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博士論文

Doctoral Thesis

論文題名 : レヴィ小体病診断のための123I-MIBG 定量法の開発

(Development of 123I-MIBG quantification method for Lewy body disease)

著 者 名 : 神谷 嘉人 Yoshito Kamiya

指導教員名 : 熊本大学大学院保健学教育部博士後期課程保健学専攻 伊藤 茂樹 教授

審査委員名 : 主 査 教授 冨口 静二 副 査 准教授 内山 良一 副 査 教授 伊藤 茂樹

2018年3月

(2)
(3)

目次

目次 ... 要旨 ... 謝辞 ... 略語一覧 ...

1序論 ... 9

1.1 研究背景 ... 9

1.2 核医学画像の撮像原理 ... 11

1.2.1 総論 ... 11

1.2.2 コリメータ ... 12

1.2.3 SPECT画像再構成法 ... 15

1.2.4 各種補正法 (減弱・散乱・分解能) ... 22

1.2.5 極座標表示 (polar map) ... 28

1.3 心臓交感神経機能検査 ... 31

1.3.1 交感神経の刺激伝達 ... 31

1.3.2 ノルエピネフリン (NE) ... 31

1.3.3 メタヨードベンジルグアニジン (MIBG) ... 32

1.3.4 対象疾患および鑑別対象疾患 ... 33

1.4 半定量評価法 ... 36

1.4.1 心臓・縦隔比 (H/M) ... 36

1.4.2 H/Mの問題点 ... 37

1.5 本研究の目的 ... 39

1.6 論文構成 ... 40

2本研究における倫理的配慮について ... 41

2.1 本研究における倫理的妥当性 ... 41

2.1.1 本研究における対象者の人権保護 ... 41

2.1.2 個人情報の保護の徹底 ... 42

2.2 対象者の選択方法 ... 42

2.2.1 対象者の選択および除外について ... 42

2.2.2 本研究で用いる画像データ ... 43

(4)

3章 2次元的心筋摂取定量法の開発と評価 ... 45

3.1 背景と目的 ... 45

3.2 方法 ... 47

3.2.1 定量原理 ... 47

3.2.2 入力カウント用のCCF作成 (𝐶𝐶𝐹𝑖𝑛𝑝𝑢𝑡) ... 48

3.2.3 出力カウント用のCCF作成 (𝐶𝐶𝐹𝑃𝑙𝑎𝑛𝑎𝑟) ... 49

3.2.4 123I-MIBGの肺洗い出し率と変動係数 ... 50

3.2.5 planar uptake indexH/Mの比較 ... 51

3.3 結果 ... 54

3.3.1 入力カウント用CCF (𝐶𝐶𝐹𝑖𝑛𝑝𝑢𝑡) ... 54

3.3.2 出力カウント用CCF (𝐶𝐶𝐹𝑃𝑙𝑎𝑛𝑎𝑟) ... 55

3.3.3 123I-MIBGの肺洗い出し率と変動係数 ... 55

3.3.4 planar uptake indexH/Mの比較 ... 56

3.4 考察 ... 59

3.4.1 入力カウント用のCCF作成 (𝐶𝐶𝐹𝑖𝑛𝑝𝑢𝑡) ... 59

3.4.2 出力カウント用のCCF作成 (𝐶𝐶𝐹𝑃𝑙𝑎𝑛𝑎𝑟) ... 59

3.4.3 123I-MIBGの肺洗い出し率と変動係数 ... 60

3.4.4 planar uptake indexH/Mの比較 ... 60

3.5 結論 ... 61

4章 3次元的心筋摂取定量法の開発 ... 62

4.1 背景と目的 ... 62

4.2 方法 ... 64

4.2.1 定量原理 ... 64

4.2.2 最適OS-EM再構成パラメータ (iteration数) の算出 ... 65

4.2.3 心筋ファントムを用いたplanarカウントとpolar mapカウントの関係 ... 67

4.2.4 polar map用のCCF作成 (𝐶𝐶𝐹𝑆𝑃𝐸𝐶𝑇) ... 68

4.2.5 SPECT uptake indexH/Mの比較 ... 70

4.3 結果 ... 73

4.3.1 最適OS-EM再構成パラメータ (iteration数) ... 73

4.3.2 心筋ファントムを用いたplanarpolar mapカウントの関係 ... 74

(5)

4.3.3 polar mapCCF (𝐶𝐶𝐹𝑆𝑃𝐸𝐶𝑇) ... 75

4.3.4 SPECT uptake indexH/Mの比較 ... 75

4.4 考察 ... 83

4.4.1 最適OS-EM再構成パラメータ (iteration数) ... 83

4.4.2 心筋ファントムを用いたplanarpolar mapカウントの関係 ... 83

4.4.3 polar mapCCF (𝐶𝐶𝐹𝑆𝑃𝐸𝐶𝑇) ... 84

4.4.4 SPECT uptake indexH/Mの比較 ... 84

4.5 結論 ... 86

5考察 ... 87

5.1 2次元的心筋摂取指標について ... 87

5.2 3次元的心筋摂取指標について ... 88

6結語 ... 90

参考文献 ... 91

業績一覧 ... 97

(6)

要旨

[ 目的 ]

メ タ ヨ ー ド ベ ン ジ ル グ ア ニ ジ ン (metaiodobenzylguanidine; MIBG) は , ノ ル エ ピ ネ フ リ ン

(norepinephrine; NE)の生理的類似体であり,生体内において NE と同様の挙動を示すため,

123Iodine (123I) を標識することにより,心交感神経機能を画像化できる.パーキン ソン病

(Parkinson’s disease; PD) やレヴィ小体型認知症 (Dementia with Lewy bodies; DLB) は,レヴィ 小体病 (Lewy body disease; LBD) と呼ばれ,心交感神経の異常がみられるこれらの疾患では,

123I-MIBG を正常に取り込むことができずに心臓への集積が低下する.また,アルツハイマー型

認知症 (Alzheimer-type dementia; AD) やパーキンソニズム (parkinsonism; PS) などは,心集積 異常がみられないことから,LBD疾患群との鑑別に用いられている.

心交感神経機能を示す指標として,心臓と縦隔の比 (heart to mediastinum ratio (H/M 比)) ある.H/M比は,胸部前面像 (胸部Planar) に関心領域 (region of interest; ROI) 内の平均カウ ントの比として得られ,簡便に心臓集積の度合いが評価でき半定量法として有効である. H/M 簡便であり,広く臨床利用されている指標であるが,平均カウントを用いることから,コリメータなど の性能に依存することが知られている.このことにより,H/Mの変動が施設間での相互評価を困難 にしていた.近年では,校正ファントムを用いて相互評価を可能にする試みがされているが,機器 更新のたびに校正ファントムの収集データが必要であり,その手続きに煩雑さを要する.

本研究の目的は,H/Mに替わるシステム性能に依存しない123I-MIBG SPECTを用いる心筋摂 取定量法を開発し,H/Mと比較することによって,その臨床的有用性を明らかにすることである.

[ 方法 ]

入力カウントを得るために,123I-MIBG 111 MBq をボーラス注入し,低中エネルギー汎用型 (low medium energy general purpose: LMEGP) コリメータを装着した検出器を胸部前面に配置し,

2分間の経時的撮像を行った.経時的収集の条件は,マトリクスサイズ128×128,収集倍率1.45,

ピクセルサイズ3.3 mmとした.入力カウントは半径3ピクセルのROIを肺動脈本幹へ配置し,時 間-放射能曲線 (time-activity cureve: TAC) を得た.初回循環ピークの area under the curve

(AUC) の積分値を入力カウントとした.Planar 収集の条件は,マトリクスサイズ 256×256,収集倍

1.45,ピクセルサイズ1.7 mmにてボーラス注入から15分後に5分間撮像を行った.撮影後に

マトリクスを 128×128 へ変換して H/M 解析を行った. SPECT 収集の条件は,マトリクスサイズ

64×64,収集倍率1.78,ピクセルサイズ5.4 mm にてPlanar画像に引き続き収集した.収集角度

は,360度 (1検出器あたり180度),収集方式step& shootにて楕円軌道,収集時間と投影方向 20 (sec/view) 60方向であった.

すべての収集において,エネルギーウィンドウを159 kev±10%で設定し,2検出器型SPECT装置

e. cam signature (東芝社製) とした.散乱補正および吸収補正は実施しなかった.

[ 結果/考察 ]

H/MSPECT uptake indexとの相関は,係数 r = 0.88と強い相関が示され,危険率p < 0.01 満で有意差が認められた.LBD 群と non-LBD 群における SPECT uptake index box-plot は,LBD群はnon-LBD群に比し有意に低値を示した (P < 0.01). LBD群の幅は0.40から1.89 (中央値0.63,四分位範囲0.52 - 0.82,分散0.130,95%信頼区間0.63 - 0.87) で,non-LBD群の 幅は1.23から2.80 (中央値1.70,四分位範囲1.53-2.03,分散0.127,95%信頼区間1.65-1.88) あった.LBD群とnon-LBD群のオーバーラップは1.25から1.23の範囲であり,最も小さかった.

H/MSPECT uptake indexReceiver Operating Characteristic (ROC) 解析では,SPECT uptake indexAUCH/MAUCよりも大きく有意傾向がみられた (p = 0.057).

従来の H/M 解析では平均カウントを用いているため,コリメータに起因する変動の影響があっ た.本法では,CCF を用いてカウントから放射能濃度へ変換するため,コリメータなどのシステム

(7)

性能に依存しない心筋摂取指標と考えられた.ROC解析によるSPECT uptake indexAUC は,H/Mに比し大きくなり有意傾向(p = 0.057)がみられたことから,SPECT uptake index法による 診断能は H/M に比して高く,かつオーバーラップが少ない解析法であり,臨床的な有用性が示 唆された.

心筋摂取定量法の開発は,入力に対する出力の比を基本的としている.入力カウントは胸部

RI-Angioから得られる肺動脈カウントのTAC解析から取得可能であり,出力カウントとしての心筋

polar map解析を用いる同定法であることから,個別に心外膜または心内膜にROIを設定する

必要がなく,安定的なROI設定が可能である.

[ 結論 ]

123I-MIBG の薬物動態および血行動態力学に基づいて,胸部 RI-Angio 画像の数学的・統

計学的解析による入力カウントおよび心筋SPECT画像のPolar map解析による出力カウント を用いて3次元的心筋摂取指標法 (SPECT uptake index) を構築した.この方法は,CCF 用いてカウントから放射能濃度へ変換するため,コリメータなどのシステム性能に依存しない 方法であり,かつ,診断能も H/M よりも優れていたことから,本法の臨床的有用性は高いと考 えられた.

(8)

6

謝辞

本学博士課程での研究活動において,多くの方々からのご指導,ご支援を頂きました.

指導教官である伊藤茂樹教授には,小生が本学入学に際し悩んでいるところ,博士課程 に在籍する前より多くのアドバイスや支援をいただきました.課程在籍中も研究方法や論 文執筆に関することのみならず,研究に対する姿勢,社会人としての態度のあり方まで終 始学ばせていただきました.最後まで,懇切かつ熱心なご指導を賜りました伊藤茂樹教授 に心から感謝いたします.

また,帝京大学福岡医療技術学部 高木昭浩准教授には,本研究に際し,核医学画像処 理ソフトウェア等の取扱いに関しご配慮くださるとともに,研究内容に関するご指導,ご 助言を賜り深く感謝いたします.

本学大学院生命科学研究部 富口静二教授,内山良一准教授には,博士論文の審査に際 し,主査および副査を担当していただいたのみならず,多くの研究内容に関するアドバイ ス等をいただきました.心より感謝いたします.

本学保健学教育部 伊藤研究室所属の大学院生諸氏には,研究全般を通じて常に支えて いただき,ここに感謝いたします.

本研究を行うにあたり,社会医療法人敬愛会 中頭病院・ちばなクリニック 放射線部 の技師諸兄には特別の配慮をしていただき,感謝いたします.

最後に,小生の大学院進学を後押しし,常に支援してくれた家族に感謝の意を表して謝 辞といたします.

(9)

略語一覧

95%CI : 95 percent confidence interval AD : Alzheimer’s dementia

ANT : anterior

AUC : area under the curve BP : back projection BUR : brain uptake ratio CCF : cross calibration factor

COMT : catechol-O-methyltransferase CT : computed tomgraphy

CV : coefficient of variation DLB : dementia with Lewy bodies DPS : drug-induced parkinsonism DRIP : daemon research image processor ECD : ethyl cysteinate dimer

FBP : filtered back projection FPF : false positive fraction GCP : good clinical practice GP : general purpose H/M : heart to mediastinum HE : high energy

HMPAO : hexamethylpropylene amine oxime HR : high resolution

HS : high sensitivity HU : hounsfield unit

IBUR : improved brain uptake ratio ILBD : incidental Lewy body diseases IMP : isopropyl iodo amphetamine LAO : left anterior oblique

(10)

LBD : Lewy body disease

LE : low energy

LMEGP : low medium energy general purpose MAO : monoamine oxidase

ME : medium energy

MIBG : metaiodobenzylguanidine

ML-EM : maximum likelihood expectation maximization MSA : multiple system atrophy

NE : norepinephrine

NPV : negative predictive value

OS-EM : ordered subsets expectation maximization PD : Parkinson's disease

PPV : positive predictive value PS : parkinsonism

PSF : point spread function RI : radio isotope

ROC : receiver operating characteristic ROI : region of interest

S/N : signal to noise SD : standard deviation

SPECT : single photon emission computed tomography TAC : time activity curve

TCT : transmission computed tomography TEW : triple energy window

TPF : true positive fraction UHE : ultra high energy VPS : vascular parkinsonism WR : washout rate

(11)

9

第1章 序論

1.1 研究背景

メタヨードベンジルグアニジン (metaiodobenzylguanidine: MIBG) は,ノルエピネフ リン (norepinephrine: NE) の生理的類似体であり,生体内においてNEと同様の挙動を 示すため,123-Iodine (123I) を標識することにより,心交感神経機能を画像化できる [1,2].

パーキンソン病 (Parkinson’s disease: PD) やレヴィ小体型認知症 (dementia with Lewy bodies: DLB) は,レヴィ小体病 (Lewy body disease: LBD) と呼ばれ,心交感神経 の異常がみられるこれらの疾患では,123I-MIBGを正常に取り込むことができずに心臓へ の集積が低下する.また,アルツハイマー型認知症 (Alzheimer - type dementia: AD) パーキンソニズム (parkinsonism: PS) などは,心集積異常がみられないことから,LBD 疾患群との鑑別に用いられている [3-5].

心交感神経機能を示す指標のひとつとして,心臓と縦隔の比 (heart to mediastinum ratio: H/M) がある [6,7].H/Mは胸部平面 (planar) 画像に関心領域 (region of interest:

ROI) を設定して平均カウントの比を得ることで,簡便に心臓集積の度合いが評価でき半

定量法として有効である [7].

しかし,H/Mは,装置のシステム性能 (主にコリメータ性能) に依存して変化すること から [8,9],施設間の相互評価を困難にしている [10].Nakajima らは,ファントムを用 いた校正手法を開発し,異なるコリメータで得られた H/M の相互比較を行い,その有効 性を報告した [11,12].

また,心蔵カウントは planar 画像から得ているため,解剖学的な正確性および放出さ れる光子の減弱を考慮していないこと等に問題がある[6-9,13].加えて,平均カウントを用 いることから心筋の本来のカウントを表現できず,H/M の表現幅の低下につながってい る.さらに,バックグラウンド領域としての縦隔が低カウントであることから,H/M変動 の一因となる[6,7,12,13].これらが総合的に作用してH/M “gray zone” 化を引き起 こし,疾患識別の際に支障となる.

この planar 画像を用いた問題を克服するために,single photon emission computed tomography (SPECT) を用いた方法が報告されている[14,15].Chenらは心臓全体にROI

(12)

10

を設定することにより再現性に優れた方法を提案し planar 法と同等であることを示した が [14],心臓全体への ROI 設定であるためにカウントが平均化される問題が残る.Van

der Veenらは心臓全体および内腔にROIを設定し減算することで心筋を表現し,planar

法と良好な相関が得られたと報告した [15].しかしながら,心臓全体と内腔のROIは別々 に設定することから,特に心筋取り込みの少ない症例では ROI 設定における再現性の問 題が残る.

これらの問題点を解決するには,心筋摂取量を算出する新しい定量法の構築が必要であ る.マイクロスフェアモデルに基づいた脳血流定量法は様々な解析手法があるが [16,17],

画像解析的な手法のひとつにbrain uptake ratio (BUR) 法やimproved BUR (IBUR)

がある [18,19].我々の研究室で開発された入力関数 (動脈血放射能濃度) 算出方法 [19-

21]を応用することによって,心筋摂取解析の開発が可能となる.

出力関数 (心筋放射能濃度) に用いる心筋カウント (出力カウント) は,SPECTから得 ることで3次元的な情報を得ることができ,入力関数としての動脈血中カウント (入力カ ウント) は,胸部radio isotope (RI) - angioの時間放射能曲線 (time activity curve: TAC) 解析から得ることができる.よって本研究における定量法開発の基本原理を入力カウント に対する出力カウントの比とした.そしてシステムに応じた較正係数 (cross calibration

factor: CCF) を用いてカウントを放射能濃度へ変換することで,コリメータ依存性が解消

できると考えた.

(13)

11

1.2 核医学画像の撮像原理

1.2.1 総論

核医学画像は,人体に投与された放射性同位元素から放出されるガンマ線を体外に設置 した検出器でとらえ,体内における集積分布を画像化したものである[22,23].検出器の基 本的な構成としては,シンチレータ,ライトガイド,光電子増倍管,信号処理回路などか ら成り立っている[22].放射性同位元素から放出されるガンマ線とシンチレータとの相互 作用により発生した光を光電子増倍管で電気信号に増幅変換し,その位置情報を2次元的 な画像データとして記録している.

核医学画像を得るうえで最も重要なことは,検出器に入射されるガンマ線を指向的に取 得することである.体内から放出されたガンマ線が検出器前面に装着されたコリメータを 通過することによって特定方向の位置情報を持ち,核医学画像データとして利用できる [22,23].したがって,核医学におけるデータの画像化には,コリメータが重要な役割を担 っている[22,23].

コリメータはいくつかの形状や種類があり,最も代表的な構造を有しているのがパラレ ルホールコリメータである[23].孔の形状は主に六角形の構造で,筒状の穴が平行に蜂巣 状に配列されており,放射性同位元素からの放出ガンマ線に指向性的選別によって,被写 体と等倍の像を得ることができる[22,23].

コリメータは,使用する核種と検査目的に応じて使い分けることになるが,検出器との 組み合わせによってシステムとしての総合感度や総合分解能が決まるため,コリメータの 性能は画質や測定値に大きく影響する[24].

核医学における画像で,静止画像 (static image) や経時的画像 (dynamic image) など は平面画像 (planar image) と呼ばれ,検出器の位置を固定して投影像を得ている.対し て,検出器が回転することによって多方向からの投影像を得て,その収集データから再構 成される画像を断層画像 (tomography image) と呼び,単一光子放出核種を用いたものを

SPECT画像という.

SPECT 画像の再構成とは,多方向の投影データを利用し,何らかの方法を用いて元の

画像を作り出すことである.画像再構成技術にはいくつかの方法があるが,大別して逆投

(14)

12

影再構成法 [25]と逐次近似再構成法に分けられる[23].その再構成法の中で最も臨床的に 多用されている方法は,フィルタ逆投影法 (filtered back projection: FBP) と最尤推定-期 待値最大化法 (maximum likelihood expectation maximization: ML-EM) [26,27]を高速 化したordered subsets expectation maximization (OS-EM) 法である[28].これまでは FBP法が汎用されてきたが,画像再構成に用いられるコンピュータの性能が向上したこと によって逐次近似法も多用されてきている[29].

本節では,交感神経機能検査における定量性の変動要因となりうるコリメータと

SPECT画像再構成の基本原理について述べる.

1.2.2 コリメータ

コリメータ隔壁の厚さや高さの異なるいくつかのコリメータがあり,放射性同位元素か ら放出されるガンマ線のエネルギーや検査目的に応じて使い分ける [22].最も汎用されて いるパラレルホールコリメータの模式図を図1.1に示す.

1.1 パラレルホールコリメータの模式図

ここで,aはコリメータの隔壁の高さ,bはコリメータ表面から線源までの距離,cはシ

(15)

13

ンチレータの平均検出距離,dはコリメータ孔径,tはコリメータ隔壁の厚さである.

パラレルホールコリメータの幾何学的分解能 (Rg) は式 (1.1) によって表される.コリ メータの実効厚 𝑎𝑒 はコリメータ隔壁の線吸収係数 (μ) と隔壁の高さ (a) の関係より式 (1.2) のように求められる.

𝑅𝑔=𝑑 ∙ (𝑎𝑒+ 𝑏 + 𝑐)

𝑎𝑒 (1.1)

𝑎𝑒= a − (2 𝜇⁄ ) (1.2)

核医学画像はコリメータを装着した検出器によって得られるが,そのシステムの持つ 分解能 (Rs) は,コリメータの分解能 (Rg) と固有分解能 (Ri) で決まる (式1.3).また,

コリメータが持つ幾何学的効率 (g) は式 (1.4) で表され,Kはコリメータ孔の形状と配 列で決まる係数であり,円形孔で0.238,六角形孔で0.263,四角形孔で0.282となる [22,23].

𝑅𝑠= √𝑅𝑔2+ 𝑅𝑖2 (1.3)

g = { 𝐾 ∙ 𝑑2 𝑎𝑒∙ (𝑑 + 𝑡)}

2

(1.4)

交感神経機能検査で用いられる123Iでは,159 kev529 kevのガンマ線があり,その 放出割合はそれぞれ83.3%,1.4%である.画像化に用いられるエネルギーピークは,主に

159 kevの光電ピークである.しかし,529 kevのガンマ線がコリメータの隔壁を通過し

159 kev の光電ピーク内へ混入する現象があり,この現象をペネトレーションと呼ぶ

[23,24].529 kevのガンマ線の放出割合は1.4%と少ないが,透過力が強いためにペネトレ

ーションの影響を考慮して使用核種に応じた適切なコリメータの選択をしなければなら

(16)

14 ない (図1.2) [24].

1.2 異なるコリメータによる入射像の模式図

(中嶋 憲一. 2011;26(8):68-73[30]. より改訂引用)

コリメータは,入射ガンマ線に指向性を持たせて分解能を向上させるのみならず,散 乱線を除去することによって画質のコントラストをよくする役割がある[30-32].コリメ ータの種類は,使用する放射性同位元素から放出されるガンマ線のエネルギーと感度・

分解能により分類され (表1.1),使用核種および検査目的により選択される [22,24].

(17)

15

1.1 コリメータの種類と分類

種類 対象エネルギー

エネルギーによる分類

低エネルギー (LE) 160 kev以下 中エネルギー (ME) 300 kev以下 高エネルギー (HE) 300 kev以上 超高エネルギー (UHE) 500 kev以上

感度・分解能による分類

高感度 (HS) 汎用 (GP) 高分解能 (HR)

1.2.3 SPECT画像再構成法

SPECT 画像で必要なのは,多方向から得られた投影データである.被写体から得られ

た多方向からの投影データは,体内の線源分布が投影面である検出器に線積分されたもの である.SPECT 収集で得られた投影データを用いて被写体の断層像を再構成するが,投 影角度ごとに得られる線積分データは被写体内を通過する過程で散乱や減弱・吸収などの 影響を受けているため,最終的には断層画像を得るためにはこれらの影響を補正する処理 の考慮が必要となる [33,34].

1.3に示すように検出器に対して平行な面をx軸,垂直な面をy軸としたとき,この 被写体の断面における座標 (𝑥, 𝑦) は検出器の回転中心が (𝑥, 𝑦) 座標の原点となる.そ の断面における放射性分布を 𝑓(𝑥, 𝑦) とすると,投影データ 𝑝(𝑠) y軸方向へ線積分さ れたものとなる [23].

(18)

16

1.3 投影データ

このとき,投影データ 𝑝(𝑠) は,散乱や減弱を無視した場合,式 (1.5) で表すことがで きる.

𝑝(𝑠) = ∫ 𝑑(𝑥, 𝑦)𝑑𝑦 (1.5)

断層面の画像再構成には,多方向からの投影データが必要である.1.3に示したx軸,

y 軸を固定座標とした場合,原点を中心にある角度 ( 𝜃 ) だけ回転したときに新たな座標 として回転座標 (𝑠, 𝜃) が得られる.固定座標 (𝑥, 𝑦) と回転座標 (𝑠, 𝜃) の関係は,式 (1.6) で与えられる.

𝑠 = 𝑥 cos 𝜃 + 𝑦 sin 𝜃

𝑡 = 𝑥 sin 𝜃 + 𝑦 cos 𝜃 (1.6)

1.4に示すように,sは固定座標のx軸,tは固定座標のy軸に対応した回転軸であ る.固定座標における断面放射性分布である 𝑓(𝑥, 𝑦) から回転座標における断面放射性分 𝑝(𝑠, 𝜃) を求める積分変換をラドン変換という [23,25].

(19)

17

1.4 回転投影データ

回転座標における断面放射性分布 𝑝(𝑠, 𝜃) は式 (1.7) で表され,δ 関数は原点では無限 大となり,それ以外ではゼロとなる.

𝑝(𝑠, 𝜃) = ∫ ∫ 𝑓(𝑥, 𝑦)𝛿(𝑥 cos 𝜃 + 𝑦 cos 𝜃 − 𝑠)𝑑𝑥𝑑𝑦

−∞

−∞

(1.7)

𝑝(𝑠, 𝜃) は線積分された分布データであるため,投影方向の位置 (重み) 情報を持ってい ない.画像再構成のために投影データを未知の断面上のマトリクスに対して,投影方向上 の画素値を埋め込んでいくことを逆投影 (back projection: BP) と呼ぶ.断面上のマトリ クスにおいて,収集角度ごとにBPされたデータが重なる部分は充分な画素値を持つため,

収集されたすべての投影データに対し繰り返し行うことで断面像を得ることができる.こ の再構成法を単純投影法と呼ぶが,各画素値を投影方向ごとに加算していくため,再構成 断面上に放射状のアーチファクトを生じさせる[34].また投影データは検出器の応答特性

(20)

18

である点応答関数によってボケを含んでいるため,再構成画素値の周辺もボケを含んだデ ータとなる.

投影データのボケを数学的に補正して画像再構成を行う方法に FBP 法があり,解析的 手法と呼ばれる [23,32].ボケを補正するフィルタとしてRampフィルタやShepp-Logan フィルタなどがある.Rampフィルタは高周波成分を強調させる特性があり,画像にノイ ズが多くなるものの,得られる画像は高分解能であるため,一般的によく用いられている.

式 (1.8) に示すようにボケを補正する関数を ℎ(𝑠) としたとき,実空間上で投影データと 重畳積分して補正データを作成して逆投影を行うことを重畳積分逆投影法という.また周 波数空間上で重畳積分した補正データを逆投影する方法をフーリエ変換逆投影法といい,

重畳積分逆投影法と数学的には等価である[25].FBP再構成法の特徴として,再構成パラ メータ設定が不要,再構成にかかる時間が短いなどの利点がある一方,画素値に負の値を 含む,高集積部位があるとストリークアーチファクトを生じるなどの欠点もある[23,33].

𝑓(𝑥, 𝑦) = ∫ 𝑝 (𝑠, 𝜃) ⊗ ℎ(𝑠)

2𝜋 0

𝑑𝜃 (1.8)

統計学的推定に基づいた画像再構成法として逐次近似法がある.ML-EMはその中の一 つで,結果としての投影データを最も確からしい値として画素ごとに割り当てていく方法 である [26,27].図 1.5 に示すように,ある画素に λ 濃度の放射性核種が存在する場合,

検出器iにおける測定値 𝑥𝑖𝑗 は式 (1.9) で表される.

(21)

19

1.5 ML-EM法における検出器への投影データ

𝑥𝑖𝑗= 𝐶𝑖𝑗𝜆𝑗 (1.9)

𝑥𝑖𝑗は,画素jからの投影データが検出器iで検出される割合を 𝐶𝑖𝑗 ,画素jにおける期 待値を 𝜆𝑗 としたときに両者の積として求めることができる.そして,複数n方向の計数 データの場合は総和として考える必要があり,画素jにおける期待値 𝜆𝑗 は式 (1.10) で与 えられる.

𝜆𝑗=∑𝑛𝑖=1𝑥𝑖𝑗

𝑛 𝐶𝑖𝑗 𝑖=1

(1.10)

また,投影方向上の複数画素に λ が存在する場合,検出器iにおける投影データは,そ れぞれの画素における期待値 𝜆𝑗 と検出器iの検出確率 𝐶𝑖𝑗 の積総和となり,式 (1.11) ように表される.

𝑦𝑖 = ∑ 𝐶𝑖𝑗𝜆𝑗

𝑚

𝑗=1 (1.11)

(22)

20

そして,𝑥𝑖𝑗 は式 (1.9) と式 (1.11) より,次式のように置き換えることができ,投影デ ータから 𝑥𝑖𝑗 を得ることができる.

𝑥𝑖𝑗= 𝑦𝑖𝐶𝑖𝑗𝜆𝑗

𝑚 𝐶𝑖𝑗𝜆𝑖

𝑗=1

(1.12)

最終的に,式 (1.10) を上式へ代入することによって式 (1.13) を得る.これがML-EM 法で用いられる推定式である.k は繰り返し回数であり,k回目の画像からk+1回目の更 新画像を推定するという構造式となっている.画像の更新は順投影,逆投影,比較,更新 を繰り返し行い,原画像に近い画像を得ることができる.

𝜆𝑗𝑘+1 = 𝜆𝑗𝑘

𝑛𝑖=1𝐶𝑖𝑗∑ 𝑦𝑖𝐶𝑖𝑗

𝑚 𝐶𝑖𝑗𝜆𝑗𝑘

𝑗=1 𝑛

𝑖=1

(1.13)

ME-EM法を高速化したものをOS-EM法という.投影データをいくつかのグループに

分割 (サブセット) し,あるサブセットごとの投影データで再構成画像を得たあと,これ を初期値データとしてさらに別のサブセットで再構成を行う[28].この過程を順次行って 更新画像を得ていく方法である.

下記にOS-EM法の処理過程を示す[23,32].

1) 検出確率 𝐶𝑖𝑗 を計算する.

2) 正の値を初期値として初期画像を仮定する.

3) 初期画像をあるサブセットごとの角度に対してのみ投影データを作成する.

4) 同じサブセット内の 𝑦𝑖 投影データとステップ③で得た投影データとの比を計算す る.

5) ステップ④で求めた比を,サブセット内の角度に対してのみ逆投影を行う.

6) 逆投影画像を確率の総和で規格化.

7) 逆投影画像を初期画像 𝜆𝑗𝑘 にかけて更新画像 𝜆𝑗𝑘+1 を作成する.

(23)

21

8) 𝜆𝑗𝑘+1 を初期値としてステップ③へもどり,次のサブセットへ移る.すべてのサブセ ットの計算が終了したら,最初のサブセットへ移り,ステップ③へ戻る.

これら一連の処理過程は,ステップ④で求める比が1に近づくまで行われ,最終的に原 画像に最も近似した画像が得られる.

1.6 投影18方向でサブセット数を3分割にした場合の計算順番例

(日本核医学技術学会編. 核医学画像処理[33]より改訂引用)

サブセットには,投影数がサブセット数で割り切れる数を設定する.図1.6にサブセッ ト設定の例を示す.18投影方向のデータに対して,サブセット3とした場合,ひとつのサ ブセット内には6方向の投影データが属することになる.一回の計算で用いられる投影数 を少なくしているため,繰り返し回数は多くなるが,結果的に早く原画像に近似させるこ とができる.計算の順番は厳密に決まったものはないが,サブセット間の影響が均等化さ れるように,ある程度離れた投影データが規則的に選択されるように決められる.例えば S1グループによる計算が終了後,S1から最大角度で離れているS2 グループで修正を行

(24)

22

い,順次S6までの修正を行うことによって一つの近似が完了する.OS-EM法でサブセッ トを1とした場合の結果は,ML-EM法と同じになる.サブセット数と繰り返し回数の積

OS-EM法における更新回数となり,ML-EM法の繰り返し回数と等価であるとみなす

ことができる [32].

FBP再構成と比較した場合,逐次近似法は統計学的推定に基づき計測値を算出している ため,原理的に負の値を持たない,高カウントに起因するストリークアーチファクトの影 響が少ない,低カウント領域での信号雑音 (signal to noise: S/N) 比がよい,吸収や散乱 補正などのアルゴリズム内への組み込みが可能であることなどが利点としてあげられる.

しかし,サブセット数と繰り返し回数の組み合わせには理論的な至適値がないことから,

パラメータの設定には注意が必要である [23,32].理論上は雑音に対する拘束がないこと から,更新回数の設定によっては,コントラストの低下や雑音が増大する欠点もある[35].

1.2.4 各種補正法 (減弱・散乱・分解能)

核医学画像は,体内へ投与された放射性同位元素から放出されるガンマ線を用いている.

検出器でとらえられた投影データは,体内の構成組織による吸収と散乱の影響を受けてい るため,最終的な核医学画像はこれらの影響を考慮する必要がある[36,37].放出ガンマ線 と物質との相互作用により吸収と散乱は同時に起こっていることから,これらの補正は併 用して行うことが重要である[38].

減弱補正法には,大きく分けて均一吸収体に対する補正法と不均一吸収体に対する補正 法がある.均一吸収体補正法には,脳血流検査などの頭部を対象として古くからおこなわ れている方法であり,Sorenson法やChang法などがある[39].これらの補正法は,頭部 内の組織を均一に分布する水物質とし,かつ組織内の放射性物質が均一に分布していると 仮定して行われるものである.

Sorenson 法は投影データに対して補正が行われることから前補正法とも呼ばれ,被写

体の厚みに応じた距離や減弱係数から求めた補正係数を用い,平均化された対向投影デー タに対しそれぞれ補正を行う[39,40].被写体厚をl,線減弱係数をμとすると,補正項 C は式 (1.14) で表される.投影データを 𝑝(𝑥, 𝜃) とすると補正後の投影データ 𝑝0(𝑥, 𝜃)

(25)

23 式 (1.15) のように得られる[22].

𝐶 = 𝜇 ∙ 𝑙

1 − 𝑒−𝜇∙𝑙 (1.14)

𝑝0(𝑥, 𝜃) = 𝑝(𝑥, 𝜃) × 𝐶 (1.15)

被写体厚や減弱係数のみを用いていることから非常に簡便であり,補正後の投影データ を用いて再構成をおこなうのみであるので,計算速度も早いという特徴を持っている.し かし,対向データの中心,つまり画像における中心部に対しては低感度になるという欠点 を持っており,その適応については限界を有する[23,29].

Chang 法は再構成画像データの各ピクセル値に対して補正が行われることから後補正

法とも呼ばれる[41].Sorenson法と同様に被写体内部の減弱係数は一様に分布していると 仮定していることから,式 (1.16) のように補正係数 C′ を作成し,再構成後の各ピクセル に対して補正を行う.

𝐶′ = 1

1

𝑛 ∙∑𝑛𝑖=1𝑒−𝜇∙𝐿 (1.16)

式中のnは投影データ数,iは投影データ番号,μは線減弱係数,Lは投影データiにお ける再構成ピクセルから被写体辺縁部までの距離である[22].

下記にChang法による補正処理の流れを示す.

1) サイノグラム処理された投影データから被写体の輪郭を決定.

2) 被写体の輪郭内部を一定の線減弱係数で満たしたマップ画像を作成.

3) 減弱係数マップ画像と減弱分布した再構成画像から減弱補正係数マップ画像を作成.

4) 減弱補正係数マップに従い,減弱分布画像のピクセルごとに補正値を乗算.

Chang法における各マップ画像は,被写体の輪郭を規定した後で作成されるため,再構

成後の各断面像にて輪郭が正確に設定されていることを確認する必要がある.

また,Chang法の特性として比較的大きな被写体では,画像中心部では過補正になると

(26)

24

いう問題がある[23].過補正の状態を最小限にするために,補正値を再度作成して再構成 画像へ再投影するということを繰り返すことで,理想値との誤差が最小になるように近似 させる手法を逐次近似Chang法という.具体的には,まず,一度再構成された補正画像か ら投影データを作成し,元の投影データとの差分データを得る.次に,この差分データを 用いて再構成したものから補正値を作成して減弱補正を行う.このときの補正画像と初回 の再構成画像を加算することで,新規に補正された再構成画像を得ることができる.この 作業を繰り返すことで,投影差分データが最小になるように近似させていく方法である [41].実際の被写体において脳は骨組織で覆われていること,脳組織と髄液では減弱係数 が異なることなどがあり,厳密には正確ではない.しかし,均一吸収体を仮定したSorenson

法やChang法は,脳血流検査などの頭部領域においては簡便に行える補正法といえる.

不均一吸収体補正法としては,外部線源を用いた透過型 CT (transmission computed tomography: TCT) 法やXCT法がある[42].TCT法は,検出器に対抗するように据え 付けた外部線源からの放射線が被写体を透過することで得たデータから,被写体の吸収分 布を求めて補正を行うものである[22,23,29].線減弱係数μ (𝑐𝑚−1) の物質内をガンマ線 が距離x (cm) を通過するとき,入射ガンマ線が受ける吸収は以下の式 (1.7) で表される.

𝐼 = 𝐼0𝑒−𝜇𝑥 (1.7)

このとき,𝐼0は入射するガンマ線,Iは減弱後のガンマ線であるが,TCT法に置き換え ると,𝐼0は被写体のない状態の投影データ,Iは被写体透過後の投影データとして考える.

式 (1.7) の両辺の対数をとって除することにより,線減弱係数の画像を得ることができる 式 (1.8).これを再構成することにより,被写体の吸収分布画像を得ることができる.

−𝜇𝑥 =𝑙𝑛𝐼

𝑙𝑛0 (1.8)

TCT法による吸収分布画像は,被写体ごとに得ることから,個人差や不均一吸収体であ ることが障壁とならず,正確な吸収分布画像を得ることができる.

TCT法で使用される外部線源は,153Gd (半減期240日),241Am (半減期432年),137Cs

(30年),57Co (271日) などの密封線源があるが,TCT法は外部線源を別に要するコスト

(27)

25

や管理が必要になってくる.また,術者の被ばくの問題もあり,放射線管理に注意が必要 である[22,23].

最近ではTCT法にかわり,XCTを用いる方法が主流になってきている.これは X 線を使用して被写体の吸収分布画像を得るものであり,CT値 (hounsfield unit: HU) 利用して組織の違いを表している.99mTcの光子エネルギーが140kevであるのに対し,X CTで用いられるX線の実効エネルギーは70 kev程度と低いため,XCTと使用核 種による減弱係数の違いを補正するために,CT値をSPECT 光子エネルギーに対応させ るための変換が必要になる.この変換のためは,核種ごとのテーブルが必要になるが,使 用核種にあわせた検査ごとの使用が可能になる.CT値は,空気を-1000,水を0,骨組 織を+1000とした相対値で表されるが,CT値と組織の減弱係数の関係は直線関係ではな く,CT値が0を境に折れ曲がったような2相性の直線関係となっている (図1.7).

1.7 CT値から線減弱係数への変換テーブル (バイリニア法) の模式図

ガンマ線の物質との相互作用の中で減弱 (吸収) と同時に起こっているのが,散乱現象 である.相互作用には光電効果,コンプトン散乱,干渉性散乱があり,なかでもコンプ トン効果によるコンプトン散乱の割合が大きい[23,43].光電ピーク内に混入する散乱線 の割合は,コリメータや被写体の厚みなどの物質のみならず,エネルギーウィンドウ設 定や放射性同位元素の種類,システムのエネルギー分解能などさまざまな要因で変化す る.コンプトン散乱は,ガンマ線が被写体内を通過する際に原子の軌道電子と衝突し,

(28)

26

ガンマ線の一部エネルギーを与えると同時に反跳電子として原子外へ放出させる現象で ある.このとき,数回のコンプトン散乱を繰り返し,最終的には光電吸収によって消滅 するものや体外へ放出されて検出器までで到達するものがある.このコンプトン散乱に よって検出された放射線は,検出器での総計数を大きくするが,そもそも位置情報に乏 しく,核医学画像のコントラスト低下を起こす原因となる.

散乱線を推定する方法には,エネルギーピークの形状から散乱線の状態を関数で表現 して推定するものや光電ピークやコンプトン領域へウィンドウを設定して推定する方法 などがある.点応答関数を利用するものにconvolution subtraction法,scatter line

spread function法,重積積分法などがあるが [44],基本的な考え方は点線源に対する広

がり関数を応用したもので,関数の裾野を延長して得られた範囲を散乱領域とするもの やフーリエ変換を利用して散乱線を推定するものであるが,現在ではウィンドウを設定 して推定する方法が主流である.

光電ピークを利用するものにdual peak window法があるが,ピークを2分割するよ うに対照的に2つのウィンドウを設定し,その隣接するカウント比と含有散乱線の回帰 関係から推定する方法である[45].また,dual energy window法は光電ピークとコンプ トン領域へウィンドウを設定し,コンプトンウィンドウで得られたカウントに係数で重 みづけしたあとに光電ピークウィンドウのカウントから差し引くという方法である[46].

triple energy window法 (TEW法) は,光電ピークにメインウィンドウとして設定し,

その両端にサブウィンドウを設けて散乱線を推定する方法である[47].サブウィンドウの 計数で囲まれた光電ピーク下部の領域が台形状に近似され,メインウィンドウから差し 引くことで補正を行う.これらの様々な散乱線補正法があるが,現在では核種に依存し ないで簡便に設定可能なTEW法が有用である[31,38,48].

散乱・減弱現象は,ガンマ線と物質との相互作用により発生する事象であるが,シス テム,特にコリメータの持つ特性により,核医学画像はボケを含んでいる.コリメータ の役割は,被写体から放出される特定方向からの放射線を選別して検出器に到達させ る.コリメータは鉛などの隔壁で囲まれた空間の大きさや隔壁の厚さなどを工夫するこ とで,高分解能型,高感度型の仕様になっている.いかなる形式のコリメータでも孔と 隔壁の長さは存在しているので,ボケを発生する構造になっている.このことをコリメ ータ開口の影響という.コリメータが装着された検出器と被写体間の距離を短くとるこ とは,画像のボケを小さくする基本であるが,コリメータの開口は有限であり,開口幅

(29)

27

や隔壁厚に応じた開口角度が必ず存在し,結果として距離に応じた空間分解能の劣化が 発生する.さらに被写体の周囲を回転しながら収集を行うということは,常にボケの程 度が変化することになる.核医学画像におけるボケは空間分解能と画像コントラストを 低下させる要因となる.

このコリメータ開口に起因する空間分解能とコントラストの劣化を防ぐために,サイ ノグラム実空間画像をフーリエ変換することによって,周波数空間画像に復元フィルタ にて補正したあと,逆フーリエ変換にて補正後の実空間画像へ戻すという手法があり,

frequency distance relation法と呼ぶ[49]. 周波数空間を利用した補正はノイズ成分が 増加する傾向があるため,補正を繰り返し行う方法もある[50].

また,式 (1.9) に示すOS-EM再構成の式中の検出確率部 (𝐶𝑖𝑗) にコリメータ開口補正 の項を組み込み補正する方法があり,collimator broad correction法という[23].空間分 解能の劣化は被写体と検出器との距離によるものや検出器システムに起因する統計ノイ ズによるものがあるが,これらの要因をガウス関数として元の画像に重積積分すること により表すことができる.

𝜆𝑗𝑘+1 = 𝜆𝑗𝑘

𝑛𝑖=1𝐶𝑖𝑗∑ 𝑦𝑖𝐶𝑖𝑗

𝑚 𝐶𝑖𝑗𝜆𝑗𝑘

𝑗=1 𝑛

𝑖=1

(1.9)

この補正手順は,距離に応じた空間分解能劣化を考慮した検出確率 (𝐶𝑖𝑗) を算出し,投 影データを計算する.そして同じ組にある計測値と計算結果の比を求め,これをもとに 逆投影を行ってデータの更新を行う.これを繰り返し行い,近似的に補正していく.こ れを発展させて体軸方向も加味された3次元的分解能補正式は式 (1.10) により,得られ る.

𝜆𝑗𝑘+1 = 𝜆𝑗𝑘

𝑛𝑖=1𝜈𝑟𝑥=−𝜈𝜈𝑟𝑦=−𝜈𝐶(𝑖+𝑟𝑥+𝑟𝑦)𝑗𝐺𝑢(𝑖+𝑟𝑥+𝑟𝑦)𝑗

∑ ∑ ∑ 𝐶(𝑖+𝑟𝑥+𝑟𝑦)𝑗𝑦(𝑖+𝑟𝑥+𝑟𝑦)𝐺𝑢(𝑖+𝑟𝑥+𝑟𝑦)𝑗

𝑚𝑚=1𝐶(𝑖+𝑟𝑥+𝑟𝑦)𝑚𝐺𝑢(𝑖+𝑟𝑥+𝑟𝑦)𝜆𝑚𝑘

𝜈

𝑟𝑦=−𝜈 𝜈

𝑟𝑥=−𝜈 𝑛

𝑖=1

(1.10)

(30)

28 1.2.5 極座標表示 (polar map)

極座標 (polar map) 画像とは心筋全体の薬剤集積状態をひとつの画像像で見渡せる表 示法である[23,51].polar mapは円形状で表示されるもので,心尖部から基部に向かって 押しつぶされたような画像となる.円の中心部は心尖部で外縁部は心基部を表している.

1.8polar map画像作成の基本原理を示す.

1.8 心筋壁に対するプロファイルカーブ

SPECT 再構成後,短軸像の中心部より外則に向かいプロファイルをとると,心内膜側

と心外膜側にかけての正規分布状のカウントカーブが得られる.このカーブのピークは最 高カウントを表しており,およそ心筋壁の中央部にあたる部分のカウントピーク値として カーブが得られる.心筋壁の大きな障害 (梗塞など) がある場合は,必ずしも心筋壁の中 央部が最高カウントを示すわけではない.

心基部から心尖部にかけての各短軸断面を得るとき,心内腔が確認できるドーナツ状の 短軸断面では図1.8のようにプロファイルカーブをとることができる.心尖部などは短軸 像からではなく,長軸断面上の心内腔中心部から心尖部外側へ向かって放射状にプロファ イルをとることで,カウントを得ることができる.

心筋の側壁から前壁,中隔,後壁と反時計回りにプロファイルを順次とり (図1.8),あ

(31)

29

る短軸断面におけるプロファイルの最高カウント値を回転角度ごとに並べると,図1.9 よ う な カ ウ ン ト カ ー ブ が 得 ら れ る . こ れ を , サ ー カ ム フ ィ レ ン シ ャ ル カ ー ブ (circumferential curve) という.

1.9 サーカムフィレンシャルカーブを複数断面で作成

1.9のカーブは,ある短軸断面で得たカーブデータであるが,前壁や側壁などの筋 肉活動が盛んな部位では心筋が発達しているため,その最高カウント値も高くなる.こ のような解析を行うことで,各方向における最高カウントの関係を知ることができる.

このように,ある断面だけではなく,心基部から心尖部にかけて各断面のサーカムフィ レンシャルカーブをとり,断面ごとに並べると,図1.10のような直交座標図が得られ る.SPECT再構成画像での短軸,長軸などの断面図は,この直交座標系で表示されてい るが,この座標図は一般的な画像表示方法であり,画素の1辺の大きさが同じで正方形 状になっており,画像上のどの画素でも同じ大きさとなる.

サーカムフィレンシャルカーブデータから得られた直交座標を極座標変換するとpolar map画像を得ることができる.直交座標図上における心尖部側の断面を一点に凝縮し て,凝縮点が極座標系の中心部に位置するように一点化する.同時に反対側である心基 部側の断面を引き延ばして極座標系の中心部を取り囲むように円形状に変換すること で,polar mapを得ることができる.

(32)

30

1.10 直交座標から極座標への変換

直交座標図ではどの位置でも同じ大きさであり,表示される心筋障害の程度を面積の 広がりで知ることができるが,polar map画像では画像中心部と辺縁部では画素のサイ ズが異なることから,面積で障害の程度を図ることは困難である[33].しかし心筋の全体 像を俯瞰して観察することができるため,障害の分布を一度に観察することができる.

また,polar map画像上のピクセルに表現されている値は,画素で計数されたカウント 値ではなく,心筋壁プロファイル上の最高カウント値である.このことから,polar map 画像内の画素の最高値を100%とした相対的な表示で利用され,通常は定量画像としては 利用されない.

図 1.13  LBD 疾患における心臓交感神経の変性
図 2.1  本研究における撮像プロトコル概要
図 3.2  肺動脈に設定した ROI (a)  と入力カウント  (b)
図 3.3  シリンジの配置  (a)と経時的撮像によって得られたシリンジ画像  (b)
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参照

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