論 文
鉄鋼粒子の順位分布表示の実施法
石 原 恒 夫* 中 峠 哲 朗**
(昭和46年9月29日受理)
The Practical Procedure for the Ordered Size Grain Distribution in Steel
Tsuneo ISHIHARA and Tetsuro NAKATAO
(Received September 29, 1971)
The ordered size distribution was previously proposed in order to investigate numerically a grain distri−
bution in steel. This method can be well available for the remarkablly different grain distributions, but it is much trouble to measure the individual grain slze.
In the present paper, a s孟mple procedure for the practical observation is discussed as fQl正ows=
(i) A simple approximate method is theoretically discussed to find certain constants for the distribution of grain size. Practically it is well fit for the distribution of ferrite, pearlite and cementite particles.
(ii) The minimum area adequate to the distribution measurement varies according to the shape of grains.
Asimple estimation of the area is defined fro皿the flatness of grains.
(iii) A practical application of the present method is illustrated as the counter maps of the grain distribu−
tion of soft steel, which give us a considerable fluctuation, though one can hardly see those in visual inspection.
1 序 論
金属材料の機械的性質は,その成分および組織などに依 存している,結晶粒度は組織を表現する一つの重要な指標 であるので各種の試験法が実施されているが,粒度だけで は組織の状態,特に機械的性質の主要なパラメーターとし て用い難い点があり,深.くは研究されていない。筆者らは 粒度のみならず粒子の形状,分布状態をあわせ検討すれば 材料の性質をかなりの程度まで表示し得ると考えて,前報 ではまず上記の粒子状態と材料の性質との間にかなり関係 があることをあきらかにした。第2に粒子状態を定量的に 表現するために順位分布法を新しく試み,それが原理的に は有効であることを述べた。1)
しかしこの方法は実施に際して多くの手数を要する欠点 があるので,今回はこの表示法を簡単に実施する方法を見 出し,それを実際に応用した結果,十分実用に供し得るこ とがわかったのでそれを報告する。
*機械工学科 **福井大学工学部
2 鉄鋼の粒子組織の順位分布表示法 鉄鋼の粒子組織は熱処理等によりかなり複雑に変化しそ
れとともに材料の性質も変化する。そのうち低炭素鋼のフ ェライト組織はFig.1(a)に示すように網状組織をもち,ま たそれを比較的測定しやすい。前報では軟鋼組織中の粒子 分布を定量的に表示するために順位分布表示法を提案し,
特殊な場合として同図(b)に示す共析綱の層状セメンタイ トについても適用した。
前報で用いた順位分布表示法の手順は次の通りである。
(i)組織写真の中央に原点をとり,直交軸x,yを定 める。両軸が切るすべての粒子について,それぞれの粒子 の長辺および短辺を測り,長辺のうち大きい方から5番目 の長さをa,短辺のそれをbとしてL=ゾa−bを求める。
(ii) 原点を中心に一辺mL(ただしmは適当な正整数)
をもつ正方形を描き,この正方形に関係するすべての粒子
ttノついて,長辺長Piおよび短辺長qiを測定し,また両者 のHi ri== pi/qiを求める。また参考として観察全粒子数H皿 も求める。
一143一
(a) Soft steel
鱗
(b) Cementite in pearlite Fig.1 Examples of grain structure.
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Grain number i
Fig.2 Ordered size distribution of ferrite mesured in several area.
(iii) Piを大きいものから順にならべなおしてPjとす る。この時Fig・2に示すように
(1)
100
50
30
pj = po exp (一1 IHp)
と近似できる。なおei, riについても同様である。
(iv) mの値を小さくすると狭い領域内の粒子分布を知 り得る。そのときは粒子数Hmも小さいので,労力が少な い。種種のmの値について近似の程度をしらべた結果mが 小さい時は(1)による近似があまりよくないと同時にP・,
Hpの値はフェライトの場合にはFig.3に示すように〃3の 値によって異なるのでふつうにm=5〜6とすることが妥当 であると結論され,また粒子の大きさのパラメーターとし てP・を,また分布のパラメーターとして
α,=H皿μ, (2)
を用いることが好都合であることを述べた。またP・は全 粒子の大きさ分布を(1)で近似してのちに得られるのであ るが実際には大きい方から5番目のPの値,P5に近いこ と,およびα・=1〜2であることも見出された。
(V) 参考として,J.LS.の切断法ではxおよびy軸が
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2
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H.
昂 Atx10−3mm)
N\t一一N−8二ゑ===:=e 一一一v
PstXtO−SMM J
/ M
/v
ap
2 3 4 5 6 7 8 m
Fig.3 m−dependence of several parameters in the ordered size distribution.
切る粒子の数をそれぞれli 12, Xおよびy軸の長さ をL・,L2とし(1・×12)/(L・×L2)を求め倍率補正をし,
しかる後粒度Nを決定している。このとき粒子の平均径を dとすればd=1/2N+3の関係がある。
(vi) P・はdよりもかなり大きい結果が得られたが,
これは当然のことである。
鉄鋼粒子の順位分布表示の実施法 石 原 ・中 峠
3 順位表示の実用操作
順位表示法は具体的には観察される全粒子の大きさを測 定する立場を取るので,面倒でl15り1特に多数の粒子につ いて統計的処理を希望するときは非常に多くの時間と労力 とを要するので,それをもっと簡単化して実用可能とする ことをここで検討する。
3.1平均値の計算
順位分布法では一般に粒子の大きさd(P・qを代表させ る)は番号ブによって次のように変化するとして近似する。
d =de exp(一」ノH) . (3)
このとき平均的な粒子の大きさdは次式で与えられる。
a ==t/II }llllH {exp (一i/H) 一exp (一Hm/H)] (4)
一般にH》1であり,また前門で述べた実験結果より α=Hm/Hは1に近い実数であるから
遅m
(5) ct =[iii :L = 1 十 d
と書き,次の近似式を用いることができる。
exp (一t) #1 , exp (一:S; ) * e−i (1−d)
・7−1当一ジ( 11十fi.1 )
÷do(2t )(・一賃・り
これは次の指数分布の近似形となっている。
7=一e−i i一!L do ・ exp (一 ZEt一:i i d)
一…xp{一( e−11n)一1三i・・}
(6)
(7)
ん番目粒子の大きさがちょうどdであるとすれば,(3)より
d == do exp (一 le IH)
これを(5)と比較すると
i.=me−2.Amln!L ! H e−1 一 r e
e=2.72を用いると
d=O.63do(1−O.42・A)
== do e−O,46 . el−O,42・A
また
fe/H=O.42・d十〇.46
∠=0であれば,(9),(10),(11)は次のようになる。
(8)
(9)
(10)
(11)
d =do (e−1)/e le/H=ln
(e−1) S a2)
d= O.63 do
le/H 一 O . 4旧
すなわち,doとdとが知られるとdが直ちに知られる。
3.2 逐次近似法
前項の結果を利用すれば,多数の粒子を処理する手数を 省略するために近似的方法として次のようなものを用いる
ことができる。
(i) 第1近似
(a1)doの近似値do(1)は2・(iv)に述べた結果より,
dsとして簡単に求められる。
(a2)d=0の場合には(9)より do(i) = O.63 do
となるから,上記d・(・)を用いれば,dの近似値 d(・)が得られる。
(a3)d>d(・)である粒子tw k(・)を求めると(12)より
ll == le /0.46
が成立するから,Hの近似値H(1)が知られる。
(a4)全粒子数Hmを数える。
(a5) α(1)=・H m/H(・) d(・)=α(・)一1が得られる。
(ii) 第2近似
もっと詳しい値が入要のとき,また」の値が大きいとき は第2近似として次の計算をする。
(b・)1次近似によるdo(1)とli(りの値から平均値を次式 で再計算する。
do(2)=O.63 do(i)(1−O.42 A(i))
(b2)d>d(2)である粒子数le(2)を求めると(11)より
H(2) == k (2)/(O.46十〇.42 d(,))
(b3) a(2)=H./H(2), ti(2)[=a(2)一1
この方法は上記(a1)の操作中d5を求めるための面倒が あるけれどもあまり大きくはない。また(a2)の操作は個個 の粒子の大きさを測定する操作のかわりに,それらの大き さが一定長よりも大きいか,小さいか判定するだけである から非常に簡単な操作となる。
3・3逐次近似の誤差
前報に述べた正確な順位分布表示法と,上記の近似的な 実施法を2(ii)に述べたmの種種の値の場合について比較 するとFig.4(a),(b),(c)のようになる。なおこれらの図 では前回の測定値をそのまま用いてあるが,図(c)のみは 前報でのm=・1,2,3を3,6,9に訂正した。またこれから
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Fig.4 Estimation of the simple method on the grain distribution (to be continued).
計算された各パラメーターのmの値による変化はFig.5(a)
(b)(c)となった。(a)(b)は軟鋼におけるフェライトとパ ーライトの分布であり(c)は共析鋼の層状セメンタイトの 分布である。前述の2(iv)と同様に一般にmが大きくなる
ほど近似度がよくなる。フェライトとパーライトではm=
5〜6,層状セメンタイトではm=3以上になればかなりよ く近似されることも知られるので,結局,当然のことでは あるが前に述べたように(1)による近似が成立する条件 と,3・2の近似的処理の可能な条件とは合致することとな
る。
4 粒子の形状と観察面積
前報で述べたように観察面積をS=(m1/a・の2とした ときのmの値を粒状の場合にはほぼ5〜6,きわめて偏平な 場合にはm=3(実際には三指でのm=1を修正した値)
ととればよいが,適当なmの値が粒子の形状に依存するこ とは観察の実施法に関係することとなり,取扱いが面倒で あるからそれを統一的に処理する方法を少し検討しよう。
鉄鋼粒子の順位分布表示の実施法 石 原・中 峠
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Grain number i
120 140 16e
{c) Cementite particles
この方法では2(ii)に述べたように面積S内にある粒子 について観測するのではなくて,この面積に一部分でも含 まれるような粒子すべてについて観測しているから観測し た全粒子の占める面it s・はsよりも大きい。したがって Sを名目観察面積,Saを実観察面積として両者の関係を 求めてみよう。
もっとも簡単な場合としてセメンタイトのように偏平率 rがきわめて大きく粒子が互いに平行にならんでいるとき は実観察面積はFig.6の.謔、になり名目観察面積よりも左 右両側を合わせてaだけ長くなることとなる。そのために 一般的な数式としては
s一(mゾa・の2
S。一@ゾa・う+の@ゾa・b+の
いま S。==(M。1/a・の2
とおくときmとMaとの間には次の関係が成立する。
m.一V(M.1−V−T)一(m+1/V7) (13)
一般に統計的現象は観察粒子数が多いほど統計的性質が 明確に記述される点を考慮すれば,(13)においてMaの値 が統計的記述の良否を決定すると考えることが妥当であ
る。各種形状の粒子についてMaを一定値に保つときは
(13)ではrの値の大きい粒子に対してはmの値を小さくえ らび得ることが知られるので,定性的にはmのr依存性を 示すことができた。
参考として定量的に(13)を検討すると次のようである。
粒状のフェライト粒子分布の場合にはPs=・26・4×10−3mM e5;17.6×10−3〃mmを用いるとr・・;P5/45= 1.5が得られ,
m÷5とすれば統計的記述がかなり妥当となることを述べ たことから,(13)よりMa=6・0を得る。層状のセメンタ イト粒子分布の場合にはPs=25・0×10−3〃mm, q−0.5×
10−3 mmよりr=50となり, m÷3を用いるとM・=5・6を 得る。すなわち前回の実験結果は定量的にもほぼ(13)によ
一147一
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3 4 5 6 7 8 3 4 5 6 7 8 3 4 5 6 7 8 − m
(a) Ferrite particles
Fig.5 m−dependence of various parameters in the simple method (to be continued).
って記述されて,m・÷6が妥当な値として知られた。こ のとき(13)をmについて解くと
・一氏o一(ゾ7・毒)
・ゾ(V7L+illt;7)2+ 4 (m,2一 i)}
が得られるが,mが正根をもつためには正号を用いて次の 値が解となることがわかる。
升諭
引や
吻
・距7・瀞・・4・} (14)
この結果種種のrの値についてのmの値を図示するとFig・
7のよう.ノなる。またrが1〜50の値については大略的に
は(ユ4)の面倒な計算をするかわりに図中の曲線を破線で示 す次式で近似することが好都合と思われる。
5順位分布図
m==5−log r
鉄鋼組織の一様性をしらべる一例として組織写真中の小 面積毎の順位分布を求め,その代表値について等高線を描 くことができる。これまでに得られた結果を用いると,そ の図示法を次のように定められる。
(i) いま組織写真中について(i)の操作を行ないa,
bを求め,それよりし 一・ Vi・b,r=a/bを求める。
(ii) Fig・7よりrに対応するmの値を求める。
(iii) 組織写真を一辺mしの正方形に区分する(この正 方形群を1次正方形群と呼ぶ。)
(iv) 各正方形内の粒子について順位分布を求め,代表 値P,q,α・,αqを求め,各正方形の中心に代表値を記入 する。
(v) 写真上に代表値の等高線を描くと,4種類の等高 線を得る。
(vi) もっと詳細な等高線が知りたいときは,1次正方 形の中心点で形成される正方形群(これを2次正方形群と 呼ぶ)をつくり,それについて(iv)の操作を行ない,1次,
2次両群の代表値について等高線を描く。
鉄鋼粒子の順位分布表示の実施法. 石 原「・申 峠
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(b) Pearlite particles
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一 tノ︐
3 6 9 12
(c} Cementite
以上の操作による等高線の詳細については今後検討する こととし,市販の軟鋼棒材を軸に平行な面で切断したとき の組織について求めたものの一例をFig.8に示す。今回は 試験的段階として3・2の第1近似のみを求めて描いてあ り,また等高線についても詳細な検討を行なっていないが ほぼ次のことが知られる。
第1に一見すると組織写真(a)ではかなり均一な粒子分 布であるようにみられることに対して等高線(b),(c)で はPまたはα・の値はかなり場所的な差異があることがみ
Fig.6 Schematic illustration of effective area in observation area.
られる。たとえば(b)ではPの最小値2.0×10−21nm,最 大値3・0×10−2mM,両者の比は1・5であり,α・では最小 値1・1,最:大値2・4,両者の比は2・2である。第2に前報 でも述べたようにカの分布は粒子の平均的な長径の分布を 示し,α・の分布は粒子の長径のばらつきの大小(α・が大 きい程ばらつきが大きい)を示しているから,図の(b)と
(c)とは組織構造の別個の状態を示すものであり,実際に 分布図の形状も著しく異なっている。第3に比較的数値の 大きい領域を打点,数値の小さい領域を斜線で示してみる
5
4
3§ムTIIo
1 2−3 5 10 20 30 50
一一一ヲ・r
Fig.7 Relation between in and r.
(a) Observed distribution
,轡 魎繍
2.4
煕:Σ
歪溶:嵩.嬬
r .. , .
Q6F・!暮,・
1≒5
鰺 鎮鯵%・髪// ︐ D髪多z
2.4
一
2.2
多1・ ︐ /多 z
9◎∵. 2.4
1 2・4
P txlO mm
(b) Counter map for P
と,材料中のばらつきがはっきりとしてくる。さらに両者 が特に接近する部分,すなわち数値の場所的変化のはげし いところがいくつかみられる点も興味がある。
以上のことから今後はP,q, r,α,,α・などの分布図 を描いて材料構造の一様性を検討するとともに,実際の材 料変形,あるいは破壊にさいしての分布図の変化を研究す ることが興味深い結果を示してくれるであろう。
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居
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聡 聡
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(c) Counter map for ap
Fig.8 Distribution of grain structure in soft steel.
実施するための具体的な問題を検討し,次の結果を得た。
(i) 各粒子の大きさを測定する面倒を省略し,近似的 な分布表示を求める方法を明らかにし,試行の結果 は良好であった。
(ii)前報での分布表示を求める面積を決定するための mの値は,粒子の形状によって種種にえらばねばな らないことの原因を考察し,実観察面積を示すMa の値は換算すると一定値として扱い得ることを示し た。
(iii) この方法を実際の組織構造の粒子分布に適用した 例を示し,組織内の粒子分布の一様性が肉眼で概念 的にみられるものに比して,実際にはかなりばらつ きをもっていることが知られた。
おわりに本校機械工学科,大西輝尚技官の御協力に感謝 します。
文 献
1)中峠哲朗・石原恒夫・坂手多士:福井大工報19
(1971) 167
6 結 論
前震では鉄鋼組織申の粒子を順位分布表示することによ って組織構造を討論し,材料の性質の一部を定量的に記述 し得る可能性を論じた。今回はその順位分布表示を簡単に