ポイントは ふつうとされている ものって何だろう? ということです 世の中には 当然なのだと思われていることがたくさんあり 男性が女性を好きになることが当たり前と思われがちです ところが 実際はそうではない人がいて たとえばわたしのように マイノリティ である人びとのことです わたしはマイノリティ

全文

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LGBTs に対する差別の現状と課題

刑務所における TG の処遇を中心に

仲岡しゅん

 弁護士

LGBT とは

 弁護士の仲岡しゅんといいます。戸籍上は男性で、弁護士は女性 として登録しています。日弁連も性同一性障害のある会員にちゃん と対応しようということで、診断があれば望みの性別で弁護士登録 ができるようになりました。わたしのような人のことをトランス ジェンダーといい、性別越境は男性から女性のパターン(MtF)と、 女性から男性のパターン(FtM)があります。弁護士として民事も 刑事もやっていますが、とくに性にまつわる相談依頼も多数あって、 離婚やセクハラはもちろん、LBGTs の人たちからの相談も受けて います。  近年、LGBTs に関する人権問題は無視できない状況になってき ており、大阪市でもついこの間、同性パートナーシップ証明制度が 始まりました。また、文科省等も 2015 年に「性同一性障害に係る 児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施について」という通達を 出しています。あるいは、2017 年の文科省のいじめ防止対策推進法 の基本的な方針のなかに、性的指向・性自認について明記されてい ます。あるいは今年から、厚労省の性同一性障害の手術療法への保 険適用が開始されました。つまり、これまでトランスジェンダーの方が手術を希望しても保険適用がまった くなかったので、100 万円くらいの費用がかかりました。そのため、あきらめざるを得ない人がいたのです が、今年から保険が適用されるようになったということです。ただしホルモン療法との併用ができないとい う課題があります。また、2018 年 WHO の国際疾病分類の改訂版が発表され、これまで精神疾患のカテゴリー のなかに性同一性障害が位置付けられていましたが、今回の改訂版では精神疾患から外されることになりま した。来年承認予定ですが、「Gender Inconguences」という新しい言葉ができ、日本語訳はまだないのです が、性別不合とかそういうものになるのだと思います。このようにとくに近年、性的指向と性自認といった 性の問題に関して、世の中が大きく動いているという状況です。  皆さん LGBT という言葉は聞いたことがあるようですが、ざっとおさらいします。LGBT とは、セクシュ アルマイノリティ(性的少数者)のなかの代表的なものの頭文字のことをいいます。L はレズビアンの頭文字 で女性同性愛者のこと、G はゲイの頭文字で男性同性愛者のこと、B はバイセクシュアルの頭文字で両性愛 者のことです。LGBT とまとめてよくいわれますが、LGB と T の問題は次元が違います。LGB というのは 性的指向が誰に対して向くかという問題なのに対して、T は他人に対する性的指向とは関係ありません。ト ランスジェンダーは出生時に割り当てられた性別とは違う性で生きる人のことで、他人との関係の問題では ありません。そのへんが一緒くたになっていて、世の中けっこう間違って理解されている、使われているこ とが多くあります。たとえば、「学校の制服を LGBT の生徒が困らないように配慮しました」とか聞いたこ とがありますが、制服の問題は主として T の問題で、たとえばゲイの男子生徒が男子の制服を着るのは問 題ないはずです。もちろん、制服それ自体の問題というのもありますが。また「LGBT の男性がアウティン グに遭あった」とかは、レズビアンであることと男性というのは両立しません。  LGBT の説明をするとき、たいていの方の説明だと以上で終わるのですが、わたしは次のことをあえて 入れています。①その社会で、「ふつうとされている」性のあり方に当てはまらない人がいます。ここでの なかおか しゅん さん

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ポイントは、「ふつうとされている」ものって何だろう? ということです。世の中には、当然なのだと思 われていることがたくさんあり、男性が女性を好きになることが当たり前と思われがちです。ところが、実 際はそうではない人がいて、たとえばわたしのように「マイノリティ」である人びとのことです。わたしは マイノリティ(少数派)とは、たんなる数の多い少ないという問題ではなく、その社会の権力関係における、 差別的・被抑圧的な少数派であると考えています。どういうことかというと、たとえば江戸時代の侍という 身分は、少数派でしたが社会的な権力を持っています。南アフリカでは、アパルトヘイトという制度があり ましたが、そこでの白人は非常に少数派です。だけども少数の白人が多数の黒人を差別するというシステム があったわけです。あるいは、この社会の男性と女性は数のうえでは同じくらいですが、男女の賃金格差、 国会議員に占める女性の割合、管理職の女性の割合は、女性のほうが非常に低いのです。  つまりここでいうセクシュアルマイノリティというのは、性に関する差別を受けやすい立場にある少数派 のことをいうのです。性に関して数のうえだけでの少数派だけいうと、たとえばチカンや盗撮で興奮する人 やペドファリア(小児性浴者)は数のうえでは少数ですから、社会の力関係や差別という観点を入れないと、 ペドフィリアも LGBT も一緒くたにされてしまいかねないわけです。ゲイの方が男性同士でカップルにな ることは何も悪いことではありませんが、たとえばペドフィリアの場合、内心にとどめておくかぎりは自由 ですが、実際に幼い子に手を出すのは当然ながら犯罪ですので、そのことは差別ではありません。それと差 別問題とを混同してほしくないと思います。そこにある社会的権力関係における被差別・被抑圧的な少数派 のことをわたしはセクシュアルマイノリティと呼んでいます。

実はそのほかにも……

 LGBT 以外にも、さまざまなセクシュアルマイノリティの人がいます。まず、性分化疾患というのがあり、 インターセックスともいわれてきました。この言い方は、日本国内で賛否両論あり、日本では性分化疾患と いうほうが多いです。性分化疾患とは、性染色体や性腺、内性器、外性器など解剖学的性が先天的に非定型 的な状態をいうのです。具体的な例をいくつかあげて説明すると、赤ちゃんが生まれたとき、おちんちんが ついているから男の子、ついていないから女の子とわけられがちですが、なかにはどっちかなという子もい るのです。あるいは、わたしが実際お会いした方で、見た目や姿かたち、声も自己認識も女性ですが、ある とき体内検査をすると卵巣や子宮にあたるものがなく、停留精巣といって体内に留まっている精巣がありま した。大人になって知って非常にショックを受けておられました。また、ほかにも、男性の性染色体は XY で女性は XX ですが、XXY という方もいます。だから身体的な性のあり方に関しても非常にバリエーショ ンがあって、性分化疾患というのはさまざまなパターンがあるなかの総称です。そのような当事者に対して、 第三者が勝手に「あなたは男でも女でもないんだよね」とか「両性具有なんやね」という表現は、往々にし て当事者を傷つけかねない言葉です。しかし、他方、逆にあえて肯定的にそのような自己認識をもっている 人もいます。大事なのは、当人の性別のあり方は当人自身が決める問題であって、第三者が勝手に決めつけ てしまわないことです。  アセクシュアル(asexual)というのもあって、他人に対して恋愛感情や性的欲求をいだかない人のことです。 当然のようにみんながみんな恋愛したい、性的交渉をしたいとはかぎらないということです。  そして、性同一性障害というものがあります。これは生物学的性別と性の自己意識が一致しない状態をい う医学的・法的概念です。身体上の性別と、男性であるとか女性であるとかの性の自己意識が一致しない状 態をいうのですが、性同一性障害とトランスジェンダーは違うのでしょうか? わたしは冒頭の自己紹介で トランスジェンダーという言葉を使い、なおかつ性同一性障害なので、望みの性別で弁護士登録ができると 話しました。同じと思われるかも知れませんが、実は違う概念です。性同一性障害というのは「医学的・法 的概念」で医者からの診断名なのです。わたしの場合は、人間の生き方としてはトランスジェンダー、お医 者さんからもらっている診断名は性同一性障害で、見る角度が違うわけです。社会的なあり方はトランス ジェンダーで、医学上の診断名が性同一障害です。たとえば、被差別部落と同和地区はイコールではないの と同じです。被差別部落は歴史的・社会的概念であって、同和地区というのは行政上の概念ですから、なか には被差別部落だけど同和地区指定されていない地域も当然あるわけです。運動のなかでも被差別部落に重

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点を置いているところもあれば、同和地区に重点を置いているところもあります。性同一性障害も似ている 部分があり、トランスジェンダーだけど医者から診断されたくないという人、あるいは性同一性障害だけど トランスジェンダーとはいわれたくない人も世の中にはいます。性同一性障害という概念は国際的には揺ら

いでおり、おそらく国際的にはこれからなくなっていく言葉です。しかし日本の場合、「障害だから仕方ない」

という発想なので、日本国内では性同一性障害という言葉は当分なくならないだろうと思います。

 最近、SOGI という言葉を耳にするようになりました。Sexual Orientation and Gender Identity のことな のですが、Sexual Orientation が性的指向のこと、Gender Identity が性自認のことです。つまり、今日この 会場に来られている人は LGBT 以外の方が多いと思いますが、みなさんも性的指向と性自認はありますよね。 結婚されている方はお連れ合いに対して性的指向が向いているわけで、あるいはパッと見たところ男性は男 性的な格好をしているので、性自認があるのでしょう。したがって、性的指向や性自認の問題を LGBT だ けに限定せず、万人の問題という概念でとらえ直していこうという発想です。  それから、オネエという言葉は、はるな愛さんや、マツコ・デラックスさんなど、ゲイやトランスジェン ダーを一緒くたにしたテレビ用語です。また、ニューハーフは夜のお仕事をされているトランスジェンダー の職業名です。あと、オカマ、オナベという言葉がありますが、今どきこういう言葉を当事者に投げかける のは非常に差別的です。他方、当事者のなかには自ら「わたしみたいなオカマはね……」と使う人もいますが、 これは悪いことだと思いません。たとえば、水平社宣言のなかにも「吾々が、エタである事を誇り得る時が 来たのだ」と一節があるように、自分たちの側から「エタで何が悪いねん」という社会に向けた投げ返しの 文脈で使っているので、差別的ではありません。同じようにオカマ、オナベも表現だけの問題でなく、文脈 の問題であるということに注目していただきたいと思います。

トランスジェンダーとして生きて

 トランスジェンダーとして生きていると、社会生活上、おもしろいことや面倒なことがあります。まず、 トイレの問題があります。「トランスジェンダーの人はどっちのトイレに入るのですか?」とよく聞かれま すが、わたしは今女性用トイレを使っています。なぜかというと、戸籍上の性別にしたがって男性用トイレ を使うと逆に問題になるからです。初期のころはどちらのトイレを使うか悩みましたが、人がいないのを見 計らって男性用の個室を使うと、手を洗っているときにおっちゃんが入ってきて、固まって男性用のトイレ か確認したり、「すいません」と逃げて行ったり、「お姉さん間違えていますよ」という人がいるのです。ちゃ んと説明すると、逆に問題になることもあります。そういう経験があるので、今は女性用トイレを使ってい ます。そういうと、戸籍上男性の人が女性用トイレに入るのは犯罪なのでは? と思う人がいるかも知れま せん。たまに男性が女性用トイレに忍び込んで、捕まっていますよね。あれはなぜ逮捕されているのかとい うと、盗撮やチカンを目的にして女性用トイレに侵入しているからで、建造物侵入罪や迷惑防止条例違反の 罪状で逮捕されています。つまり正当な理由があればいいわけで、わたしの場合はたんに性自認にしたがっ てトイレを使っているだけで、これは何の犯罪になるわけでもありません。行為の問題とその人のアイデン ティティの問題を一緒にしてはいけないということです。  トイレに関してはもう一つ、わたしの友人に FtM のトランスジェンダーがいて、彼は戸籍上女性だけど 見た目は男性なので、男性用トイレを使っています。ただし、おちんちんは付いていないので、立ち小便が できずいつも個室を使っていますが、「いっつもうんこしていると思われるねん」というのが悩みです。ト イレの問題ひとつとっても、いろいろな悩みをかかえた人がいます。  わたしは弁護士になる前に、いろいろな仕事をしてきました。あるとき、派遣会社で働こうと思い求人に 応募したのですが、そこで就職差別に遭いました。戸籍上の性別・男性にマルをして、女性の格好で面接に 行ってカミングアウトしました。そうすると担当者は「うちのところは全然大丈夫ですよ」と性に関する差 別はしないといってくれました。それを聞いてよかったと思ったのですが、30 分ほどして電話がかかって きて「うちは別にいいんです、うちは差別しませんよ。ただ派遣先が何というかわからないから」という理 由でご縁がなかったわけです。これはずるいと思いませんか? うちは差別していませんよ、でも取引先が、 世の中が……とどこかの誰かのせいにして排除するのです。これは部落差別の構造と同じですよね。今どき

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部落差別をしていいという人はめったにいませんが、結婚するときに、親戚が、世間様が、あんたらの子ど もが……とどこかの誰かのせいにして反対していく、この仕組みはセクシュアルマイノリティも、ほかのマ イノリティ問題も非常によく似ています。  このように就職差別を受けたケースもあれば、学童保育の先生として働いた時期もあります。このときは 女性の先生として働きましたが、辞める 3 日前に子どもたちに折り紙を使って性の話をしました。今日は時 間がないので、この話はまたの機会に聞いてください。

家庭とセクシュアルマイノリティ

 セクシュアルマイノリティにとって、家庭は非常にむずかしい問題です。何がむずかしいのかというと「他 人」と「身内」は違うということです。あるいはテレビの向こう側とこちら側は違うということです。テレ ビの向こう側には、はるな愛さんやおすぎとピーコさん、美輪明宏さんなどいろいろ出ていて、みなさん人 気者です。「かわいい」「おもしろい」「いい歌うたうね」など評判はいいのですが、それはテレビのなかだけで、 こっち側にきたとき、さらには身内に入ってきたときに差別と排除が起こるのです。みなさん想像してみて ください。息子さんが彼氏を連れてきたら、娘さんから今後は男として生きていくと告げられたら、みなさ んどう思いますか。わたしは人権にかかわっている方がたの前でも講演を任されたりすることがあるのです が、今の質問をするとギョッとされたり苦笑いをする方が非常に多いのです。つまり人権にかかわっている 方も、どこかの誰かの LGBT への差別はいけないと思っているけれど、自分の子どもだったら、きょうだ いだったら、友人だったら、ええっと思う方が非常に多いのです。これこそ差別の正体です。部落問題でも 外国人問題でも、今どき差別していいなんていう人はめったにいませんが、子どもの結婚相手がそうだった ら、差別と排除が起こるのです。障害者差別をしていいなんていう人はいませんし、24 時間テレビでがんばっ ている障害者を見て感動するのですが、自分の家の裏に障害者のグループホームをつくろうとしたとき、地 域をあげての反対運動が起こります。わたしも某法人がグループホームをつくろうとしたとき、「障害者は 離れて住んでおればいい」「うちの子どもがレイプされたらどうするのか」「犯罪が起こったら誰が責任を取 るのか」という反対運動が起こったひどい事例を知っています。いかにこの社会で差別はダメだとかノーマ ライゼーションを訴えていても、身の回りにそんな人がきたときに「こいつらは異物だ」という価値観のも と排除していくということです。

刑務所とトランスジェンダー

 2004 年に「性同一性障害特例法」という法律が施行されました。この法律は、① 20 歳以上であること、 ②現に婚姻をしていないこと、③現に未成年の子がいないこと、④生殖腺がないこと又は機能を永続的に欠 く状態にあること、⑤その身体について他の性別に係る部分に近似する外観を備えていること、など一定の 要件を満たしている場合には、戸籍上の性別を変えられるというものです。  同性パートナーシップ条例が東京都渋谷区や世田谷区で始まりました。大阪市でも同性パートナーシップ 証明制度が始まろうとしています。これは宣誓書や証明書の発行によって住宅の賃貸や病院での面会などで 配慮していきましょうという自治体レベルの条例や要綱です。注意していただきたいのは「同性婚」ではな いということです。勘違いされている方がいるので説明すると、「同性婚」というのは法律の問題で、同性パー トナー制度とは自治体レベルの話で、効果が全然違います。だから結婚の場合は相手が死んだら相続ができ ますが、パートナーシップ制度は自治体レベルなので、相続はできません。つまり、同性カップルを自治体 や行政が承認してあげるという制度にほかなりません。  最近 LGBT は、レインボーパレードなどで非常に華やかに取り上げられつつあります。しかし他方で、 まだまだ影の部分がいまだにあります。とくに刑務所の問題は見過ごされがちで、まず犯罪者の問題という レッテルがあります。あるいは自分が刑務所に入るわけがないという他人事感があって、そんな価値観から 問題が盲点になっています。わたしは弁護士として刑事裁判の弁護もしていますが、日本の刑事司法は非常 にずさんです。犯罪者になるかならないかは紙一重で、狭山事件や袴はかま田だ事件のようなえん罪もたくさんあり ます。犯罪というのも非常に恣意的な概念です。実際、わたしの知っている受刑者も、万引きを何回か繰り

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返して懲役刑です。なぜ万引きをするのか、LGBT に対する就職差別から働き口がなく、生活保護の受給を 断られていたり、本当にお金がなかったケースで、盗みを働くしかなかった状況がありました。そんな犯罪と、 公文書を改ざんしたり、安倍晋三とお友だちの人物がレイプ事件を起こしておいてお咎とがめもなしです。だか らわたしは犯罪というのは恣意的なものだと思っています。そのなかで刑務所の問題はトランスジェンダー にとって非常に重要な問題です。なぜなら刑務所というのは、男女二元論を煮詰めたような世界だからです。 胸も膨らんで姿かたちは女性だけど、戸籍上は男性だから男性刑務所に入れられている方、すでに男性器が ない MtF トランスジェンダーの方の男性器チェックをする、あるいは乳房を除去した FtM トランスジェン ダーの方にブラジャーの着用を義務づける、常識的に考えて何の意味があるのかと思いますが、刑務所では 大真面目に画一的な運用がされています。  なぜこういった問題が起こるのかというと、収容の基準を「戸籍上の性別」に限定しているからです。見 た目がまったく女性的な方が、男性刑務所に入れられると性暴力の危険があります。そういった問題がある ので、法務所も一応「性同一性障害等を有する被収容者の処遇指針について」(資料①、資料②)という通達 を出していますが、非常に不十分です。問題点を具体的に見ていくと、収容はやはり「戸籍上の性別に従い」 となっています。原則として単独室に収容される、まではいいのですが、監視カメラがついていたり、単独 室から出してもらえない状況があったりします。また、社会的な実態として女性であるにもかかわらず、男 性と同様に丸坊主にされる、これが非常にショックだったと聞いています。衣類はブラジャーの着用は配慮 がありますが、医療上の措置のホルモン療法が認められていません。これが非常に問題で、ホルモンを打た ないと男性化していき、あるいは性器を除去している場合はホルモンが欠乏します。つまり、身体上かなり 重大な問題が生じてしまい、精神的にも肉体的にもボロボロになってしまっている案件がいくつもありまし た。わたしはこれは重大な人権問題であり、刑務所だから、犯罪者だからガマンしろという問題ではないと 思います。たとえば入管の問題でもそうですが、不法入国をしたから無茶苦茶に扱っていいのかというと違 うでしょう。しかし、社会はこの問題にとても冷淡で、今日はみなさんにこの問題を共有したくてお話しし ました。

共通点と特有の問題

 大人に当事者がいるということは、当然子どものなかにもいます。だいたい人口の 5%くらいといわれて いますので、1 クラスに 2 人くらいいてもおかしくないわけです。では自分がセクシュアルマイノリティだ といつ気づくのかといえば、思春期くらいで気付く子もいれば、幼少期から自覚している子もいます。また、 先生が率先して「あいつホモちゃうん」「オカマや」と人権侵害を起こし、孤立・いじめ・ひきこもり、あ るいは自殺するというケースもわたしの身の回りで実際にありました。性の問題は、エロとか下ネタと思わ れがちですが、実際に起こっている人権問題だということを意識してください。  またセクシュアルマイノリティの問題というと新しく出てきた問題だと思われがちです。しかしセクシュ アルマイノリティの問題もこれまで認識されてきた差別問題も根底ではつながっています。部落問題がそう ですが、セクシュアルマイノリティの問題もイエ意識・イエ制度が密接にかかわっています。結婚して家を 継ぐのが当たり前なのに、ゲイだから家を継げないとかいわれます。そして同調圧力です。今ヘイトスピー チが問題になっていますが、多数者とは異なるものへの排除・圧力があります。「あいつらは日本人じゃない。 オレらとは違う」といった違う者への排除は、セクシュアルマイノリティの問題にもあらわれてきます。そ して自民党の杉田水脈さんがいうような「LGBT は非生産的だ。だから税金を使う必要はない」という主張 は、まさに優生思想のあらわれです。優秀な男性と優秀な女性が家族をつくって、優秀な子どもを生むべき だ、そこから外れる人は非生産的だという発想のもと、ナチスドイツのホロコーストが行われ、ユダヤ人だ けでなく障害者や同性愛者も虐殺されています。優生思想というのは、民族や同性愛者、障害者に対する差 別と密接に結びついているのです。  そもそも性差別の問題があって、この社会で男はこう生きて、女はこう生きないといけないといった制度 の押しつけがあります。そこから外れてしまう者への排除の問題です。だから、セクシュアルマイノリティ の問題を遠い問題だと思わないで、むしろこれまでの差別の根源と非常に似通っているのです。

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 他方で、セクシュアルマイノリティ特有の問題というのもあって、まず家族の不理解があります。部落問 題や民族問題では、家族内に同じ民族の人間がいたり、同じムラに住んでいることが多いです。その場合、 家族内に味方がいるケースがありますが、セクシュアルマイノリティは、父親と母親は異性愛者で子どもが 同性愛者である場合が多いので、まず親がわかってくれません。そうすると孤立を招きやすいのです。そし て性という事柄のデリケートさから、語ることがタブー視されていたり、部落の活動家から「エロとかと一 緒にされて、わしらの活動と一緒にされると困ったもんや」といわれたこともあります。しかし、性とはそ もそも恥ずかしい問題なのでしょうか。笑われることや、嘲笑をあびることも非常に多いです。これが障害 者に対してだったら BPO(放送倫理・番組向上機構)の対象になるようなテレビ番組も多いです。  また、セクシュアルマイノリティが意識できるようなロールモデルが少ないという問題もあります。一昔 前までは、クラブやショーパブなど夜のお仕事しかありませんでした。なぜなら就職差別があるからです。 もちろん、夜の仕事それ自体が悪いということではなく、それ自体は尊重されるべき素晴らしい職業です。 ただ、問題は、選択の余地が非常に狭かったということです。みんながニューハーフクラブなどでの仕事に 向いているかというと、そうだはなく、誰しも向き不向きがあるわけです。男性だからといってみんな力仕 事に向いるわけではないし、女性だからといってみんな主婦に向いているわけではないのと同じで、トラン スジェンダーだからといって夜の仕事に向いていない人もたくさんいます。会社員になりたい、学校の先生 になりたい、お医者さんになりたいという将来の希望がなかなか持てないという問題がありました。  最後に、セクシュアルマイノリティのかかえさせられている問題は、セクシュアルマイノリティだけの問 題ではありません。女であることの生きづらさ、男であることの生きづらさ、そして社会にある差別の構造 のその延長線上にある問題ということを知ってほしいと思います。  最近「みんなちがって、みんないい」という言葉がうわべだけで流布されていますが、その根底にある原 因を考えることを投げかけて、終わりにさせてもらいます。

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参照

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