題を見て内容が予想されると思いますが、そのよ うな内容です。違いは経験によって個人差があると いうところでしょうか。もっともこの諺には、次の 2つの解釈があります。
1)なにかやっているうちには、思いがけない幸運 に遭うこともある。
2)物事を積極的に行なう者は、それだけ災難に遭 うことも多い。
ここでは前者についての話です。
私の家内は、結婚の前後4~5年を九州大学医学 部附属病院の検査部で働いていました。当時の部長 は大河内一雄教授でした。家内は研究者でもなく一 介の検査技師でしたが、大河内先生からかわいがら れていたのか、先生と色々な話しをし、その話を私 に聞かせてくれました。先生は、オーストラリア抗 原が輸血による肝炎と密接な関係がある事を世界で 初めて証明された方で、その後のウィルス肝炎の克 服に大きな貢献をされました。そのような業績をお 持ちだったので、東京大学からの申し出もありまし たが、定年までの2 0年間を九州大学で過ごされまし た。理由は簡単で、九州には血液に関する地域特有 の病気がたくさんあり、研究対象が豊富にあったた めでした。先生は部長職にありましたが、毎朝、長 いエプロンを着て輸血部に集まる何百本の血液から 血液を採取されていたそうです。その大河内先生の 口癖が、「犬も歩けば棒にあたる。歩かなければ何 にもあたらない。 」でした。
大河内先生に関しては、表題とは関係ありません が、研究者の倫理に関しての話題があります。1 9 8 0 年代に「薬害エイズ」事件が起こりました。厚生省 エイズ研究班の1人だった大河内先生は、血友病患 者の治療にはエイズ感染の可能性がある非加熱製剤 から国内のクリオ製剤への転換を主張しましたが、
班長ら臨床医の意見が通り、非加熱製剤が使われる
ようになり、結果として2
,0 0 0人近い血友病患者がエ イズに感染しました。当時の厚生省、製薬会社、病 院など多数派が主張することに対して異を唱えると、
場合によっては医学の世界で生きることが難しくな るのがわかっていても、感染症から患者の命を守る 医者としての生き方を全うした姿は、私にとって大 変心に残る話になっています。
もう1つの最近の話題として挙げられるのは、
2 0 1 5年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先 生ではないでしょうか。先生は、土壌中の微生物を 培養し、その微生物が作り出す有用な抗生物質を数 多く発見されました。どこに行くときも土を掘るス プーンと記録用のカード、ビニール袋を持っていき、
土壌を採集しては新しい微生物を見つけることを続 けておられたそうです。
いずれも長い年月かけて、泥臭い研究を丁寧に行 う過程で、見たいものや探したものがあり、それら を追及する過程で見つかったものばかりであること が特徴です。きっと大発見につながる現象が多くの 人に平等に起こったかもしれませんが、見たいもの をひたすら探している人にしかその現象の意味がわ からなかったでしょう。もう1つの特徴として、こ のような地道な研究を続けるいずれの研究者も、多 少余裕がある楽天家であるように思えます。大きな 発見には笑い話のような逸話があるのはそのためで はないでしょうか。神様はきっとそのような人に微 笑んでくれるように思えます。
私も色々な物質に圧力をかけて生ずる相転移の研 究を行ってきました。3 0年ほど前、硫黄に圧力をか けていましたが、しばらくして硫黄の高圧相がその 当時、元素で最も高い超伝導転移温度を示す物質で あることが発見されました。チャンピョンデータを 得る状況の近くにいましたが、残念ながら粘りと創 造力が不足しており、棒に当たり損ねました。
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アカデメイア
犬も歩けば棒にあたる
理学部長