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(中央大学論文審査報告書)

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Academic year: 2021

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(1)

(中央大学論文審査報告書)

論文の内容の要旨

近年、水道水源の悪化に伴って、クリプトスポリジウムやジアルジアなど、病原性細菌に よる健康影響被害が増加している。従来の砂ろ過では、これらの病原性細菌を完全に制御す ることが困難なことから、より固液分離性能に優れた多孔質膜の利用が国内外に広まってい る。多孔質膜は、

10 nm

から

0.1 μm程度の微細孔を有しており、細孔による篩い分けによ

り溶質と溶液を簡単に分離することが出来る。近年では、細孔よりも遙かに小さな色度成分 の除去を目的として、膜の前段に無機塩を加えて溶解成分の凝塊化を促す「凝集処理」を導 入する例が多い。凝集により原水水質が安定する一方で、凝集剤の注入量もしくは凝集

pH

によっては、添加した凝集剤が膜の細孔を閉塞する

膜ファウリング

が促進することが既往 研究により明らかになっている。

溶解性成分を十分に除去しつつ、膜ファウリングを抑制するような凝集条件についてはこ れまでに様々な研究者により検討されているが、ほとんどの研究が試行錯誤的なものであり、

統一した見解が得られていない。これは、膜ファウリングの原因物質が細孔よりも微小かつ 希薄(

10

5

/mL

以下)であり、これらの成分の物理化学的特性を十分に把握することが困 難なことが原因と考えられる。膜ファウリングを抑制しうる条件が決定出来れば、幅広い水 質の原水に対しても膜ろ過が適用できるようになり、水質変動の激しい河川水を水源とする 場合でも、安定して安全な水を供給できるようになると考える。

本研究では、上述した背景を鑑みて、膜ろ過に適した凝集条件を決定しうる指針の開発を 目的として以下の研究を実施した。まずは、凝集後に形成される細孔径付近のサイズを有す る微小粒子成分の物理化学的特性を評価するための試験装置を開発し、この装置を用いて 様々な凝集条件で形成される微小粒子の特性を観察した。続いて、実験室規模で凝集-膜ろ 過試験を実施し、各条件での膜ファウリング進行度と微小粒子の物理化学特性とを比較し、

膜ファウリングの進行に影響を及ぼす微小粒子特性因子を検討した。さらに、微小粒子の凝 集性を制御しうる凝集剤を探索した。

膜細孔形に近い

0.1 μm付近の粒子を追跡するために、既存の顕微鏡粒子追跡装置に紫色

の高強度レーザーを搭載した装置を開発し、

20 nm

0.5 µm

までの微小粒子の数およびゼー タ電位を定量することに成功した。ここで観察された

20 nm

0.5 µm

の範囲にある粒子を、

ナノとマイクロの間という意味から、「メソ粒子」と新たに定義した。

続いて、様々な凝集条件で凝集した後に残存するメソ粒子の物理化学的特性を分析した結 果、メソ粒子は酸性

pH

でのみ荷電が中和され、中性

pH

条件下では荷電中和できないこと が明らかになった。この結果は、既存の凝集理論を覆すものである。

さらに、メソ粒子が荷電中和される凝集条件において、膜ファウリングが最も抑制される ことが明らかになり、「メソ粒子の荷電」が凝集-膜ろ過において重要な指針となることを 示した。広範囲の

pH

においてメソ粒子の荷電を制御しうる凝集剤を探索した結果、新凝集 剤

ACH

を用いた場合において効率的にメソ粒子の荷電中和が可能となることを示した。こ れらの結果は、凝集-膜ろ過プロセスに適した凝集剤の開発に繋がる発見となった。

(2)

(中央大学論文審査報告書)

論文審査の結果の要旨

1.博士学位請求論文

Coagulation characteristics of colloids indicating irreversible membrane fouling in coagulation

MF membrane filtration process

2.論文審査結果の要旨

2.1

当該研究の位置づけ

浄水膜は

1994

年に米国ミルウォーキーで発生したクリプトスポリジウムによる水道集団 感染を発端として国内外で導入が進んだが、日本における膜ろ過の導入率は未だに、全浄水 処理量中の約2%に留まっている。一方で、厚生労働省が実施した調査によると、ほぼすべ ての水道水源でクリプトスポリジウムの存在を確認しており、浄水処理の高度化は喫緊の課 題とされる。膜処理の導入がなかなか進まない原因として、運転管理に関する指針が存在し ないため、自治体の職員が管理できない現状が指摘されている。特に、膜目詰まり(膜ファ ウリング)対策は、長期間のパイロット試験が必要な他、試験結果の判断には熟練した経験 が不可欠なことから、膜ろ過導入を阻害する主要因となっている。より合理的に膜を管理す るためには、ファウリング物質や閉塞メカニズムを明らかにした上で、膜ファウリングの状 況に応じた処置が必要となる。

2000

年から

2010

年にかけて、膜ファウリングの原因物質やメカニズムの解明に関する研 究が様々に実施され、近年では「バイオポリマー」と呼ばれるタンパク質や多糖類などの高 分子有機物を主な原因物質として指摘する例が多い。これらの研究結果を基に、

2010

年以 降、バイオポリマーを膜の前段で除去する技術の開発にシフトしており、膜と他の水処理プ ロセスを組み合わせた「ハイブリットシステム」が近年盛んに研究されている。特に、既存 浄水プロセスの多くで導入されている凝集は、溶解性成分を除去できることに加え、導入に あたって既存の施設を有効に活用できることもあり、膜ろ過と組み合わせたシステムについ ての研究例も多い。

凝集-膜ろ過に関する研究の多くが、最適な凝集条件の探索に関するものである。凝集条 件が最適化されていない場合、添加した凝集剤が膜を閉塞し、膜ファウリングを加速するこ とから、凝集条件の設定指針は、現場での運転管理にとって非常に重要な課題となる。既往 研究の多くが、試行錯誤的に凝集条件を変化させた際の膜ファウリングの進行を観察するも のであり、これまでの研究で得られた最適条件を比較した際には、対象とする原水や使用す る膜特性によって最適条件が全く異なることが明らかになっている。

2012

年には、凝集によって形成されたフロック特性を因子として、膜ろ過に適した凝集 条件を選定する手法が提案されている。ただし、ここで検討されている膜ファウリングは、

物理洗浄で容易に解消されうるファウリング(可逆的ファウリング)であり、実際の運転に

(3)

(中央大学論文審査報告書)

おいて課題となる物理洗浄では解消できないファウリング(不可逆的ファウリング)では適 応できないことが明らかになっている。

以上の経緯を鑑みて、本研究では、凝集によって形成するフロック特性から、不可逆的膜 ファウリングの進行に寄与する因子を探索し、より省エネルギーかつ少ない凝集剤で安定し て膜ろ過を継続しうるための運転管理指針を作成する。特に、不可逆的膜ファウリングの原 因とされる膜細孔径以下のフロック特性に着目し、これらのフロック特性の把握と不可逆的 膜ファウリング進行度との関係を明らかにする。

本研究は、凝集―膜ろ過で発生する膜ファウリングの原因物質および発生メカニズムを解 明するものであり、原因物質とメカニズムが明らかになれば、従来の盲目的な凝集条件の設 定とは異なり、原理・原則に則って、有効な対策を論理的に講じることが可能となる。

2.2

論文の構成

1

章では、凝集膜ろ過に関する現状を整理すると共に、現在の課題を抽出し、本研 究で対象とする研究の範囲と研究目的を明確にしている。

2

章では、凝集-膜ろ過システムにおける最適凝集条件について述べた既往研究を まとめると共に、微小コロイド粒子の観察技術について整理している。

3

章では、微小粒子の観察装置を開発し、手法の有効性を評価した。また、本章にお いて、微小粒子をメソ粒子として新たに定義した。

第4章では、不可逆的膜ファウリングの進行に影響を及ぼすメソ粒子の物理化学的特性 について検討した。さらに、広い

pH

範囲において、メソ粒子の荷電特性の制御に優れ た凝集剤を探索した結果について記載している。

第5章では、メソ粒子に含まれる有機物について、その構成成分及び各成分の凝集特性 を検討した。

6

章では、上述した研究結果をまとめるとともに、今後の展開について記載している。

2.3

論文の独自性と成果

(1) 本研究で使用した装置は、通常の顕微鏡型ゼータ電位計に強力な紫色レーザー光源 を特注で装着した、世界で唯一の分析装置である。これにより検出可能となったコ ロイド粒子(

20 nm

〜0.5 μm)を新たにメソ粒子と定義した。

(2) 既存の凝集理論は数

μm

のフロック特性に着目したものであり、メソ領域の粒子の 挙動解析には適用出来ない。今後、メソ粒子特性についてより理解が深まることで、

メソからマイクロまでの幅広い粒子に対応しうる新しい凝集理論の構築が期待出来 る。

(3) メソ粒子特性は、原水の季節・種類と関わらず、酸性条件で荷電中和された。既往 浄水場の条件(

pH7

付近)においては、メソ粒子は負荷電のまま残存することが明 らかとなった。

(4)

(中央大学論文審査報告書)

(4) 凝集剤の種類や膜材質、原水水質に関わらず、メソ粒子が荷電中和される条件にお いて最も不可逆的ファウリングが抑制されることを明らかにした。この結果は、「メ ソ粒子の荷電」が凝集―膜ろ過における指針となりうることを示すものである。

(5) 本研究で検討対象とした

4

種類の凝集剤のうち、中性

pH

でメソ粒子を荷電中和で きる凝集剤は

ACH

に限られた。今後、

ACH

の特性をさらに詳細に調べることで、

膜ろ過に適した凝集剤が開発できる可能性が示された。

(6) 既存の研究では、メソ粒子やバイオポリマーは単一の成分として扱われていたが、

本研究によってメソ粒子は

3

種類以上の有機物によって構成されることが明らかと なった。

3

種類の有機物は凝集特性が異なり、これらの構成成分の割合が原水によ って異なるため、メソ粒子の凝集特性が原水毎に異なることを明らかにした。

2.4

論文の課題

(1) 本研究で得られた結果は、実験室規模での実験によるものであり、実用化にあたっ ては、より原水の変動が大きな原水を用いて、パイロットスケール規模での検証が 不可欠となる。特に、水温やアルカリ度が大きく変動する際に、メソ粒子特性の変 化および膜ファウリングとの関係について詳細に調べる必要があると考える。

(2) 本研究では主に実験を通して凝集―膜ろ過におけるファウリング現象を解明してき た。今後は、観察された現象をモデル化することで、凝集-膜ろ過における不可逆 的ファウリング制御理論の確立が必要とされる。

(3) 本研究で発見した

ACH

は、唯一中性

pH

付近でメソ粒子の荷電中和に成功している。

一方で、

ACH

がなぜメソ粒子の荷電中和に優れていたのかについては、未だ明らか になっていない。凝集剤特性について今後より詳細に比較・検討することで、膜ろ 過に適した凝集剤の開発に繋げる必要があると考える。

2.5

論文の評価

本研究は、これまで

50

年以上前から構築されてきた凝集理論に、メソ粒子の凝集特性 という新しい知見を付加するものであり、コロイド科学界に大きく貢献するものであると 考えている。また、凝集と膜ろ過を組み合わせた処理において、凝集による膜ファウリン グの制御理論を確立した点において、工学的にも優れた研究であると考えている。

論文や国際学会発表としての研究業績、ならびに国内での学会発表も多くこなしており、

さらに口述試問の試験結果も踏まえ、審査員一同は丁青氏の博士学位請求論文は博士(工 学)の学位論文として十分な価値を有するものと判断した。

以上

参照

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