503 商学論纂(中央大学)第
59
巻第5・6号( 2018
年3月)外国事業体の法人該当性と課税 ⑶
矢 内 一 好
目 次 第1章 本論の概要 1 本論の目的
2 事業体課税2つの区分 3 租税回避との関連
第2章 日本における事業体課税の沿革と概要 1 米国
LLC
の課税(外国事業体の法人該当性)2 航空機リース事案(国内事業体の組合該当性)
第3章 米国デラウェア州
LPS
に係る判決 1 裁決(平成18年2月2日)2 裁判の動向
第4章 バミューダ
LPS
事案に係る判決1 バミューダ
LPS
事案の東京地裁判決・東京高裁判決等 2 デラウェアLPS
事案とバミューダLPS
事案の比較検討 第5章 米国における法人該当性の判例等1 分析の視角
2 モリセイ事案最高裁判決
3 キントナー事案判決とキントナー規則 4 チェック・ザ・ボックスルール規則 5 米国租税条約等における動向 (以上,商学論纂第
59
巻第1・2号)
第6章 カナダ・英国における法人該当性の動向 1 カナダ国内法の動向
2 米国・カナダ租税条約におけるハイブリット事業体の取扱い 3 英国の動向
(以上,商学論纂第59巻第3・
4号)
第7章 英国最高裁判決(アンソン事案)の影響
第7章 英国最高裁判決(アンソン事案)の影響
1 米国 LLC
に関する判決等の変遷英国における米国
LLC
について判決等の変遷は次のとおりである。1999年2月 New York LLC
を団体課税と認定(HMRC International Manual 180030)
2010年2月 Swift
事案(デラウェア州LLC
を構成員課税)(下級審判所)2011年8月 Anson
事案(デラウェア州LLC
を団体課税)(上級審判所)2013年2月 同上(デラウェア州 LLC
を団体課税)(控訴院)2015年7月 同上(デラウェア州 LLC
を構成員課税)(最高裁)2 英国課税当局 ( HMRC )
における外国事業体の判定基準HMRCは,International Manual (INTM)
180010において,1998年6月
の控訴審判決において国側が勝訴したメメック社(Memec)判決における アプローチ法を参考にして次の6つの判定要素を公表した1)
。① 外国事業体はその事業体に利害を有する構成員から法的に独立した 1 米国
LLC
に関する判決等の変遷2 英国課税当局(HMRC)における外国事業体の判定基準 3 メメック事案控訴審判決と米国のルーリング
4 アンソン事案の概要
第8章 比較法の観点からの事業体課税と法人該当性 1 本章における検討課題
2 法の適用に関する概念の整理 3 パートナーシップ等に関する基本資料 4 法人該当性の比較検討
第9章 租税裁定の視点からの分析 1 租税裁定の概要
2 事業体課税と租税裁定(以上本号)
実体であるのか。
② 事業体は,法人における株式と同様に,株式に類似するものを発行 しているのか。
③ 事業は事業体自身が行うのか,或いは事業体とは別に独立した利害 を有する構成員により共同で行われるのか。
④ 事業体と利害を有する構成員は,事業体の利益の分配を受ける権利 があるのか。或いは,分配される利益の金額は,利益の発生した期間 後に,利益を分配するために,事業体或いは構成員の決定によるの か。
⑤ 事業遂行の結果生じた債務にだれが責任を負うのか。事業体或いは 利害を有する構成員か。
⑥ 事業遂行に使用した資産は,事業体或いは利害を有する構成員に帰 属するのか。
これらの要素は,総合的に勘案されることになる。これらの諸要素に関 する場合,事業体の設立国の外国会社法に基づいて,事業体の内部構成が 考慮の対象となる。当該事業体の外国における租税法上の分類は判断基準 とならない。最終的な結論は,英国租税法によることになる。
3 メメック事案控訴審判決と米国のルーリング
英国における外国事業体の法人該当性に係るリーディングケースは,メ メック事案控訴審判決(以下「
M
事案」という。)2)
である。この事案は,英 国法人であるメメック社(以下「M
社」という。)が,ドイツの有限責任会1
) Tax bulletin39 of February 1999 .
2) 控訴審判決:Memec plc v. The commissioners of Inland Revenue [ 1998 ]
STC 754 . 高等法院(第一審)判決:Memec plc v. The commissioners of
Inland Revenue [ 1996 ] STC 1316.
社(
GmbH
:以下「G
社」という。)を所有し,M
社とG
社は,ドイツ法に 基づくパートナーシップ契約を締結し,M
社はG
社の利益の87. 4%を取
得した。この事案の争点は,G
社が子会社から受け取る配当について,M
社が当該子会社においてドイツで課された税について外国税額控除ができ るか否かということであった。このドイツの有限責任会社(
GmbH
)の法人該当性は,米国のRevenue Ruling 77‑214において検討され,当該事業体は,キントナー規則
(301 .
7701‑2 (a)
)に規定する6つの要件,①団体性,②事業を遂行し利益を分配する目的,③継続性のある実体,④経営の集中化,⑤有限責任性,
⑥持分権の譲渡可能性,により判定することになったが,本件の
GmbH
は,上記の6要件を有することから米国租税法上,団体と判断された。英国の
M
事案は,GmbH
の法人該当性が直接的な対象ではなく,ドイ ツ法に基づくパートナーシップ契約の性格が対象となり,この判決は,ド イツ法に基づいてパートナーシップ契約を英国のパートナーシップ法に基 づいてその特徴を分析し,M
社の所得はパス・スルーされたもので,ド イツ子会社からの配当とはいえないという課税当局の主張が認められたの である。要するに,次に述べるアンソン事案(以下「
A
事案」という。)は,M
事 案と同様に外国税額控除に関する事案であるが,課税当局の主張は,表面 的には正反対といえる。4 アンソン事案の概要 3)
⑴ アンソン事案の概要
アンソン事案(以下「
A
事案」という。)については,本論前号⑵で言及して3) HMRC v. George Anson [ 2013 ] EWCA Civ. 63 .
いるが,検討を始めるに当たり,同事案の概要を再度まとめることとする。
納税義務者(
Anson
)は,英国居住者であるが,永住者ではないことか ら(not domiciled in the U.K.
),米国源泉所得には英国への送金分が英国で課 税になることから,米国と英国の双方で課税を受けたと主張した。納税義務者の投資先は,米国デラウェア州で設立された
LLC
(名称:HarbourVest
:略称HV
)で,同LLC
は,米国において構成員課税を選択している。
⑵
A
事案の争点
A
事案の争点は,米国LLC
であるHV
が課税を受け,その利益が英国 に送金されると,永住者でない居住者である本事案納税義務者は,英国で 米国からの送金額に課税を受けることになる。当該納税義務者は,HV
が 米国において構成員課税であることから,HV
の所得は当該納税義務者に 帰属するとして,米国と英国の国際的二重課税であるとして,英国におい て外国税額控除を請求したのである。英国の課税当局(
HMRC
)の見解は,米国と英国において課税を受けた 所得の種類が異なることから外国税額控除の適用を受けることはできない というものであった。要するに,LLC
の利益は,LLC
に帰属する所得か,構成員に帰属する所得かということで,間接的に
LLC
の法人(団体)該当 性が争われた事案である。⑶
A
事案の分析視角
A
事案については,2つの分析視角があるものと思われる。第1は,前述の
M
事案が英国のパートナーシップ法を基準として判断 したのに対して,なぜ,異なる解釈をしたのかということである。従前か ら最終的には課税する国の法律と比較して判断するというM
事案の先例 がなぜ覆ったのかということである。第2は,最高裁判決が
A
事案の控訴審判決を逆転させて,納税義務者側勝訴としたが,その理由は,上記の第1と同様であれば,同じ分析視角 ということになる。
⑷
A
事案控訴審判決こ の 控 訴 審 判 決 は,2011年8月
3日 に 出 さ れ た 上 級 審 判 所
(Upper
Tribunal
)の判決と同様の判断を示したことになる。また,2010年2月22日判決の下級審判所(
First Tier Tribunal
)は米国LLC
の構成員課税を支持 する判断を示している。以下は,控訴審におけるアーデン裁判官(Lady Justice Arden
)が示した判断の要約である4)
。① ある者が2つの課税管轄において同一の利益或いは所得に課税を受 けたか否かを判定する基準は,個々の課税管轄における利益或いは所 得の源泉が同じか否かである。
② 納税義務者が,契約の一方の当事者であることを理由として事業体 の利益に対する権利を有するか否かをという場合,その契約が他の源 泉から生じた利益に対する権利を保障するものよりも,利益の実際の 源泉であることを納税義務者は示す必要がある。
③ 下級審判所の
LLC
の利益が構成員に帰属するという判決は法律の 適用の誤りであるという上級審判所の結論は妥当である。④ 米国
LLC
の利益は構成員に帰属しなかったという上級審判所の判 断は正しい。このポイントは,米国
LLC
の取得した利益或いは所得が当該LLC
をパ ス・スルーしてLLC
への投資家である構成員に帰属する所得となるのか,或いは,
LLC
自体が独立した事業体であるため,LLC
の取得する利益或 いは所得と,LLC
から流出する利益或いは所得は別であるという見解に 至った理由は何かということになる。4
) アンソン控訴審(HMRC v. George Anson [2013 ] EWCA Civ. 63 .)para. 57
‑58 .
イ 下級審判所判決に対する批判
下級審判所の示した判断によれば,
LLC
は独立した事業体であるが,その事業が構成員により行われていること,
LLC
の資産はLLC
が所有す るもので構成員は所有しないこと,LLC
は債務返済の責任を有すること,LLC
は,出資資本に類似するものを所有していないこと,かつ,その資 本は,英国のパートナーシップにおけるパートナーシップ資本と類似する 点が多いというものであった。結果として,LLC
の構成員は生じた利益 に対する法的権利(entitlement to profits
)を有するとしている。下級審判所は,
LLC
の構成員が利益に対する法的権利を有していると 判断していることである。これは法の適用上の誤りである,としている。ロ
M
事案に対するアーデン裁判官の見解5)
アーデン裁判官は,
M
の事案について次のような見解を示している。すなわち,
M
事案は,事業体の利益と構成員の利益が同一かどうかを決 定するためのアプローチを確立している。利益が事業体により稼得される 場合で,かつ,事業体の構成員として納税義務者への利益の帰属が構成員 間の契約である場合,その利益は当該事業体からの所得とは異なるもので ある。契約が存在するという事実が示すものは,利益に関する権利を或る 者から他の者に移転することである。構成員が有しているのは生じた利益 に対しての分配権(proprietary right
)であり,法的権利ではない。
M
事案におけるギブソン(Peter Gibson L. J.
)裁判官の判断によれば,ド イツにおいて締結されたパートナーシップ契約(silent partnership
)は,英 国及びスコットランドのパートナーシップとは異なるとした。ハ 上級審判所の判決を支持する理由
6)
上級審判所の判決は,構成員が
HV
の利益に対する分配権を有している5
) アンソン控訴審(HMRC v. George Anson [2013 ] EWCA Civ. 63 .)para. 76
‑86 .
のであって構成員に帰属しないというのが結論である。これについては,
控訴審におけるアーデン裁判官も同意見である。
原告側弁護士(
Mr. Peacock
)の意見では,HV
はパートナーシップに類 似しているというものであるが,HV
は,独立した法人格を有している。また,同弁護士は,構成員が
HV
の利益に対して法的権利を有している理 由を挙げているが採用されなかった。⑸ 最高裁判決
上級審判所が下級審判所の判断を法の適用上の誤りとしている件につい ては根拠のないものである。上告人(
Anson
)は,持分に応じて利益の配 賦を受ける権利があることから,米国と英国の二重課税になり外国税額控 除を受ける権利がある,というのが最高裁の判断である。⑹ 小 括
A
事案は,米国のLLC
がパス・スルー課税(米国ではパートナーシップと 同様の取扱い)であることから,米国においてその配分所得に対して非居 住者課税があり,同所得を英国に送金すると,原告は,永住者でない居住者 として当該送金された所得に課税が行われる。原告は英国において外国税 額控除を請求したが,課税当局は米国において課税を受けた所得が原告の ものではないという理由でその請求を認めなかったことで,訴訟となった。下級審判所は,構成員間の
LLC
契約により,LLC
の利益が構成員に帰 属すると判断したことで,同一所得について米英両国において二重課税と なることから,英国において外国税額控除を請求することを認めた。その 場合,英米租税条約における二重課税排除条項(同租税条約第23条)の適用 の検討対象となる。その判断の根拠は,LLC
の所得が英国の租税法の適 用上,パートナーシップ所得と類似するということである。6) アンソン控訴審(HMRC v. George Anson [ 2013 ] EWCA Civ. 63 .)para. 9 .
上級審判所と控訴審は,課税当局の請求を認めた。控訴審は,所得の同 一性よりも,
LLC
の利益に対する法的権利がないと判断した。また,LLC
の構成員は,英国パートナーシップのパートナーと同様の地位になく,米 国LLC
は,パス・スルー事業体ではないと判示したのである。最高裁は,上告人である
Anson
の請求を認めた。LLC
に生じた利益に 対して分配権を焦点とした。英国最高裁は,結果として,米国LLC
をパ ス・スルー事業体と認めたことになるが,本判決では,この点が明確では ない。この判決は,下級審判所と同様な内容であるが,デラウェア州法及 びLLC
の特別な性質の結果,上告人とLLC
の他の構成員が自動的にその 利益に対する権利を有するという統合効果(combined effect
)が,同一所得 に大きな影響を及ぼしている。別の側面からすると,最高裁判決は,事業体設立国における法的関係を 尊重し,その上で,第2段階として英国の法令等を参考にして最終的に事 業体の課税を検討するという方法を採用していない。検討の焦点が所得の 同一性に絞られているのである。
第8章 比較法の観点からの事業体課税と法人該当性
1 本章における検討課題
本論第1章から第7章まで,日本,米国,カナダ及び英国における事業 体課税と法人該当性を中心にして検討を重ねてきたが,本章は,これまで の検討を集約して分析することを目的としている。
本論における基本的な発想は,外国の事業体を通じての,インバウン ド・アウトバウンド双方の取引がある点では各国共通であり,各国が直面 している課税問題については,共通する部分と異なる部分がある。
全般的に事業体課税に共通する事項は,その事業体に対する課税方法 が,その出資者等である構成員に課税し事業体自身を納税主体としないパ
ス・スルー課税(構成員課税),或いは,事業体自身を納税主体とする団体 課税のいずれかという点である。
そして,異なる点は,各国の租税法を始めとして事業体に係る法令等の 相違,このような法令等の相違に基づいた司法判断の相違等がある。
2 法の適用に関する概念の整理
事業体課税については,次に掲げるような2つの領域がある。
① 国内事業体における構成員課税と団体課税の区分 ② 外国事業体における構成員課税と団体課税の区分
特に,上記②の場合における事業体の権利能力について,次の2つの 考え方が対立する
7)
。従属法主義 事業体がその設立地で当事者能力が認められていれば日本 でも認めるという考え方(設立地の法を準拠法とするもの)
法廷地法主義 法廷地である国の法令により当事者能力を判断する考え方
3 パートナーシップ等に関する基本資料
⑴ パートナーシップの定義
パートナーシップは,英国において少数の者により事業を行う共同体と して進化し,その後に英連邦の国々,米国等において利用されるに至った ものである。
米国の統一パートナーシップ法(以下「UPA」という。)
8)
において,パー7
) 小梁吉章「パートナーシップの法人格と当事者能力─日本とフランスの比 較検討─」『広島法科大学院 第8号』2012年,26頁。8
) 米国統一パートナーシップ法(Uniform Partnership Act)は,当初1914
年 に制定され,その後,改正されて本稿では,1997年改正版を使用している。トナーシップは,次のように定義されている
9)
。「パートナーシップとは,2以上の者が利益を目的として共同して事業 を営む団体(
association
)である。」米国の内国歳入法典第7701条⒜⑵にあるパートナーシップ及びパート ナーの定義は次のとおりである。
「パートナーシップは,事業,財務活動或いは投機を行うためのシンジ ケート(
syndicate
),グループ(group
),プール(pool
),ジョイント・ベンチャー(
joint venture
)或いは法人ではない組織を含み,信託,遺産財団(
estate
),法人(corporation
)を含まない。」「パートナーは,シンジケート,グループ,プール,ジョイント・ベン チャー或いは組織の構成員を含む。」
米国内国歳入法典におけるパートナーシップの課税に関しては,
K
節(
subchapter K
)第701条から777条に規定があり,パートナーシップは納税主体ではなく,パートナーに課税する構成員課税である。
⑵ パートナーシップの性格
イ 米国におけるパートナーシップの性格
UPA
第2款(Article
)第201条(実体としてのパートナーシップ)は次のように規定している。
「パートナーシップは,パートナーから独立した実体である。」
また,同法第3款第307条⒜では,パートナーシップが自己の名前で訴 訟の当事者になることが規定されている。
ロ 英国におけるパートナーシップの性格
英国における1890年制定のパートナーシップ法
10)
第1条第1項のパー トナーシップの定義は,次のとおりである。なお,リミテッド・パートナ9
)1997
年米国統一パートナーシップ法,第1節第101
条6項に定義がある。10) Partnership Act, 1890 ( 53&54 Vict.) (Ch. 39 ).
ーシップ法の制定は1907年である
11)
。「パートナーシップとは,利益を追求するために共同して事業を遂行す る者間の関係である。」
また,同法第4条第1項では,パートナーの集合体を事業体(
firm
)と 称し,事業をこの事業体の名称で行うことができる旨規定されている。そ して,同条第2項では,スコットランドでは,この事業体は,パートナー から独立した法人(legal person
)と規定している。この英国におけるパートナーシップの定義が,前述した判例に影響を及 ぼしている。
⑶ パートナーシップの類型
法制史的に見ても,パートナーシップは,パートナーが全員無限責任で あるジェネラル・パートナーシップから,無限責任を負うジェネラル・パ ートナーと有限責任を負うリミテッド・パートナーから構成されるリミテ ッド・パートナーシップへと展開してきたことは明らかである。
以下は,パートナーシップの形態別区分である。
general partnership
パートナーが全員無限責任limited liability partnership
(LPS
) パートナーが無限責任と有限責任limited liability company
(LLC
) 出資者全員が有限責任limited liability partnership
(LLP
) パートナーが全員有限責任⑷ 日本における事業体の区分
日本とフランスは,英米等と異なり,パートナーシップ法が制定されて いない
12)
。日本において課税上問題となる事業体は次のとおりである。11
) Limited Partnership Act,1907 ( 7 Edw. 7 Ch. 24 ).
12) 同上43頁。
民法上の組合 組合員は無限責任(民法第667条〜第688条)
匿名組合 組合員は無限責任と有限責任(商法第535 条〜第542条)
合同会社(日本版
LLC
) 平成18年5月1日施行社員全員が有限責任(会社法第576条第4 項)
中小企業等投資事業有限責任 組合(平成10年11月施行)
無限責任組合員と有限責任組合員による組 合(中小企業等投資事業有限責任組合契約 に関する法律)
平成16年に「投資事業有限責任組合に関す る法律」に改称
投資事業有限責任組合(平成16 年名称変更)(日本版
LPS
法)無限責任組合員と有限責任組合員による組 合。
有限責任事業組合(平成17年
8月施行)
(日本版LLP
法)出資者全員が有限責任
⑸ 英国における事業体の区分
英国における事業体との区分と根拠法は次のとおりである。
general partnership 1890年法
limited liability partnership(LPS) 1907年法 limited liability partnership
(LLP)2000年法
4 法人該当性の比較検討
⑴ 日本における
LLC
関連事項 イ LLC裁判等の動向以下は,すでに述べた事項と重複するが,比較検討ということで,再度
LLC
に関する事項を整理すると以下のとおりである。判 決 日 等 平 成13年2月26日 裁 決( 裁 決事例集
No. 61,102頁)
米国で設立された
LLC
はわが国の租税法上「法人格」を持った法人であるという判断が 示された。
平成13年6月 国税庁が「米国
LLC
に関する税務上の取扱 い」を公表し,LLC
が米国の税務上,法人 課税又はパス・スルー課税のいずれを選択す るにせよ,原則的にはわが国の税務上,外国 法人として取扱うこととなった。平 成15年11月
6日 第3
次 日 米租税条約署名条約4条6項に事業体課税に係る租税条約の 適用の条文が創設された。
平成19(2007)年5月16日 さいたま地裁判決(平成17(行ウ)3)にお い て, 米 国 ニ ュ ー ヨ ー ク 州 で 設 立 さ れ た
LLC
は日本の租税法上法人にあたるという 判決が示されている。(控訴審:東京高裁:平成19年10月10日)
平成19年10月10日 米国ニューヨーク州
LLC
(東京高裁)日本では,
LLC
に関しては,不服審判所の裁決,さいたま地裁判決(同 事案の東京高裁判決)があり,国税庁によるLLC
通達があり,また,日米 租税条約では,ハイブリット・エンティテーの調整規定がある。結論とし て,米国LLC
は,日本の租税法上,法人として扱うことになっている。ロ
LLC
判決(さいたま地裁判決の要点)我が国租税法上の外国法人に該当するかについての裁判所の判断は次の とおりである。
① 我が国の租税法上,法人そのものについて定義した規定はない。
② 租税法上の法人は,民法,会社法といった私法上の概念を借用し,こ れと同義に解するのが相当である。
③ 我が国の租税法上,「法人」に該当するかどうかは,私法上,法人格を 有するか否かによって基本的に決定されていると解するのが相当である。
④ 本件
LLC
が法人格を有するか否かについては,米国ニューヨーク州法 の内容と本件LLC
の実質に基づき判断するのが相当である(民法36条,会社法933条,旧商法479条,法の適用に関する通則法等参照)。
⑤ 本件
LLC
を被告の主張する英米法上において法人格を有する団体の要 件に当てはめると,本件LLC
は,NYLLC
法上,法人格を有する団体とし て規定されており,自然人とは異なる人格を認められた上で,実際,自 己の名において契約をするなど,原告等からは独立した法的実在として 存在していることが認められ,我が国の私法上或いは租税法上の法人に 該当すると解するのが相当である。⑥ 原告は,
NYLLC
法に基づき設立されたLLC
は,有限責任制,内部自治 原則及び構成員課税を採用している点で,日本版LLC
とされる合同会社 ではなく,むしろ有限責任事業組合に相当するもので,原告は我が国の 租税法上の法人には該当しない旨主張するが,我が国における有限責任 事業組合は,民法上の組合の特例として創設されたものであり,出資者 が有限責任を享受するとしても,組合であって,法人ではなく,組合自 体の名義で財産を所有したり,契約を締結したりすることはできない。そうすると,本件
LLC
が我が国における有限責任事業組合に相当すると はいえず,原告の上記主張は採用できない。上記の判断の基準は,最初に現地の法令により法律関係を規律し,次に 課税する国の法律により
LLC
の実質に基づき判断するとしている。⑵ 日本における米国
LPS
関連事項米国
LPS
については,デラウェア州LPS
であるが,判決等は以下のと おりである。東京,名古屋,大阪の各裁判所において米国LPS
の裁判が 行われたが,平成27年7月17日に名古屋の事案について最高裁判決が出さ れ,東京と大阪の事案は,最高裁上告不受理となり,決着を見たのであ る。イ 判決等の動向
上記に述べた判決等の動向は以下のとおりである。
判決日等 平成18年2月2日
( 裁 決 事 例 集
No.
71 118頁)
請求人は米国
LPS
を投資事業有限責任組合と類似して いることから民法上の組合と同様に扱うことを主張し たが審判所で採用されず,不動産所得ではなく雑所得 と判断された事案平成22年12月17日 米国デラウェア州
LPS
(大阪地裁)(国側勝訴)平成23年7月19日 米国デラウェア州
LPS
(東京地裁)(納税義務者勝訴)平成23年12月14日 米国デラウェア州
LPS
(名古屋地裁)(納税義務者勝訴)平成24年7月2日 米国
LPS
裁決平成25年1月24日 米国デラウェア州
LPS
(名古屋高裁)(納税義務者勝訴)平成25年3月13日 米国デラウェア州
LPS
(東京高裁)(国側勝訴)平成25年4月25日 米国デラウェア州
LPS
(大阪高裁)(国側勝訴)平成27年7月17日 米国デラウェア州
LPS
(名古屋:最高裁)(国側勝訴)平成27年7月17日 米国デラウェア州
LPS
(東京・大阪)最高裁上告不受理ロ 最高裁判決の要点
外国法に基づいて設立された組織体が外国法人に該当するか否かを判断 する基準は次のとおりである。
第1段階(これ が明らかでない ときは第2段階 に進む。)
当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕 組みから,当該組織体が当該外国の法令において日本法 上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は 付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか 否かを検討する。
第2段階 当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか 否かを検討して判断すべきものであり,具体的には,当 該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から,当 該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ,か つ,その法律効果が当該組織体に帰属すると認められる か否かという点を検討する。
要するに,上記の第1段階を検討し,これが明らかでない場合,第2段 階により判断することになる。
⑶ ケイマン,バミューダ
LPS
関連事項ケイマン,バミューダにおいて設立された
LPS
に係る判決の動向は次 のとおりである。判決日等
平成17年12月21日 ケイマン
LPS
(名古屋地裁)船舶リース 平成19年3月8日判決 ケイマンLPS
(名古屋高裁)船舶リース 平成20年1月24日 ケイマンLPS
(岐阜)平成20年3月27日 ケイマン
LPS
(名古屋)船舶リース:最高裁不受理 平成24年8月30日 バミューダLPS
(東京地裁)平成26年2月5日 バミューダ
LPS
(東京高裁)(納税義務者勝訴)平成27年7月17日 バミューダ
LPS
(東京)最高裁上告不受理決定いずれも国側は敗訴しており,米国
LPS
事案の裁判とは対照的な結果 となっている。その原因は,LPS
設立地における法律により,当該LPS
の性格が組合に近いという判断から法人に該当しないという結論になった ものと思われる。⑷ 米国における法人該当性の動向
米国における法人該当性に関連する事項は次のとおりである。
① 1935年 モリセイ事案最高裁判
② 1954年 キントナー事案控訴審判決
③ 1960年制定 キントナー規則(
Kintner Regulations
)④ 1997年1月1日施行 チェック・ザ・ボックスルール規則(
Check-the-
box Classification Regulations
米国の場合は,上記④を除いて,クロスボーダーの事業体課税問題は 検討対象ではない。外国事業体に関する歳入ルーリングは次のとおりであ る。
Revenue Ruling 73‑254
米国市民が外国の事業体(非法人組織)に出資をしてそ の構成員となった場合,構成員間の法的関連及び持分は その事業体所在地国の法律の適用となることが規定され ている。
Revenue Ruling 77‑214
ドイツの
GmbH
は,キントナー規則6要件を有すること から米国租税法上,団体と判断された。Revenue Ruling 88‑8
外国法に基づいて組織された組織は財務省規則 §301
. 7701‑2に掲げた基準に基づいて租税法上の取扱いが判断
される。Revenue Ruling 93‑4
GmbH
の取扱いの再検討である。法人としての特徴であ る4要件のうち3要件を有することから,米国租税法上 団体として扱われる。米国は,外国事業体に関する歳入ルーリングを発遣しているが,上記の
Revenue Ruling 73
‑254
は,具体的に説明はしていないが,構成員間の法 的関連及び持分は事業体設立地国における法律関係の適用をすることにな っている点で注目しておく必要がある。⑸ カナダにおける法人該当性の動向
カナダにおける法人該当性に関する動向は下記のとおりである。
判決日等
1970年4月2日 Economics Laboratory
(Canada
)Ltd. v. M.N.R., 70 D.T.C.
1208( T.A.B.
).
(外国の事業体であるドイツの有限責任会 社(GmbH
)の損失をカナダ居住者が控除できるかどう か が 争 わ れ た 事 案 で,2
段 階 ア プ ロ ー チ(two-step
approach
)が初めて示された事案1976年9月7日 Interpretation Bulletin IT- 343(法人という用語の意義)
1977年9月26日 Interpretation Bulletin IT- 343 R
(IT- 343の改訂版):この2
つの文書は,法人(corporation
)に関する見解と,外国 の事業体で法人となるものを列挙している。2001年3月1日 Backman v. Canada
(2001SCC 10)(判決):カナダ・パー
トナーが,含み損のある不動産を所有するパートナーシ ップであるC
の持分を当初のパートナーから譲り受け,それを時価で元のパートナーに譲渡することで譲渡損を 発生させ,その譲渡損を確定申告において控除したので あるが,課税当局がこの損失の控除を否認したもので,
裁判では,本事案における唯一の目的は,含み損の取得 であると断じている。租税裁判所及び連邦高裁は納税義 務者側敗訴となっている。そして,納税義務者側は,上 告したがその訴えは却下されたのである。
2008年9月22日 Income Tax – Technical News No. 38( Foreign Entity
Classification
):2段階アプローチを改め,準拠法及び合意の下における構成員と構成員の権利と義務の関連性の 性格が最も重要な属性ということになった。
このように,カナダにおける2段階アプローチについて内容に変遷があ るが,基本的にこの方式は維持されているのである。
米国のデラウェア州は,
2000
年に改正統一パートナーシップ法(DelawareRevised Uniform Partnership Act:以下「DRUPA」という。)
を制定した。このDRUPA
は,2000
年に制定され,2001
年から施行されたものであるが,カ ナダの課税当局(Canada Revenue Agency :CRA)
の意見としては,当初,DRUPA
に基づいて設立されたパートナーシップは,基本的に構成員から独立した実体として,カナダ租税法上,法人とみなすという見解であった が,その後に見解は変更され,DRUPAに基づいて設立された実体の属性 は,共同して事業を行う等の点から,カナダのコモンローにおけるカナダ のジェネラル・パートナーシップと類似しているとして,カナダの租税法 上,当該事業体をパートナーシップとした。この見解の変更は,上述した ように,No.
38
により改正されたのである。日本における米国
LPS
事案のデラウェアLPS
が1990年改正の適用であ り,カナダの課税当局に影響を与えたDRUPA
が2001年改訂と異なってい ても,LPS
が独立した法的主体であるという点は共通している。米国LPS
事案についての日本の最高裁判決とカナダにおける2段階アプローチは,法人該当性に関して同様の手法を用いていながら,米国のデラウェア州
LPS
の法人該当性について異なる判断を下したことになる。結果としてい えることは,法人該当性については,その判定の手法が同じであっても,課税する国において,法人或いはパートナーシップを判定する居住地国に おいて根拠法が異なると異なる結果になるということである。
第9章 租税裁定の視点からの分析
1 租税裁定の概要
租税負担を軽減する行為として,租税裁定或いは租税裁定行為若しくは 租税裁定取引(
tax arbitrage
)という用語(以下「租税裁定」という。)がある。金子宏名誉教授によれば,租税裁定は,状況次第で節税にあたる場合と 租税回避にあたる場合とがありうると,租税回避との関係が説明されてい る
13)
。そして,この用語の定義は,中里実教授の著書にあることが注書さ れている14)
。この記述によれば,租税裁定は,課税における様々な(法的,ないし,取扱い上の)差異を利用して租税支払の減少を図ろうとする納税者 の経済的行動のことである,と説明されている。
2 事業体課税と租税裁定
ここまで各国の事業体課税の分析を通じて,基因となる問題点は異なる にせよ,結論部分における同一の事業体に対する租税法上の適用関係が国
13
) 金子宏『租税法 第18
版』弘文堂,123
頁。14) 中里実『タックスシェルター』有斐閣,11頁。
により或いはその事業体の設立国により異なることが判明した。
⑴ 日本の場合
LPS
の設立地により日本において租税法上の取扱いが次のように異なっ ている。米国デラウェア
LPS
法人該当性が認められた。ケイマン・バミューダ
LPS
法人該当性が認められなかった。⑵ 日本とカナダの場合
米国デラウェア
LPS
について,日本とカナダにおいて租税法上の取扱 いが次のように異なっている。日本 法人該当性が認められた。
カナダ カナダの租税法上,当該事業体をパートナーシップとした。
⑶ 日本と英国における米国
LLC
の取扱い米国
LLC
について,日本と英国において租税法上の取扱いが次のよう に異なっている。日本 平成13年6月の国税庁通達において米国
LLC
を法人として 扱うこととし,平成19年10月10日の東京高裁判決において も米国ニューヨーク州LLC
を法人とする判決が出された。英国
A
事案最高裁判決(Anson v HMRC, [ 2015 ] UKSC 44)におい
て,間接的ではあるが,米国LLC
は英国租税法上構成員課 税とする判断が示された。⑷ 判定基準の各国比較
外国事業体を自国の租税法上どのように判定するのかという点では,米 国のチェック・ザ・ボックス・ルールがあるが,判定基準としては,カナ ダの2段階アプローチが明確な内容である。
米国の
Revenue Ruling 73‑254,日本,カナダ,英国においても,外国
事業体の租税法上の法人該当性については,外国事業体設立国における法 律関係を第1段階とし,次に,課税する国の法令等比較検討することを第2段階とする点は各国共通の事項といえる。しかし,事例の内容により,
外国事業体に生じた損失を構成員に帰属させるか否かを争点とするもの,
外国税額控除を争点とするものにより,解釈に相違があることも事実であ る。
⑸ 租税裁定の可能性
要するに,同じ事業体に対して,国によりその取扱いが異なる場合,同 様の事業体であってもその設立国における法律関係等で団体課税とパス・
スルー課税に分かれる場合があるということは,租税裁定行為の余地があ るということになろう。ひいては,法人該当性は,移転価格税制,タック スヘイブン対策税制にも影響することになる。
しかし,このような問題点を防止するために,各国が足並みを揃えるこ とは無理がある。