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中﨑博文 学位論文審査要旨

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平成22年2月

中﨑博文 学位論文審査要旨

主 査 清 水 英 治 副主査 池 口 正 英

同 林 一 彦

主論文

肺小細胞癌細胞株におけるPTEN遺伝子変異の有無とTK/PI3K/AKT/mTOR経路の活性阻害を介 した細胞増殖抑制効果の検討

(著者:中﨑博文)

平成22年 米子医学雑誌 61巻 20頁~29頁

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学 位 論 文 要 旨

肺小細胞癌細胞株におけるPTEN遺伝子変異の有無とTK/PI3K/AKT/mTOR経路の活性阻害を介 した細胞増殖抑制効果の検討

肺小細胞癌は標準化学療法により60-80%の奏効率を示すが、生存期間中央値は限局型小 細胞癌で約20ヶ月、進展型小細胞癌で約12ヶ月と予後不良である。治療の中心であるシス プラチンなどの細胞障害性抗癌剤は、早期に耐性となり癌の局所または転移再発を来すた め、予後改善のためにはこれらの薬剤のみでは不十分である。近年、様々な癌腫で分子標 的薬が臨床に導入されるようになってきた。TK/PI3K/AKT/mTOR経路は細胞の増殖に関わる 細胞内シグナル伝達経路として知られており、PTEN遺伝子の変異・欠失による不活化はこ の経路の活性化を引き起こし癌の増殖、進展に寄与していると言われている。これまでに も肺小細胞癌でこの経路に対する分子標的治療が試みられてきたが、未だその有効性は示 されていない。そこで本研究では肺小細胞癌においてPTEN遺伝子変異の有無と

TK/PI3K/AKT/mTOR経路の活性阻害を介した細胞増殖抑制効果の関係について基礎的に検討 した。

方 法

肺小細胞癌細胞株のうちPTEN遺伝子変異を有するLu134A細胞、N417細胞とPTEN遺伝子変 異のないMS1細胞、Lu135細胞を用いた。ウエスタンブロッティング法によりそれぞれの細 胞のPTEN、AKT、リン酸化AKT、S6RP、リン酸化S6RPの発現を調べた。次にN417細胞とMS1 細胞を用いてPI3K阻害薬のLY294002、mTOR阻害薬のrapamycin、MEK阻害薬のPD98059、およ び細胞障害性抗癌剤のcisplatinの細胞増殖抑制効果をMTT法で検討した。また、上記の各 阻害薬で処理した時のそれぞれ対応するリン酸化タンパクの発現変化をウエスタンブロッ ティング法で調べた。さらに非特異的チロシンキナーゼ (TK) 阻害薬のgenistein、特異的 TK阻害薬のSU11274(MET阻害薬)、PP2(c-Src阻害薬)、AG1024(IGF-1R阻害薬)のN417 細胞、MS1細胞に対する細胞増殖抑制効果とそれぞれのTK蛋白の発現を同様に調べた。

結 果

PTEN遺伝子変異のないMS1細胞、Lu135細胞はPTEN蛋白が発現していたのに対し、PTEN遺 伝子変異のあるLu134A細胞、N417細胞ではPTEN蛋白の発現がなかった。また、Lu134A細胞、

N417細胞ではMS1細胞、Lu135細胞と比較してリン酸化AKT、リン酸化S6RPの発現が強く、

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PI3K/AKT/mTOR経路が活性化されていると考えられた。N417細胞とMS1細胞をLY294002で処 理すると、N417細胞でより高い細胞増殖抑制効果を示した。またLY294002で処理した時の リン酸化AKTとリン酸化S6RPの発現はN417細胞、MS1細胞とも時間依存的に抑制された。

rapamycinで処理した時もリン酸化S6RPはN417細胞、MS1細胞のいずれも時間依存的に抑制 されたが、N417細胞でより高い細胞増殖抑制効果を示した。PD98059で処理した時はN417 細胞、MS1細胞ともにリン酸化ERKは時間依存的に抑制されたが、両者に対する細胞増殖抑 制効果は低かった。cisplatinはN417細胞、MS1細胞の細胞増殖を抑制したが、2つの細胞間 でその効果に差はなかった。これらの結果より、PTEN遺伝子変異の有無による薬剤感受性 の差はPI3K/AKT/mTOR経路を抑制する薬剤で特異的に生じることが示唆された。次にN417 細胞、MS1細胞を非特異的TK阻害薬のgenisteinで処理したところ、N417細胞でより強い細 胞増殖抑制効果を示した。同様にこの2つの細胞で特異的TK阻害薬を用いて検討したところ、

MET阻害薬の細胞増殖抑制効果は両者でほぼ同じであったのに対し、c-Src阻害薬、IGF-1R 阻害薬の効果はN417細胞でより強かった。また、MET蛋白の発現は両者で同等であったのに 対し、c-Src、IGF-1Rの蛋白発現はMS1細胞よりN417細胞で高かった。このことからPTEN遺 伝子変異細胞ではPI3K/AKT/mTOR経路の上流のTK阻害薬に対する感受性も高く、さらにその 感受性はTK蛋白の発現の高さと関連していると考えられた。

考 察

本研究において、まず、PTEN遺伝子変異のある肺小細胞癌細胞ではPTEN蛋白が欠損して おりPI3K/AKT/mTOR経路が活性化されていることが分かった。また、PTEN遺伝子変異細胞は PI3K/AKT/mTOR経路の活性阻害により強く細胞増殖が抑制されることが分かった。さらに、

この経路の上流に位置するTK蛋白の発現が高いと、それぞれの特異的TK阻害薬に対する感 受性が高いことが分かった。これらのことより、PTEN遺伝子変異のある肺小細胞癌細胞で は、癌細胞の増殖がTK/PI3K/AKT/mTOR経路の活性に依存しており、この経路の分子活性を 阻害することで強い細胞増殖抑制をもたらすと考えられた。以上より、PTEN遺伝子変異の 有無をバイオマーカーとすることで肺小細胞癌における新たな分子標的治療の可能性が示 された。

結 論

PTEN遺伝子変異を有する肺小細胞癌細胞は、TK/PI3K/AKT/mTORの細胞内シグナル伝達経 路が活性化され、これらを阻害することで強い細胞増殖抑制を示す。PTEN遺伝子変異をバ イオマーカーとした、肺小細胞癌の新たな分子標的治療となる可能性が示された。

参照

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