な環 境で 投入 し た有 機物Nから生じ るN20の割合が増加すること が示唆された。これら2 つ のEF値 と 化 学 ・ 有 機 態N投 入 量 を 用 い て 求 め たGLのFOP区のN20発生 量 は実 測値 と良 く一 致しており 、EFの年次変動のモデル式を用いてN20発生量の年次変動を予測できる可能性が示さ れた。一方 でBLでは実測値とのずれがあり、気象因子のEFloに対する影響が圃場によって異なる 可能性があった。IPCC(2007)は将来の年平均気温と降水量の変化を予測している。本調査地では年 平均気圧と年降水量に有意な負の関係が見られたことから(Pくo.01)、将来の気候変動の影響を予 測できるように年平均気圧を年降水量で変換したモデル式を作成した。
2.土壌有機物由来のN20発生(BacIqgroundN20発生)の調査を行った。5m×8mの裸地区(無施肥、
―948―
無栽 培)を設 け、2000年、2002〜 2006年の6年間のN20発生量をクローズドチャンバー法を用い て 測 定し た。N20フラッ クスは毎 年7月 後半か ら10月にか けて上 昇した。 全ての 年でN20とC02 フラ ックスと の正の 相関が確認され、土壌有機物分解がN20生成に大きく寄与していることが示 唆 さ れた 。高いN20フラ ックスはN20‑N/NO‑Nが100以上で 見られ、 かつWFPS(waterflnedpo陀 space)が50〜60%の範囲にあったことから、N20が主に脱窒過程で生成されかつ主要な生成物で あったと考えられた。平均の年間B恥kgm珊dN20発生量は5.27kgNhオlザ1(不確実性:78.1%)
であ った。こ の値は 日本の森 林土壌のN20発 生量より 大きく 、B卸kgmundN20発生が農業活動に 起因 する発生 量とし て無視で きない量 である と考えられた。単回帰および重回帰分析の結果、
B鄒kgmundN20発生は年平均気圧に負の影響を受けていた(′ち.96,Pくo.05)。作成したモデル式か ら求 めたB批趣mmdN20発 生量の計 算値は 実測値と よく一 致してお り、年次 変動を気象データか ら求めることが可能と考えられた。また年平均気圧と年降水量の有意な相関から、年平均気圧を年 降水量に変換したモデル式を作成した。
3.異な るC:N比 の作物残渣が土壌発生するN20に与える影響をフイールド条件下で調査した。た まねぎの葉(OL)、大豆の茎葉(SSL)、稲わら(RS)、麦わら(WS)の4処理区と対照区(NR)を設けた。
それぞれの残渣のC:N比は11.6、14.5、62.3、110であった。残渣の投入量は農家への関き取り調 査 に基づぃ て決定 し、炭素(C)とNの投 入量はそ れぞれ108、168、110、141、0gCnl.2と9.3、 11.6、1.76、1.28、OgN m‑2であった。クローズドチャンバー法でN20、C02フラックスを測定した。
OL区 とSSL区の み で 残渣 投 入 直後 にN20とC02フ ラック スのピー クが見ら れた。WS区を除き 、 Nz0とC02フラッ クスに有意な相関があった。投入残渣NあたりのN20発生割合(EFRN20)は‑0.43%
‑0.86%で、 残渣のC:N比と有意な負の相関を示した(r2‑0.99,p‑0.01)。投入残渣CあたりのC02 発生割合(EFRC02)は‑5.8%‑45%で、残渣のC:N比と負の傾向を示した(〆=.78,卩め,11)。このこ と か ら易分解 性の残 渣ほど残 渣Nに 由来す るN20発 生量の 増加が明 らかとな り、残 渣C:N比か らEFRN20の推定が可能と考えられた。
4.EFとBackgmundN20発生 量の年 次変動モ デルを 組み合わせた農地からのN20発生量の推定モデ ルを作 成した。 推定し たN20発生量は比較的実測値に近い値を示したが、不確実性は極端に大き かった2003年の値を除いても170%と大きかった。本研究で作成した年平均気温と年降水量を変数 と した モ デル式とmCC(2007)の気温 および 降水量の 予測値 を用いてGLにおけ るN20発 生量を 試算した所、2100年には1980〜1990年の13.7倍に増加する可能性がある。また、幾春別川流域の 農耕地 全体のN20発生 量を試算 した所 、2002年から2005年にか けて流 域のN20発生量は3.87Mg N増 加してい た。水 田から他 の作物 への転換 や休耕地面積の増加が流域のN20発生量増加の一因 と考え られた。 またN20発生量 の寄与 が大きい たまねぎ畑や穀類およぴ休耕地におけるN20発生 量削減 方法の開 発は、 今後の気候変動に対する流域レベルのN20発生量の増加抑制もしくは削減 に効果的であると考えられた。
―949一
学位 論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 准教授
波多野 平野 長谷川 中原
学 位 論 文 題 名
隆介 高司 周一 治
農地から 発生す る亜酸化 窒素の 年次変動に関する研究
本 論 文 は9章 か らな り 図36、 表20、 引 用文 献100を含 む99ぺージ の和文 論文であ り、他 に 参考論文4編が添えられている。
温 室 効 果ガ ス で ある 亜酸 化窒素(N20)は農 地から の発生量 が人為起 源発生 量の約42% を占 めてお り、より 正確な 定量が求 められている。本研究では北海道三笠市のタマネギ畑における モニタリングからN20発生量の定量とメカニズムを明らかにし、排出係数(Emission Factor,EF) を用い たN20発 生量の 年次変動 推定モ デルの構 築とその 精度を 検討した。さらに将来の気候変 動 がN20発 生 量 に 与 え る 影 響 お よ び 幾 春 別 川 流 域 の 農 地 のN20発 生 に つ い て 検 討 した 。 タ マ ネ ギ畑2圃 場( グ ラ イ低 地 土GL 褐 色低 地 土BL)に4処理 区(FOP: 化学 肥料 施与・ 有 機物施 与・作物 栽培、F:化学肥料 施与・ 無栽培、OP:有機 物施与・ 作物栽 培、C:無施 肥・無 栽 培) を 設 け、N20発 生 量をGLで5年間 、BLで2年間測 定した。 化学肥 料と有機 物のEF(EFc、 EFo)は次の式から求めた。
EFc(% ) (FOP区N20発 生 量 ―OP区 のN20発 生 量 ) ノ イ 匕 学 肥 料 窒 素(N)投 入 量xioo EFo(% ) (FOP区 N20発 生 量 ― F区 の N20発 生 量 ) / 有 機 物 N投 入 量 Xioo そ れぞ れ の 処理 区 のN20発生量に は大き な年次変 化があ り、その ためにEFc、EFo共に大 きな 年次変動が確認された。GLのEFcと年平均気温の有意な正の相関から(Pく0.01)、化学肥料N由 来のN20の割合 が気温 上昇に比 例する ことが示 唆された 。重回 帰分析よ りEFoは年平均 気圧と 年降水量に正の影響を受け(尸くO.01)、より湿潤な環境で有機物Nに由来するN20割合の増加が 示 唆さ れ た 。モ デ ル 式を 用 い て求 め たGLのFOP区 のN20発 生 量は 実 測 値と 良 く一 致し、N20 発生量 の年次変 動を予 測できる 可能性 が示され た。BLの 計算値と 実測値と のずれ から気象因 子のEFoに対する影響が圃場で異なる可能性があった。
土壌有 機物由来 のN20発生(Background N20発生 )の調査 を行った 。裸地 区(無施 肥、無栽 培 )を 設 け 、2000、2002丶‑2006年の6年間のN20、C02発生量 を測定 した。全 ての年 でN20と C02フ ラックス の正の 相関があ り、土 壌有機物 分解のN20生成 に対する 大きな 寄与が示 唆され た。高 いN20フラックスは主に脱窒過程で生成されかっ主要な生成物と考えられた。Background N20発 生量は平 均5.27 kgNha‑l yr"で森林土壌での報告値より大きく、農業活動に起因する発 生量と して無視できなぃ量と考えられ、また年平均気圧に負の影響を受けていた(戸=0.96,
ー 950 ‑
PくO.05)。 モ デ ル式 から 求め た 計算 値は 実測 値と よ く一 致し てお り、 年 次変 動を 気象 デ ータ から 求めることが可能と考えられ た。
異 な るC:N比 の 作 物 残 渣 が 土 壌 か ら 発 生 す るN20に 与 え る 影 響 を フ ィ ー ル ド 条 件 下 で 調 査 し た 。 タ マ ネ ギ 葉(OL)、 ダ イ ズ の 茎 葉(SSL)、 稲 わ ら(RS)、 麦 わ ら(WS)の4処 理 区 と 対 照 区(NR) を 設 け 、N20、C02フ ラ ッ ク ス を 測 定 し た 。 残 渣 の 投 入 量 は 農 家 へ の 聞 き 取 り 調 査 に 基 づ ぃ て 決 定 し 、 そ れ ぞ れ の 残 渣 のC:N比 は11.6、14.5、62.3、110で あ っ た 。WS区 を 除 きN20と C02フ ラ ッ ク ス に 有 意 な 相 関 が あ っ た 。 投 入 残 渣Nあ た り のN20発 生 割 合(EFRN20)は ‐O.43%
〜0、86% で 、残渣 のC:N比と有意な負の相関を 示した(ヂ=O.99,Pく0.01)。また、投入残渣Cあた りのC02発生割合(EFRC02)は‐5.8%〜45%で、残渣のC:N比と負の傾向を示した(r2=O.78,P=O.11)。
こ の こ と か ら 易 分 解 性 の 残 渣 ほ ど 残 渣Nに 由 来 す るN20発 生 量 の 増 加 が 明 ら か と な り 、 残 渣 C:N比からEFRN20の推定が可 能と考えられた。
IPCC(2007)は 将 来 の 年 平 均 気 温 と 降 水 量 の 変 化 を 予 測 し て い る 。 本 調 査 地 の30年 間 の 年 平均 気 圧 と 年 降 水 量 に 有 意 な 負 の 関 係 か ら(Pく0.01) 、 年 平 均 気 圧 の 項 を 年 降 水 量 で 変 換 し たEFと Background N20発 生 量 の モ デ ル を 組 み 合 わ せ て 農 地 のN20発 生 量 推 定 モ デ ル 式 を 作 成 し た 。 IPCC (2007)の 気 候 変 動 の 予 測 値 を 用 い ( 氾 のN20発 生 量 を 試 算 し た 所 、2100年 に は1980年 代 の13.7倍 に 増 加 す る 可 能 性 が あ っ た 。 ま た 、 幾 春 別 川 流 域 の 農 耕 地 全 体 のN20発 生 量 は2002 年 か ら2005年 に か け て3.87 MgN増 加 し て い た 。 こ の 一 因 と し て 、 水 田 か ら 他 の 作 物 へ の 転 換 や 休 耕 地 面 積 の 増 加 が 考 え ら れ た 。 ま た タ マ ネ ギ 畑 や 穀 類 、 休 耕 地 のN20発 生 量 削 減 方 法 の 開 発は、流域レベルでのN20発 生量の増加抑制や削減に効果 的と考えられた。
以 上 の よ う に 、 本 研 究 は 、 農 地 土 壌 か ら のN20発 生 量 の 時 間 変 動 の 要 因 を 解 析 し そ の 削 減 に つ い て の 方 向 性 を 検 討 し た も の で あ り 、2007年 度 土 壌 肥 料 学 会 優 秀 ポ ス タ ー 賞 を 受 賞 す る など 関 連 学 会 に お い て も 高 く 評 価 さ れ て い る 。 よ っ て 審 査 員 一 同 は 、 当 真 要 が 博 士 ( 農 学 ) の 学位 を受けるに十分な資格を有す るものと認めた。
―951―