Title
多自然型河川工法の研究と生態系の保全( 内容の要旨
(Summary) )
Author(s)
鈴木, 興道
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(工学) 乙第023号
Issue Date
2001-03-24
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/1695
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏名 (本籍) 学 位 の 種 類 学位記号番号 学位授与年月 日 専 攻 学位論文題 目 鈴 木 興 道(福島県) 博 士(工学) 乙第 23 号 平成13年 3 月24日 生産開琴システム工学専攻 多自然型河川工法の研究と生態系の保全
(Study for Naturally Diverse River Construction Methodand Conservation of River EcologicalSystem)
学位論文審査委員 (主査) 教 授 安 田 孝 志 (副査) 教 授 藤 田 裕 一 郎 教 授 湯 浅 教 授 駒 田 格 知
論文内容の要旨
本論文は、欧米で普及している近自然型の河川工法を、日本の気候風土、'河道の特性、洪水に 対する治水的安全性、魚類などの河川生態系など、多様な自然環境と整合し得る多自然型河川工 法として、さらに開発発展させる事を目的として、研究を行ったものである。 蛇籠や木工沈床などの伝統的治水工法や、今日なお発展を続けている近代的河川工法を含め、 従来の河川工学に生物学の立場を加えて、多自然型河川工法を生態工学の一つとして位置付けて 更なる発展を目指した。これまで定性的に表現される事が多い"瀬と淵''や、様々な環境条件下 における魚類や水生昆虫等について、多くの現地河川での調査および建設省土木研究所施設での 水理実験によって、定量的に評価・解明した。 まず、第2章においては、栃木県宇都宮市の田川、茨城県つくば市の霞ケ浦と花室川、宮城県仙 台市の名取川を主要な調査河川として選定し、それぞれ、4年間継続して河川生態系における主 要生物の生息状況を明らかにした。特に、魚類と水生昆虫の生息は、その場の流掛こ強く影響さ れ、生物相との関連から見ると、一般的に言われる"澱み、平瀬、早瀬''と言う流水状況は、そ れぞれ流速が10cm/s以下、10∼50em/s、50∼80em/sの範囲に相当するものと推察した。また、 モクズガニの活動水温は、14∼20℃程度の範囲に有る事を明らかにし、同様な傾向は他の河川で も見られる事を明らかにした。 第3章においては、河川改修が魚類などの河川生物に与える弊害について検討している。河川 改修による河道の直線化は、"瀬と淵,,や"浮き石帯''を激減させ、流水の平瀬化を招くと共に、 コンクリート護岸は河岸の水生植物帯を喪失させる。これは、特に魚類の良き生息環境を奪う事 を意味し、河川生態系の多様性を低減させている。しかし、河川は洪水による土砂の送流と堆積 を繰り返す事によって、相当な自然環境を形成し得る回復能力を有している。このため、その河 川がある程度自由な蛇行ができる河川敷幅と、洪水による護岸への自然覆土が可能な法面勾配と-100-構造を準備してやる事によって、多様な自然環境を再形成できる事を明らかにしている。 第4章においては、これまで余り解明が進んでいなかった魚類の各種の遊泳速度を定量的に明 確にし、多自然型河川工法や魚道の設計流速値として使用できうる事を明らかにしている。また、 魚類の耐久遊泳速度は、魚類の体重係数と強い相関関係に有る事を明らかにした。なお、魚類の 生息量は、小規模河川における自然的な河岸を有する河道では、40∼60g/m2であるのに対し、 改修が進んだコンクリート護岸の河道ではその1/2∼1/3程度であり、河川改修により生息量が著 しく減少する事を示した。 第5章においては、研究調査によって得られた資料を基礎とした幾つかの多自然型河川工法の 試験施工事例を、その成功と失敗を含めて、その効果を示している。未だ改良の余地は多々有る ものの、大半の事例は効果が確認されたと報告している。 第6章においては、欧米の事例を紹介すると共に、開発してきた浮島などの技術を海外へ移転 し、自然環境の保全に寄与している事を示している。 多自然型河川工法は、我が国の河川改修の基本的工法として、今日広く普及している。魚類な
どの生物の生態的特徴を定量的に評価する事は可能であり、河川工学の中に特に流速と関係にお
いて、数値として取り入れる事が可能である事を示し、そうする事によって生態工学の更なる発 展の可能性が有る事を本論女は述べている。論文審査結果の要旨
本論文は,これまで行われてきたコンクリート護岸を用いた河川改修が洪水による河岸 洗掘には高い防止効果を発揮してきた反面,自然の河岸を主な生息域とする多く■の魚類や 水生昆虫類,水草類等に対してその生息域を奪い,豊かな河川生態系を劣化させてきた反 省に立って,多様な自然環境と整合し得る河川工法として学位申請者によって開発されて 来た多自然型河川工法について取りまとめたものである. 学位申請者は,"魚類の選好遊泳速度''や"魚類の耐久遊泳速度"を考慮した河川流速と 生物(主として魚類)の生息状況との関係,魚類の食性や成長と生息場所との関係,更に は掃流力と河岸の安全性等に関して水理実験を行う一方,現地河川において長年調査研究 を継続し,河道特性と河川生態系に整合する多自然型河川工法を開発してきた.更に,こ れら開発した工法を全国及び海外に軍で技術移転してきた.本論文はそうした基礎的研究 と業務的研究を総合的にとりまとめたものであり,その主要な成果は以下のように要約さ れる. 1).霞ケ浦と宇都宮市の田川,つくば市の花室川および仙台市の名取川の3河川を対象に, それぞれ4年間にわたって魚類を中心とする水生生物の生息状況と河道特性,流速,水 温などとの関係について継続調査を行い,生物相と河相の関係を定量化することに成功 した. 2).河川改修の生態系に及ばす弊害の原因が人工河川化による自然河川の自由度の低減に-101-あり,自由な蛇行を許す河川敷幅と洪水後の自然覆土が可能な法面勾配と構造を持たせ ることにより,弊害のない河川改修が可能となることを提示・実証した. 3).日本における淡水魚各種の遽好および耐久遊泳速度と体重係数,生息密度などとの関係 を定量化し,これを基に,多様な河相を持つ河川が生態学的にも多様性に富んで豊かで ある理由が広範囲な遊泳速度にあることを実証した. 4).以上の結果を基に実施された数多くの多自然型河川工法の施工事例を示し,本論文にお いて集約された学位申請者の知見の有用性を実証している. 5).本論文において明らかにされた魚類の遊泳速度の概念を河川工学に導入することによ り,河川工学を河川生態工学に発展させることが可能となることを示し,河川工学の今 後の発展の1つの方向を切り拓いたものとして高く評価できる.