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(中央大学論文審査報告書)

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Academic year: 2021

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(中央大学論文審査報告書)

「論文の内容の要旨」

鉄(Fe)基軟磁性合金は変圧器や電動機の鉄心材料として幅広く実用化されている。しかし、鉄心の 振動によるエネルギー損失や騒音発生の問題が残されており、その低減が要望されている。振動原因は 励磁に伴って磁性材料寸法が変化する磁歪現象が関与する。これまで鉄や珪素鋼板などのバルク多結晶 材料について磁歪測定が行われているが、組成や結晶構造に依存して磁歪挙動が複雑に変化するため、

Fe 基合金材料に関して統一的に磁歪現象が解明されるには至っていない。本研究では、Fe 基合金の組 成や結晶方位が磁歪挙動に及ぼす影響を系統的に明らかにすることを目的に、単結晶薄膜成長技術を活

用してFeおよびFe-X (X= Al, B, Si)合金薄膜を作製し、回転磁場中でその磁歪挙動を測定した。本論文

は、Fe基合金材料の結晶磁気異方性、磁界印加方向および磁界強度がこれら磁性材料の磁歪挙動に及ぼ す影響を系統的に検討考察したものである。

まず本研究では、回転電磁石とレーザ反射計測を組み合わせた薄膜磁歪の高精度測定法を開発し、多 結晶のFe薄膜磁歪を測定し、結晶歪が磁歪に影響を及ぼしていることを示している。さらに磁気物性g 因子を強磁性共鳴法の共鳴周波数の磁界強度依存性から決定し、磁歪特性を解析するために有用な基礎 情報を取得している。Fe基合金の磁歪特性測定試料として、薄膜単結晶を超高真空スパッタ法で形成し ている。薄膜形成基板に用いる非磁性単結晶の結晶面方位を変えることで磁性薄膜の結晶方位を制御し、

しかも溶融-凝固で作製するバルク材料に比べて広い組成範囲でFe-X (X= Al, B, Si)合金のエピタキシャ ル薄膜の形成に成功している。体心立方構造を持つ一連の(001)方位の単結晶薄膜を用いて回転磁場中で 磁歪挙動を測定している。この結果、磁性材料の結晶磁気異方性が磁歪挙動に大きく影響し、結晶磁気 異方性の影響により磁歪の観察方向に依存してバスタブ状や三角波状の複雑な磁歪挙動を示すことを明 らかにした。磁性材料の磁化曲線を考慮して磁歪特性を解析し、結晶磁気異方性の影響で印加磁界の角 度と回転磁化の角度が異なる場合に複雑な磁歪挙動が生ずることを解明している。

一連の実験結果を踏まえて、磁性材料の基本磁気特性を考慮した磁歪挙動説明のモデル「修正一斉回 転モデル」を提案している。新たに提案されたモデルを用いればFe基磁性材料で観察された複雑な磁歪 挙動を説明可能で、さらに、この解析モデルを活用することで磁性結晶材料の任意の面配向、任意の磁 界方向で磁歪挙動を予測することを可能としている。

本論文は、Fe および Fe 基合金材料の磁歪を測定し、磁性材料の磁気異方性と磁界の相互作用が磁歪 挙動に大きな影響を与えていることを明らかにしている。本研究で得られた知見は、Fe基軟磁性材料の 工業応用および磁性物理現象の理解促進で有用であり、本研究の意義は大である。

(2)

(中央大学論文審査報告書)

「論文審査の結果の要旨」

電磁変換機器のモータやトランスなどには鉄基軟磁性材料が使用されている。これら機器では励磁に 伴って磁性材料の磁歪現象によって膨張・収縮するため騒音や振動が発生するのみならず、エネルギー 効率低下の要因となっている。本研究は、鉄基磁性材料の磁歪特性の解明を目的に、薄膜技術を活用し

てFeおよびFe-X (X= Al, B, Si)合金薄膜を作製し、磁界印加条件と磁歪の関係を系統的に調べている。

この結果、磁性材料の結晶磁気異方性が磁歪挙動に大きく影響していること、結晶磁気異方性と磁界の 方向に依存してバスタブ状や三角波状の複雑な磁歪挙動を示すこと、Fe合金の添加元素(X= Al, B, Si)が 磁歪特性に及ぼす影響は類似していること、などを明らかにした。さらに磁性材料の基本特性を考慮し た磁歪挙動解析モデル「修正一斉回転モデル」を提案し、これを活用すれば磁性結晶材料の任意の面配 向、任意の磁界方向で磁歪挙動を予測することが可能であることを示した。本研究を通して得られたFe 基磁性単結晶材料の磁歪特性および科学的知見は、鉄基軟磁性材料の磁歪特性を理解する上で有用であ り、またモータなどの電磁変換機器の特性向上など工学面への貢献も期待される。

本論文では、第1章で背景と研究目的を述べている。磁歪研究の歴史的な発展経緯を概説し、磁歪が 問題とされている鉄基磁性材料分野では、(1)磁界の方向と磁化の方向が異なる場合の磁歪挙動の解析が 不十分であること、および(2)工業応用で多用されている Fe-B 過飽和固溶体合金薄膜の磁歪挙動と磁歪 起源の解明が行われていないため、類似合金(Fe-Al, Fe-Si)との磁歪特性の比較検討が必要であることが 述べられ、本研究の意義と目的が説明されている。

第2章では実験方法が説明されている。薄膜単結晶試料の作製を超高真空スパッタ法で行い非磁性単 結晶基板上でのエピタキシャル成長現象を活用すること、試料の構造解析法、および磁歪特性の測定法 の詳細が述べられている。

第3章では、磁歪特性の測定方法と多結晶鉄薄膜の磁歪特性の計測結果が説明されている。回転可能 な電磁石とレーザを用いた試料変形測定技術を組み合わせた高精度磁歪測定装置によれば、1 kOe 程度 の磁界中で1 nmの試料変形計測が可能で、10-6レベルの磁歪を高精度で測定できることが示され、多結 晶Fe薄膜の磁歪測定と解析結果の具体例が説明されている。

第4章では、磁歪物性を検討するのに必要な磁気物性、g因子の測定結果が述べられている。磁歪の根 源は軌道角運動量に起因するが、3d 遷移金属の軌道角運動量を直接測定することは極めて困難である。

g 因子は実測可能な物理量で間接的に総磁気モーメントに及ぼす軌道磁気モーメントの影響の評価可能 であるため、本章の検討ではFe(001)単結晶薄膜のg因子を周波数掃引強磁性共鳴法で計測し、基本磁気 特性(Ms= 2.05 T, K1= 49 kJ/m3, g= 2.09)を決定している。

第5章では多結晶構造を持つFeおよびFe-B膜の磁歪特性の測定結果が述べられている。ガラス基板 上に形成した5 – 40 nm厚のこれら磁性膜は(110)配向した微結晶からなる多結晶膜であり、Fe膜の飽和 磁歪は膜厚に依存して+3×106 から‒5×106 まで変化すること、そして磁歪変化は結晶の面間隔,dbcc(100) の減少に対応して磁歪定数λ100 が増大するためであることを明らかにした。この検討により、磁歪には 結晶歪が大きな影響を与えていることを示している。

第6章では、Fe 基(001)単結晶薄膜の磁歪を回転磁場中で測定した結果が述べられている.磁化容易

軸方向[100]の磁歪挙動はバスタブ状でその振幅は印加磁界の大きさに依存せずほぼ一定であるが,磁化

(3)

(中央大学論文審査報告書)

困難軸方向[110]では三角波状となりその振幅は異方性磁界と同等の 0.7 kOe 程度までは磁界に依存し て増大し,それ以上では飽和して一定値となることが示されている。実験結果を修正一斉回転モデルで 解析し,磁性膜の磁気異方性が磁歪特性に影響を与え,磁化容易軸方向ではバスタブ状,磁化困難軸方 向では三角波状の挙動となると解釈した。

第7章では、Fe100−xSix(x = 6, 10 at. %)およびFe100−yAly(y = 4, 10, 20 at. %)合金単結晶膜の磁歪 特性が調べられている。これらの材料の磁気異方性はFeに比べて小さいため、低い磁界で飽和磁歪とな り回転磁界に対して正弦波状の磁歪挙動を示すこと、および磁歪定数λ100 は合金元素濃度が増すにつれ て絶対値が大きくなり、20 at. % Al では50×10−6 程度まで増大する。磁歪定数λ100およびλ111 に及ぼ す合金元素濃度の影響を g 因子の変化の観点から検討が加えられているが、明瞭な相間関係を見出すに 至っていない。結晶歪などの関連物性も考慮した詳細な検討が必要であると考察している。

第8章では、方向性珪素鋼板として実用化されているFe-6 at. % Si 組成で配向面(001), (110), (111) を 持つ単結晶薄膜の磁歪特性の測定結果が説明されている。 (001)単結晶膜は,立方晶(001)面の対称性を 反映した磁化曲線を示し、磁歪挙動は第6章および7章で示したのと同様の結晶磁気異方性を反映した 出力波形であること、 (110)単結晶膜では [110]方向に一軸異方性が生じているため磁界強度に依存して 磁歪波形が変化すること、(111) 単結晶膜の磁歪曲線は正弦波状でほぼ等方的であることが述べられてい る。またFe94Si6(111)膜試料で磁歪の大幅減少が認められ、この原因は符号が異なるλ100 とλ111 とが互 いに磁歪を打ち消し合う(111)膜特有の現象であることを明らかにしている。

第9章では、単結晶および非晶質Fe100−xBx 合金膜(x0~35)の磁歪のB 組成依存性を詳細に調べ、

Fe-B 合金膜が大きな正磁歪を持つ原因の検討が行われている。強磁性共鳴法によりFe-B 単結晶合金膜

の結晶磁気異方性や g 因子の測定を行い軌道角運動量の影響を検討することによって正磁歪発生のメカ ニズムの解明を試みた。 Fe-B(001)単結晶膜の磁気特性からB 量が増すにつれて結晶磁気異方性が低下 すること、,回転磁界中の磁歪測定からB量が増すにつれてλ100 は符号が正でその絶対値が大きくなり、

λ111 はFe 膜で負であるがB量が増すにつれて絶対値が減少し18 at. % B では符号が正に変わること を明らかにした。これらの結果からFe-B 合金膜が大きな正磁歪を示す原因としてλ100 絶対値の増大に 加えてλ111 の符号が正に変化するためと解釈した。非晶質 Fe-B 合金の磁歪の根源は、 Fe-Al 合金や

Fe-Ga 合金と同様に,B の2p 電子がFe の3d バンドに影響してその電子構造を変えることが原因で

あると考察している。

第10章では、本研究の結言が述べられている。第2章から第9章で述べられた研究結果は、27件の 有査読論文(Journal of Applied Physics, vol, 117, pp. 17A303-1 – 17A303-4, 2015.など)に発表されてい る。

本研究により、鉄および鉄基軟磁性材料の磁歪現象の理解が進み、実用面ではトランス、モータ、電 磁石などの省エネルギー化、低騒音化などへの実務的貢献が期待される。また、本論文は鉄系単結晶材 料の磁歪特性を提供しており、磁歪現象の理解と応用に向けた重要な基礎データと学術知見を提供する ものと評価される。

以上により本論文は、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

参照

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