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水辺緩衝空間の保全に関する基礎的研究 学位論文内容の要旨

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(1)

学 位 論 文 題 名

博 士 ( 農 学 ) 吉 井 厚 志

水辺緩衝空間の保全に関する基礎的研究

学位論文内容の要旨

  日 本の 治 水対 策 は、 効 率的 に 経 済的 に 被害 を 軽減 す ることを めざ して 進 めら れ てき た が、 近 年水 辺 空間 の 環境 上 の 意義 がク ローズァ ップ さ れる よ うに な り、 治 水対 策 を進 め る上 で も 環境 保全 の努カが 強く 求 めら れ るよ う にな っ た。 ま た、 環 境保 全 が 治水 対策 のーつの 目的 で ある と いう 積 極的 な 認識 も なさ れ るよ う に なり てき た。しか し、 限 られ た 水辺 空 間に お いて 、 治水 上 の効 果 と 環境 保全 を両立さ せる こ とは 困 難な 場 面も 多 いの が 実状 で ある 。 そ こで 本論 文では、

水辺 の 空間 的 な広 が りの 意 義を 論 じ、 治 水対 策 と 環境 保全 のため、

水辺 緩 衝空 間 を確 保 し有 効 利用 す るこ と の重 要 性 を明 らか にした。

そレ て 、水 辺 の面 的 な広 が りと そ の上 の 空間 を 合 わせ たオ ープンス ペー ス を水 辺 空間 と 表現 し 、そ の 空間 の 概念 に は 社会 共通 資本とし て多様な価 値が含まれ ると考えた 。

  第1章 で は 、 本 研 究 の目 的 と方 法 、そ し て 研究 対 象に つ いて 述 ぺ た。研究項 目は、流域 発展と水辺 空間、水辺 空間と生産 ・生活空間、

水辺 緩 衝空 間 指標 、 水辺 緩 衝空 間 の保 全 ・再 生 、 水辺 緩衝 空間の緑 地 造 成 の5っ で あ る 。 研 究対 象 流域 と して は 北海 道 の石 狩 川 、豊 平 川、 釧 路川 、 戸蔦 別 川、 そ して 開 発途 上 流域 と し てビ ェン チャン〜

メコ ン 川( ラ オス ) 、ハ ノ イ〜 紅 河( ベ トナ ム ) 、マ ニラ 〜パシグ

・マ リ キナ 川 (フ ィ リピ ン )、 高 危険 度 流域 と し て十 勝岳 とマヨン 火山 の 上流 域 を取 り 上げ た 。ま た 、緩 衝 空間 を 比 較す る上 で、北海 道内の一級 河川13流域と 、関東・中 部地方の利 根川、荒川 、鶴見川、

庄内川、木 曽川のデ一 夕を用いた 。

  第2章 で は 、 北 海 道 の流 域 の発 展 に伴 い 土 地利 用 が高 度 化し 、 水 辺空 間 が減 少 して き た実 態 を表 レ た。 石 狩川 流 域 では 捷水 路事業等 によ り 湿地 が 農地 や 市街 地 とレ て 利用 で きる よ う にな った が、水辺 空間 が 減少 し てき た 。釧 路 川で は 釧路 湿 原を 遊 水 地と して 利用する こと に より 、 水辺 空 間が 比 較的 確 保さ れ てき た 。 豊平 川、 戸蔦別川

(2)

に お いて も 水 辺 空 間 が減 少し 、それ に伴 い問 題とな った 土砂 災害 を 軽 減 する た め 、 砂 防 事業 によ る空間 確保 が行 われて いる 。過 去50年 間 の 水辺 空 間 の 減 少 率を 表す と、水 田・ 都市 流域( 石狩 川下 流・ 豊 平 川 上流 ) が70% 、 畑地 流域 (戸蔦 別川 )が50%、 草地 流域 (釧 路 川)が30%であった。

  第3章で は 、 開 発 途 上 流 域 と 高 危険 度 流 域 に お け る水 辺空 間利 用 の実 態を表 し、 水辺 空間 と生産・生活空間の関係について検討した。

ま ず 、き び し い 条 件 の中 で治 水対策 が続 けら れてい る東 南ア ジア に お い て、 水 辺 空 間 が 適切 に確 保でき てい ない ため、 頻繁 に洪 水被 害 を受 け、環 境保 全上 の問 題が大きくなっている実態を明らかにした。

メ コ ン川 の 中 流 部 に 位置 する ラオス の首 都ビ ェンチ ャン 、紅 河の 右 岸 に 輪中 に 囲 ま れ て 発展 して きたハ ノイ 、フ ィリピ ンの 首都 マニ ラ は 、 頻繁 に 洪 水 被 害 を被 ると ともに 、土 地利 用や水 質汚 濁な どの 問 題 が 大き く な っ て い る。 また 、十勝 岳や マヨ ン火山 など 、頻 繁に 激 甚 な 自然 現 象 の 影 響 を受 ける 流域で は、 土地 利用は 制限 され る状 況 にあ り、そ のよ うナ ょ場 所でも水辺空間の果たす役割は大きい。そし て 、 各流 域 の 水 辺 空 間と 生産 ・生活 空間 の重 複率を 用い て、 流域 に お け る環 境 保 全 や 土 地利 用上 の問題 が表 現で きるこ とを 明ら かに し た 。 開発 途 上 流 域 に おい ては 、水辺 空間 の60%以上 が生 産・ 生活 空 間と して利 用さ れて いる 。水辺空間利用パ.夕ーンを「共存利用型」

( 重 複率60% 以 上 ) 、「 区分 利用型 」( 重複 率20% 以下 )に 分け 、 そ の 間に あ る 高 危 険 度流 域は 利用が 限ら れて いるこ とか ら、 「限 定 利 用 型」 ( 重 複 率20〜60%程 度)と した 。い ずれの パタ ーン も健 全 な 流 域 の 発 展 の た め に は 、 水 辺空 間 の 確 保 と 保 全 が 重 要 であ る 。   第4章で は 、 水 辺 の 緩 衝 空 間 の 存在 意 義 を ま と め 、氾 濫空 間と 緩 衝 空 間の 面 積 を 量 的 に評 価す ること によ り、 流域の 安全 度と 環境 保 全の 状態を 表す 指標 とす ることを提案した。水辺緩衝空間の意義は、

大 き く治 水 機 能 と 環 境 機 能 の2つ に分 け ら れ 、 洪 水 や土 砂氾 濫の エ ネ ル ギー を 緩 和 す る とと もに 、自然 環境 と生 産・生 活空 間を 穏や か

,に繋ぐ機能を持つ空間として位置づけられる。その意義を表すため、

ま ず 想 定 さ れ る 洪 水 氾 濫 面 積 を用 い て 流 域 に お け る 氾 濫 空間 を 表 現 し 、氾 濫 を 弱 め る ため に設 定され た水 辺空 間を緩 衝空 間と した 。 そし て、 流域 面積 (S)、 氾濫 空間面 積(D)、緩 衝空間面積(B) か ら 、 そ の 比 率 で あ る 氾 濫 空 間率 (D/S)、 緩 衝 空 間 率 (B/S)ヾ 緩 衝能 (B/D) を緩 衝空間 指標 とし て提示 した 。こ こで 、緩衝能(B/D) は 将 来の 安 全 度 向 上 の余 地の 程度を 表す 指標 という こと がで きる 。   第5章 では 、緩 衝空間 指標 を用 いて、 流域 を比 較す ることにより、

自 然 条件 、 社 会 条 件 と緩 衝能 との関 係を 明ら かにし た。 すな わち 、 地 形 的 に 平 地 (P)が 広 い 流 域 ほ ど 人 口 密 度 (Po)が 高 く 、氾 濫 空 間 (D)は 大 き い 。 そ し て 、 氾 濫 空 間 (D)の 大 き い 流 域 ほ ど 森 林 面 積 (F)は 小 さ い 傾 向 が あ る 。 一 方 、 緩 衝 空 間 (B)は 流 域 の 発

(3)

展の圧カを受け、時間の経過とともに減少するため、治水対策等に より計画的に保全確保する必要がある。氾濫空間(

D

)の増加、緩 衝空間(

B

)の滅少の結果、流域の発展に従い緩衝能(B/D)が滅少 する傾向にあることがわかった。また、流域内の緩衝能バランスを 示 す た め の 縦 断 的 な 緩 衝 能 の 表 し 方 を 提 示 し た 。

  

6

章では、綬萄能を増加させるために、水辺緩衝空間の保全・

再生の方法とその可能性について検討した。緩衝空間拡大による氾 濫空間の減少、そして緩衝能の増加について、石狩川と釧路川遊水 地のモデルを用いて試算した。この試算では、水辺緩衝空間を△

B

拡大することにより、氾濫空間△Dは(2.5〜6.3)△Bだけ減少する ことになったふそして、緩衝空間の新しい計画に基づく日本型共存 利用を進めることにより、生産・生活空間を減少させずに、緩衝能 の増加が可能となる。また、この提案は、開発途上国の治水対策、

環境保全にも適用でき、国際的な貢献にも生かされるべきである。

  

また、水辺緩衝空間の利用の一手法として、緑地の必要性を示し、

緑地造成手法を提示した。水辺の緑地は水辺を縁取り連続性を演出 する景観として、また多様な生態系をはぐくむエコトーンとして、

そして水辺を利用する際の.緑陰として多方面から期待されているも のである。水辺空間という冠水や土砂移動などの環境圧の大きい場 において、自然に近い緑地を再生するために、多くの在来植生を多 様な方法で導入することを提案した。

  

最後に、適切な緩衝空間を設定し、それを活用することが流域保 全の上で最も重要であり、その取り組みを地域から積み上げ、また 技 術 協 カ な ど に よ り 、 ネ ッ ト ワ ーク 化 す る こ と を 提起 し た 。

(4)

学 位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授 教 授 教 授 助教 授

新谷 梅田 藤原 黒木

学 位 論 文 題 名

     安治

滉一郎(山形大)

幹 男 ( 北 大 工 )

水辺 緩衝空 間の保全に関する基礎的研究

  

本 論 文 は 、 表

5

、 図

68

、 写 真

25

を 含 む 総 頁 数

138

の 和 文 論 文 で あ る 。 別 に 参 考 論 文

29

編 が そ え ら れ て い る 。

  

流域の効率的・経済的利用を前提として、流域氾濫原の洪水被害 軽減を主目的として進められてきた我が国の治水対策は、近年の流 域資源開発に伴う流況変化とこれによる下流負担の増大、ならびに 河川水辺への流域自然環境としての期待などから、その見直しが強 く求められている。しかし、災害軽減による流域安全度の確保と自 然環境の保全とを両立し得る流域保全手法は未確立である。そこで 本論文は、この課題へのアプローチとして、河川水辺を流域社会の 公共空間として位置づけ、治水・環境保全機能を有する水辺緩衝空 間の設定方法とその有効利用の可能性にっいて検討したものである。

研究成果の概要は以下のようである。

  1

.地形図・航空写真の判読により、研究対象流域氾濫原の変遷に っいて時系列解析を行い、旧湿地の農地・市街地利用にともナょう水 辺空間の減少実態を明かにしている。過去100年間における全国都市 域の水辺空間減少率t30%にくらべ、北海道河川流域はとくにこの50 年間において、水田・都市流域(石狩川下流・豊平川上流)で70%、

畑地流域(戸蔦別川)で

50

%、草地流域(釧路川)で30%と、急激 な低減を示しているとしている。

  2

.水辺空間の生産・生活空間との重複実態にっいて、その典型例 である開発途上流域(東南アジア)と本州・北海道河川流域との比 較検討を行い、水辺空間利用パターンを「共存利用型(開発途上流

(5)

域:重複率60%以上)」と「区分利用型(日本:重複率20%以下)」と に 大 分 した 。 そし て 北海 道 は関 東 以北 と とも に約15%と、 中部以南

(7% 以 下 ) の 約2倍 の 重 複 率 を 示 す が 、 そ の殆 ど が 生産 緑 地か ら な っ て いる と して い る。 こ れら 重 複域 は 、洪 水時は氾濫 被害を被る と と も に、 通 常時 は 農地 ・ 居住 地 利用 が 行わ れており、 土地利用・

環境問題が併存する領域である。.−ー方、激甚災害を受けるため土地 利 用 制 限域 が 設定 さ れる 活 火山 山 麓の 高 危険 度流域では 、自然景観 資 源あるいは 平常時の生 産用土地資 源としての 期待も高く「,限定利 用 型 ( 高 危 険 度 流 域 ) 」 ( 20〜 40% ) と 区 分 し て い る 。   3.流 域 水辺 の氾濫空間 と緩衝空間 の現存量を 、安全度と 自然環境 を 表 す 流域 特 性指 標 とす る こと を 提起 し た。 すなわち想 定洪水氾濫 域 を 氾 濫 空 間(D) とし 、 その う ち、 洪 水・ 土 砂氾 濫 のエ ネ ルギ 一 緩 和 と と も に、 治 水 と自 然 環境 の2大 機 能を 有 し水 辺 と生 産 ・生 活 空 間 を 繋 ぐ 領域 を 緩 衝空 間 (B) とし た 。そ し て、 流 域比 率 であ る 氾 濫空間率(D/S)、 緩衝空間率 (B/S)、 ナょらびにこれらの比であ る 緩 衝 能 ( B/D) を 流 域 の 水 辺 緩 衝 空 間 指 標 と し て 提 起 し た 。   4. こ れ ら の 指 標 を 用 い て 流 域 比 較 を 行 い 、B/Sは 関 東西 部 以南

(O.3〜0.9%)にくらべ、北海道は大きい(0.4〜3.4%)こ・と、ま たD/Sは 本 州 都 市 河 川 (24〜33% ) に く ら べ 北 海道 は 小さ い (8〜 24% )こ と から、北 海道河川流 域の緩衝能 (B/D) は、かって 計画的 確 保 が 行 わ れた 関 東 流域 と 同様 に 関東 西 部以 南 の2倍 以上 の 値を 示 し て い るこ と が明 か にさ れ た。 っ ぎに こ れら の指標と流 域特性(自 然・社会条件)との関係を検討,し、地形的に・平地率の高い流,域は氾 濫 空 間 率が 大 きく 人 口密 度 も高 い こと 、 さら には森林面 積率も小さ い ことナょど を明かにし ている。ま た流域変遷 に伴って氾濫空間の増 大 と 緩 衝空 間 の減 少 がも た らさ れ るた め 、流 域緩衝能の 滅少傾向が 継 続 し てい る こと が 明か に され た 。ま た 、緩 衝能の縦断 分布から、

既 存 保 全空 間 や緩 衝 空間 設 定の 流 域的 評 価が 可能である ことも提示 している。

  5.湿 原 の遊 水地利用や 、扇状地の 遊砂空間配 置などの実 際例をも と に、緩衝空 間の保全・ 確保とこれ による流域 緩衝能増大の.可能性 に っ い て検 討 した 。 すな わ ち、 実 河川 中 流部 の遊水地モ デルを考案 す る と と も にそ の 試 算を 行 い、 緩 衝空 間 拡大 に よっ て 、そ の 約2〜 6倍の氾濫空間が減少し得ることを示唆している。

(6)

  6.緩衝 空間 の緑地利用(生産・公園・河畔林)としての有効性を 指 摘し 、環 境圧 (冠水や土砂j已濫など)の規模区分に対応した、多 様ナょ河畔在来植生の導入による水辺緑地造成手法を提案している。

さ らに 緩衝 空間 の設定 ・活 用手 法の確 立の ため にはその前提として 共 存利 用型 が検 討され るべ きと し、流 域内 ネッ トワーク化と保全・

利 用 サ イ ド の 技 術 問 協 カ が 必 須 で あ る こ と を 述 べ て い る 。   以上 のよ うに 本研究1ま、流域水辺の変貌実態を明かにし、治水と

自然環境保全の視点liもとづく、

司能性を明かにしたものであり、

ら高く評価される。

水辺 緩衝 空間の 意義・設定方法と その 成果 は学術 ぬらびに技術面か

  よっ て審 査員一同は、別に行った学力確認試験の結果と合わせて、

本 論文 の提 出者古井厚志は博士(農学)の学位を受けるに十.分な資 格 があ るも のと認 定し た。  1

参照

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