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総合設計制度における容積率緩和と公開空地の効果に関する考察

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Academic year: 2021

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(1)

総合設計制度における容積率緩和と公開空地の効果に関する考察

政 策 研 究 大 学 院 大 学 まちづくりプログラム MJU10051 鎌田泰広

1.はじめに

現在、我国では土地利用に関する規制が数多く課 されおり、それらの根拠としては、社会的に適切で はない土地利用を制限することや都市環境を保全す るための配慮であるとされている。土地利用を制限 する規制の成立過程や変遷を概観すると、規制の算 定基準は必ずしも明快ではないものの、近隣外部不 経済や混雑外部不経済といった市場の不完備性によ ってもたされる市場の失敗の是正を目標にした規制 であると予想できる。しかし、これらの規制は主に 都市計画の立場から実施されているため、経済学的 視点等に立ったときに、様々な矛盾や問題点が見え てくる。

容積率規制もそのうちの一つであり、その根拠は 主に都市環境や交通環境の悪化を抑制するためとさ れている。その容積率規制を緩和する手法の中に総 合設計制度がある。本稿では,当該制度の活用によ って創出される公開空地は混雑外部不経済する機能 は小さく,また、近隣外部不経済に対して、どの程 度の効果があるのか非常に不透明であるという立場 で,分析を行い,考察を行うものである。

2.総合設計制度の概要

総合設計制度とは、一定規模以上の敷地面積及び 一定割合以上の空地を有する建築計画について、そ の計画が交通上、安全上、防災上及び衛生上支障が なく、かつ、市街地環境の整備改善に資すると認め られた場合に、各行政庁の許可により、容積率、斜 線、絶対高さの各制限を緩和する制度である。

なお、東京都では図

1

の通り、

1976

年~

2010

年 にかけて

674

件実施されている。

3.総合設計制度が周辺地価に与える影響に関する 理論分析等

1)容積率緩和と公開空地との関係性

容積率規制は前述の通り、交通環境と周辺環境へ の影響を考慮した上での規制であるが、総合設計制 度で定める容積率規制の緩和に対する公開空地の創 出は、容積が増加することによる周辺環境の悪化を 公開空地の創出により相殺する意味合いが期待され ている。周辺環境の悪化等の効果が周辺地価に反映 されるものとすると、総合設計制度が行われること により期待される地価の変動を、図

2

及び図

3

のよ うに表すことができる。容積率増加は、周辺環境の 悪化により、

P1

から

P2

に周辺地価を下げる(図

2)

。 一方、公開空地の創出により周辺環境の悪化を改善 することにより、周辺地価を再び

P2

から

P1

に戻す

(図

3)。総合設計制度が効率的に機能しているので

あれば、上記の反応が見られ、結果的に周辺地価の 変動は見られないことが期待される。

なお、周辺環境の悪化としては、周辺へ与える建 物の圧迫感や景観的な要素が考えられる.また、交 通環境への影響については、公開空地の性質上、考 慮されていないものと捉える。

0 10 20 30 40 50 60

S51 S53 S55 S57 S59 S61 S63 H2 H4 H6 H8 H10 H12 H14 H16 H18 H20

昭和51年から平成20年までの総合設計実績件数

図 1 東京都における総合設計制度の実績

(2)

2)用途地域による効果の差異

総合設計制度は、どの用途地域においても活用す ることができ、その実績を重ねてきた。元々高い容 積率が設定されている業務・商業施設が中心の商業 地域と、低い容積率が初期設定されている居住施設 を中心とした住宅地域とでは、総合設計制度が周辺 地域へ与えている影響は異なることが予想される。

商業地域における容積率に関する先行研究では、主 に交通に関する影響やオフィス需要などと関連した 内容の先行研究が行われており、商業地域における 容積率規制の緩和については正当化されるべきとす るものが多く見受けられる。総合設計制度を活用し ている物件についても、容積率緩和について上記と 同様の傾向が見られるのであれば、図4に示すとお り、容積率の増加により商業地域においては、周辺 地価を上げることが予測される。

3)住宅系用途地域について

住宅系用途地域においては、図5に示す通り、都 市計画法上

7

つに分類される。いずれも居住環境を 維持することを目的とし、地域に合わせて建築用途 の制限が設けられているが、中でも第

1

種低層住宅 専用地域においては、「低層住宅に係る良好な住居の 環境を保護するため定める地域(都市計画法第

9

条 第

1

項)」としており、建築用途が他の住宅系用途地 域に比べて厳しく制限されている。一方、準住居地 域や第

1

種・第

2

種住居地域においては、一定規模 を超えない事務所・店舗や大学・病院、ホテルなど の用途が許容されているため、比較的柔軟な活用が 行われている。

住宅地域において総合設計制度が活用された際の 周辺地価へ与える効果は、商業地域とは異なり、さ らに、低層住宅専用地域においては、他の住宅地域 に比べて厳しい用途制限が設けられていることから も、総合設計制度の活用による周辺環境への影響が 大きいことが予測される。

図 3 総合設計制度活用による公開空地増加に伴う周辺地価の変動

Q 1 Q 2 公開空地

P 1

P 2 周辺地価

図 2 総合設計制度活用建築物の容積率増加に伴う周辺地価の変動

Q 1 Q 2 容積率

P 1

P 2 周辺地価

図 4 総合設計制度活用建築物の容積率増加に伴う周辺地価の変動

Q 1 Q 2 容積率

周辺地価

商業地域 全用途地域

図5 用途地域別の建築物の用途制限

第1種 低層住居 専用地域

第2種 低層住居 専用地域

第1種 中高層住居

専用地域 第2種 中高層住居

専用地域 第1種 住居地域

第2種 住居地域 準住居地域

床面積の合計150㎡以下

床面積の合計500㎡以下

上記以外の物品販売行を営む

物品販売店舗・飲食店 (1) (2) (3) (3)

(1) (2)

(2)

ホテル、旅館 (2)

カラオケボックス等 大学、病院等

料理店等 店舗飲食店

上記以外の事務所等

ボーリング場、スケート場、水泳場等

営業用車庫 主な建築物の用途

住居系用途地域の種類

(1)当該用途に供する部分が2階以上、かつ1500㎡以下の場合に限る.

(2)該当用途に供する部分が3,000㎡以下の場合に限る

(3)延べ面積が1万㎡を超える大規模施設(店舗・遊技場・映画館等)は禁止されている.

(3)

4.総合設計制度が周辺地価に与える影響に関する 実証分析等

総合設計制度が周辺地価に与える影響について、以 下

2

つの仮説を基に実証分析を行う。

≪仮説1≫

総合設計制度が周辺地価に与える影響は、その用途 地域により異なるのではないか?

東京

23

区内の総合設計制度実施建築物が周辺地 価に与える影響について、実証分析を行うことによ り、仮説の検証を行う。東京

23

区内の平成

22

年度 の公示地価

1664

箇所の地価を用いて、総合設計制度 実施建築物から

200m

以内の公示地価の変動を実証 した.総合設計制度が活用されたことによる効果、

総合設計制度による容積率増加及び公開空地創出が 周辺地価に与える影響を分析した。

【推計方法】最小

2

乗法(OLS)により推計

【分析結果】

① 商業地域においては、総合設計制度による容積増 加に伴い周辺地価は上昇している。一方、公開空 地については、その面積が広がることによる周辺 地価への有意な影響が見られなかった。

② 住宅地域においては、総合設計制度による容積率 増加に伴い周辺地価に有意な影響を与えている 結果は得られなかったが、微弱に周辺地価を下げ ている傾向が見られた。また、公開空地について は、その面積が広がることによる周辺地価への有

意な影響が見られなかった。

≪仮説2≫

低層住居専用地域においては、総合設計制度による 周辺地価に与える影響が異なるのではないか?

東京

23

区内の住居系用途地域に対象を限定し、総 合設計制度実行建築物の周辺

200m

以内の公示地価 ポイントを抽出し、建築物の施工前後

3

年間の地価 を用いて、Difference-in-difference(以下「DID」

という)により、その効果を確認すると共に、総合 設計制度が周辺地価へ影響を及ぼす範囲(距離)に ついても分析を行う。

【推計方法】DIDにより推計

【分析結果】

①住宅地域においては総合設計制度が活用された場

合、

0-100m

の範囲の地価は有意に減尐している。

100m

を超えたエリアについては有意でない。

②低層住宅専用地域と

0-100m

ダミーとの交差項 は有意にマイナスであることから、他の住宅地域 に比べて、低層住宅専用地域では、総合設計制度 が実施されることにより、マイナスの作用がある ことが分かる。ただし、低層住宅専用地域で総合 設計制度が活用された際に、周辺地価を下げてい るか否かについては、

0

100m

ダミーが有意にプ ラスであること、容積率の増大に関しては

0

100m

ダミーとの交差項が有意にマイナスである ことを加味した上で評価する必要がある。

ln(公示地価) 係数 標準誤差

ln(敷地面積) 0.330 *** 0.016

ln(指定容積率) 0.247 *** 0.037

ln(最寄駅距離) -0.102 *** 0.008

ln(東京駅距離) -0.406 *** 0.025

住宅地域ダミー(公示地価) -0.075 *** 0.017 工業地域ダミー(公示地価) -0.299 *** 0.021 商業地域ダミー(総合設計制度) -0.044 0.033

工業地域ダミー(総合設計制度) 0.302 0.209

住宅地域ダミー(総合設計制度) -0.090 0.557 ln総合設計容積率×商業地域ダミー(公示地価・総合設計) 0.070 * 0.042 ln総合設計容積率×工業地域ダミー(公示地価・総合設計) -0.169 0.112 ln総合設計容積率×住宅地域ダミー(公示地価・総合設計) 0.102 * 0.056 ln総合設計容積率×商業地域ダミー(公示地価・総合設計) -0.027 0.035 ln総合設計容積率×工業地域ダミー(公示地価・総合設計) 0.026 0.054 ln総合設計容積率×住宅地域ダミー(公示地価・総合設計) 0.183 0.160

定数項 6.332 *** 0.180

修正済み決定係数0.702 サンプル数1664

注)***、**及び*は、それぞれ 1%、5%、10%で統計的に有意であることを示す。

注)***、**及び*は、それぞれ 1%、5%、10%で統計的に有意であることを示す。

ln(公示地価) 係数 標準誤差

ln(敷地面積) 0.250 *** 0.023

ln(指定容積率) 0.301 *** 0.059

ln(最寄駅距離) -0.126 *** 0.035

ln(前面道路幅員) 0.055 0.039

奥行/間口 -0.074 *** 0.019

(0m-100m)ダミー 3.523 * 2.105

(100m-200m)ダミー 1.949 1.439

(0m-100m)ダミー×低層住宅専用地域ダミー -0.082 * 0.047

(100m-200m)ダミー×低層住宅専用地域ダミー 0.027 0.114

(0m-100m)ダミー×ln増加容積率 -1.766 ** 0.745

(100m-200m)ダミー×ln増加容積率 -0.995 0.705

(0m-100m)ダミー×ln公開空地面積 -0.222 0.270

(100m-200m)ダミー×ln公開空地面積 -0.012 0.270

定数項 4.632 *** 0.211

年度ダミー yes

地域ダミー yes

総合設計制度実施ダミー yes

修正済み決定係数0.697 サンプル数438

(4)

③公開空地については、どのエリアの地価に対して も有意な効果が得られていない。

5.まとめ

1) 容積率緩和の効果

商業地域においては、総合設計制度実施建築物付 近の公示地価は、容積率が増加する程地価が増加す ることがわかった。これは、商業地域においては、

総合設計制度の活用による容積率増加が周辺に対し てマイナスの影響を発生させていないことを示し、

公開空地創出を義務化させる意味を希薄にしている。

また、住宅地域においても、総合設計制度実施建 築物付近の公示地価は、上昇していることがわかっ た。しかし、住宅地域の中でも低層住宅専用地域に おいては、その上昇は有意に低い。

これらから、容積率緩和の効果は用途地域により 顕著に異なる上、とりわけ低層住宅専用地域に関し ては、容積率の増加率により、周辺公示地価下げて いる可能性がある。

2) 公開空地創出の効果

いずれの公開空地であっても、周辺地価に対して 有意な効果を示さなかった。これは、公開空地が周 辺の地価に対して影響を与えないのか、又は、プラ スの影響を及ぼす公開空地とマイナスの影響を及ぼ す公開空地が混在している可能性を示している。

3) 総合設計制度に関する政策提言

提言1:総合設計制度においては、用途地域等に 合わせた詳細な制度設計が必要である。

容積率緩和の効果が用途地域により異なることか ら、総合設計制度は用途地域ごとに詳細な制度設計 が必要となる。また、公開空地が周辺地域に与える 影響について詳細な検証を行い、効果的な公開空地 の規模や形状について適切な制度を設ける必要があ る。

提言2:総合設計制度の活用が望ましくない地域 の設定が必要である。

低層住宅専用地域のように、緩和する容積率に より、周辺地価に対してマイナスの影響を及ぼす 可能性のある地域においては、総合設計制度の活

用自体を見直すことも含めて詳細に検討する必要 がある。

提言3:特定行政庁の裁量による指導の改善が必 要である。

総合設計制度が活用されることによる事後評価 等を適切に行い、指導に反映させる必要がある。

4) 本研究の課題

・本研究では、用途地域により総合設計制度が周辺 地価に与える影響について実証したが、適正な制 度設計を行うためには、用途地域以外の詳細な条 件を加味した実証分析が必要となる。

≪考えられる詳細な条件公開空地の形状、総合設 計制度の建築物の形状及び用途、周辺住宅地の 特性など≫

・総合設計制度を行った土地自体の地価は上昇する ことを加味した上で、

B/C等の検証が必要となる。

また、現行の用途地域及び容積率規制が適正か否 かの確認も併せて考慮する必要がある。

≪主要参考文献≫

◆福島隆司(1999)『経済学から見た都心居住促進論』総合都市研

70

◆和泉洋人(1998)『容積率緩和型都市計画』信山社

◆肥田野登・亀田未央(1997)『ヘドニック・アプローチによる住 宅地における緑と建築物の外部性評価』第

32

回日本都市計画学 会学術研究論文集,457-462

◆谷下雅義・長谷川貴陽史・清水千弘(2009)『景観規制が戸建住 宅価格に及ぼす影響-東京都世田谷区を対象としたヘドニック 法による検証-』計画行政

32

2

71-79

◆高暁路・浅見泰司(2000)『戸建住宅地におけるミクロな住環境 要素の外部効果』住宅土地経済

2000

年秋季号,28-35

◆東京都都市整備局市街地建築部建築企画課

HP

◆N.G.マンキュー(2005)『マンキュー経済学ミクロ編』東洋経済 新報社

◆高木任之(2002)『イラストレーション都市計画法』学芸出版社

参照

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