序 文
Streptococcus milleri group(以下,SMG)は S.
anginosus,S. constellatus, S. intermedius の 3 菌種 の総称であり,口腔,咽頭,泌尿生殖器,消化管 などの粘膜の常在菌である.しばしば脳膿瘍,肺 化膿症,膿胸,腹腔内膿瘍など化膿性疾患の起因 菌となるが,本邦においては,SMG による肝膿瘍 に関する症例報告は少ない.我々は,最近 6 年間 における琉球大学附属病院第一内科および関連施
設において SMG が起因菌と考えられた肝膿瘍 12 症例の臨床的検討をおこなったので,文献的考察 を含めて報告する.
対象と方法
対象:琉球大学附属病院および同関連病院であ る 4 施 設 に お い て,1993 年 1 月 か ら 1998 年 12 月までの 6 年間に,腹部超音波検査または腹部 CT により肝膿瘍と診断された症例のなかで,経 皮経肝肝膿瘍ドレナージ(PTAD)あるいは経皮経 肝胆管ドレナージ(PTCD),または血液培養から SMG が分離された 12 例(Table 1) .
方法:対象となった 12 例のカルテをもとに,
Streptococcus milleri group による肝膿瘍 12 症例の 臨床的・細菌学的特徴
1)琉球大学医学部第一内科,2)岡山大学医学部附属病院中央検査部
金森 修三
1)新里 敬
1)豊田 和正
1)當山 真人
1)平田 哲生
1)仲宗根啓樹
1)比嘉 太
1)健山 正男
1)草野 展周
2)佐久川 廣
1)斎藤 厚
1)(平成 12 年 10 月 30 日受付)
(平成 13 年 2 月 8 日受理)
第73回日本感染症学会学術講演会座長推薦論文
1993 年から 1998 年までの 6 年間に経験したStreptococcus millerigroup(SMG)による肝膿瘍 12 例の 臨床的検討を行った.平均年齢は 53.4 歳,男性 11 例,女性 1 例であった.症状として発熱が 12 例(100
%),腹痛が 8 例(67%),食欲低下が 7 例(58%)で認められた.9 例(75%)に悪性腫瘍や糖尿病など の基礎疾患が認められた.発症原因として特発性が 5 例(42%)で最も多く,次いで胆管系の疾患が 4 例(33%)であった.3 例(25%)は悪性腫瘍の増悪により死亡した.12 例中 8 例(67%)は単独感染 であり,嫌気性菌との混合感染は認められなかった.分離された SMG には penicillin G や ampicillin に対 する耐性株は認められなかった.11 例で血液培養が実施され,8 例(73%)から SMG が分離された.血 液培養から SMG が分離される症例では本菌群による肝膿瘍も原因の 1 つとして考慮しなければならな い.
〔感染症誌 75:464〜468,2001〕
要 旨
別刷請求先:(〒903―0215)沖縄県中頭郡西原町字上原 207 番地
琉球大学医学部第一内科 金森 修三
Key words: Streptococcus millerigroup, liver abscess, blood culture 464
感染症学雑誌 第75巻 第 6 号
Table 1 List of liver abscess due to the organisms of Streptococcus milleri group alone or in combination.
Outcome Days in hospital Treatment
Causes No. of
abscess Location of
liver abscesses Blood culture
Isolated organisms from aspirates of liver abscess Underlying
Symptoms Age/
Case Sex
Dead 153 Drainage +
CPZ + TOB Biliary
Unknown Unknown
S. milleri group E. cloacae S. milleri group
Enterobacter cloacae Pseudomonas aeruginosa Cholangioma
Renal failure Fever, abdominal distention
itching, chilling, jaundice 57/ M
1
Dead 105 IPM + TOB
Cryptogenic 8
Both lobes S. milleri group
Not done Diabetes mellitus
AML Fever, fatigue
abdominal pain 76/ M
2
Cured 44 Drainage +
SBT/CPZ + CLDM Cryptogenic
2 Right lobe S. intermedius
Streptococcus intermedius Angina
Fever, chilling, fatigue 51/ M
3
Cured 20 Drainage +
MEPM + ABPC Contiguous
Solitary Left lobe
S. constellatus Streptococcus constellatus
Liver dysfunction Fever, chilling, fatigue
abdominal pain, jaundice abdominal distention, vigilance 53/ M
4
Cured 49 Drainage +
CPZ + PAPM Contiguous
Solitary Left lobe
S. intermedius S. anginosus
S. intermedius None
Fever, chilling, headache abdominal pain appetite loss, diarrhea 39/ M
5
Cured 23 IPM + CLDM
Cryptogenic Solitary
Left lobe S. milleri group
Not done None
Fever, chillng, headache appetite loss, vigilance 54/ M
6
Cured 41 Drainage +
CPZ + CLDM Cryptogenic
6 Both lobes S. intermedius
S. intermedius Diabetes mellitus
Fever, chillng, fatigue abdominal pain appetite loss 46/ M
7
Cured 31 Drainage +
SBT/CPZ + CLDM Biliary
Solitary Right lobe
S. milleri group S. milleri group
None Fever, appetite loss
abdominal pain, headache 51/ M
8
Cured 49 Drainage +
CEZ Biliary
Solitary Left lobe
Not done S. anginosus
Enterococcus faecalis Klebsiella pneumoniae Cholangioma
Fever, appetite loss abdominal pain, jaundice abdominal distention, fatigue 75/ M
9
Dead 92 Drainage +
PAPM Biliary
Solitary Right lobe
E. cloacae S. intermedius
Escherichia colli K. pneumoniae P. aerugunosa, E. cloacae Enterococcus faecium Cholangioma
Fever, chilling abdominal pain appetite loss, fatigue 81/ F
10
Cured 81 Drainage +
CFX + TOB Postoperative
Solitary Left lobe
K. pneumoniae S. milleri group
K. pneumoniae Gastric carcinoma
(Post operation)
Fever, chilling, tarry stool abdominal distention 58/ M
11
Cured 76 Drainage +
PCG + CTM Cryptogenic
Solitary Right lobe
Negative S. milleri group
Diabetes medilitus Fever, appetite loss
chilling, abdominal pain 39/ M
12
Streptococcusmillerigroupによる肝膿瘍症例の特徴465
6月20日
retrospective に解析を行った.統計学的検討は対 応のない Student-t 検定にて行った.
結 果
1.性および年齢
男性 11 例,女性 1 例で年齢は 39 歳から 81 歳
(平均 56.7 歳)と男性に多く認められた.
2.症状
発熱(12 例),腹痛(8 例),食欲低下(7 例)の 順に多かった.発症時体温の平均値は 38.9℃,中央 値は 38.8℃ で全例 38.5℃ 以上であった.
3.基礎疾患
悪性腫瘍の 5 例が最多で(うち胆管癌が 3 例) , 次いで糖尿病の 3 例であった.明らかな基礎疾患 を有していない症例は 3 例であった.
4.発症時の血液検査所見
白血球数の平均値は 15,900
µl,中央値は 15,600
µl で,1 例を除き 10,000
µl を超えていた.CRP の平均値は 18.6mg dl,中央値は 18.0mg dl であ り,10 例で 10mg dl を超えていた.肝胆道系酵素 の検査結果について平均値は T. bil が,2.9mg dl,
GOT が 105IU l ,GPT が 166IU l であり,中央値 は T. bil が 1.4mg dl,GOT が 57IU l ,GPT が 69 IU l であった.
5.病変部位,病巣数および感染経路
肝膿瘍の発生部位は,右葉が 4 例,左葉が 5 例,
両葉が 2 例,不明が 1 例で,単発が 8 例,複数個 確認されたのが 3 例 (それぞれ 2 個,6 個,8 個) , 不明が 1 例であった.感染経路は胆道経由が 4 例,
消化管経由が 2 例(胃穿孔,十二指腸穿孔の各 1 例) ,医原性が 1 例,原因が不明である特発性が 5 例であった.
6.肝膿瘍および血液からの分離菌
12 例中 9 例で膿瘍ドレナージ液培養と血液培 養が施行され,うち 6 例で両者の培養から SMG が分離され,3 例は膿瘍ドレナージ液からのみか ら分離された.2 例は血液培養のみ施行され,陽性 となった.1 例は膿瘍ドレナージ液の培養のみ施 行され,SMG が分離された.12 例中 6 例で菌種ま で同定しえ,うち 4 例から S. intermedius が分離さ れた.
7.治療
PTAD あるいは PTCD と抗菌薬化学療法を併 用されたのが 12 例中 10 例で,抗菌薬化学療法の み施行された症例は 2 例であった.使用された抗 菌薬のうちセフェム系抗菌薬が 7 例と最も多く,
うち 5 例で cefoperazone(CPZ)あるいは sulbac- tam cefoperazone(SBT CPZ)が使用されてい た.次いでカルバペネム系抗菌薬および clinda- mycin の 4 例であった.分離された SMG13 株に penicillin G(PCG)あるいは ampicillin(ABPC)に 対する耐性菌株は認められなかった.
8.入院期間および予後
入院期間は 20 日から 153 日で, 平均および標準 偏差は 63.7±39.2 日であった.12 例中 9 例は完治 あるいは軽快退院した. 死亡例は 3 例であったが,
いずれも悪性疾患の増悪が原因であった.これら 3 例の入院期間は 116.7±32.1 日であり,完治ある いは軽快退院した 9 例と比較して有意に長期間で あった(p<0.01) .
考 察
肝膿瘍は頻度が低い疾患であり,これまでの報 告
1―3)で は 入 院 患 者 の 中 で 0.014%〜0.033% で あ る.肝膿瘍の起因菌として分離頻度が最も高いの は, Klebsiella 属
4)〜6),Escherichia coli
3)7)8),SMG
9)〜11)とされている.1970 年代より,SMG が分離された 肝膿瘍の症例の報告
12)13)があるが, この菌群につい て の 理 解 が 浸 透 し て い な い こ と も あ り,単 に streptococci
14)とされているものや,alha-や beta- および gamma-hemolytic Streptococci,microaero- philic Streptococcus と さ れ て い る 報 告
7)15)の 中 に SMG が相当数を占めていると思われる.
現在,検査室において迅速同定キットを用いた SMG の菌種レベ ル ま で の 同 定 に は Rapid ID 32 Strep(bioMerieux Vitek Japan,Ltd.)が必要であ る
16).ゆえに,今回の検討では,この同定キット以 外により SMG に属する菌種に同定された菌株に ついては SMG と記載した.
今回検討した 12 症例において, 肝膿瘍発症との 関連がありそうな基礎疾患を有していたのは,糖 尿病,胆管癌の各 3 例,胃癌,白血病の各 1 例で あった.糖尿病および白血病は易感染性であり,
胆管癌症例では閉塞性化膿性胆管炎が惹起し,胃
金森 修三 他
466
感染症学雑誌 第75巻 第 6 号
癌症例では術後に肝膿瘍が発症した.
症状についてこれまでの報告
3)7)8)と比較すると,
発熱,悪寒,腹痛は同様に高頻度であったが,そ れらの報告で認められた嘔気・嘔吐の症状は今回 の検討では認められなかった.
発熱がある患者で,血液培養から SMG が分離さ れた場合は肝膿瘍の存在をも考慮に入れる必要が ある.今回の我々の検討では,肝膿瘍ドレナージ 液から SMG が分離された 10 症例中,血液培養検 査が施行されていた 9 例のうち,6 例から血液培 養より SMG が分離された.また 12 症例中 11 例 で血液培養が施行され,8 例から SMG が分離され た.肝膿瘍の起因菌として SMG が最も多く分離 された(16 例中 13 例)報告
9)では,血液培養が施 行された 11 症例の中で陽性であった 7 例うち 6 例から SMG が分離されており,またわれわれが 過去 6 年間に経験した SMG による敗血症 33 例 において病巣として最も頻度が高かったのが今回 検討した肝膿瘍 8 例(24%)であった.Casariego らの報告
17)でも,SMG が血液から分離された 32 例の敗血症患者の原発巣で最も多かったのは肝膿 瘍であり,9 症例(28%)について認められたとし ている.これらのことより,血液培養にて,SMG が分離された場合,本菌群による肝膿瘍を積極的 に疑い,腹部超音波検査あるいは腹部 CT による 早期検査を施行する必要があると考えられた.
肝膿瘍の発症に至る感染経路で多いものとし て,特発性や胆道感染
3)7)10)15)が報告されている.
我々が検討した SMG については,特発性のもの が最も多く 5 例,胆道感染と考えられるものが 4 例であり,基礎疾患として胆管癌が合併している 症例が 3 例あり,いずれも化膿性胆管炎から進行 したものであると考えられた.他に消化管穿孔に よる直達性と考えられるものが 2 例,胃全摘出術 後に発症し,術後合併と考えられた 1 例であり,
SMG に特異的な感染経路はないように思われた.
検討した 12 症例中,8 例については単独感染で あり,嫌気性菌との混合感染の症例はなかった.
Corredoria らも SMG による 肝 膿 瘍 の 79% が 単 独感染としている
10).本邦でも報告されている 6 症例全例が単独感染であった
18)としている.これ
らのことは,膿胸から分離される SMG は混合感 染の割合が多く,かつ,嫌気性菌との混合感染の 割合が多い
19)こととは対照的である.
SMG による肝膿瘍の発生部位は右葉に多く,膿 瘍数について複数生じることが多いこと
10)が報告 されているが,我々の検討では右葉,左葉はほぼ 同頻度であり,病巣数も単数であることが多く,
今後さらなる症例追加による再検討が必要である と思われた.
肝膿瘍の治療に関してはドレナージとともに抗 菌薬の投与が必須である.Limia らによる各種抗 菌薬の SMG180 株に対する抗菌活性についての 報告では PCG,imipenem,teicoplanin が優れてい た
20).治療の対象が肝膿瘍の場合,肝・胆道への 抗菌薬の移行を考慮する必要がある.今回の検討 では,治療に使用されていた抗菌薬として CPZ あるいは SBT CPZ が最も多かった.その理由と して,肝胆道系への移行が優れていることから使 用されたと考えられた. 分離された 13 菌株につい ては PCG あるいは ABPC 耐性株は存在しなかっ たが,Limia らはさらに PCG に中等度耐性を示す 菌株が 5.6% あるとしており,今後の動向に注意 する必要がある.
経過は,死亡した 3 例は原疾患にある悪性疾患
(胆管癌,白血病) が悪化したことが原因と考えら れた.SMG による肝膿瘍は感受性のある抗菌薬お よびドレナージを施行するなど適切な治療を早期 に開始すれば予後は良好であると考えられた.
以上,我々が経験した SMG が起因菌であった 肝膿瘍 12 症例について検討した.血液から SMG が分離された症例では肝膿瘍を積極的に疑い,腹 部超音波検査あるいは腹部 CT による早期検査を 施行し,適切なドレナージおよび抗菌化学療法を 施行することが重要であると考えられた.
謝辞:本稿を終えるに際し,貴重な症例および菌株を提 供してくださいました浦添総合病院:川西秀徳医師,松堂 裕子技師,北部地区医師会病院:大城健哉技師,沖縄県立 北部病院:山城正登医師,玉城勝利技師,中頭病院:玉那 覇榮一医師,古謝幸恵技師の皆様に深謝いたします.
本論文の要旨は第 73 回日本感染症学会総会(1999 年 3 月,東京都)において発表した.
文 献
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Clinical and Bacteriological Features of 12 Cases of Liver Abscess Caused by Streptococcus milleri Group
Shuzo KANAMORI
1), Takashi SHINZATO
1), Kazumasa TOYODA
1), Masato TOHYAMA
1), Tetsuo HIRATA
1), Hiroki NAKASONE
1), Futoshi HIGA
1), Masao TATEYAMA
1),
Nobuchika KUSANO
2), Hiroshi SAKUGAWA
1)& Atsushi SAITO
1)1)First Department of Internal Medicine, Faculty of Medicine, University of the Ryukyus
2)Department of Central Clinical Laboratory Okayama University Hospital
We described the clinial and bactriological features of 12 cases of liver abscess caused by Strepto- coccus milleri group(SMG) during a 6-year period from 1993 to 1998. The gender was 11 males and 1 female with their ages ranging from 39 to 76 years old(mean:53.4) . The common symptoms were fever(100%) , abdominal pain(67%) , and appetite loss(58%).Nine cases had underlying diseases such as carcinomas and diabetes mellitus. Predominant causes of the liver abscess were cryptogenic
(42%)and biliary tract disease(33%) . Three patients died of an exacerbation of the carcinoma. Eight cases(67%)was single infection of SMG and no mixed infection with anaerobes. No strains isolated in this series showed resistance against penicillin G and ampicillin. SMG was highly isolated from the blood culture in eight of the 11 cases(73%).Liver abscess should be taken into consideration as one of the causes of SMG septicemia.
金森 修三 他
468
感染症学雑誌 第75巻 第 6 号