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(中央大学論文審査報告書)

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Academic year: 2021

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(中央大学論文審査報告書)

博士論文の内容と審査結果の要旨

我が国の防災対策、特に大規模災害の原因となることが多い地震災害対策を、観光客とい う立場から検討すると課題が多く対策が進んでいるとはいい難い状況である。 観光客を対 象とした防災を扱った先行研究としては、観光客の多様性に対応するための情報内容のユニ バーサルデザイン化について述べた論文、京都市における帰宅困難観光客避難誘導計画の改 善について述べた論文、中山間にある温泉地での防災満足度について述べた論文、京都市に おいて地域住民と同時に観光客が避難した場合の避難先の容量不足を指摘した論文、東日本 大震災において宮城県松島で観光地関係者によって行われた観光客への避難誘導の実態調 査の論文などがある。これらの先行研究は、個別の観光地や観光客への防災施策の一部を扱 ったものであり、観光客にとって必要な防災行動の全体像を対象とはしていない。

本研究では、以上の認識から観光客の震災対策を観光客の防災行動に対応させ、事前啓発、

地震発生時の警報伝達、避難誘導、避難収容(一時退避・滞在)の4段階に分け検討してい る。

本研究は、8つの章で構成している。

第1章では、本研究の背景と目的、研究の位置づけと、論文の構成が述べられている。

第2章では、現在までの災害対策法制度において、観光客の安全確保がどの様に変化して きたのかを具体的に法令等の資料を基に整理している。この結果、観光客への事前啓発は、

災害対策基本法が地域住民(居住者)を意識したものであり不足していること、警報伝達は 現状において防災計画で観光客への伝達が明記され、定着していることを明らかにしている。

さらに避難誘導と避難収容についてはほとんどの都道府県の防災計画で記載されているが、

記載内容が概念的なもの、地震災害時の行動で津波に限定した記載にとどまるもの、観光客 の帰宅支援として滞在を明示していなものなど課題が残っていることを指摘している。

第3章では、第2章での結果を受け法制度の条文といった形式的な内容ではわからない都 道府県の実務的な対応や考え方についてアンケート調査を実施し、現状を把握したうえで改 善方法を提案している。

観光客に災害情報を伝達するための工夫、市町村や隣接する他県との情報の共通化のため の工夫が不足していることを明らかにし、情報の統一化や表記の平易化という方法論の改善、

法令や統一基準の整備という法制度の改善が有効であることを指摘している。

さらに、都道府県が観光客の防災計画により深く関与すべきとの提案については防災担当 者への意識調査を別途実施し、この問題への対応が都道府県によって意見が分かれているこ とを明らかにしている。

第4章では、第2章及び第3章での結果を受け、都道府県規模の統計資料をもとに、避難 先(避難場所や避難所)の収容力や避難距離の現状を調査し、避難場所で観光客を受け入れ る収容力が不足する都道府県が半数以上存在すること、さらに観光のピークシーズンではこ の割合はさらに高くなることを明らかにしている。観光地点分類別では、都市型、歴史・文

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(中央大学論文審査報告書)

化型、スポーツ・レクリエーション型のような施設依存型の観光地点で不足する傾向が存在 することを指摘している。

観光地点から避難先までの距離では、直線でも数kmに及ぶ事例が存在し、自然型、温泉・

健康型のような自然依存型の観光地点で避難距離が長くなる傾向にあることを明らかにし ている。

第5章では、観光地において防災計画を作成することを想定して観光客の避難先の適地選 定に必要な確認項目と、これに必要な地震災害情報の所在と公表状況を検討している。

観光客の避難先適地を把握するため危険要素として、活断層の分布、地盤崩壊、宅地・建 物の崩壊、浸水や火災延焼の恐れを挙げ、危険個所を把握できる資料の所在を調査し、それ らが適地選定に活用できることを明らかにしている。

活断層分布図、地震ハザードマップ、宅地や建物の設計基準、浸水想定区域、火災延焼危 険区域を示す資料の所在を確認し、どこの観光地であっても精度の違いこそあれ、地震災害 情報は、震災対策のために活用ができる状況にあることを明らかにしている。但し、民間所 有の宅地や建物の設計内容は、公表を前提としていないため、情報入手は困難な場合も存在 する可能性を指摘している。

第6章では、観光客の避難収容に際して必要な一人当たりの占用面積と観光地点から避難 先までの距離を様々な視点から検討し、観光客の特性を考慮した避難距離の目安を提案して いる。避難に際して観光客が占用する一人当たりの面積は、投影で1㎡から1.6㎡程度で収 まり、多くの都道府県が持つ避難所運営マニュアルの目安数値である一人当たり2㎡以上で 対応できることを明らかにしている。

観光客の避難距離に関しては、日常生活での徒歩圏に相当する距離で収めることを前提に、

揺れが収まった直後に集合する一時退避の距離を概ね250mないし500m以内、滞在施設へ の距離を概ね1km以内で対応可能としている。

第7章では、東日本大震災の被災観光地7か所(5つの観光地点分類すべてを含む)を対 象に実施した現地調査を基に、災害時に発生した問題全てが観光客の防災行動を、事前啓発、

警報伝達、避難誘導、避難収容の4段階で把握することで、問題点を的確に示せること、さ らに災害防災の法制度上の問題と技術的な問題の関連性についても明確に把握できること を示している。

第8章では、各章で示してきた結果を基に、観光客を対象とした防災計画作成の必要性と それへの都道府県の関与についての提案を述べている。研究の成果をさらに有効なものにし ていくための課題についても簡潔に述べている。

本研究で明らかにされた観光客を対象とした防災計画の現状とその課題、および防災計 画作成に向けた提案は防災計画担当者にとって多くの有益な知見を与えるものであるとと もに、本研究で示された諸数値は今後の防災計画作成を合理的に行っていくうえで工学的に も有効なものである。以上の理由より、本論文は、博士(工学)の学位請求論文として十分 なものであると判断する。

参照

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