「朝の十分間読書」がもたらしたもの
著者
塩山 啓子
雑誌名
清心語文
号
3
ページ
106-118
発行年
2001-08
URL
http://id.nii.ac.jp/1560/00000354/
﹁朝の十分問読書﹂がもたらしたもの
会 学 文 本 日 語 本 日 学 大 子 女 、し 一 圭目 、︶﹂ー ム ダ ル ト ー ノ 月8
年 01 20 号3
第 文 語 、し 一 圭目 、︶﹂1 ﹁たくさんの本が読めてよかった。朝読がなかったら、今まで読ん だ本に出会うこともなかったと思う。最初はスッゲーめんどくさかっ たけど、プラスになったり感動できたことが嬉しい。﹂ 私が担任をしている三年B組もあとわずかになったある日、﹁朝の十 分間読書﹂についてアンケートをとった。この文章はその中のM子の ものだ。五月頃掃除をサボったことを注意すると、﹁先生がすればい い﹂と吐き捨てるように言っていたM子の書いた文章を見て、私は驚 き感動した。そして、﹁朝の十分間読書﹂をやっていて本当によかっ た、と心から思った。高一、二と欠席しがちだったS子も、﹁先生が持 ってきてくれた本で、いろんなジャンルの本が読めた。朝読の時間を もう少し長くすればよいと思う。﹂と書いていた。高三で発憤し、日本 文学を極めたいとついに大学進学を果たしたS子とは、本を介して話 すことが多かった。私が時々図書館から運ぶ本にいつも関心を示して塩 山
啓 子
くれ、熱心に読んでいた。﹁朝の十分問読書﹂も四年目を迎え、感動の ドラマがあちらこちらで生まれている。 私が勤務する山陽女子中学・高等学校は、平成一二年一二月に、﹁平 成十二年度生きる力を育む読書実践活動推進事業優秀実践校﹂に選ば れ、文部大臣より表彰されるという栄誉を受けた。この表彰を機に、 なぜこのような全校をあげての読書推進活動が実現できたのか、今ま での図書館活動を振り返りつつ、成果と今後の課題を明らかにしてい きたい。二。図書館活動の歴史
山陽学園は、一八八六︵明治一九一年に創立され、今年で一一五年 目を迎える私立の女子中学・高等学校である。他に幼稚園と短大・大 学を併設する総合的学園である。山陽学園は、日本の先駆的教育者で かじろよし ある上代淑先生が五一年問校長として務め、﹁愛と奉仕と感謝﹂をその 教育理念として実践してきた。現在中学校三クラス、高校︵普通科・ . 061
■音楽科︶三五クラス、一一七八名が在学している。 山陽学園に初めて図書室が設けられたのは、明治三五年のことであ った。その後昭和三一年に、学園創立七〇周年を記念して独立した建 物の図書館ができたことで、本校の図書館活動は大きく発展していく ことになった。しかし、この図書館もたやすくできたものではなく、 戦後の混乱期から高等学校として何よりも図書館を、という先駆者の 熱い願いの結集したものであった。特に当時の校長上代淑先生が図書 館の重要性を説いて、文部大臣にまで寄付を募ったという話も残され ている。その後図書委員会が組織され、昼休みのレコードコンサート などが図書館で開かれるようになった。昭和四〇年の図書館新聞を読 むと、四八%の生徒が一日のうち一⊥二時間を家庭で読書をしている という記録が残っている。しかし、その後の中学生・高校生の読書離 れは年々進み、何とか全校生徒を本に親しませる方法はないかと、昭 和五四年に年二回のLHR読書会を提案し実現することになる。年に 二回ではあるが、この読書会は全教師と生徒とが本を通してコミュニ ケーションを図るという、全校をあげての取り組みになっていった。 そして今年で二二年目を迎え、さらに継続している。 昭和五四年以降本校で行われた読書活動推進のためのさまざまな取 り組みは、次の通りである。 昭和五四年 ・全校一斉LHR読書会開始。 ・学年より読書係選出。 昭和五七年 ・中学校縦割り読書会実施。 ・教員対象読書会実施。 昭和五四年 ・手作り紙芝居製作。 ・和綴じ本講習会開始。 昭和六一年 ・模擬読書会開始。 昭和六二年 ・﹁読書の時間﹂開始。︵年三日、三〇分ずつ︶ ・中学校親子読書会実施。 平成一年 ・関西高校との合同読書会実施。 平成二年 ・トーハン見学開始。 平成七年 ・米子﹁本の学校﹂への研修旅行実施。 平成一〇年 ・﹁朝の十分間読書﹂開始。 ・生徒による漫画版﹁上代淑の生涯﹂刊行。 平成一一年 ’ 07
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■・フルートと読み聞かせの会実施。 平成一二年 ・絵とき日めくり作成。 ・馬頭琴と読み聞かせの会実施。 ・昔話講演会実施。 ・全校読み聞かせの会実施。一終業式前︶ これらの活動が二〇年以上に渡って積極的に取り組まれた理由は、 図書委員と図書課の教師と司書とが毎週一回定例委員会を実施し、話 し合いの中でそれぞれの役割を自覚し、補いつつ組織的な活動を続け る事ができたからだと考えられる。現在図書委員三八名、図書課の教 師八名が地道な読書推進活動を実施し、学校全体の教育活動に深く関 わり、生徒一人一人を豊かに成長させていく方策について提案をする に至っている。この基盤となっている図書委員会活動の概要を、次に 明らかにしたい。
三 図書委員会活動の概要
図書委員会は、各クラスから選出された一名の図書委員と各学年か ら互選された一−二名の教師と一名のベテラン司書の総勢四六名によ って構成されている。﹁学校の中でもとりわけ楽しい場所H図書館﹂を 目指して、さまざまな活動を展開している。平成一二年度に行った主 な委員会活動は、次の通りである。 四月 ・第一回図書委員会︵役割決定一。 五月 ・模擬読書会︵対象:図書委員︶。 ・トーハン見学実施。 ︵参加者 生徒三七名、教師五名︶ ・山陽学園大学図書館利用開始。 六月 ・LHR読書会実施。 ・ビデオ上映︵乙武洋匡の一年問︶ 八月 ・研修旅行実施︵行先:箱根︶ 一一月・校内読書週間︵﹁星の王子さま﹂とサンテグジュペリ展︶。 ・馬頭琴と読み聞かせの会実施。 ・オープンスクールでの図書館紹介。 ・卒業生と﹁星の王子さま﹂について語る会実施。 一二月・和綴じ本講習会実施。 一月 ・稲田和子先生による講演会︵﹁今昔話とは﹂一実施。 二月 ・LHR読書会。 三月 。・全校読み聞かせの会一﹃花さき山﹄一実施。 ・蔵書点検。 平成十二年度の図書委員会活動の柱は、一、LHR読書会、二、研 修旅行と校内読書週間、三、読み聞かせの会等の催しの三点であった。 まず、年二回行われたLHR読書会は、次のような作品で実施された。 六月 高三 ﹃女優志願﹄ 高二 ﹃だからあなたも生きぬいて﹄ ■ 081
’二月 高一 中3 中2 中− 高二 高一 中3 中2 中1 ﹃翠ふかく﹄ ﹃ひめゆりの少女﹄ ﹃五体不満足﹄ ﹃ハツピーバースデー﹄ ﹃こころ﹄ ﹃命をくれたキス﹄ ﹃わたしのいもうと﹄ ﹃いじめ14歳のζ窃ω嵩①﹄ ﹃きいちゃん﹄ その読書会に助言者として初めて参加した教師、司会をした高一の 図書委員、参加した中学生の感想を次に掲載したい。 感想① 本音に触れる読書会一教師一 五月のある日、三年−組の読書会に助言者として参加していた だけませんか、と課題図書の﹃女優志願﹄を手渡された。喜んで、 と笑顔で返答しながらも、内心わけのわからない本の読書感想文 を宿題として与えられた時の気分になった。案の定、その課題図 書は、数日問本立てに飾ったままだった。ところがそれから数日 後、訪れた図書委員に驚いた。テーマの﹁福祉﹂について用意し た読書メモも、きちんと意見がまとめてある。意見の根拠や感銘 を受けた箇所は、付嚢が貼られている。そしてみっちりと練った 進行計画表まで用意しているのである。ただの読書感想文の発表 会ではなさそうだ。慌てた私は、すぐに本を読み終えた。 そして、読書会。初めて三1の教室へ行く。みんな輪になって、 少し落ち着かない様子。司会の言葉で会が始まった。﹁障害者が暮 らしやすくなるために、私たちにできることは何でしょう。﹂指名 されたものから順に意見を言っていく。控え目だ。模範的な意見 に対して、﹁でも、実際はどう。﹂の反論的質問。各自が自分の経 験に立ち戻り、そして、再び輪に語りかける。頭を縦に振って聴 く者もあれば、首をかしげる者もいる。自分では考えもつかなか った意見にも遭遇する。穏やかな中に、それぞれが自分の考えを 真剣に知らせようと会は熱を帯びてくる。一時問ばかり前に初め て知り合ったメンバーに親しみを感じてきた。 時に、人から与えられた本ほど読みにくいものはない。またそ の逆に、人から与えられた本によって、本を読むことの面白さを 知り、さらには新たな視点が持てることもある。まして、読書会 という違う者同士が考えを共有できる機会を与えられることは、 その読み物に関する発見と同時に、相手の未知なる部分に触れる 機会も与えてくれる事になる。 本当に素晴らしい読書会であった。 感想② クラスのまとまりを感じて ︵高一図書委員︶ 高校生になってはじめての読書会。予想以上にとても大変なこ とだった。 − 09
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’読書会をするにあたって準備をしたことは、本の内容をよく理 解すること。﹁車いすの花嫁﹂というビデオも見た。一年生の図書 委員と司会をする人が集まってやる模擬読書会の司会もやった。 最初は何をやっていいのかわからず、先生に助けを求めてばかり いた。でもだんだんとアドバイスをもらい、コツがつかめてきて、 会をスムーズに進めることができた。 本番の読書会。私たちのクラスは作者の生き方・結婚・幸せに ついて話し合った。 その中で、﹁車椅子の生活になったこと﹂に対して﹁不便だろ う﹂とか、﹁何をするにも時問がかかるかもしれない﹂といった意 見もあったが﹁外面だけでなく、夫に支えられて前向きに生きる 作者の内面は幸せだと思う﹂といった意見も出てきた。 読書会を終えて、私たちのクラスはとてもまとまっているクラ スだと思った。また二年生になってもこのような読書会が出来る ように努力したい。 感想③ 白分を見つめ直せた読書会 一中学3年生一 私は読書会をして、とてもいい話し合いが出来たと思いました。 みんなが進んで発表したり、白分の思いをそのまま出し切ったと いう感じでした。今回のやり方はとてもいいと思いました。その 場ですぐに意見が言えるし、紙をなくしたとか、話を忘れてしま ったとか、そういう問題がなくスムーズにいけるからです。ただ、 みんなが分かりやすくなるためには、一人一人がちゃんと読んで からの方がいいなとも思いました。いじめについての話で、私はい じめというものに直接関わった事がないから分からないという感じ で聞いていました。でも、﹁どこからがいじめだと思いますか。﹂ という質問に対して、 ﹁相手の気にしている事をその場で言ったり、相手の気持ちを考え ずに行動したりするところからいじめだ。﹂ という意見に私はドキッとしました。自分は直接関わっていな いと思い込んでいたいじめを、自分がやったり、やられたりして いたからです。よく考えてみれば相手を傷っけることがいじめな のだと気付きました。昔の私は言いたいことを、たとえ人を傷つ けるようを言葉でもはっきりζ言ってしまいました。でも、山陽 に入って部活で上下関係を学んでからは、﹁相手の気持ちを考えて 行動したり話したりできるようになったな﹂と自己満足をしてい たのに、この話し合いをして自分がまだまだだということを思い、 恥ずかしくなりました。今回の話し合いで、もう一度自分を見つ め直すことが出来て、本当に良かったと思います。 もちろん毎回全クラスで感動的な読書会が実現するというわけには いかないのだが、司会者になった図書委員は、本の選定・読書メモの 回収・話し合いのテーマの決定・司会の仕方・資料の作成・助言者の 教師との打ち合わせなど大変な準備を重ねながらも、少しずっ成長し ■ 10
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■ていっている。昭和五四年の記録を見ると、一、クラス全員が読む、 二、全員が感想を書く、三、全員が一度は発言をする、という三つの 目標を掲げてスタートし、今日までほぼ同じスタイルを続けてきてい るが、継続できた要因は、体験を通して成長していく図書委員と、図 書課の教師の熱意によるところが大きい。そして課のみの取り組みに 終わらず、いまや多くの担任が読書会に協力し、主体的に関わるよう になっている。 本校で校内読書週間を設定し、図書館で展示などの様々な催しをす るようになったのは、昭和五二年以来今年で二四年目である。その 年々にテーマを設定し、図書委員が研究展示をするのであるが、昨年 はサンテグジュペリ生誕一〇〇年を記念し、箱根の﹁星の王子さまミ ュージアム﹂を見学し、研究した事を図書館で展示した。その中で昨 年初めての試みとして、読書に関するイラストと一行詩コンクールを 実施したところ、予想以上に多くの作品が集まり、とても楽しいもの になった。次にそのいくつかを紹介したい。 さみしいな朝の読書あと少し卒業しても忘れず毎日 朝読で読んだ本に感動し目には大きな涙が一粒 朝読でハリーと旅に出かけよう紅の汽車で夢の世界へ 山陽の心がなごむ一〇分問さすが朝読実践校 本読んでいろんな人に会える朝 朝読の平和な時間守ろうと汗かきはたらく図書委員会 平成一二年度図書課では三回の催しを行った。その一回は、読書週 問中に行った﹃スーホの白い馬﹄の読み聞かせと、馬頭琴演奏を聞く 会である。モンゴルからの留学生二人を招き、図書委員五人が分担し ﹃スーホの白い馬﹄を朗読し、モンゴルの方による馬頭琴の演奏を聞い た後、﹁モンゴルの人と生活﹂をテーマに話をしていただく、という大 変有意義なものであった。参加した教師・生徒六〇名の中から活発な 質問も出され、異文化に触れる貴重な体験となった。二回目は、三学 期に﹃かもとりごんべえ ゆかいな昔話五〇選﹄一岩波少年文庫一の著 者稲田和子氏を招き、﹁今、昔話とは﹂のテーマで話していただくこと ができた。話の中に昔話を採集した時の録音テープや読み聞かせなど もあり、皆うっとりと子供の頃に帰ったような心に残る会であった。 三回目は初めての試みとして、三学期終業式の前に全校生徒を対象に 読み聞かせの会を催した。﹃花さき山﹄︵斉藤隆介 作︶を放送部と演 劇部の生徒五名が舞台で朗読し、BGMは琴の生演奏、挿し絵はOH Pで映すという企画であった。初めてのことで最初とまどいの声も聞 かれたが、次第に作品の世界に皆が引き込まれ、体育館が静まりかえ ったのはとても印象的だった。今の高校生はと、とかく言われるのだ が、十分な準備の中で良い作品に出会えば必ず心を震わせることがで きるのだ、という確信をもつことのできた試みであった。 図書館というひとつの場所を中心に、そこに関わる教師と生徒とが 本を通して様々なメッセージを学校全体に伝えていくことは、大変楽 しい事である。こういう日常的な活動の中から、﹁朝の一〇分間読書﹂ ■
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■は提案され、やがては生徒一人一人を心豊かに成長させていく取り組 みへと発展させていくことができたのである。
四 ﹁朝の一〇分間読書﹂取り組みの経過
昭和六二年から一〇年間山陽女子中学・高等学校では、校内読書週 間中に三日間朝の三〇分間読書を実施していた。年にたった三日では あるが、図書館で用意した本を中心に全クラスの生徒が静かに読みふ ける光景は、とても素晴らしいものであった。なんとか一人でも多く の生徒に本に親しむ機会を与えたい、という思いから始められたもの ではあるが、それが読書体験のチャンスになるにはあまりにも不十分 なものであった。しかし、この時長年学校全体が毎日六時問の授業で 成り立っているシステムを、これ以上変更させていく発想を抱くこと はできなかった。ところが、平成五年、林公氏の﹃﹁朝の読書﹂が奇跡 を生んだ﹄が刊行され、それを読んだ図書課の教師は、心の底から驚 き納得をした。年三回の三〇分の読書でも、信じられないくらい生徒 は静かに夢中になって読むのだ。それが毎日続くとなったら、たった 一〇分でもどんなに素晴らしいことだろう。以後、平成一〇年の実施 に向けて少しずつ準備がなされていった。その後の経緯は次のような ものである。 平成九年 ・図書課で﹁朝の読書﹂実施に向けて検討に入る。 ・山陽女子中学校で試験的に﹁朝の読書﹂の時間が設けられる。週 四日問︵一〇月︶。 ・県立鴨方高校妹尾氏を訪問一一一月︶。 ・職員会議で﹁朝の読書﹂実施に向けて提案する︵一二月︶。 平成一〇年 ・教科主任会議で﹁朝の読書﹂について提案︵一月︶。 ・学年会議で提案。 ・主任会議で提案、了承。 ・職員会議で検討。 ・﹁朝の読書﹂を広げる東京交流会に参加一二月一。 ・企画会議で時間帯の検討。 ・職員会議で実施要領確認。 ・林公氏講演︵三月︶。 ・全校一斉に﹁朝の一〇分問読書﹂開始︵四月︶。 ・﹁朝の読書﹂全国縦断岡山交流会が本校で行われる︵一〇月︶。 平成一一年 ・﹁朝の読書﹂全国縦断京都交流会に参加︵八月︶。 ・﹁朝の読書﹂全国縦断高知交流会に参加。 平成一二年 ・大塚笑子氏講演︵五月︶。 ・ノートルダム清心女子大学日本語日本文学会にて実践発表︵八月︶。 ■ 121
■・﹁平成十二年度生きる力を育む読書活動推進事業﹂優秀実践校表 彰︵十二月︶。 平成二二年 ・他県の高校から図書館視察︵長崎県立鳴滝高校、長崎県立南商業 高校、愛知県立豊田高校、広島県立音戸高校︶︵二月︶。 ・岡山県図書館協会報から執筆依頼︵三月︶。 ニァレビせとうち﹁ニュース5﹂放映︵五月︶。 ・山陽新聞記事掲載﹃始業前に好きな本を﹄︵五月一 全体への提案の後、各学年で教師一人一人が持っている疑問を出し 合うことからこの取り組みは始まった。その時の主な意見は、次の通 りであった。 ・小テストはどうするのか。 ・起立、礼はいつするのか。 ・読ませっぱなしではなく、感想文を書かせた方が良いのではないか。 ・わざと遅刻をしてくる生徒がいるのではないか。 ・ずるずると授業中に読む生徒がいるのではないか。 ・本は最初、与えた方がいいのではないか。 ・SHRが5分間というのは短い。 ・準備、討議をする時問が短い。このままでいくと一学期で終わり そうだ。 ・本を持参しない生徒がいるので、その手当てを考えておく。 ・きちんとやらせるには担任の相当なエネルギーが要る。 ・学年によって、担任によってやらないクラスが出ないように全校 一斉でやることが大切だ。 ・活字離れの今、静かにじっと本を読み考える時問がもてることは 大変に良い。 ・読まない生徒、遅刻した生徒、喋る生徒、寝る生徒に対して担任 は根気強く指導をする必要がある。 ・実践校の報告を読んで、ぜひやってみたい。 ・お金もかからず、教師の特別な能力も要らない。これなら教師集 団が一致して取り組める。 その後、図書課の教師によってその疑問一つ一つを取り上げ、見解を 示し、学年会議で説明していった。とくに教職員向け研修会で講演して いただいガ林公氏からの次のようなアドバイスは、大変有効であった。 ★SHRが五分になることで、連絡や生活指導ができにくいと いうことについて ・生活指導は学校生活全ての場面で全ての教師がしてこそ真 の生活指導と呼ぶにふさわしいものであること。 ・朝の読書それ自体が生徒一人一人の心に訴える本物の生活 指導そのものであること。 . 13
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■・五分のSHRだけが連絡方法であるという固定観念を変え る事。 ★読めない・読もうとしない生徒の指導 ・これこそが教師の責任、教育そのものだという白覚を教師 白身がもつ必要がある。 ・生徒が個々に抱えている問題は違うのだから、その子にあ ったものを共に考えようとすることが重要。 ・待つことは大事だが、何も助けの手を差し伸べないのは待 つことにならない。 今振り返ってみると、教師個人の小さな不安も無視せず取り上げ、 話合いを繰り返していく事で、教師全体の認識が深まっていったと思 われる。そして、不十分にしろその時話合ったという事実が、この実 践を続けて行くうえでの共通の基盤として牛き続けていることが、今 実感できるのである。その話し合いは、四年目を迎えた今でも少しず つ継続させている。 当初図書課から提案した際、他校のあらゆる実践例から﹁朝の読書 がもたらす効果﹂というテーマでまとめたものをもとに説明していっ た。その内容は、次の八点であった。 一、本が読めなかった牛徒が読めるようになる。 二、朝の一〇分問が有効に使えるようになる。 三、遅刻が減り、HRに集中し、授業にスムーズに入れるようになる。 四、 五、 六、 七、 八、 集中力がっき、言語能力が伸びる。 生活のスタイルが変わる。 豊かな心と人問関係が育つ。 その生徒なりの成長があり、誇りが生まれる。 ﹁朝の読書﹂の効果は、数字では表せないものである。生徒の感 想の中に、その成果が端的に表現されると考えられる。 四年目を迎えた今、これらの内容がどの程度実現していったかを考 えた時、この取り組みの素晴らしさを改めて実感するのである。一か ら八の内容の全てが、程度の差はあれ一人一人の生徒の内にうまれ少 しずつ育っていることは、何より白分の言葉で書いた生徒の感想の中 から十分うかがえるのである。そしてまだ不十分であるとするなら、 それは生徒にではなく教職員全員が全ての生徒に責任をもつ、という 教師の確信ではないだろうか。また、全校が心を一つにして取り組ん でいる迫力によって一人一人の生徒を変えていくという、教師の認識 の不十分さにあるのではないだろうか。
五 ﹁朝の一〇分間読書﹂の成果
平成九年度の新入生アンケートによると、 なかった生徒は、なんと六一%にもなった。 八%なので、本校だけが例外ではなかった。 一ケ月に一冊も本を読ま 当時の全国平均は六九・ それが、﹁朝の一〇分間読 − 141
■書﹂を始めて四年目の今、本校での不読者数は三%に激減している。 一ちなみに全国の高校生の不読者数は、五八・八%である。︶ほとんど 全員の生徒が本に接し、本から何かを得ている現状である。次の二つ の表は、平成一二年度の生徒アンケートのまとめ︵資料1︶と、平成 一〇年度に入学した生徒の三年間にわたる意識の変化を数字でおった もの︵資料2一である。読書好きになった生徒は一〇三人から一九三 人に増えており、また物事に集中できるようになったという生徒も三 八人から六二人に増えている。そして、半数以上の生徒が朝の読書の 時間が好きだと答えている。このことは、三年間﹁朝の一〇分問読書﹂ を続けてきた次の生徒たちの感想に十分表現されている。 ★朝の読書を三年問してきて、最初は本にひかれるわけでもなく、 義務的に読んでいたと思う。でも今ではもっといろんな本を読ん でみたいと思うようになった。今ではクラスでこの本がよかった、 とかあの本はどうだ、とか本にっいての会話が多くなり、白分の 世界も広がったように思う。本を読んでいると共感することもあ れば怒りを覚えることもある。たくさんの人の考えを知り、いろ んな感情になり、多くの事を一冊の本から学ぶ。どんな小さな本 からでも必ず小さな発見があり、何らかの小さな感情をもつ。本 当に本ってすごい。朝読の時間があってよかったと思う。 ★﹁朝の読書﹂が始まって、生活が変わってきた。前は読書は嫌 いだったのに、それは機会が無かっただけで、読んでみれば一〇 分では足らないくらい集中してしまい、HRの時も先生の話を聞 かずに読んでいたこともあった。わたしが小論文入試で見事合格 できたのも、﹁朝の読書﹂のおかげだと思っている。 ★心が落ち着き、本を読む量が増えた。友達と作者について話し たり、本を貸し合ったりした。本を読むのが楽しみになった。目 標を見つけるきっかけになったし、知的好奇心も湧いてきた。朝 の一〇分では物足りなかったので、休み時問も読んだ。 ★朝読が始まってから、本だけでなく新聞にも目を通すようにな り、活字に対しての抵抗が無くなった。ある休みの日に音楽もテ レビもなしで本だけで一日を過ごしたところ、とても楽しく感じ た。これも三年間の﹁朝の読書﹂のおかげだと感謝している。 ★今年は今までで一番本を読んだ。読書は何となく真面目なもの だと思ってたけど、本を読んでいくうちにどんどんはまっていっ た。だから、朝の読書で得たことは、本のおもしろさが分かった ことです。 ★高校生活が終わったら﹁朝読の時問﹂がなくなってしまうので、 さみしい。大学へ行っても、働き出しても、一生死ぬまで本を読 み続けて行こうと思っています。本を読むことは、知らなかった ことを知ったり、興味の幅が広がったりと、自分にとってもすご くプラスにつながります。そして毎日本を読めるようなゆとりの ある生活を送っていきたいです。 ★﹁朝の読書﹂をしてきて今思うことは、私は慌ただしく家を出 ’ 15
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■てくるので、読書をすることで落ち着くことができ、一日の始ま りを実感し、けじめができたのではないかということです。 ★人は、怒ったり、喜んだり、悩んだりと様々な感情を持っている。 朝の読書は、そのような感情をすべて忘れることのできる時間でも あった。たった一〇分の短い時問だったが、本の中に入り込むこと により、その時問が止まったように長く感じたこともあった。よく ﹁本を読むことは、昔の偉大な作家と話をすることである﹂などと いわれる。その事を自分自身が体験でき、感動した覚えがある。私 は﹁朝の読書﹂を通して、読書の本当のすばらしさを知った。 次は平成二一年度末、教職員を対象にしたアンケートの中の主な意 見である。 一、﹁朝の読書﹂で私が見っけた喜び、感動。 ・私自身、今まであまり本を読む時問や機会がなくて、読書から 遠ざかっていた。それが朝読のお陰で前よりもっと本が好きに なれた。 ・数年前のSHRの忙しさを忘れたように、静かに一時間目の先 生を待っているクラスが増えている。読めていないクラスには まだ動きがある。八時五〇分頃全校はシーンとしている。 ・賑やかな状態から一転して静けさが訪れること自体が感動だ。 ・自分白身の価値観を変えたり、感情のコントロールができるよ うになった。 二、 ・図書委員がクラスの皆に本を読んでもらおうと努力している姿。 読書をすることで、生徒問の会話に本のことが登場することに なり、お互いに貸し借りするようになった。 ・私が受け持っている学年は、ちょうど三年前の朝読開始の時入 学した学年です。元来、本を読むことが好きだったこともあり、 この三年問二、三人をのぞき全員が熱心に朝読に取り組んでい ます。本を読むことが楽しくて仕方がない生徒が、次々に本を 探し出し、時には友人とどの作者がおもしろい等と話しながら 本を紹介し合っているのを見ると、本当に三年間続いていて良 かったなとつくづく感じます。 私がやってみた工夫 ・クラス文庫に自分の本や古本屋で買った本を並べている。 ・学級通信を使って本の紹介をしたり、担任が読んだ本も紹介した。 ・音楽がかかっている時にできるだけ早く教室に行き、本を用意 させるようにしている。 ・読書のすばらしさを話す。最近読んでおもしろかった本、課題 読書等を紹介する。自分の本、図書館の本を配って読ませる。 ・読み聞かせをすると、本当によく聞いてくれた。 ・読んだ本の内容について時々生徒に話すようにしています。生徒 からも﹁この本おもしろかったよ。先生も読んだら?﹂と会話の 材料にしています。本を手元に持っていない生徒には、クラスの 本を持たせ二回目、三回目でも読んでみようと言っています。 − 16
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■・図書ブックから生徒が読みたいと思う本を選ばせて図書館で借 りてきて学級文庫に置いた。生徒自身が選んだ本なのでよく読 んだ。 ・遅刻の生徒を後ろのドアのところで迎える。 ・本を読まない子に絵のある詩集などをすすめる。 ・最初の二週間が勝負。この間に絶対に読む癖をつけることが全 て。ここで、読まない生徒は何らかの本に対してか、学校に対 してかの問題があるので面談で話をする。 ・授業で良書の紹介をしました。﹁ダ・ヴィンチ﹂などの雑誌をよ く活用しました。 三、私の悩み ・最初の数分うるさいのが悩み。 ・本を読もうとしない子、読めるけど学校では読まない生徒をど のようにしたらいいのか。 ・一時問目に小テストがある場合、落ち着いて本が読めない。 ・いろんな本を勧めるには、自分自身が知識不足なこと。 ・静かにさせることには成功したが、本を読まずにプリクラを見 たり、宿題をする生徒も数名いる。その生徒たちに本の楽しさ がわかってもらえたのだろうかと反省している。 ・朝読よりも遅くに来る生徒に問題があり、その生徒たちに朝読 を利用した指導ができない。 ・活字嫌いの生徒に、これでもか、これでもかと読めそうな本を 運んではいるが、なかなか読める本がない。