博 士 ( 農 学 ) ベ ケ レ ア ス チ ャ ロ ー ゼ レ ケ
学 位 論 文 題 名
Studies on ruminal Prevotella and Treponema exploration of their diversity and ecology
( ル ーメ ン 内Prevotella属細菌お よびTreponema属細菌 の多様 性と生態 に関す る研究)
学位論文内容の要旨
反芻家畜第一胃(ルーメン)に共生する細菌は宿主家畜の栄養生理上、多大な貢献を果 たすことは周知であるが、大多数の細菌は分離、定性されていなぃ。しかしながら近年発 達した分子的手法により、ルーメンで占有度が高いわりに機能情報のないPrevotella属と Tr eponema属のニつの菌群に注目が集まっている。とりわけ飼養条件に関わらず多くの動物 種に共生するPrevotellaは培養分離されていないものが大半を占め、その生態や生理機能な どの解明が期待されている。本研究は、ルーメンのPrevotella属およびTreponema属細菌の 多様性を分子的解析で明らかにし、系統分類群を提唱するとともに、系統分類群ごとにル ーメン内生態を給与飼料と関連付けて検証したものである。
1.ルーメンにおけるPrevotella属とTreponema属細菌の分布
Prevotella属細菌特異的プライマーによるreal‑time PCR定量系を確立し、ルーメンでの本属 細菌の存在量(全細菌に占める比率)を明らかにしたところ、最大で約40%と高い値であ った。他のルーメン内代表菌種14種の合計が3ー7%であったことから、Prevotella属はル ーメン 内で極 めて優勢 である ことを示 した。し かしな がら、既知のPrevoteHa4菌種(P.
ruminicola,P.btyantii,P.brevisおよびP.albensis)の存在量は約1ー6%程度とPrevotella属 内に占める割合は低かった。一方、Treponema属菌は他の代表菌種の定量値と同等か、少し 多いも のの、 既知Treponema種(アbryantii)は極めて少なかった。これらのことから、
Prevotella属およびTreponema属とも、ルーメンでは未知のものが大半を占めることを定量 的に明示した。
2.Prevotella属 お よ びTr eponema属 細 菌 の 多 様 性 と 飼 料 条 件 に よ る 変 動
16S rRNA遺伝子配列の相違に基づく系統分類およびフインガープリンティング解析を用
いて、両属の多様性を調べた。変性剤濃度勾配ゲル電気泳動分析、遺伝子ライブラリーの 系統分 類群(OTU)や多様 度指数 からみとめられるPrevotella属およびTreponema属の多様
‑ 1063―
性は、濃厚飼料よりも乾草給与時にいずれも高いことを見出した。この結果はルーメン内 の乾草消化には、Prevotella 属およびTr eponema 属においても、多様な構成員が関わってい ることを初めて示唆したものである。乾草または濃厚飼料給与時にそれぞれ特徴的に見ら れる系統分類群が両菌属で認められ、飼料条件により両属構成員は有意に異なることを示 した。これらの結果から、Prevotella 属およびTreponema 属細菌のう′ち、乾草もしくは濃厚 飼料の分解には異なる系統分類群が関与することを示唆した。
多 様 性解 析を通じ てPrevotella 属の 中でも
4つの 系統分類 群(OTU1 、
OTU2、OTU3 お よ び
PUNG1)の検 出頻度が 高かっ た。これ ら系統分類群について特異的PCR プライマーを設 計しル ーメン 内での分 布量を 測定した ところ 、
OTU2および
PNGU1の 分布量が他の系統分 類群に比べて高いことが判明した。すなわち、これら
2つの系統分類群がPrevote Ha 属内で も特にルーメン内において重要なグループと言える。
3
.新規Prevotella 属細菌の分離培養と機能解析
生態学的解析によりPrevotella 属細菌の大多数は未培養であることが明らかとなった事を 受け、未培養
Prevotella属細菌の分離培養化を試みた。形態、グラム染色性、発酵産物およ び
16S rRNA遺伝子 配列を利 用し、総 計
191菌株の中 から新 たに
41株の
Prevotella属菌株 を分離、同定した。これらの菌株の遺伝子配列情報とデータベース上の既存株のそれを比 較 し分子系 統解析を 実施し たところ 、PrevoteDa 菌株は系統樹上で11 の
OTUに分かれ、新 規 株はこの うち
9つのOTU に属し ていた 。すなわち、系統分類的に多様な
Prevotella菌株 の取得に成功した。これら新規分離株についてゲノムフインガープリンティング解析を行 っ た結果、 大きく2 つの遺伝子型に分かれ、既知
Prevotella属菌株とは異なる遺伝子型を もつ新規菌株が多数見られた。次に繊維分解酵素活性を測定したところ、活性プロファイ ルは遺伝子型とおおむね一致し、既知菌株と異なる遺伝子型を示した菌株はキシラナーゼ 活性が既知菌株よりも高かった。以上の結果は、新規Prevotella 属菌株は既知菌株とゲノ ムレベルで差異があり、キシラン分解により貢献することを示唆するものである。特に、
生態解析で分布量が高いことが判明した
OTU2に属する菌株はすべて新規遺伝子型を示し、
高キシラナーゼ活性を保有していたことから、
Prevotella属内でも
OTU2が繊維分解におい て重要であることを明らかにした。
以上のように、Pre vo tella 属および
Treponema属細菌のルーメン内での重要性を生態学 的視点から定量的に明らかにした。本研究では両属細菌の多様性を明確に示した上で、乾 草または 濃厚飼 料の分解 に関与す る系統 分類群が属内で異なることを初めて明らかにし た。 生 態 的解 析に加 え、新 規Prevotella 属菌 株の分離 培養と 機能解析 を行い 、特定の
Prevotella系統分類群がルーメン内繊維分解に大きく貢献する可能性を突き止めた。ルー メン内で優勢な細菌群の多様性や生態を解明できたことは基礎学問的な価値のみならず、
ルーメン発酵メカニズム解明に大きく貢献する知見といえる。
―1064―
学位論文審査の要旨 副 査 教授 小 林泰 男 副 査 教授 横 田 篤 副 査 助教 小 池 聡
学 位 論 文 題 名
Studies on ruminal Pr
.
eレ ・ 〇 な ィ 幽
and71兮
p〇 口
ema:
eXp10rationoftheirdiVerSityandeCOlogy
( ル ー メ ン内
n.
em絶 ぬ 属細 菌 お よび
n即 伽
ema属細 菌 の 多 様性 と 生 態に 関 する研究 )
本 論文 は
4章か ら 構 成さ れ 、表13 、 図
13、引 用文献115 編を 含む107 頁の英 文論文で あ り、別に
12編の参考論文が添えられている。
本研究は、ルーメンのPrevotella 属およびTreponema 属細菌の多様性を分子的解析で明ら かにし、系統分類群を提唱するとともに、系統分類群ごとにルーメン内生態を給与飼料と 関連付けて検証したものである。成果は次のように要約される。
第
1章では、これまでのルーメン細菌研究を振り返って既知情報をまとめた上で、幅広く ルーメンに存在する
Prevotella属およびTr eponema 属細菌に関する研究動向の整理と問題点 の指摘を行った。とくに近年の分子的解析で明らかとなった未培養ルーメン細菌の存在と ルーメン機能におけるそれらの重要性を示し、未培養Prevotella 属およびTr eponema 属細菌 の生理生態を解明する必要性を強調した。
第
2章では
Prevotella属および
Tr eponema属細菌について、異なる飼料条件下での分布量 と構成メンバーの変化をモニタリングし、両属の多様性とルーメン内での生態を明らかに した。両属細菌のルーメン内分布量はいずれの飼料条件下においても既知ルーメン細菌と 同程度かそれ以上で、特にPrevotella 属細菌は最大で全細菌の約40 %を占めることを明らか にした。一方、両属既知菌種の分布量は低く、ルーメン内Prevotella 属およびTreponema 属 細菌は未知のものが大半を占めることを定量的に明示した。また、本章では16S rRNA 遺伝 子配列の相違に基づく系統分類およびフインガープリンティング解析を用いて両属の多様
‑ 1065―
性 を 調 べ た 。 そ の 結 果 、 濃 厚 飼 料 よ り も 乾 草 給 与 時 にPrevotella属 お よ びTr eponema属 い ず れ も 多 様 性 が 増 加 す る こ と を 見 出 し た 。 こ れ は ル ー メ ン 内 の 乾 草 消 化 に は 、Prevotella属 お よ びTreponema属 に お い て も 、 多 様 な 構 成 員 が 関 わ っ て い る こ と を 初 め て 示 唆 し た も の で あ る 。 さ ら に 、 乾 草 ま た は 濃 厚 飼 料 給 与 時 に そ れ ぞ れ 特 徴 的 に 見 ら れ る 系 統 分 類 群 が 両 菌 属 で 認 め ら れ 、 飼 料 条 件 に よ り 両 属 構 成 員 は 有 意 に 異 な る こ と を 示 し た 。Prevotella属 で は 飼 料 条 件 に 関 わ ら ず 、 特 定 の 系 統 分 類 群(OTU2お よ ぴPUNG1) が 他 の 分 類 群 に く ら べ て 高 密 度 で 存 在 し 、 こ れ ら が ル ー メ ン 内 で 特 に 重 要 な グ ル ー プ で あ る こ と を 明 ら か に し た 。 第3章 で は 前 章 で 指 摘 し た 未 培 養Prevotella属 細 菌 の 機 能 解 明 に 向 け 、 そ れ ら の 分 離 培 養 化 を 試 み た 。 新 た に 分 離 し た41株 のPrevotella属 菌 株 は 分 子 系 統 的 に11の 分 類 群 に 分 か れ 、 新 規 株 は こ の う ち9つ の 分 類 群 に 属 し て い た 。 新 規 分 離 株 に つ い て ゲ ノ ム フ イ ン ガ ー プ リ ン テ ィ ン グ 解 析 を 行 っ た 結 果 、 大 き く2つ の 遺 伝 子 型 に 分 か れ 、 既 知Prevotella属 菌 株 と は 異 な る 遺 伝 子 型 を も つ 新 規 菌 株 が 多 数 見 ら れ た 。 次 に 繊 維 分 解 酵 素 活 性 を 測 定 し た と こ ろ 、 活 性 プ ロ フ ァ イ ル は 遺 伝 子 型 と お お む ね 一 致 し 、 既 知 菌 株 と 異 な る 遺 伝 子 型 を 示 し た 菌 株 は キ シ ラ ナ ー ゼ 活 性 が 既 知 菌 株 よ り も 高 か っ た 。 以 上 の 結 果 は 、 新 規Prevotella 属 菌 株 は 既 知 菌 株 と ゲ ノ ム レ ベ ル で 差 異 が あ り 、 キ シ ラ ン 分 解 に よ り 貢 献 す る こ と を 示 唆 す る も の で あ る 。 特 に 、 前 章 の 生 態 解 析 で 分 布 量 が 高 い こ と が 判 明 し たOTU2に 属 す る 菌 株 は す べ て 新 規 遺 伝 子 型 を 示 し 、 高 キ シ ラ ナ ー ゼ 活 性 を 保 有 し て い た こ と か ら 、Prevotella 属 内 で も OTU2が 繊 維 分 解 に お い て 重 要 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。 終 章 (4章 ) で は 一 連 の 結 果 を 要 約 し 、 深 ま っ た 知 見 と 課 題 を 整 理 し た 。 そ の 上 で 、 分 子 的 手 法 と 古 典 的 培 養 法 を 組 み 合 わ せ て ル ー メ ン 細 菌 の 多 様 性 、 生 態 お よ び 機 能 を 解 明 す る こ と の 意 義 を 強 調 し た 。
以 上 の よ う に 、Prevotella属 お よ びTr ep伽 ― 属 細 菌 の ル ー メ ン 内 で の 重 要 性 を 生 態 学 的 視 点 か ら 定 量 的 に 明 ら か に し た 。 本 研 究 で は 両 属 細 菌 の 多 様 性 を 明 確 に 示 し た 上 で 、 乾 草 ま た は 濃 厚 飼 料 の 分 解 に 関 与 す る 系 統 分 類 群 が 属 内 で 異 な る こ と を 初 め て 明 ら か に し た 。 生 態 的 解 析 に 加 え 、 新 規 ん ロmfP´ ム 属 菌 株 の 分 離 培 養 と 機 能 解 析 を 行 い 、 特 定 の 冖 曽mtP| カ 系 統 分 類 群 が ル ー メ ン 内 繊 維 分 解 に 大 き く 貢 献 す る 可 能 性 を 突 き 止 め た 。 ル ー メ ン 内 で 優 勢 な 細 菌 群 の 多 様 性 や 生 態 を 解 明 で き た こ と は 基 礎 学 問 的 な 価 値 の み な ら ず 、 ル ー メ ン 発 酵 メ カ ニ ズ ム 解 明 に 大 き く 貢 献 す る 知 見 と い え る 。
よ っ て 審 査 員 一 同 は 、 ベ ケ レ ア ス チ ャ ロ ー ゼ レ ケ が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。
―1066−