羊 毛布 地 にお け る応力緩和 の水 分依 存性
鈴 木 淳
長 崎 大 学 教 育 学 部 家庭 科 教 室 (昭和62年10月30日 受 理)
Moisture Dependence of Stress Relaxation for Wool Fabric
Atsushi SUZUKI
Department of Home Economics, Faculty of Education on Nagasaki University, Nagasaki, Japan
(Recieved Oct. 31, 1987)
Abstract
The effect of moisture regain was examined on the stress relaxation for a milled wool serge. The influence of fabric hygral expansion behavior was also investigated on the stress relaxation. The measurement conditions of strain, temperature and moisture regain for stress relaxation were 3.5-15%, 30°C and 5-25%, respectivery. The relation between the stress ratio or the apparent stress relaxaton modulus and the relaxation time was discussed.
The following results were obtained under these measurement conditions: Fabric stress relaxation depended largely on the weave crimp and moisture regain. The stress relaxation rate was large when moisture regain was high or low. Fabric stress relaxation was closely related with fabric hygral expansion behavior. Apparent hygral expansion increased rapidly in the range until about moisture regain 25%, then reached the maximum value 1.3%.
1.は じ め に
羊 毛 素 材 は外 観 や 風 合 い,あ る い は着 用機 能 性 に お い て魅 力 あ る優 れ た性 質 を有 して い る が,一 方 で は化 合 繊 に比 較 し て多 くの 欠 点 も持 っ て い る。 中 で も羊 毛 素 材 の 水 分 に 対 す る性 質 は重 要 で あ り,一 般 に 羊 毛 の吸 湿 性 が 高 い こ と は大 き な利 点 と い え る。 しか し,反 面 羊毛 素 材 は水 分 に よ る緩 和 収 縮,ハ イ グ ラル エ キ ス パ ン シ ョ ン,あ る い は フ ェ ル ト収 縮
などの寸法変化1)をもたらし,生地の風合いや着用時の形態安定性などに少なからず問題 を与える。前報2)ではこのような問題が布の粘弾性的性質3)と深い関係にあることを前提 として,羊毛布地における応力緩和の測定を取り上げ,その一部として水分が羊毛布地の 応力緩和特性に及ぼす影響4)について言及した。ところで,応力緩和に影響を及ぼす要因の 一つに織りクリンプの存在がある。これは試料にかかるひずみ量(伸長率)の大きさに関 係して働き,羊毛布地においては上述のハイグラルエキスパンション5)という水分の吸脱 湿に伴う布地の寸法変化をもたらし,ひいては応力緩和と深くかかわりあうものである。
そこで,本報告では主としてこのような観点から羊毛布地における応力緩和の水分依存 性についてその一端を検討したので報告する。
2.実験方法
2.1 試料
用いた試料は表1に示す縮充加工された市販の羊毛布地1種類で,応力緩和等の測定に は試験片を65%RHに調湿したデシケータ中に保存して用いた。このとき,実際の試験片の 水分率は11%前後(温度はほぼ20℃)であった。伸長はたて糸方向とし,試験巾は25㎜と した。また,諸元の測定は標準状態で行い,剛軟度の測定(カンチレバー法とハートルー プ法)については布地の裏面を曲げの内側とした。なお,厚さと撚りの測定にはそれぞれ 織物厚さ計と検撚器を用いた。
Table.1Detsils of the sample
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2.2 実験方法 A 実験装置
図1は応力緩和等の測定に用いた実験装置2)の概略図である。これは精密空気供給装置
(タバイ製の型式CAU−211),環境雰囲気試験槽(試料空間は巾×深さ×高さが,230×
230×600㎜)および精密万能試験機(オートグラフAG−100A型)等からなっており,これ らは20◎C±1。Cの恒温室に設置されている。精密空気供給装置の仕様は温度一5〜600C±
L5。C,湿度45〜90%±5%RH(20〜500Cの範囲で)であるが,試験槽内の温湿度は空気 循環によって安定に保たれる。このとき試験槽の温湿度は乾湿球湿度計でモニターされ,
この結果を試験槽の雰囲気条件とした。しかし,実際には雰囲気湿度に基づく試料の水分 率を実測し,これを水分因子として採用した。風量については2ケ所にもうけた調整板(図
1の記号3)で調整し,かつ遮閉板(図1の記号4)にて試料への影響を除外した。用い たロードセルは定格100㎏と5㎏のものであった。
B 測定内容および測定方法 1)水分率一調湿時間曲線
20℃で,水分率が11%前後のデシケー タ中の試験片を20。Cの試験槽(室温に平 衡)に懸垂し,その後試験槽の温度を300C
に,湿度をその都度任意に選択し,数時 間調湿する。そして,調湿1時問以降の 各任意時間における試料の水分率を,そ のときの試験片の一端を手早く秤量ビン に切り取り,天秤にて実測し,かつその 絶乾重量も測定し各雰囲気湿度における 水分率一調湿時間曲線を求めた。
2)応カーひずみ曲線
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Fig.1 Schematic diagram of the experimen−
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(1〉Temp.and humidity regulator (2〉Environmental control chamber (3)Tensile tester
測定はまず上述の1)項と同一条件の試験片を試験槽の温度が20℃(室温に平衡)にお いて,初張力がほぼ3.49/cmになるよう1こチャック間に装着する。そして試験槽内の温度 を300C,湿度をその都度任意に選択し,試料の水分率がみかけ上の平衡に達した段階で,
応カーひずみ曲線を測定し,その水分率依存性を求めた。このとき,測定開始までの調湿 時間は1)項の水分率一調湿時間曲線の結果をもとに1時間以上とし,高・低湿条件にあっ ては測定までに長い時で数時間を費やした。なお,チャック間の試料把持長は100㎜,伸長 速度は200㎜/min,伸長率は20%とした。
3)応力緩和の測定
i)水分率が平衡状態にあるときの応力緩和
試料の水分率が平衡状態にあるときの応力緩和を測定した。応力緩和させる伸長率は2)
項の応カーひずみ曲線の結果をもとに織りクリンプの働きに注目して,3.5%,5%,8.5%
および15%の4つの条件とした。緩和時間は1〜3,600secとし,試料の水分率は応力緩和 の測定終了直後に先述同様天秤にて実測した。また試験片の装着,測定温度,みかけ上の 平衡水分率に達するまでの調湿時間および伸長速度などは1),2)項の内容に準じた。
ii)水分率が過渡的に変化しているときの応力緩和
試料が吸湿または脱湿過程にある場合の応力緩和を測定した。すなわち,2)項に準じ て,試験片をチャック間に装着する。そしてその直後に,試験槽の温湿度の運転を開始し
(300Cで,高湿または低湿に設定),同時に試料に5%の伸長を与え,1〜3,600secまでの 応力緩和を測定した。なお,この他の測定条件は既述した内容に準じた。
4)みかけ上のハイグラルエキスパンション
応力緩和の測定におけるのと同じ条件で試験片をチャック間に装着し,各湿度条件(温 度は30℃)に応じて,試料の水分率がみかけ上の平衡状態に達するまで維持する。この間 において試料は吸脱湿に伴うハイグラルエキスパンション現象を生じ,高湿条件下では試 料は弛緩し,応力は初張力の3.4g/cmより低下する。逆に,低湿条件下では緊張し,応力は 上昇する。そこで,このように水分率がみかけ上の平衡に達した時点で伸長実験を開始し,
その記録紙上の初期の応カーひずみ曲線の特性から,各水分率におけるみかけ上のハイグ ラルエキスパンション現象を応力(実際には伸長実験開始直前のCRT画面に表示された
初張力の変化した値)および試料の寸法弛緩率(伸長実験開始直後から応力が1g/cm付加さ れるまでの記録紙の送り長から算出したものニハイグラルエキスパンション(%))の変化
として読みとった。このとき伸長速度は5㎜/min,チャートスピードは500㎜/min(記録紙 上の100㎜が試料の伸長1㎜に相当),応力感度は記録紙上のフルスケールで,1009または 2,5009とした。
3.結果および考察
3.1 水分率の調湿時問依存性 図2に水分率一調湿時問曲線の測定
結果を示した。初め温度が,20℃で,
水分率が11%前後の試料は各雰囲気条 件における調湿時間の経過に伴って吸 脱湿し,最終的にみかけ上の平衡状態 に達する。図中示した数字は高・低湿 条件下における試験槽内の乾球温度と 湿球温度の観測例であるが,高湿条件 においては試験槽内のガラス面に結露 が見られ,これは経過時問の初期にお いて顕著であった。図から高・低湿条 件における調湿1時間以降の時問当り
(応力緩和時間に相当)の水分率変化 は高くて3%強程度であるが,調湿時間 が数時問に及べば試料はほぼみかけ上 の平衡水分率にあるといえよう。一方,
中間の湿度条件下では調湿時問が1時 間に達すればみかけ上の平衡が成立し ているといえる。反対に,調湿時間が 1時間未満では水分率の変化が顕著で
ある。
3.2 応カーひずみ曲線
図3に各平衡水分率における応カ ーひずみ曲線の測定結果を示した。図
から各ひずみでの応力値は水分率が 24
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Fig.2 Moisture equilibrium Fig.2Moisture equilibrium time for test fab−
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11.7%の基準に近い値より低いと大きく,これより高いと小さい。この原因の1つには羊 毛布地のハイグラルエキスパンション現象の影響が考えられるが,これについては後節で 取り上げる。図中に示した4種類のひずみ率は次節の応力緩和実験の伸長率として採用し たもので,これらは図の特性曲線から織りクリンプの伸縮に着眼6)してつぎのようなひず み領域にある代表値として考えた。すなわち,3.5%はわずかな力で布の屈曲や組織のゆる みが伸ばされる領域の,5%は布を構成している糸の屈曲が伸ばされるとともに,たて糸,
よこ糸が各交錯点で互に押さえられて くる領域の,8.5%は糸が引き伸ばされ て布地を構成している繊維特有の引張 状態を示す領域の,15%はそれが更に 伸長されて,降伏点に近づく領域のひ ずみ率等とした。
3.3 応力緩和の挙動
A 水分率が平衡状態にあるときの 応力緩和
伸長率別による応用緩和の水分率依 存性を前報2)におけると同様,応力比
(図中P,P。は緩和時間毎の応力と初 期応力)の時間変化(図中tは緩和時 間)として図4に,その同一結果につ いてみかけの緩和弾性率(図中のE)
の時問変化として図5に示した。図4
の応力比の結果では伸長率が小さい(a),
(b)において緩和曲線が凸状に下る傾向 にあり,伸長率が大きい(c),(d)におい てそれが凹状に下る傾向にある。この とき,前者では特に高・低水分率にお いてその傾向が顕著であり,後者では 水分率が15%の場合,水分率の差が余 り見られなくなってくる。図5のみか けの緩和弾性率の結果では,伸長率が 小さい(a),(b)における水分率が高・低 水分率条件下にあって緩和曲線が直線
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Fig.3 Stress−strain curves at the moisture regains indicated.
Strain rate:200㎜/min,Temp.129.5 −31.5。C
的でなく,応力緩和の進みが時間(logt)の後半で促進されており,粘性的傾向が高い。ま た,この例を除けば一般に伸長率が大きい(c),(d)において,緩和曲線(直線的である)の 勾配が急となっており,繊維特有の引張状態を示すひずみ量の大きい領域ではより粘性的 傾向にあるといえる。このとき,8.5%の(c)では勾配に水分率による差が認められ,高・低 水分率条件下において急である。また,みかけの緩和弾性率の値は図5の(a),(b),(c),(d〉
の全部に共通して水分率が低いほど大きいようである。以上これらの特性は織りクリンプ や繊維自身あるいはハイグラルエキスパンション現象等に伴う粘弾性的性質がひずみ量の 大きさや測定手法等と関係して複合的に出現していることになり,今後さらに数量的にと
らえる必要があると思われる。
B 水分率が過渡的に変化しているときの応力緩和
図6に伸長率が5%で,試料の水分率が吸湿または脱湿過程にあるときの応力緩和の測 定結果を示した。すなわち,1つは20℃で,1L1%の試料が29.5。Cで,6.8%の水分率に至 るまでの脱湿過程にあるときの結果で,いま1つは20。Cで,1L1%の試料が34。Cで,18.1%
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Fig. 4 The stress ratio (P/Po) on the relaxation time (t) the moisture regains indicated.
Strain rate: 200 mm/min, Temp.
(a) Strain: 3.71‑3.76%
(b) // : 5.18‑5.24 ll (c) // : 8.70‑8.73 ll (d) // : 15.20‑15.26 ll
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Fig. 5
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log t (sec) (d) The apparent stress relaxation modulus (E) on the relaxation time (t) at the moisture regains indicated.
Strain rate: 200 mm/min, Temp.: 30.5‑31.3'C (a) Strain: 3.71‑3.76% (b) )/ : 5.18‑5.24 ll (c) // : 8.70‑8.73 /' (d) j/ : 15.20‑15.26 l)
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Fig.6 The effect of the hygral expansion behavior on the stress relaxation.
の水分率に至るまでの吸湿過程にあるときの結果である。なお,このとき途中における温 度および水分率は未測定である。これによると緩和時間がほぼ200secまでは両者の緩和挙 動が類似するが,200sec以降の脱湿過程にあっては応力の増大が始まり,吸湿過程にあっ ては応力の減少が加速される結果となっている。さらに緩和時問が1,200secを過ぎると,
この段階では水分率の変化が少なくなっていることが推定され,前者では応力の緩和がま た促進され,後者では減速される特徴にある。このように羊毛の過渡的な吸脱湿の性質が 緩和挙動に敏速に反応していることが判り,すでにふれたようにこれがハイグラルエキス パンション効果に基づくものであることが推察される。
3.4 みかけのハイグラルエキスパンション
図7は伸長試験の結果からみかけのハイグラルエキスパンション現象を近似的に推定し たものである。図ではまず,20℃で平衡水分率が11.3%(平均)の試料に3.49/cmの初張力
(▲印)をかけたきのハイグラルエキスパンションを0%(△印)の基準にとっている。
そして,温度が30。Cの一定において,水分率がll.3%より低い各みかけの平衡水分率にお いては試料は脱湿の結果,緊張し応力が3.49/cmより増大している。一方,みかけの平衡水 分率が11。3%より高い場合には吸湿による試料の弛緩が起り,始め3.4g/cmあった応力が 減少し,試料にたるみ,つまりハイグラルエキスパンション(%)が生じ,たとえばそれ は平衡水分率が25%ほどになるとみかけ上L3%程度の値に達する。すなわち,これが応力
緩和挙動に影響を及ぽすことになる。なお,この値の大きさはウォッシャブル加工に求め られる形態安定性上の収縮限界近傍の値に相当している。図中,57.6%の水分率は精密空 気供給装置の湿球温度を乾球温度よりかなり高く設定した場合の結果である。
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Fig.7 Apparent hygral expansion curve plotted as a function of moisture regain。
Temp.:30−34。C
4.おわりに
以上,本測定条件下においてつぎのような結果を得た。
(1)織りクリンプの伸縮限界内の3.5%と5%の伸長率における高・低水分率条件下のみ かけの緩和弾性率(logE)は緩和時間(10gt)に対して,直線的な関係になく,緩和時間 の後半で応力緩和の進みが加速され,より粘性的傾向を示した。
(2)繊維特有の引張状態が示される8。5%と15%の伸長率における応力緩和挙動はlogE と10gtの間にほぼ直線関係が成立し,その勾配は比較的大きく,より粘性的であった。この とき,8.5%では勾配に水分率による差が認められ,高・低水分率条件下において大きかっ
た。
(3)みかけの緩和弾性率の値は一般に水分率が低いほど大きかった。
(4)水分率が過渡的に変化する状況下での応力緩和の測定においてハイグラルエキスパ ンション現象が応力緩和挙動に敏速に反応することが推察された。
(5)ハイグラルエキスパンションは水分率が25%程度になるとみかけ上1.3%程度の値 を示した。これはウォッシャブル加工に求められる収縮限界近傍の値に相当する。一方,
水分率が5%程度の低いケースでは脱湿によるハイグラルエキスパンション現象の結果と して織りクリンプが緊張し,11g/cm程度の応力が感知された。
参 考 文 献
1)繊維工業構造改善事業協会;アパレル研究2,三州社,200(1985)
2)鈴木;長崎大学教育自然研報,38,53(1987)
3)日本繊維機学会編;被服科学総論(上巻),日本繊維機学会,37(1980)
4〉X.Tao,R.Postle;Objective Measurement:Applications to Product Design and Process Control,
T.M.S.」.,459(1986)
5)R.C.Dhingra,R.Postle,T.」.Mahari;Text.Res.」.55,28(1985)
6)石川;新被服材科学,同文書院,103(1976)