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河川魚類群集の保全と再生に関する景観生態学的研究

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 水 山 滋 也

学 位 論 文 題 名

河川魚類群集の保全と再生に関する景観生態学的研究 学位論文内容の要旨

  近年、河川環境 の再生事業や生物に配慮した河川改修事業が活発に実施されている。こ れらの事業におけ る再生や保全の対象は、個別の生物種ではなく生物群集である。ところ が、魚類生息場に 関する既存研究の多くは、個別魚種(特にサケ科魚類)に着目しており 群集の生息場を扱 った研究は少ない。また、魚類が利用可能な生息場には、主流路だけで なく氾濫原に形成 される水域も含まれるが、それらの生息場の魚類による利用を統合的に 捉えた研究も少な い。そして、最も重要な問題は、魚類群集による主流路と氾濫原を含む 生息場利用を統合 的に把握する手法が確立されていないことである。そのため、魚類群集 とその生息場の保 全や再生事業において、対象河川にとって適切な保全・再生目標を定め ることができず、 事業の効果を科学的に評価することもできないのが現状である。そこで 本研究では、魚類 群集構造とその生息場を統合的に把握し、それらの変化(劣化)を時空 間的に捉え、保全 ・再生目標を設定するための基礎的データの取得手法を提示することを 目的とした。さら に、魚類群集にとって重要であることが明らかになった生息場の創出実 験を行い、魚類生 息場改善の一手法を提示した。

  主流路および氾 濫原を含む魚類群集の生息場を統合的に捉える手法を提 示するため、

2006年 なら びに2007年6−9月 、北 海 道東 部に 位置する標津川の上流部と中流部のセグ メントにおいて、 氾濫原も含む河川景観を構成する主要な要素(河川景観要素:以下、景 観要素)を形態に よって分類し、魚類群集によるそれらの利用を検討した。景観要素は、

上流、中流ともに 、河川地形に依存したものと倒流木に関連したものに分類された。山地 小溪流の上流では、側方洗掘型淵、早瀬、二次流路、倒流木の合計4タイプに分類された。

蛇行河川である中 流では、水衝部、寄り州縁辺部、平瀬、バックウォーター、これらそれ ぞ れに 倒流 木が 入っ ている4タイプ、二次 流路、河跡湖の合計10タイプに分類された。

各セグメントにお ける景観要素間の物理特性および魚類群集構造は明確に異なっていたこ とから、本研究に よって提示した景観要素の分類は、物理環境の側面から見ても、魚類群 集に対する生息場 機能の評価としても妥当であると判断された。これにより、主流路と氾 濫原の魚類生息場 を統合的にとらえる手法として、景観生態学的視点を用いた本手法の有 効性が示された。 また、両セグメントともに、二次流路と倒流木に関連した景観要素、ま た中流域ではバッ クウォーターも、流水性および止水性を含む多様な魚類によく利用され る生息場であり、 横断的な河川地形の多様性と河川内倒流木の重要性が示唆された。その 他の景観要素(中 流の寄り州縁辺部を除く)は、それぞれ異なる一部の魚類の生息場とし て機能していた。

  魚類群集とその 生息場の保全・再生目標を設定する上で判断材料となる、基礎的データ の取得手法を提示 するため、標津川中流部において、改修河道における景観要素と魚類群 集の応答を新たに 調査し、それらの結果と自然(蛇行)河道における調査結果との差異を 検討した。改修河 道における主要な景観要素は、緩やかな流路の屈曲に伴う外側部と内側

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部、 直線部および倒流木が存在する直線部の4タイプに分類された。これら4つの景観要 素における魚類群集構造は、蛇行 河道において魚類にあまり利用されなかった水衝部と寄 り州縁辺部のそれと似ていた。蛇行河道と改修河道における潜在的な各景観要素の量(1112

/lkm valley length)と 推定 された魚類生息量(N71km valley length)の比較から、改 修河道の景観要素は蛇行河道のそ れと比べて、魚類生息場として質的にも量的にも劣って おり、その原因は流路の直線化と それに伴うバックウォーター、二次流路、倒木に関連し た景 観要素の喪失が強く影響していることが示唆 された。また、中流部23km区間におけ る過去の景観要素の量を空中写真 による自然河道、改修河道の延長から推定し、1947年か ら2005年にかけた魚類群集構造の時空間変動を検 討した。その結果、1978年までに半分 以上の区間が直線的に改修されて おり、それに伴う各魚類生息量の大幅な減少が推定され た。

  流路の蛇行による様々な景観要 素の創出を目的に、直線的に改修された標津川下流部に おいて、本川と河跡湖をっなぐ再 蛇行実験が行われた。しかし、低流速の景観要素があま り形成されなかったことから、さ らなる魚類生息場の改善を目的とし、魚類群集の生息に とって重要な景観要素のーっであ った倒木の投入を行い、その効果についてサクラマスを 対象として検証した。サクラマス の生息量は、倒木を投入しなかった対照区よりも、倒木 を投入した倒木区において有意に 高く、倒木がサクラマスの生息場改善手法として有効で あることが明らかになった。また 、生息場要求が異なる複数の生活段階(サイズクラス)

のサクラマスにとって好適な微生 息場を、倒木が創出していることも明らかになった。根 株や 幹を 伴 う深 くて 低流 速の 水底は海から遡上してきた大型個体(冫300 mm)に、倒木 脇の流れの集中域は100−200 mmの個体に、倒木が速い流れを 遮ったよどみを含む倒木区 全体の下層は、80 mm以下の個体に利用された。このように、 多様な微生息場を創出する 倒木の投入は、サクラマスだけで はなく、生息場要求が異なる様々な種からなる魚類群集 の生息場改善手法としても有効で あることが示唆された。

  本研究によって、河川特性に応 じた魚類群集の保全・再生を行うための調査ならびに改 善手法を提示した。そして、景観 生態学的に生息場を分類することの有効性を示した。具 体的には、このアプローチによっ て、主流路と氾濫原の水域からなる魚類群集の生息場を 統合的に把握できること、また、 セグメントスケールにおけるすべての魚類生息場の量と 魚類群集の生息量を推定し、改修 河道や自然河道といった河道区間の比較および空中写真 ならびにGISを併用することで時系列的にそれらの変化を把握 できることを示した。これ らは、魚類群集の保全・再生目標 を設定する上で欠かせない基礎的データの取得と具体的 な保全・再生手法を決定する上で 重要な知見を提供した。そこで、直線河道の再蛇行化に よる魚類生息場の復元(リストレ ーション)を実施したが、その効果が予想したより低か ったため、さらに倒木投入による 魚類生息場の修復(リハビリテーション)を行い、1つ の魚類生息場改善手法として、倒 木の有効性を示した。以上から、魚類群集が利用可能で ある生息場を網羅的に把握し、魚 類群集とその生息場の時空間変動を捉え、劣化した構造 を復元・修復していく上で、景観 生態学的なアプローチは有効な手段となることが明らか になった。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

河川魚類群集の保全と再生に関する景観生態学的研究

  本 論 文 は 、 図29、 表8を 含 む 総 頁 数 105の 和 文 論 文 で あ り 、 他 に 参 考 論 文4 編 が 添 え ら れ て い る 。

  近 年 、 全 国 で 実 施 さ れ て い る 河 川 環 境 の 再 生 事 業 や 生 物 に 配 慮 し た 河 川 改 修 事 業 に お い て 、 魚 類 群 集 は 保 全 ・ 再 生 す べ き 重 要 な 対 象 と な っ て い る 。 し か し 、 河 川 の 主 流 路 だ け で な く 氾 濫 原 に 形 成 さ れ る 水 域 も 含 み 、 河 川 魚 類 の 生 息 場 利 用 を 統 合 的 に 把 握 す る 手 法 は 未 だ 確 立 さ れ て い な い 。 そ の た め 、 現 在 、 事 業 対 象 河 川 に お け る 魚 類 群 集 と そ の 生 息 場 を 適 切 に 保 全 ・ 再 生 す る こ と 、 な ら び に 保 全 ・ 再 生 目 標 を 定 め る こ と が 困 難 な 状 況 に あ る 。 本 研 究 は 、 景 観 生 態 学 的 視 点 か ら 河 川 魚 類 群 集 の 生 息 場 を 類 型 化 し 、 魚 類 群 集 構 造 と 生 息 場 の 時 空 間 変 動 を 統 合 的 に 捉 え る こ と に よ っ て 、 魚 類 群 集 の 保 全 ・ 再 生 に 向 け た 基 礎 デ ー タ の 取 得 手 法 を 提 示 す る こ と を 目 的 と し て い る 。 さ ら に 、 そ の 手 法 に よ っ て 得 ら れ た 知 見 を 実 際 に 活 用 し 、 大 規 模 フ イ ー ル ド 実 験 に よ っ て 魚 類 生 息 場 を 改 善 し た 事 例 を 提 示 し て い る 。

1. 景 観 生 態 学 的 視 点 に よ る 魚 類 生 息 場 の 把 握

  山 地 小 溪 流 お よ び 中 流 部 蛇 行 河 道 に お い て 、 主 流 路 と 氾 濫 原 水 域 か ら な る 河 川 景 観 を 構 成 す る 主 要 な 要 素 ( 以 下 、 景 観 要 素 ) を 形 態 的 特 徴 な ら び に 流 況 か ら 分 類 ・ 比 較 し た と こ ろ 、 景 観 要 素 間 に お け る 物 理 特 性 と 魚 類 群 集 構 造 が 明 確 に 異 な っ た こ と が 示 さ れ た 。 こ の こ と か ら 、 本 研 究 に よ っ て 分 類 し た 景 観 要 素 は 、 物 理 環 境 の 面 か ら も 、 魚 類 生 息 場 と し て の 生 態 的 機 能 評 価 の 面 か ら も 妥 当 で あ っ た と 結 論 し 、 河 川 魚 類 群 集 の 生 息 場 を 統 合 的 に 把 握 す る 手 法 と し て 、 景 観 生 態 学 的 視 点 が 有 効 で あ る と 論 じ て い る 。 ま た 、 よ ど み 、 二 次 流 路 、 河 跡 湖 、 倒 流 木 が 魚 類 の 多 様 性 や 生 息 量 に 重 要 な 役 割 を 果 た す 景 観 要 素 ( 生 息 場 ) で あ る こ と を 明 ら か に し 、 氾 濫 原 を 含 む 横 断 的 な 河 川 地 形 の 多 様 性 と 、 と く に 河 川 内 倒 流 木 が 魚 類 群 集 に と っ て 重 要 で あ る と 結 論 し て い る 。 2.魚 類 の 生 息 場 と 生 息 量 の 時 空 間 変 動

  か つ て 蛇 行 河 道 を 形 成 し て い た が 現 在 は 直 線 的 に 改 修 さ れ た 河 道 ( 改 修 河 道 )

士 己 一 太 知 洋 村 谷 口 中 丸 河 授 授 教 教 教 助 査 査 査

主 副

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において、前章と同様の調査を行い自然蛇行河道と比較したところ、改修河道 に見られるすべての景観要素は、蛇行河道における水衝部や寄り州縁辺部と同 様、あまり魚類に利用されなかったことを明らかにした。また、蛇行河道と改 修河道に卓越する潜在的な各景観要素の量( m271km valley) と魚類生息量(N

/lkm valley) を推定し河道間で比較したところ、蛇行河道は改修河道よりも 魚類生息場として質的・量的に優れており、改修工事による、よどみ、二次流 路、倒流木に関連した景観要素の喪失が、魚類群集の構造と組成に強い負の影 響を与えていると結論している。さらに、セグヌントスケール(23km 区間)に おいて、 1947 年から2005 年までの景観要素の量と魚類群集構造の時空間変動 を検討した結果、1978 年までに市街地とその周辺部および橋梁付近において改 修工事が実施され、約半分の区間が直線的に改修されるとともに魚類生息量が 大幅に減少していることを推定した。そして、河道の再蛇行化による多様な生 息場の形成プ口セスを復元すること、あるいは魚類生息場として重要な景観要 素を創出すること、またはそれらを組み合わせることにより、魚類群集の再生 がはかられるべきであると論じている。

3. 倒木投入による魚類生息場改善の評価

   多様な魚類生息場の形成プ口セスの復元(リストレーション)を目的に、直 線的に改修された本川と分断されていた旧川(河跡湖)をっなぐ再蛇行実験が 調査対象河川で実施された。しかし、魚類生息場として有効なよどみや倒流木 などの緩やかな流速を持つ景観要素が形成されにくいことが判明したため、さ らなる魚類生息場の改善を目的として、実験的に倒木を河道内へ投入した。本 論文では、サクラマスを対象魚種として、倒木が形成する景観要素の効果につ いて検証を行っている。その結果、倒木の投入はサクラマスの生息個体数を増 加させる効果があることを立証するとともに、その効果は、生息場要求の異な る複数の生活段階(サイズクラス)のサクラマスに対し機能し、好適な生息場 を提供していることを明らかにしている。そして、その内部および周辺に多様 な生息場を形成する倒木の投入は、サクラマスだけでなく魚類群集の生息場改 善にとっても有効であると論じ、リストレーションの補完的措置として、また 大規模なりストレーションが行えない場所での修復(リハピリテーション)技 術として期待できると結諭している。

   以上のように本論文は、河川魚類群集を対象として、氾濫原を含む広域的生 息場を類型化し、魚類群集構造と生息場の時空間変動を統合的に捉える景観生 態学的手法を提示した。また、景観要素を復元する大規模フイールド実験を実 施し、魚類生息場の修復成果を科学的に示したことは、基礎研究の分野のみな らず、復元、修復技術の発展に大きく寄与するものであり、その成果は学術・

応用両面から高く評価される。よって審査員一同は、永山滋也が博士(農学)

の学位を受けるのに十分な資格があるものと認めた。

参照

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