経営 と経済 第83巻 第1号 2003年6月
EVA の会計学的考察
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上 野 清 貴
Abstract
EVA (economicvalueadded)isaresidualincolnemeasurethatsub‑
tractsthecapitalchargefrom thenetoperatingprofitaftertax (NOPAT).ThemostimportantadvantageofEVAisthatitistheonly performancemeasuretotiedirectlytotheintrins.icmarketvalueofa company.EVA istheonemeasurethatproperlyaccountsforallthe complextrade‑offsinvolvedincreatingvalue.Thecharacteristicsof EVAaccountingarethatitisahistoricalcostaccountingwithearnlng power,itsincomeconceptisarealizedincomewithearningPowerbuta futureorientedincome,anditbelongstotheenterprlSetheoryintileen‑
titytheory.TheproblemsofEVA accountingarethatthetraditional depreciationmethodmaybeusedandithasashort‑termcharacteristic.
Thesolutionoftheproblemsarethatweshouldusethesinkingfund methodanduseachangeorimprovementofEVAastheperformance valuationindicator.
Keywords:EVA,ROIC,NOPAT,WACC,capit;llcharge
Ⅰ ま え が き
EVAはEconomicValueAddedの頭文字 を取 った ものであ り,「経済付加 価値」 と呼ばれる。 これは米国のコンサル タン ト会社であるスターン ・ステ ユワ‑ ト社が開発 し,普及 させた概念である。 この概念はいたって単純であ
;・:lLq 経 営 と 経 済
り,後述 す る ように,EVAは税 引後 営業利益 か ら投下 資本 にかか る資本費 用 を控除 して算定 され る。
EVAの基本 的思考 は株 主 を重視 した経営 を行 うこ とであ り,その基本的 目的は株主価値 を創造す るこ とであ る。 そ して,その背後 には,株主価値 を 創造す るこ とに よって,すべての利害関係者 のニーズを満た し,企業価値 を 創造 す る とい う考 えが存在 す る。企業 の利害 関係者 には,従業員,顧客,供 給者 ,債権者 ,政府 ,株主等 があ るが, これ らの うち株主の請求権 は 1番最 後 であ り, こ.の株主 の価値 を最大 にす るこ とに よって,経営者 はすべての利 害関係者 の価値 を最大 にす るこ とがで きるか らであ る。
この事情 を,EVAの提 唱者 であ るステ ユワ‑ トは次の ように述べている。
「最後の株主の価値 を増大 させ るため には,企業はその過程 で他の利害関係 者 に も価値 を提供 しなければな らない。言 い換 え る と,長期的 に株主 に利益 を与 えるため には,企業 は従業員 に競争 力のあ る賃金で継続的 な仕事 を提供 し,顧客 に対 して競争 力のあ る価格 で価値 のあ る製 品 を提供 し,供給者 と原 材料の契約 を し,債権者 か らローンを借 り入れ,返済 し,政府 に税金 を支払 い,株主 に競争的 な リター ンを提供 しなければな らない。」[Stewart,1991, 訳書 5頁]そ して, これ らを遂行 し,株主価値創造 お よび企業価値創造 を測 定 す る唯一の尺度 がEVAなのであ る。
EVAは様 々な利点 を有 してい るが,その最 も大 きな利点は,それ が株 主 価値創造 お よび企業価値創造 を測定 す るこ とに よって株式市場 と直接連動 す る業績尺度であ る とい うこ とであ る。 これについて も,ステ ユワ「 トは次の よ うに表 現 し,EVAを推奨 して い る。「EVAの最 も重要 な利 点は,唯一 , 企業 の本質市場価値 に結 び ついた業績 尺度 であ る とい うこ とであ る。EVA
は株式市場価値 にプ レミアムを与 える燃料 にな る。 したが って,EVAを 目 標設定 ,資本予算決定 ,業績認識 , インセンテ ィブ報酬 ,『リー ダー牛』投 資 家 との コ ミュニ ケーシ ョンの尺度 として推奨 す る。言 い換 える と,EVA
を新 し くて完全 な統合的財務 マネジ メン ト ・シ ステムの実行 に利用す るよう
EVAの会計学的考察 59
に主張 したい1)。」[Stewart,1991,p.119,131‑132頁]
EVAは この ように経営的側面 か ら考察 され,企業価値創造 とインセンテ ィブ報 酬 シ ステム について論 じられ るの が一般 的 であ るが,本 稿 は この EVAを会計学的側面 か ら考察するこ ととす る。EVJLは会計学的にい くつか の興味ある問題 を内在 しているか らである。本稿 では以下の ことを論述す る。
まず,EVAの概要 を明 らかに し, とりわけ,EVAの構成要素であ る税引後 営業利益,投下資本お よび資本 コス トを説 明する。次に,かかる概要 を もつ EVAの会計的特質 をい くつかの視点 か ら解 明 し,最後 に,EVAの構造的問 題点 とその解決策 を提示 したい。
Ⅱ EVAの概要
1 EVAの意味
既述 の ように,EVA (経済付加価値 )は株主 を重視 す ることに よる株主 価値創造 および企業価値創造の尺度である。株主が企業 に投資するのは,企 業が彼 らの期待す る収益率を上回る利益 を稼得す ることを予測するか らであ る。株主的観点か らすれば,彼 らの期待収益率を超 える利益のみが真の利益 であ り,それを下回 る利益は利益ではない とい うことになる。 この株主の期 待収益率は 「株主資本 コス ト (率)」 と呼ばれる。
しか し,投下資本 に対する資本 コス トとい う観点か らす る と,株主資本 コ ス トのみが資本 コス トではない。債権者 も企業 に投資す るか らであ る。そ し て,債権者 が企業 に投資するのは,やは り,企業 が彼 らの期待す る利子率 を 上 回る利益 を稼得す ることを予測するか らである。 この債権者の投資は企業 の側 か ら見れば負債 にな るので, この利子率は 「負債 コス ト (率)」と呼ば れ る。
後で詳細 に述べ るように,企業全体の資本 コス ト (costofcapital)は こ れ らの株主資本 コス トと負債 コス トを加重平均 した ものであ り, これは企業 の機会費用 としての性格 を有す ることにな る。それは株主や債権者の投資家
60 経 営 と 経 済
が相対的な リスクを もつ株式や債券のポー トフ ォリオに資金 を投入するこ と で期待で きる収益率であ り,企業が投下 されたすべての資本 に対 して最低限 稼得 しなければな らない収益率である。
これ に対 して,企業 が実際 に稼得 した収益率 は投下資本利益率 (ROIC, returnoninvestedcapital) と呼ばれ これは税引後営業利益 (NOPAT,net operatingprofitaftertax)を投下資本で除す ことによって求め られ る。 した が って,EVAは この投下資本利益率 か ら資本 コス トを控除 した額 に投下資 本 を乗 じることによって算定 されるこ とになる。 いま,ステ ユワ‑ トにな ら
って,投下資本利益率を rとし,資本 コス トを C*とす るな らば,EVAは次 式の ようにな る[Stewart,1991,p.136,147頁]2)0
EVA‑ (r‑C*) ×投下資本 (1) しか し,EVAを会計学的に考察す るため に, この式 をさ らに次の ように 変形す る必要 がある。
EVA‑γ×投下資本 ‑C*×投下資本
ここで,rx投下資本はNOPAT (税引後営業利益)であ り,C*×投下資 本は資本費用 (capitalcharge)であ るので, (1)式は結局次の ようになる。
EVA‑NOPAT一資本費用 (2)
すなわち,EVAは税引後営業利益 か ら資本費用を控除 した ものである。
換言すれば,EVAは,企業 が事業 を行 うために調達 した資本 を営業活動 を 通 じて運用 し,その結果 として得 られた税引後営業利益が資本の調達 コス ト である資本費用を どの程度上回 っているかを算定す るものである。 これに よ って得 られ るEVA値 がプラスな らば,企業は事業活動 によって企業価値 を 創造 した ことにな り,逆 にEVA値 がマ イナスな らば,企業価値 を破壊 した
ことになるのである。
2 NOPATと投下資本
上述 した よ うに,EVAはNOPATと資本費用 の差額 として算定 され,
EVAの会計学的考察 61
NOPATは税引後営業利益であ り,資本費用は資本 コス トに投下資本を乗 じ た ものである。 これだけ見 る と,EVA会計は簡単な ように見 えるが,現実 は必ず しもそ うではない。 とい うのは,NOPATおよび投下資本は現行の会 計システムのそれではな く,現行の発生主義会計に現金主義会計の考 えを加 味 した もの となっているか らである。 さらにいうな らば,現金主義会計の思 考 が強いか らである。
そ して,その原因を考 えてみる と, これ もEVAq)株主価値重視思考 に起 因 していることが明 らか となる.既述の ように,EVAは株主価値 の創造 を 基本 目的 として,資本費用を超 える利益が真の利益であると考 えるが,この 思考 をさらに推 し進める と現金主義会計に行 きつ くことになる。株主の観点 か らすると,現行の発生主義会計に基づいて,企業が資本費用を超 えて利益 を稼得 した と思われ る場合で も,現実にキ ャッシュで回収が行われていない ような未収利益は,真の利益 とみなす ことはで きないか らである。
しか し,現金主義会計にも問題がある。例えば固定資産の場合,その経済 的効果はその耐用年数を通 じて実現するものであ り,その支出時に実現す る
ものではないか らである。 また,研究開発費 (R&I:‑)の場合,現行の会計 制度ではその支出時 に費用計上 されるが,その経済的効果は将来に実現する
ものであ り,その支出時 に実現するものではない。そこで,EVA会計では, これ らの項 目は発生主義で処理することになる。
この ように,EVA会計ではすべての項 目に現金主義 を適用するのではな く,現金主義をベース としなが ら,発生主義を適宜適用 して,NOPATおよ び投下資本を算定す ることになる。具体的には,通常の発生主義会計に基づ く財務諸表 (損益計算書および貸借対照表)を必要な部分に関 して現金主義 会計に修正 してい く方法を とる。
その場合,NOPATおよび投下資本を算定するために通常の財務諸表を修 正する方法 として,2つの ものがある。それは,財務アプローチ と事業アプ
ローチである。
612 経 営 と 経 済
財務 アプローチは,貸借対照表の貸方 に焦点を当てて,投下資本を有利子 負債 と普通株主持分の合計 と定義 し,それに対 して調整 を行 うとい う考 え方 を採用 している。NOPATは普通株主持分 に帰属 する普通株主利益額 に税引 後有利子負債利息 を加 えた もの として定義 して,投下資本の修正の考 え方 に
したが って修正 を加える とい う方法 を とる。
事業アプローチは,貸借対照表の借方 に着 目し,投下資本 とは総資産額 そ の ものであ る とまず定義す る。 その上で,EVA上の投下資本 と考 え られ る 項 目の追加と投下資本 とは考 え られない項 目の削除を行 う。NOPATについ ては,税引前営業利益 (NOPBT,netoperatingprofitbeforetax)か ら始め て所定 の修正 を行 い,修正後 のNOPBTを求め る。 そ して, このNOPBT
か らNOPBTにかかるキ ャッシ ュ ・ベースの税金額 を控除 してNOPATを 算定す る。
財務 アプ ローチお よび事業 アプローチに基づ いて算定 され るNOPATお よび投下資本はそれぞれ当然一致す ることになる。 これ らを具体的 に計算す る方法 を説 明するのにい くつかの形式 が考 え られ るが,表形式が最 も理解 し やすい と思われる。 そ こでいま, これ らをマーテ ィン ‑ペテ ィを参考 に して 表形式 で示す と,表 1お よび表 2の ようになる[MartinandPetty,2000,pp.
92,93]3)0
表1 NOPATの計算
財務 アプローチ 事業 アプ ローチ
普通株主利益 税引前営業利益 (NOPBT)
+税引後支払利息 +オフバ ランス .リー スに含まれ る利息 +オフバ ランス .リー スの税引後利息 ‑キ ャ ッシ ュ .ベー ス税 額
‑その他受動 的投資 の税引後利益及び利 納税引 当金
・ 息 ‑繰延税準備金の増加額
+優先株式配 当金 +特別損失 (利益) に対 す る税額
EVAの会計学的考察
+株主資本等価項 目の変動 繰延税準備金の増加額 LIFO引 当金の増加額 営業権償 却
貸倒引当金の増 加額
R&D,製 品開発 等 の 費用計 上 した 無形資産 (純)累計額 の増加額 税 引後特別損失 (利益 )
棚卸資産 の陳腐化,製 品保証 ,繰延 利益等 に対す るその他 引当金の増加 額
‑NOPAT
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+オフバ ランス ・リー スに含 まれ る 利息 に対す る税額
‑その他受動 的投資利益及び利息 に 対す る税額
+株 主資本等価項 目の変動 LIFO引当金 の増加額 貸倒引 当金の増 加額 営業権償却
R&D,製 品 開発等 の費用 計上 した 無形資産 (純 )累計額 の増 加額 、 棚卸資産の陳腐化,製品保証 ,繰延 利益等 に対す るその他引当金の増 加 額
‑NOPAT
表2 投下資本 の計算
財務 アプ ローチ 事業 つ
普通株主持分 総資産
+有利子負債 ‑市場性 あ る有価
+オフバ ランス .リースの現在価値 ‑建設仮勘定 +オンバ ランス .リー ス ‑無利子流動負債
‑市場性 あ る有価証券 +オフバ ラン′+株主資本等価項ス .
‑建設仮勘定 +優先株式資本金 +少数株主持分 +株 主琴本等価項 目
繰延税準備金 LⅠFO引当金
LⅠFO引 当金 貸倒 引当金
貸倒引 当金 営業権償却累
64 経 営 と 経 済
オフバ ランス営業権 R&D,製 品開発等 の費用 計上 した R&D,製 品開発 等 の費用計上 した 無形資産 (純)累計額
無形資産 (純)累計額 税引後特別損失 (利益)累計額 税引後特別損失 (利益)累計額 棚卸資産の陳腐化,製品保証,繰延
棚卸資産の陳腐化,製品保証 ,繰延 利益等 に対するその他引当金
‑投下資本 ‑投下資本利益等 に対 す るその他引当金
3 資本 コス ト
それでは次 に,EVAにおいて もう1つの重要 な構成要素である資本 コス トについて述べることに しよう。上述 したように,資本 コス トは資本に価値 を付加す るために企業が最低限稼得 しなければな らない収益率である。それ は,投資家が同等の リスクをもつ企業の株式や債券 に投資 して稼得 が期待で きる全体の収益率に等 しい機会費用である。 この資本 コス トは負債 コス トと 株主資本 コス トとに分け られる。
負債 コス トは,負債の利息お よび元本の返済に対する信用 リスクに見合 う 収益率である。 これは具体的には負債の利子率を税引後で示 した ものであ る が,その利子率 として,現在の負債の利率ではな く,企業が新規 に負債を借
り入れ ようとするときに支払わなければな らない利率が採用 される。いま, ステ ユワ‑ トにな らって,税引前の負債の利子率 を bとし,実効税率を tと す るな らば,負債 コス トは (1‑i)bとな る。すなわち,負債 コス トには 税効果が働 くことになる。
株主資本 コス トは,株主が個 々の企業の株式を所有す ることによる期待収 益率であ り,その計算 には資本資産評価モデル (CAPM,capitalassetpric‑ ingmodel)を用いることが多い。そ こでは,それは国債等の無 リスクの収 益率に当該企業の株式 リスク ・プレミアムを加えた もの となる。いま,無 リ ス クの収益率 を γ′,株式市場全体の リスク (株式市場全体の期待収益率) をrm,株式市場全体 に対す る個別株式の リスク (市場全体 に対す る個別企
EVAの会計学的考察 65
業の株価 のボラテ ィリテ ィ) を βとす るな らば,株主資本 コス ト ♭)は次 の ように表 される。
y‑rf+P(rm‑rf) (3)
ここで, (rm‑rf)は株式市場の リスク ・プ レミアムであ り, これを rpで 表す と,株主資本 コス トは次の ようになる4)0
γ‑γ′+βγ♪ (4)
そ して,企業全体の資本 コス トは これ らの負債 コス トと株主資本 コス トを, 投下総資本 に対す る負債 と株主資本 との比で加重平均 した もの とな る。 した がって, これは加重平均資本 コス ト (WACC,weiglltedaveragecostofcap‑
ital) と呼ばれ る。 いま,ステ ユワ‑ トにな らって,総資本 をTC,負債 を
D,株主資本 をEとす るな らば,WACCの加重平均資本 コス ト (C*)は次 の ようにな る[Stewart,1991,p.276,272頁]5)0
C*‑(1‑i)bxD/TC+yxE/TC (5)
Ⅲ EVAの会計的特質
これに よって,EVAの概要 が明 らかにな ったので,本節 では これを受け て,い よい よEVAの会計的特質をい くつかの視点か ら明 らかに してい きた い。その視点 とは,会計 システム論 ,利益概念論 お よび会計主体論 の視点で ある。それではまず,EVAの会計システムか ら考察す るこ ととす る。
1 成果取得原価会計
筆者 の考 えでは,会計 システムはすべて測定要素である測定単位 と評価基 準 か ら構成 され,利益が決定 される。測定単位 とは,資産 を測定す るための 基準単位であ り,それは 1円または 1ドルの ような貨幣単位 で表 される。資 産 は この貨幣単位 の量 とその資産 の関係づけに よって測定 され る こ とにな る。 この測定単位 には4種類 があ り,それ らは (1)名 目貨幣単位, (2)一般購 買力単位, (3)個別購買力単位 お よび(4)貨幣収益 力単位であ る。
(対 経 営 と 経 済
名 目貨幣単位は,一般物価の変動,個別物価の変動,ない しは貨幣収益 力 の変化を考慮 しない測定単位であ り,その時 々の基準単位を修正 しない もの であ る。一般購買力単位は,一般物価 の変動 を考慮 した測定単位であ り,一 般物価指数の変動 に応 じて基準単位 を修正 してい くものである。個別購 買力 単位は,個別物価の変動 を考慮 した測定単位 であ り,個別物価指数 の変動 に 合わせて基準単位を修正 してい くものであ る。貨幣収益 力単位は,企業の収 益 力ない し貨幣収益 力を考慮 した測定単位であ り,貨幣収益力の変化 に応 じ て基準単位 を修正 してい くものであ る。
この測定単位は,基準単位 をそれぞれ修正 してい くことによって,各会計 システムにおいて維持すべ き資本を規定 し,資本維持の機能 を果たす ことに な る。すなわち,名 目貨幣単位 は名 目資本維持,一般購買力単位は実質資本 維持,個別購買力単位は実体資本維持,そ して貨幣収益 力単位 は成果資本維 持の機能 をそれぞれ果たす ことになる。
他方,評価基準 とは,測定単位 によって関係づけ られ る資産の基準 とな る 測定値 の ことであ り,測定単位 た る基準単位 を1とした場合の貨幣単位量の こ とであ る。 この評価基準 には,その資産 を取引す る仮定 に よって4つの種 類 があ り,それ らは (1)取得原価, (2)購入時価, (3)売却時価 お よび(4)現在 価値 であ る。
取得原価 は,ある資産 を購入するために,過去 に支払 われた貨幣単位量で あ る。購入時価は,あ る資産 をいま購入す る とす るな らば,支払わなければ な らない貨幣単位量であ る。売却時価 は,あ る資産をいま売却 する とす るな らば,受取 るであろ う貨幣単位量であ る。現在価値 は,ある資産 を将来売却 す る とする と,受取 るであ ろう貨幣単位量 をある割引率で現在 に割 り引いた
ものであ る。
各会計 システムは これ らの測定単位 と評価基準 を組み合わせ るこ とによっ て導 出され るこ とにな る。 いま, これ を1表 にま とめ,各会計 システムに名 称 を付す と,表3の ようになる。
EVAの会計学的考察
表3 会計 システムの諸類型
(汁
評 価 基 準
測 定 単 位 取得原価 購 入時価 売却 時価 現在価値
名 目 貨 幣 (1)取 得原価 (2)購 入時価 (3)売却時価 (4)現在価値
単 位 会 計 会 計 会 計 会 計
一 般 購 買 力 (5)実 質取得 (6)実質購 入 (7)実 質売却 (8)実質現在
単 位 原価会計 時価 会計 時価会計 価値会 計
個 別 購 買 力 (9)実 体取得 (10)実体購 入 (ll)実 体売却 (12)実体現在
単 位 原価会計 時価会計 時価会計 価値 会計
貨 幣 収 益 力 (13)成果取得 (14)成果購 入 (15)成 果売却 (16)成果現在
そ して,これ ら¢)各会計 システムにおいて算定 され る利益 に名称 を付す と, 表4の ようになる。
表4 利益の諸業頁型
評 価 基 準
測 定 単 位
取得 原価 購 入時価 売却 時価 現在価値名 目 貨 幣 (1)実 現 (2)経 営 (3)実 現 (4)経 済 的
単 位 利 益 利 益 可能利益 利 益
一 般 購 買 力 (5)実 質 (6)実 質 (7)実 質実現 (8)実質経 済
単 位 実現利益 経営利益 可能利益 的 利 益
個 別 購 買 力 (9)実 体 (10)実 体 (ll)実 体実現 (12)実体経 済
単 位 実現利益 経 営利益 可能利益 的 利 益
貨 幣 収 益 力 (13)成 果 (14)成 果 (15)成 果実現 (16)成果経 済
これ らの こ とを前提 として EVAを考察 す る と,EVA会計 におけ る評価 基準は取得原価であ り,測定単位 は貨幣収益 力単位 であるこ とが分 かる。 ま ず,評価基準 に関 してであ るが,EVAの算定 に際 して投下 資本 を計算 す る 場合,ほ とん どの論者 が主張 す るのは時価 ではな く簿価 であ り, これは評価 基準 としての取得原価 にはかな らな い。 したが って,EVA会計 におけ る評
ti(i 経 営 と 経 済
価基準が取得原価であるこ とには,異論 はない と思われ る。
問題 はEVA会計 におけ る測定単位 であ るが, これ を考察 す るため には
EVAの原点にまで戻 る必要があ る。既述の ように,EVAは税引後営業利益
(NOPAT)か ら資本費用 を控除 して算定 され, この資本費用 は投下資本 に 資本 コス トを乗 じて計算 され る。 そ して, この資本 コス トは資本 に価値 を付 加す るために企業が最低限稼得 しなければな らない収益率であ り,企業の収 益 力ない し貨幣収益 力を考慮 した ものにはかな らない。 この企業収益 力を考 慮 した測定単位 がまさに貨幣収益 力単位であ り,資本 コス トは実は貨幣収益 力単位であ ったのである。そ して,測定単位 として貨幣収益力単位 を採用 し, 評 価 基準 として取得 原価 を用 い る会計 が成 果取 得 原価 会計 であ るの で ,
EVA会計の原型 は成果取得原価会計 であ り,そ こで算定 され る利益 は成果 実現利益 であ る とい うことがで きるのである。
さ らに, これが顕著 に表 れ るのか,EVA会計 においてNOPATか ら控除 さ れ る資 本 費 用 で あ る。 この 資 本 費 用 は 貨 幣 収 益 力単 位 で測 定 され ,
NOPATか ら控除 される とい うことは, この分だけ企業 内に留保 され る とい うことであ り,成果資本維持機能 を果た している とい うこ とにはかな らない。
これに よって も,EVA会計の原型 は成果取得原価会計 であ る とい うことが で きるのであ る6)。
2 将来成果指向的利益概念
この ように,EVA会計 の原型 は成果取得原価会計であ り,そ こで算定 さ れ る利益 は成 果実現 利益 で あ る とい うこ とがで きるが , こ こで改 めて ,
EVA会計 における利益概念 について考 えてみ よう。
Ⅱ節で述べた ように,EVAは現金主義会計の思考 が強い。 その理 由は,
EVAが株主価値り創造 を基本 目的 としてお り,株主の観点 か らす る と,現 行の発生主義会計 に基づいて,企業が資本費用を超 えて利益 を稼得 した と思 われる場 合で も,現実にキ ャッシ ュで回収が行われていない ような未収利益
EVAの会計学的考察 69
は,真の利益 とみなす ことはで きないためであ る。
しか しなが ら,上で見た ように,EVA会計ではすべての項 目に現金主義 を適用するのではな く,現金主義をベース としなか ら発生主義 を適宜適用 し て,NOPATお よび資本費用 を算定す ることになる。具体的 には,通常の発 生主義会計 に基づ く損益計算書および貸借対照表 を適宜現金主義会計 に修正 してい く方法を とる。 したが って, これによって算定 され るEVAは発生主 義会計 と現金主義会計 が混合 した混合的利益概 念であ る とい うこ とがで き
る7)0
それでは,EVA会計の基本思想 が現金主義であ るに もかかわ らず,なぜ 発生主義が部分的 に残 るのであろうか。 それを解 く鍵 が,EVA会計 におい て残 っている発生主義の各項 目に関す る理 由づけにあ るように思われる。
EVA会計 における発生主義 の典型は,有形固定資産の減価償却 費,研究 開発費 (R&D),営業権償却 お よびオフバ ランス ・リース費用である。まず, 有形固定資産 に対 して減価償却が行 われるのは,その経済的効果が耐用年数 に応 じて実現 し,また価値の減耗 が実際に生 じる と考 えるためであ る。 これ は企業の研究開発 について も同 じであ り,将来収益 を稼得す るための新技術 や新製品の開発への投資は,支出時ではな く,将来 に経済的効果が発揮 され
るものであ り,その発揮時に費用計上すべ きである とす る考 え方である。
営業権は被合併会社お よび被買収会社の将来の収益 力であ り,それを一定 期間内に費用計上 す る と,合併 とい う投資の経済的効果がEVAに反映 され ない。 そ こで,EVA会計 では,営業権の画一的な償却は行 わず,価値 がな い営業権 については相当の償却 を行 うが,価値 が認め られる場合には償却は 行われず,資産計上することが妥当である と考 えるのである。 また,オフバ ランス ・リースに関 しては, リース資産 を使用 し,その経済的効果 として収 益 を得てお り,将来 において も経済的効果 を得 る とい う事実を考慮すれば, 一万では リース資産 を資産計上 し,他方で この リース資産 に対 して発生する 費用 を計上 するのが適切 であ る とす る考 え方であ る。
70 経 営 と 経 済
この ように見て くる と,EVA会計 において発生主義 が採用 され るのは, 企業の投資行動 に対す る経済的効果が将来発揮 され る場合であることが明 ら か とな る。すなわち,EVA会計 では,企業 の投資対象 が有形 であ るか無形 であるかに関わ りな く,その経済的効果が将来実現す る と認識 され る場合 に, その投資 を資産計上 し,経済効果の実現時にそれに対す る費用 を認識 し,計 上す るのであ る。
この考 えは さ らに,EVA会計 において現金主義 を採用す る場合 に も妥 当 す る。EVAにおいて,現金主義会計 が採用 され る典型 は,各種引当金の非 計上 と税額計算の場合であ るが,これ らに発生主義会計を適用す る として も, その原因が,経済的効果が将来発揮 される企業の投資行動 にはないので, こ れ らに対 しては現金主義 を適用 し,支 出時に費用計上す ることになるのであ
る。‑
EVA会計の原型は成果取得原価会計 であ り,その利益概念は成果実現利 益概念であるが,その背後 には,企業投資に対 して将来の経済的効果 を会計 的 に正 し く認識す る とい う考 えが潜 んでお り,EVA会計 では, この考 えに 基づいて発生主義会計 と現金主義会計 を統合 してい るのである。そ して,そ こにおけ る利益概念は将来 の成果 を指 向 した利益概念であ り,その うち当期 の実現 した もの として認識 され るのが成果実現利益であ り,株主価値創造 お よび企業価値創造の尺度 となるのであ る。 この意味で,EVA会計 におけ る 利益概念は将来成果指向的利益概念である とい うことがで きる。
3 企業体理論
それでは最後 に,EVAの会計的特質 を会計主体論の視点か ら考察 してみ よう。 周知の ように,会計主体論 とは,会計の主体は誰 かを論 じる理論であ り,誰のために会計 を行 うか とい うこ とに関す る理論である。 これまで,会 計主体論 において会計主体は大 き く3つに分類 され,それ らは資本主理論 , 企業主体理論 および企業体理論 と呼ばれる。
EVAの会計学的考察 W
資本主理論 とは,会計の主体 を資本主 (株式会社の場合 には株主)に求め, 資本主のために資本主の見地 か ら,すべての会計的判断を行 お うとする立場 をいう。企業主体理論 は,企業実体理論 とも呼ばれ,会計の主体を企業 それ 自体 としてのエンテ ィテ ィ (entity)に求め,このエンテ ィテ ィの見地か ら, すべての会計的判断を行 お うとする立場をい う。企業体理論 は,企業主体理 論の発展形態であ り,エンテ ィテ ィを社会制度 としての企業体 と理解す る立 場であ る。企業体理論 においては,会計的判断の主体 として企業体 を認め, これが利害関係者集団の意思決定の中心 となる。企業体は,利害関係者集団 か ら委託 されて,経営 目的を達成す る とい う社会的責任を負 う。
ここでの問題 は,EVA会計 が これ らの会計主体論 の うち どれに属す るか とい うことであ る。 これ に関 して,EVAの基本的思考は株主 を重視 した経 営 を行 うことであ り,その基本的 目的は株主価値 を創造す ることにあるので, EVA会計は資本主理論 に属す る と一見考 え られがちであるが,決 してそ う ではない。EVAが株主価値創造 を 目的 とす るこ との背後 には,そ うす るこ とによって,すべての利害関係者のニーズを満た し,企業価値 を創造す る と い う考 えが存在す るか らであ る。
既述の ように,企業の利害関係者 には,従業員,顧客,供給者,債権者, 政府,株主等があ るが, これ らの うち株主の請求権は 1番最後であ り, この 株主の価値 を最大 にすることによって,経営者はすべての利害関係者の価値 を最大 にす ることがで きる。EVAは この考 えに則 って,企業価値創造 を 目 的 としているのである。
この ように見 る と,EVAは企業 を利害関係者の集合 とみな してお り,礼 会的制度 とみな していることは明 らかであ る。そ して,そ こでは企業の利害 関係者の価値 を最大 にす るこ とによって,社会的責任 を果たそ うとしている のである。 これはまさに企業体理論 の考 え方 にはかな らない。 したがって, EVA会計は,会計主体論 としての企業体理論 に属す る とい うことがで きる のであ る。
72 経 営 と 経 済
Ⅳ EVAの問題点 と解決策
本稿のは じめに述べた ように,EVAは様 々な利点を有 している。 そ して, その最た るものは,EVAが株主価値創造 お よび企業価値創造 の尺度 とな る
とい うこ とである。 この指標 を測定す るために,EVAは発生主義会計の欠 点 を是正 し,将来の経済的効果 を会計的に正 しく認識 しようとしているので あ る。
しか しなが ら,様 々な利点を もつ EVA会計 も現在の ところ完全無欠では な く,い くつかの構造的な欠点 を有 していることも見逃 してはな らない。 そ こで最後 に,EVA会計の構造的問題点を指摘 し,EVA会計を改良 してい く ために,さ らにその解決策 を考 えてい きたい。
EVA会計 の重大 な構造 的問題 点 は2つあ る。 1つは,既述 の よ うに, EVA会計は発生主義 と現金主義の混合的会計であ り,発生主義会計 の中に 伝 統 的 な減価償 却 方 法 が適用 され うる とい うこ とで あ る。 そ して他 は, EVA会計の基本は期間損益計算 であ り,それが短期的性格 を有 している と い うことであ る。
1 伝統的 な減価償却方法
まず,EVA会計 におけ る伝統的な減価償却万法の適用問題 を明 らかにす るために,マーテ ィソ エペテ ィが示 した次の ような具体的な数値例 を紹介 し よう[MartinandPetty,2000,pp.136,139]。 ある企業が18,000ドルの投資 を 行 い,その投資は,建物 お よび構築物 に16,000ドルを支払 い,さ らに運転資 本 に2,000ドル支払 った。建物 お よび構築物 は定額 法で7年 にわた って減価 償却 され,残存価額 はゼ ロであ る。運転資本 に投下 した2,000ドルはそのプ ロジ ェク トの最終期であ る7年度末 に回収 される。その投資は毎年1,200.78
ドルの税引後営業利益 (NOPAT)を生み出す と期待 される。NOPATに定 額法の減価償却費 を加 える と,毎年3,486.49ドルのフ リー ・キ ャ ッシ ュ ・
EVAの会計学的考察
フロー (FCF)の推定値 が得 られる8)。投資の資本 コス トは10%である。
これ らの前提に基づいてEVAを計算す ると,表 5の ようになる9)0
表5 伝統的な減価償却方法 を用いたEVAの計算
73
0
1 2 3 L1 5 6 7NOPAT (1(6,2,00000)0) I,200.78 1,200.78 1,200.78 1,200.78 1,200.78 1,200.78 1,200.78
減価債却費
建物及び設備運転資本投下資本FCF資本の帳 簿価額 2,285.71 2,285.71 2,285.71 2,285.71 2,285.71 2,285.71 2,285.71 2,000.00 (18,000)
(18,000) 3,486.49 3,486.49 3,486.49 3,486.49 3,486.49 3,486.49 5,486.49 18,000 15,714.29 13,428.57 ll,142.86 8,857.14 6,571.43 4,285.71 2,000.00 資本費用 1,800.00 1,571.43 1,342.86 1,114.29 885.71 657.14 428.57 ROⅠC 6.67% 7.64% 8.94% 10.78%1 13.56% 18.27% 28.02% EVA (599.22) (370.65) (142.08) 86.49 315.07 543.64 772.21 EVAの現在価値
0
(544,75) (306.32) (106.75) 59.07 195.63 306.87 396.26この表 を時系列的に見 ると,EVAにおける問題点が明 らか となる。 この 表では,EVAは 1年度 においてマ イナス599.22ドルで始ま り,それか ら毎 年増加 し,7年度にプラス772.21ドルに達 している。各年度のEVAは異な った情報 を提供す ることになる。 1年度か ら3年度までは, このプロジ ェク トは企業価値 を破壊 している ということになるが,4年度か ら7年度では, それは企業価値を創造 しているとい うことになる。
しか し,EVAの現在価値合計 とNPVは ともにゼ ロであ り, このプ ロジ ェク トは企業価値 を創造 も破壊 もしていないのである。すなわち, これは 1 つの同 じプロジェク トであ り,その全期間にわたってすべてのEVAを考察 しなければ,そのプロジ ェク トに価値があるか どうかを知 ることができない のである。
これはEVAの第2の問題点であるので,後で改めて詳細 に述べるとして, ここでの問題点は,伝統的な減価償却方法 (定額法)を用いることによって, 各年度の投下資本利益率 (ROIC)が変動 しているとい うこ とであ る。 そ し