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圏 学位論文内容の要旨 Investigation of Redox Interactionsin d6 Transition Metal Complexes.

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 仮 屋 伸 子

学 位 論 文 題 名

Investigation of Redox Interactions in d6 Transition Metal Complexes.

(〆型遷移金属錯体における酸化還元相互作用に関する研究)

学位論文内容の要旨

  複数の酸化還元活性中心が同一分子内に含まれる化合物の、分子内酸化還元相互作用に関し ては多くの基礎的研究例が報告されている。しかしながらそれらのほとんどは現象の報告にと どま り 、 酸化 還 元 相互 作 用 の要 因 につい ての系 統的な研 究例は これまで に見ら れない。

  本研究では、それらの分子内酸化還元相互作用の本質ならびにそれらを支配する要因を、過 去の報告例を踏まえながら基礎的な立場から研究し、系統的な考察を加えることを目的とした。

  本研究は大きくニつの部分に分けられる。第一は、1)酸化還元中心が金属イオンであり、そ れらが電子伝達を介在する有機配位子によって連結された、 ligand‑spacer‑type の錯体を取り上 げ、その研究対象として、一連の新規なオスミウムポルフィリン多量体を合成し、それらの酸 化還元挙動を観測した。第二に、2)酸化還元中心が配位子であり、それらが金属イオンによっ て連結された、 metal ion―spacer‑type の錯体を取り上げ、その研究対象として、酸化還元活性 な単座配位子を導入した一連の新規なルテニウム(II)或いはモリブデン(0)単核錯体を合成し、

それらの酸化還元挙動を観測した。

!)!:!!g!聾壘:!聖!塑[〓盥聖坐:Q錯体

  メソ位をピリジル基で置換したポルフィリンは、他の単純なニ座(架橋)配位子と異なり、

置換基の位置、並びに数によって酸化還元中心となる金属イオンを様々に配向させることがで きるが、これまでにこのようなポルフィリンが介在する酸化還元相互作用を研究した例は少な い。そこで本研究では反応中心として、酸化還元活性なオスミウムイオンを中心金属として持 っオスミウムボルフィリン錯体を選択し、図1に示したような一連の新規なオスミウムポルフ ィリン多量体(trans‑Dimer,cis‑Dimer,Tetramer,cis‑Oblique)を合成した。多量体の生成は、元 素分析並びに各種スペクトル法により確認した。

    co  co

  trans‑Dimer  Tetramer

図1,ポルフィリンを架橋配位子として持つ新規なオスミウムポルフィリン多量体

これらのオスミウムポルフィリン多量体の酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリーに

9

(2)

よ り 観 測 し た 結果 、酸 化還 元中 心 であ るオ スミ ウム イ オン は、 架橋 ポ ルフ ィリ ンの 違い に よる 分 子内 の配 向や 、4‐ピ リジ ル 、3− ピ リジ ル基 の違 いに よる配位部位の 電子密度の違いに関わら ず 、 分 子 内 で 顕著 な酸 化還 元相 互 作用 を示 さな かっ た 。す なわ ち、 各 々の 酸化 還元 過程 に おい て 、一 段階 の多 電子 移 動が 観測 され た 。

  こ れ ら オ ス ミウ ムポ ルフ ィリ ン 多量 体の 酸化 還元 中 心問 相互 作用 が 非常 に小 さい 要因 を 詳細 に 調 べ る た め 、 よ り 単 純 な 系 で あ る 単 核 錯 体 を 用 い て さ ら に 研 究 を 行 っ た 。

2)::璽!堕!!Q旦〓!Q豊!!ヒ盤E!ニ堕鑓笠

   metal ion‑spacerーtype の錯体の研究は、 ligand‑spacer‑type¨に比較して報告例が圧倒的に少な く 、 酸 化 還 元 中 心 と な る 配 位 子が 単 座配 位子 であ るも の につ いて の報 告は ほ とん どな い。 そ れ ら 単 座 配 位 子 の 相 互 作 用 を 研 究 し た 数 少 な い 報 告 例 とし てはmbpye'配位 子( 図2)を 含む 錯 体 の 酸 化 還 元 相 互 作 用 を の 研 究 例が あ るが 、そ れぞ れ断 片 的で あり 、相 互作 用 の大 きさ の違 い に つい ての 合 理的 な説 明は な され てい なか った 。 そこ 、で 本研 究で は 、酸 化還元活性な単 座配位子 に 注 目 し 、 図2に 示 す 一 連 の 新 規 な 単 核 錯 体 を 合 成 し 、 元素 分析 、並 びに 各 種ス ペク 卜ル 法 に よって化合物の生成を確認した後、それらの酸化還元挙動を観測した。

  注 目 す る 酸 化 還 元 中 心 で あ る単 座 配位 子の 酸化 還元 過 程を 微分 パル スボ ル タン メト リー に よ り 観 測 し 、 各 々 の 電 位 の 分 裂 幅を シ ミュ レー ショ ンに よ り求 めた 。分 子内 相 互作 用の 強さ は 分 列 幅 か ら 求 め ら れ る 混 合 原 子 価 状 態 の 安 定 度 を 示 すKcの 値 に よ り 評 価 で き る 。 配位 子の 種 類 に つ い て 見 る と 、KcはPPh2Fc冫bzpy冫mbpyeの 順 で あ っ た 。 ま た 、 同 じ 配 位 子 同 士 で 比 較 す る と 、 二 つ の 配 位 子 の 幾 何 配 置 に つ い て 、Kcの 値 はcis冫transで あ っ た 。 更 に 、第 三の 配 位 子 の 影 響 に つ い て は 、mbpyO配 位 子 の 、 二 段 階 目 の 還 元 波の 分裂 幅を 比較 す るこ とに より 、Kc の 値 は 、 ポ リ ピ リ ジ ン 錯 体(terpyridine,bipyridine錯 体) 冫有 機金 属錯 体 ゆーcymene錯 体 ) の順であることが明らかになった。

  以 上の 結 果に つい て、 系 統的 な考 察を 行っ た 。一 連の 結果 は、 架 橋部 位である金属イ オンと、

酸 化 還 元 中 心 で あ る 配 位 子 の 軌道 の 混合 の度 合い の大 き さを 考え ると 、合 理 的に 説明 でき る 。 す な わ ち 、 配 位 子 と 金 属 イ オ ン の 軌 道 の 混 合 は 、1, 配 位 子 のG供 与 性 並 び に 亜 量容 性が 大 き い ほ ど 大 き く 、2. 配 位 子 の 配 向 が シ ス で あ る 系 の 方 が トラ ンス であ る系 よ り大 きく 、玉 一 墾 橋 部 位 で 疊 歪 全 届 イ オ ン 上 の 電 子 密 度 が 高 い ほ ど 大 きい 。す な わち 、配 位子 のa供与 性並 び に 兀 受 容 性 はPPh2Fc冫bzpy冫mbpyeの 順 で あ り 、 混 合 原 子 価 状 態 の 安 定 性 と 同 じ 傾 向 で あ る 。 他 の ニ つ の 要 因 に つ い て も 、 金属 イ オン と配 位子 の軌 道 の混 合度 合い が大 き い系 であ るほ ど 、 混 合 原 子 価 状 態 が 安 定 で あ る こと が 明ら かで ある 。従 っ て、 分子 内の 相互 作 用の 大き さは 、 主 に上に述べた三つの要因によって決められることが明らかになった。

  最後 に 、1) で述 べ たオ スミ ウム ポ ルフ ィリ ン多 量体 に つい て、 顕著 な分 子 内相 互作 用が 観 測 さ れ な か っ た 原 因 を 考 察 し た 。こ れ ら多 量体 では 反応 中 心で ある オス ミウ ム イオ ンは 軸配 位 子 とし て架 橋 配位 子の トラ ン ス位 に強 カな 電子 吸 引基 であ るカ ルポ ニ ルを 配位子として持 っため、

オ ス ミ ウ ム イ オ ン 上 の 電 子 密 度が 低 くな って いる と考 え られ る。 また 、同 時 にこ のカ ルボ ニ ル 配 位 子 は 、 卜 ラ ン ス 影 響 に よ り架 橋 配位 子で ある ポル フ ィリ ンの ピリ ジル 基 とオ スミ ウム イ オ ン と の 相 互 作 用 を 阻 害 し て い る。 こ のニ つの 原因 によ り 、オ スミ ウム イオ ン と架 橋ポ ルフ ィ リ ン の 軌 道 の 混 合 は 小 さ く な る た め 、 分 子 内 相 互 作 用 が 観 測 さ れ な か っ た も の と 思 わ れ る 。   以 上 の よ う に 、 本 研 究 で は 、酸 化 還元 活性 な多 量体 に おけ る分 子内 の相 互 作用 の要 因と し て 重 要 な も の は1. 金 属 イ オ ン の 逆 供 与 性 、L子 のa供 与 性 並 び に 兀 受 容 性 、2, 金 属 イ オ ン と亘 量位 子 の配 向、3. 架擾 童臣 位で あ る金 属イ オン上の電子 密度の三っであることを明 らかにし た 。 本 研 究 に よ り 、 一 段 階 多 電子 移 動系 或い は安 定な 混 合原 子価 状態 を与 え る系 の構 築に 対 す る合理的指針が得られた。

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(3)

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(4)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

佐々木 市川 山岸 今村

陽一

    

勝 晧彦

    

     学位論文題名

Investigation of Redox Interactions in 〆 Transition Metal Complexes .

( 〆 型 遷 移 金 属 錯 体 に お け る 酸 化 還 元 相 互 作 用 に 関す る 研 究)

  

酸 化 還 元 反 応 は 金 属 錯 体 を 特 徴 づ け る 最 も 重 要な 性 質 の ーつ で あ る。 一 般 には 、 酸 化還 元

を 受 け る 部 分 は 中 心 の 金 属 イ オ ン 一 個 で あ る こ と が多 い が 、 配位 子 が 酸化 還 元 活性 で あ る場

合 も 多 い 。 金 属 イ オ ン が 複 数 個 含 ま れ る 多 核 錯 体 や、 酸 化 還 元活 性 な 配位 子 が 複数 個 含 まれ

る よ う な 錯 体 で は 、 酸 化 還 元 反 応 の 過 程 で し ば し ぱ複 数 の 酸 化還 元 中 心間 に 相 互作 用 が 生ず

る 。 こ の よ う な 酸 化 還 元 活 性 な 基 を 複 数 個 持 つ 錯 体は 、 多 電 子移 動 系 とし て そ の合 成 自 体が

重 要 で あ る が 、 さ ら に そ の 酸 化 還 元 過 程 で の 相 互 作用 の 研 究 によ り 、 その 相 互 作用 の 機 構や

そ れ と 錯 体 の 電 子 状 態 と の 関 連 な ど が 明 か と な り 、基 礎 的 な 理解 に 役 立つ 他 、 より 合 目 的的

な 多 電 子 系 の 設 計 に も つ な が る 。 し か し な が ら 、 これ ま で の 研究 は 断 片的 な も のが 多 く 、総

合 的 、 系 統 的 な 理 解 に つ な が る も の は ほ と ん ど 見 られ な か っ た。 著 者 は、 独 自 の錯 体 設 計に

よ り 、 新 し い 多 電 子 移 動 系 の 設 計 、 合 成 を 行 い 、 それ ら を 用 いて 酸 化 還元 相 互 作用 の 機 構を

初 め て 系 統 的 な 立 場 か ら 明 か に し 、 こ の 分 野 の 新 た な 展 開 の 道 を 開 い た 。

  

論 文 の 内 容 は 大 き く ニ つ に 分 け ら れ る が 、 そ の第 一 部 で は、 メ ソ 位に ピ リ ジル 基 を 複数 個

導 入 し た ポ ル フ ィ ル ン を 架 橋 配 位 子 と し て 用 い 、 別 の オ ス ミ ウ ム ポ ル フ ィ リ ン ユニ ッ 卜 を2

な い し

4

個 連 結 し た 錯 体 を 扱 っ て い る 。 合 計

9

種 の 新 錯 体 が 合 成 さ れ て い る 。 オ ス ミ ウ ム イ

オ ン や そ れ に 配 位 し た ポ ル フ ィ リ ン は 酸 化 還 元 中 心で あ る が 、そ の 酸 化還 元 過 程で の 酸 化還

元 中 心 間 相 互 作 用 は 観 測 さ れ ず 、 こ れ ら の 錯 体 は いづ れ も 一 段階 多 電 子移 動 系 であ る 。 一連

の 錯 体 で オ ス ミ ウ ム に は

CO

が 配 位 し て い る が 、 こ の

CO

が 電 子 の 逆 供 与 を 受 け る た め 、 オ ス

ミ ウ ム 上 の 電 子 密 度 が 減 少 し 、 相 互 作 用 に 十 分 な 電子 密 度 が ない こ と が、 こ の 理由 と し てあ

げ ら れ て い る 。 こ れ ら の 錯 体 は い づ れ も 、 構 造 自 体も 興 味 深 いも の で あり 、 ポ ルフ ィ リ ンオ

リ ゴ マ ー 合 成 の ー つ の 重 要 な 指 針 を 示 し た 点 で の 意義 も 大 き い。 さ ら にポ ル フ ィリ ン 内 のプ

(5)

口卜ンの移動過程をNMR 法で解析するなど、いくっかの重要な派生効果も報告されていてい る。

   第二部では、酸化還元活性な配位子が複数個一つの金属イオンに配位した単核錯体を新規 に合成し、その配位子問の酸化還元相互作用を系統的に調べている。この目的のために、筆 者は高度の合成技術を駆使して9 種類の新錯体を合成している。研究成果の最も重要な点は、

一つの金属イオンに配位していて距離的にも近接しているにも関わらず、配位子間の酸化還 元相互作用は極めて小さいことを見い出したことである。これまでは、研究に適切な錯体が 得られていなかったためもあって、相互作用は大きいはずだと考えられてきた。本研究によ り、配位子間の酸化還元相互作用は配位子間の距離に依存するのではなく、金属イオンのd 軌道を介した相互作用、特に兀軌道相互作用が極めて重要な役割を演じていることが初めて 明かとなった。著者の合成した錯体では、酸化還元活性配位子として塩基性の大きく異なる 3 種の配位子、配位子間の立体配置の異なるシス体、トランス体の対、さらに酸化還元に直 接関与しない第3 配位子として芳香族アミンを含む典型的な錯体からCO やべンゼンのよう な有機金属錯体まで、というように相互作用の要因を系統的に調べられるような設計がなさ れている。その結果、相互作用を大きくする要因として、(1 )酸化還元活性配位子自体と しては、6 供与性が大きく、 7c 受容性が大きいこと、(2 )シス体がトランス体より有利であ ること、(3 )金属イオン上の電子密度が大きいことが重要で、金属イオンから逆供与で電 子 を 奪 う 有 機 金 属 型 錯 体 で は 相 互 作 用 は 小 さ い こ と が 明 か と な っ た 。    以上のように、本論文は、一つの錯体ユニット内にある酸化還元中心間の相互作用につい て、酸化還元中心が金属イオンであるもの、配位子であるものの両方を取り上げ、共通の視 点から相互作用の本質を明かにしたものである。得られた知見は、単に金属錯体の酸化還元 反応性の基礎的な情報にとどまらず、生体内多電子触媒過程の理解に重要な情報であると共 に、電導性物質、多電子触媒系など応用的にも重要な分野に対してもその基礎的な設計概念 を提供するものとして、大きな波及効果が期待される。

   よって著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格があるものと認める。

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図2に実験装置の概略を,表1に主な実験条件を示す.実