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1 はじめに      2 公訴と共謀共同正犯

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(1)

共謀罪と刑事手続

亀−井 源太郎

自次       1 捜査と共謀共同正犯

1 はじめに      2 公訴と共謀共同正犯

n コンスピラシーの訴追       三 公判手続と共謀共同正犯

 一 アメリカ合衆国におけるコンスピラシーの概念       1 訴因と求釈明

 ニ コンスピラシーをめぐる手続法上の問題      2 共謀の立証

  1 裁判地       3 共謀の証明の程度と判示方法

  2 コ・コンスピラターの供述と伝聞法則        W 展望・共謀罪と手続法

  3 ゆるやかな関連性の基準による情況証拠の許容     一 コンスピラシー概観が示唆するもの

  4 併合審理       1 手続的﹁優遇措置﹂と共謀罪

 三 小括       2 裁判地と共謀罪

m 共謀共同正犯の訴追       3 伝聞法則と共謀罪

 一 ﹁事件処理の便宜化・簡易化﹂       4 ゆるやかな関連性の基準による情況証拠の許容と共謀罪

 二 捜査および公訴      5 併合審理と共謀罪

共謀罪と刑事手続      ︵都法四十八−一︶ 一一九

(2)

一二〇

二 共謀共同正犯概観が示唆するもの       3 公判手続と共謀罪

 1 捜査と共謀罪       V まとめにかえて

 2 公訴と共謀罪       −共謀罪創設による刑事手続へのインパクト

1 はじめに

いわゆる共纂﹁飢誕﹂を巡る議論が盛んである・言うまでもなく・この議論は・いわゆる国連国際犯罪轟籍

にともなう国内法を整備しようとする﹁犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の

一部を改正する法律案﹂による共謀罪創設に関するものである︒         この法案を巡っては︑すでに多くの論稿が存在する︒しかしながら︑多くの論稿の焦点は︑その実体法的側面に集        中しているように思われる︒このことは︑もちろん︑ある意味で当然のことである︒同法案のうち︑共謀罪に関する

部分は︑実体法の面についてのみ言及するからである︒しかしながら︑同法案を評価するためには︑共謀罪創設の意

味を手続法の観点からも  すなわち︑共謀罪という実体法規定を創設することが刑事手続にどのようなインパクト

        を与えるのかという観点からも  検討せねばならない︒

 そこで︑本稿では︑共謀罪創設を巡る手続法上の問題を検討する︒

 なお︑本稿執筆段階︵二〇〇七年三月︶では同法案は審議中であり︑議論の前提となる法案の内容や審議の状況は

流動的である︒このため︑本稿は︑法案の文言についての検討や︑立法を巡る経緯の記録・検討は目的としていない︒

むしろ︑本稿は︑共謀罪を広く処罰する規定を創設することによる刑事手続に対するインパクトを概観し︑この問題

(3)

に関する考え方を整理しようとするものである︒

 また︑言うまでもないことだが︑本稿が共謀罪の有する手続法へのインパクトを検討することは︑本稿が︵本稿執

筆段階において︶共謀罪創設を既定路線であると考えていることと同義ではない︒﹁ある法案の是非﹂あるいは﹁あ

る制度の是非﹂を検討する際︑﹁そのような法制度が導入された場合に︑実体法・手続法それぞれの面でどのような

影響が及ぶか﹂を︑個別の点について仔細に考察するのでなければ︑﹁検討﹂は単なる直観的.感覚的判断に陥って        ︵7︶ しまうからである︒

︵1︶ 本稿では︑便宜的に︑﹁コンスピラシー﹂という語はアメリカ合衆国におけるそれを指し︑﹁共謀罪﹂という語はわが国に   おいて今般創設されようとしているそれを指すこととする︒

︵2︶ もちろん︑わが国にも︑すでに陰謀を処罰する犯罪類型は存在する︒ここでカギ括弧付きで﹁創設﹂と記したのは︑全く   新しく共謀罪を処罰する犯罪類型を作り出すことではなく︑一定の条件付ではあるが︑従来よりも広範かつ一般的に処罰を   早期化させることを意味する︒以下︑とくにカギ括弧を付さない場合も︑この意味での﹁創設﹂を意味する︒

︵3︶ 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約a巳⑦ユZ註8°・Oo口くΦロ江oo﹄・e巴5桿ゴ芦ω§8芦巴○偏目冒豊ひユ日①︶︒ ︵4︶ 藤井剛﹁越境性を要件としない共謀罪立法は国際的合意に基づいているか﹂季刊刑事弁護三三号︵二〇〇三年︶一八頁以   下︑松宮孝明﹁実体刑法とその﹃国際化﹄−またはグローバリゼーション  に伴う諸問題﹂法律時報七五巻二号︵二〇   〇三年︶二五頁以下︑同﹁﹃共謀罪﹄および国際組織犯罪対策のための刑事立法の動向﹂法学セミナー五九〇号︵二〇〇四

  年︶六〇頁以下︑海渡雄一‖大塚明﹁﹃共謀罪﹄新設の危険性  国会審議にむけて  ﹂自由と正義五五巻一〇号︵二〇

  〇四年︶四四頁以下︑宮島尚史﹁共謀行為独立化罪︵案︶の違憲無効  沿革と現時点の内外の政治状況から見て内容およ

  び運用の人権否定−﹂学習院大学法学会雑誌四〇巻一号︵二〇〇四年︶一頁以下︑浅田和茂﹁共謀罪立法化の動きと問題   点﹂季刊刑事弁護四四号︵二〇〇五年︶八頁以下︑足立昌勝︵監修︶﹃共謀罪と治安管理社会﹄︵二〇〇五年︶︑同﹁日本に

  おける組織犯罪の現状と対策﹂広渡清吾ほか編﹃小田中聰樹先生古稀記念論文集民主主義法学・刑事法学の展望︵上︶刑事   訴訟法・少年法と刑事政策﹄︵二〇〇五年︶六三九頁以下︑同﹁刑法を変容させる共謀罪﹂法律時報七八巻四号︵二〇〇六

  年︶一頁以下︑中山研一﹁﹃共謀罪﹄法案の何が問われているのか﹂世界七四六号︵二〇〇五年︶五六頁以下︑平川宗信﹁人

共謀罪と刑事手続       ︵都法四十八ー一︶ 一二一

(4)

一二二

  権と刑法の原則を危うくする﹃共謀罪﹄法案﹂ヒューマンライツニ〇三号︵二〇〇五年︶一二頁以下︑宮本弘典﹁﹃安全な   社会﹄のパラドクス  ﹃共謀﹄処罰化への動きをめぐって﹂関東学院法学一四巻三11四号︵二〇〇五年︶一九五頁以下︑

  内海朋子﹁刑法の話題・共謀罪立法﹂法学セミナー六一六号︵二〇〇六年︶三六頁以下︑海渡雄一﹁国際︵越境︶組織犯罪

  防止条約からみた共謀罪規定の問題点﹂季刊刑事弁護四五号︵二〇〇六年︶一五二頁以下︑小早川義則﹁いわゆる﹃共謀罪﹄   とコンスピラシー︵一︶︑︵二︶﹂名城ロースクール・レビュー三号︵二〇〇六年︶四一頁以下︑同四号︵二〇〇六年︶四四

  頁以下︑椎橋隆幸﹁共謀罪を巡って﹂中央ロー・ジャーナルニ巻四号︵二〇〇六年︶一二四頁以下︑新屋達之﹁刑法理論と   共謀罪﹂法と民主主義四〇八号︵二〇〇六年︶五四頁以下︒

   また︑拙稿﹁コンスピラシーの訴追ーコンスピラシー研究序説﹂都法四五巻一号︵二〇〇四年︶一三三頁以下において

  も一定の言及をした︒

︵5︶ もちろん︑手続法上の問題に焦点を当てた重要な論稿も存する︒小早川・前掲注︵4︶﹁︵一︶﹂︑﹁︵二︶﹂がそれである︒

︵6︶ 同様の問題意識から︑正犯と共犯の区別︑とりわけ︑共同正犯と狭義の共犯の区別について検討したものとして︑拙著﹃正

  犯と共犯を区別するということ﹄︵二〇〇五年︶︒同書では︑実体法と手続法の両領域に配慮しながら問題を解き明かす手法   を︑具体的な問題との関係で一定程度示したつもりである︒ ︵7︶ 念のために付言すれば︑拙稿・前掲注︵4︶一七六頁以下や︑日本刑法学会第八四回大会におけるワークショップで話題提

  供者として私が披渥したスタンスにいささかの変更もない︒なお︑当該ワークショップのオーガナイザーによる紹介として

  京藤哲久﹁共謀罪﹂刑法雑誌四六巻二号︵二〇〇七年︶二七〇頁以下がある︒

皿 コンスピラシーの訴追

本章では︑共謀罪と同様に複数の者の合意を処罰するアメリカ合衆国のコンスピラシーにつき︑その手続面に重点

を置いて︑従来の議論を整理することとする︒これによって︑共謀罪創設を検討する際のポイントを明らかにする︒

(5)

一 アメリカ合衆国におけるコンスピラシーの概念

       ︵8︶  ここでは︑以下の議論に必要な限りで︑アメリカ合衆国法におけるコンスピラシーの概念について概観する︒

 コンスピラシーは︑コモン・ロー上は︑﹁二名以上の者による︑不法な行為若しくは不法な手段による合法な行為

を為すための結合︵①8目げ芦注80㊦薯①巾昌苔o自日o苫廿oぱ8︒・♂§oユ旨﹁日⑦唇壱oω而ohユo芦oqm嘗臼ふ5c巳§一

①臼o﹃三§ご臼ξ已巳き一日而餉5°・︶﹂と定義され︑諸法域の制定法もしばしばこの定義に従ってきた︒また︑連邦

法も︑コンスピラシーとは︑連邦法に違反するあらゆる犯罪の遂行を企て︑若しくは︑連邦に対して欺岡︵△o時①昆︶         行為を働くことを共謀することであるとする︒

 このようなコンスピラシーの本質︵牲ω︷︶は︑﹁二名以上の者の合意︵§§o日o暮ぴo苔mo⇒苔oo﹃日08駕︹

°・

緒ケω︶﹂であるが︑この合意は︑他の領域におけるそれよりも緩やかに認められる︒単なる黙示の了解︵声o芭でも

足り︑要式行為でもなく︑明白にコミュニケイトしたことも必要ない︒さらに︑互いに直接の関係︵ユ窪巨ぬ︶を欠

いても合意に至りうるので︑互いに相手が誰だか知らなくとも︑計画全体を詳細に知らなくとも︑当初から計画        ︵10︶ ︵︒力合⑦日而︶の中にいなくても︑合意を形成しうる︒

 また︑コンスピラシーには︑その主観面として︑合意する意図︵巨①暮86⑦①︶︑及び︑目的を達成する意図︵日

叶o巨8①o宮o<⑦o宮oo穿①︶が要求される︒すべてのコンスピラシーは合意を含み︑複数の関与者が合意しようとする

意図が必要だが︑この意図は﹁倫理的な内容を伴わない︵..註浮O自﹇日O邑OO口けO口叶︑﹀︶﹂ので︑関与者がその合意によっ

て何を達成しようとしているかが重要であり︑コンスピラシー法によって規制された目的を達成しようとする共通意       ︵11︶ 図がある場合のみ有責とされる︒

   共謀罪と刑事手続      ︵都法四十八ー一︶ 一一ゴニ

(6)

一二四

 さらに︑現在︑多くの州法や連邦法の一般コンスピラシー規定は︑合意と意図に加え︑オーバート・アクトを要求

する︒コモン・ロー上は︑合意成立さえあれば︑それだけでコンスピラシーとして処罰可能であったが︑現在では︑

﹁コンスピラターのうちの一名が︑コンスピラシーを促進へと前進させたこと︵o器︒パ仔而08貿日§ω﹇o筈ωo日o

°・

y唱8巨尋氏夢Φoo旨゜・巳①o司︶﹂の証明が必要とされるのである︒このオーバート・アクトが要求される理由は︑

「『 槙Yコンスピラシーが進行中であり︵夢060口゜・豆日口尻讐≦♀オ︶﹄︑⁝⁝計画が単にコンスピラターの心中にとど

まっているのでもなければ︑完全に作戦が完遂され︑もはや存在しないものでもないと︑明確に示すこと﹂にあるが︑

実際には︑オーバート・アクトは︑かなりゆるやかに︑その存在が肯定される︒﹁オーバート・アクトは︑コンスピ

ラターの微々たる行為で足り﹂︑﹁目的達成から遠く離れたものであってもかまわない﹂とされるように︑合意が成立        ︵12︶ したが︑目的が達成されなかった場合︑事実上︑あらゆる行為がオーバート・アクトの要件を満たしうるのである︒

︵8︶ 詳細については︑拙稿﹁コンスピラシーの訴追  コンスピラシー研究序説﹂都法四五巻一号︵二〇〇四年︶=三二頁以

  下参照︒また︑コンスピラシーに関する先行研究については︑同論文一三四頁以下注︵1︶に引用したものを参照されたい︒

︵9︶ 拙稿・前掲注︵8︶二二六頁︒

︵10︶ 拙稿・前掲注︵8︶二二七頁以下︒

︵11︶ 拙稿・前掲注︵8︶一四四頁以下︒

︵12︶ 拙稿・前掲注︵8︶一四⊥ハ頁以下︒

(7)

ニ コンスピラシーをめぐる手続法上の問題

 このようなアメリカ合衆国におけるコンスピラシーは︑しばしば︑訴追者にアドバンテージを与えるものと評価さ

れて主超・このため・コンスピラシよの批判も・以下に魏するように・コンスピフシ|訴追の手霊に対し強く

    ︵15︶ なされてきた︒

1 裁判地

 アメリカ合衆国におけるコンスピラシーの訴追は︑犯罪が遂行されたとされる場所で裁判を受ける権利を保障する         合衆国憲法修正6条との関係が問題となる︒この権利は︑遠隔地で起訴された場合に生ずる不公正さ・困難さから被       ロ  告人を保護するための非常に重要なものと考えられている︒

 判例は︑裁判地を︵コンスピラシーの﹁本質︵笹ω﹇︶﹂である︶合意が為された場所でなくともよいとする︒合意

の場所を証明するのはしばしば困難なので︑オーバート・アクトが為された場所でもよいとするので五馳︒このた

め︑裁判地となり得る場所が無限に広がってしまう危険もある︒オーバート・アクトはゆるやかにその存在が肯定さ

れるため︑裁判地たり得る場所は限りなく無限に広がってしまいかねず︑被告人に不便な裁判地を選ぶことが可能に        ︵19︶ なってしまいかねないのである︒

共謀罪と刑事手続       ︵都法四十八ー一︶ 一二五

(8)

一二六

2 コ・コンスピラターの供述と伝聞法則

        アメリカ合衆国のコンスピラシーの立証に際しては︑コ・コンスピラターの供述の利用が問題となる︒

すでにわが国でも詳細に紹介されているよ逗・ヲコンスピラタL供述は︑伝聞例外もしくは非伝聞として扱    ︵22︶ われている︒

 伝聞証拠一般の許容性は︑供述不能及び独立の﹁信用性の兆候︵芦窪o富oパ﹁合各巨ロ︶﹂の二つのテストによって判

断さ竃・しかし・コ゜コンスピラターによる供述については︑連邦最高裁はこのル←を破棄し︑原供述者たるコ・

コンスピラターの供述蕊も・提供される供述の信用性についての独立の轟も不要として奉

 連邦証拠規則も︑同様に︑﹁供述が一方当事者に対し不利なものとして提出され﹂︑﹁関与者中の一名であるコ.コ

ンズピラターによる供述が︑コンスピラシーの過程において︑コンスピラシーを促進するものとして行われたもので

あるとき﹂二当該供述は伝聞ではないLと嘉・すなわち・る︶コンスピラシふ存在し︑被告人がそれに関与し︑

︵2︶関連する伝聞供述及び被告人が同一のコンスピラシーに属し︑︵3︶供述がコンスピラシーの過程で為され︑︵4︶供

述がコンスピラシ6促進として為さ羅L場A︒に・ヲコンスピラタあ供述は伝聞証拠ではないとされるのであ

る︒  コ・コンスピラター供述の許容性を決定する手続においては︑裁判所は供述そのものの内容をも検討し得るが︑独

立証璽§而︒曇①邑゜目8︶を検討せねばならな曜・しかし・多くの巡回裁判優︑妻審は連邦証拠規則八・       ぬ  一条︵d︶が要求する証明以前にコ・コンスピラターによる供述を許容し得るとし︑さらに︑この供述を陪審員不在で

個別に審理することは重要でなく︑許容の前提となる要件の証明に失敗した場合︑それらの証拠を無視するように説

(9)

      ︵32︶ 示すれば︑偏見を排除するのに十分とする︒さらに︑連邦最高裁は︑これらの諸要素の証明は証拠の優越で足りると

 ︵33︶ する︒このため︑コ・コンスピラターの供述の伝聞例外としての許容も︑検察官を有利にするものと考えられてい

︵34︶

る︒

 さらに︑この例外的許容は  理論上検察官に有利に働くのみならず  実際にも広く解釈されがちである︒

 行為もしくは供述がコンスピラシーを促進することという要件は︑しばしば︑広く適用され︑その結果︑コンスピ

      ︵35︶      ︵36︶         ︵37︶ ラシーとわずかな関係があるに過ぎないものが証拠として許容される︒コンスピラシーの形成以前もしくは終了以後        ︵38︶ に為された供述が許容された例もある︒また︑新メンバーの加入は新しいコンスピラシーを形成しないという理由か        ︵93︶ ら︑あるコンスピラターによる供述は︑既存のグループに後から加わった者に対しても許容される︒また︑コンスピ

ラシーに関与した参加者がコンスピラシーの主要な点と概括的な目的を認識している限り︑当該コンスピラシーを促

進する計画の細部に関係する供述は︑供述されている行為について特別な知識を有していない関与者に対しても︑許

   ︵40︶ 容される︒このような例外的許容は︑﹁コンスピラシーの伝聞例外は︑しばしば︑合理的な範囲を超えて適用されて

      ︵41︶ いる﹂とされる︒

3 ゆるやかな関連性の基準による情況証拠の許容

       ︵42︶  コンスピラシーの諸要素は︑合理的な疑いを容れない程度に証明されなければならない︒しかし︑その証明は︑情

況証拠のみによるものでもよいとされるのみならず︑これらの証拠は︑しばしば︑よりゆるやかな関連性の基準に

       ︵43︶ よって許容される︒

   共謀罪と刑事手続       ︵都法四十八ー一︶ =一七

(10)

一二八

 たとえば︑﹁隠遁︵oり69⑦自︶と隠匿︵8口o①巴日⑦旦は︑コンスピラシーの成功の主たる特徴である︒それが完全

に為されれば為されるほど︑犯罪が成功する︒それゆえ︑法は︑正当にも︑そのすべての詳細もしくは他者の関与に

対する認識についての証拠を要求せずに︑計画の本質とそれへの関係︵︒8口⑦6己8︒・︶が十分に明らかにされた者を

有罪とする余地を許容した︒さもなければ︑発見の困難さのみならず︑証明における確実性の困難さ︑抗弁との相関

的な証明︵8q⑦冨旨ぬ胃oobの困難さは︑克服し難いものとなり︑コンスピラターは巧に無罪になってしまうだろ

︵44︶

う﹂とされ︑あるいは︑合意は本質的に人目に付かないところで行われるので︑合意の直接証拠を示せるのは稀であ       ︵45︶       ︵46︶ り︑裁判所は︑﹁起訴された共謀者の一連の行為︵8目ユξ﹇︶からの推論に基づいて﹂訴追し得るとするのである︒

4 併合審理

 アメリカ合衆国においては︑コンスピラターを併合審理するか個別に審理するかも重要な問題である︒       ︵47︶  複数の被告人が一つのコンスピラシーで起訴されている場合︑併合審理することも許されている︒このことは︑コ

ンスピラシーで訴追される多くの場合では︑同一の機会に審理されてはじめて全体像が分かるから︑とされる︒

 しかし︑併合審理は︑いくつかの場面で被告人にとってさらなる不利益をもたらす場合がある︒陪審員選出の専断

的拒否権のように利害が共通しない場合︑もともとは個々の被告人それぞれにとって権利であったものが︑集団の権

利になり︑共同して使わねばならなくなることから︑不利益が生ずる︒さらに︑一定の権利はその性質上個人的なも       ︵48︶ ので︑併合審理したとしても権利自体は残るが︑減衰させられる場合がある︒

 さらに︑個々の被告人が有罪とされる可能性が︑他者との併合審理により︑飛躍的に高まるとされる︒陪審員にとっ

(11)

     ︵49︶     ︵50︶ て︑どの証拠・どの説示がどの被告人に妥当するか整然と判断するのが困難となり︑陪審員にとってどれがどの被告

人の責任であるか区別するのが困難となりかねないのである︒

 また︑併合審理される被告人の人数が少ない場合でも︑被告人は﹁不安定な椅子に座っている︒一般にそこには誰

かの不法な行為︵笥﹃O口鳴臣O一晴︶の証拠があるであろう︒個人にとって︑類は友を呼ぶと信じる準備ができている陪

審員の心中に︑自らの事件を理非曲直によって位置付けることは困難である︒もし沈黙すれば事実を認めたと思われ

るし︑しばしば起こることだが︑もし︑共同被告人がお互いを非難し合うようにあるいは矛盾しているように追い込       ︵51︶ まれれば︑お互いに有罪とし合うことになる﹂︒さらに︑どの関与者がより重い責任がある者なのか区別することが          ︵52︶ 困難になる危険もある︒

︵13︶ コンスピラシーは﹁近代の検察官を助長する最愛の人︵日o阜琶芦㈹亀昏①日oユo白買o︒・⑦6葺o﹁︑ω芦﹁ω而q︶﹂であるとする有

  名な表現がある︒拙著﹃正犯と共犯を区別するということ﹄︵二〇〇五年︶一七四頁注︵24︶参照︒ ︵14︶ もちろん︑コンスピラシー概念そのものへの実体法的な批判がなかったわけではない︒この点については︑拙著・前掲注

  ︵13︶一七〇頁︒

︵15︶ 拙著・前掲注︵13︶一七四頁以下参照︒

︵16︶ さらに︑多くの州憲法との関係でも︑同様の問題が生ずる︒切災﹄菖団戸ξ胃巴゜︑ひ呂呂蒙巴冒自o己目傷峯ど﹂◎N

 彗吟零lOぱ︵N臼Φユ゜声ΦΦ㊤︶°

︵17︶ ⊂巨︷9Qり声︷o︒︒ぎOo﹁①゜力三〇〇ご゜oり゜︽自\°︒Qり゜O庁◎︒謡ふ↑団ユ゜臣゜︒品︵おO◎︒︶°

︵18︶ 閏置Φ︿d芦江Q力冨﹇o︒力鵠朝9ψ謹S品㊤○けべ㊤P器い国P一﹂に︵拾旨︶⁝勺8巳⑦ぷOo日N⑦ひ牛﹀唱廿﹃ωぷ忘゜︒目切紹

  ︵HΦ嵩︶▽○﹁目合oりoロ<°oり匿審︑ωO口﹈≦伜Φ◎◎9口8PN巳切o◎O︵お◎◎O︶° ︵19︶ 有罪にするであろう陪審員がいる場所を選ぶこともできることとなる︒Oミ災§§§冴ぎ■㌻冒宅1♀ミ§〜9ミe§§鳶

 出日ぐ゜い牢ぷ㊤N⇔陪㊤﹃切ーベO°

︵20︶ ロ⑦穿≧房〇三︶§︒・臼甘路コ巨一言e§§N♀§§〜9ぎ㎏画§亀︑ω◎︒︾日゜○ユ巨゜↑冒゜ミメ゜︒Oω︵NO8︶°

共謀罪と刑事手続      ︵都法四十八ー一︶ 一二九

(12)

一三〇

︵21︶ 安倍治夫﹃刑事訴訟における均衡と調和﹄︵一九六三年︶一二八頁以下︑田宮裕﹁共謀共同正犯における共謀の立証につ

  いて﹂︵植松正ほか︶﹃齊藤金作博士還暦祝賀現代の共犯理論﹄︵一九六四年︶五八五頁以下︑小早川義則﹃共犯者の自白﹄二

  九九〇年︶一頁以下︵特に二九頁以下︶︑同﹁いわゆる﹃共謀罪﹄とコンスピラシー︵一︶︑︵二︶﹂名城ロースクール・レ

  ビュー三号︵二〇〇六年︶四一頁以下︑同四号︵二〇〇⊥ハ年︶四五頁以下︒

︵22︶ コ・コンスピラターの供述につきこのような扱いをする理由は︑しばしば︑各コ・コンスピラターは他の者の代理人

  ︵轟o昌﹇︶であるからとされる︒﹀昆⑦諺8ぷ己巳甘亀Q力§白・吟声やご゜ω﹄口忠oηbけN路P︽一﹇国工ふ口NO︵お謹ご勺oo芭oぷooΦ済o・

  急貫切OZk°Nユωωω︑e◎︒字尾切Nユ鵠べきΦ2°国﹄ユ﹃o︒ω︵おo◎O︶⁝句ミ罫竃Oごぽ︑穿O°力9目OZ︾200国禺Zω国○﹃○日≦巨

  Oo2°︒コ認自○ら5⇔≦ロ︶⁝切bN︻N﹈巴切\一〇占\﹂N﹄Q≦曽合N8︾︒Y さらに︑小早川・前掲注︵21︶﹁︵二︶﹂六四頁以下参照︒

︵23︶ 句災O巨oタ曽げo詳o︒ぱo︒d°㊤切◎Φ早ΦO︵ド㊤o◎O︶⁝吻ミ巴ωo巳匡司子く﹃管一PO賠d°白り﹂H◎﹂ωO︵お㊤qっ︶°

︵24︶ 切災d巳甘ユψり鼠﹇oψ力ぐ甘①合︑禽Od°白り゜ωo◎べ︵冶o◎Φ︶◆

︵25︶ 切ミboo已ユ巴ぱぐd巳﹇o臣白り§①の︑吟o︒ωdφ嵩声︵冶◎︒﹃︶°

︵26︶ このような扱いと第六修正との関係については︑句ミO§ω臼≦已宮三§§口o甘Nρ陪゜︒Oや゜︒一ρ

︵27︶ ウoら戸国己卑㎝o︒田︵△︶︵N︶旬︶°

︵28︶ 巨廿O日ふ5b慧篭ミ這書§無き恥eー∩§巳へ§守︹きoa書恩へ§ぱoミ︑ト︒一ひ庁ロ日巳o昌ま◎ぎぬ゜おq⊃や︶⁚㊤ミ自冴⇔ロoニユ巴■子d巳冨臣

  oり鼠︷m酌吟◎oωd°白り゜ド﹃ど﹂Oべoりb︹N﹃﹃9Φべ↑因ユ﹄ユにト゜

︵29︶ 切ミO塾ω臼≦言旨P賄§§昌9①N⇔陪o︒Oや8°

︵30︶事実審がこれらの要素を吟味すべき順序につき連邦最高裁は明らかにしていない︒O§︒・合≦宮ま三§目口o﹇①Nρ讐︒︒O︒︒°

︵31︶ d巳甘ユω訂吟6ωぷぐ5訂o見↑ONウ゜ω画q︶Φo◎︵鉾庁Ω︹おΦΦ︶⁝d昌詳⑦ユω鼠﹇⑦ロリぐOo目N巴⑦Nl切巴ユ而目μニウ゜ω画日﹂o◎︵口浮Ω︹おΦふ︶⁝

  d巳﹇⑦ユQり巨而ωぐ⇒①q︑旨目ω●﹂﹈−o◎Φ︵N匹Ω門声8ω㌻d巳﹇而ユoり§oりくL≦8坦Φ口ωユ9ω︵Φ日○﹃おΦω︶⁚d巳﹇⑦巳oり§⑦ωぷ○§

  げぎPq∋NΦ句桓△お9︵ω臼ひ一﹁°﹂㊤㊤﹈r︶⁝⊂巳⑦亀ω9︷oω<°<き出O日巴qo村雲切頃N亀匡q⊃ω︵二日Ω︹Sq⊃﹂︶°

︵32︶ d巳︷oユoリロ酔oω寸勺o合晦⇔﹂N目ω△O﹂o︒︵べ臣Ω︹﹂㊤q⇒ωご己づ一吟oユoD9霧く菅尽㊤o︒べ目ト︒ユ路ω︵O夢○﹃お㊤ω︶⁚己巳甘ユQり鼠⇔oo︒ぷ

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(13)

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  目05﹈ーベウ゜ωユやトO︵O夢O片゜﹂q⊃Φむ゜      ︑

︵43︶ 拙著・前掲注︵13︶一四八頁以下︒

︵44︶ Ud巨日Φロ夢巴ぷd巳叶OユQ力鼠﹇Oo︒︑ωo◎Nごφ鵠qっOo◎白力b︹Nふo◎︑ΦN↑国P嵩ふ︵お︽﹃︶°

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︵46︶ 切ミξ三ミ︶§口o穗ω古巴N°N︵色巴ト︒㊥べーΦo︒°

   さらに︑コンスピラシー成立に必要な合意は︑他の領域におけるそれよりもゆるやかに認められる§こ⑳ドNN︵巴暮鵠9︒

  しかし︑﹁コンスピラターへの単なる賛意︵日Φ苫g︒・o巳註8忌日68碧一﹃巴o諺﹂︑﹁協力なしの単なる認識︵日Φ器ざo菖oユ西o⁝°

  急夢o巨ooo駕目江8︶﹂は不十分である︵C巳富工白り96ω<二≦o問△oN︑︽ΦΦヴ゜Nユ旨◎◎︵O夢○﹃﹈O囚︶⁝句ミご己吟⑦ユ◎o§ωぐ司巴8目P

  ω一一dφNOO︵冶≠O︶⁝d巳穗ユgり§霧寸呂菖げ而6村や±目N△ωΦO︵ふ仔○㌣﹂Φ゜︒吟︶︶︒拙稿﹁コンスピラシーの訴追  コンスピラ

  シー研究序説﹂都法四五巻一号︵二〇〇四年︶一三七頁以下参照︒

︵47︶ 切ミご巳﹇Oユoり訂穗oりく°ひo目愚olPo暮P曽Φ戸ωユμΦω︵后⇔O障NOOO︶⁝d艮甘庫Qり冨叶oωぷ日ユゆ□q⊃O﹃ω●﹂二〇︵Φ夢Ω﹁°冶Φ5︸

  d§△切訂穗ωぷoリゴO詳⑳﹃Oふ句゜ωOHN吟◎◎︵﹃日ひ片゜一qっ㊤口︶⁝ご巳⇔①ユ切訂甘のぷ﹈≦自oりρ巨膳切勾゜ωユ㊤Nや︵口日○庁゜声㊤ΦOごd巳﹇O巳白り§⑦ω<

  寄日O□N中ウ゜ω△①ON︵卜仔Ω5一㊤Φ﹄︶⁝d巳︷Oユoり§Oω子﹀口△﹃6胡o力︑q⊃口ωウN△﹂ω口︵二日Ω﹃°脇⑩N︶⁝d巳甘らoり§ωぐ匿古ロoり︑o◎吟N

  ウNユN﹂O︵◎o夢 O一﹃°﹈°Φ◎◎o◎︶°併合審理は︑︵1︶訴訟経済︑︵2︶証人の負担軽減︑︵3︶被告人が証人の欠席のせいに不正にすること

  を拒ぐことを目的とする︒ご巳甘鮎゜り訂甘ω<◆呂轟§P巳゜︒ウ゜ωユ巨認︵べ夢Ωこ㊤口やY

︵48︶ bき災§ミ§冴三ミV§口20﹂円巴Φo︒⇔

︵49︶ 句災や空ζ巳吟o△oり9霧ぷO窪旨巴oり仁旨信書ω︑PΦ目戸O°切NΦ9﹇Ob巨o声逡べ︶°被告人一〇二人︑証拠物一六一六件の事

  案︒

共謀罪と刑事手続       ︵都法四十入ー一︶ =二一

(14)

=二二

︵50︶ 切災や℃d巳︷江o力巨oω<巨ωの二巽戸注Φ㊤朝︵毘Ω︹一q⊃島︶°

︵51︶ 曹庁急﹇o庁寸d巳古江o乃庄Φω三ωΦ己゜白り゜ぱ⇔80りb庁Σ㊦三〇い国穿謬O︵﹂Φお︶q8冨oPPo8日ヨロぬ︶°

︵52︶ 切需§晋爵oωぐd巨区゜り鼠甘︒・認゜︒C㊤誤O︵H忠Φ︶;ミ昌⇔d昆江ω§︒・<°○窪耳︑︒︒鵠町N亀﹂8切︵切日Ω二Φ◎︒︒︒ごd忌江

 ω訂﹇2<二く︻o<o肩戸﹂$戸戸︼︶°ω①Neb巳o﹂㊤㊤Φ︶

三 小括  本章では︑共謀罪が手続法に与える影響を検討する前提として︑アメリカ合衆国におけるコンスピラシーの訴追を

巡る諸問題を概観した︒このことを踏まえた検討は後述することにして︑次章では︑わが国の共謀共同正犯の訴追に

ついて概観する︒

皿 共謀共同正犯の訴追

 本章では︑わが国の共謀共同正犯を巡る手続法上の問題について︑議論を生じうる点を概観する︒

 なお︑ここでは︑﹁それぞれの問題点に対しどのように考えるべきか﹂については︑深入りしない︒ここでの目的

は︑共謀罪創設が有する手続法へのインパクトを検討するために﹁議論すべき問題点﹂を1共謀共同正犯に関する

既存の議論を参考にしつつー﹁洗い出す﹂ことにあるから︑である︒このため︑個別の点についての私見の記述は       ︵53︶ 最低限に留めることとする︒

(15)

︵53︶ それぞれの点についての私見については︑次章で共謀罪と手続法の関係を検討する際に必要な限りで述べるほか︑拙著﹃正  犯と共犯を区別するということ﹄︵二〇〇五年︶一三八頁以下を参照されたい︒

一 ﹁事件処理の便宜化・簡易化﹂

 周知のように︑田宮博士は︑共謀共同正犯を巡っては実体法上の問題と手続法上の問題があるが︑前者については

﹁裁判所の自制によって︑かろうじてではあるが︑具体的な妥当性を保っていたということで︑ジャステイファイで

きないわけではない﹂が︑後者については﹁現行法のように︑訴訟の責任が当事者の攻撃・防御に課される当事者主

義になると︑このルースな構成の矛盾が︑被告人のこうむる甚しい不利益となって顕在化﹂するので︑﹁共謀共同正        ︵54︶ 犯の実際上の問題点は︑むしろ訴訟法の面にあり︑そして訴訟法の面でこそ重大﹂であるとされた︒        ︵55︶  共謀共同正犯に関するリーディング・ケースである練馬事件最高裁大法廷判決の多数意見は︑手続法上の問題につ       ︵騎︶ き︑①共犯者の自白に法律上補強証拠は不要であるとし︑②共謀は共謀共同正犯における罪となるべき事実であって

﹁これを認めるためには厳格な証明によらなければならない﹂が︑﹁共謀の判示は︑前示の趣旨において成立したこ

とが明らかにされれば足り︑さらに進んで︑謀議の行われた日時︑場所またはその内容の詳細︑すなわち実行の方法︑

各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示することを要するものではない﹂と判示した︒

 これに対し︑有力な学説は︑しばしば︑共謀共同正犯は手続を不当に簡便化するとして批判してきた︒

 たとえば︑佐伯千偲博士は︑共謀共同正犯論が﹁わが裁判の実務においてはびこり広がり牢固として抜くべからざ

る勢力を有することの真の理由は︑実は︑教唆犯または従犯としての事実の認定や判示が  さらに遡って検察官に

   共謀罪と刑事手続       ︵都法四十八ー一︶ 二二一二

(16)

二二四

とっても起訴状に教唆帯助を事実的に特定して明確に記載することが  共謀共同正犯としての処理に比し面倒だか        ︵57︶ らである﹂とされ︑さらに︑大野平吉博士も︑﹁共謀は一般の経験に照らし︑また犯罪者の心理として隠密裏に行わ

れるのが普通であるから︑捜査機関のこの点に関する活動も︑非供述証拠の収集が事実上困難なところから︑いきお

い共謀関与者の一部の者に対する自白の取得に向けられる︒だが捜査機関が一部の共謀関与者の自白に期待し︑その        ︵58︶ 活動に主力を向けるとき︑捜査手続きの糺問化と虚偽の自白による冤罪が危惧されるのである﹂とされるのである︒        ︵59︶  さらに︑米田泰邦弁護士も︑実務は狭義の共犯を共同正犯として処理しているとして︑以下のように批判された︒

 ﹁共謀共同正犯の﹃極端な拡大﹄を促したのは︑共謀共同正犯肯定論のいうような高尚な法理からではない︒むし

ろ︑きわめて現実的な打算からである︒犯罪の実行者でなくとも︑それと意思を通じていると疑われるなら︑ただ被

疑者︑被告人は﹃共謀の上﹄とさえ表示すれば︑その共謀の日時︑場所などを特定しなくても︑強制捜査の令状もで

るし︑起訴も有罪判決もできるという実務上の慣行に結びついたからである︒共犯の場合には︑常に︑いつ︑どこで︑

どのようにして教唆し︑酎助したかを特定しなければならないが︑ここでは︑わずか四字の呪文のような文句でこと

足りるのである︒それは判例における共謀共同正犯の実質的な内容︑あるいはその限界の不透明さと相侯って︑謀議

などの共謀成立過程の厳密な立証も必要でなく︑また︑共謀関係が認められる限り︑そのうちのだれが実行にあた

り︑どのように実行行為を分担したかということも︑いちいち明らかにするまでもないというルーズな訴追︑処罰を

可能にした︒それが事件を処理する国家機関にとってきわめて便利であるのはいうまでもない﹂︒

 このように︑共謀共同正犯に批判的な見解は︑その手続面につき︑﹁ルーズな訴追を可能とする﹂と批判したので

ある︒  そこで︑以下では︑この﹁ルーズな訴追﹂か否かを巡る議論を︑手続の各局面に応じて概観する︒

(17)

︵54︶ 田宮裕﹁共謀共同正犯における共謀の立証について﹂︵植松正ほか︶﹃齊藤金作博士還暦祝賀現代の共犯理論﹄︵一九六四   年︶五入八頁︒同旨・石川才顕﹁共謀共同正犯の意義と訴訟上の諸問題﹂日本法学二九巻六号︵一九六四年︶四二頁以下︒

︵55︶ 最︵大︶判昭和三三年五月二八日︵刑集一二巻八号一七一八頁︶︒ ︵65︶ 少数意見は︑﹁﹃本人の自白﹄でないことは︑形式論理たるにすぎない︒⁝⁝多数意見は︑前に述べた同条項に含まれてい   る趣旨を深く考慮せざるものであって︑裁判における共同被告人の人権の保障の見地からすれば著しい後退を示すものであ

  つて是認することを得ない﹂とした︒

︵57︶ 佐伯千栂﹁共謀共同正犯﹂竹田直平博士植田重正博士還暦祝賀﹃刑法改正の諸問題﹄︵一九六七年︶一〇四頁︒

︵58︶ 大野平吉﹃刑事法社会学と刑法学﹄︵一九九九年︶二二五頁︒

︵59︶ 米田泰邦﹁共謀共同正犯﹂︵中義勝編︶﹃論争刑法﹄︵一九七六年︶二四九頁以下︒

二 捜査および公訴

まず︑現在︑警察・検察実務上での共謀共同正犯の共謀を巡る運用を概観する︒具体的には︑ここでは︑捜査およ

び公訴提起をめぐる問題を扱うこととする︒

1 捜査と共謀共同正犯

 捜査との関係では︑まず︑各種書類の書式が問題となることがある︒端的に言えば︑共謀共同正犯として訴追する

際の書式が︑狭義の共犯としてのそれに比して︑便宜化・簡易化されているのではないかとの議論があったのであ

︵剤・

共謀罪と刑事手続      ︵都法四十八−一︶ 二二五

(18)

一三六

 警察実務における捜査書類は︑捜査書類基本書式例によって書式が定められている場合︑特別の定めがある場合を        む 除いては︑すべてこの書式によって作成しなければならない︒

 そして︑司法警察職員捜査書類基本書式例によれば︑犯罪事実もしくは被疑事実はこれに基づいて記載されるが︑

このうち︑共同正犯については︑一般論としては︑練馬事件判決をよりどころとして﹁共謀したという事実は犯罪の

実行行為に属しないから︑犯罪の実行行為の日時︑場所を記載して犯罪事実が特定しておれば︑共謀の日時︑場所は

必ずしも記載を要しない﹂と説明され︑他方︑教唆犯については﹁教唆行為が存在することと︑被教唆者がそれによっ

て犯意を生じて特定の犯罪を犯すことを要するから︑①教唆行為の日時︑場所︑方法等と︑②正犯の犯罪の日時︑場       ︵62︶ 所︑方法等について具体的に記載する﹂ことが要求されている︒したがって︑たしかに︑形式的には教唆の方が厳格

な記載を要求されていると言うことも可能ではある︒

 もっとも︑教唆犯についても︑﹁その教唆が行われた日時︑場所が明確なことは不可欠の要件ではないから︑教唆

の日時︑場所が記載できない場合は︑犯罪全体が他と区別して同一性が認められる程度﹂の記載で足りるとされてい

るし︑逆に︑共謀共同正犯についても︑﹁通常は﹃共謀の上﹄と簡単に記載しているが⁝⁝事件によっては︑共謀の

日所場所︑共謀の成立する経過等まで具体的に表示した方がよい場合もある﹂とされてい︵聴ことには留意すべきで

ある︒ 2 公訴と共謀共同正犯

公訴提起との関係では︑起訴状の記載が議論の対象とされてきた︒

(19)

 刑事訴訟法二五六条三項が訴因の特定を求めていること︑および︑練馬事件判決が共謀を共謀共同正犯における

﹁罪となるべき事実﹂に該当するとしたことにも拘わらず︑同時に︑同判決が﹁共謀の判示は⁝⁝謀議の行われた日

時︑場所またはその内容の詳細︑すなわち実行の方法︑各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示する

ことを要するものではない﹂としたことから︑実務上︑起訴状における共謀の事実の記載は︑コ般的には﹃共謀の        ︵64︶       ︵65︶ 上﹄などと端的に記載すれば足りる﹂とされる︒この点には︑強い批判もある︒        ︵66︶  ただ︑同時に︑﹁各被告人について︑それぞれ公訴事実が特定できるように記載﹂することも要求されているので︑

共謀共同正犯についても︑この限度で明らかにする必要はあるとされているし︑刑事訴訟法二五六条三項は︑幅のあ

る記載を許容しているが︑幅のある記載をする場合にも被告人の防御に支障を来さない程度に特定された訴因の記載

が要求されるのであって︑被告人の防御権を保障するために必要な限度で共謀の内容を明らかにする必要は︑当然に        め  存在する︒また︑この点については︑後述するように︑裁判所による求釈明の手続と相侯って理解されるべきである︒

 なお︑共謀と訴因変更との関係について︑東京高判昭和五五年七月一五日︵判時一〇二三号一三八頁︶は︑実行共

同正犯の訴因に対し現場共謀による共同正犯を認定するには訴因変更は不要としたが︑大阪高判昭和五六年七月二七

日︵高刑集三四巻三号三五五頁︶は︑現場共謀に基づく傷害の実行共同正犯の訴因で事前共謀に基づく共謀共同正犯        ︵68︶ を認定するには訴因変更が必要であるとした︒前者において東京高裁は﹁いわゆる事前共謀による共同正犯を認定し

ているものではないから⁝⁝被告人らの防禦権を無視し不意打を与えたものとはいえ﹂ないとし︑後者において大阪

高裁は︑﹁原判決は訴因にない共謀の事実を認定し⁝⁝本件訴因のもとにおいて原判示のような共謀共同正犯の事実

を認定することは︑被告人の防御に実質的不利益をもたらすこととなり︑訴因変更の手続きを要するものと解すべき

である﹂としたのであり︑ここでも︑共謀共同正犯の特殊性を考慮して︑被告人の防御権の観点からの配慮が為され

   共謀罪と刑事手続      ︵都法四十八ー一︶ 二二七

(20)

一三八

      ︵69︶ ているのである︒

 ︵60︶ 拙著﹃正犯と共犯を区別するということ﹄︵二〇〇五年︶一四二頁以下参照︒  ︵16︶ 犯罪捜査規範五五条一項︒一定の事件については記載事項の内容を簡易化した簡易書式例によることが許されているが︑

   共犯者または刑事訴訟法九条二項所定の関連被疑者のある事件及びそのあることが予想される事件については︑犯行が単純

   かつ証拠の明らかと言えないものが多いことを理由として︑一律にこの対象から除かれている︒警察庁刑事局編﹃﹇新版﹈

   記載要領捜査書類基本書式例﹄︵一九九四年︶二九四頁参照︒

    なお︑同書七二頁は︑刑事訴訟法一九八条に基づく供述調書における犯罪事実関係の記載について︑様式第八号の解説は︑    いわゆる﹁六何の原則﹂に﹁だれとともに﹂﹁なぜ﹂を加え︑﹁八何の原則﹂とし︑﹁被疑者に共犯があるときは︑自己のほ

   かだれがいるかを明確にするとともに︑共謀の内容について︑日時︑場所︑相互の言動︑犯罪実行に際しての各自の役割を

   明確にして調書に記載する必要がある﹂として︑共謀の内容を明確に記載することを求めている︒  ︵62︶ 警察庁刑事局・前掲注︵61︶二四頁以下︒有助についても︑﹁教唆犯と同様︑正犯の成立に従属して成立するものであるか

   ら︑梨助行為と正犯の犯罪行為とを記載しなければならない﹂とされる︒

 ︵63︶ 警察庁刑事局・前掲注︵61︶二四頁以下︒

 ︵64︶ 司法研修所検察教官室編﹃検察講義案﹇平成一八年版﹈﹄︵二〇〇七年︶六九頁︒

︵65︶ たとえば︑佐伯千偲﹁共謀共同正犯﹂竹田‖植田還暦祝賀﹃刑法改正の諸問題﹄︵一九六七年︶一〇四頁︒  ︵66︶ 司法研修所検察教官室・前掲注︵64︶六九頁︒

 ︵67︶ 船田三雄﹁刑事裁判における訴訟指揮﹂法曹時報二五巻五号︵一九七三年︶一〇頁は︑﹁訴因の内容は訴訟手続の進展に

  伴ってその具体性の程度を深めるべきものである︒したがって︑被告人が謀議の態様を争おうとする場合には︑﹃釈明﹄に

   よってこれを具体化すべきである﹂とする︒このような見解に対しては︑﹁訴訟の動的発展性に着目し︑実務感覚に根ざし

   た柔軟な考え方で︑傾聴に値する﹂としつつも︑﹁共謀共同正犯の共謀が罪となるべき事実である以上︑そして訴因特定機

  能の一つが被告人の防禦のためという点にある以上︑少なくとも︑実行行為に加功していない純然たる共謀者を起訴するに

  あたっては︑謀議の具体的事実を表示する必要があると考える﹂とする批判もある︒土本武司﹁訴因の特定﹂︵熊谷弘ほか︶

   ﹃公判法大系1﹄︵一九七四年︶一三八頁︒しかし︑土本教授も︑教唆・幣助に関しては︑﹁教唆ないし帯助行為と正犯の実

  行行為の両者に該当する具体的事実を表示しなければならない︒ただ︑その両者は相互補強の機能をもつから︑その一方に

(21)

  ついての記載内容に多少具体性を欠くことがあっても︑他方についての記載内容と相侯って︑教唆・封助の訴因が明示され

 たと認められうる場合があろう﹂とされる︒同様のことは︑共謀共同正犯の事案における実行担当者と実行担当しなかった

 者についても言えるであろう︒したがって︑必ずしも常に共謀の内容を厳密に具体的に明示しなければならないことにはな

 らないようにも思われる︒

︵68︶ なお︑小林充﹁共謀と訴因﹂大阪刑事実務研究会﹃刑事公判の諸問題﹄︵一九八九年︶三六頁以下参照︒ ︵69︶ なお︑同様のケースで裁判所には訴因変更を命ずる義務もしくは訴因変更を積極的に促すべき義務があるとした裁判例と

  して︑東京高判昭和五五年二゜月二五日︵判タ四一五号九二頁.日大闘争事件控訴審判決︶がある︒

三 公判手続と共謀共同正犯

ここでは︑裁判実務上の問題と運用の現状に関して︑訴因と求釈明︑共謀の立証︑証明の程度及び判示方法の各手

続に関する従来の議論を概観する︒

1 訴因と求釈明

 すでに公訴段階での問題と運用に関して訴因の明示との関連で言及したように︑訴因の明示に対する︑裁判所から

の︵間接的な︶コントロールの手段として重要なのは︑刑事訴訟規則二〇入条に基づく求釈明である︒この運用次第

では︑訴因の明示に必要な事項の範囲に関していわゆる特定説を採用したとしても︑実質的には防御権説を採用した        ︵70︶ 場合と同様の結果に至ることができるからある︒        ︵71︶  ﹁共謀の上﹂という一括した記載について︑実務上は︑日大闘争事件判決を踏まえ︑﹁共謀のみに関与した被告人

共謀罪と刑事手続      ︵都法四十八ー一︶ 二二九

(22)

一四〇

にとっては︑犯罪との唯一の接点である共謀の成立につきアリバイを主張︑立証することが防禦の重点となることは

明らかであって︑そのような場合には共謀の日時の特定が被告人の防禦上重要な事項となる﹂ため︑弁護人からの求

釈明の申し立てがあった場合︑﹁裁判所としては求釈明を行うことが相当であり︑現実の訴訟では多くの場合そのよ        ︵72︶ うに訴訟指揮が行われている﹂とされる︒

 なお︑小林充教授は︑求釈明について︑﹁共謀の日時︑場所につき︑弁護人から求釈明の申立があった場合の措置       ︵73︶ については︑実行共同正犯と共謀共同正犯とに分けて考察するのが妥当である﹂とされる︒前者は︑犯意が実行行為

以前に生じたとしても犯行時に存在するものとして扱えば足りるのと同じであって被告人の防御上重要な場合に求釈

明を為せば足りるが︑共謀共同正犯の場合は﹁防禦権説の立場をとり︑かつ共謀を謀議行為と解するならば︑共謀共

同正犯における共謀の日時︑場所につき求釈明の申立があった場合︑裁判所としては釈明を命じなければならないと        ︵74︶ いうことになる﹂とされるのである︒小林教授は︑共謀共同正犯における共謀を犯罪の共同遂行の合意とされ︑結論

的には︑実行共同正犯と同様︑共謀共同正犯における共謀の日時︑場所︑場所等は訴因の明示に必要な事項ではない

という立場に親近感を表明されるが︑同時に︑﹁共謀の日時︑場所︑内容等は︑そのいかんによって被告人の認否が

変わってくるということもあり得るから︑被告人の防禦上重要な事項として︑裁判所がそれに関し求釈明をなすのを

相当とすることが多いであろう﹂とされ︑この点については︑﹁研究会の席上でも⁝⁝求釈明を行うとすることでは       ︵75︶ ほぼ全員の意見が一致した﹂とされる︒ここからも︑実務上は︑求釈明が重要な役割を果たしていることが理解され

得るであろう︒

(23)

2 共謀の立証

 共謀共同正犯における共謀を立証するためには︑①情況証拠による立証︑②共謀加担者本人の自白による立証︑③

他の共犯者の供述︵いわゆる﹁共犯者の自白﹂︶による立証の三通りの方法があり︑それぞれに議論がある︒以下︑

順次概観する︒

︵1︶情況証拠による立証

 わが国は法定証拠主義を採用していないため︑厳格な証明によって裁判所が合理的な疑いを越える程度の有罪心証

を得さえすれば探証上の法則違背はないので︑情況証拠による立証については︑共謀の立証に固有の証拠法上の問題

 ︵76︶ はない︒

 さらに︑共謀の認定の場合︑その資料としては情況証拠のほか︑被告人及び共犯者の供述が考えられるが︑自白偏        ︵77︶ 重の弊を避けるため︑むしろ︑情況証拠の活用こそが好ましい方向である︒

 判例も白鳥事件上告審判決において︑﹁﹃厳格な証明﹄とは︑刑訴の規定により証拠能力が認められ︑かつ︑公判廷

における適法な証拠調を経た証拠による証明を意味するものと解すべき﹂であるとして︑間接証拠のみによって共謀       ︵78︶ その他を認定した第一審を支持した原審を妥当とした︒

共謀罪と刑事手続      ︵都法四十入−一︶ 一四一

(24)

一四二

︵2︶共謀者本人の自白による立証

 共謀加担者本人の自白による立証に関しては︑刑事訴訟法三一九条二項が要求する補強証拠の必要な範囲に共謀の         事実が含まれるかが問題とされている︒

 通説は補強証拠の必要な範囲一般について﹁補強証拠は罪体の全部−少なくともその重要部分1について存在

することを要し・かつそれで足りる﹂と解し罪体説に立つ︵縄・判例は・魏証拠は百白にかかる事実の藁性を保        障し得るものであれば足りる﹂としていわゆる実質説を採用している︒そして︑判例は︑﹁犯行の謀議の一過程に属

する事実は︑被告人の自白だけで認定しても︑憲法三八条三項に違反しない﹂として補強証拠は不要であるとしてい

︵麗・

︵3︶共犯者の供述による立証1いわゆる﹁共犯者の自白﹂

 共犯者の供述による立証を巡っては︑従来︑いわゆる﹁共犯者の自白﹂の問題が議論の対象とされてきた︒

 判例は︑最︵三小︶判昭和二一二年二月二七日︵刑集二巻二号一二〇頁︶が︑三人の供述のみを証拠として犯罪を認

定したケースで︑﹁共同被告人の検事に対する陳述は被告人の裁判外の自白と同一視すべき性質のものでないから︑

共同被告人等に対する検事の聴取書並に前記各証言等を引用して判示事実を認定した原判決に対し︑被告人の自白の        みによつて事実を認定したという非難は当を得ない﹂とし︑さらに︑練馬事件最高裁判決も︑﹁憲法三八条三項の規

定は⁝⁝いわゆる完全な自白のあることを前提とする規定と解するを相当とし︑従って:⁝・自由心証主義に対する例

(25)

外規定としてこれを厳格に解釈すべきであって︑共犯者の自白をいわゆる﹃本人の自白﹄と同一視し又はこれに準ず

るものとすることはできない﹂から︑﹁かかる共犯者又は共同被告人の犯罪事実に関する供述は⁝⁝自由心証に委か

さるべき独立︑完全な証明力を有するものといわざるを得ない﹂として︑﹁共犯者の自自﹂に補強証拠が不要である       ︵84︶      ︵85︶ ことを確認した︒そして︑この後も︑最高裁は︑一貫して不要説に立っている︒このため︑﹁証明力の問題について

は練馬事件大法廷判決以降︑一貫して公判廷におけると否とを問わず共犯者の自白には必ずしも補強証拠は必要でな       ︵86︶ いとの立場をとり︑この問題は実務上はひとまず解決済みのものとして取り扱われているのである﹂とされている︒

 これに対し︑学説上は︑補強証拠必要説と不要説が対立している︒必要説は︑﹁共犯者の自白﹂の有する危険性を        ︵87︶ 指摘し︑この危険を防止するために︑﹁共犯者の自白﹂にも法律上補強証拠が必要だとする︒

 このうち︑﹁共犯者の自白﹂が有する危険性は本人の自白と同様であると解する見解は︑憲法三八条三項を自白の

偏重を避け︑誤判を防止しようとする趣旨であると解し︑﹁自白偏重を防止する趣旨からいって︑本人の自白と共犯        ︵88︶ 者の自白とのあいだに区別はない﹂こと︑﹁共犯者中の一人が自白をし他の一人が否認していて︑しかも他に補強証

拠がないというケースを想定するときは︑反対説においては︑自白をした者は自己の自白しかないから無罪となり︑

否認をした者は共犯者の自白があるから有罪となるという結果になる︒⁝⁝自白をした者が無罪︑否認をした者が有       ︵89︶ 罪というのは︑はなはだしく非常識な結論である﹂こと︑共犯者間でなるべく法律関係の合一的確定をするべきであ

  ︵90︶ ることを理由として﹁共犯者の自白﹂に補強証拠を必要とする︒

 また︑﹁共犯者の自白﹂に︑︵本人の自白の有するそれとは異なる︶固有の危険性を指摘する立場は︑共犯者の自白

には自らの罪責を軽く見せるための引っ張り込みの危険や︑犯罪の全過程について熟知した共犯者が九つの真実に一

つの虚偽を織り交ぜて被告人を引っ張り込んだ場合︑それに関する知識をほとんど持たない被告人側は︑反対尋問に

   共謀罪と刑事手続      ︵都法四十八ー一︶ 一四三

(26)

一四四

      ︵91︶ よってどれほどその虚偽を暴露できるか疑問であることを根拠とする︒        ︵92︶  これに対し︑不要説は︑﹁共犯者の自白﹂は厳密には自白ではないこと︑証明力の判断の問題として自由心証主義        ︵93︶ の合理性の問題とすれば足りること︑現行法は︑英米法と異なり︑共犯者の自白に関して直接的な根拠規定を設けな       ︵94︶ かったのであり︑憲法三八条三項及び刑事訴訟法三一九条二項を適用ないし準用できるか疑問であること︑﹁本人の

自白は安易に信用されるが︑共犯者の自白はむしろ警戒の目を以ってみられるのであって︑証拠評価の心理にも差異

     ︵95︶       ︵96︶ がある﹂こと︑必要説によったとしても補強の範囲が罪体に限られるなら引っ張り込みの危険は防止できないこと︑       ︵97︶ 共犯者の自白の証拠能力を認める前提として反対尋問権が認められているので十分であることを理由としてきたので

 ︵98︶ ある︒

3 共謀の証明の程度と判示方法

 かつて︑判例は︑共謀自体は刑事責任を基礎付ける罪となるべき事実に属しないので﹁起訴状にかかる犯罪事実の

訴因を示すについても︑数人共謀の上︑共同一体となって具体的犯罪事実を実行した者を︑実行行為について犯罪の

日時︑場所︑行為の態様を推定して記載すれば足り︑敢えて︑共謀者の氏名︑場所︑具体的内容︑実行行為の担当者︑        ︵99︶ 又は各自の分担した実行行為の態様まで明示することを要しない﹂としていた︒しかし︑練馬事件判決は︑一方で共

謀が厳格な証明の対象であるとを明らかにし︑他方で﹁﹃共謀﹄の事実が厳格な証明によつて認められ︑その証拠が

判決に挙示されている以上︑共謀の判示は︑前示の趣旨において成立したことが明らかにされれば足り︑さらに進ん

で︑謀議の行われた日時︑場所またはその内容の詳細︑すなわち実行の方法︑各人の行為の分担役割等についていち

(27)

いち具体的に判示することを要するものではない﹂としたのである︒

 周知のように︑練馬事件判決の後段の判示については︑強い批判がある︒すなわち︑﹁殊に︑証拠関係が複雑な場

合には︑起訴状または判決に︑或る程度具体的に共謀または謀議の日時︑場所および方法が示されていなければ︑何

を以ってそれを共謀共同正犯における共謀または謀議としたのか︑あるいは︑果して︑それが共謀共同正犯における

共謀または謀議に当るか︑どうかの判断すら︑できないのではあるまいか﹂として︑﹁起訴上の公訴事実と判決理由

中の事実摘示には︑できるだけ︑共謀の日時︑場所及び方法を記載し︑或る程度これを具体的に示すことが︑人権保        ︵001︶ 障という見地から︑是非︑必要なこと﹂とされ︑あるいは︑﹁証拠上共謀の存在は認められるが︑共謀の形成過程は

不明の場合﹂も﹁共謀の存在によって共謀者を心理的粛助とすることは許され﹂るが︑﹁この場合の共謀は共犯性を

       ︵皿︶      ︵皿︶ 基礎づけるものでしかない﹂とされたのである︒

︵70︶植村立郎﹁起訴状に関する釈明﹂刑事訴訟法の争点﹇新版﹈︵一九九一年︶二二九頁︒さらに︑岩瀬徹﹁起訴状に関する

  求釈明﹂刑事訴訟法の争点﹇第三版﹈︵二〇〇二年︶一一八頁以下参照︒

︵71︶ 最︵三小︶判昭和五八年九月六日︵刑集三七巻七号九三〇頁︶︒ ︵27︶村上光鶏︵大塚仁ほか編︶﹃大コンメンタール刑法第五巻﹇第二版﹈﹄︵一九九九年︶三六五頁︒さらに︑﹁実務では検察官

  が裁判所の釈明に応じているのが普通である﹂とも指摘される︒ただし︑同所にも指摘されているように︑この求釈明は勧   告的性格のものに過ぎず︑裁判所によるコントロールにも自ずと限界はある︒

︵73︶ 小林充﹁共謀と訴因﹂大阪刑事実務研究会﹃刑事公判の諸問題﹄︵一九八九年︶二九頁︒

︵74︶ 小林・前掲注︵73︶二九頁以下︒

︵75︶ 小林・前掲注︵73︶二二頁以下︒﹁研究会﹂は大阪刑事実務研究会を指す︒また︑実行共同正犯についても﹁求釈明をなす

  のを相当とする場合も多いであろう﹂とされる︒同論文二九頁以下︒ ︵76︶ 田宮裕﹁共謀共同正犯における共謀の立証について﹂︵植松正ほか︶﹃齊藤金作博士還暦祝賀現代の共犯理論﹄︵一九六四

共謀罪と刑事手続       ︵都法四十八ー一︶ 一四五

参照

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