Title
シイタケ菌の子実体形成に関する生理学的研究( 内容の要旨
)
Author(s)
池ヶ谷, のり子
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第028号
Issue Date
1995-03-14
Type
博士論文
Version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/2369
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏 名(本籍) 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与年月 日 学位授与 の 要件 研究科及 び専攻 研究指導を受けた大学 学 位 論 文 題 目 審 査 委 貞 池ヶ谷 のり子 (静岡県) 博士(農学) 農博甲第28号 平成7年3月14日 学位規則第4条第1項該当 連合農学研究科 生物資源科学専攻 信州大学 シイタケ菌の子実体形成に関する生理学的研究 主査 信 州 大 学 教 授 林 康・夫 副査 信 州 大 学 教 授 柴 田 久 夫 副査 静 岡 大 学 助教授 瀧 川 雄 一 副査 静 岡 大 学 教 授 露 無 慎 二 副査 岐 阜 大 学 教 授 百 町 満 朗 論 文 の 内 容 の 要 旨 現在,わが国の生シイタケ栽培は栄養剤を添加した菌床栽培に移行しつつある が,現段階では培地成分,培養条件,発生操作など,技術的に完成されていると はいい難い。シイタケ菌は麺出土!旦で極めて子実体を形成しにくく,形態形成研 究の大きな障害となっていた。本給文は,まず主旦裏上里旦において短期間に,かつ 確実に子実体を形成する菌株を探索し,これを用いて子実体形成に及ぼす培地成 分と培養条件を解明するとともに,菌糸体生長と子実体形成に伴う各種酵素活性 の変化を調べて,形態形成の生理的背景を明らかにした結果を取りまとめたもの である。 欝1章ではシイタケを含む食用担子菌類の栄養生長及び形態形成に関する既.往の 研究を抄録した。 第2章ではシイタケ菌60菌株を供試し,グルタミン酸利用性,食塩耐性,ポリフ ェノール酸化酵素反応,多糖類分解酵素反応,恥pm muroiaM菌に対する抵抗 性,などが菌株によって異り,いくつかのグループに分けられることを明らかに した。
芳3章では培地成分と栄養生長及び子実体形成との関係について論述した。供試 したシイタケ菌73曹操はいずれも0・2ポ市販リグニン添加ペプトン・グルコース培 地(PGL)において菌糸体生長と子実体形成が著しく促進された。菌糸体生長はPG培 地のそれに比較して平均2・3倍となった○ このような効果はスギおよぴブナからジ オキサンで抽出した純リグニン,リグノスルホン軌およぴフェルラ軌バニリ ンなどのフェノール化合物でも確認された。フェノール化合物では10∼50〝g/ml 濃度の添加で最大効果が発現した。フェノール化合物の促進効果は培養開始時の 添加が最も顕著であり・培養15日日以降の添加では効束はみられなかった。しか し,15日間培養したのち・4℃で菌糸体の生長を停止させてバニリンを添加すると 子実体が形成された。これらの事実から,菌糸体が生長開始時にフェノール化合 物を吸収すると・菌糸体内で生殖生長への移行が始まることが明らかになった。 葬4章では子実体形成とヘミセルロースの関係について論述した。ダルクロン酸 およぴガラクツロン酸は0・2ほ度の率加で,フェノール化合物と同様に栄養生長 と子実体形成を促進した。さらに・これらの物質はフェノール化合物との同時添 加で相乗効果を示した。菌糸体生長に有効なセロビオースをバニリン・ウロン酸 培地(PGVGIcU)に0・2$濃度に添加すると・子実体形成までの期間短縮宜効果があっ たが・その他の培地ではみられなかったことから,ウロン酸などの存在が子実体 形成に重要な役割を持つことが明かとなった。 算5章では・子実体形成と細菌との相互関係について姶述した。シイタケほだ木 表面および子実体に普遍的に存在する一種の細菌をその細菌学的性質から非蛍光 性Pseudom OnaS属 細菌と同定した。この細菌をPGL培地に接種すると子実体形成を 促進した。また・この細菌を添加した水にほだ木を浸水すると子実体増収効果が みられた。細菌の効果は窒素源の供給によるものと考察した。 算6章では子実体形成と酵素活性の関係を論述した。菌糸体乾燥重量が最大とな る子実体形成直前には・培養渡波申のセルラーゼ(CMCase)およびラッカーゼが高 い活性を示した。子実体形成のみられないPG培地ではこれらの活性は低く推移し た。フェノール化合物の添加時期を遅らせると,セルラーゼおよびラッカーゼ活 性が最大を示す時期並びに子実体形成時期も平行的に遅れた。さらに,辞素阻害 剤を用いた実験結果などから,これらの酵素活性の増大並びに菌糸体乾燥重量の 著しい増加は,子実体形成時に多量に必要とする炭素源供給のためであり,栄養 生長から生殖生長に移行した結束,あらわれるものと考無した。 算7章では菌体内のグルタミン酸脱水素酵素(GDH)と子実体形成との関係を論述
ー4:1-した。この酵素活性は培養初期と子実体形成直前の2回,ピークを示した。フェノ ール化合物はGDH活性を高める効果があり,また,子実体形成阻害効果のみられた ジエチルジチオカーバメイト(DETC)を添加すると,培養初期のGDHの活性上昇が抑 えられた。これらの事実は,フェノール化合物を吸収するとGD相性が上昇し,子 実体形成誘導酵素の生成が始まるという仮説の妥当性を示した。 以上の事実から,シイタケ菌のリグニン分解能は単に従来考えられていたよう に,セルロースやヘミセルロースの利用を容易にする栄養的役割のみでなく,菌 糸の栄養生長から生殖生長への転換に重要な役割を併せもつものと結論した。 審 査 結 果 の 要 旨 平成7年1月20日信州大学農学部において、蕃査委員全員出席のもとに約40分 に亘る発表と、約30分の質疑応答が行なわれた。ひきつずいて別室にて審査委貞全 員出席のもとに、研究内容について審査委貞会を開催した。本研究の内容ならびに審 査の結果は下記の通りである。 多くの栽培食用きのこの中でシイタケ菌は、菌床栽培の極めて困難な種類であり、 子実体形成の容易な品種を見いだし、その菌糸体生長と子実体形成の培養条件を解明 することはシイタケ栽培上極めて重要である。 1.供試菌株は、グルタミン酸を窒素源とする合成培地での発育から、これの利用性 菌株と非利用性菌株の2菌株群に類別できた。後者では菌糸発育に有効なアスパ ラギン酸の利用がグルタミン酸添加で阻害される。
2.食塩添加噂地上で培養すると、グルタミン酸利用性南棟は高い食塩耐性を示し、
両者の間には高い相関性が認められる。 3.培養菌糸を19種の生化学的性質の試験の結果、フェノーーール酸化酵素の生塵性が菌 株間で差があり、基質誘導性に分化段階が存在することが判明した。 4.シイタケ菌の菌寄生菌ヒポクレアに対する抵抗性試験の結果、抵抗性は菌株によ って抵抗性と非抵抗性の菌群に分けられ、菌群が分かれるのにはCⅡCaseが深く関 与している。 5.供試菌株を0.2Ⅹリグニン添加培地で培養すると、基本培地培養の2.3倍の菌糸生 長量を示すとともに、特定の菌株において顕著な子実体形成促進効果が認められ た。ブナ及びスギから抽出したリグニン等フェノール化合物、10∼50〝g/舶の 添加により菌糸生長及び子実体形成が最大効果を示した。 6.選抜された子実体を形成し易い恥68菌株を供試した試験では、培養初期の菌糸休 が生長を開始するときにフェノール化合物を吸収することが子実休形成に重要な 関係があり生殖生長への転換にc-A肝が関与している可能性を示唆した。 7.軋68菌株をフェノール化合物添加基本培地に0.2Ⅹのウロン酸を添加した培地で培 養すると、子実体発生までの期間が短縮するが、これはセロビオースの栄養生長 促進効果によるものと考える。8.シイタケ菌は、培地pHが4.0以下になると菌糸体生長及び子実体形成が抑えられ pH3.5では子実体形成がみられない。シイタケ相木及び子実体上に生息する細菌 をシイタケ培養に接種すると、培養初期の接種では子実体形成は抑えられるが培 養後期の接種では子実体形成促進効果が認められた。これは細菌が培地pHを3.5 以下に下げる働きがあるためによる。 9.基本培地にフェノール化合物及びウロン酸を単独又は同時に添加すると、子実体 形成に伴う菌糸体乾燥重量、培養濾液中のCHCase及びラッカーゼ活性はいずれも 子実体形成直前において著しく増加し、子実体形成時には減少した。菌糸体生長 量、C且Case及びラッカーゼ活性の著しい増加は、菌糸休が生殖生長に転換した結 果として、子実体形成時に多量に必要となる炭素源確保のために起こったものと ・思考する。 10.軋68菌株の培養に伴う菌糸体中のグルタミン酸脱水素酵素活性を試験した結果、 フェノⅦル化合物及びウロン酸を単独又は同時に添加した培地において、培養初 期と子実体形成時に高い括性が認められた。 1)フェノール化合物は、GDH活性を上昇させる効果が認められる。 2)培養初期の、GDHの高活性は子実体形成を誘導する条件を準備する ことに関与している可能性がある。 3)子実体形成に関与する酵素系の誘導生成は、培養15日目までにフェ ノール化合物及びウロン酸を一方または両者を吸収してから20日間 程度の間に行なわれる可能性がある。 などが明らかになった。 以上の内容により、審査委員会の審査委員全員一致で、本論文が岐阜大学大学院連 合農学研究科の学位論文として十分にふさわしいことを認めた。