コーチングにおける動きの表現について
阿 部 征 次
はじめに
これまでコーチングを効果的に進めるための技法 について、その種類や使い方について調査してきた。
スポーツ指導の現場では、コーチングの効果を上げ るために、さまざまなことが考えられ工夫されてい るが、コーチングの技法として意識して用いられ、
明確に位置づけられるには至っていないといえるで あろう。昨年の日本体育学会第
46
回大会において、指導者が選手に意志を伝達するために行うミーティ ングを、コーチングの効果をあげる重要な技法の一 っと位置づけ、実施の実態や指導者のとらえ方につ いて報告した。指導者が意志を伝達する場面は、ミ ーティングのほかに技術指導の際の動きの表現があ げられる。技術情報を伝えるために動きをどう表現 するかは、コーチングの効果により直接的に関係し、
コーチングの効果的遂行により密接に関係する重要 なコーチングの技法といえる。
今回はコーチが選手に技術情報を伝える場合の
「動きの表現」のし方をとりあげ、コーチがどのよ うな手段を用いて動きを表現し、その効果をどのよ うにとらえているかを調査し、コーチングの技法と しての動きの表現について、基礎資料を得ることを 目的に研究を行った。
研究方法
調査期間は
1 9 9 6
年2月2 5
日〜3
月20
日で、質問紙を 郵送により配布し回収した。質問は(1)動 き の 表現 に用いる手段とその効果( 2 )
動きの表現と言葉などについて、
2 7
の質問項目に、5
段階の選択肢を設け て回答を得た。対象は前回までと同じ
1 9 9 0
年度および19 9 1
年度の 高校全国大会出場校の監督として登録されている4 0 7
名である。回収数は224で回収率55 . 0
%であった。種目別の回収数は次の通りである。
ラグビー
29 12.9%
サッカー
20 8.9%
バスケットボール
47 21.0%
バレーボール
53 23.7%
野球
24 10.7%
陸上競技
50 22.3%
無回答
1 0.4%
計
224 l ( ) ( )
.0%
また回答者が一週間に技術指導をしている頻度は 下記のようである。
週7 5回 週4 3回 週2 1回 ときどき
1 5 7 9 4 5 l
ー
62.9%
24.6%
7.6%
4.0%
ほとんどしない
1 0.4%
無回答
1 0.4%
6 2 . 9
%が週5
回以上、週3回以上となると8 7 . 3
%と いう非常に高い割合を示し、熱心に技術指導に取り 組んでいることが知られる。対象者の平均年齢は
4 5 . 6
歳( S . D = 8 . 3 5 )
、指導経 験年数は平均21 . 6
年( S . D = 8 . 7 2 )
、現在指導してい るチームの平均指導年数は1 4 . 8
年( S . D = 8 . 8 7 )
であ った。勤務先は指導チームの高校教員が92.0%
、職 員が5.4%、その他2. 7
%であった。結果と考察
技術指導の際に動きをどのようにして伝えようと し、それらの手段の効果についてどのように感じて いるのかに関する質問と、それに対する回答を集計 し、次のような結果が得られた。回答数の計はいず れも
224
名(100%
)である。(1)動きを人が動いて伝えることについて
まず、人が動いて動きを伝える場合についての質 問と回答である。
問:技術指導の際、自分で動いて技術そのものをみ せますか
やってみせることが多い
5 8 25.9%
時々やってみせる
1 0 3 46.0%
やってみせることがある 48
21.4%
ほとんどみせない
1 4 6.3%
まったくみせない
1 0.4%
問:動きの説明として、自分で動いてみせるのは効 果があると思いますか
非常に効果がある 効果がある
76 1 2 3
やってみせたいと思うことが多い
1 0 0
やってみせたいと思うことがある8 8
33.9%
54.9%
どちらとも言えない
20 8.9%
あまり効果がない
5 2.2%
ほとんど効果はない
0 0.0%
問:自分で手本をやってみせたいと思いますか
44.6%
39.3%
どちらとも言えない
2 3 10.3%
あまり思わない
6 2.7%
ほとんど思わない
4 1.8%
無回答
3 1.3%
問:動きの説明のために、自チームの選手以外のア シスタントを使うことがありますか
使うことが多い
1 5 6.7%
時々使う
6 9 30.8%
使うことがある
3 1 13.8%
ほとんど使わない
74 33.0%
まったく使わない
3 3 14.7%
無回答
2 0.9%
問.・動きの説明として、アシスタントを使うことは 効果があると思いますか
非常に効果がある 効果がある
どちらとも言えない あまり効果がない
64 28.6%
4 8 2 2 2
ー
55.4%
12.5%
0.9%
ほとんど効果はない
3 1.3%
無回答
3 1.3%
問:手本になるアシスタントが必要だと思いますか いればよいと思うことが多い
8 8 39.3%
いればよいと思うことがある
1 1 1 49.6%
どちらとも言えない
, 4.0%
あまり思わない
, 4.0%
ほとんど思わない
6 2.7%
無回答
1 0.4%
問:動きを説明するために、自チームの選手をモデ ルに使うことがありますか
モデルにすることが多い
9 1 40.6%
時々モデルにする
95 42.4%
モデルを使うことがある
28 12.5%
ほとんど使わない
8 3.6%
まったく使わない
2 0.9%
問:動きの説明に、自チームの選手をモデルにする ことは効果があると思いますか
非常に効果がある
54 2 4 . 1 %
効果がある1 4 4 64.3%
どちらとも言えない あまり効果がない
2 3 10.3%
0.4%
ほとんど効果はない
1 0.4%
無回答
1 0.4%
動きを伝えるには、人間が動いて示すのが直接的 な方法である。その場合に動きを示す人についてみ ると、「多い」と「時々」を合計した割合の高い順 に示すと次のようになる。
自チーム選手をモデルにする
1 8 6 83.0%
自分で動く
1 6 1 71.9%
選手以外のアシスタントを使う
84 37.5%
動きを示すのに、自ら動いたりしたり、自チーム の選手をモデルにする場合が多く、アシスタントを 使うことがそれ程ないことが分かる。しかし、その
効果については、何れの場合も
80
数%と高い率で認 めており、自分や自チームの選手を使って動きを示 すことに意味を見いだしている。その一方で、アシ スタントも必要としている点に、動きを見せるのに 人をモデルにすることが、高く評価されていること を示しているように思われる。(2)絵や機器などを使って動きを表現することにつ いて
次に、人体模型や絵を描くことやビデオなど機器 を使用して、動きを説明する場合についての質問と 回答である。
問:動きを説明のために、人体模型(人形)を使うこ とがありますか
使うことがある多い
゜ 0.0%
時々使う
4 1.8%
使うことがある
3 1.3%
ほとんどない
66 29.5%
まったくない
1 5 1 67.4%
問:動きの説明に、人体模型(人形)を使うことは効 果があると思いますか
非常に効果がある 効果がある
どちらとも言えない あまり効果がない
ほとんど効果はない
2 7 1 2 . 1 %
無回答
8 3.6%
問:動きを説明するために、イラストや線画など絵 を自分で描いてみせることがありますか
絵を描いて見せることが多い
26
時々絵を描いて見せる49
11.6%
21.9%
絵を描いて見せることがある
50 22.3%
ほとんどない
6 8 30.4%
まったくない
30 13.4%
無回答
1 0.4%
問:動きの説明に、イラストや線画など絵を自分で 描いて見せることは効果があると思いますか
非常に効果がある
24 10.7%
あまり効果がない 8
3.6%
ほとんど効果はない
6 2.7%
無回答
4 1.8%
問・.イラストや線画など、絵を自分で描けたらよい と思うことがありますか
絵を描けたらよいと思うことがある
4 5 20.1%
絵を描けたらよいと思うことがある
1 0 2 45.5%
どちらとも言えない
34 15.2%
あまり思わない
2 8 12.5%
ほとんど思わない
1 3 5.8%
無回答
2 0.9%
問:動きを説明するために、写真や絵を見せること がありますか
見せることが非常に多い 時々写真や絵を見せる
1 0 7 1
4.5%
31.7%
写真や絵を見せることがある
5 3 23.7%
ほとんどない
64 28.6%
まったくない
2 5 11.2%
無回答
1 0.4%
問:動きの説明に、写真や絵を見せることは効果が あると思いますか
4 1.8%
非常に効果がある2 3 10.3%
44
19.6%
効果がある1 3 3 59.4%
1 1 8 52.7%
どちらとも言えない52 23.2%
2 3 10.3%
あまり効果がない9 4.0%
効果がある
どちらとも言えない
I 1 6 66
51.8%
29.5%
ほとんど効果はない
3 1.3%
無回答
4 1.8%
動きを示すのに、一時期比較的多く使われた人体 模型は、ほとんど使われておらず、効果もあまり認 められていないことが分かる。自分で絵を描くこと や絵や写真を見せることは、
3
分の1
程度行われて いる。絵や写真を見せることの効果は60 70
%が認 めていることから、もっと使われてよい方法であると思われるが、「イラストや線画など、絵を自分で 描けたらよいと思うことがある」と
6 5 . 6
%が答えて いることから、自分で絵を描くことができれば、よ り有効に使える方法であるととらえられていると思 われる。絵や写真など静止しているのに対し、動きを伴う 映像機器の使用については、どのようにとらえられ
ているであろうか。
問 : 動 き を 説 明 す る た め に 、 ビ デ オ を 使 う こ と が ありますか
使うことが非常に多い 時々ビデオを使う
ビデオを使うことがある ほとんどない
40
1184 5 1 5
17.9%
52.7%
20.1%
6.7%
まったくない
6 2.7%
問:動きの説明に、ビデオを使うことは効果がある と思いますか
非常に効果がある
8 1 36.2%
効果がある
1 2 6 56.3%
どちらとも言えない
1 5 6.7%
あまり効果がない
1 0.4%
ほとんど効果はない
0 0.0%
無回答
1 0.4%
問:動きを説明するために、パソコンを使うことが ありますか
使うことが非常に多い
0 0.0%
時々パソコンを使う
4 1.8%
パソコンを使うことがある
4 1.8%
ほとんどない
7 3 32.6%
まったくない
1 4 3 63.8%
問:動きの説明にパソコンを使うことは、効果があ ると思いますか
非常に効果がある
6 2.7%
効果がある
どちらとも言えない あまり効果がない ほとんど効果はない
58 1 3 5 1 0 5
25.9%
60.3%
4.5%
2.2%
無回答
1 0 4.5%
ビデオは
70
%以上が「非常に多く」「時々」使用 しており、その効果については、9 2 . 4
%が認めてい る。効果を認める者と使用している者の差は2 2
%近 くあり、使用したくても何らかの事情で使用できな い状況にあると思われる。映像を加工もできるパソ コンは、動きの説明にはまだほとんど用いられてい ないが、2 8 . 2
%は効果があると認めており、今後ど のよう推移するのか興味深いところである。(3)動きを言葉で説明することについて
動きの説明を言葉で行わなければならないこと は、よくあることである。それについて、指導者は どのように感じているかを質問してみた。
問:動きを説明するために、言葉だけで説明するこ とがありますか
言葉だけのことが非常に多い 44
時々ある
84
言葉だけで説明することがある
77
ほとんどない1 7
19.6%
37.5%
34.4%
7.6%
まったくない
1 0.4%
無回答
1 0.4%
問:動きの説明を、言葉だけですることは効果があ ると思いますか
非常に効果がある
5 2.2%
効果がある
84 37.5%
どちらとも言えない
8 5 37.9%
あまり効果がない
4 7 21.0%
ほとんど効果はない
2 0.9%
無回答
1 0.4%
問:動きを説明するために、言葉や身振り(技術そ のものではなく、その場での動き)で説明するこ とがあります
多い
1 0 9 48.7%
時々ある
9 1 40.6%
ある
2 3 10.3%
ほとんどない
1 0.4%
まったくない
0 0.0%
問:動きの説明を、言葉と身振りですることは、効 果があると思いますか
非常に効果がある
4 9 21.9%
効果がある
1 4 2 63.4%
どちらとも言えない
3 2 14.3%
あまり効果がない
1 0.4%
ほとんど効果はない
0 0.0%
問:動きを説明するのに、言葉の使い方で選手の理 解のし方が違うと思いますか
非常に違いがある
1 1 4 50.9%
違いがある
1 0 1 4 5 . 1 %
どちらとも言えない あまり違いはない
8
3.6%
0.4%
に指導力を向上させようとする意欲の表れととるこ ともできよう。
ほとんど違いはない
0 0.0%
問:動きの説明の言葉の使い方のうまい人と下手な 人がいると思いますか
非常にはっきりしている
8 3 3 7 . 1 %
うまい下手がある1 3 5 60.3%
どちらとも言えない
5 2.2%
あまり違いはない
0.4%
ほとんど違いはない
゜ 0.0%
問:動きを言葉で説明するのに、自分の説明のしか たに満足していますか
十分満足している
8 3.6%
満足している
5 5 24.6%
どちらとも言えない
1 0 9 48.7%
やや不満足である
42 18.8%
不満足である
1 0 4.5%
動きの説明と言葉については、言葉だけで説明す ることがあるかという問に
5 7 . 3
%が、言葉に身ぶり を加えた説明は8 9 . 1
%が、することが「多い」「と きどき」と答えている。3 9 . 7
%は言葉だけの説明の 効果を認め、身ぶりを加えた場合の効果は8 5 . 3
% が 認めている。身ぶりを伴った方が効果が高いとしても、言葉の 使い方で選手の理解のし方が違いがあるかという問 いに、
5 0 . 9
%が非常に違うと答え、4 5 . 1
% が 違 い が あると答えている。そして、言葉の使い方のうまい 人と下手な人がいると思うかという問には、3 7 . 1%
が「言葉の使い方のうまい下手は、非常にはっきり している」と答え、
6 0 . 3
%が「言葉の使い方にうま い下手がある」と認めている。言葉の使い方に、コ ーチングを効果的に進められるかどうかの大きな問 題があるように感じられるところである。それにつ いて、回答者自身の、言葉での動きの説明のし方を 評価してもらった。動きを説明するとき、自分の説 明のし方に「十分満足している」「満足している」と「やや不満足」「不満足」が約
4
分の1
ずつ、「ど ちらとも言えない」が半数という結果であった。対 象者が全国大会出場チームの指導者であることを考 えると、やや過小評価の傾向が感じられるが、さらまとめ
全国高校大会に出場したチームの指導者に、技術 情報として動きの表現をどのように行い、その効果 についてどうとらえているかを質問紙によって調査 し、次のような結果を得た。
( 1 )
動 き を 表 現 す る の に 、 「 自分でやってみせる」「自チームの選手をモデルにする」「ビデオを見 せる」などの手段を多く用いていた。
( 2 )
「アシスタントを使う」「人体模型やイラスト・線画など」はあまり用いられていなかった。
( 3 )
映 像 と し て 、 ビ デ オ の 効 果 を 高 く 評 価 す る 指 導 者 は 多 い が 、 効 果 を 認 め な が ら 使 用 し て い な い 指 導 者 も 多 く 、 ま た 、 映 像 を 加 工 で き る パ ソコ ンはまだほとんど用いられておらず、このよう な ハ イ テ ク 機 器 を ど の よ う に し て 導 入 す る か が 今後の課題になると思われる。( 4 )
動 き を 言 葉 で 説 明 す る 機 会 は 多 く 、 身 ぶ り と 併 用 す れ ば 高 い 効 果 が 認 め ら れ て い る 。 そ し て 、 言 葉 の 説 明 の 能 力 が 指 導 者 に よ っ て 違 い があることも認識されている。
( 5 )
ハ イ テ ク 機 器 の 利 用 と 対 照 的 な 、 言 葉 に よ る 動 き の 表 現 に つ い て 、 方 法 や 話 術 等について検討 する必要のあることが示唆された。参考文献