学 位 論 文 題 名
博 士 ( 農 学 ) 野 中 雅 彦
食品タンパク質の酵素的修飾並びに 挙動解析手法に関する研究
学位論文内容の要旨
食品 タ ン パク 質 は 単に 栄 養 的に 重 要 なば か り で なく 、 加 工食 品を 形成する 素 材 と して も 重 要な 役 割 を果 た し てい る 。 各種 タ ン パ ク質 素 材 の機 能特性は その 素 材 のー 次 構 造か ら 四 次構 造 に 基づ い て 様々 な 化 学 結合 や 相 互作 用を介し て発 一
現 し てい る 。 安価 な タ ンパ ク 質 素材 の 機 能特 性 を 高 める 、 或 いは 新たな機 能特 性 を 付与 す る 目的 で そ の構 造 の 改変 を 行 うこ と は 食 品産 業 の 発展 に寄与す るも の と 思わ れ る 。真 に 有 効な 食 品 夕ン パ ク 質素 材 の 構 造改 変 を 行う 為に重要 なの は 食 品加 工 の 観点 か ら 許容 性 が 高い 修 飾 手法 を 確 立 する こ と と食 品タンパ ク質 の 挙 動を 機 能 特性 発 現 の場 で 直 接的 に 観 察し 重 要 な 構造 因 子 を把 握する方 法を 備 え るこ と に ある 。 そ こで 本 研 究で は 食 品タ ン パ ク 質の 酵 素 的改 変手段と して S treptoverえicillium属の 微生物 が菌体外 に生産 する新規 アシル転移反応触媒酵 素 の タン パ ク 質修 飾 に おけ る 有 用性 、 並 びに 食 品 夕 ンパ ク 質 の挙 動解析手 法と してのラマン分光法の可能性を検討した。
第1章 緒 論 に 続 き 、 第2章 で は 新 規 ア シ ル 転移 反 応 触媒 酵 素 がト ラ ン ス グル タミナーゼ(R−glutaminylーpep tide:amineア―glutamyl transferase;EC 2.3. 2. 13)と呼 ば れ る酵 素 で ある こ と を確 認 す る 為に タ ン パク 質 基質 に対してEー
(7−Glu) Lys架 橋 結 合 形 成 能 が あ る こ と を 明 ら か に し 、 本 酵 素 が ト ラ ン ス グル タ ミ ナ― ゼ で ある こ と を証 明 し た。 こ の 微 生物 ト ラ ンス グルタミ ナー ゼ ( 以 下MTGaseと 略 ) は カ ゼ イ ン 類 、 大 豆 グ ロ プ リ ン 類 、 ミ オ シ ン な ど を 架 橋重 合 化 する こ と がで き た 。ま た ウ シ血 清 ア ル ブミ ン 等 はネ イティブ な状 態 で は架 橋 重 合化 さ れ なか っ た が、 還 元 荊の 存 在 下 では 架 橋 重合 化するこ とが
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で き る こ と を 発 見 し た 。 ま た 、MTGaseを タ ン パ ク 質 分 散 液 に 作 用 さ せ る と ゲル 化 が お きる こ と やゼ ラ チ ンゲ ル に 耐熱 性 を 付与 で き るこ とも確認 した。
次 に 第 3章 で は MTGaseを 用 い て 食 品 夕 ン パ ク 質 ヘ リ ジ ン 及 び り ジ ン を 介 して 任 意 の アミ ノ 酸 を導 入 す る可 能 性 につ い て モル モ ッ ト肝 臓由来ト ランス グ ル タ ミ ナ ー ゼ ( 以 下GTGase) を 用 い た 場 合 と 比 較 し な が ら 検 討 を 行 っ た 。 MTGaseは GTGaseを 用 い る 場 合 よ り も 効 率 良 く シ ト ラ コ ニ ル 化 asl― カ ゼ イン ( モ デル 基 質 ) にり ジ ン 及び . リ ジン 含 有 ジペ プ チ ドを 導 入 で き る こ と が 判 明 し た 。 ま たMTGaseは ス ク シ ニ , ル 化 組 大 豆7Sグ 口 ブ リ ン に 対し て も り ジン 含 有 ジペ プ チ ドの 導 入 が可 能 で あっ た 。 導入 できるア ミノ酸 は 荷電 を 有 す るも の 、 疎水 性 の もの 、 親 水性 の も の、 栄 養 上必 須なもの 等多岐 に わ た りMTGaseを 用 い て 目 的 と す る 機 能 特 性 付 与 の 為 に 種 々 の ア ミ ノ 酸 を標 的タンパ ク質に導 入でき る可能性 が示さ れた。
第 4章 で は MTGaseを 用 い た 脱 ア ミ ド 化 に つ い て 検 討 し 、 MTGase は GTGaseと 比 べ て 低 い 率 で は あ る が シ ト ラ コ ニ ル 化 併 用 の も とasl― カ ゼイ ン を 脱 アミ ド 化 でき る こ とが 確 認 され た 。 得ら れ た 脱ア ミド化カ ゼイン は 対 照 に 比 較 し て 有 意 にpH溶 解 性 や カ ルシ ウ ム 感受 性 が 改善 さ れ てい る こ と が GTGase使 用 の 場 合 と 同 様 に 確 認 さ れ た 。 ま た 、MTGaseを 固 定 化 し 立体 障 害 を 利用 し て ント ラ コ ニル 化 を 用い ず に 架橋 重 合 化を 抑制しな がら脱 ア ミ ド を 行 う こ と も 検 討 し た 。 ゛MTGaseは グ ル タ ル ア ル デ ヒ ド 法 で ハ イ ド 口キ サメート 形成活性 ( CBZ―Gln−Glyが基質)を有して固定化することが可能で あ り、 遊 離 酵 素に 比 較 して 架 橋 重合 化 も 抑制 さ れ たが 脱 ア ミド 化能も抑 制され |
て い た 。 こ れ は 過 剰 な 立 体 障 害 に よ りMTGaseが タ ン パ ク 質 基 質 に よ ル ア ク セス さ れ に くく な っ てい る こ とを 示 唆 する も の と考 え た 。今 後はこの 点を解 決 で き る よ う な 位 置 選 択 性 の 高 い 固 定 化 手法 を 検 討す る 必 要性 が 示 され た 。 第5章 で は 第2章 で も ふ れ た ウ シ 血 清 ア ル ブ ミ ン ( 以 下BSA) な ど に 代 表 さ れる 難 反 応 性の 基 質 タン パ ク 質の 修 飾 を化 学 試 薬を 用 い ずに 可能とす るべく 基 質 変 性 の 手 段 と し て 超 高 圧 を 併 用 し たMTGaseに よ る タ ン パ ク 質 修 飾 を 検 討 し た 。MTGaseは 超 高 圧 下 で も ハ イ ド 口 キ サ メ ー ト 形 成 活 性 を 発 揮 す る こと が 可 能 であ り 、 ジメ チ ル カゼ イ ン への モ ノ ダン シ ル カダ ペリン導 入系で は 大 気 圧 下 よ り も 導 入 が 速 く 進 行 す る こ と を 発 見 し た 。 ま た 、400 HPaま で
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の 超 高 圧 処 理 で は
MTGase
は 殆 ど 失 活 し て い な い こ と も 確認 さ れ た。BS A
、オボアルブミン、ガンマグロプリン、リゾチーム、ヒト血清アルブミンな ど の 難反 応 性タ ン パ ク質 は 超高 圧 下 でMTGaseとと も に 処理 す る ことでモ ノダンシルカダベリンの導入や架橋重合化反応を受けるようになることも見い 出さ れ、さら に超高圧で 予め前処 理したBSAと オボアルプミンについてはそ の 後 の大 気 圧下 で のMTGase
反 応に お い てモ ノ ダン シ ル カダ ベ リ ンの導入 を受けるように変化することも判明した。第6章では優れた機能特性を有しながらも酸性下での溶解性が悪いカゼイン に つ いて 、 全く 異 な る等 亀 点や 性 質 を有 す る酸 ゼ ラ チン を
MTGase
を用い て結合させてハイブリッドポリマーを形成させることでその性質が改良できる ことを示した。カゼイン―ゼラチンハイブリッドポリマーは単独素材系や単純 混合系に比較して優れた溶解性を酸性下で示し、乳化特性も改良されていた。こ の よう に 全く 性 質 (構 造 )の 異 な るタ ン パク 質 同 士を
MTGase
を用いて 結 合 させ る こと で 優 れた 機 能特 性 の 発現 が 図れ る 可 能性 が 示 唆され た。第7章ではタンパク|質素材が実際に機能特性を発現する場においてどのよう な挙動をとっているか直接観察できる手法の一例として、乳ホエータンパク質 の加熱ゲル化における構造変化について振動分光学の手法であるラマン分光法 を用いてその可能性を検討した。ラマン分光法は広範な試料形態に応ずること ができることがその長所として挙げられてきたが、実際に本研究においても加 熱前の濃厚タンパク質分散液、加熱は受けているがゲルは形成していない分散 液、加熱によルゲル化した分散液についていずれもラマンスペクトルの測定が 可能であった。これらのスペクトルの比較解析の結果、加熱・冷却後のゲル化 に伴い以下の構造変化が示された。
Oa
―ラ ク卜アル プミンでは 主としてa
ーヘリッ クスの、ロ―ラク卜グ口プリンでは主として夕一ン構造のロ―シーツ構造への変化
◎ジ スルフア ド結合のゴーシューゴーシュ―ゴーシュコンフォーマーの減少
◎トリプトファン残基の分子表面(溶媒側)への露出
@チ口シン残基の関与する水素結合の強化
◎ヒスチジン残基のイオン化状態の変化(イミダゾリウム環からイミダゾール
環への変化)
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以上によルラマン分光法が食品タンパク質の機能発現の場における構造変化 を 直 接 的 に 観 察 す る 手 法 と し て 有 用 で あ る こ と が 示 さ れ た 。
タンパク質は20種類の基本的なアミノ酸、及び糖質や脂質などとも.複合化 して多岐・複雑な構造を呈しており、その有効な機能特性改変を考えていく上 で構造―活性相関的アプローチは必須と思われる。その際に重要な点は冒頭に 述べたように有効な構造因子を導入する方法とその挙動を的確に把握する方法
J
丶の確立にある。本研究により当該研究分野発展の為の基礎知見として、構造因 子の導入手段としての新規微生物起源トランスグルタミナーゼの有用性と挙動 解析手段としてのラマン分光法Q可能性が示された。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
食品タンパク質の酵素的修飾並びに 挙動解析手法に関する研究
本論文は、和文104頁、 図42、表13、引用文献81、8章からなり、ほかに参考論文11 編から付されている。
食品夕ンパク質は単に栄養的に重要なばかりでなく、加工食品を形成する素材としても 重要な役割を果たしている。安価なタンパク質素材の機能特性を高める、或いは新たな機 能特性を付与する目的でその構造の改変を行うことは食品産業上極めて重要な課題である。
本論文は食品タンバク質の酵素的改変手段としてSLreptovertlcillium属の微生物が茵体 外に生産する新規アシル転移反応触媒酵素のタンパク質修飾における有用性を豊富な実験 例で示し、食品ダンパク質の挙動解析手法としてのラマン分光法の可能性を述べたもので ある。
第1章緒諭 に統き、第2章では新規アシル転移反応触媒酵素が卜ランスグルタミナーゼ であることを確認するためにタンバク質基質に対してE−(ア一Glii)Lys架橋結合形成能が あることを明らかにしている。この徽生物トランス´ノルタミナーゼ(MTGase)はカゼイ ン類、大豆グロブリン類、ミオシン等の食品夕ンパク質を架橋重合化すること、またウシ 血 清 ア ル ブ ミ ン 等 は 還 元 剤 存 在 下 で 架 橋m合 化 で き る こ と を 発 見 し て い る 。 第3章ではMTGaseを用いて食品夕ンパク質ヘリジンやルジンを介して任意のアミノ酸 を導入する可能性についてモルモット肝 臓由来トランスグルタミナーゼ(GTGase)を用 いたJ蒻合と 比較しながら検討を行った。MTGascはGTGaseよりも効率良くシトラコニル 化asl−カゼインにりジ|ン及びりジン含有ジペプチドが導入できることを示した。また、
MTGaseはスクシニル化大豆グロブリンに対してもルジン含有ジベチドの導入が可能であ り、この手法により機能特性付与の為に種々のアミノ酸を標的夕ンパク質に導入できる可 能性が示されている。
第4章で はMTGaseによ る脱 アミ ド化 につ いて 検討 、MTGaseがGTGaseに 比較 して低
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民 哉
守
耿 良
原 木
闇
市 仁
本
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
率ではあるがシトラコニル化併用のもとasl―カゼインを脱アミド化できることを確認し ており、得られた脱アミド化asl−カゼインは対照に比ぺ て有意にpH溶解性やカルシウ ム感受性が改善されていることを確認している。
第5章で はウシ血清アルブミン(BSA)に代表される難反応性の基質夕ンパク質の修 飾 を化 学試薬等を用いずに可能と するぺく、基質変性の手段として超高圧を併用した MTGaseによるタンパク質修飾を検 討レた。MTGaseは超高圧下でも触媒活性の発現が可 能 であ るこ とも 判明 した 。ま た、BSA等の難反応性基質は超高圧下でMTGaseとともに 処理することでモノダンシルカダベリンの導入や架橋重合化反応を受けることも発見して いる。
第6章では優れた機能特性を有しながらも酸性下での溶解性が悪いカゼインについて、
全く異なる等電点や性質を有 する酸ゼラチンをMTGaseを用いて結合させてハイブルッド ポルマーを形成させることでその性質が改良できることを示した。カゼインーゼラチンハ イブリッドポリマーは単独素材系や単純混合系に比較して優れた溶解性を酸性下で示し、
乳化特性も改良されていることを確認している。
第7章ではタンパク質素材が実際に機能特性を発現する場においてどのような挙動をとっ ているか直接観察できる手法の一例として、乳ホ工一夕ンパク質の加熱ゲル化における構 造変化について振動分光学の手法であるラマン分光法を用いてその可能性を検討し、加熱・
冷却後のゲル形成に伴い以下の構造変化を観察している。
Odーラクトアルブミンでは 主としてa―へルックスの、 ローラクトグロブルンでは主 として夕一ン構造の8−シーツ構造への変化◎ジスルフィ ド結合のゴーシューゴーシュ コ ンフ オーマーの減少◎トリプト ファン残基の分子表面への露出◎チロシン残基の関 与する水素結合の強化◎ヒスチジン残基のイオン化状態の変化
これらの結果はラマン分光法が食品夕ンバク質の機能特性発現の場における構造変化の 直接的観察手法として有用であることを示したものである。
以上のように、本研究は徽生物由来の新規酵素が食品夕ンパク質の機能特性改変に極め て有効なことを明らかにしたもので、食品産業上のみならず、学術的にも重要な基礎的知 見を提供している。よって審査員一同は、別に行った学力確認試験の結果と合わせて、本 論文の提出者野中雅彦は博士(農学ゝの学位を受けるのに十分な資格があるものと認定 した。
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