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イギリス1998年競争法の運用と公共の利益(2・完)

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(1)

イギリス1998年競争法の運用と公共の利益(2・完)

著者 渡辺 昭成

雑誌名 静岡大学法政研究

巻 10

号 2

ページ 170‑142

発行年 2005‑10‑31

出版者 静岡大学人文学部

URL http://doi.org/10.14945/00008849

(2)

イギ リス1998年競争法の運用 と公共の利益 (20完)

本稿 の目的

1998年競争法の概要 1998年競争法の運用の状況

以上、第9巻4号 1998年競争法の運用か らの示唆

結語

以上、本号

 1998年競 争法 の運用 か らの示 唆 1.1998年競争法の運用 と「公共の利益」

(1)1998年競争法 と旧法 との共通性

イギ リス競争法 は、旧法下 において「公共の利益」 という「多様かつ 具体的な価値 を包含 して」お り、「規制基準が個別的で具体的」①な もので あつた。それに対 し、新法では競争への影響が違法性の判断基準 とされ、

かつ、違法行為が例示 された ことにな り、価値の多様性 は条文上失われ たかの ように思われ る。

しか し実際には、個別適用免除規定 自体およびその運用において、「公 共の利益」の概念が受 け継がれているように思われる。新法9条に規定 された個別適用免除 を付与する条件 において、)消費者への利益の分配、

0競争の実質的な部分の排除の可能性 の有無 とい う部分が、旧法におい

Ⅳ   V

‑43(170)一

(3)

法政研究

て「公共の利益」として列挙 されていた事項 と重な り合 っている。 また、

0「生産 ない し流通の革新」「技術 ない し経済の発達の促進」について も また、それが消費者の利益 を生ず るものである場合 に当該要件 に合致す るとの運用がなされている。

Link lnterchange Network事 件 は、LINKとい うネ ッ トワークの参加 者である金融機関力治LTM所有者 に対 して支払 う手数料 を統一化すること により、 はじめてネ ッ トワークが機能す るとい う事例 である。本事件で は、ATM手数料の統一化が、銀行、ビル所有者 な どの各会員が利用者か ら徴収する手数料 を決定する自由を奪 うものであ り、 また、当該 ネ ッ ト ワークに参加する銀行間の競争 を制限すると認定 されている。 しか し、

LINKにおける手数料の統一化 は、他のカー ド発行者の顧客か ら高い手数 料 を徴収 し、低 い手数料 を設定す る他の会員のATMを利用する自らの顧 客の利益 を最大限化するというフリーライ ドを防止することにより、LINK

全体の需要 を高め、また、会員が個々に協定 を締結す るコス トを削減 し、

新規参入 を容易 にし、 また、カー ド所有者が 自らの回座 にアクセスする 機会 を増加 させ ることが、上記∽ の要件 を満たす とされ る。 また、 これ らのネ ッ トワークの形成 による利益が、カー ド所有者 に分配 され ること か ら、に

)の

要件 を満たす とされ る。このようにみる と、本件 は、LINKと いうネ ッ トワークの形成 に必要な手数料 に係 る競争制 限に対 し、LINKの

普及 によるネ ッ トワークの規模の拡大 による効率性 の達成、消費者 の利 益 を比較 していると見 ることがで きる。

Memorandum of Understanding on the supply of oil fuels in an emergency事件 は、燃料危機 とい う非常事態 において essential user"

に石油関連製品を優先 して分配す る枠組 みを決定 した事例 である。当該 協定 は燃料危機時 における石油製品の供給 における競争 を制限す るもの

であり、また、各MemOrandun参 加者間で燃料危機時に備えて、互いの

備蓄水準 な どの情報 を交換す るものであることか ら、燃料危機時、お よ

‑44(169)一

(4)

び、その後のイギ リス国内の石油関連製品の市場 を制限すると認定 され ている。 しか し、当該協定 は、essential user"へ の供給 を確保す るため の ものであ り、 このような競争 に対する制限は燃料危機時の流通 を促進 することから、

"の

要件を満たすとされる。また、当該協定によりessential user"への石油関連製品への供給が確保 されることにより、消費者は、通 常の供給 を受けることは不可能 となる可能性があるが、essential user"

が提供する他の公共的サービスの利用が可能 となることから、0の要件 を満たす とされる。 このようにみると、本件は、燃料危機 という突発的 な危機に対応するための緊急避難的な競争制限に対 し、競争制限効果 と 当該協定により発生する効果、特に中で も消費者の利益 とを比較 してい る事例 と見ることができる。

Pool Reinsurance Corrlpany Limited事 件では、テロ保険 を営む新会 社 を設立す る各保険会社間の協定の うち、テロ保険の提供 を必ず「一般 保険」 との組み合わせ により提供す ること、 自らが引 き受 けたテロ保険 はすべて新会社 に再保険す ること、テロ保険 を提供す る際には「一般保 険」の対象 となっているすべての財産 を対象 とす ることが、一部地域 を 除 くイギ リス国内の保険市場の競争 を制限すると認定 されている。 しか し、テロ保険の存在が、イギ リス国内の商業財産の損害 を保全す る役割 を果た し、それにより、経済の発達 を促進することか ら∽の要件 を満た す とされ る。 また、消費者たる保険契約者 は新会社が設立 され ることに より、テロか らの脅威 か ら保護 され、 また、テロ保険の存在 を条件 とす る融資・ リースなどのサー ビスの提供 を受 けることが可能 となることか

ら、1/f)の要件 を満たす とされ る。 この ようにみると、本件 は、テロ再保

険会社 の設立 による保険会社 によるテロ保険の提供 に伴 う競争制限効果 に対 し、イギ リス経済の促進、消費者の利益 を比較 している事例 と見 る ことがで きる。

Association of British lnsurers'General Terms of Agreement事 件

……45 (168)一

(5)

では、自動車事故が発生 した際に、無過失の運転者に代車 を提供する

CHO

に対 して保険会社が支払 う代車代金 について、複数のCHOと保険会社が 締結 した協定が、 イギ リス国内の代車市場の競争 を制限すると認定 され ている。しか し、かつて保険会社 とCHOと の間で代車代金 をめ ぐる訴訟 が頻発 した経緯か らみて、当該協定 により訴訟 コス トが減少 し、 コス ト が保険料 を通 じて、保険契約者 に転嫁 されな くなることが、∽の要件 を 満たす とされ る。 また、当該協定 によ り、無過失の運転者が代車費用 を 負担する可能性や保険会社 とCHOの争いに巻 き込 まれる可能性、保険料 の上昇の可能性が低下がすることか ら、

)の

要件 を満たす とされ る。 こ のようにみると、本件 は、当該協定 による代車市場 に対す る競争制 限に 対 し、主に、それによる保険料の安定・ 低下な どの保険契約者 という消 費者の利益 とを比較 していると見 ることがで きる。

Lucite lnterrlational UK O BASFに よる垂直的協定 は、LuciteがU用 するACHを生産するための工場 を、従来、ACHを生産する原料である

HCN

Luciteに供給 して きたBASFの敷地内に建設す ることに伴い、BASFが

生産す るHCNのうちの一定割合、お よび当該建設 される工場 にてBASF

が生産す るACHを新たに建設 され るパ イプラインを通 じてLuciteに販売 す ることを内容 とするものであ り、当該協定 は、HCNの需要者の利用可 能性 を制限するものであることか ら、イギ リス国内のHCNの市場の競争 を制限すると認定 されている。しか し、当該協定 により、毒性 を持つ

HCN

の安全な輸送 により、お よび、これ まで焼却 されて きたHCNが新工場 の 建設 により有効 に利用 され ることにより環境 に対する効果があることが、

∽ の要件 を満たす とされ る。 また、 これにより同時 に、両者が存在す る 地区の消費者が安全性・環境の改善 という利益 を享受 し、 また、ACHの

生産が増加す ることにより、結果 としてACHを利用 した製品の価格が低 下す ることによ りその恩恵 を受 けることが、0の要件 を満たす とされ る。

このようにみると、本件では、HCNの利用に関す る市場 に対する競争制

‑46(167)一

(6)

イギリス 競争法の運用と公共の利益

限に対 し、安全性・ 環境、消費者の安価 な製品の獲得 を比較 している事 例 と見 ることがで きる。

12)「協定の対象 となる商品の実質的な部分において競争を排除する 可能性 を持たない」 こと

新法9条に規定 された要件 について、 日本法への示唆 とな りうるもの として、当該協定が、「協定の対象 となる商品の実質的な部分 において競 争 を排除す る可能性 を持たない」 こととい う要件がある。 これは、旧法 下 において も同様の規定が存在 したが、当該要件 について、OFTは、そ のガイ ドラインで「当該協定の対象 となる商品 またはサー ビスに関す る 市場 において有効 な競争が存続す ること」②を当事者が証明することを要 する とするのみで、当該条項の意味 を明 らかにしていなぃ。 また、その 他、様々なイギ リス競争法 に関す る記述 において も、詳細 な検討 を行 っ ているものは見受 けられない。しか し、当該条項 は、EU法81条3項に準 えて規定 された ものであると考 えられ る。

当要件 において重要な問題 は、いかなる市場 を画定す るか とい うこと であ り、当該問題 については、EU法81条3項について検討す ることが必 要である0が、ここでは、イギ リスにおいて新法 に基づ く適用除外の審査 において、 どのよう判断が行われたか を見 ることとす る。

Link lnterchange Networ腱 到牛では、当該協定 によるATN所有者が

カー ド発行者が受 け取 る手数料 を統一化 していることにより、LINK会 が 自ら価格政策 を決定す る自由を制限 し、イギ リス国内のATMを通 じた 取引全体 における競争 に対 し、知覚 しうるほ どの影響 を与 える可能性が あると認定 されている。しか し、ATMttU用者 は、その多 くがカー ド発行 者 のATMを利用 し、また、4大銀行 はそれぞれ広範 なATMネッ トワー クを持つ ことか ら、これ らはLINKの代替 となるものであ り、かつ、競争 圧力 となっているとされ る。また、LINKを通 じた取引は、ATMをU用 した取引全体 に対 し、非常 にその割合が低 く、かつ、LINKに関す る協定

‑47(166)一

(7)

は、LINK会員が他のATM会員 となることを制限せず、またLINK外 自らのネ ッ トワークを他 と共有することを禁止 していない。したがって、

当該協定 は、イギ リス国内のATMを通 じた取引全体 における競争の実質 的な部分 を排除 していない と結論付 けられている。 このように見 ると、

当該協定 は、イギ リス国内のATMを通 じた取引全体 においてシェアの低 いサー ビスに関 し、その手数料 を統一化するものであ り、その全体 に対 し、影響が軽微であった ということがで きる。

Memorandun of Understanding on the supply of oil fuels in an emergency事件 は、当該協定 は、燃料危機時のイギ リス国内の石油製品 全体の供給 にかかる競争 を制限す るものであると認定 されている。 しか し、当該協定 は、essential user"に分配する部分 にのみ関係す るもので あ り、その他それぞれの顧客 に分配が可能 な部分 については対象外であ る。 したがって、当該協定 は、燃料危機時の石油製品全体の供給 という 市場 においては、その実質的な部分 を排除 していない とされる。 このよ うにみると、当該協定 は、essential user"以外への石油製品の供給 とい う、協定参加者が競争可能 な部分 において競争が排除 されていない こと をもって、その実質的な部分の排除がなされていない と判断された もの とい うことがで きる。

Pool Reinsurance Company Limited事件では、テロ保険 を営む新会 社 を設立する各保険会社間の協定の うち、テロ保険の提供 を必ず「一般 保険」 との組 み合わせ により提供すること、 自らが引 き受 けたテロ保険 はすべて新会社 に再保険す ること、テロ保険 を提供する際 には「一般保 険」の対象 となっているすべての財産 を対象 とす ることが、一部地域 を 除 くイギ リス国内の保険市場の競争 を制限すると認定 されている。 しか し、当該協定 においては、保険会社 に参加 を強制 してお らず、また、Pool Re社の会員 としての地位 はイギ リス国内に存在 し、イギ リス国内の危険 に対する保険 を引 き受 ける者 に対 して開放 されてお り、かつ、その条件

‑48(165)一

(8)

に も差別的な ものはない とされる。 また、いつで も会員 は、事前 に通知 す ることにより、会員組織か ら脱退す ることが認 められている。したがっ て、当該協定 は、関連す る市場 の競争 を排除 しない とされ る。 このよう にみると、当該協定 は、Pool Re社 を設立す るにあた り、その設立 に参加 する保険会社 は、 自らの意思で設立 に参加 しているのであ り、いつで も 自由に脱退 し、独 自のテロ保険 を含 む保険事業 を営む ことが可能である ことか ら、競争 を排除 していない と判断 された ものである。つ まり、当 該協定 は、Pool Re社 の会員 となる保険会社間の競争 を制限す ることにな るが、イギ リス国内における商業財産 に関する再保険、一般保険の市場 全体 に対 しては、その実質的な部分 を排除するものではない と判断 され た もの とい うことがで きる。

Association of British lnsurers'General Terms of Agreement幹 では、当該協定が保険会社がCHOに対 し支払 う代車代金 を決定す ること か ら代車市場 における競争 を阻害ない し制限す るものであると認定 され ている。しか し、当該協定 は当事者たる保険会社 とCHOが当該協定外で 紛争 を解決することを禁止 していない。また、CHOは代車市場 において、

無過失の運転者 に対 して提示する条件、お よび、保険会社 との交渉 にお いて競争 を妨 げて られていない。 したがって、当該協定 は、イギ リス国 内の代車市場 の競争 を〃F除していない とされ る。 このようにみると、当 該協定 は、代車市場全体 において、当該協定 に参加 しない とい う選択肢、

または、協定外で紛争 を解決するとい う選択肢があ り、かつ、その他、

競争 を行 う余地が残 されていることか ら、代車市場 の競争 を排除 しない と判断 された もの とい うことがで きる。

Lucite lntemational UK・ BASFによる垂直的協定 は、HCNの需要者 の利用可能性 を制限す るものであることか ら、イギ リス国内のHCNの 場 の競争 を制限すると認定 されている。 しか し、当該協定以前、当該市 場 は売手が一者、買手が二者 とい う、競争がほぼ存在 しない市場であ り、

‑49 (164)一

(9)

法政研究 (2005年

新規参入者 も自由にHCNを購入可能な環境 にある。また、Dow社は、

HCN

を利用 した製品市場 において、Luciteとは競争関係 にな く、BASFがDow

社が必要 とする量のHCNを供給することができない場合であっても、Lucite が自ら保有するHCNの供給 をDow者に対 し供給拒絶する可能性がほとん

どない。したがって、当該協定 は、HCNを利用 した製品市場 における競 争の実質的な部分 を排除 しない とされ る。 このようにみると、当該協定 は、HCNを利用 した製品市場 の競争 を制限する可能性が認 められ るが、

事例 の詳細 な検討か ら、当該協定の競争制限性 を否定 した もの とい うこ とがで きる。

13)1998年競争法の運用か らの示唆

上記の検討か らみるに、第一 にLink lnterchange Network事 件 は、当 該協定の効果が、ATMを通 じた取引全体 に対 し、元々そのシェアの低い Linkを 通 じたネ ッ トワークの形成 に伴 う競争制限が、上記∽

)の

要件 を 満たす とされた ものである。それに対 し、Lucite lntemational UK・ BASF

による垂直的協定以外の3つの協定 は、それに参加する事業者全体のシェ アは非常 に高い もの と考 えられ るが、当該製品・ サー ビス市場 を広 く捉 え、競争制限が行われ る部分以外の部分 についての競争が存在 し、かつ、

その競争制限が行わ る部分 において もそれが上記∽0の要件 を満たす と された ものである。 また、Lucite lnternational UK・ BASFによる垂直 的協定 は、元来、競争がほ とん ど存在 しない市場 において将来的に競争 制限効果が発生する可能性がある協定 に対 し、それが∽

)の

要件 を満た す とされた ものである。

このようにみると、上記当該協定 における競争制限が 目的達成のため に不可欠かつ必要最小限度の ものであるという191の要件 を満たす ことが 前提であるが、各協定 に関するOFTの判断は、市場全体 においていかな る市場 を画定 しようとも、競争 を制限す る可能性の低 い協定 と、狭 い市 場 においては競争制 限効果が発生す るが、市場 を広 く捉 えることにより

‑50(163)一

(10)

競争制限効果の発生 を否定す るとい う2つの捉 え方に分類可能であると 思われ る。後者 につき、当該製品・ サー ビスの市場 の捉 え方によって、

当然競争制限効果の発生の度合が変化することとなる。上記のOFTの

断例か らのみで は明 らかではないが、当該製品・ サー ビスの市場全体 の うち、一部分 を制限す る効果 を発生 させ る協定 については残存す る市場 が広 ければ広いほど、上記∽に

)の

要件 を満たす場合 には、「協定の対象 と なる商品の『実質的な部分』において競争 を排除す る可能性 を持たない」

と判断 され ることとなろう。

2.日本法 における「公共 の利益」に関する議論 (1)「公共の利益」の意義

日本 においては、石油カルテル事件判決〈り、日本遊戯銃共同組合事件

0、

大阪バ ス協会事件(0な どを契機 として、「公共の利益」の意義について様々 な議論が行われている。

石油 カルテル事件最高裁判決では、「2条 6項に言 う『公共の利益 に反 して』 とは、原則 としては同法の直接の保護法益である自由競争秩序 に 反することを指すが、現 に行われた行為が形式的に右 に該当する場合で あって も、右法益 と当該行為 によって守 られ る利益 とを比較衡量 して、

『一般消費者の利益 を確保す るとともに、国民経済の民主的で健全 な発 達 を促進す る』 とい う同法の究極 の目的に実質的に反 しない と認 められ る例外的な場合 を右規定 に言 う『不当な取引制限』行為か ら除外す る趣 旨 と解すべ きである」と「公共の利益」の意義 に関 して判断が示 された。

その後、 日本遊戯銃共同組合事件 において も同様 の趣 旨が述べ られてい る。 これ らの判決 に対 し、「相対立す る利益・不利益の比較衡量 を行 って 不当な取引制限の要件該当性 を判断する手法」 を「比較衡量」 として、

その適否が議論 されている。

)こ

とをはじめとして、公共の不U益の意味につ いての議論が行われている。

‑51(162)一

(11)

また、大阪バス協会事件(0では、価格協定が制限 しようとしている競争 が法律 によ り刑事罰等 をもって禁止 されている違法な取引又 は違法な取 引条件 に係 るものである場合 には、競争 を実質的に制限することという 構成要件 に該当せず、排除措置命令の対象 とはな らない と判断 されてい る。 この審決 については、多 くの議論があるが、独禁法 において保護す べ き競争 とは何か、 また、保護すべ き競争 と「公共の利益」 とはいかな る関係 にあるかが問題 となる。

以下では、近年主張 されている2条 6項における「公共の利益」 に独 立の存在意義 を認 め、それを成立要件 ないし違法性阻却事 由 とみなす考 え方 と、通説的な立場か ら、「公共の利益」 に独立の存在意義 を認 めず、

独禁法1条にい うところの独禁法の究極 目的 を「競争の実質的制限」の 成立 の判断要素 としてみなす考 え方 を見てい くこととする。ヽ

(2)「公共の利益」に独立の存在意義 を認める考え方

 

松下説

松下説 は、上記石油 カルテル事件判 決 を受 けて、「原則的に違法 とされ る利益が公共の利益の観点か ら例外的に適法 とされ る場合 には、当該共 同行為がなん らかの社会的に妥当な価値 を追及するものでなければな ら ない。 この場合の社会的妥当性 とは、単 に企業の利益の保護 を図るとい うのではな く、企業利益 を超 えた社会的利益 または全体的利益の保護 な いし増進 を目的 とす るものでなければな らない。想起 され る事例 として は、環境保護、製品 または食品安全、天然資源保護、公序良俗 の維持、

文化の保護、人権 の保護等である。 これ らのいずれにおいて も、 これ ら によって実現 され る価値が競争の維持 よりも低 い とは言 えず、環境や製 品 または食品安全の価値 は競争 に勝 るとすべ きであろう」 とす る。そし て、 この ような事項 を目的 とする共同行為 には、それを許容す る取締法 規が存在 し、 それが「社会的に妥当な目的を追求す るための証左 となる」

が、規制の必要があ りなが ら法が制定 されていない場合 には事業者 によ

‑52(161)―

(12)

る当該 目的 を達成す るための共同行為 は許容 されるとす る(10。

松下説 は、2条 6項にお ける「公共の利益」の意義 を違法性阻却事 由 としてみなしているか、成立要件 としてみな しているかは明 らかではな いが、そ こに独立 した意義 を認め、「競争の保護」に勝 る価値が維持・保 護 され る場合 には、 それが「競争の保護」に優先 し、「公共の利益」に合 致するもの とし、当該協定 は2条 6項に該当 しない とされ る。 しか し、

松下説への疑間 としては、従来か らの批判 にあるように、その「公共の 利益」に合致す るとされ る内容が抽象的であ り、「公共の利益」の内容 を 無制限に拡張す ることにより独禁法が骨抜 きにな りかねない。ただ し、

松下説 は、「公共の利益」に合致す る場合 として例 を挙 げてお り、 これ ら の例 に該当する場合 に限 り、当該協定が競争制限効果 を発生 させ るとし て も、2条 6項に該当 しない とす るのであろう。 しか し、 この ように解

した場合 にもなお残 る疑間 として、 どのように「競争 に勝 る」価値 を決 定するのか、また、当該競争制限的協定 によって保護 され る価値の維持・

保護 と競争の保護 をどのように比較衡量す るのか、 とい う疑間がある。

例 えば、当該競争制限的協定が、地理・ 製品双方か ら見た場合であって も市場の大部分 を占める事業者 によ り行われ、その協定全体か ら独禁法 1条にある独禁法の最終 目的に合致す る場合、例 えば石油価格協定が 日 本中の一般消費者 ならびに石油製品を生産する事業者が手 にする石油製 品の価格 の低下・ 安定 を目的 とし、実際 に効果 としてそのような効果が 発生 した場合 と、地理・ 製品か らみて ご く一部の市場の競争制限効果 は 発生す るが、それが全体 の市場か らみた場合 にはその競争制 限効果が ご く一部分 に とどまる場合、例 えば昨今のDVD機器の規格の統一イ1めに見

られるように、当該製品に関する価格等 による競争の余地が残存 してい る場合 について、 どのように「競争 に勝 る価値」 を決定するか、 という 問題がある。

‑53(160)一

(13)

 

白石説

白石説 は、独禁法違反行為 を「競争減殺」型 と「不正手段」型 に分 け、

この型 に該当す る行為であって も、「その ような行為 を正当化す るような 事情があれば」、独禁法違反 とな らない とす る。その例 として、事業者が 特定の甘味料 を使用せず にケーキを作 る協定や「環境問題への関心の高 まりか ら、環境のために有害な事業活動 を制限す る協定」等 を挙 げ、そ れ らの行為が競争減殺 とい う弊害 を発 させてで も実現すべきものであ り、

また、その手段が当該 目的を達成す るために必要な範囲内であれば、当 該行為 は正当化 され るとす る。幼。

自石説 は、「正当化理 由」、 これが2条 6項にい うところの「公共の利 益」に該当す るか否かは不明であるが、それが成立要件のひ とつであ り、

松下教授 と同様 に、独立 の意義 を認 めている。 しか し、松下説への疑問 と同様 に、 ここで も「正当化理由」 に合致す るとされ る内容が抽象性・

無限定性が問題 となる。自石説 は、「正当化理 由」が認 められ る場合 を「競 争減殺 による弊害 を補 つて余 りあるものである必要」があ り、「競争減殺 の弊害が極 めて大 きい場合 と競争減殺 の弊害 はあるが大 き くはない場合 とで は、要求 され る正当化理由にもおのずか ら差が生ず る」とし、「価格 を拘束す る場合 と価格以外 を拘束する場合 とでは、価格拘束のほうが正 当化理 由が認 め られに くい」とす ることによ り、「正 当化理由」が認 め ら れ る場合 を限定 しようとしている(10。 しか し、 この点 について も、 どの ように「競争 に勝 る」価値 を決定す るのか、 または当該競争制 限的協定 によって保護 され る価値の維持・ 保護 と競争の保護 をどのように比較衡 量す るのか、 とい う疑間が残 る。

 

中川説

中川説 は、「公共の利益」を2条 6項における独立 の成立要件 とみなし、

その意味 を独禁法1条に規定 された独禁法の究極 目的に求めるものであ る。中川説 は、1条にい う「一般消費者の利益 を確保す るとともに」 と

‑54(159)一

(14)

い う文言 につ き、「独 占禁止法の執行ひいては競争政策の運営において、

国民経済の構成要素の うち生産者 としての側面 と一般消費者 (生産需要 者 ではない最終需要者)と しての側面が対立する場面 においては、消費 者 としての側面 を重視すべ き旨の政策指針の法的表明ない しは法的要請 である」 と解 し、短期的な利益 と長期的な利益 との間の合理的なバ ラン スをとった一般消費者の利益が、公正かつ自由な競争 により確保 される とする。 また、 この「公正かつ自由な競争の確保」とは、「大企業 による 市場支配等の競争制限行為がな く、あれば迅速 に排除 され、熱意 と能力 を備 えた企業であれば、その大、中、小 にかかわ らず、 自由に市場 に参 入で き、 自己の創意工夫の成果 を持 って顧客の需要 を満た し、 自己の商 品・ 役務 についての需要者の購入 を獲得すべ く、 自由に事業活動 を展開 す ることがで きることであ り」、 これは同時 に「国民経済の健全で民主的 な発達」を達成す ることとなるとする。 その結果、「国民経済の民主的で 健全な発達」は多 くの場合、「一般消費者の利益 を確保する」こととな り、

両者が乖離する場合 には、後者 を重視す るとする(1う

中川説 においては、石油カルテル事件掲示判決 にいうところの競争秩 序の維持 とい う法益 との比較衡量の対象 となる「一般消費者の利益 を確 保する とともに、国民経済の民主的で健全 な発達 を促進す る」 とい う独 禁法1条の文言については「一般消費者の利益」 を考慮することで足 り

るとされ る。 この考 え方に対 しては、異論 はないが、松下説 と同様 の疑 間が残 る。つ まり、中川説 にい うところの競争秩序の維持 に勝 る「一般 消費者の利益」 とは何か、 また、競争制限効果が非常に大 きい場合 と競 争の余地がある場合 についてその考 え方に差異 はないのか、 という問題 がある。

13)「公共の利益」に独立の存在意義 を認めない考え方

 平林説

平林教授は、石油カルテル事件判決を受けて、「判例が一般消費者の利

‑55 (158)―

(15)

法政研究

益の確保 を究極 目的 としたのは正当であ り」、平成9年以降の適用除外カ ルテル制度の廃止 によ り、その趣 旨が確認 された とする。しか し、「一般 消費者の利益の確保 という究極 目的により自由競争経済秩序の維持 とい う直接 目的が制約 され ることがあるとした点 について」問題があ り、適 用除外 カルテル制度の廃止か ら、独禁法 において「 自由競争経済秩序 と い う直接 目的が再評価 され るべ きであ り」、独禁法の「究極 目的は直接 目 的を最大限実施す ることによって こそ達成 され る」 とす る。 そして、競 争制限効果 を生ず るカルテルであって も、「品質・規格の標準化のための カルテルや環境・ 安全性確保等の社会公共的 目的のためのカルテル」が 存在 し、 これ ら需要者・消費者の利益 とな りうるものについては、「独禁 法上の違法性判断」、つ まりは2条 6項にい うところの「競争の実質的制 限」の要件 に該当するか否かの判断において、「競争的利益 と非競争的利 益 との比較衡量」 を行 うことが必要であるとす る(1つ

平林説 は、上認2)で検討 した各説 とは異 な り、「公共の利益」を2条6 項の独立の意味 を認 めず、独禁法の究極 目的 を「競争の実質的制限」の 判断要素 として取 り入れ る考 え方である。 この考 え方の問題点 として、

競争的利益 と非競争的利益 の「比較衡量」 をどの ように行 うか というこ とが挙 げられる。この点 につ き、「利益衡量 といって も、数量化す ること は困難であ り、実際 には質的定性的比較 になるが、具体的には、当該行 為が競争制限的な目的・ 効果 をもつ との証拠 と、一般消費者の利益 にな

るという目的・ 効果 をもつ証拠 との有無、優劣で決 まって くる」 として いる(10。 しか し、審決、裁判 においてはこの ような「証拠の有無、優劣」

でその判断が決定 され るとして も、正当化 され る非競争的禾U益とは何か、

また、その不U益衡量 はどの ように行 うのか、とい う問題が残 されている。

 

沢田説

沢田教授は、 ドイツ法を参照 し、独禁法2条 6項における「公共の利 益」につき、「非経済的利益で、 しかも独禁法の保護法益である自由競争

‑56(157)一

(16)

秩序 を上回 る高度の利益が競争制限によって保護 され る場合 には、独禁 法違反の違法性 を阻却す る趣 旨と解す る可能性」があるとする。 しか し、

独禁法 において維持 され る自由競争秩序 は、法秩序全体 において至上の 利益 とは言 えないことか ら、「 自由競争秩序維持 とい う利益 と、経済利益 を犠牲 にしてで も守 られ るべ き非経済利益 との抵触」 とい う事態が発生 す る可能性があ り、「独禁政策 ない し競争の自由の内在的制約 として競争 よ りも高度の非経済的利益 を立て、当該行為 によって損 なわれ る競争秩 序 と守 られ る非経済的利益の利益衡量 において後者が上回れば、形式的 に競争制限 に該当す る行為 の違法性 を必要最小限で (即ち例外的に)阻

却す る」趣 旨を示 したのが「公共の利益」 に反 しての文言であ り、 これ は「立法技術的 には不要の文言」であるとする(1つ

沢田教授 は、2条 6項にい う「公共の利益」 とい う文言 は、競争制限 効果が発生する事業者間の共同行為であって も、それがその競争制限効 果 を上回るだ けの非経済的利益が発生する場合 には、不当な取引制限が 成立 しない とす ることを確認的に規定 した ものであ り、本来 は、経済的 利益 を上回るだ けの非経済的禾U益を保護す るとい う考 え方 は、「競争の実 質的制限」の判断要素 として内在 していると考 えられ るとするものであ る。そのため、2条 6項「公共の利益」が明文 として規定 されていない 8条 1項 1号は、同様の趣 旨の もとで理解可能であるとす る。

この考 え方に対 しては、平林説 と同様の疑間が残 る。「競争的利益」「経 済不U益」 と表現 は異なるがその内容 は同様 の ことを指 していると考 えら れ、経済利益 と非経済利益の間での利益衡量 をいかに行 うか、 という問 題がある。 また、沢田説がい うところの「非経済利益」 とは何か とい う 問題 も存在する。 この問題 につき、「 その内容 はかな り限定 され」、 その 例 として「生命・ 身体 の安全、健康 の保護」が考 えられ るとし、違法性 を阻却する非経済利益 はその内容が明確なものに限定 されるとする。のが、

その内容 はある程度の明確化が必要であろう。

‑57(156)一

(17)

 

和田説

事業者団体ガイ ドライン。9において、事業者団体が、「社会公共的な目 的等に基づいて構成事業者の事業活動について自主的な基準・ 規約等を 設定 し、その利用・ 遵守を申し合わせるような活動 (自主規制)につい て、独占禁止法上の問題を特段生 じないものも多い」 とされ、当該自主 規制が「①競争手段を制限 し需要者の利益を不当に害するものではない か」「②事業者間で不当に差別的なものではないか」の判断基準 に照 らし、

併せて、「③社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要 とさ れる範囲内のものか」 という要素を考慮 し、8条 1項3号4号5号 への該当性、つまりは、公正競争阻害陛の有無を判断するとされている。

和田教授は、この考え方が2条 6項における「競争の実質的制限」に至 るないしその可能性のある自主規制に関する正当化事由の枠組み として 採用することができ、「競争の実質的制限効果を、目的の正当性、自主規 制の手段・ 方法 と目的の合理的関連性、他のより競争制限的でない手段 の可能性の有無」を考慮 して判断することとな り、 これらの正当化事由

を競争制限効果の判断の枠内で行 うべきであるとする。の。

和田説について、「 自主規制の手段・方法 と目的の合理的関連性」「他 のより競争制限的でない手段の可能性の有無」を判断要素 として用いる ことに異論はない。 しかし、「 目的の正当性」をどのように判断するか と いう問題がある。 この点につき、和田教授 は、事業者団体ガイ ドライン を参照 し、「商品又は役務の種類、品質、企画、営業の種類0内容・方法 等に関する場合」には競争の実質的制限までには至 らず、正当化事由を 持ち出す場合までもな く2条6項8条 1項 1号違反を構成 しないとい う判断になることがありうる」 としているが、それが「価格、数量に直 接・ 間接に影響 を及ぼす場合」 もある。つとしてお り、 どのような場合に

「 目的の正当性」が認められるのかは不明である。 また、「競争の実質的 制限に至 らない場合」 とはどのような場合か という問題 も存在する。

‑58 (155)一

(18)

 

根岸=舟田説

根岸=舟田説 は、「公共の利益」に関 し、その独立的 な存在意義 を認 め ず、通説である自由競争経済秩序の維持 それ自体であるとす る見解 に基 づき、「一定の社会公共的な目的等正当な目的に基づ く必要性 については、

競争の実質的制限 または公正競争阻害性 の判断 において勘案 され る重要 な要素 として考慮 され る」とし、上記事業者団体ガイ ドラインを参照 し、

「環境保全や安全確保 のための自主規制、他の法律 により刑罰付 きで禁 止 され る行為 について も、そのような行為 によって形式的に競争が制限 されることがあ り得 る として も、 その ような競争 は実質的 に独禁法上保 護 に値 しない競争である と評価する」 とする。そ して、 この解釈か ら、

「公共の利益」がその成立要件 とされていない、8条 1項 1号等の規定 と、その他「公共の利益」が成立要件 とされている規定 と統一的・ 整合 的 に解釈可能 となるとする

Oa。

根岸=舟田説 は、石油 カルテル刑事事件判決 とは異な り、大阪バス協 会事件審決 においけて示 されたように、独禁法1条に定 める目的 に照 ら

し、独禁法上保護 され るべ き競争 と保護 に値 しない競争 との区別 を行 っ ている。

 

しか し、問題 は、

 

この「区別」 をい力Jこ行 うか とい うことであ る。 また、石油カルテル事件のように、 日本全体 における石油製品の価 格 を制限するように、 その競争制限効果が生ずる範囲が非常 に大 きく、

またその程度 も非常 に強い場合 にも、それが「社会公共的な目的等正当 な目的に基づ く必要性」が認 め られれば、当該制限効果が発生す る競争 を「保護 に値 しない」 と評価す るのか、 という問題 も存在 する。

 

内田説

内田説 は、「社会的妥当性」として、 これ を「 緊急事態 における公共性、

事業経営上・ 取引上の合理性」 とを区別 し、「通常の経済社会の倫理性、

公益性・公共性・安全性」 を指す もの と定義することを出発点 とする。3ゝ そ して、独禁法がその目的 としている競争の維持・ 促進 と、 この「社会

‑59 (154)一

(19)

法政研究

的妥当性」 をひ とつの違法性判断の枠組 みにおいて取 り扱 うことに問題 があ り、 これは、「『競争』の前提・ 枠 に該当するか否かの問題である」

とす る。り。 また、その際 には、「独禁法の立法趣 旨・目的、独禁法1条 目的の規定趣 旨に適合 しているか否か」 により「前提・ 枠」 に該当する か否かが判断 され、その中で も「一般消費者の利益、国民経済の健全で 民主的な発達の促進」 を重視すべ きであるとす る125、

内田説 は、競争 とい う概念 につ き、独禁法 にい うところの「競争」 と それ以外の もの とを区別 し、後者 に関 し、それは「競争」の構成要件 に 該当 しない としている。つ まり、内田説 は、根岸=舟田説が「保護 に値 しない競争」 を「競争の実質的制限」の判断要素 として考慮す るのに対 し、その前段階で「社会的妥当性」 を考慮す るとす るものである。 しか し、内田説 について、「社会的妥当性」を「競争の実質的制限」の判断の 前段階で考慮する として も、その「社会的妥当性」 とは何であるか とい う問題がある。 また、根岸=舟田説 と同様 に、その競争制限効果が非常 に大 きい ものであって も、それが「社会的妥当性」 を有す るものであっ た場合 には、当該行為が「競争」 を制限 しない もの と評価するのか、 と いう問題がある。 さらに、内田説 は、「公共の利益」の意義 について、上 記の「社会的妥当性」 とは区別 され る緊急避難の場合 を指 してい うもの であるとする。6、 しか し、 この「緊急避難」 と「社会的妥当性」 とをど の ように区別するのか という問題が存在する。た とえば、内田説が「社 会的妥当性」 に該当す るもの として挙 げる「安全性」 につ き、事業者間 で広範 にある製品 を製造す る際に用いる原材料 について消費者の危険性 を考慮 して一定の基準 を任意 に規定 し、その規定 に満たない原材料 を一 切利用 しない という協定 を締結 した場合 には、 これはいずれに該当す る のか、 とい う問題がある。

‑60(153)一

(20)

3。

「公共の利益」に関する私見

(1)「公共の利益」に独立の存在意義 を認めない考え方の問題点 上記で検討 した「公共の利益」 に独立の存在意義 を認 めない考 え方に 共通する問題点 として、証明責任の問題がある。独禁法の究極 目的など を「競争の実質的制限」の判断要素 として取 り入れる場合、当該行為が 独禁法の究極 目的な どに反 し、競争 を実質的に制限することを公取委な い し損害賠償請求訴訟 における原告が証明するのであろうか。

2条 6項において「一定の取引分野 における競争の実質的制限」 は、

その成立要件のひ とつである。当該行為が独禁法違反行為 を構成するこ とを証明する際には、その成立要件 について、審判では公取委、民事裁 判では原告がその証明 をなす ことを要する。したがって、通常では、「競 争の実質的制限」について も公取委、原告がその証明を行 うこととなる。

その際、公取委、原告が当該行為が独禁法の究極 目的にも反するもので あることを証明することも求められ る。 このような負担 を公取委、原告 に課す ことが許 され るのであろうか。

また、 このように考 えると、平林説にいう「競争的禾U益と非競争的不

U

益の比較衡量」、沢田説 にい う「 自由競争秩序維持 とい う利益 と非経済的 利益の利益衡量」 といった ことをも公取委、原告がなす ことを求められ

ることとなる。

この問題 につき、当該行為が独禁法の究極 目的に合致するか否かという 部分の証明責任 を被審人、被告側 に転嫁することは可能なのであろうか。

12)「競争の実質的制限」 と「一定の取引分野」の画定

次の問題 として、上記の証明責任 にも関係するが、「公共の利益」に独 立の存在意義 を認 める考 え方、認めない考 え方に共通する問題点 として、

当該競争制限的協定が、地理・ 製品双方か ら見た場合であって も市場の 大部分 を占める事業者 により行われ る場合のように競争制限効果が非常 に大 きい場合 と、地理・ 製品か らみてごく一部の市場の競争制限効果は

‑61(152)一

(21)

法政研究

発生するが、 それが市場全体か らみた場合 にはその競争制限効果が ごく 一部分 に とどまる場合 とにおいて、両者 における競争制限効果 と独禁法 の究極 目的をいかに比較す るか とい う問題がある。

例 えば、多 くの学説 において、独禁法 の究極 目的 と合致するな ど、競 争制限効果 に優越す るもの と考 えられ るものに、「 消費者の安全」とい う 問題がある。上記 日本遊戯銃協同組合事件で は、エアー ソフ トガンの安 全 に関す る「 自主基準設定の目的が、競争政策の観点か ら見て是認 しう

るものであ り、かつ、基準の内容及び実施方法が右 自主基準の設定 目的 を達成するために合理的な ものである場合 には」、当該行為が不当な取引 制限 に該 当する場合であつて も、独禁法 に違反 しない余地があると述べ られている。本件 は、エアー ソフ トガンの製造業者が、当該 自主基準 を 遵守 しない製品の取扱 を、間屋、小売店 に拒否 させた ことにより、当該 基準 に該 当 しない製造業者が市場 か ら排除 された事例 である。 このよう

に、本件 は少な くとも名 目上 は「安全」を維持することを目的 として(た だ し、本件の目的は実際 には他の事業者の排除 にあった)、 協定が締結 さ れ、それにより、エアー ソフ トガンの販売市場 における競争の大部分が 制限された事例である。 それに対 し、同 じ安全 とい う問題であって も、

た とえば、安全 な製品 を生産す るために、生産者が既存の法によって規 制対象 とされていないある物質 について、科学的根拠 はまだ不確定であ るが、消費者の安全性 を考慮 し、それを利用 しない製品づ くりを行 う協 定 を自主的に締結 した場合 はどうであろか。 この場合、当該物質 を利用 した製品を生産 しない、 とい う点では、当該製品分野 における競争 を制 限 しているとみることがで きる。 しか し、価格、デザイン、性能等 にお いては当該製品に競争 を行 う領域が存在 し、 また、当該物質以外の より 安全性 を追求 した物質 を利用 した製品づ くりという点で も競争 を行 う領 域が存在す る。

後者の場合 については、元々競争 を制限する可能性がない、 と評価 す

‑62(151)一

(22)

ることも可能であるが、当該製品分野 における競争の一端 を制限 してい ると評価することも可能である。 この ような場合、当該協定の目的であ る「消費者の安全」 は、競争 を制限す ることによる悪影響 と比較 する際 には、前者の場合 と異 なる判断 を行 うこととなろう。前者の場合 には、

競争 に対す る競争制限効果の大 きさに比 して、 さらにその達成 を目的 と する保護すべ き消費者の安全性が必要 とされることになるのではないか。

ここで、前者 と後者の差異 はどこにあるかが問題 となる。前者 は、そ の効果が競争制限効果が非常 に大 きい価格・ 数量 といった ものに直接的 に影響が生ず るもの、後者 は価格・ 数量 といった ものに間接的な影響 は あるが、残 された競争の領域が非常 に大 きい もの とに分類 される。名 目 の如何ではな く、当該協定の直接的な効果が どこに発生するかにより、

独禁法の究極 目的 との比較の仕方が異なることとなるように思われる。つ。

13)「公共の利益」概念の具体化

上記で検討 した ように、「公共の利益」に独立の存在意義 を認 めずt当

該行為 の目的・ 結果が独禁法の究極 目的な どに合致する場合 には、それ を「競争の実質的制限」の判断要素 として取 り込む考 え方 を採用 した場 合、 その証明責任 は公取委、原告側 に在す ることになる。 その場合、公 取委・ 原告 は、当該行為が独禁法の究極 目的な どに合致 しない ことまで をも証明す ることとなる。 しか し、石油カルテル事件最高裁判決がい う ように、独禁法 においては自由競争秩序の維持 によ り、最終的には、「一 般消費者の利益 の確保」「国民経済の健全で民主的な発達の促進」を達成 す ることがその基礎 として存在 し、 自由競争が制限・ 阻害 された場合で あって も、当該行為が「一般消費者 の利益の確保」「 国民経済の健全で民 主的な発達の促進」が図 られ るのはごく例外的な場合である。その中で、

独禁法の究極 目的な どをもその判断要素の一部 とす る「競争の実質的制 限」の証明責任 を公取委・ 原告側 に課す ことには問題があるように思わ れる。8条 1項 1号には、「公共の利益」が その成立要件 ないし違法性阻

‑63・(150)一

(23)

法政研究

却事 由 として明文化 されていない ことか ら、8条 1項 1号2条 5項 6項を整合的に考 えることが必要であるとして も、それは、「競争の実質 的制限」の枠外で考 えるべ き事柄 である。

私見 としては、石油 カルテル事件最高裁判決がい うように、2条 6項 における「公共の利益」 とは、原則 として自由競争秩序 に反す ることを 指すが、例外的 に、 自由競争秩序の維持 と当該行為 によって守 られ る利 益 とを比較衡量 して、「一般消費者の利益の確保」「国民経済の健全で民 主的な発達の促進」 とい う究極の目的に実質的 に反 しない と認 められる 例外的な場合 を独禁法の適用か ら除外す る趣 旨である と考 える。 また、

8条 1項 1号に関 しては、当該行為が独禁法の究極 目的に反 しない場合 には、それを「競争の実質的制限」の枠外、ない し、実質的に「公共の 利益」を読み込んで考 えることとなるの く2"。 また、当該行為が独禁法の 究極 目的に合致す ることは、当該行為が形式的 に行為要件 に該当 し、 ま た、「一定の取引分野 における競争 を実質的に制限すること」に該当する 場合であって も、その違法性 を阻却す る意味があると考 える。それ によ り、当該行為が独禁法の究極 目的に合致す るか否かは、被審人 ない し被 告側 に証明責任が存在す ることとなる。

次の問題 として、上記の各説の検討 において問題 となった「公共の利 益」 に合致す ると考 えられ る場合の具体化の問題がある。「公共の利益」

に独立の存在意義 を認 める考 え方に対す る従来か らの批判 として、「公共 の利益」 に合致す るとされ る内容が抽象的であ り、その内容 を無限定の もの とすると、独禁法が骨ぬきにな りかねない とするものがある。 この ことは、独禁法の究極 目的 を「競争の実質的制限」 に取 り込む考 え方に も共通す る問題であるが、 この問題 は、 その証明責任 を被審人、被告側 に求めることで足 りる。中川説 は、 この点 につ き、独禁法1条の文言 に ついては「一般消費者の利益」を考慮す ることで足 りるとす る。ただ し、

被審人、被告側が「一般消費者の利益」 を拡張 し、独禁法 を骨抜 きにす

‑64(149)一

(24)

る こ とを防 ぐ必要が あ る。

具体的 に、独禁法 にい う「一般消費者の利益」 とは何か、 とい う問題 について、その例 として、環境、消費者の身体 の安全性、消費者の利便 性等 を挙 げることは可能であるが、詳細 かつ明確 な答 えを出す ことはで きない。 しか し、イギ リス1998年競争法の運用 を参考 とす ると、当該行 為が形式的に2条 6項の行為要件、違法性の基準 を満たす場合であって も、競争制限 を行 う市場 においてその他の競争の領域が残 されている場 合 と、残 されていない場合 において、その証明 を要す る「一般消費者」

の利益の多寡・ 性質の差 を設 けることにより、ある程度「公共の利益」

の無限定性 を解消で きるのではないだろうか。例 えば、上記 に例 として あげたDVDの規格の統一化、 とい う問題 についていえば、DVDに関 し、

その製造業者が将来生産す るDVDの規格 について競争 を行 うことはな く な り、その点では、DVD製品 とい う一定の取引分野の競争 を制限す るこ ととなる。 しか し、規格が統一化 された場合であって も、価格、付加価 値等の規格以外の品質、サポー トサー ビス等 その他の面 においては、製 造業者間に競争の余地が残 されている。 この場合、競争の余地が広 く、

かつ、消費者 に対 しては規格の統一化 による不U便性 をもた らす ことによ り、公共の利益 に合致するとして、その違法性が阻却 され る。逆 に、同 じ規格 の統一化であって も、当該規格 を満た さない商品についての取扱 を、製造業者が共同 して間屋・ 小売店 に対 し排除 を要請する事例 の場合 には、当該製品分野 における競争制限効果が非常 に大 きい。 この場合 に は、当該行為が「公共の利益」に合致す るとされ るためには、それが「一 般消費者の不J益」 をい力」こもた らすか とい うことについて厳格 な証明が 必要である。 このような場合、当該協定の目的・ 結果がいかなる「一般 消費者の利益」 をもた らすか、その多寡・ 性質 はどの ような ものである か、 また、当該手段が当該 目的・ 効果のために必要最小限の競争制限効 果 しか もた らさない ものであるか、 といった検証が必要 となる。

‑65(148)一

参照

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