博 士 ( 農 学 ) 毛 利 武
学 位 論 文 題 名 林木の形質転換系の開発
学位論文内容の要旨
林木 は永 年性 であ り,生 殖活 動を開始するまでの期間が極めて長い。したが っ て, 従来 の育 種技 術によ り, すぐれた形質を有する品種を作出することは数 十 年の 期間 を必 要と するた めに 非常に困難である。林木の遺伝子操作技術は,
親 の望 まし い形 質の 全てを 保持 させたまま,単一の形質のみを選択的に改変す る ため の有 効な 手段 といえ る。 林木を対象とする分野では,遺伝子導入も特定 の 樹種 に限 定さ れて おり, 形質 転換体の実用化は,農作物の世界に比べ非常に 遅 れて いる 。本 研究 では, 最初 にセイヨウハコヤナギにおいて,薬剤耐性選抜 効 率の 良い エレ クト 口ポレ ゛一 ション法を利用するための前段階として葉肉プ 口 トプ ラス トか らの 植物体 の再 生系の確立を目的として実験を行った。次に,
簡 易で 形質 転換 効率 の高いTiプ ラスミド法によってセイヨウハコヤナギ,シラ カンバ,ココノエギりの形質転換系を開発することを目的として実験を行った。
そ して セイ ヨウ ハコ ヤナギ では ,その形質転換系を利用してイネの形態形成に 関 わ る 遺 伝 子OSH1を導 入し ,林 木に おけ るホ メオ ポッ クス 遺伝 子の機 能を 解 析 した 。ま た, ココ ノエギ りで はホ タル 由来 のル シフ ウラ ーゼ遺伝子¢UC)を 用 いて バー ティ クル ガン法 によ る遺伝子導入を試みた。クロマツ,アカマツ,
スギでは,ロ‐グルク口二ダーーゼ(GUS)及びLUC遺伝子を用いてノヾーティクルガ ン法による遺伝子導入のための最適条件を検討した。
セイ ヨウ ハコ ヤナ ギ葉肉 プロ 卜プラストは,サッカ口ース―デキストラン密 度 勾配 遠心 法に よっ て精製 し, 培地及び培養条件を検討することによって培養 7日 目に 細胞 分裂 を開 始し ,培 養45日目 に小 カル スを形 成し た。さらに,プ口 ト ブ ラ ス ト 由 来カ ルス を寒 天培 地上 で増 殖し ,最 終的 に不 定芽 を誘導 した 。 茎は,イgrobacterium tumefaciensを用いたセイヨウハコヤナギ形質転換体の 作 出で 最も 有効 な組 織切片 であ り,カナマイシン耐性カルスを高頻度に誘導さ せ た。 形質 転換 体の 葉は,x‑gluc溶 液中 で全 体的 に青 く染 まり,強いGUS活性 を 示し た。 螢光 強度 分析で は, 形質転換体の葉は,コント口ールと比較して約 200倍の 螢光 強度 を示 した 。さ らに ,サ ザン ハイ ブリダ イゼ ーションにより,
形 質 転 換 体 に はゲ ノム あた り約1コ ピーのGUS遺伝 子が 導入 され ている こと を
明 らか にし た。 次に ,セイ ヨウ ハコ ヤナ ギ形 質転換系を利用して,イネホメオ ポックス遺伝子CIS,″.ヱを35Sプ口モーターにより大量発現させ,形質転換体の 形 態 異 常 の 誘 導 を 試 み た 。OSH1遺 伝子 を導 入し た形 質転換 体は ,葉 の形 状が 細 葉状 にな った もの ,極度 に矮 性の もの ,萌 芽状になったものなど様々な形態 異 常 を 示 し た 。 次 に , こ れら の形 態異 常とOSH1遺伝 子の発 現量 との 関係 をノ ー ザ ン ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー ショ ン及 びRT‑PCR/サ ザン ハイブ リダ イゼ ーシ ョン に より 解析 した 。ノ ーザン ハイ プリ ダイ ゼー ションでは,萌芽状夕イプの形質 転 換体 にお いて ,約1.5kbのバ ンド が検 出さ れ,OSH1遺 伝子 の発 現が 確認 でき た 。 さ ら に ,RT‑PCR7サ ザ ン ハ イ プ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン によ り, 極度 に矮 性な タ イ プ 及 び 葉 が 細 葉 状 夕 イプ の形 質転 換体 でもOSH1遺伝子 のバ ンド が検 出さ れ た 。 以 上 の 結 果 よ り , 木本 性植 物で もイ ネホ ヌオ ポック ス遺 伝子OSH1が形 態形成に大きな影響を与えることが明らかとなった。
シラカンバにおけるイ.turnefaciensによるGUS遺伝子の導入実験では,葉は,
形 質転 換体 の作 出で 最も有 効な 組織 切片 であ り,カナマイシン耐性カルスを高 頻 度に 誘導 させ た。 また,100 UMの アセ トシ リンゴンは,カナマイシン耐性カ ル スの 誘導 効率 を著 しく向 上さ せた 。形 質転 換体の葉は,x‑gluc溶液中で全体 的 に青 く染 まり ,強 いGUS活性 を示 した 。螢 光強 度分析 では ,形 質転 換体 の葉 は ,コ ント ロー ルと 比較し て約450倍の 螢光 強度 を示し た。 さら に, サザ ンハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン に より ,形 質転 換体 には ゲノ ムあた り約1コ ピー のGUS 遺伝子が導入されていることを明らかにした。
ココノエギりにおけるイ.tumefaciensによる遺伝子導入実験では,葉柄|ま,
他 の組 織切 片よ りも高頻度にカナマイシン耐性カルスを誘導させた。また,150 ルMのア セ卜 シリ ンゴ ンは ,カ ナマ イシ ン耐 性カ ルスの 誘導 効率 を著 しく 向上 さ せた 。カ ナマ イシ ン耐性 カル スは ,い ずれ もx‑gluc溶液中で全体的に青く染 色 され ,高 いGUS活性 を示 した 。ま た, ココ ノエ ギりを 用い たパ ーテ ィク ルガ ン によ る遺 伝子 導入 実験で は, 遺伝 子導 入処 理した植物体切片は,高い発光強 度 を 示 し , 一 過 性 の ル シ フ ウ ラ ー ゼ 遺 伝 子 の 発 現 が 検 出 さ れ た 。 ク口 マツ ,ア カマ ツヘの パー ティ クル ガン による遺伝子導入実験では,遺伝 子 導 入 処 理 し た 種 子 胚 に おい て,GUS及 びLUC遺 伝子 の一過 性発 現が 観察 され た 。 ク 口 マ ツ , ア カ マ ツ と も1.6 Um径 の金 粒 子 にDNAをコ ーテ ィン グし ,種 子 か ら 胚 を 取 り 出 し て4日 目に 遺伝 子導 入処 理し た時 に最 も効 率良 くGUS遺伝 子が発現した。
スギ への パー ティ クルガ ンに よる 遺伝 子導 入実験では,遺伝子導入処理した 種 子 胚 か ら 工UC遺 伝 子 の ー 過 性 発 現 の みが 観 察 さ れ ,GUS遺伝 子は いか なる 条 件下 でも 発現 が観 察され なか った 。ス ギに おいても種子から胚を取り出して 4日 目 に 遺 伝 子 導 入 処 理 し た 時 に , 最 も 効 率 良 くLUC遺 伝 子 が 発 現 し た 。
以上のように,広葉樹ではセイヨウハコヤナギ,シラカンバ,ココノェギり において効率の良い形質転換系を確立した。また,針葉樹のク口マツ,アカマ ツ,スギにおいて再現性の高い遺伝子導入系を開発した。これらの形質転換系 は,経済的に有用な遺伝子,形態形成を制御する遺伝子や病虫害耐性に関わる 遺 伝 子 を 発 現 さ せ た 形 質 転 換 体 の 作 出 を 可 能 と す る も の で あ る 。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名 林木の形質転換系の開発
本 論 文 は5章 か ら な り , 図26, 表14, 文 献69を 含 む 頁 数122の 和文 論文で あり,別に参考論文10篇が付されている。
林木 を対 象とす る分野では,遺伝子導入も特定の樹種に限定されており,形 質 転 換 体 の 実 用 化 は , 農 作 物 の 世 界 に 比 ベ 非 常 に 遅 れ て い る 。 本研 究で は,最 初にセイヨウハコヤナギにおいて,葉肉プ口トプラストから の 植物 体の 再生系 の確立を目的として実験を行い,培地及び培養条件を検討す る こと によ って細 胞分裂,カルスを誘導し,最終的に再生個体を誘導した。次 に,土壌細菌イgrobacterium tumefaciensを用いたセイヨウハコヤナギの形質転 換 系の 開発 を目的 とし,実験を行った。形質転換体の葉は,x‑gluc溶液中で全 体 的に 青く 発色し ,螢 光強 度分 析で は, コン 卜口ールの葉と比較して約200倍 の ロ・ グル ク口二 ダー ゼ(GUS)活性 を示 した。 さらに,サザンハイブリダイゼ ー シ ョ ン に よ り , 形 質 転 換 体 の ゲ ノムDNAにGUS遺 伝 子 が 導 入さ れて いるこ と を確 認し た。さ らにその形質転換系を利用して,イネの形態形成に関わる遺 伝 子OSH1を 大量発 現させた。形質転換体は,葉の形状が細葉状になったもの,
極 度に 矮性 のもの ,萌芽状になったものなど様々な形態異常を示した。それら の 形質 転換 体につ いて ,ノ ーー ザン ハイ プリ ダイゼーションあるいはRT‑PCR7 サザンハイブリダイゼーションによる解析で,cts・〃|遺伝子のバンドが1.5kb のところで検出された。
次に,イ.fH朋ピ.触cfe門sによるシラカンパの形質転換系の開発を目的とし,実 験 を行 った 。アセ トシリンゴンは,カナマイシン耐性カルスの誘導効率を著し く向上させた。形質転換体の葉は,x‐gluc溶液中で全体的に青く発色し,螢光
清 夫
実
哲
浦 上
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三 三
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授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
強度分析では,コント口一ルの葉と比較して約450倍のGUS活性を示した。さ らに, サザンハイ ブリダイゼーションにより,形質転換体ゲノムDNAにGUS 遺伝子が導入されていることを確認した。
ココノエギりにおけるイ.tume触cfe門sによる遺伝子導入実験では,葉柄はI 他の組織切片よりも高頻度にカナマイシン耐性カルスを誘導させた。また,ア セ卜シリンゴンは,カナマイシン耐性カルスの誘導効率を著しく向上させた。
また,ホタル由来のルシフウラーゼにぴC)遺伝子を用いたノヾーテイクルガン による遺伝子導入実験では,遺伝子導入処理した植物体切片は,高い発光強度 を 示 し , ル シ フ ェ ラ ー ゼ 遺 伝 子 の 一 過 性 発 現 が 検 出 さ れ た 。 ク口マツ,アカマツヘのノヾーテイクルガンによる遺伝子導入実験では,遺伝 子導入 処理した種 子胚においてGぬ及び工W遺伝子の一過性発現が観察され た。クロマツ,アカマツとも1.飢m径の金粒子を用い,培養4日目の種子胚に 遺伝子 導入処理し た時に最も効率良くG恥及び工[′C遺伝子が発現した。
スギヘのパーテイクルガンによる遺伝子導入実験では,遺伝子導入処理した 種子胚において工[′C遺伝子の一過性発現のみが観察され,G硲遺伝子はいか なる条件下でも発現が観察されなかった。スギにおいても,培養4日目の種子 胚 に 遺 伝 子 導 入 処 理 し た 時 に 最 も 効 率 良 く 工W遺 伝 子 が 発 現 し た 。 以上のように,広葉樹ではセイヨウハコヤナギ,シラカンバ,ココノエギり において効率の良い形質転換系を確立した。また,針葉樹のクロマツ,アカマ ツ,スギにおいて再現性の高い遺伝子導入系を開発した。これらの形質転換系 は,経済的に有用な遺伝子,形態形成を制御する遺伝子や病虫害耐性に関わる 遺 伝 子 を 発 現 さ せ た 形 質 転 換 体 の 作 出 を 可 能 と す る も の で あ る 。 よって審査員一同は,毛利武が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資 格を有するものと認定した。