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実験的歯科矯正における歯槽骨の 適応変形に関する生体力学的研究

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 西 平 守 正

     学位論文題名

実験的歯科矯正における歯槽骨の 適応変形に関する生体力学的研究

学位論文内容の要旨

  骨は周り のカ学的な環境の変化に適応して,その構造を変化させることが知られており,

この現象は 骨の適応変形あるいはりモデリングと呼ばれている.歯 科矯正治療の際に見ら れる歯の移 動は,矯正カに対する歯槽骨の適応変形の結果としてあらわれる.このとき,歯 と歯槽骨と の間に存在する歯根膜内に,破骨細胞・骨芽細胞が出現 し,骨の吸収・添加が 行われる. これら細胞の出現を誘導する主因子として,矯正カによ って生じる歯周組織内 の応カが指 摘されている.歯槽骨の適応変形に関するカ学的条件を明らかにすることは,最 適矯正カの 解析のみならず生体力学的観点からも重要である.本研 究では,歯科矯正時の 歯根膜内に おける破骨細胞出現部位と,矯正カによって生じる応カ との対応関係を定量的 に検討する ことを目的としている.

  歯周組織 内の応力解析を精度良く行うためには,歯根膜の材料定 数を適切に設定するこ とが重要で ある.歯根膜の材料定数に関しては,実測に基づく報告例がほとんどないため,

歯根膜の荷 重試験を行える装置を試作し,ネコ歯根膜を試料として 引張および圧縮試験を 行った,そ の結果,歯根膜の応力一ひずみ曲線は顕著な非線形性を 示し,圧縮試験におい てはひずみ 速度に大きく依存したが,引張試験ではひずみ速度に依 存せず,試験法によっ て顕著な違 いが見られた,準静的な条件下(0.005 %/s)における応力負荷が25 kPa以下での歯 根 膜の 引張 およ び圧 縮 の弾 性率 はそ れぞ れ,0.37土0.11,0.079土0.017 MPaであった.

  ネコ上顎 犬歯を対象歯とし,歯科矯正実験を行った後,歯根横断 組織切片を作成し,破 骨細胞分布 を観察した,その結果,比較的特定の部位に破骨細胞が 出現する様子が観察さ れ,細胞の 出現部位と応カとの対応関係を検討するためには,歯根 膜の微細な形状が考慮 された有限 要素モデルを作成する必要があることが示唆された.そ こで本研究では,破骨 細胞との対 応付けには組織切片の顕微鏡写真から作成した二次元有限要素モデルを使用し,

二次元モデ ルの荷重条件の決定には,歯根膜の微細な形状を簡略化 した三次元有限要素モ デルを使用 して解析した.

    ‑ 742 ‑ー

(2)

  従 来,歯周組織内の有限要素解析では,歯根膜を均一な材 料としていたため,ヤング率 設定 値の応力解析結果への影響は少ないとされていた.しかしながら,本研究の実測によっ て, 歯根膜の弾性率は圧縮に比較して,引張が5倍程度大きい値を持つことが示され,この 値の 相違による効果が計算される応力値に与える影響は,無視し得ないことが明らかとなっ た. さらに,歯根膜のポアソン比が解析結果に与える影響に関して検討した結果,通常,生 体軟 組織のポアソン比として設定される0145から0.49までの 範囲内で,計算される応力値 が大 きく変化することがわかった.そこで,歯根膜圧縮時の体積変化を測定したところ,体 積減 少を生じ,非圧縮性として扱えないことが見出され,実 効的にポアソン比が0.5よりも 小さ な値となることが示唆された,

  顕 微鏡観察によって確認された破骨細胞出現部位と,有限 要素解析によって得られた応 力分 布を比較したところ,破骨細胞と歯根膜内の最小主応カ の空間的分布には比較的明確 な対 応関係がみられた.歯根膜圧縮部位のポァソン比を0.45とした場合,破骨細胞が存在 す る部 位 の応 力値 を読 み取ると,個体,矯正条件によらず,最小主応力 値の4 kPa付近で 破骨 細胞が最も多く出現することが明らかとなった.破骨細 胞は造血幹細胞に由来する細 胞で ,歯根膜内への出現・活動には血流の存在も重要であり,血流が存在するためには,応 力値 は大きくても動脈圧(‑13 kPa,IOO mmHg)程度でなければならない.したがって,破骨 細胞 は歯根膜が血流を阻害しない程度の圧縮を受ける部位に 出現し,そのカ学的条件は歯 根 膜内 の 最小 主応 力値 が4 kPa程度の部位で あると結諭づけられる.しかし,歯根膜を非 圧縮 性と仮定し,ポアソン比を0.49とすると,破骨細胞出現部位の最小主応力値は−20 kPa

(150 mmHg)程度となる可能性も 残された.

  従 来より,歯科矯正時の歯周組織の組織学的変化と応カの 問には対応関係があることが 指摘 されていたが,定性的な検討にとどまってた.本研究で は,組織切片対応の有限要素 モデ ルを用い,破骨細胞の出現部位と応力値とを対応付ける ことによって,細胞レベルで 定量 的に検証し得る手法を提案できた.本研究で得られた結 果は,歯を効率的に移動させ る最 適矯正カの解明にとどまらず,骨のカ学的適応現象を検 討する上でも有用であると考 えら れる.

(3)

学位論文審査の要旨

     学位論文題名

実験的歯科矯正における歯槽骨の 適応変形に関する生体力学的研究

  骨はカ学的な環境の変化に適応して,その構造を変化させることが知られており,歯科 矯正治療時に見られる歯の移動は,矯正カに対する歯槽骨の適応変形の結果としてあらわ れる.歯科矯正時に破骨細胞・骨芽細胞によって歯槽骨の吸収・形成が行われ,適応変形 を生じるが,そのカ学的条件に関して定量的には明らかにされていない,このような歯移 動のカ学的条件の解析は,臨床的に有用であるばかりではなく,骨のカ学的適応変形のメ カニズムを解明する上でも重要である,本論文は,特に歯槽骨の適応変形における骨吸収 に着目し,破骨細胞出現部位のカ学的条件に関して生体力学的観点から論じており,8章よ り構成されている,

  第1章では,序論として,本研究の目的について述べている.

  第2章では,歯科矯正および骨の適応変形に関する生理学的背景に関して概説し,研究 の背景ならびに従来より試みられてきた歯周組織内の応力解析の手法と問題点について明 ら かに する ことで, 本研究の位 置づけ, およびそ の必要性 について 述べてい る,

  第3章では,実体顕微鏡下で測定可能な小型の引張・圧縮試験装置を開発し,歯周組織 内の応力解析で必要となる歯根膜弾性率の測定を行っている.ネコ歯根膜を試料として引 張および圧縮試験を行った結果,歯根膜の応力―ひずみ曲線は顕著な非線形性を示し,圧 縮試験ではひずみ速度に大きく依存したが,引張試験ではひずみ速度に依存せず,試験法 によって顕著な違いが見られることを明らかにしている,また,歯科矯正治療条件に対応 する準静的条件下の応力負荷25 kPa以下の範囲では.歯根膜の引張および圧縮の弾性率は そ れ ぞ れ ,0137土0.Il.0.079土0.017 MPaで あ る こ と を 提 示 し て い る .     ―744―

之 夫

猛 將

   

本 澤

野 川

(4)

  第4章で は, 歯根 膜ポ アソン比の測定の可能性に関して述べている .歯根膜は圧縮時に 体積減少を生じ,非圧縮性として扱えないことを見出し,実効的にポアソン比が0.5よりも 小さな値となることを示唆する結果を得て おり,これより有限要素解析で設定すべき実効 的なポアソン比に関して検討している.

  第5章で は. ネコ 犬歯 を対象とした歯科矯正実験の実験手順を述ぺ るとともに,組織切 片の所見について述べている.破骨細胞が 比較的特定の部位に出現することから,細胞の 出現部位と応カとの対応関係を検討するた めには,組織切片対応の微細な形状が考慮され た有限要素モデルの作成が必須であること を見出している.

  第6章で は, 歯科 矯正 実験に対応した有限要素モデルによる応力解 析について述べてい る.解析のための条件設定,モデルの作成 方法について述べた後,解析結果およびその妥 当性について検討している.歯根膜を線形 な均一材料として取り扱ってきた従来の歯周組 織有限要素解析とは異なり,歯根膜の引張 と圧縮の弾性率の相違が解析結果に大きく影響 することを明らかにしている.

  第7章で は, 組織 切片 の顕微鏡観察によって得られた破骨細胞出現 部位と,有限要素法 による応力解析の結果とを比較し,対応関係の有無に関して検討している.破骨細胞と歯根 膜内の最小主応カの空間的分布には比較的明確な対応関係があることを初めて見出し,歯根 膜圧縮部位のポアソン比を0.45とした場合,個体,矯正条件によらず,最小主応力値の4kPa 付近で破骨細胞が最も多く出現することを 明らかにしている,

  第8章で は, 本研 究で 得られた各章の成果を総括するとともに,組 織切片対応の有限要 素モデルを用い,破骨細胞の出現部位の応 力解析を行うことによって,骨の適応変形を生 じるカ学的条件に関して,細胞レベルで定 量的に検証し得る手法を提案できたと結論づけ ている.

  このように本論文は,これまでほとんど 明らかにされていなかった歯根膜のカ学的特性 を明らかにするとともに,骨のカ学的適応 変形に関して,そのカ学的条件を細胞レベルで 検証し得る手法の提案を行ったものであり ,生体力学の分野に貢献するところ大である.

  よ って 著者 は, 北海 道大 学 博士 (工 学) の学 位を授与される資格 あるものと認める.

参照

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