575 商学論纂(中央大学)第
59
巻第3・4号( 2018
年3月)外国事業体の法人該当性と課税 ⑵
矢 内 一 好
目 次 第1章 本論の概要 1 本論の目的
2 事業体課税2つの区分 3 租税回避との関連
第2章 日本における事業体課税の沿革と概要 1 米国
LLC
の課税(外国事業体の法人該当性)2 航空機リース事案(国内事業体の組合該当性)
第3章 米国デラウェア州
LPS
に係る判決 1 裁決(平成18年2月2日)2 裁判の動向
第4章 バミューダ
LPS
事案に係る判決1 バミューダ
LPS
事案の東京地裁判決・東京高裁判決等 2 デラウェアLPS
事案とバミューダLPS
事案の比較検討 第5章 米国における法人該当性の判例等1 分析の視角
2 モリセイ事案最高裁判決
3 キントナー事案判決とキントナー規則 4 チェック・ザ・ボックスルール 5 米国租税条約等における動向 (以上『商学論纂』第
59
巻第1・2号)
第6章 カナダ・英国における法人該当性の動向 1 カナダ国内法の動向
2 米国・カナダ租税条約におけるハイブリット事業体の取扱い 3 英国における外国事業体の法人該当性の動向(以上本号)
第6章 カナダ・英国における法人該当性の動向
1 カナダ国内法の動向
⑴ カナダ国内法における事業体課税関連事項
カナダ国内法において,外国事業体の課税上の取扱いに関連する事項は 次のとおりである
1)
。① 1970年4月2日:
Economics Laboratory (Canada) Ltd. v. M.N.R., 70 D.T.C. 1208 (T.A.B.).
(外国の事業体の損失をカナダ 居住者が控除できるかどうかが争われた事案で,2段 階アプローチ(two-step approach
:以下「TSA
」とい う。))が初めて示された事案② 1976年9月7日:
Interpretation Bulletin IT- 343
(法人という用語の意義)③ 1977年9月26日:
Interpretation Bulletin IT- 343 R
(IT- 343の改訂版)
④ 1998年9月3日:
Continental Bank Leasing v. Canada [ 1998 ] 2 S.C.R. 298
(判決)⑤ 2001年3月1日:
Backman v. Canada ( 2001 SCC 10 )
(判決)⑥ 2001年3月1日:
Spire Freezers Ltd v. Canada ( 2001 SCC 11 )
(判決)⑦ 2008年9月22日:
Income Tax–Technical News No. 38 (Foreign Entity Classification)
⑵ カナダにおける事業体課税の概要
米国と隣接するカナダは,米国との経済的交流も盛んであることから,
事業体課税に関して相互に影響があるものという推測の下で比較すると,
米国の以下の2つの判決は,いずれもその内容が国内における法人該当性
1) カナダにおいて法人(corporation)が独立した法的人格を有するという判
決が出されたのは,Hague v. Cancer Relief & Research Institute, [1939 ] 4
DLR 191 (Man. K.B.)
である。が争点であった。
① モリセイ最高裁判決
(1935年)
は,信託の法人該当性である。② キントナー控訴審判決
(1954年)
は,医療に係る非法人団体の団体 性が争われた。そして,米国では,財務省規則に法人該当性の規定(いわゆるキントナー 規則)が整備されたのが1960年であり,
LLC
(Limited Liability Company
)が 出現するのが1977年以降である。ちなみに,日本で米国LLC
に関する通 達が発遣されたのは2001年6月である。米国における1970年代の外国事業体に係る歳入ルーリングは次の2つで ある。
①
Revenue Ruling 73‑254 (1973年)
②
Revenue Ruling 77‑214 (1977年)
上記①のルーリングでは,米国市民が外国の事業体(非法人組織)に出 資をしてその構成員となった場合,基本的には,その課税関係は内国歳入 法典7701条により決定されるが,構成員間の法的関連及び持分はその事業 体所在地国の法律の適用となることが規定されている。そして上記②は,
ドイツ法の下で設立された有限責任会社(
GmbH
)の法人該当性である。カナダでは,前出の
Economics Laboratory (Canada) Ltd.
事案判決(1970
年)において,ドイツの有限責任会社(GmbH
)の特徴がカナダの有限会社( Limited Company )
と類似していることから法人と認定し,ドイツの有限会社の出資者であるカナダ居住者は,ドイツ有限会社の損失を控除できない と判示している。この判決がカナダにおいて後に影響を及ぼす2段階アプ ローチ
( two-step approach
:以下「TSA
」という。)
の最初の例といわれている2)
。 この最初のTSA
は,伝統的なものといわれ3)
,このアプローチは,後日進2
) Boidman, Nathan and Kander, Michael, “Foreign entity classification and themeaning of “corporation” Canadian Tax Journal Vol. 57 No. 4 , 2009 , p. 884 .
展を見るのである。
さらに,カナダは,英国の判例も法源としていることから,英国におけ る米国デラウェア州
LLC
に係る判決4)
もカナダにおける取扱いに影響す ることになる。⑶
TSA
の変遷 イ 旧TSA
最初に
TSA
は次のように説明されている5)
。① 外国の商法の下で,外国の事業上の団体の特徴を決定する。
② 外国事業体を分類するために,①の特徴をカナダの商法の下での 事業上の団体と比較する。
この
TSA
は,前述の租税裁判所(Tax Appeal Board
)における1970年判決 のEconomics Laboratory (Canada) Ltd.
事案といわれている6)
。この事案 は,ドイツの有限責任会社(GmbH
)の法人該当性を争点とした事案であ る7)
。上記のTSA
は,その後に問題が生じたことから,ここでは,TSA
の オリジナル版という意味で旧TSA
とする。ロ 2000年制定の米国デラウェア州の改正統一パートナーシップ法の影 響
8)
米国のデラウェア州は,
2000年に改正統一パートナーシップ法
(Delaware Revised Uniform Partnership Act
:以下「DRUPA
」という。)を制定した。このDRUPA
は,2000年に制定され,2001年から施行されたものであるが,カナダの課税当局(
Canada Revenue Agency
:CRA
)の意見としては,当初,3
) Ibid. p.882 .
4) Anson v. HMRC, [ 2015 ] UKSC 44 .
5
) Boidman, Nathan and Kander, Michael, op. cit., p.882 , n. 5 . 6) Ibid. p. 883 .
7
) Ibid. p.884 .
8) Ibid. p. 885 .
DRUPA
に基づいて設立されたパートナーシップは,基本的に構成員から 独立した実体として,カナダ租税法上,法人とみなすという見解であっ た。カナダ課税当局は,その後に見解を変更して,
DRUPA
に基づいて設立 された実体の属性は,共同して事業を行う等の点から,カナダのコモンロ ーにおけるカナダのジェネラル・パートナーシップと類似しているとし て,カナダの租税法上,当該事業体をパートナーシップとした。この見解 の変更は,前述した旧TSA
を改正した新TSA
ということになる9)
。 ⑷IT- 343から Income Tax – Technical News No. 38までの変遷
前述のとおり,1976年9月7日に
Interpretation Bulletin IT- 343,その改
訂版のInterpretation Bulletin IT- 343 R
が1977年9月26日に発遣されている。この2つの文書は,法人(
corporation
)に関する見解と,外国の事業体で 法人となるものを列挙している。この2つの文書は,外国事業体の法人該 当性の基準を,独立した法的実体( separate legal entity )
としていたが,2008年の No. 38では,旧 TSA
を改めて新TSA
にしたのであるが,TSA
で あることに変わりはない。
No. 38における TSA
は,従前の基準ではなく,準拠法及び合意の下における構成員と構成員の権利と義務の関連性の性格が最も重要な属性とい うことになった。旧
TSA
を批判して,No. 38発遣の基因といわれている
Marc Darmo
の論文では,カナダのコモンローに基づいて設立されるパートナーシップの特徴として,①利益と損失の分配,②パートナーシップ 財産の未分割持分の所有権,③相互代理権(
mutual agency
)が挙げられて9
)2005
年にMarc Darmo
の論文(“Characterization of Foreign Business As-sociations” Canadian Tax Journal Vol. 53 No. 2 , 2005)において,旧 TSA
の適 用上の困難性が指摘され,新たな解釈が示された。すなわち,「構成員から 独立した実体」という要件のみでは判断できないとした(Ibid. p.886 .)。
いる
10)
。⑸ 判例の動向
カナダにおける事業体関連の判例のうち
11)
,2001年最高裁判決の出たベ ックマンの事案を取り上げる。この事案は,前述した1976年のIT- 343と 2008年の Income Tax–Technical News No. 38の中間に位置しており, TSA
の変遷等に影響を及ぼしたといえるからである。イ ベックマン事案の事実関係
本事案の事実関係は次のとおりである。
① 1985年にテキサス州法に基づく
LPS
であるC
は米国居住者により 設立された。②
C
は,土地とアパートを取得した。③ 1988年8月までに,
C
の所有する不動産の取得価額が時価よりも下 落した。④ 原告及び38人のカナダ居住者と
A
法人(以下「カナダ・パートナー」
という。
)
は,C
の米国パートナーからその持分を譲り受けた。⑤ 取引は,1988年8月29日に行われ,カナダ・パートナーが米国居住
10
) Ibid. p.886 .
11) 事業体課税に係るカナダにおける主たる判例は次のとおりである。
① Hague v. Cancer relies & Reserchinstitute, [
1939 ] M.J. No. 19
(法人の定 義に関する判例)② Continental Bank Leasing Corp. v. Canada, [
1998 ] 2 SCR 298 .( 1998
年9 月3日最高裁判決:上告人の訴えが認められた事案)③ Spire Freezers Ltd. V. Canada, [
2001 ] 1 SCR 391
(2001
年3月1日最高裁 判決:米国パートナーシップ関連の事案で上告人の訴えが認められた事 案)④ Philip Douglas Bechman v. Canada, [
2001 ] 1 SCC 10(2001年3月1日最
高裁判決:米国パートナーシップ関連の事案で上告人の訴えが認められな かった事案)者からパートナーシップの持分を18万ドルで取得した。
⑥
C
所有の不動産を当初のパートナーであった米国居住者に譲渡し,発生した譲渡損を1988年分の申告において控除した。
⑦ カナダ・パートナーは,5
, 000カナダドルでカナダの石油とガスの
権利を取得した。この事案の事実関係は,カナダ・パートナーが,含み損のある不動産を 所有するパートナーシップである
C
の持分を当初のパートナーから譲り 受け,それを時価で元のパートナーに譲渡することで譲渡損を発生させ,その譲渡損を確定申告において控除したのであるが,課税当局がこの損失 の控除を否認したもので,原告は租税裁判所,連邦高裁,そして最高裁に 訴えたものである。なお,カナダが一般否認規定を導入したのは1988年で あり,本事案はその適用開始前の事案である。
ロ 租税裁判所・連邦高裁の判決
12), 13)
租税裁判所の裁判官は,本事案の取引が適法であり,見せかけ取引
( sham )
ではなく,租税回避否認規定の適用もないと判断している。裁判 官の関心は,カナダ・パートナーが正当なパートナーシップの構成員かど うかであった。裁判官の判断では,パートナーシップの定義は,利益を追 求する事業を遂行する複数の者の間の関連性が必要であるとしているが,本事案における唯一の目的は,含み損の取得であると断じている。そし て,カナダ・パートナーは,
C
所有不動産の所有権に関してパートナーシ ップの構成員ではないと判断して,訴えを却下している。連邦高裁判決は,パートナーシップの定義と合致するために,利益追求 の事業が行われたという推論を容認していない。租税裁判所及び連邦高裁 は納税義務者側敗訴となっている。そして,納税義務者側は,上告したが
12
)97 D.T.C. 1468 .
13) [ 2000 ] 1 F.C. 555 .
その訴えは却下されたのである。
ハ
TSA
に関する判示本事案の争点の第1の点は,カナダ・パートナーがパートナーシップの 損失を控除できる正当なパートナーシップの構成員かどうかである
(カナ
ダ所得税法第96条第1項適用の可否)。第2の点は,第1の点にかかわらず,譲渡に関して上告人がパートナーの資格があるのかという点である。
判決では,カナダのパートナーシップにおける損失を所得税法第96条に 基づいて控除する場合,納税義務者は,パートナーシップの根拠法である 州法等の定義を満たす必要がある,としており,外国のパートナーシップ についてもカナダのパートナーシップにおける本質的な要素(
essential
elements
)が必要であると述べている。カナダの課税当局による文書によるコモンローにおけるパートナーシッ プの定義は次のとおりである
14)
。すなわち,利益を追求するために共同し て事業を遂行する者間に存在する関連,であり,複数の者が,①事業の 遂行,②共同,③利益追求,である。⑹ 日本の米国デラウェア州
LPS
事案との比較日 本 の 米 国 デ ラ ウ ェ ア 州
LPS
事 案 は, 平 成11(1999)
年 か ら 平 成13(2001)年の申告分である。
米国のデラウェア州は,
2000年に改正統一パートナーシップ法
(DRUPA
) を 制 定 し,2001年 か ら 施 行 さ れ て い る。 カ ナ ダ の 課 税 当 局 は, 当 初,DRUPA
に基づいて設立されたパートナーシップを,基本的に構成員から独立した実体として法人とみなすという判断であったが,その後この見解 を変更して,カナダの租税法上,当該事業体をパートナーシップとしたの である。
14) Income Tax Follio-S 4 -F 16 -C 1 , What is a partnership?
デラウェア州
LPS
法については,米国LPS
事案の名古屋地裁判決(平
成23年12月14日判決)の資料によれば,同州のLPS
法は,1990年改正法と2001年改訂の DRUPA
であることが記述されている。それによれば,1990年改正法201条⒝では,州
LPS
法により組成されたLPS
は,独立した法 的主体(separate legal entity
)と規定され,DRUPA
では,同法104条⒜に おいて,パートナーから独立した主体(an entity distinct from its partners
)と 規定されている。日本における米国
LPS
事案のデラウェアLPS
が1990年改正の適用であ り,カナダの課税当局に影響を与えたDRUPA
が2001年改訂と異なってい ても,LPS
が独立した法的主体であるという点は共通している。以上のことから,米国
LPS
事案についての日本の最高裁判決とカナダ におけるTSA
は,法人該当性に関して同様の手法を用いていながら15)
,米 国のデラウェア州LPS
の法人該当性について異なる判断を下したことに なる。結果としていえることは,法人該当性については,その判定の手法 が同じであっても,課税する国において,法人或いはパートナーシップを 判定する居住地国において根拠法が異なる結果になることが判明した。2 米国・カナダ租税条約におけるハイブリット事業体の取扱い
⑴ 租税条約におけるハイブリット事業体に係る規定
ハイブリット事業体
(以下「 HE
」という。)
への租税条約の適用は,条約 相手国の事業体の法人該当性を検討する構成にはなっていない。すなわ ち,租税条約における一般的な規定では,居住者条項があり,条約相手国 において居住者と判定され,かつ,その判定に基づいて課税を受けるべき 者という規定である。このことからも判るように,租税条約の規定では,15
) 今村隆「デラウェアLPS
最高裁判決にみる「法人」該当性」『税理』Vol.58 No. 15 , 74頁。
条約相手国の事業体について,源泉地国となる国において法人該当性の判 断をすることにはならない。
では,租税条約に
HE
に係る規定を設ける趣旨は,次の3つに要約され ると考えて差し支えないものと思われる。① 締約国双方における二重課税の回避 ② 締約国双方における二重不課税の回避
③ ハイブリット事業体を利用した租税回避の防止
以上のことから,租税条約における
HE
関連の規定は,上記の3つの問 題を解消することを目的としたもので,法人該当性を判断するのは国内法 の領域ということになる。⑵ 例 示
例えば,
X
国法人がY
国にHE
を設立し,当該HE
は,Y
国に子会社S
社を設立し,X
国法人⇒HE
⇒S
社という融資をしたとする。このスキー ムは,X
国法人がS
社を設立し,S
社に直接融資をした場合と比較すると 次のような税負担における相違が生じることになる。なお,このHE
は,X
国では法人,Y
国ではパススルー課税であり,X
国とY
国の間には租税 条約がある。① この場合,
S
社からの支払利子は,HE
を通過することから,XY
租 税条約の限度税率の適用を受けることになる。②
HE
からの支払が法人であるHE
からの配当ということになれば,X
国のは外国子会社配当益金不算入制度と同様の制度があれば,当該 受取配当は,X
国で免税という措置になる。③
X
国法人からS
社への直接融資であれば,X
国法人に課税対象とな る受取利子が生じることになる。⑶ 米国・カナダ租税条約における
HE
への適用 イ 米国・カナダ租税条約における規定現行の米国・カナダ租税条約
(以下「米加租税条約」という。 )
は,1980年 に署名された第3次米加租税条約である16)
。この現行米加租税条約が,2007年9月に署名された議定書 (以下「第5次議定書」という。 )
により一部改正され,同条約第4条
(居住者)
に新たに第6項と第7項が創設された のである。ロ 米加租税条約
HE
条項の内容 第4条第6項第6項は,租税条約の特典を受けることができる場合,条約の特典を受 けることのできる
HE
について規定している。第7項は租税条約の特典を 受けることができない場合,条約の特典を受けることのできないHE
につ いて規定している。第6項の規定は,次のとおりである。
① 当該者が一方の締約国の税法において,事業体(他方の締約国の居住 者である事業体を除く。)を通じて金額を取得したものとみなされるこ と(第6項⒜)。かつ,
② 一方の締約国の税法において事業体が構成員課税であることから,
その国の税法において,所得が直接に当該者により取得したものと扱
16) 米加租税原条約は1936年,第2次米加租税条約は1942年に署名されてい
る。現行の第3次米加租税条約は,1983
年,1984
年,1995
年,1997
年にそれ ぞれ議定書により改正され適用されている。2007年9月21日に署名された第5次議定書は,HE
条項の改正を含むものである。この議定書に係る米国財 務省による技術的説明(DEPARTMENT OF THE TREASURY, TECHNICALEXPLANATION OF THE PROTOCOL DONE AT CHELSEA ON SEPTEM-
BER 21)は,2008年7月10日に公表されている。この議定書は米国では
2008
年9月23
日に,カナダでは2007
年12
月14
日にそれぞれ議会の承認を得て いる。米加租税条約HE
条項は,2010年1月1日から適用となっている。われる(第6項⒝)。
第6項について,議定書に係る米国財務省による技術的説明に掲げられ ている3つの例は,以下のとおりである。
例1は,米国居住者がフランスの事業体を所有し,フランス事業体
(米
国の規定は構成員課税)がカナダ源泉の配当所得を取得する場合,米国居住 者がカナダ源泉の所得を直接取得したものとみなされる。例2は,カナダで構成員課税となり,米国では法人となる事業体が,米 国源泉の所得を取得した場合,米国源泉所得は,カナダ居住者により取得 された所得とみなされる。
例3は,米国居住者が所有する米国
LLC
(米国において構成員課税,カナ ダは法人課税)が,カナダ源泉所得を取得する場合,カナダ源泉の所得は,米国
LLC
ではなく,米国LLC
の出資者(構成員)である米国居住者に対 する支払として租税条約の特典が認められることになる。第4条第7項
第7項は租税条約の特典を受けることができない場合を規定している が,その規定は,⒜と⒝の2つに分かれ,次のとおりである。
「第7項 所得,利益又は利得の金額は,次の場合,一方の締約国の居 住者である者により支払われ又は取得したものとみなされない。
⒜当該者が,他方の締約国における税法において,一方の締約国の居 住者でない事業体を通じて所得を取得したものとみなされるが,一方の締 約国はその税法において,当該事業体を構成員課税として扱わないことか ら,一方の締約国の税法における金額の取扱いは,その金額が当該者によ り直接取得されたのと同様に取り扱われるものではない。
又は,
⒝当該者が他方の締約国の税法において他方の締約国の居住者である 事業体から金額を受け取ったものとみなされるが,一方の締約国の税法に
おいて,当該事業体を構成員課税として取り扱うことを理由として,一方 の締約国の税法における金額の取扱いは,その事業体が一方の締約国の税 法において構成員課税として扱われないとした場合の取扱いと同様ではな い。」
第7項⒜の概要
議定書に係る技術的解説によれば,第7項⒜は,次のような内容であ る。
① 源泉地国が当該者を居住地国の居住者でない事業体を通じて金額を 取得した者とみている場合で,かつ,
② 居住地国の税法において当該事業体が
FTE
として扱われない場合,居住地国の税法に基づく当該金額の取扱いは,当該者が直接に取得し た金額と同じ取扱いにはならない,としている。
議定書に係る技術的解説に掲げられた例(米国居住者である米国法人がカ ナダのパートナーシップを通じてカナダ法人からの配当を受け取る場合)を上記 の第7項⒜の規定に当てはめると次のようになる。
① カナダが米国居住者を米国の居住者でない事業体(例ではカナダのパ ートナーシップ)を通じて金額を取得した者とみている場合で,かつ,
② 米国の税法でカナダのパートナーシップが構成員課税として扱われ ない場合,米国税法では,米国居住者が,カナダ法人からの配当を直 接取得したことにはならない(米国の税法では,カナダのパートナーシッ プが受取ったことになる。)。
第7項⒝の概要
議定書に係る技術的説明によれば,7項⒝の適用では,所得の金額は,
次の場合,居住地国の居住者に対して支払われ或いは取得されたとはみな されない。
① 源泉地国は当該者を源泉地国の居住者である事業体を通じて金額を
取得した者とみている場合。
② 当該事業体が居住地国の税法により構成員課税として扱われている 場合で,かつ,
③ 居住地国の税法において当該事業体が構成員課税となることから,
居住地国の税法において当該者により受け取られる金額の取扱いは,
当該事業体が居住地国の税法において構成員課税として扱われない場 合の取扱いと同じではない。
ハ
HE
規定創設の効果第5次議定書は,2010年1月1日以降適用となったが,米国投資家が対 カナダ投資に利用しているカナダのノバスコシア州及びアルバータ州にお いて設立が認められている無限責任会社(
unlimited liability companies
:以下「
ULC
」という。)に対して租税条約の適用が認められないこととなったの である17)
。このULC
は,課税上,カナダでは法人課税,米国ではパスス ルー課税として取扱われるHE
である。したがって,従前であれば,カナ ダで損失が生じた場合,米国で出資者にその損失が配分されることにな る。米国財務省の議会に対する米加租税条約第5次議定書に関する説明
18)
によれば,米国の者は,米国においてパートナーシップのように構成員課 税となるものとみなされている事業体を通じて所得を取得している場合,
通常であれば,租税条約の特典を得る権利があるが,その事業体がカナダ の事業体であり,かつ,カナダにおいて構成員課税とは扱われない場合は
17) Jack Bernstein, “ Will Canadian Unlimited Liability Companies Survive?”, Tax Notes International, October 22 , 2007 , p. 375 .
18) Testimony of Treasury Deputy Assistant Secretary for International Tax
Af fairs Michael F. Mundaca Before the Senate Committee on Foreign
Relations on Pending Income Tax Treaties (July 10 , 2008 ).
この適用はないことになる,という非常に短い説明で終了している。その 結果,上記の
ULC
の例は,租税条約の適用を受けることができないこと になった。3 英国における外国事業体の法人該当性の動向
⑴ 英国における法人該当性に係る沿革
英国においても,外国の各種の事業体が関わる税務事例が発生していた 点では,日本をはじめとして,本稿で検討してきた米国,カナダと同様の 状況である。最近では,2015年7月1日のアンソン事案(
Anson v. Commis- sioners for Her Majesty
ʼs Revenue and Customs
)最高裁判決において米国LLC
の法人該当性が問題の焦点となっているが,外国事業体の法人該当性に関 する判例のうちのいくつかを列挙すると次のとおりである。①
C.L. Dreyfus v. The Commissioners of Inland Revenue, 14 TC 560 ( 1929 ).
②
Ryall (H.M. Inspector of Taxes) v. The Du Bois Company Ltd, 18 TC 431 ( 1933 ).
③
Memec plc v. The commissioners of Inland Revenue [ 1998 ] STC 754 .
④Swift v. HMRC, [ 2010 ] UKFTT 88 (TC).
⑤
Anson v. Commissioners for Her Majesty
ʼs Revenue and Customs [ 2015 ] UKSC 44 ( 1 July 2015 ).
英国の課税当局は,上記の③の判決を受けて,英国租税法上の外国事 業体の法人該当性に関する判定基準(
INTM 180010)
と,国別の事業体ご との判定結果一覧表(INTM 180030)
を公表している。⑵ 初期の2つの判決
上記の①と②の判決は,①がフランスの事業体である,
Societe en
nom collectif
(SNC )
に関するものである。②は,ドイツの事業体であるGmbH
に関するものである。いずれも英国の租税法上では法人という判 断が下されている。
SNC
は,現行も存続している人的会社で,基本的に構成員課税である が19)
,法人税の課税の選択も可能である。また,ドイツのGmbH (有限会
社)は,米国(Revenue Ruling 77‑214)
及びカナダ(1970年判決のEconomics
Laboratory (Canada) Ltd.
事案)においても検討された事業体である。米国及びカナダよりも,英国の上記②の判決は時期的には相当早いものといえ る。なお,上記⑤における英国課税当局の分類では,
SNC
は構成員課税,GmbH
は法人課税と判定されている。ここでの問題は,このような外国事業体を法人と判断した当時の英国の 法人該当性の基準である。
①の事案は,現在も穀物メジャーとして活動中のルイ・ドレフェスに 関するもので,1910年に英国に導入された累進付加税
( super-tax )
の課税 が焦点である20)
。この税の納税義務者は個人であり,法人は納税義務者で はない。この事案における事業体が,構成員から独立した事業体である等 の理由により,1918年制定の所得税法第20条に規定するパートナーシップ には該当しないという判決であり,当該事業体の定款等の分析に基づい て,英国の根拠法への当てはめを行う手法が採用されている。②の事案は,ドイツの
GmbH
を支配する英国法人が当該ドイツ事業体 からの所得を所得税法のシェジュールD
のケースⅤ(外国財産からの所得 で海外事業所得も含む)の適用上,英国法人により所有されるドイツの事業体の
stock and share
が,上記の適用法令の規定に合致するかどうかが争19
) 柳瀬秀郎「フランスの税務行政と税制の概要」『税大ジャーナル』9,2008年10月,178頁。
20
) 累進付加税については,矢内一好『英国税務会計史』(中央大学出版部)第4章参照。
われ,ドイツの事業からの所得は英国で課税という判決となった。
いずれの判決も,その手法は,事業体設立国における法律関係の分析後 に,課税する英国税法の規定或いは類似する事業体との当てはめ,或いは 比較をするものである。
⑶ メメック社事案
21)
イ 本事案の基礎データ
本事案の第一審(
High Court Division, Chancery Division
)は,1996年10月24日判決である。控訴審 ( Court of Appeal civil division )
は,1998年6月9日 判決である。いずれも国側勝訴の判決である。ロ 本事案判決の意義
本事案の控訴審判決は,上記のとおり1998年である。この判決は,後述 する米国
LLC
を英国租税法上,パススルー課税という判決とした2010年 判決のスイフト(Swift
)事案22)
が第一審で,その後,原告名称が替わり,2015年最高裁判決のあったアンソン事案
(Anson
)23)
へとつながることにな る。ハ 事実関係
本事案の事実関係は次のとおりである。
① 本事案の原告であるメメック社(以下「
M
」という。)は英国居住法 人であり,英国の完全子会社4社を通じて,ドイツのGmbH (以下 21) 控訴審判決:Memec plc v. The commissioners of Inland Revenue [ 1998 ]
STC 754 .
高 等 法 院( 第 一 審 ) 判 決:Memec plc v. The commissioners of Inland
Revenue [ 1996 ] STC 1316 .
22) Swift v. HMRC [ 2010 ] UKFTT 88 . これは2010年2月22日に,下級審判所
(First-tier Tribunal)の判決である。
23) Anson v. Commissioners for Her Majestyʼ s Revenue and Customs [ 2015 ]
UKSC 44 ( 1 July 2015 ). なお,この事案は swift
事案が匿名としたため原告の 名称が異なるが,同一のものである。「
G
」という。)
のすべての株式を所有している。G
及び英国完全子会社4社は, G
の持分は各20%である。②
G
は持株会社で,ドイツ居住法人である2社(以下「ドイツ子会社」
という。
)
を支配している。③ 1985年までにドイツ子会社は
G
に配当を支払っている24)
。④ 1985年2月14日に,
M
とG
は,ドイツ法に基づくパートナーシッ プ契約(silent partnership
:以下「SP
」という。)を締結し,M
は匿名パ ートナーでG
に出資した見返りに,パートナーシップの利益の87. 84
%を取得することとなった。なお,ドイツ法の下では,当該パートナ ーシップは独立した法的実体ではない。
⑤ ドイツ法の下では,営業者である
G
は事業資産とその資産からの 利益に対する所有権を有しており,M
は資産に対する所有権を有し ていない。⑥ 内国歳入庁は,1986年から1987年,1988年12月期の間における
M
の法人税申告における外国税額控除の請求を認めなかった25)
。その理 由は,M
の所得はパススルーされたもので,ドイツ子会社からの配 当とはいえないからである。⑦
M
は,SP
が所得源泉ではないことから,ドイツ子会社から支払わ れたものが配当であり,当該子会社の負担したドイツの事業税(trading tax
)が控除対象外国税額であること,英独租税条約第6条に規定す る配当に該当し,ドイツ子会社から配当は,外国税額控除の対象とな る等と主張したが,M
の訴えは認められなかった。24
) ECは,1990
年に指令(90 / 435 /EEC)を出し,域内の親子間配当( 25
% 所有要件)を免税とした。25
)1986
年当時の英国の法人税の課税は,賦課課税方式であり,1993
年9月後から
Pay and File
方式になり,1999年以降,申告納税方式となっている。ニ 特別委員会の決定
M
からの異議申立てを受けた特別委員会は26)
,M
が,ドイツ子会社から の配当を配当として受領してもいないし,そうする権利もないことから,外国税額控除の権利もなく,また,1988年所得・法人税法に規定する配当 は,
SP
からの利益の分配を含まない,と判断した。ホ 法人該当性の基準
本事案のポイントは,ドイツで締結された
PS
契約に基づくパートナー シップからの分配金が配当となるか否かということが焦点であるが,英国 法の下でパートナーシップからの分配金は,一般に配当としてはみなされ ないということであった。要するに,英国法に基づく判断が基準となって いる。そして,控訴審判決において,英国のパートナーシップの特徴として次 の点が挙げられている
27)
。① パートナーシップは,法的実体ではない。
② パートナーは,利益を目的としてパートナーシップの事業を共同し て遂行する。
③ 各パートナーは,ファーム
( firm )
の代理人であり,その行為の効 果は,ファームに帰属し,ファームの名で行われた行為はパートナー を拘束する。④ パートナーは債務等に対して無限責任である。
26) 賦課課税制度の下で裁定を受けた金額等に不服のある時は,特別委員会に
訴えることができる。27) 英国のパートナーシップ法は,Partnership Act 1890 . である。リミテッ
ド・パートナーシップ法は,Limited Partnership Act1907 . である。本文に
掲げた特徴は,前者のジェネラル・パートナーシップの特徴であり,リミテ ッド・パートナーシップの場合は,パートナーは,パートナーシップの事業 における管理に関与しないことになる。⑤ パートナーは,パートナーシップの資産に対して利害を共有する。
⑷ スイフト事案 イ 本事案の基礎データ
この事案の判決は,2010年2月22日に下級審判所
( First-tier Tribunal )
で 出されている。対象となる年度は,1997年4月6日から2004年4月5日の7課税度分である。本事案は,個人の所得税に関するもので,個人の所得
税では1996・1997年から申告納税制度となっている。したがって,本事案 は申告納税制度適用年度の事案ということになる。本事案は後述するアンソン事案の最初の判決で,匿名で行われたことか ら,原告の氏名が異なっている。
ロ 本事案の概要
原告
S
は,1996年設立の米国デラウェア州のLLC
の利益に課された米 国所得税等について,英国で外国税額控除の適用可能性か争われた事案で ある。英国課税当局(HMRC
)は,当該LLC
を納税主体と認定し,LLC
か らの所得が英国において配当として課税を受けていないとした。判決は,米国所得税については,英米租税条約により
28)
,そして,当該LLC
がボス トンで活動していたことからマサチューセッツ州税(以下「 M
州税」とい う。)
が課され,これについては英国国内法に基づいて外国税額控除が認 められるとした。本事案の判決は,LLC
を納税主体とするHMRC
の従来 の見解に反するものである。ハ 事実関係
本事案の事実関係は次のとおりである。
① 原告は,1997‑98年度英国居住者
(永住者ではない)
であり,1991年28) 現行の英米租税条約は,2001年署名,2003年適用の第3次租税条約である
が,この第3次租税条約が適用になるまでの期間は,1975
年署名の第2次租 税条約の適用である。以降,
Sandpiper
社の使用人である。② 原告は,デラウェア州法により設立された
Sandpiper LLC
(以下「
SLLC
」)という。)の創立者である。課税年度は,1997/ 98年度から 2003 / 2004年度 (以下「対象期間」という。 )
である。③ 原告は米国非居住者である。
④
SLLC
の利益は,LLC
の約款に定められた割合により分配された。⑤
SLLC
の対象期間に生じた利益は,米国連邦税とM
州税が課され た29)
。⑥
SLLC
は,米国においてチェック・ザ・ボックスルールの適用を受 けてパートナーシップとしての課税を選択した。その結果,原告を含 むパートナーを納税義務者とする構成員課税となり,SLLC
からの分 配金は,連邦税とM
州税が課された。⑦ 原告は,米国非居住者として,
Form 1040 NR
の提出義務があった。また,
SLLC
は,外国人パートナーに対して39. 6%の税率の源泉徴収
義務があった。この源泉徴収税額は,原告の非居住者申告では税額控 除された。⑧ 原告は
M
州においても非居住者として申告を行った。なお,M
州 では,源泉徴収は行われなかった。⑨ 原告は1997年から2003年9月まで,
SLLC
からの分配金を受領し,1998年から2004年までの課税年度に SLLC
からの分配金を申告した。ニ 外国税額控除の適用
本事案の対象年度に適用となっていた期間における米国連邦税について は,1975年署名の第2次英米租税条約と2003年適用の第3次英米租税条約 であり,英国の外国税額控除に対する同租税条約の規定が適用された。な
29
) 米国では,チェック・ザ・ボックスルールが,1997
年1月1日から適用と なっている。お,第2次条約と第3次条約の二重課税の排除に係る規定に相違はない。
M
州税の外国税額控除については,英米租税条約の対象税目に地方税 は含まれていないため,M
州税の外国税額控除は英国国内法の適用であ る30)
。原告の英米における税負担は,所得100に対して米国の税額が45,税引 き後の所得55に対して,英国の税額が22である。原告は,英国居住者
( resident )
であるが永住者ではない(non-domiciled individual
)。そのため,英国源泉所得及び国外からの送金については英国で課税となる。
ホ
SLLC
を法人としたHMRC
の主張外国税額控除の適用に関して,
HMRC
は,SLLC
が構成員課税であれば 外国税額控除が適用できるが,SLLC
が団体課税であれば,外国税額控除 は認められないと主張した。メメック事案におけるアプローチを採用して,法人該当性について,
HMRC
は,以下のような要件を掲げた。① 法的実体
( legal entity )
② 事業遂行③ 事業遂行の主体 ④ 債務と義務を負うこと ⑤ 事業の所有
⑥ 事業の利益のすべてに受益者としての持分を有すること
これらの要素は,
SLLC
に該当するので,SLLC
は英国では団体課税と なる。へ 採決
前述したメメック事案では,当該事案におけるドイツのパートナーシッ
30) 英国国内法の規定は1988年所得・法人税法の790条4項である。
プが英国のパートナーシップ(
England or Scottish Partnership
)の類似性が 焦点となったが,この判決では,このメメック事案のアプローチが採用さ れた。そして,デラウェア州法に基づくSLLC
の特徴が考慮され,利益が 構成員に帰属することから,上述の英国のパートナーシップ及び英国の会社(
UK company
)と以下のように比較した。① イングランドのパートナーシップは資産の共有等の特徴から法人
( legal person )
ではない。② スコットランドのパートナーシップは資産負債の所有等の理由から 法人である。
③ 英国の会社(
UK company
)は,有限責任等の特徴から法人である。
SLLC
は,スコットランド・パートナーシップと英国の会社に近いが,所得帰属性の観点からパートナーシップという判断である。
⑸ アンソン(
Anson
)事案31)
イ 本事案の概要
本事案については,下記に示したように下級審判所,上級審判所,控訴 審,最高裁と4つの判決等が示されたが,本事案の米国デラウェア州設立 の
LLC
に対する構成員課税と団体課税とする見解がそれぞれの判決等に より異なるという結果になった。なお,本事案は原告が英国の租税法の適 用上の外国税額控除の可否である。2010年2月22日判決 First Tier Tribunal : John F.
Avery-Jones CBE and Ian Menzies-Conacher FCA
Swift v. HMRC [ 2010 ] UKFTT 88
米国
LLC
は構成員課税(原告側弁護士):
Jonathan Peacock QC
(被告側弁護士):
David Ewart QC
※以下も弁護士同じ。
31
) Anson v HMRC, [2015 ] UKSC 44 . なお,下級審判所から最高裁まで,原告
側と被告側の弁護士は同一である。①2011年8月3日判決
(法
人該当性)②2012年2月16日判決
Upper Tier Tribunal : Justice Mann
HMRC v. George Anson
①
[ 2011 ] UKUT 318
②
[ 2012 ] UKUT 59 (TCC)
米国
LLC
は団体課税(2011年8月3日の判決)
2013年2月12日判決 Court of Appeal (控訴審)
Lady Justice Arden Lord Justice Lloyd Lord Justice Laws
HMRC v. George Anson
[ 2013 ] EWCA Civ. 63 .
米国
LLC
は団体課税2015年7月1日判決 Supreme Court (最高裁) : Lord Neuberger
Lord Clarke Lord Sumption
Lord Reed
(判決文作成)Lord Carnwath
Anson v HMRC, [ 2015 ] UKSC 44
米国
LLC
は構成員課税ロ 本事案の事実関係
32 )
次の事実が追加される。① 米国の
LLC
の名称は,HarbourVest
(以下「HV
」という。)である。②
HV
は,米国において構成員課税を選択した。③ 納税義務者(
Anson
)は,英国居住者であるが,永住者(domicile
) ではないことから,米国源泉所得には英国への送金分が英国で課税に なることから,米国と英国の双方で課税を受けたと主張した。④
HMRC
の見解は,米国と英国において課税を受けた所得の種類が 異なることから外国税額控除の適用を受けることはできないというも のである。⑤ 下級審判所は,納税義務者の訴えを認めた。参考判例はメメック事
32
) 本事案の事実関係はSwift
事案で述べているが,Swift事案は匿名であるこ とから,名称等を実名にするために,再度事実関係を確認する。案である。
⑥ 上級審判所は,納税義務者が二重課税を受けていないという判断を 下した。その理由として,
HV
の資産及び利益に対して所有権的な利 害を有していないこと,HV
が英国のパートナーシップと類似性がな いことから,米国から払われた利益はHV
の利益であるという判断で あり,納税義務者は,HV
からの分配金を受け取る権利がないという ことである。ハ 最高裁における事実確認 争いのない事実
以下は本事案における争いのない事実である。
①
LLC
は,法的実体である。②
LLC
の事業活動はLLC
自身により行われている。③
LLC
の事業に使用されている資産はLLC
に帰属するもので構成員 ではない。④
LLC
は債務を負うことができる。下級審判所による事実認定
上記 に加えて下級審判所が行った事実認定を要約すると次のとおり である。
①
LLC
法に基づいて構成員はLLC
から資産の分配を受ける権利があ る。②
LLC
の 持 分 は 原 則 譲 渡 可 能 で あ る が, 本 事 案 のLLC
規 約 書( agreement )
では原則譲渡できないことになっている。③
LLC
法では,LLC
の損益はLLC
規約書に基づいて構成員に分配す る。上級審判所
LLC
からの分配金が納税義務者に配分されて帰属するという下級審判所の判決に対して,上級審判所は外国税額控除を認めない判決を行った。
下級審判所と判断が相違した点は,下級審判所において
LLC
がスコッ トランドのパートナーシップと比較されたことである。イングランドとス コットランドのパートナーシップは多くの点で類似しているが,スコット ランドのパートナーシップは,独立した法人格(separate legal personality
) を有していることである。それ故に,パートナーは,パートナーシップの 資産に対して直接的な所有権を有していない。上級審判所の裁判官は,LLC
の構成員がLLC
の資産に対して所有権的な権利を有していないこと から,利益はLLC
に帰属し,英米において同一の所得ではないという判 断を下したのである。控訴審判決
第2次英米租税条約23条2条⒜は直接税額控除の規定であり,第23条
2項
⒝は間接税額控除の規定である。ただし,間接税額控除の規定は個 人には適用はなく,米国法人が英国法人に所定の配当を行った場合であ る。したがって,外国子法人を所有する外国パートナーシップから英国法 人への配当は,間接税額控除の適用は可能である。控訴審の裁判官の説明では,デラウェア州法は,その設立地の法により
LLC
の構成員の権利を管理している。LLC
の規約は,その法に従うこと を明白にしている。しかし,LLC
の所得が構成員の所得かどうかは,課 税する国の国内法の問題としている。これにより,LLC
の利益は構成員 に 帰 属 し な い。LLC
の 利 益 の 所 得 源 泉 は 事 業 の 場 所 で あ り, 控 訴 人(
Anson
)は,その利益の分配権を有していることになる。控訴人は,LLC
の資産の所有権を有していないことから,イングランドとスコットランド のパートナーシップのパートナーとは異なる位置にあるという判断であ る。
最高裁
33)
最高裁は,下級審判所判決に対する課税当局の批判を認めていない。上 告人が利益の分配を受ける権利があると判断し,米国において生じた所得 は,利益の分配額であるとしている。それ故に,英国に送金された部分に ついては英国で課税となる。上告人の英国における納税義務は,米国にお いて課税された同一の所得に関するものであることから,英米租税条約第
23条2項
⒜の直接税額控除が適用となる。最高裁の判断は,上告人の権利を
LLC
の設立地であるデラウェア法で 解釈した結果,上記の判断が生じたのであり,国内法に基づく判断を採用 していないため,上告人(Anson
)の訴えは認められたのである。最高裁判決の影響
英国の課税当局は