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土器産地推定の補助的手段としての多変量解析
著者 長友 恒人, 中野 智, 三辻 利一
雑誌名 古文化財教育研究報告
巻 13
ページ 29‑33
発行年 1984‑03‑20
その他のタイトル Numerical Taxonomy as a Supplementary Method for Sourcing of Ancient Potsherds
URL http://hdl.handle.net/10105/326
土器産地 推定 の補 助 的手 段 と して の多変 量 解 析
長友 恒人*・ 中野 智*・ 三辻 利一**
(*奈良教育大学
応用物理学教室)
(**奈良教育大学
化学教 室)
(1984年 1月31日受理)
1.は
じめ に自然科学的手法 によ る土器の産地推定法 と しては、現在、胎土の化学分析 データに基 いて分類 す る方法が一般的で あ り、特 に多元素同時分析可能 な蛍光X線分析 と放射化分析が有 力であ る。
須恵器の場合 につ いて いえば、胎土の含有成分のい くつかの指標元素 (例 えば、 K・ CaC Rb・
SrO NaO Mn等)が有効であ る。 これ らの指標元素の窯 跡 群 の分析 値 の ば らつ きが 、窯跡 群 間の分析値 の相 違 よ りも一般 に小 さい ことを利用す ることがで きる。
産地推定を胎土分析 データに基 いて行 う場合 には、分析が容易で得 られた結果の信頼性が高 い とともに、デ ータの取扱 いが簡便で、複雑な操作を含 まない方が望ま しい。その意味で は、視覚 的 に把握 しやす い2次元分布図上 に各試料の指標元素量をプ ロッ トして推定す る方法 は極 めて平 易で確実 な方法 といえる。 しか し、この方法では胎土 中の含有成分分析 デ ータを生の ままで プ ロ ッ
トす る為 に、相互 に類似 したデータの裏 に隠 された性質の違 いを区別す ることがで きないとい う 面 もあ る。例 えば、帰属 させ よ うとす るい くつかの窯跡群の化学特性の相違が二次元分布図で鮮 明でない場合 には、未知試料が どの窯跡群 に帰属す るかの判断を保留せ ざるを得 ないこと もあ る。
この ような場合、多変量解析の結果 を補助的手段 と して用 いることによ って、分析 データの分布 図 に表 われ ない土器胎土の隠れ た化学特性 を浮 び上 らせ ることがで き る可能性があ る。
筆者 の一人 、三辻 は吉 岡・ 山本 とと もに、石川県横江庄遺跡 出上の須恵器の胎土分析を行 い考 古学的考察を加えた。1)胎土分析 は蛍光X線分析 と放射化分析 によ って得 られた含有成分元素の規 格化値 (標準試料
JG‑1と
の比)をデ ータとす る ものであ る。 このデータによ って ほとん どの 試料は帰属す る窯跡群 を推定す ることがで きたが、少数 の試料 につ いては判断を留保せ ぎるを得 なか った。未判定試料を含む分析 データについて、 クラスター分析、主成分分析、マハ ラノビス の汎距離 による HotellingのT2検
定等の解析を行 った。2.統
計 処 理 と 結 果ク ラス ター分析、主成分分析法 では分析 データの分布図か ら直接判断で きる事柄以上の ことは 明 らか にな らなか った。Hotellingの
T2検
定 は分布 図 に比 べて有効 と考 え られ たが 、Hotel―lingの
T2検
定 による結論の正 しさを予備的 に確認す るために、蛍 光X線分 析 と放 射 化 分 析 の 両者 とも一致 した判定 にな って いる試料 について検定 した。その結果、約95%につ いて分布図 に よる結論 と一致 した。 ここで は、次 の2点につ いて HotellingのT2検
定 を行 った結 果 につ いて述べ る。即 ち(1)蛍
光X線分析 による判定が二つの窯跡群 にまたが るか 、 どの窯 跡群 か らもわずか にはみ出す試料 は放射化分析の結果 と合わせて総合判定 したが、蛍光X線分析 によ る デ ータだけで判定が可能か どうか、(2)蛍
光X線分析 の結果 と放射化分 析 の結 果 が 異 な るた め に総合判定を保留 した試料 につ いての検定が有効か どうか、である。(1)に該 当す る試料 は53、 62、 69、 73、 83、 85、 159、 166、 413、 425、 451、 454、 465の13 点であ る (試 料番号は参考文献1)中の番号 に一致す る一一― 以下 同 じ)。 これ らの試料のRb―
Sr分布図上での位置は第 1図の とお りであ る。
l.0 73と83はどの領域か らも
はずれているが、最 も近 い 加賀南部領域 と判定 した も のであ る。 これ に蛍光X線
分析 データの うちK、 Ca、
Rb、
Srの
4元素 、お よ び K、 Ca、 Fe、 Rb、Srの 5元素を変量 とす る 2通りの検定を行 ったが 、 両試料 はどの領域か らも離 れて お り、いずれの グル ー プに帰属す るか判定で きな か った 。
他 の 11試 料 は、 いずれ も
Rb―
Sr分
布 図 で は加 賀 北部 と金沢の領域 に重複 しRb
Q5
てい る。 これ らの試料 について も73、 83と同様 に二通 りの検定 を行 った。K、 Ca、 Rb、 Srを
変量 と した検定で は、加賀北部 グル ープに69、 85、 159、 166、 413、465が 帰 属 し、金 沢 グル ープ には53、 62、 425、 451が 帰属 した。 さ らにFeを加えた5変量 の検定で は、加賀北部 グル ープに
69、 85、 159、 166、 413、 425、 451、 465が 帰属 したが、金沢 グループには2.5%以上 の危 険率 で は該 当す る試料 はなか った。以上 の結果を、例 えば425の よ うに変量の とり方 で矛盾 す る結 果 に な った ものを保留 して ま とめると第1表の よ うにな る。表か ら明 らかなよ うに11試 料中9試料 は
0 0 0.5 〒 1.0
第1図 検 定 した試料のRb―Sr分布図 と帰 属すべ き跡群 グル ープの領域
第1表 蛍 光X線分析値 の みによ る検定結 果 試 料 番 号 蛍 光X線分 析 Hotellingの T2検定
加 北 or金 沢 金 沢
金 沢
425 未 定
未 定
454 未 定
465
第2表 蛍 光X線分析値 と放射化分析値 に よる検定結果
試 料 番 号 蛍 光X線分 析 放 射 化 分 析 Hotellingの T2検定
南 金 沢 金 沢
金 沢 未 定
南
南 未 定
南 未 定
420 南
424 金 沢
442 加 北 or 金 沢 加 北 or金 沢
蛍光X線分析 データだ けか ら産地推定が可能で あ り、 その結果 は53を 除 いて放射化分析 デ ータに よる推定 とも一致 して いる。53に ついて放射化分析の判定 は加賀北部であ るが、検定の結果 と一 致 しなか った理 由は明 らかで はな い。
次 に (2)に該 当す る試料 の解析で あ るが 、 これ に は128、 171、 410、 417、 418、 420、 424、
442の 8試料が あ り、放射化分析 と蛍光X線分析 の判定 は第2表の とお りで あ った。 これ につ い ての検定 はK、 Ca、 Fe、 Rb、 Sr、 Na、
Mnの
うち4〜 6元素 を変 量 と して計算 したが 、Feを変量 に加 え る場合、結果は参考す るに とどめた。検定の結果を第2表に示 したが 、 171は 4変
量 の場合 と6変量で矛盾 した結果 とな り、417と 418は Feを含 む6変量 で加賀北部 とな ったが 、 他の変量の組合せでは帰属す るグル ープな しとな ったので、 いずれ も判定 を保留 した。 この結 果 、 分布図 によ る判定 を保 留 した8試料 の うち5試料 につ いて結論 を下す ことがで きた 。
3.ま
とめ
ここでは主成分分析 とクラスター分析 の結果を示 さなか ったが、 これ らの手法 は分布図 による 判定の域 を出なか った。Hotellingの
T2検
定 は分 布図 の みで は判 定 を保 留せ ざ るを得 なか っ た試料の60〜70%に結 論を与 え、統 計処理 の有効性 を確認 した。統計処理をす る場合、変量の とり方 によ って結果が異な ることがあ る (今 回は判定を保留 した)
ので、分析値の うち変量 と しての元素の組合せ は少 な くとも2通り以上であ ることが望ま しい。
また、今回使用 した分析値 の うちFeのよ うに、帰属すべ き母集団を識別す るの に有効でな い 元素を変量 と して採用す る場合 には注意を要す る。その意味では、視覚的 に把握 しやす く、簡便 な分布図による判定を基本的な方法 と して一度行 った上で、補助的な手段 と して統計処理を施す のが適当であ ろ う。
今 回は統 計処 理 と しては限 られ た方法を用 いただ けであ るが、他 の処理法 につ いて も有効 な手 法があ ると予想 され る。 それ らにつ いて も随時検討 してみた いと考 えて いる。
参
考
文
献
1)三辻利一・ 吉 岡康暢0山本成顕 (1982):横江庄遺跡 (石川県松任市)から出土 した土器 の 胎 土 分 析 、 考古学 と自然科学 第15号、41‑63.
Numerical Taxonomy as a Supplementary Method for Sourcing of Ancient Potsherds
Tsuneto Nagatomo,* Satoshi Nakano* and Toshikazu Mitsuji**
(* Department of Physics, Nara University of Education)
(** Laboratory of Physical Chemistry, Nara University of Education) (Received January 30, 1984)
Hotelling's T2 test using Mahalanobis' generalized distance was applied to analytical data of ancient potsherds (Sueware) from Ishikawa prefecture. The data used is the same ones in the previous work (1983) in which a sourcing was made by visual distributions of Rb, Sr, Na and Mn contents. In the work, the sourcing was successfully made for most of the samples, but the sources of several samples could not be determined. That is because the content distributions of kiln groups overlap each other.
Hotelling's T2 test was applied for these samples using K, Ca, Fe, Rb, Sr, Na and Mn con- tents. The tests were made for two cases; (1) using x-ray fluorescent analysis data, (2) using both x-ray fluorescent and activation analyses data. The sources of 12 among 19 samples were successfully determined.