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微小化学反応場の創製と反応制御に関する研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 内 田 達 也

学 位 論 文 題 名

微小化学反応場の創製と反応制御に関する研究 学位論文内容の要旨

  半導体チ ップの開発過程で発展してき た微細加工技術はマイクロ 電子工学のみならず機械工学や 光学などの 様々な分野に波及し,対象と する材料や系の微小化およ びその集積化に大きな貢献を果 たしてきて いる。これに対し,化学の分 野においては,これまで微 細加工技術の応用の重要性に対 する認識は 高いとは言えず,微細加工技 術を化学的な側面から用い ることの利点や将来的な発展性 についての 研究は殆どなされていないの が現状である。マイクロメ ートルの空間における分子の濃 度差や密度 差は拡散による物質移動過程 を支配し,反応の速度や選 択性に大きな影響を及ぽす可能 性がある。 即ち,マイクロメートルの空 間サイズにおいては,反応 場の微小性や反応場間の物質移 動を利用し た高効率・高選択的な物質変 換操作が可能になるものと 考えられる。これを実現するた めには,化 学的な機能を有する微小な化 学反応場を任意の空間配置 に作製する方法,さらには,微 小反応場間 の物質移動を利用した反応計 測法・制御方法を確立する 必要がある。微細加工技術や顕 微化学法・ 空間選択的な光化学反応など を駆使することにより,こ れを実現させることができるも のと期待さ れる。

  本研究に おいては,化学的な機能を有 する微小化学反応場の創製 とこれに基づぃた反応制御を達 成 する ため の基 礎 的な 研究 を目 的 とし ,以下に述 べる2つのアプローチを試み た。第1のアプロー チでは,有 機高分子固体を素材とした微 小反応場の作製方法として ,レーザーアブレーションによ る 高分 子フ イル ムの同 時微細加工・化学修飾の可能 性について検討した。第2の アプローチでは,

無機固体に 微細加工法を施すことにより ,集積化した微小反応場と しての半導体マイクロアレイ電 極 を 作 製 し , 局 所 的 な 光 誘 起 化 学 反 応 に 及 ぽ す 隣 接 微 小 反 応 場 の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。

  第1章 では ,微 細加工技術と それを利用した科学・化学の 研究例について概観し,反 応空間の微 小化および集積化によって 可能となる新しい化学や反応制御法について述べた。また,.本研究の目 的と本論文の構成について 述べた。

  第2章 では ,ポ リメタクリル 酸メチルやポリエチレンテレ フタラートなどの有機高分 子固体表面 のエキシマーレーザーによ るレーザーアブレーション に及ぽす雰囲気ガスの圧カや 種類の効果を検 討した結果について述べた 。ヘリウムなどの化学的に 不活性な雰囲気ガスは光分解 生成物の飛散と いう物理的な過程に影響を 及ぽすが,酸素やシラン系 ガスなどの反応性ガスは高分 子の分解過程に 化学的に寄与することを初 めて明かにした。これによ り、レーザーアブレーション 過程で生じる活 性化学種と雰囲気ガスの反 応が可能であることを示し た。さらに,雰囲気ガスに含 まれている元素 が,アブレーション後の高 分子表面に雰囲気ガス分子 とは異なる化学結合によって 存在することを 電子分光法などにより明か にし,レーザ―アブレーシ ョンによる材料表面への外部 分子導入を実験 的に証明した。

  第3章 では ,ア ブレーション された高分子固体表面に対す る螢光性有機色素の位置選 択的な導入

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について,アブレーション された表面の物性,化学組 成,および形態から検討した 結果について述 べた。大気中でレーザーア ブレーショ.ンしたポリメタクリ酸メチル固体の表面化学組成は照射レー ザー光強度に大きく依存し ,照射レーザー光強度がア ブレーションの敷居値以下の 場合,表面に極 性官能基が新たに生成する ことを示した。また,この 加工表面にカチオン性の螢光 性有機色素分子 が位置選択的に導入・修飾 されることを初めて見いだ した。さらに,レーザーアブ レーションと化 学修飾処理を繰り返す多段 階操作により,異なる特性 を有する化学種を空間選択的 に外部から材料 表面に固定化することが可 能であることを示した。

  第4章 では ,本 研究 にお いて用いたマイクロアレイ 電極の作製手順,およびその 構造について述 ぺた。また,微細加工法と 陽極酸化法を併用したバン ド型酸化チタン微小電極の作 製方法,および その光電気化学的性質を検 討した結果について述べた。酸化チタン微小電極に対して,バンドギャツ プエ ネル ギー 以 下の 波長 の光 を照 射 した 場合 ,水の 分解に伴って得られる電極の 光電流は,その pH依存性を含めて,局在準 位に捕捉された電子のPoole‑Frenkel効果によって説明できることを明ら かに した 。こ れ によ り, 任意 のpHに おけ る光 電流 を理 論 的に 予測 する ことが可 能になり,第5章 に お け る 実 験 結 果 を シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 値 と の 比 較 か ら 議 論 す る こ と が 可 能 と な っ た 。   第5章 では ,酸 化チ タン と白金の微小電極で構成さ れた複合型のバンド型マイク ロアレイ電極に おける光電気化学反応つい て述べた。酸化チタン微小 電極における水の分解に伴う 光電流は隣接す る白 金微 小電 極 の電 位制 御により約213倍に増加した 。また,この光電流の増幅は 白金微小電極上 で生 成し た水 酸 化物 イオ ンに よる 局 所的 なpHの増加 ,および過酸化水素の光電気 反応によること を実 測値 とシ ミ ュレ ーシ ョン値の比較などから明かに した。これらの結果から,2通りの微小化学 反応 制御 法が 示 され た。 第1に,一方の反応場で生成 する物質によって他方の反応 場近傍の化学環 境を 局所 的に 制 御し ,バ ルク溶液とは異なる環境下で 化学反応を進行させる方法 である。第2に,

一方の反応場で生じた生成 物を他方の反応場で捕集し ,本来,系内には存在しない 物質を原料とし た化学反応を誘起する方法 である。また,これらの反 応制御法は微小反応場間の物 質移動を利用し ているため,反応場の相対 的な空間配置に大きく依存 することを光電流の酸化チタ ン―白金電極間 距離依存性から明かにした 。

  第6章 では ,酸 化ス ズ微 小アレイ電極におけるルテ ニウム錯体の分光増感反応に ついて述べた。

隣接したニつの微小電極を 用いた非照射下でのサイク リックボルタンメトリーによ って,対象とな る分子の酸化体あるいは還 元体を任意の電位に設定し た電極に供給し,その電子移 動の可否を実験 的に明らかにした。これに より,励起状態分子から電 極ヘ,あるいはその逆反応の 有無を非照射下 の実験事実をもとに解釈す ることをが可能になった。 また,電極近傍の微小空間を 選択的に光照射 することにより,バルク溶 液中で生成した物質の電極 反応と励起状態分子の電極反 応を明確に識別 できることを示した。さら に,光照射によって消費さ れた物質を隣接した電極で再 生することによ り,分光増感反応に関する レドックスサイクリングの 効果を証明した。以上の結果 から,系内に生 成あるいは消滅する化学種 を検出,再生するとぃった 微小化学反応の基本操作が可 能であることを 実証した。さらに,光によ る空間選択的な反応の駆動 を組み合わせることにより, 同質の微小反応 場が配列された系において も,微小反応場間の異なる 化学機能を利用した反応制御 が可能であるこ とが示した。

  第7章 では ,本 研究 で得 られた結果を総括するとと もに,反応場の微小性や微小 反応場間の物質 移動を利用した化学反応の 今後について展望した。

  本研究では,微細加工法 を駆使することにより,化学的な機能を有する微小化学反応場を作製し,

それを集積化することが可 能であることを示した。ま た,集積化された微小反応場 間の物質移動を 利用した化学反応の制御に おぃて,微小反応場間の空 間配置が極めて重要であるこ と,さらには空 間選択的な光照射が有用で あることを明らかにした。 本研究で提案した微小化学反 応の制御法は,

今後,可能となるであろう ナノメートルスケールの微 細加工法と有機的に統合され ることにより,

メゾスコピック領域の化学 現象の解明に寄与するもの と期待している。

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(3)

学位論文審査の要旨

主査 副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

喜多村 魚崎 下村 金

学 位 論 文 題 名

    昇 浩平 政嗣 幸夫

微小化 学反応場 の創製 と反応制御に関する研究

   近年,微細加工技術は様々な分野に波及し,対象とする材料や系の 微小化・集積化に大きな貢献を果たした。これに対し,化学の分野 においては,微細加工技術の化学的な利用に関する研究は殆どなさ れていないのが現状である。しかし,分子の濃度差や密度差は拡散 による物質移動過程を支配し,反応の速度や選択性に大きな影響を 及ぼすため,微小な空間においては反応場の微小性や反応場間の物 質移動を利用した高効率・高選択的な物質変換操作が可能になるも のと考えられる。本論文は,このような点に着目し,化学的な機能 を有する微小化学反応場の創製とこれに基づぃた反応制御を目的と して,レーザーアブレーションによる高分子フイルムの同時微細加 工・化学修飾,さらには,半導体マイクロアレイ電極における,局 所的な光誘起化学反応を用いた微小反応制御に関する研究を行った 結果をまとめたものである。

   第 1 章では,微細加工技術を利用した化学の研究例について概観 し,反応空間の微小化および集積化によって可能となる新しい化学 や反応制御法について述べている。

   第 2 章では,ポリメタクリル酸メチルなどの高分子固体表面のエ キシマーレーザーによるアブレーションに及ぽす雰囲気ガスの効果 について述べている。まず,酸素やシラン系ガスは高分子の分解過 程に化学的に寄与することを見いだした。さらに,ガスに含まれて いる元素は,アプレーション後の高分子表面にガス分子とは異なる 化学結合によって導入されることを明らかにし,アブレーションに よる材料表面への外部分子導入を証明した。

   第 3 章では,高分子表面への螢光性色素の位置選択的な導入につ いて述べている。大気中でアブレーションした高分子固体の表面化 学組成は照射レーザー光強度に大きく依存し,光強度がアブレーショ ンの敷居値以下の場合,加工表面に螢光性色素が位置選択的に導入・

修飾されることを初めて見いだした。さらに,アブレーションと化 学修飾処理を繰り返す操作により,異なる化学種を空間選択的に材 料 表 面 に 固 定 化 す る こ と が 可 能 で あ る こ と を 示 し た 。

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   第 4 章,第 5 章では,バンド型酸化チタン微小電極の作製方法,

およびその光電気化学的性質を検討した結果について述ぺている。

酸化チタン微小電極に対して,バンドギャップエネルギー以下の波 長の光を照射した場合,水の分解に伴って得られる電極の光電流は,

そ の pH 依存 性 を 含 め て, 局 在 準 位 に 捕捉さ れた電 子の Poole‑

Frenkel 効果によって説明できることを明らかにした。さらに,酸 化チタンと白金の微小電極で構成された複合型のバンド型マイクロ アレイ電極における光電気化学反応では,酸化チタン電極における 水の分解に伴う光電流を隣接する白金電極の電位により制御可能で あることを示した。これらの結果から,微小化学反応の制御法とし て, 1 )一方の反応場で生成する物質によって他方の反応場近傍の 化学環境を局所的に制御し,バルク溶液とは異なる環境下で化学反 応を進行させることができる, 2 )一方の反応場で生じた生成物を 他方の反応場で捕集し,本来,系内には存在しない物質を原料とし た 化 学 反 応 を 誘 起 す る こ と が で き る こ と を 示 し た 。    第 6 章では,酸化スズ微小アレイ電極におけるルテニウム錯体の 光電気化学反応について述べている。電極近傍の微小空間を選択的 に光照射することにより,バルク溶液中で生成した物質の電極反応 と励起状態分子の電極反応を明確に識別できることを示した。さら に,光照射によって消費された物質を隣接した電極で再生すること により,光電極反応に関するレドックスサイクリングの効果を証明 した。以上の結果から,系内に生成あるいは消滅する化学種を検出,

再生するとぃった微小化学反応の基本操作が可能であることを実証 した。さらに,光による空間選択的な反応の駆動を組み合わせるこ とにより,同質の微小反応場が配列された系においても,微小反応 場間の異なる化学機能を利用した反応制御が可能であることを示し た。    第 7 章では,本研究で得られた結果を総括するとともに,反応場 の微小性や微小反応場間の物質移動を利用した化学反応の今後につ いて展望している。

     これを要するに,著者は,微細加工法を駆使することにより,化 学的な機能を有する微小化学反応場を作製し,それを集積化するこ とにより新しい化学の展開が可能であることを実証した。また,集 積化された微小反応場間の物質移動を利用した化学反応の制御にお いて,微小反応場間の空間配置が極めて重要であること,さらには 空間選択的な光照射が有用であることを明らかにした。このような 研究はメゾスコピック領域の化学の発展に大きな貢献するものであ る。    よって著者は,北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格 あるものと認める。

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