博 士 ( 医 学 ) 石 部 基 実
学 位 論 文 題 名
Human Prostatic Acid Phosphatase Directly Stimulates Collagen Synthesis a,nd Alkaline
Phosphatase Content of Isolated Bone Cells
( ヒ ト 前 立 腺 由 来 酸 性 フ ォ ス フ ァ タ ー ゼ は 分 離 培 養 骨 芽 細 胞 の コ ラ ー ゲ ン 合 成 と ア ル カ リ 性 フ ォ ス フ ァ タ ー ゼ 量 を 直 接 に 促 進 す る )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
緒 言
ヒト前立腺癌は骨に転移し易く,その頻度は諸家の報告によると約70%と言われている。骨転 移巣の約90%は骨増殖性であり,レントゲン写真では硬化像として認められ,組織学的に転移巣 に独新しい骨形成が認められる。前立腺癌組織からは塩基性線維芽細胞成長因子などの骨芽細胞 の活性を促進する物質が含まれていることが既に報告されている。
一 方,ヒ ト前立腺癌患者の血清及び転移巣において前立腺由来酸性フォスファターゼ(hPAP) が 正常に 比べて高 レベル にあるこ とがよく知られている。hPAPは分子量約90,000の糖夕ンパ クであり2個の分子量45,000のサブュニットから成っている。その糖鎖はマンノース6リン酸(M 6 P)を含んでいる。
ま た,骨 芽細胞の 分化を 促進させ るイン スリン様 成長因子‑u(IGF‑ II)に対する受容体と M6Pに対する受容体が同一であることが既に明らかにされている。
そ こ で 我 々 は ,hPAPが 細 胞 膜のIGF一u/M6P受 容 体を 介 し て直 接 骨 芽細 胞 を 刺激 し 得 るという仮説のもとで以下の実験を行った。
材料 及び方法 hPAP
hPAPはSigma社 の 精 製 標 品 を 用 い ,SDSポ リ ア ク リ ル ア ミ ド ゲ ル 電 気 泳 動(SDSー PAGE) に よ り そ の 純 度を 調 べ た。 ま た ,p― ニ ト 口フ ェ ニ ルリ ン 酸(pNPP)を 基 質と し て
J用 い,hPAPの酸 性フ ォ スフ ァタ ーゼ とし ての 機能 を調 べた 。ク 口ラ ミンT法にてhPAPを放 射性 同位 元素1 25Iで 標 識し 結合 実験 に使 用し た。
骨芽 細胞 の分 離培 養
生後1―2日目のラット頭蓋骨より無菌的に側頭骨を採取した。この骨片をコラゲナーゼを含 む37℃の緩衝液中で培養した。20分毎に5回にわたって細胞成分を回収した。以前に報告されて い る よう に, フラクション3,4,5 (40→100分)が 骨芽細胞を多く含んでいるので本実験に 用 いた。また,フラクション1は線維芽細胞を多く含んでおり,比較実験として用いた。細胞を 5% の 仔 ウ シ 血 清 を 含 むDulbecco sModified Eagle sMedium (DMEM)に て ,16mmマ ル チ ウ エ ル を 用 い て 培 養 し た 。hPAPを 添加 する24時 間前 に血 清を 含ま ないDMEMに変 えた 。 コ ラ―ゲン合成の測定
hPAPを 含 む 無 血 清DMEMに て 骨 芽 細 胞 を24時 間 培 養 し た 後 ,0.25mM proline,0.1ぷ Ci/ml[1゜C]prolineを 含 む 無 血 清DMEMO. 5mlで37℃ ,4時 間 培 養 し た 。0.25M NaOH で 細胞 を回 収し ,PeterkofskyとDiegelmannの方法に従いコラゲナーゼ処理を 行った。コラ ゲナーゼ消化タンパク即ち コラーゲン及び非コラーゲン性タンパクに含まれる[1゜C]proline を各々測定した。
DNA量の測定及埜thy塑idineQ聖竺墾み
hPAPを 骨 芽細 胞に24時 間作 用さ せた 後, 細胞 を回 収し 骨芽 細 胞の 総DNA量 を螢 光定 量分 析 に て 測 定 した 。ま た,hPAPを24時間 作用 させ た時 ,最 後の2時間 に2.0ばCi/ml[°H] thymidineを加え,細胞のthymidineの取り込みを測定した。
ア ル カ リ 性 フ ォ ス2三 皇 二 ゼ 活 性 の 測 定
hPAPを 含 む 無 血 清DMEMに て 細 胞 を24時 間 培 養 し た 後 , 細 胞 を よ く 洗 浄 し 基 質 と し て pNPPを 含 む緩 衝液(pHl0. 15)を1.Oml加え ,37℃で30分 間培 養し た。 加水 分解 でで きたp
― 二 ト ロ フ ェ ノ ― ル(pNP)を410 nmに おけ る吸 光度 で測 定し た。 また ,ATPase,Myoki― nase,RNaseAを 用 い て 同 様 の 実 験 を 行 っ た 。
hPAPと骨芽細胞の結合実験
5% 仔 ウ シ 血 清 を 含 むDMEMに て 骨 芽 細 胞 がconfluentに な っ た 後 , 細 胞 を よ く 洗 浄 し
[12゜I]hPAPを 含 む 結 合 実 験 用 緩 衝 液(25mM HEPES,lmg/mlウ シ 血 清 ア ル ブ ミ ン を 含 む無血清DMEM)に変えた。4℃,20時間培養を行った後,0.05%トリプシンにて細胞を回収し,
ア―カウンターにて結合し た[125I]hPAPを測定した。非特異的結合は200倍高濃度の非標識 hPAP存 在下 で計 算された。また,ク 口スリンキング実験にはO.6nM[125I]hPAPを用い,20 時間後に0. 5mM disuccinimidyl suberate存在下で15分間培養した。SDSを含む緩衝液にて細胞
を溶 解し た後 ,SDS―PAGEを 行っ た。
結 果 hPAPの 性質
SDS―PAGE後銀染色を行っ た結果,分子量45,000に幅 広い単一のバンドが認められた。ま た ,酸 性フ ォス フ ァタ ーゼ とし てのhPAPの至 適pHは6.0で あり ,Eadie‑Hofsteeの プロ ッ ト か ら 最 大 速 度V″ ロ ェ は885nmol pNP/h/んmol hPAPで あ り ,Kmは8811g/mlと 算 出 さ れた 。
コ ラ― ゲン 合成
hPAPは 骨 芽 細 胞 の コ ラ ー ゲ ン 合 成 を用 量依 存 性に 促進 した 。lnM hPAPに て促 進作 用が 認められ,100―300nMで最大に達し対照群に比 べて約1.5倍コラーゲン合成を増加させた。ま た, 非コ ラー ゲン 性夕 ンパ ク合 成に 関 して は1 nM hPAPでは 促進 作 用が なかったが,lOOnM hPAPは合成を促進させた。
DNA合成及びthymidineの取堕塗墨
hPAPは 骨 芽 細 胞 の 総DNA量 及 びthymidineの 取 り込 みに 関し ては 促進 作用 をも たな かっ た。
アル カリ性フォスファターゼ活性
hPAPは 骨芽 細胞 のア ルカ リ性 フォ スフ ァタ ーゼ 活性 を用 量依 存 性に 促進した。l nMで平 衡に 達し,対照群に比べて約1.5倍であった。また,lOOnR4 hPAPは時間依存性に骨芽細胞の ア ル カ リ 性 フ ォ ス フ ァ タ ー ゼ 活 性 を 促 進 し , 24時 間 で 最 大 に 達 し た 。 残存 し てい るhPAPがアルカリ性フォスファターゼ活性の測定値に影 響を及ぼすかどうかを み るた め に, 細胞 が無い状態で同様の測定を行ったがpNPPの加水分解 を認めることはできな かっ た。
hPAP以 外 の酵 素の アル カリ 性フ ォス ファ タ ーゼ 活性 に対 する 作用 を調 べた とこ ろ,M6P を 含 ま な いATPase,Myokinaseは 影 響 を 及 ぼ さ な か ヮ た が ,M6Pを 含 む と 考 え ら れ る RI¥TaseAは ア ル カ リ 性 フ ォ ス フ ァ タ ー ゼ活 性をhPAP同様 に促 進し た。 ま た,hPAPはラ ッ ト線 維芽細胞に対しても促進作用を示した。
hPAPの骨芽細胞に対する結合
[12゜I] hPAPを 用い て骨 芽細 胞 に対 する 結合 実験 を行 いScatchard解析を行 った。その 結果,解離定数は6. 5nM,結合部位数は細胞当たり1.0xio゜個と算出され高親和性結合部位の 存在が認められた。
また,ク口スリンキング後のオートラジオグラフィーの結果,分子量320,000にバンドが認め ら れ , こ の バ ン ド は200倍 高 濃 度 の 非 標 識hPAPの 存 在 下 で は , ほ ぽ 消 失 し た 。
考 察
前立腺癌の骨転移巣の大部分は骨増殖性であることが,臨床的によく知られている。転移巣の 骨構造は緻密であり,前立腺癌細胞が局所において骨形成を促進する因子を産生していると考え ら れ て い る 。 腫 瘍 細 胞 や 組 織 か ら 種 々 の 細 胞 増 殖 因 子 が 抽 出 さ れ て い る 。 一 方,前立 腺癌患 者では,hPAPの血清 レベルが 高値で あること が従来よ り知られている。
し か し なが ら ,hPAPの生 体にお ける機能tま不 明であ り,hPAPの 細胞に対 する直接 作用に つ い て 述 べた 報 告 は未 だ な い。 本 研 究に お い て,hPAPは ラ ッ ト骨 芽 細胞 に対しDNA合成 を促 進させなかったが,アルカリ性フォスファターゼ活性及びコラーゲン合成を用量依存性に促進さ せ た。即ち ,hPAPは骨 芽細胞の 分化機 能を促進 させるこ とから ,invivoでは 骨形成に関与し て い る と考 え ら れる 。 ま た,125Iで 標 識され たhPAPを用 いた実 験から, ラット骨 芽細胞 は hPAPに 対し高親 和性結 合部位を 持って いること がわかっ た。ク ロスリン キング後のオートラ ジ オグラフィーの結果では,分子量320,000にバンドを認めた。hPAPの分子量は約90,000なの で ,hPAPは 骨芽 細 胞 にお い て 分子 量 約230,000の タンパク に結合 している と考え られる。
本 実験では ,hPAPが骨 芽細胞に対し生物学的作用をもっことが示された。その機序として,
hPAPが 骨芽細胞 膜のタ ンパクに 特異的 に結合し たことか ら,あ る種の受 容体を介していると 考 えられる 。ヒト骨 基質に 多量に含 まれる 細胞増殖 因子の ひとっで あるIGF一Hは,細胞膜の IGF―H受容体に 結合す ることにより骨芽細胞のアルカリ性フォスファターゼ活性やコラーゲン 合 成 を 促進 す ること が知られ ている 。IGF―u受 容体はM6P受容体 と同一 であり, 分子量 は約 250,000であ る 。 本実 験 結 果か ら ,hPAPは 骨芽細 胞に対しIGF→u様の 作用をも ち,分 子量 230,000のタンパ クに結 合するこ とがわ かった。 また,hPAPはその糖鎖にM6Pをもっており,
M6Pを 介 し てIGF‑ II/M6P受 容 体に 結 合 し骨 芽 細 胞に お い て 生物 学 的 作用 を も つ可 能 性 が あると考えられる。
結 論
hPAPはin vitroに おいて ラット骨 芽細胞の アルカ リ性フォ スファターゼ活性及びコラーゲ ン合成 を用量 依存性に促進させた。また,hPAPは骨芽細胞の分子量230,000のタンパクに高親 和性に 結合し た。hPAPは細 胞膜の 受容体を 介して 骨芽細胞 を刺激し,前立腺癌の骨転移巣に おける 骨形成 に関与し ている可 能性が 示唆され た。
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学位論文審査の要旨
研究目的
ヒト前立腺癌の骨転移巣の約90%は造骨性であり,組織学的に転移巣には新しい骨形成が存在 する 。一 方, ヒト 前立腺癌患者の血清及び転 移巣において前立腺由来酸性フォスファターゼ (hPAP)が 正常 に比 べて 高レ ペル にあ るこ とが よく 知 られ てい る。hPAPは分 子量 約90,000 の糖 夕ン パク であ り, その 糖鎖 には マン ノ ース6リン酸(M6P)が含まれている。また,骨芽 細 胞 の 分 化を 促進 させ るイ ンス リン 様成 長因 子‑n (IGF―u) に対 する 受容 体とM6Pに 対す る 受 容 体 が 同 一 で あ る こ と が 既 に 明 ら か に さ れ て い る 。 そ こ で ,hPAPがIGF―II/M6P受 容体を介して骨芽細胞を刺激し,骨形成を促進す るという仮説のもとで以下の実験を行った。
実験結果 hPAPの特性
hPAPはSigma社 の 精 製 標 品 を 用 い た 。SDS―PAGE後 銀 染 色 を 行 い そ の 純 度 を 調 べ た 結 果,分子量45,000に幅広い単一のバンドが認められた。また,酸性フォスファターゼとしての hPAPの 至 適pHは6.Oで あ り ,Eadie―Hof steeのプ 口 ット から 最大 速度Vm エは885nmol pNP/h/,tL molであり,Kmは88ルg/mlと算出された 。
コラーゲン合成
hPAPを含む無血清培養液にて骨芽細胞を24時間培養 した後,[1 C]proline存 在下で更に 4時間培養した。コラゲナーゼ消化夕ンパク即ちコラーゲン及び非コラーゲン性夕ンパクにおけ る ['4C]prolineの 取り 込み を各 々測 定し た 。そ の結 果,hPAPは骨 芽細 胞の コラ ーゲ ン合 成 を用 量依 存性 に促 進し た。l nM hPAPにて 促進 作用 が認 めら れ,lOOnMで最 大に 達し ,対 照群に比べて約1.5倍 コラーゲン合成を増加させた。また,非コラーゲン性夕ンパク合成に関し て は ,1 nM hPAPは 促 進 作 用 を 示 さ な か っ た が ,lOOnM hPAPは 合 成 を 促 進 さ せ た 。 DNA合成及びthymidineの取り込み
hPAPは 骨 芽 細 胞 の 総DNA量 及 びthymidineの 取 り 込 みに 関し ては 促進 作用 をも たな かっ た。
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志
厚
暹
清 和
田
部
巻
金
阿
葛
授
授
授
教
教
教
査
査
査
主
副
副
アルカリ性フォスファターゼ活性
hPAPを 骨 芽細 胞 に 添加 し24時 間 培 養し た 。pニト 口 フ ェニ ー ル リン 酸 を 含む 緩衝液(pH 10. 15)を加 え,加 水分解で できたp亠二ト口フェノールを410nmにおける吸光度で測定した。
hPAPは骨 芽 細 胞の ア ル カリ 性 フ ォス フ ァ ター ゼ 活 性を用 量依存性 に促進 し,InMで最大 に 達し,対 照群に比 べて約1.5倍であ った。 また,lOOnM hPAPは時間依存性に骨芽細胞のアル カリ性フ ォスファ ターゼ 活性を促 進し,24時間で最 大に達 した。hPAP以外の酵素のアルカリ 性フ ォ ス ファ タ ー ゼ活 性に 対する 作用を調 べたとこ ろ,M6Pを含ま ないATPase,Myokinase は影 響 を 及ぼ さ な かっ た が ,M6Pを含 む と 考え ら れ るRNaseAはアル カリ性 フォスフ ァター ゼ活 性 をhPAP同様 に 促 進した。 また,hPAPはラッ ト線維芽 細胞に対 しても 促進作用 を示し た。
hPAPの骨芽細 胞に対 する結合
[125I]hPAPを 用 い て骨 芽 細 胞に 対 す る結 合 実 験を行 いScatchard解析を行 った。そ の 結果,解離定数は6. 5nM,結合部位数は細胞当たり1.0xio゜個と算出され,高親和性結合部位 の存 在が認 められた ,また ,クロス リンキ ング後の オートラ ジオグラフィーの結果,分子量 320.000にバンド が認め られ,こ のバンドは200倍高濃度の非標識hPAPの存在下では,ほぼ消 失した。
考 察
hPAPはラ ッ ト 骨 芽細 胞 の 分化機能 を促進 し,骨芽 細胞はhPAPに対して 分子量230,000の 高 親 和性 結 合 部位 を 持 っ てい ることが 示され た。一方 ,IGF‑ II/M6P受 容体の 分子量は 約 250,000であることが知られており,hPAPが骨芽細胞に対し生物学的作用をもつ機序として,
そ の 糖 鎖 に 存 在 す るM6Pを 介 し てIGF―II/M6P受 容 体 に 結 合 し , 骨 細 胞 に 対 しIGF−H 様の 作用を もっこと が考え られる。in vitroにおけ る本研究 結果から,hPAPが前立腺癌の骨 転移 巣にお ける骨形 成に関 与してい る可能性 が示唆 された。
以上本研究は前立腺由来酸性フォスファターゼの骨芽細胞に対する生物学的作用を明らかにし た も の で あ り , 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 授 与 す る に 値 す る も の と 認 定 さ れ た 。