レーザーオプトメターによる眼球調節作用の測定法 の吟味(その?)レーザーの粒状パタンの特性
その他のタイトル On the Laser Optometer technique measuring accommodative response III : Characteristics of speckle pattern of laser
著者 池田 進
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 8
号 1
ページ 295‑305
発行年 1977‑01‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/00023144
レーザーオフ゜トメクーによる眼球調節作用の測定法の 吟味(そのill) レーザーの粒状パクンの特性
1 )
池 田
進
前回の報告(池田,
1 9 7 5 )
で紹介したレーザーオプトメクーは, レーザーの拡散光によって生 ずる粒状パクンを利用して眼球の調節作用を測定する装置である。視軸に垂直な一定方向に,低速で移動するスクリーン面でレーザーが拡散されると,通常,ス クリーンの表面に粒状パクンが現われ,その粒状の要素が一方向に流動するのが槻察される。
粒子の流動の方向は観察眼がどれほどの距離に調節されているかによって異なる。もし眼がス クリーン面よりも近くに調節されていると粒子の流動方向はスクリーン面の運動方向と同方向と なり,遠くに調節されていると逆方向となる。いま,眼がちょうどスクリーン面の位置に調節さ れたときには,粒子の流動はみられなくなり,かわりに無数の粒子が泡立ち沸騰するかのような 印象を生ずる。したがってスクリーンを視軸に沿って前後に動かして,粒子の流動が気づかれな くなるか,あるいは,粒子の流動方向の逆転によって挟みこまれる点を特定できると,その位置 がその時の眼球の調節位置に一致するはずである。
レーザーオプトメクーはこの原理を用いて設計されている。この装置は,従来の装置や器具を 用いる場合にくらべて,被験者の視野を妨げることが殆んどないこと,視野の構造に対して測定 が悪影響をもたらさないこと,測定時間が短かくてすむこと,測定に熟練を必要としないこと等 の利点がある。
もっともその性能は,リニアモークーを用いて調節の状態を即時に追跡できるように工夫され た自動式赤外線オプトメクー
( S e r v o ‑ c o n t r o l l e di n f r a r e d O p t o m e t e r , Comsweet & C r a n e , 1 9 7 0 )
にはおよぶべくもないが費用の点では非常に安価である2 )
。 また皮質の活動電位を測定す るH a r t e r& White ( 1 9 6 8 )
のように精緻な技術を必要とするものでもない。現段階において その長所欠点を勘案するときレーザーオプトメクーはなおすくなからぬ貢献をもたらす装置とし ての価値は認められてよい。1 )
この報告書は筆者が昭和49
年度関西大学在外研究員として,米国ペンシルバニア州立大学においておこ なった研究活動の報告の一部をなすものである。在外研究の機会を与えていただいた関西大学,同社会学 部教授会,および在外研究期間中の研究の便宜をはかってくださったペンシルバニャ州立大学教授H . W . L e i b o w i t z博士と同大学心理学研究室の方々のご厚意に対し深く感謝の意を表するものである。
2)
われわれの試作では約7 0
万円を要したが生産ペースではその約半額で製作することが可能と思われる。‑295‑
関西大学『社会学部紀要』第
8
巻第1 号
今回の報告では. レーザーオプトメターの原理として用いられているレーザーの状粒パタンに 関連した過去約
1 0
年間の文献を通覧して,粒状パタンの特性を総括的に示すことにする。1 .
レーザーの粒状パクンの観察 (1) 粒状パクンの様相いまかりに均質な壁面を白熱電球で照明すると,その光線の当った部分は全面が一様に明る<照 されてみえる。しかし,光学レンズで拡散されたレーザーをその壁面にあてると, レーザーのあ たった部分が一様な明るさにはみえず,比較的暗くみえる部分と明る<きらめいてみえる部分が 現れる。明る<きらめく部分は細かな粒状で,あたかも細かなガラス粉を一面に吹きつけたよう にみえる。この光の微細な粒状要素がランダムに密集した特徴的なパタンをレーザーの粒状パク
ンとよぶことにする
3 )
。(2) 粒状パタン発現の物理的条件
White & Rigden ( 1 9 6 2 )
はヘリウム・ネオン混合ガスのメーザー(MASER:Microwave A m p l i f i c a t i o n by S t i m u l a t e d Emission o f R a d i a t i o n )
におけるヘリウムの役割を検討する 作業の中で,発生した可視光線( 6 3 2 8 A )
を白色スクリーンに照射してフォトダイオードで出力 の変動の計測をおこなった。その実験に際してスクリーン上に銀察された粒状パタンに関する報 告をRigden& Gordon ( 1 9 6 2 )
がおこなっている。彼らは,粒状パタンが照射面における拡散光にのみ観察されることから,それがメーザーに固 有の性質ではないこと,また,カメラの受像面にも現れることから眼の機構に特有の機能による ものでもないことを主張した。その発生は,スクリーン面で拡散された光線の回折パタンに依存 すると考えている。
そこで彼らはそれを確めるために,拡散面の表面を構成する既知の大きさの微粒子の密度を何 段階かに統制して,拡散された光の回折パタンを観測した。拡散面の個々の徴粒子は一つ一つが 光線の反射要素をなして,それぞれの回折パタンを形成しているが,微粒子の密度を高めていく と,個々の回折バタンが相互に干渉しあう確率が増すにつれて明るい部分をかこむ縞状の暗い部 分が現れ始めた。さらに密度を高めることによってついに特徴的な粒状バタンが発生するという 槻察結果をえた。
O l i v e r
(1963) は粒状パタンが光の回折にもとづく• ことを写真撮影によって確認しようとし た。彼はカメラのレンズをとりはずし, レンズのとりつけ口にそれと等しい口径の円筒をとりつ けて,暗黒中においてスクリーンに照射されたレーザーの反射を直接にフィルム面に露光し,特 徴的な粒状パクンの記録をえた。撮影には長時間の露光(約1 0
分間)を要することから, レー ザーの回折パタンの干渉が特定の拡散面に関して定常的なものであることを確かめた。S t a v i s
3)
レーザーの拡散光によって生ずる特徴的なパタンは従来の文献の中ではs p a r k l i n gs p o t s , g r a n u l a r i t y , s p e c k l e p a t t e r n , s c i n t i l a t i o n p a t t e r n
などとよばれているが筆者の一連の報告ではこれを粒状パタンと よぷことにする。‑296‑
( 1 9 6 6 )
も反射光のフィルム面への直接露光で同様の記録をえている。粒状パクンはレーザーを照射面で反射させる場合だけでなく,厚みをもった紙などの背後から 透過させて, その透過光をみるような場合にも観察される。
Huntley( 1 9 6 4 )
とG o l d f i s c h e r
( 1 9 6 5 )
は,透過された光が透過面の銀察者に近い側の面で拡散されて放射した光をフィルムに 直接露光して,反射光の場合と同様の粒状パタンの記録をえた。このような,回折パクンの定常的な干渉は光が単色の凝集光である場合には得られるが,単色 光でない場合,または凝集光でない湯合には得られない。それは,その光線に含まれる個々の波 長の回折パクンが空間的時間的に相殺され平均化される結果,強弱のパクン構造を生じないため であると考えられている。また
Langmuir( 1 9 6 3 )
によれば, レーザー以外の単色光において 粒状パクンが現われないのは,その単色光がレーザーほど極端 1こ単色でないためであるとされて いる。粒状パクンが生ずるためには0 . 1 A .
以上隔たる波長が含まれていてはならず, レーザーは たまたまこの条件を満しているものである。このような議論に対しRigden & Gordon ( 1 9 6 2 )
は回折の条件が適切に統制されさえすればレーザー以外の光線でも粒状パクンが生じうると考 ぇ,特定の条件において太陽光と高圧水銀灯の光線によってそれを槻察している。粒状パクンは上述のとおり光の回折パクンの干渉に依存するために,拡散面の状態によっても 影響される。拡散面を構成する要素が相互に定常的な配置を保つ場合には定常的な干渉がもたら されるので粒状パクンが現われるが, ミルクなどのコロイド状懸濁液における反射要素のプラウ ン運動や,急速に回転する円板のように要素が光源に対して急速かつランダムに変動する場合に は,その運動のために回折パクンが互に相殺しあうので粒状パタンは生じなくなる
( R i g d e n&
G o r d o n , 1 9 6 2 ; O l i v e r , 1 9 6 3 ) 。
G o l d f i s c h e r ( 1 9 6 5 )
はすべての反射要素が等しい反射率をもち, 無限に高い密度の集合をな図
1
拡散面に任意の点( u , v )
を仮定 する。錮察面上の任意の点(エ.; y )
に対する拡散点( u , v )
の寄 与は拡散の強度に距離の2
乗の逆 数を乗じたものと,ウェープフロ ントの曲率半径の積I C
よって示さ れる。点( x .y)
のエネルギー密 度の値は点( u , t i )
と点( u
嘩.← 0)
の対がもたらす干渉によっ て決定される。すと仮定した反射面が,反射面から特定の距離にある 銀察面(フィルム面または網膜面)にどのように寄与 するかを数学的に記述した。
反射面上の任意の点 (u, v) に無限に小さい面積を もつ拡散点を仮定する。一方, 錮察面上に任意の点
(ふ
y)
を仮定すると,点(ふy)
に対する点 (u, v) の時間t
における寄与は,点(仏 v) の拡散の強度(既知の値)に距離の
2
乗の逆数を乗じたものと,w a v e f r o n t
の曲率半径との積によって求められる。それにもとづいて算出された.点(ふ
y)に対するす
べての拡散点の寄与の総和から点(ふy)
における輻 射エネルギー密度の時間平均と,すべての銀察面上の 点の輻射エネルギー密度の平均値を導いた。そこで,‑297‑
関西大学『社会学部紀要』第
8
巻第1
号点 (x,
y)
のエネルギー密度の,平均エネルギー密度からのずれは,拡散点 (u, v) と( U ‑ ‑ 6 ) ,
v‑lJ)の対がもたらす干渉によって示されることが明らかになった。すなわち.パクンの性格は 反射面上のすべての方向について見出される拡散点間の干渉の重なりとして考えられることが示された。
2 .
粒状パクンの視覚的性質 (1) 粒状パクンの見かけの位置粒状パクンを種々の距離から銀察するとき,一般に眼がスクリーン面からどのような距離にあ ってもパクンを視認することができる。その理由は既に前項(2)の記述によって明らかであるが,
たとえば,眼がスクリーンから数センチメートルのところにあって.もはやそのような近い位置 からはスクリーン表面のテクスチュアはぼけて見えない場合でも粒状パクンだけは明瞭1こみるこ とができる。その場合.粒状パクンはスクリーンの位置にみえるのではなくてスクリーンのむこ う側に現われる。 この見え方について
Langmuir( 1 9 6 3 )
は, スクリーンにあいた穴をとおし てむこう側にあるパクンをのぞいているような感じだと述ぺている。O l i v e r ( 1 9 6 3 )
は槻察者が近視の場合は数センチメートルの距離でもスクーンの上にパクンが あるようにみることができるが,正視・遠視の場合にはLangmuir( 1 9 6 3 )
の場合のようにス クリーンのむこう側にパクンがあるようにみえることから.パクンの現れる位置には錮察者の眼 の調節位置が関係すると考えた。つぎに,反射面からのレーザーの反射を受容した眼が(他に調節を強制する剌激がないとき)
その反射光の刺激によってどのように調節されるかの問題点については,
Huntley ( 1 9 6 4 )
が網 膜面上における粒状パクンの像の明るさーデイテイルのバランスに依存すると主張している。銀察距離が一定のとき,眼がスクリーン面に正しく調節されると,パクンの像の網膜上でのひ ろがりは最も狭くなり. したがって粒子は明る<小さくなって狭い範囲に密集する。調節がスク リーン面からはずれるほど像のひろがりの範囲は広くなり, したがって粒子は暗く大きく粗くな る。この相関関係において眼の調節は.パクンの像が最適の明るさーデイテイルのバランスの水 準を保つように自動的に調整される。したがって最終の調節の位置がスクリーン面に正しく一致 するかどうかは.スクリーン面上に特に調節を強制する剌激が存在しない限り問題外となる。も しスクリーンよりも近くの位置に調節がなされたならば.パクンはスクリーンの手前の空間に浮 んでみえるであろう。
図
2 ‑ a ,b
において, A
はレーザーの反射面の断面, B
とC
はそれぞれ眼のレンズ系と網膜 の断面を模式的に示している。P o , P i , P 2 … … P i
はA
上の任意の拡散点の位置を示すものとす る。P i
からのレーザーの反射はB
を介してC
上の点R i
に到達して回折パクンを生ずる。 この 時A
上の他の拡散点Pi+x
からの反射が点R i
に到達すればその回折パクンとの間に干渉を生 ずる。このときA
上のいずれの拡散点の組が網膜上の点R i
に寄与するかはそのときのA
とC
‑298‑‑
(またはB)および光源の相対的な関係によって全く統計的に決定されるはずである。いま簡単 のために反射面上の一対の拡散点について考えるならば,
B
の焦点距離がJ i
でo v e r ‑ a c c o m m o ・ d a t i o n
(スクリーンよりも近くに調節がおこる)の状態にある場合(図2 ‑ a )
は,P o
とP i
から の反射がC上の共通する点R1に落ちるので. この一対の回折パクンの干渉によって粒状パクン の要素の一つが決定される。この粒状パクンはいま眼が調節されている面Di
上のQiの位置に
投射されるのでパクンはスクリーンの手前に浮んでいるように見えるはずである。もしレンズ系の焦点距離が
/ 2
となりu n d e r ‑ a c c o m m o d a t i o n
(スクリーンよりも遠くに調節 がおこる)の状態になると(図2 ‑ b )
パクンはスクリーンよりもむこうに現れる。このときにはA C ‑
P ,
B
面 191111191
節調R ,
拡散面 レンズ系
網 膜眼球
図
2 ‑ a
over•accommodation の場合, いま眼が正面に調節されていると,P o
と P1の寄与がもたらすR1での千渉がパタン要索を構成し, それはみかけの 上でD 1
面上に投射される。A c
2
﹄p ̀
︒
` P l
̀ ‑
l i︑
i ̀
‑ `
〗`、``` B
R ,
調節面
拡散面 レンズ系 網膜
眼球
図
2 ‑ ' b u n d e r ‑ a c c o m m o d a t i o n
の場合,いま眼が込面に調節されていると,P o
とP a
の寄与がもたらす恥での干渉がパクン要素を構成し, それはみかけの 上で込面上に投射される。‑299‑
関西大学 r社会学部紀要』第
8
巻第1 号
P o
と & のR 2
に対する寄与によって粒状パクンの要素の一つが決定され, この像は凸上の点Q2
に投射される。この場合Q2
はP o
と氏のら面上における虚像の関係と考えてよい。こうしてこの場合の粒状パクンはスクリーンのむこう側にあらわれる。
いま便宜上,拡散点の任意の一対のなす寄与についてのみ考えたが,一般的には反射面のすべ ての方向に存在する拡散点の特定の組の寄与によって粒状パクンは決定されるから,パクンの全 視野は網膜面C上の回折パクンの調節面への投射として決定できる。
(2) 粒状パクンの見かけの粗さと大きさ
O l i v e r ( 1 9 6 3 )
はパタンの粒子の祖さと大きさが観察距離によって変ること報告している。遠 距離から観察した場合には,近距離からの場合より粒子は粗く大きくなる。Langmuir ( 1 9 6 4 )
は遠距離からの銀察では粒子の数が減り.近距離からでは数が増すとだけ のべており粒子の大きさについてはふれていない。いずれにしろ,
I n g e l s t a m& Ragnarsson ( 1 9 7 2 )
の計算によれば, 眼の検出しうるパクン 粒子の最小のサイズは銀察距離には依存しない。また,H u n t l e y( 1 9 6 4 )
の考察が正しいとすれ ば,粒子が減れば,明るさーディテイルのバランスを回復するために再調節がおこり,結果的に は像は大きくなるし,逆に数が増せば,新しいパランスを求めて像は小さくなると期待されるから
O l i v e r( 1 9 6 3 )
とLangmuir( 1 9 6 4 )
の間の矛盾はないと考えられる。Rigden & Gordon ( 1 9 6 2 )
は,粒状パクンを異なる絞値で写真撮影した結果から,一般にパ クンの粒子の大きさと粗さはパクンを検出する光学装置(いまの場合はカメラまたはヒトの眼)の
F
値に依存すると考え,異なる直径の人工瞳孔を眼に装着したときに,その直径が小さくなる ほど粒子が粗く大きくみえる現象もこの機構で説明することができると考えた。H u n t l e y ( 1 9 6 4 )
はレンズをとりはずして直接露光による撮影をおこなう際,フィルム面の前 方に設けた絞りの口径を変化すると,その口径の大きさはパクンの写る範囲のみを規定し,大き さや粗さには関係しないことを観測した。それにもかかわらず,ヒトの眼の場合には瞳孔の直径 が大きさ祖さに関係するのは,前述の明るさーデイテイルのバランスの再調整の機能によるのだと彼は考えている。
Langmuir ( 1 9 6 3 )
は紙片にあけたピンホールを通してパクンを観察すると粒子の数が減少す ると述べているが,粗さと大きさについてはやはりふれていない。S p o r t o n ( 1 9 6 9 )
は対物レンズの前面に絞りをとりつけた望遠鏡でうけたパクンを,接眼レン ズ後方にとりつけた受光スクリーンに受像するとき,絞りの口径と粒子の大きさ粗さが逆相関の 関係を保つのは,スクリーン上のパクンのひろがりが絞りの口径よりも小さい場合に限られるこ とを計算上示した。ヒトの眼では調節がどこになされつつあるかということに加えて,瞳孔の大 きさがパタンよりも大きい場合もあれば小さい場合もありうるから,観察結果の信頼度は高いも のではないと彼は述べている。(3) 粒状パクンの見かけの運動(速度と方向)
‑‑300‑
Rigden & Gordon ( 1 9 6 2 )
は粒状パクンの観察について最初に報告したときすでに,頭をス クリーン面と平行にゆっくり動かすと,粒子がそれにつれて照射部分の上を掃くように一方向に 流動することに気づいている。運動の速度について:一
‑Huntley( 1 9 6 4 )
はレーザーを照射しているスクリーンをフィルム 面に平行にゆっくり移動させながら直接露光で撮影をおこない,パクンの流動の記録をえた。彼 の場合のようにスクリーンを移動させても,眼(またはカメラ)とスクリーンの相対的位置の移 動がおこるから当然パクンの流動が生ずるのだが,K n o l l( 1 9 6 6 )
は, 頭を動かすよりもスクリ ーンを動かした方が,粒子の流動は見えやすかったと報告している。スクリーンを動かす場合の パクンの流動速度は,同じ速さで眼を移動させた場合のパクンの流動速度よりも大きい。もし光 源の位置から観察するならば2
倍の速さになる筈である。頭を動かす場合においては光源とスク リーンの拡散点との位置関係が定常であるが,スクリ_ンを動かす場合には拡散点の位置が光源 に対して変位するからである。S t a v i s ( 1 9 6 6 )
は低速で回転する円板の回転速度を測定または制御する目的で,円板上に照射 したレーザーの粒状パクンの流動速度を検出する装置を工夫した。粒子の直径の平均値の幅に設 定したスリットを通して,前方を通過する粒子の数を光電素子で算定すると,照射距離と測定距 離が等しいとき(光源と円板,円板と光電素子の距離が等しいとき)は,その値はレーザー照射 面の運動速度と粒子の密度の積の2
倍になるはずである。このようにして理論的に導かれた予測 値と実測値はよい一致を示した。さらにS p o r t o n( 1 9 6 9 )
は事態をより単純化して反射面の直 線的移動の場合について粒子の流動運動を理論化している。運動の方向について:一ーパタンの粒子の運動のおこる方向は,いまわれわれが問題としてい る調節作用の測定にとって重要な意味をもっている。
粒子の流動の方向は,頭を動かした方向と同じかその逆かのいずれかである。粒子が何れの方 向に動くかはパクンを注視している眼の調節の状態に依存してきまってくる。
O l i v e r( 1 9 6 3 )
は 眼がスクリーンに非常に近いときはパクンはスクリーンのむこう側に現われ,頭が動いているの と同じ方向に流動するが,遠くからながめるとパクンはスクリーンの手前に浮んでみえて,頭が 動いている方向とは逆の方向に流動すると述べている。頭を動かさずにスクリーンを動かした場合は,眼がスクリーンよりも遠くに調節
( u n d e r ・ accommodation)
されていると粒子はスクリーンの動きと逆の方向に運動し, スクリーンよりも手前に調節
( o v e r ‑ a c c o m m o d a t i o n )
されていると同じ方向に運動する。その仕組みは図3 ‑ a , b
によって説明できる。図
3 ‑ a
で, スクリーンA
よりも近い位置に眼の調節面D1
を仮定すると( o v e r ‑ a c c o m m o d a ・ t i o n ) ,
拡散点P o
とP i
の寄与によるパクン要素が網膜上のR 1
に形成され,見かけの上でD 1
面 上のQ1
に投射される。スクリーンがいまゆっくり下方にむかって動いているとすると,P o
とP 1
の移動につれてパクン要素の形成される位置はR 1
からR 1 '
へ移動,Q 1
はQ 1 '
に移動する。ー301‑
関西大学
r a
会学部紀要』第8
巻第1
号R~
.
P o 、
B c
R ' 1
'
I
調節面レンズ系 網 膜
拡散面
眼 球
図
3 ‑ a o v e r ‑ a c c o m m o d a t i o n
の場合,P o
とP 1
が拡散面の移動にともなってP o '
と 町 の 位 置に移動すると,恥はR 1 '
の位圃に移動する。 したがってパクン要索のみかけの位 置はD1
面上をQ1
からQ ' 1の位置に移動する。すなわち, o v e r ‑ a c c o m m o d a t i o n
の 場合はパクンは拡散面の移動と同方向に流動する。ヽ ! 口
調丘面
し静c
B 一
2 , 2
R R
拡散面
網 膜
眼球
図
3 ‑ b u n d e r ‑ a c c o m m o d a t i o n
の場合,p
。とP i
が拡散面の移動にともなってP
。'と町の 位置に移動すると恥はR z '
の位置に移動する。したがってバタン要素のみかけの位 置は込面上をQz
からQ{
の位置に移動する。すなわちu n d e r ‑ a c c o m m o d a t i o n
の 場合にはパタンは拡散面の移動と逆方向に流動する。なお,この場合には
E i C .
静止面があらわれる。眼が拡散面に調節される場合はDz
がA
に収敏する場合とみなしてよい。当然それにともなってE
はA i r .
無限に収敏す る。 したがって眼がちょうど拡散面に調節されているときには,拡散面の移動にも かかわらずパタンの流動は生じない。‑302‑
したがって
over‑accommodation
の場合,粒子の移動の方向はスクリーンの移動の方向に一致 する。つぎに図
3 ‑ b
において,スクリーンA
よりも遠い位置に調節面D2
を仮定する( u n d e r ‑ a c c o m ・ modation)
と, 拡散点P o
とB
の寄与によるパクン要素が網膜上のR 2
の位置1こ形成され,D2
面上のQ2
に投射される。A
の移動にともなうP o
とP 2
の位置の変化はパクン要素のR 2
からR 2 '
への移動,Q2
のQ 2 '
への移動をもたらす。 したがってunder‑accommodation
の場合,粒 子の移動の方向はスクリーンの移動の逆の方向に現われる。図
3 ‑ b
においてはA
とD1の中間に静止面E
(理論上パクンの流動の生じない平面)が形成さ れている。いま調節面D2
がA
に無限に接近するときは,E
がA
に無限に収欽するので, したが って眼がA
に正しく調節されているときにはスクリーンの移動にもかかわらずパクンの流動の印 象は生じない。いいかえれば,個々の粒状要素が生じてから消滅するまでの移動距離が粒子の直 径をこえることがないから,A
の移動につれて個々の粒状要索は位置はかわらずにその場所で点 滅するようにみえるので,ちょうど見かけの上では無数のきらめく光の粒が一斉に泡立ち渦巻い ているような状態( b o i l i n g ,s w i r l i n g )
を呈する。粒状パクンの運動を発生させるための装置上の工夫としては,平面のスクリーンを一方向に直 線的に移動させるかわりに,金属の円筒をゆっくり回転させておいて,その表面にレーザーを照 射する方法が考案された。
l n g e l s t a m& Ragnarsson ( 1 9 7 2 )
は静止面E
は円筒の回転の中心 に視軸に垂直I C :
形成されるとしているが,Charman ( 1 9 7 4 )
は円筒の半径( r ) ,
入射光のウェ ープフロントの曲率半径( R ) ,
入射光と視軸のなす角度 (tf,)に依存して だけ錮察者寄りに静 止面が形成されるとした。その の量はR = l = o o
の場合X : ; : a r ( R c o s , t , + r ) R(l+cos , t , ) + r R=oo
(平行光線)の場合x= r l + + c c o o s s , , t t , ,
となる。
眼球の色収差と運動の方向:一一0異なる波長のレーザーを一定の調節状態にある眼に与えた場 合,粒状パクンの流動方向は眼球の色収差の影響をうける。
S i n c l a i r ( 1 9 6 5 )
は赤色のHe‑Ne
レーザーを用いた場合には一般に正視の観察者は頭の運動 につれて同方向の粒子の流動をみるが,同じ銀察者に青色光レーザーを用いると頭の動きと逆方 向の流動を観察する。この効果は眼球の色収差によって説明できると彼は考えた。たとえば,スペクトルとの中央部の波長の光で照らされた壁面に最も鮮鋭な像を結ぶように調 節された眼にとって,赤色光は壁面よりも遠くに,短波長の青の光は壁面の手前に最も鮮鋭な像 を結ぶ面をもつはずである。
壁面に照射されたレーザーの粒状パクンの流動についていえば, (正視者の場合)
6 3 2 8 A
と—, 303‑
関西大学『社会学部紀要』第
8
巻第1
号5 2 6 8 . ¥ .
の波長のレーザーパクンでは頭の動きと同方向の流動が現われ,4 8 2 5 A .
のレーザーパクン では逆方向の流動が現われたが,5 2 0 8 A .
と5 3 0 9 A .
のパクンでは流動の印象は明瞭でないという 結果がえられた( S i n c l a i r ,1 9 6 5 )
。この事実は,特定の状態に調節された眼にとって,焦点面の位置がレーザーの波長によって規 則的に異なることを意味している。したがってこの眼球の色収差の影響下において,特定波長の レーザー(たとえば
6 3 2 8 A .
のHe‑Ne
レーザー)を用いたレーザーオプトメクーで調節を測定 する場合は,すくなくともその測定装置によってえられた値がその波長に相対的なものであることを考慮しておく必要がある。
3 .
要 約レーザーの拡散光は特徴的なパクンを示す。これを粒状パクンとよぶことにする。粒状パクン は拡散面で拡散された光が槻察面でもたらす回折パクンの干渉によって生ずる光学的現象であ
る。
この粒状パクンは視覚的ないくつかの特徴をもっている。まず第一に粒状パクンはどのような 距離からも視認できる。もし眼が極度に拡散面に接近していて,拡散面のテクスチュアが近すぎ て視認できない場合でもパクンは視認できる。そのときパクンは拡散面のむこうの空間に浮んで いるようにみえる。パタンのみかけの距離は眼の調節の状態に依存してきまってくる。
粒状パタンのきめの粗さまたは粒状要素の大きさは観察距離によって変る。遠距離からの錮察 ほど粒子は大きく粗くなる傾向がある。しかしそれには瞳孔の大きさが関連するので一義的な関 係として示せるものではない。
拉状パタンは頭を上下左右にゆっくり動かすか,あるいは頭は動かさずに拡散面をゆっくり移 動させるかすると,スポット上を掃くように特定方向に流動するのがみえる。流動の速度は拡散 面の運動速度と眼球の位置,照射距離と観察距離の関係に依存する。
いま問題としているレーザーオプトメクーによる調節作用の測定にとって重要な意味をもつの は粒子の運動の方向である。
粒子の運動方向は眼の調節の状態によって変化する。眼が拡散面よりも遠くに調節されている ときは,パタンは頭の動きと同方向に運動する。頭を動かさずに拡散面を動かす場合はパクンは それの逆方向に運動する。
眼が拡散面よりも近くに調節されているときは,パクンは頭の動きと逆方向に運動する。頭を 動かさずに拡散面を動かすときはパクンはそれと同方向に運動する。もし眼が拡散面にちょうど 調節されているときには頭や拡散面の運動にもかかわらず粒子の運動の印象は定かでなく,光の 粒が渦巻き沸き立っているようにみえる。これらの仕組みは図
3 ‑ a ,b
に示される。レーザーオプトメクーでは拡散面は平面ではなく,金属製の円筒をゆっくりと等速に回転させ た表面を用いている。この場合,パタンの運動の静止面は円筒の回転軸の近傍に現れることが示 された。
‑304‑
また,ある状態に調節された眼に対して.異る波長のレーザーパタンを与えると,眼球の色収 差のためにパクンの流動運動の方向が波長によって異ることが見出された。特定の波長のレーザ ーを用いたレーザーオプトメクーでは調節の測定値はその波長に相対的なものであることをこの 事実は意味している。したがって厳密にはレーザーオプトメクーでの調節の測定値には何がしか の修正がほどこされなくてはならない。
参 考 文 献