博 士 ( 理 学 ) 仮 屋 伸 子
学 位 論 文 題 名
Investigation of Redox Interactions in d6 Transition Metal Complexes.
(〆型遷移金属錯体における酸化還元相互作用に関する研究)
学位論文内容の要旨
複数の酸化還元活性中心が同一分子内に含まれる化合物の、分子内酸化還元相互作用に関し ては多くの基礎的研究例が報告されている。しかしながらそれらのほとんどは現象の報告にと どま り 、 酸化 還 元 相互 作 用 の要 因 につい ての系 統的な研 究例は これまで に見ら れない。
本研究では、それらの分子内酸化還元相互作用の本質ならびにそれらを支配する要因を、過 去の報告例を踏まえながら基礎的な立場から研究し、系統的な考察を加えることを目的とした。
本研究は大きくニつの部分に分けられる。第一は、1)酸化還元中心が金属イオンであり、そ れらが電子伝達を介在する有機配位子によって連結された、 ligand‑spacer‑type の錯体を取り上 げ、その研究対象として、一連の新規なオスミウムポルフィリン多量体を合成し、それらの酸 化還元挙動を観測した。第二に、2)酸化還元中心が配位子であり、それらが金属イオンによっ て連結された、 metal ion―spacer‑type の錯体を取り上げ、その研究対象として、酸化還元活性 な単座配位子を導入した一連の新規なルテニウム(II)或いはモリブデン(0)単核錯体を合成し、
それらの酸化還元挙動を観測した。
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メソ位をピリジル基で置換したポルフィリンは、他の単純なニ座(架橋)配位子と異なり、
置換基の位置、並びに数によって酸化還元中心となる金属イオンを様々に配向させることがで きるが、これまでにこのようなポルフィリンが介在する酸化還元相互作用を研究した例は少な い。そこで本研究では反応中心として、酸化還元活性なオスミウムイオンを中心金属として持 っオスミウムボルフィリン錯体を選択し、図1に示したような一連の新規なオスミウムポルフ ィリン多量体(trans‑Dimer,cis‑Dimer,Tetramer,cis‑Oblique)を合成した。多量体の生成は、元 素分析並びに各種スペクトル法により確認した。
圏
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co co
trans‑Dimer Tetramer
図1,ポルフィリンを架橋配位子として持つ新規なオスミウムポルフィリン多量体
これらのオスミウムポルフィリン多量体の酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリーに
― 9−
よ り 観 測 し た 結果 、酸 化還 元中 心 であ るオ スミ ウム イ オン は、 架橋 ポ ルフ ィリ ンの 違い に よる 分 子内 の配 向や 、4‐ピ リジ ル 、3− ピ リジ ル基 の違 いに よる配位部位の 電子密度の違いに関わら ず 、 分 子 内 で 顕著 な酸 化還 元相 互 作用 を示 さな かっ た 。す なわ ち、 各 々の 酸化 還元 過程 に おい て 、一 段階 の多 電子 移 動が 観測 され た 。
こ れ ら オ ス ミウ ムポ ルフ ィリ ン 多量 体の 酸化 還元 中 心問 相互 作用 が 非常 に小 さい 要因 を 詳細 に 調 べ る た め 、 よ り 単 純 な 系 で あ る 単 核 錯 体 を 用 い て さ ら に 研 究 を 行 っ た 。
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metal ion‑spacerーtype の錯体の研究は、 ligand‑spacer‑type¨に比較して報告例が圧倒的に少な く 、 酸 化 還 元 中 心 と な る 配 位 子が 単 座配 位子 であ るも の につ いて の報 告は ほ とん どな い。 そ れ ら 単 座 配 位 子 の 相 互 作 用 を 研 究 し た 数 少 な い 報 告 例 とし てはmbpye'配位 子( 図2)を 含む 錯 体 の 酸 化 還 元 相 互 作 用 を の 研 究 例が あ るが 、そ れぞ れ断 片 的で あり 、相 互作 用 の大 きさ の違 い に つい ての 合 理的 な説 明は な され てい なか った 。 そこ 、で 本研 究で は 、酸 化還元活性な単 座配位子 に 注 目 し 、 図2に 示 す 一 連 の 新 規 な 単 核 錯 体 を 合 成 し 、 元素 分析 、並 びに 各 種ス ペク 卜ル 法 に よって化合物の生成を確認した後、それらの酸化還元挙動を観測した。
注 目 す る 酸 化 還 元 中 心 で あ る単 座 配位 子の 酸化 還元 過 程を 微分 パル スボ ル タン メト リー に よ り 観 測 し 、 各 々 の 電 位 の 分 裂 幅を シ ミュ レー ショ ンに よ り求 めた 。分 子内 相 互作 用の 強さ は 分 列 幅 か ら 求 め ら れ る 混 合 原 子 価 状 態 の 安 定 度 を 示 すKcの 値 に よ り 評 価 で き る 。 配位 子の 種 類 に つ い て 見 る と 、KcはPPh2Fc冫bzpy冫mbpyeの 順 で あ っ た 。 ま た 、 同 じ 配 位 子 同 士 で 比 較 す る と 、 二 つ の 配 位 子 の 幾 何 配 置 に つ い て 、Kcの 値 はcis冫transで あ っ た 。 更 に 、第 三の 配 位 子 の 影 響 に つ い て は 、mbpyO配 位 子 の 、 二 段 階 目 の 還 元 波の 分裂 幅を 比較 す るこ とに より 、Kc の 値 は 、 ポ リ ピ リ ジ ン 錯 体(terpyridine,bipyridine錯 体) 冫有 機金 属錯 体 ゆーcymene錯 体 ) の順であることが明らかになった。
以 上の 結 果に つい て、 系 統的 な考 察を 行っ た 。一 連の 結果 は、 架 橋部 位である金属イ オンと、
酸 化 還 元 中 心 で あ る 配 位 子 の 軌道 の 混合 の度 合い の大 き さを 考え ると 、合 理 的に 説明 でき る 。 す な わ ち 、 配 位 子 と 金 属 イ オ ン の 軌 道 の 混 合 は 、1, 配 位 子 のG供 与 性 並 び に 亜 量容 性が 大 き い ほ ど 大 き く 、2. 配 位 子 の 配 向 が シ ス で あ る 系 の 方 が トラ ンス であ る系 よ り大 きく 、玉 一 墾 橋 部 位 で 疊 歪 全 届 イ オ ン 上 の 電 子 密 度 が 高 い ほ ど 大 きい 。す な わち 、配 位子 のa供与 性並 び に 兀 受 容 性 はPPh2Fc冫bzpy冫mbpyeの 順 で あ り 、 混 合 原 子 価 状 態 の 安 定 性 と 同 じ 傾 向 で あ る 。 他 の ニ つ の 要 因 に つ い て も 、 金属 イ オン と配 位子 の軌 道 の混 合度 合い が大 き い系 であ るほ ど 、 混 合 原 子 価 状 態 が 安 定 で あ る こと が 明ら かで ある 。従 っ て、 分子 内の 相互 作 用の 大き さは 、 主 に上に述べた三つの要因によって決められることが明らかになった。
最後 に 、1) で述 べ たオ スミ ウム ポ ルフ ィリ ン多 量体 に つい て、 顕著 な分 子 内相 互作 用が 観 測 さ れ な か っ た 原 因 を 考 察 し た 。こ れ ら多 量体 では 反応 中 心で ある オス ミウ ム イオ ンは 軸配 位 子 とし て架 橋 配位 子の トラ ン ス位 に強 カな 電子 吸 引基 であ るカ ルポ ニ ルを 配位子として持 っため、
オ ス ミ ウ ム イ オ ン 上 の 電 子 密 度が 低 くな って いる と考 え られ る。 また 、同 時 にこ のカ ルボ ニ ル 配 位 子 は 、 卜 ラ ン ス 影 響 に よ り架 橋 配位 子で ある ポル フ ィリ ンの ピリ ジル 基 とオ スミ ウム イ オ ン と の 相 互 作 用 を 阻 害 し て い る。 こ のニ つの 原因 によ り 、オ スミ ウム イオ ン と架 橋ポ ルフ ィ リ ン の 軌 道 の 混 合 は 小 さ く な る た め 、 分 子 内 相 互 作 用 が 観 測 さ れ な か っ た も の と 思 わ れ る 。 以 上 の よ う に 、 本 研 究 で は 、酸 化 還元 活性 な多 量体 に おけ る分 子内 の相 互 作用 の要 因と し て 重 要 な も の は1. 金 属 イ オ ン の 逆 供 与 性 、L子 のa供 与 性 並 び に 兀 受 容 性 、2, 金 属 イ オ ン と亘 量位 子 の配 向、3. 架擾 童臣 位で あ る金 属イ オン上の電子 密度の三っであることを明 らかにし た 。 本 研 究 に よ り 、 一 段 階 多 電子 移 動系 或い は安 定な 混 合原 子価 状態 を与 え る系 の構 築に 対 す る合理的指針が得られた。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
佐々木 市川 山岸 今村
陽一
勝 晧彦
平
学位論文題名
Investigation of Redox Interactions in 〆 Transition Metal Complexes .
( 〆 型 遷 移 金 属 錯 体 に お け る 酸 化 還 元 相 互 作 用 に 関す る 研 究)