振動数応答曲線からの振動系の同定
國枝正春*
1.はしがき
企業の現場ではしばしば振動事故が起こる。早急に的確な対策を講じないと損害額が 膨大になることもある。このような時に必要なのが正確な振動診断である。また,この ような事故を未然に防止するためには,設計の段階で振動問題を専門とする技術者(い わゆる振動屋で,アメリカではVibration Manと呼ぶらしい)が介入して振動予測を 行うことが有効である。
振動診断 (Vibration Diagnosis)なる用語は 振動診断法 (Vibration Diag・
nostics)とともに,最近,かなり一般的に使われるようになってきた。言葉の定義は 振 動が起こった時,状況を診察し,原因を明らかにして対策をたてるまでの一連の手順の 総称をい5 とされていて,人間の病気の場合の臨床診断と治療方法の決定に相当する。
一方, 振動予測 (Vibration Prediction)とは製品の計画の段階で振動系としてモデ ル化し,起こり得る振動の性質と量を予測すること。また,製品が稼働後に,その時点 で振動が問題にならなくても,その動的性質を調べ,振動事故発生予防のたあの予測資 料を得ることもこれに含ませる。
さて,ここで企業における新商品誕生までのフローを考えてみると図1のごとくであ る。図に示されるように研究・開発から製造までの流れの内容は製品のモデル化とこれ に対しての,経験を含む工学の導入である。製品が完成したのち試運転もしくは稼働に 入ったとき起こった現象が予期したとうりであれば一連の作業は成功であったことにな る。しかし,製品にはしばしば予期しなかった現象が発生し,しかもときには重大な事 故となって大問題に発展する。このような不幸な場合にはフローは図のように研究や設
工学、技法 モデル化川 図1企業における新製品開発のフロー
理工学部機械工学科教授 機械力学,機械振動学
計に戻される。この戻りの流れの内容は,行きのときとは違って現象のモデル化とこれ に対する工学の導入である。
図1において行きのフローにおけるモデル化(1)と戻りのフローでのモデル化(2)
とはほとんどの場合異なっている。モデル化(1),(2)はそれぞれ順問題逆問題のモ デル化である。
よく知られているように自動車や新幹線電車では新型を出す前に試作車を作り,これ を使っていろいろの条件で運転試験を実施し問題があれば図1のサイクルを繰り返す。
しかし,巨大な吊り橋とか宇宙構造物では試作品にっいて実験するには大きな制約があ る。実際製造会社の現場では各種の事故が起こっている。これによる損害額はしばし ばその企業の研究開発費の総額と比較し得る程に達することがある。
(a) 不安定振動発生
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(b) 分解・落橋の瞬間
図21940年11月7日のタコマ橋の落橋事故
振動事故の典型例は1940年にアメリカのシアトル市の南方50kmのタコマ渓谷に掛 けられた吊り橋であるタコマ橋の落橋事故である。この橋は完成後わずか4か月の風の 強い日に風速19mの風で約1時間にわたりはげしい振動を繰り返した後,分解,落橋し たのである。図2は事故時の貴重な写真である。
この大事故は多くの分野の学者,技術者により問題にされ,模型による風洞実験が繰 り返され,振動の発生は再現されたが,その原因については未だに諸説がありモデル化
(2)は確立済みとは言えないようである。
モデル化(2)は振動問題の場合は振動診断に使われ,さらに設計の際に振動予測とし てモデル化(1)に影響を及ぼす。
っいでながら,図1のループの始点が行きの行程にあるのか戻りの行程にあるのかに ついては, 空気力学の進歩が航空機の進歩を促進したのではなく,航空機の進歩が空気 力学の進歩を促進したのだ という有名な話がある。鉄道車両,特に蒸気機関車は機構 学や機械力学が未成熟であった100年以上前に現在の構造が確立しているのであり,歴 史的に製品が先で学問が後追いであることは明らかである。
振動工学における逆問題である振動診断は学問または技法として最近,広く取り上げ られるようになった。アメリカではスペースシャトル用などをふくむポンプの技術に関 するシンポジウムが定期的に開催されるが,そこでの議題の1/3近くが振動診断問題 で占められるようになりっっある。日本の機会学会でも機械振動の実例が持ち寄られ,
互いに紹介しあう会合が定期的に,頻繁に開かれるようになった。
このような情勢にもかかわらず,振動診断学もしくは診断法の確立はなかなかむずか しい。このことは,医学において,10年以上前から人間の病気の診断に人工知能の導入 が計画されながら,いまだに実現しない状況に似ている。これは結果と原因の対応が複 雑であるうえ,因果関係の確証が困難で,これが確立した症例が充分にないからである。
もち論,人工知能に乗るようにデータを整理するシステムエンジニヤの不足もあろう が,要するに名医の勘はコンピューターに乗りにくいらしい。
結局,正しい振動診断ができるためには (1)多くの振動事故を実際に経験すること によって身についた勘 (2)振動学の順問題にっいての充分な知識 (3)他分野,たと えば電気工学などについての,浅くてもよいから広範な知識 が必要とされている。
以下に上記(2)の順問題の知識の一っである共振曲線などを診断に使う場合の注意事 項について説明する。
2.共振曲線からの固有振動数と減衰比の同定法
図3は1自由度(1DF)振動系のモデル図である。mは振動体の質量, kはばねのばね 定数,cは減衰器の減衰係数である。この章では減衰器から発生する滅衰は粘性減衰(速 度1乗比例減衰)である場合を考える。
この振動系が定常強制外力や強制変位を受けた時の応答曲線(もしくは共振曲線)に は典型的な4種類の曲線があることが知られている。ここでは,それらをVDRES1〜4 と名付けて説明する。
vDRERS1;振動系の質量にPcosωtなる定常励振力が作用する場合の質量の応答変 位acos(ωt+θ)の振幅aの共振曲線である。ここでPは励振力の振幅,ωは強制振動
の角振動数,θは励振力と応答変位との位相差であるがここでは問題にしない。
共振曲線の理論的な導き方についてはここでは省略する。文献1)を参照されたい。
結局,入力Pと出力aの関係は次式で与えられる。
a/x、t=1/[ {(1一η2)2十(2ζヵ)2}] ・…・・……・…………・……・・………・・(1)
ここに x、t=P/k,η=ω/レ,レ=疏,ζ=c/c,,c,=2縮
である。
振幅比a/x,,と振動数比ηとの関係を両対数目盛りで表すと(ボード線図)図4のよ
図3 1自由度振動系
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図4カによる強制振動の変化応答
うになる。ただし,縦軸はdB(デシベル)表示となっている。
VDRES2;図3の振動系の基礎に定常強制変位a。cosωtが与えられたときの基礎と 質量との相対変位,すなわち,ばねのたわみの応答振幅a,の共振曲線である。
入力a。と出力のar関係は次式になる。
。,/。。一η2/[、π⌒「] ……・・…・………・…・・………(2)
a,/a。とηの関係は図5のようになる。
VDRES3;RES1の場合と同様に質量に振幅がPなる励振力が作用した時に,基礎に 振幅がQなる振動力が伝達したとする。Q/Pを力の伝達率τと定義するとτの共振曲 線がこれになる。
入力Pと出力Qの関係は次式で与えられる。
P/Q=τ=、一 ・…・・……・・…・……・・……・(3)
τとηとの関係は図6のようになる。
VDRES4;RES2の場合と同様に基礎に振幅がa。なる励振変位が与えられた時に,質 量に振幅がaなる空間絶対変位振動が起こったとする。a/a。を変位の伝達率τ と定義 するとτ の共振曲線がこれになる。
τ は減衰が粘性減衰である場合には(3)式のτと同一の式で与えられ,したがって
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図5変位による強制振動の相対変位応答
τ〃 とηとの関係も図6と同じになる。
さて,ここで逆問題に話を変え,現場における振動試験,回転試験で得られた共振曲 線から1DF振動系の固有振動数と減衰比を同定する手順を(1),(2),(3)…として説明 する。
(1)現場で加振機を使って機器や構造物の振動試験をするとき,または機器などを 振動台に乗せて振動試験をするとき,測定中の応答値がRES1〜4のどの型になるべき であるかを測定開始以前に検討しておくことは極めて大切な事項である。たとえば,励 振変位振幅一定の振動台に乗せられた構造物の部材の応力の振動応答曲線はRESの2 型になるべきなのである。
(2)振動応答値,すなわち共振曲線は直ちに両対数目盛りのボード線図で表す。この ためには,測定開始前に励振振動数や回転数の変化範囲,変化速度,設定点,センサー の感度範囲等を検討して置かねばならない。
当然ながら,試験の前には固有角振動数レやP/k=x,,はわかっていないから,ηや a/x,tもだせない。そこで,ボード線図の縦横軸には差し当たり測定振幅値と励振振動 数(Hz)の常用対数を取ればよい。
(3)不減衰固有振動数はボード線図から次のようにして求める。
RES1では減衰比のいかんにかかわらず,共振曲線が右下がりの傾斜で45°になると ころの振動数が固有振動数である。
このことの証明は文献1)にゆずるが,図4からその事実を知ることができる。
RES2では,上記RES1にたいし,右上がりの傾斜で45°になるところが固有振動数
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図6 力又は変位の伝達率応答
である。
RES3と4では,共振曲線が右下がりになってからの振幅が,励振振動数の極めて小 さい時に収検する振幅に等しくなるような振動数が存在する。この振動数は減衰比に無 関係に一定である。この振動数の71%が固有振動数になっている。図6からその事がわ
かる。
(4)減衰比は各形式の共振曲線における応答値の最大値,すなわち,共振の山の頂上 の値から,次の諸式を使って求められる。
RES1と2では,最大値をRとすると減衰比ζは
ζ一、行石7一五…・……・…・………・__・____(4)
RES3と4では,最大値Rに対応する減衰比ζの近似値として
ζニ{R−、厄5ア}/2.5 ・・………・………・・…・…(5)
が成り立つ。ただし近似であるのはζが0.3以下の場合についてであってζがそれより 大きい場合にはRからζを出す式は極めて複雑になって実用的でない。
3.振動系内の減衰の種類の同定
上記2では減衰は粘性減衰であるとしたが,実際の機器や構造物,特に,最近,急速 に実用化が進みつつある振動絶縁装置については減衰が粘性のもののみであることは殆 どなく,粘性のほか,摩擦,速度二乗,内部,構造等の各種の滅衰が組み合わさって働 いているのが普通である。特に振動絶縁性能は減衰の違いによる影響が大きいから,各 種減衰が単独,もしくは直列,並列に配置された場合にっいての絶縁性能の理論解析結 果を知っておくことは,実際の装置の性能の診断のために極めて大切である。
ここでは先ず,内部,乾性摩擦,速度二乗等の減衰が単独で働く1DF振動系の応答特 性を,粘性減衰との比較において明らかにし振動診断のための資料としよう。
幸なことに,定常強制振動の応答解析には,減衰が非線形特性を持つ場合についても 等価線形化の手法による等価粘性減衰係数を導入する方法が使えるから,パソコン程度 の計算機の使用により,振動診断など実用的目的のためには十分な結果が求められる。
この場合,必要になる数学的処理は高次方程式の数値解を求めることにあり,ここでは Bairstow−Hitchcock法を使った。
等価粘性減衰係数とは,周知のように,振動の1サイクル当たりに減衰機構によって 消費される,すなわち,熱に変わるエネルギーが等しいことを条件にして,非線形の減 衰を等価の粘性減衰係数に置き換えたものであって,一般的には振幅と励振振動数の関 数になる。そこで,しばしば,応答振幅を与えるべき式の中に減衰係数のかたちで応答 振幅が入る。このような場合には,応答振幅は陰関数で与えられることになるから応答 振幅が陽関数で与えられるように解き直すか,もし,解けなければ数値解法または収飲 計算法を使う。
等価粘性滅衰に関しても文献1)を参照されたい。
(1) 内部減衰つき振動系の応答;IDRES1〜4
内部減衰とは防振ゴムのように振動の1サイクル中に荷重・たわみ曲線がヒステリシ スを描くことによって生ずる減衰のことで,構造減衰も同種である。ヒステリシス線図 上でたわみが0のときの荷重とたわみがほぼ最大であるときの荷重の比を損失係数とい
う。これをγとすると,等価粘性減衰係数c。、は次式で与えられる。
Ccq=γk/ω ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… (6)
ここにkは防振ゴム等を含むこの振動系全体のばね定数である。
(6)式を使うと(1)〜(3)式中の2ζηはγに等しくなるから,IDRESI,2はそれ ぞれ
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IDRES3,4は同一で
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(7),(8),(9)式をボード線図で表すとそれぞれ図7,8,9のようになる。
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図7 内部減衰付振動系の力による強制振動の変位応答
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内部減衰付振動系の変位による強制振動の相対変位応答
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図9 内部減衰付振動系の力又は変位の伝達率応答
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(2)摩擦滅衰つき振動系の応答;FDRESI〜4
摩擦減衰は振動系を構成する部材間に予期しない乾性摩擦が存在する場合に発生する ほか,設計によって所要の摩擦力が生ずるように構成された摩擦ダンパーから起こるも のでもある。通常,摩擦速度に無関係に摩擦力は一定であると仮定する。これをFとす ると,等価粘性減衰係数c,qは
Ceq=(4/π){F/(aω)} ・・・・・・… ∵・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… (10)
注意すべきことは,ここでのaは摩擦ダンパー等のたわみ,すなわち相対変位でなけ ればならないことで,力による強制振動であるRES1,3の場合には相対変位と絶対変 位は等しいからaは(1),(3)式中のaと同一でよいが,変位による強制振動である RES2,4の場合には(10)式中のaはa,でなければならない。そこでFDRES1,3の式
を求めるには,(1),(3)式において
2ζη=(4/π)f(x、t/a) …・……… …… ……・・…・… ……・・…・・… …・… … (11)
ただし f=F/P ・・………・………・……一・…………・・……・………(12)
とおけばよい。また,FDRES2,4の式を求めるには、(2),(4)式において
2ζη=(4/π)φ(ao/a,) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… (13)
ただし, φ=F/(kao) …………・…・・………・…・…・…………・…・…・(14)
前述のように(11)式を(1)式に代入すると,式の両辺に(a/x、,)が現れることに なるから,再度(a/x,,)について解き直すことによりFDRES1が得られる。このよう にして(a/x,,)が求められれば,これを(11)式に入れ,さらに(3)式に代入するこ とによりFDRES3が得られる。
同様に(13)式を(2)式に入れ(a,/a。)にっいて解き直すとFDRES2が得られ,こ れを(13)式に入れ,結果を(3)式に入れるとFDRES4が得られる。
結局,FDRESI〜4は以下のようになる。
FDRES1
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FDRES2
・,/・。一、…「/11一η21・…・………・………・…・・…(16)
FDRES3
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図10摩擦減衰付振動系の力による強制振動の変位応答
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摩擦減衰付振動系の変位による強制振動の伝達率応答
FDRES4
τ =、[1一η2(2一η2){4φ/(πη2)}2]/11一η21 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… (18)
(15),(16),(17),(18)式をボード線図で表すと,それぞれ図10,11,12,13のよ うになる。
(3) 速度二乗減衰つき振動系の応答;VSRES1〜4
図3のような振動系のモデル図に描かれる減衰器はピストン・シリンダー機構であ り,内部は油で満たされ,ピストンにはオリフィスが設けられていたり,シリンダーと の間にすきまが付けられていて,ピストンが動くとオリフィス等を作動油がやや高速で 流れ,これによって流体抵抗力が発生するようにできている。この抵抗力は速度が極め て遅い場合には速度の一乗に比例し,いわゆる粘性抵抗の形を取るが,それより早くな ると速度の二乗に比例し,速度二乗抵抗になる。振動の減衰器として使われる場合には 流体は速度0と最高速度の間を正負に往復することになるが,流れが層流で粘性抵抗を 生ずる速度範囲は極めて小さく,全体の抵抗力は速度二乗抵抗で近似できる。従って,
簡単な構造を持っ油滅衰器である,いわゆるダッシュポットは速度二乗の滅衰器であっ て,粘性減衰器ではない。市販のオイルダンパーではオリフィスに特殊な弁が設けられ ていて,流体の圧力によって開度が変わり,これによって速度比例特性を持たせてある。
さて,一般のダッシュポットに代表される速度二乗減衰において,抵抗力を滅衰器の 両端の相対速度の二乗で割った商である速度二乗の抵抗係数をc,と置くと,等価粘性減 衰係数c,,は次式で与えられる。
Cぐqニ(8/3)C2a3ω2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… (19)
この式に関する注意事項はすでに摩擦減衰にっいて(10)式の後に記した事と同一で,
RES1と3についてはaはそのまま使えるが, RES2と4に使うときには(19)式中のa はa,としなければならない。そこで,VSRES1,3の式を求めるには,(1),(3)式にお いて
2ζη=λη2a/x、t ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… (20)
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と置けばよい。また,VSRES2,4の式を求めるには,(2),(4)式において
2ζη=λoη2a,/ao ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 令・ (22)
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図14速度二乗減衰付振動系の力による強制振動の変位応答
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図15 速度二乗減衰付振動系の変位による強制振動の相対変位応対
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図17速度二乗滅衰付振動系の変位による強制振動の伝達率応答
(20),(22)式と(1)〜(3)式を使ってVSRES1〜4を導く方法はFDRESについて
(14)式以下に説明した手法と同様であるので,ここでは省略する。
結局,VSRES1〜4は以下のようになる。
VSRES1
・/・、,−1/(λη2)・、[一(1/2)・(1 一一 ny2)2+(1/2)、π:一]…(24)
VSRES2
・,/・。−1/(λ。η2)・、[一(1/2)・(1一η2)2+(1/2)、π=…]…(25)
vSRES3
・一・[1一η2(η2−2)+、一「/、[(1一η2)・+而=…「]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… (26)
VDRES4
・ 一・[1一η2(η2−2)+、π=…万]/、[(1一η2)・+、一]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… (27)
(24),(25),(26),(27)式をボード線図で表すと,それぞれ図14,15,16,17のよ うになる。
図4〜6,7〜9,10〜13,14〜17をそれぞれRES1〜4の分類に従って比べて見ると,
共振振動数領域,及び高振動数領域のおのおのにっいて顕著に差があることがわかる。
したがって,振動系を設計する場合には,その性能の目的にしたがってどの種類の減衰 機構を採用すべきかが決められる。逆に,振動診断の時には,実際の装置についての共 振曲線が実験によって明らかになった場合に,上記の各図と比べることにより振動系に 内蔵されている減衰の種類を推定するたあの手掛かりが得られる。
4.スイープ速度の同定
一般に振動系の共振曲線,制御系の応答曲線はよく知られている特性曲線であるが,
これは励振力の振動数が特定の振動数に留まっているときの系の応答を,各振動数にっ いて示したもので,振動数が変動する場合には適用できない。しかし,多くの場合,た とえば回転機械の発停のときのように,励振力の振動数が上昇もしくは下降するときの 応答が問題になる。変動速度が小さければ定常時の応答曲線と大差ないが,スイープ速 度と呼ばれる変動速度が大きくなると,たとえ共振範囲に入っても共振が十分成長する ひまがなくなるので,応答はかなり違ったものになる。すなわち,大切な共振点の応答 については,共振点通過時のスイープ速度(スイープ率ともいう)に留意する必要があ
る。
振動診断に当たっては,資料として系の共振曲線が提供されても,それから直ちに固
有振動数や減衰比を決定すべきではなく,共振曲線の測定時のスイープ速度に関して何 らかの情報を調査し,要すれば共振曲線を補正する必要がある。以下にはこの種の補正 方法にっいて説明する。
図3に示された1DF振動系が振動台上に設置され,一定のスイープ速度γ(rad/
sec2),一定の励振振幅a。で変位強制振動が行われた時,振動体の空間絶対変位xに関 する振動方程式はっぎのようになる。
mk 十c(X−Xo)十k(x−Xo)=0 ………・・………・………一…・…・…………(28)
ここに
xo=aosin{(1/2)γt2} ・・…・……・・… …・… ………・… …… …・・…・…・・…・…・・(29)
(28)式に(29)式を入れ,位相をずらすと(28)式は次の式になる。
k +2。k+。2x−・。、ti[ 75A JiS5Ti7T(2art)+v]・・i・{(1/2)γt2} ……・……・…・………(30)
ここで,次のように置換する。
T・=γt/レ,X=x/Xo,
Q=レ/2α,N。=レ2/(4πγ) …………・……・・…………・・…・……… (31)
上式中Q=1/(2ζ)であって減衰の小さいときの共振倍率の近似値であり,N.はt
= 0で励振振動数f。が0から発振して固有振動数f,に達するまでの振動の繰り返し数
(サイクル数)になっている。TとXはそれぞれ時間と変位の無次元倍率である。
(31)式を使うと(30)式は
1/(4πN。)2・文+1/(4π凡)・1/Q・文+X=、ti[:7 F75Ki−IP(T/Q)+了丁・sin(2πNT.T 2)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… (32)
この式は解析的には解けないが,計算機を使えば数値積分により容易に時刻歴解を求 めることができる。
図18,19はRunge−Kutta法を使った数値例で図18には励振振動数を連続的に上 昇させるスイープアップの場合を,図19には下降させるスイープダウンの場合を示し てある。パラメーターのN.はスイープ速度を代表している。
これらの図から,実験的に得られた共振曲線を解析して固有振動数と減衰系数を求め る場合の注意事項として次の項目が挙げられる。
(1)実験はスイープアップとスイープダウンの両方向について実施する。
(2)今回はボード線図ではなくリニヤー線図にアップ,ダウンの両曲線を記入する。
(3)両曲線の山の頂上を示す振動数と固有振動数との差を固有振動数で割った商,
すなわち,振動数の移動率をアップとダウンの両場合にっいて計算し,これらの
t辰言田
ま10
時間
図18共振点通過(スイープアップ)
振 幅
← 一 一一で ← 一←← ←.一 一 ← 一 一 一 一 一 ^Y − 一 一 一 一・一■ 一一 一 ≡一 一 一 , 一≡一 ■ .一■ 一 一■r 一一 一 一 一 一 一一;一 一 一 一 ・亡 , 〜 旨 一 Y − 一← 一、 ←←←・
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時間
図19共振点通過(スィープダゥン)
移動率とそれに対応する振動伝達率を,図20中にプロットすると,この振動系の減衰比 とスイープ速度の概略の値を求めることができる。
図20はQとN.をパラメーターとして(32)式の数値積分を実行し時刻歴波形から最 大振幅の伝達率を求めたものである。
プロットした点の位置からQとN.の大体の値が読み取れる。
前記のようにQ=1/(2ζ),N,=f。2/(2β)であり,(30)式中のγは2πβに等しい。
スイープアップのときには,励振振動数f,=βtであり,βはスイープ速度で,単位は
αlS 20
10
Lぷ
00
Nn=600 Nn=600
212 1212
ll63.5 11 ‖
63.5
sweep down
21.2 11
111
」
l Iい
Sweep up lll llllr
21.2
636
‖1 lllI
Q=20
1
1 1111
u
6.36 [Q=20
15 10
Ull |lil 15
110
5
|1 ltI ll 5
0.8 1 1.2 1.4
・一言・z/sec
f.;fitn l Nn=一βt,2 2
Nn=⊥五_
2 β
β=γ/2π
γ:rad/sec2
β:cycle/sec2 =Hz/sec
f,/fn
図20 スイープテストで伝達率最大となる振動数と応答値
サイクル/sec2=Hz/secである。スイープダウンのときの励振振動数f,は当然なが らf。=f_一βtになる。ただし,f,m、,は設定した最大の励振振動数である。
5.むすび
本文では,共振曲線などを振動診断に使う場合の注意事項にっいて説明した。ここに 記した事項以外に,たとえば,ばね特性の非線形性の影響等の重要な諸問題が残ったが 紙面の都合で次の機会に譲りたい。
参考文献
1︶2︶
3)
4
國枝正春:実用機械振動学,理工学社(1984)
國枝正春:現場における機械の振動診断法,機械学会誌,84−754,p.964(1981)
國枝正春・白木万博:現場における流体関連振動の実例と振動診断法,機械学会誌,
82−728, p.740 (1979)
國枝正春:諸機械における自励振動,舶用機関学会誌,22−2,p.59(1987)