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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 薬 学 ) 安 田 学 位 論 文 題 名

妊娠の進行に伴う胎盤トランスポータの発現変動 およびその調節機構に関する研究

学位論文内容の要旨

【目的】胎盤絨毛を構成 している栄養膜細胞(トロフ ォブラスト細胞)は胎盤の 成長過程で分化 することが知られており 、胎盤の機能は成長する胎児 に応じて短期間に著しく変 化している。ト ロフォブラスト細胞は母 体から胎児方向への栄養素な どの輸送あるいは胎児から 母体方向への代 謝物の排出を担う種々の トランスポータを発現していることが近年の研究で明らかにされているェ 卜ランスポータの胎児― 母体間と物質輸送に戴対する 寄与も胎盤の成長に伴い変 化していると推 察されるが、妊娠期を通 した胎盤輸送機能の変動およ びその調節機構に関する研 究は十分ではな い。そこで、本研究では 妊娠期を通した胎盤トランス ポータの発現・機能の変動 およびその調節 機構の一端を明らかにし 、胎盤における薬物胎盤透過 および相互作用による副作 用を回避するた めの知見を得ることを目 的とした:

【結果および考察】はじ めに妊娠日齢の異なるラット 胎盤に発現している種カの 栄養素トランス ポー タお よび 代 表的 な排 出ト ラン ス ポー タのmRNA発現量を比較した。そ の結果、胎盤に発現し てい るト ラン ス ポー タの 多く は妊 娠 の進 行に 伴いmRNA発現量が増加する 傾向を示した。しかし ながら、それらとは反し て妊娠の進行に伴い発現が減 少しているトランスポータ の存在も確認さ れた。これらの結果より 薬物の胎盤透過性あるいはそ れらに認識され得る栄養素 の胎盤輸送機能 は妊 娠の 時期 に よっ て変 動し てい る こと が示 された。葉酸の母体ー胎児 方向の輸送に関与する FRn、RFCなら び にHCP1の 発現 は増 加 して いた 。一 方 、胎 児ー 母体 方向 の 輸送 への 関与 が示 唆 されているB(ニRPは減少 していたことから、本研究 では胎盤における葉酸輸送に関与するこれら の輸送担体に着目した。

  妊娠ラットに葉酸を投 与し、胎児および胎盤への移 行量を評価した結果、それ らの移行量は妊 娠の進行に依存して増加 していることが示された。こ の結果は、葉酸輸送担体の 発現変動との関 連が示唆されるものであ った。そこで、ヒト胎盤由来 であルサイトトロフォブラ スト細胞のモデ ルと して 汎用 さ れて いるBeWb細胞 お よび シン シティオトロフォブラスト 細胞で構成されている ヒ ト 満 期 胎 盤 よ り 調 製 し たBBMVsを 用い て葉 酸の 輸 送機 構を 解析 した 。BeWb細胞 にお ける 葉 酸取 り込 みはpH依存 性を 示し 、HCP1の阻 害剤 であ る へミ ンは2相 性を示 す葉酸取り込みの低親 和性 画分 を阻 害 した 。一 方、RFCの基 質で あ るTPPは全く影響を及ぼさな かった。これらの結果 よ り 、BeWb細 胞 に お け る 葉 酸 取 り 込 み は 主 にFRaお よびHCP1が 関与 して おり 、RFCの 寄与 は 小さ いこ とが 示 唆さ れた 。ヒ ト満 期 胎盤BBMVs^ の葉 酸取 り込 み は、FRaの機 能を 停止 させ る PI‐PLC処理 によ って 減 少し 、ヘ ミン また はTPPを共存することにより、 その減少の程度は大き

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く な っ た 。 し た が っ て 、 ヒ ト 満 期 胎 盤 にお ける 葉酸 輸 送はFRa、RFCな らび にHCP1の3種 類の 担 体 に よ っ て 行 わ れ て い る こ と が 示 さ れた 。以 上のBeWo細 胞お よび ヒ ト胎 盤BBMVsの結 果よ り 、ト ロフ ォブラスト細胞における葉 酸の取り込み機構は細胞の分 化に伴って変化しているこ と が示唆さ れた。

  妊娠 期を 通 して 発現 の減 少 が確 認さ れたBCRPは その 発現量に性 差があると報告されている 。 ま た、 胎盤 は 性ホ ルモ ン分 泌 能を 有す る臓 器で あ るこ とから、BCRPの発現は性ホルモンによ っ て 調節 を受 けている可能性が推察され た。そこで、胎盤から分泌さ れる性ホルモンであるエス ト ロ ゲン およ び プロ ゲス テロ ン が及 ばす 影響 をBeWo細胞 を用いて評 価したところ、エストロン 、 エ ス ト ラ ジ オ ー ルお よび エ スト リオ ール の3種類 のエ ス トロ ゲン はい ず れもBCRP mRNAの 発現 を 増加 させ る 傾向 を示 した 。 一方 、高 濃度 のプ ロ ゲス テロンはBClい耐ばA発現を抑制するこ と が 明ら かと な った 。さ らに 、BCRPのタ ンパ ク質 発 現量 はエストラ ジオール添加によって濃度 依 存 的に 増加 し 、プ ロゲ ステ ロ ンはBCRPタン パク 質 発現 量を減少さ せる傾向を示した。エスト ラ ジ オ ー ル お よ び プロ ゲス テ ロン はBeWb細 胞 にお けるBCRPInI蝋A量を 変動 させ たこ と より 、こ れ らはBCRPの 転写 活性 に影 響 を及ばし ていることが示唆された。EeらはB(:RPプロモータに エ ス トロ ゲン レ セプ タ応 答配 列 (ERE) が存在していることを報告し ている。そこで、BcWb細胞 お よ びT47D細 胞 を 用 い 、ERnの 強 制 発 現 がBCRPプ ロモ ータ 活性 に 及ば す影 響を 検討 し た。 その 結 果、 両細 胞 にお けるBCRPプ ロモ ータ の応 答はEIkを強 制 発現 させ るこ とに よ り有意に増大 し た 。 ま た 、T47D細胞 を用 い てBCRPプ ロモ ー タの 上流 の削 除お よ びEI也配 列ー の変 異 導入 の影 響を確認 したところ、ERE(‐243/一225)を失うことによってその活性は著しく低下した。したがっ て 、EIuはEREを 介 し てBCRPプ ロ モ ー タ の 応 答 を 増 強 し て い る こ と が示 唆さ れた 。 しか しな が ら 、BeWb細 胞 に お い て プ ロ ゲ ス テ ロ ン はBCRPmRNAお よ び タ ン パ ク質 発現 量を 抑 制さ せる に も関 わら ず 、プ ロモ ータ 活 性に はほ とん ど影 響 を及 ぽさなかっ た。そこで、次にBeWb細胞 へ の 長時 間の 性 ホル モン 接触 がBCRPプロ モー タ活 性 に及 ばす影響を 評価した。その結果、エス ト ラ ジオ ール の添加はそのプロモータの 応答に対して何ら影響を与え なかったのに対し、プロゲ ス テ ロン はそ の 応答 を抑 制す る 傾向 が示 され た。 し たが って、プロ ゲステロンによるBCRPの発 現 減 少はBCRPプ ロモ ータ を介 し てい るこ とが 示さ れ た。 以上の結果 より、性ホルモンによるBCRP の 発 現 調 節 は 、 プ ロ モ ー タ の 転 写 活 性 へ の 影 響 に よ り 行 わ れ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。

【 結論 】胎 盤 トラ ンス ポー タ の発現は 妊娠期に応じて変動してお り、胎盤の葉酸輸送能はFRa、 RFC、HCPlな ら び にBCRPの 発 現 量 に 依 存 し て変 化す るこ とが 示 唆さ れた 。母 体か ら 胎児 方向 へ の 葉 酸 輸 送 に 寄与 するFRn丶RFCな らび にHCPlの発 現は 、ト ロ フォ ブラ スト 細胞 の 形態 と関 連 して いる こ とが 示唆 され た 。BeWb細 胞を 用い た 検討 により、胎 児から母体方向への葉酸輸 送 に 寄与 するBCRPの 発現 は、 エ スト ラジ オー ルお よ びプ ロゲステロ ンなどの性ホルモンによっ て 調 節を 受け て いる こと が示 さ れた 。さ らに 、BCRPのプ ロモ ータ 活性 はEIu―EI也を介して増 強 し 、プ ロゲ ス テロ ンの 長期 接 触で は抑 制さ れる こ とか ら、胎盤に おける性ホルモンによるBCRP の 発現 調節 はプロモータの転写活性へ の影響であることが示唆され た。以上の結果より、胎盤 の 輸 送機 能は 成長する胎児の要求に応じ て変化しており、それらを担 うトランスポータの発現量 の 変 動は 、胎 盤における細胞の分化や性 ホルモンの分泌などの生理変 化と強く関連していること が 示唆され た。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 准教授 准教授 准教授 講師

井 関    健 菅 原    満 宮 内 正 二 武 隈    洋 平 野    剛

学 位 論 文 題 名

妊 娠の進行に伴う胎盤ト ランスポータの発現変動 およびその調節機構に関する研究

  本 学 位 論 文 の 筆 者 は 胎 盤 に お け る 物 質 輸 送 機 構 、 特 に 妊 娠 期 を 通 し て 生じ る そ れら の 変 化 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て 以 下 の 検 討 を 行 っ て い る 。

(1)胎 盤 ト ラ ン ス ポ ー タ の 妊 娠 期 を 通 し た 発 現 変 動

  本 論 文 は 胎 盤 に お け る 種 々 の 栄 養 素 ト ラ ン ス ポ ー タ お よ ぴ 排 出 ト ラ ン スポ ー タ の妊 娠 期 を 通 し た 発 現 量 の 変 動 を 解 析 し て い る 。 そ の 結 果 、 ト ラ ン ス ポ ー タ の 種類 に よ っ て 発 現 量 が 増 加 ま た は 減 少 す る こ と を 見 出 し 、 こ れ ら の ト ラ ン ス ポ ー タ が 担う 胎 盤 の 物 質 輸 送 能 は 妊 娠 期 を 通 じ て 変 化 し て い る こ と を 強 く 示 唆 し た 。 特 に 、 筆 者は 胎 児 の 健 常 な 成 長 に 必 須 な 栄 養 素 で あ る 葉 酸 を 輸 送 す る ト ラ ン ス ポ ー タ の 妊 娠 期 を通 し た 発 現 量 の 増 大 を 示 し て お り 、 胎 盤 の 生 理 的 な 役 割 を 考 察 す る 上 で 有 用 な 知 見 を見 出 し て い る 。 ま た 、 胎 盤 に お け る 輸 送 能 が 妊 娠 期 に 依 存 し て い る と い う 知 見 は 妊 婦へ の 薬 物 治 療 を 行 う 上 で 、 そ の 胎 児 へ の 移 行 性 お よ び 栄 養 素 と の 相 互 作 用 を 考 慮 す るた め に 重 要 な 情 報 を 与 え う る と 考 え ら れ る 。

(2)胎 盤 にお け る 葉酸 輸 送 機構 の 解 析

筆 者 は 妊 娠 期 に 発 現 量 の 変 動 が 確 認 さ れ た 葉 酸 輸 送 機 構 に 着 目 し 、 ヒ ト 胎 盤 絨 毛 癌   由 来 のBeWo細胞 お よ びヒ ト 満 期 胎盤 よ り 調製 さ れ たBrush−border membrane vesicles   の ニ つ の ツ ー ル を 用 い て 詳 細 な 解 析 を 行 っ て い る 。 そ の 結 果 、 胎 盤に お け る葉 酸 輸   送 機 構 は 、 絨 毛 を 構 成 し て い る ト ロ フ ォ ブ ラ ス ト 細 胞 の 形 態 に 依 存し て 輸 送に 寄 与   す る ト ラ ン ス ポ ー タ の 種 類 が 変 化 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。 さら に 、 近年 報 告   さ れ た 葉 酸 トラ ン ス ポー タ で あるHeme carrier protein (HCP1) が胎 盤 の 葉酸 輸 送 に

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寄与していることを示唆し、この知見は新規性があると判断できる。また、筆者は in vitro の検討のみならず、ラットを用いた検討によって胎盤の葉酸輸送を評価して おり、これらの機構が胎盤において担う生理的な役割を考察するために十分な知見 を得ている。

(3)  Breast cancer resistance protein (BCRP) の 発現調節機 構に関する 検討    筆者は胎 盤において 胎児から母体方向への葉酸輸送に寄与しているBCRP の発現 量が妊娠中期から満期にかけて著しく減少していることを見出し、その発現調節機構    に関して検討を行っている。その結果、BCRP の発現は胎盤の機能のーつである性ホ    ルモン(エストラジオールおよぴプロゲステロン)の分泌と関連して調節を受けてい    ることを明らかにした。さらに、筆者はその調節機構に関して BCRP のプロモータ ー機能の解析を行い、胎盤においてエストラジオールはプロモーター上に存在するエ    ストロゲン応答配列を介して BCRP の発現を増大させることを示した。さらに、一    定時間以上に渡ってプロゲステロンが存在することによってBCRP のプロモーター    の活性は抑制されることが示されている。したがって、本論文により妊娠期の進行に 伴う胎 盤の BCRP の発現減 少は、胎盤より分泌されるエストラジオールおよびプロ    ゲステロンのバランスによって調節を受けていることが強く示唆された。生体内にお    ける BCRP の発現調節機構に関しては更なる検討を要するが、これらの知見は胎盤    におけるトランスポータの発現調節において性ホルモンが重要な役割を担うことを    示しており、今後の胎盤トランスポータに関する検討に有用な情報を与えうると考え    られる。

   以上、本論文はこれまでに多く行われてきた胎盤のトランスポータに関する検討とは

異なり、時間依存的なトランスポータの発現量の変化およぴその調節機構を解明する

べく検討を行うことで、胎盤輸送に関して新しい知見を与えている。これらの知見は

妊婦への安全な薬物治療を行うための有用な情報となり得ることが期待でき、筆者は

博 士 ( 薬 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 値 す る も の と 認 め ら れ る 。

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