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(中央大学論文審査報告書)

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Academic year: 2021

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論文の内容の要旨

本研究は,低コストでの難削材切削の実現や環境・資源問題への配慮から工具摩耗を抑制 しなければならないという事実を背景とし,超硬工具における工具すくい面上での工具摩耗 機構と凝着機構を解析的に解明して,小型かつ安定的な構成凝着層(BUL)を含めた構成刃先 (BUE)の形成機構およびBUE 周期のシミュレーション予測を実施することで,BULが有 する低摩耗性を有効活用して,難削材切削の低コスト化に対応できる新たな低摩耗切削加工 技術を開発することを目的としている.

まず,超硬工具-被削材界面の準転位理論に基づく摩擦機構を適用した工具摩耗および凝 着機構を論じている.機構解析は,界面における準転位運動がスティックした場合に,工具 側で微細な破壊が生じるときが工具摩耗,被削材側で微細な破壊が生じるときが凝着になる という最弱リンクの論理を採用したモデルとなっている.

次いで,同凝着機構に基づきBUL/BUE の核形成機構をシミュレーションしている.こ れは工具すくい面上のどの箇所でどんな条件のときに準転位運動が強固にスティックして,

被削材側で損傷理論に基づく破壊が生じるかを,界面および被削材内部における局所散逸エ ネルギが最小となる条件から決定するという計算となっている.同計算から最初の凝着核が 生じる位置が算出され,得られた結果が妥当であること並びに凝着層がすくい面に広がる場 合の広がる速度が1秒以下であることが実験的に明らかにされている.

さらに,すくい面上における凝着層が化学吸着によって凝着するという簡単化した仮定を 用いて,界面が凝着すると同時に同じく界面から凝着層が損傷によって剥離していくという モデルを用いてBUEの成長/脱落機構をシミュレーションし,BUEの脱落周期を計算して いる.得られた周期は実験および文献からほぼ妥当な値であることが確かめられている.

同ミュレーション結果から,凝着層が多層となって大規模な堆積には至らないという小型 のBUEが存在すること並びに小型で安定的なBUEをBULと再定義すべきではないかと の考察を加えた上で,同考察と実験結果に基づき,BULの生成条件が焼入れ鋼の場合には 切削速度 40m/m,切込み 0.5mm であると推定している.同推定条件を用いた切削実験を 実施し,再定義されたBULは,BUEの前身であるとの通説とは異なり,BUEとは別個に 存在できる凝着層であることが確認され,BULを用いた切削法は工具摩耗低減作用を有し,

仕上げ面精度悪化の少ないことが実験的に検証されている.

最後の結びとして,本実験結果は提案した解析モデルの有用性を示すと同時に工具摩耗を 減らす新規切削法の開発に貢献できる成果であるとされている.

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論文審査の結果の要旨 論文の主題(テーマ):

超硬工具における低摩耗切削加工技術の開発に関する研究

論文の位置づけ

近年,環境問題や難削材種増加のため工具摩耗を減らす切削法が産業界から希求されてい るが,学術研究の進展は芳しくなく切削条件や工具材種を変えるといった対処療法的対策し か見いだせないでいる.また,構成刃先(BUE)とその前身である構成凝着層(BUL)は,脱落時 に工具欠損などの悪影響を生ずるので,積極的に活用するという研究は極めて少なく実験的 観察をするというレベルに留まり,解析的な研究はない.こうした現状に対し,本研究は,

超硬工具すくい面上の摩擦機構に基づき工具摩耗機構・凝着機構に関する解析的モデルの構 築を試みたとの位置づけにあり,工具摩耗に関しては臼井の式の未解明部分をミクロの観点 から明らかにする嚆矢となったと位置づけられる.また,構成刃先/構成凝着層の核形成機 構および生成脱落周期を解析的にシミュレーションし,焼入れ鋼の場合に構成凝着層(BUL) が安定的に工具面に凝着するという新たな知見を得て,同凝着現象を積極的に用いて工具摩 耗を減らすという新規切削法を提案し,実験的に検証しているという研究となっている.

論文の構成(目次と各章の概要) 第1章 緒言

緒言では,研究背景・研究対象及び本研究の目的について説明し,本論文の構成を示して いる.

第2章 超硬工具における工具すくい面上での工具摩耗機構と凝着機構

本章では,超硬工具すくい面上の摩擦機構に基づき工具摩耗機構・凝着機構の解析的モデ ルを構築している.

工具/被削材界面は応力分布から分かるようにメタルコンタクト領域と通常摩擦領域から なっている.メタルコンタクト領域では工具と被削材両原子の相互作用ポテンシャルエネル ギがコメンシュレート域とディスコメンシュレート域に分かれ両原子群が転位機構のごと く相対的に滑ると仮定され,同滑りに伴うスティック・スリップ現象が工具摩擦の要因であ るとされる準転位機構モデルを用いて摩耗と凝着の両機構を解析する式を具体的に導出し ている.次いで最弱リンクモデルに基づき,界面が強固にスティックしたときに工具内部で 高温疲労破壊が生じた場合に摩耗粉が生じるとして,クレータ摩耗の予測を行っている.ま た,最弱部分が被削材内部の場合に被削材内部で破壊が生じると,被削材の一部が工具界面 に残された状態となるので凝着層が生じるとしている.同凝着層が成長したものを構成刃先

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と呼び,小型の凝着層を構成凝着層と再定義している.

第3章 構成凝着層が切削加工過程に及ぼす影響

本章では,切削実験を実施し,構成刃先が切削加工過程に及ぼす影響を評価し,構成凝着 層の特性を説明している.

すなわち,超硬工具を用いて炭素鋼,焼入れ鋼,アルミ合金の3種類の被削材を対象に乾 式旋削加工実験を行い,工具界面に生じる凝着物の成長挙動および切削加工過程における切 削抵抗,仕上げ面性状,工具摩耗に及ぼす影響の定量的評価をして,小型の凝着層である構 成凝着層の特徴を説明したうえで,剥離した材料が工具すくい面上に最初に残留する一次核,

および引き続いて残留する二次核の形成がなされるという新たな知見について報告してい る.また,通常の機械部品加工では凝着物高さが約100µmまでは精度悪化が無視できること,

および,焼入れ鋼の切削時の凝着物高さは数十µm程度であることを観察し確認している.

第4章 構成凝着層の成長機構とその周期性の予測

本章では,BUL/BUEに関する核形成・成長・脱落機構及びその周期について解析ならびに 予測するシミュレーションを実施している.

まず,第2章で論じた凝着の機構モデルに焦点を絞り,第3章で得られた知見である核形 成を検討している.核形成の解析は工具/被削材界面におけるコメンシュレート域の拡大,

すなわち,ディスコメンシュレート域の減少を損傷率の減少と捉えて算出すると同時に,別 途に被削材中の損傷率の増大を算出し,界面と被削材両者の各々の破壊時の弾性ひずみエネ ルギ解放率と破壊面における滑りに伴う散逸エネルギの和を比較して,散逸エネルギの少な い方が実際に破壊すると仮定することによって,最初に凝着する工具面上の位置を求めるこ とで説明できるとしている.また,同モデル計算の結果,凝着層の核は切れ刃から離れた切 りくず接触長さの中央付近であると予測している.

また,凝着物の成長および脱落は,構成刃先を核形成時に瞬時に凝着1層が生じるとの仮 定の下,吸着反応速度論を援用した凝着面積率の推移と界面損傷率が時間とともに増大して 損傷面積率が変化するという簡単化したシミュレーションモデルを利用し,同モデルから凝 着物の生成脱落周期と凝着層厚さを見積もっている.同結果から損傷発生限界累積相当ひず みしきい値に達する時間に足りない低切削速度域と材料軟化を起こす高切削速度領域では 凝着物が成長しないと予測し,一方,第3章の実験結果および本シミュレーション結果を比 較・検討することから,刃先保護作用および工具寿命が最も延長する切削速度は,実験条件 中の40m/minのときであるとの推論結論を得ている.

第5章 理論モデルの実験検証と切削精度の制御

本章では,BULの有用性を考察し,実験結果と比較することで解析モデルの有用性を確認 し,焼入れ鋼切削時の低摩耗加工技術を提案し実現している.

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すなわち,切削実験を用いて凝着層の核形成位置,および,工具摩耗量の経時変化を求め ている.その結果,核形成位置はシミュレーションで予測した切れ刃から離れた切りくず接 触長さの中央部であることを明らかにしている.また,選定した実験条件中の推論した切削 速度40m/minのときに,他の切削条件では観察されることの多かった工具欠損を生じる凝着 物の脱落が観察されず,しかも工具摩耗量が低く維持されるとの結果を得ている.そして,

以上のことよりシミュレーションから推論した切削条件を用いて,小型で安定な構成刃先で ある構成凝着層を切れ刃に維持させることができ,低摩耗切削加工が達成できることを検証 できたとしている.

第6章 総括

総括では,以上の各章を総括し,今後の課題について述べている.

論文の独自性や成果:

本論文の独自性や成果は,従来,実験的観察に基づく報告しかなかった切削加工時の凝着 現象のメカニズムを解析的に取り扱う手法を提案したこと,構成凝着層が構成刃先とは別個 に存在することを実験的に示し,構成刃先/構成凝着層の核形成現象について新たな知見を 得たこと,同核形成機構を解析的にシミュレーションしたこと,構成凝着層を積極的に利用 した焼入れ鋼切削時の低摩耗加工方法を見出したことにある.

論文の課題:

今後の課題としては,炭素鋼系ならびにアルミ系以外の被削材に関する凝着現象に本研究 成果が適用できるかどうかを検討すること,工具材種および工具形状とその変化に対する本 成果の適用法を検討すること,構成凝着層の制御に関する提案の詳細な実現性を検討するこ と,表面エネルギ等を用いた展開を検討することが挙げられる.今後の発展が期待される.

論文の評価:

以上,本論文は,従来,実験的観察に基づく報告しかなかった切削加工時の凝着現象のメ カニズムについて,詳細な観察・解析を通して明らかにし,新たな知見を得るとともに,同 凝着現象を積極的に利用した低摩耗切削加工法に対する見解を述べており,その内容には独 創性,工学的有用性が認められる.よって,本論文は,博士(工学)の学位論文として十分な 価値を有すると認める.

参照

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