恒 正 門 T")Y ド"
・ l J
先 端 科 学 技 術 と 法 的 規 制
(生命科学技術の規制を中心に)
一九九九年五月
科学技術庁科学技術政策研究所
第
2 調 査 研 究 グ ル ー プ
囲 谷
実大山
真
束伊
藤
晃輔木場隆夫
本
POLI CY STUDY
は、執筆者 の見解 に基づいてまとめ られた ものである。Le ga lRe gul a t i onso nt heAdva nc e dSc i e n c ea ndTe c hnol o gy‑ Re gul a t i onso nLi f eSc i e n ce ‑ May1 9 9 9
M i n o r uK u n i y a
M a mi O y a ma
K os u k e lto
T a ka o
Ki ba
2 ndPol i cy‑ Or i e nt e dRe s e a r c hGr oup
Nat i o na lI ns t i t ut eo fSc i e n c eandTe c h nol o gyPol i c y( NI STEP) Sc i e n c eandTe c hno l o gyAge nc y
J apa n
〒 100‑0014
東京都千代田区永 田町1‑l l ‑39
Te l:0 3 ‑ 3 5 81 ‑ 2 3 9 2,Fax:0 3 ‑ 3 5 0 0 ‑ 5 2 3 9
先 端 科 学 技 術 と 法 的 規 制 (生 命 科 学 技 術 の 規 制 を 中 心 に )
次
は じ め に 園
谷実 ・ 大 山 真 未 ‑
生 命 科 学 技 術 に つ い て の 規 制
第 7 編 規 制 の 可 能 性
第 一 章 法 的 規 制 園
谷実 ・ 大 山 真 未 6
第 一 節 生 命 科 学 技 術 の 現 状 と 戦 略 ′hU
第 二 節 各 国 に お け る 規 制 の 内 容 と 経 緯
第 三 節 我 が 国 に お け る 法 的 視 点 か ら の 検 討
第 四 節 法 的 な 規 制 の 限 界
第 一 項 学 問 研 究 自 由 の 制 限
第 二 項 研 究 段 階 と 実 用 段 階 の 技 術 規 制
第 五 節 規 制 対 象 の 検 討 (生 殖 医 療 技 術 に つ い て )
第 六 節 規 制 を 正 当 づ け る 根 拠 (ク ロ ー ン 技 術 を 主 に )
第 一 項 安 全 性
第 二 項 社 会 的 秩 序
第 三 項 規 制 根 拠 に 関 す る 結 論
第 七 節 補 説 ・ 研 究 者 の 法 的 責 任
82 75 67 61 61 51 45 42 42 34 1 6
第 一 項 加 重 的 過 失 責 任
第 二 項 一 般 的 過 失 責 任
第 二 章 国 及 び 学 会 等 の ガ イ ド ラ イ ン
第 一 項 ガ イ ド ラ イ ン に つ い て
第 二 項 成 文 化 さ れ な い 法 規 範 圃 谷 実 ・ 大 山 真
未第 三 項 基 準 違 反 に つ い て
第 四 項 補 説 ・ 技 術 基 準 論
1 1 61 1 21 0 29 6 9 6 8 8 8 2
第 二 締 規 制 の た め の 合 意 形 成 努 力
第 一 項 合 意 形 成 の た め に 必 要 な 当 事 者
第 二 項 合 意 形 成 手 法
木 伊 場 藤 隆 晃 夫 輔
1 3 21 21
ま と め 園 谷 実 ・ 大 山 真 未 1 48
(参考)
一 . 各 国 法 制 度 概 要
二 . 放 射 線 の 国 民 全 体 へ の 影 響
三 . コ ン セ ン サ ス 会 議 に つ い て の 資 料
1 611 5 91 5 2
は じ め に 園 谷 実 ・ 大 山 真 未
〟 . 科 学 技 術 と 人 間 ・ 社 会 に 関 す る 調 査 研 究 に 対 す る 科 学 技 術 政 策 研 究 所 の 取 組 み
近 年 の 科 学 技 術 の 急 速 な 進 展 は 、 国 民 生 活 に プ ラ ス ・ マ イ ナ ス 両 面 に わ た り 多 大 な 影 響 を 与 え て き て お り 、 一 方 で 科 学 技 術
が 社 会 シ ス テ ム や 日 常 生 活 の あ り 方 を 変 え ' 他 方 で は 社 会 の 側 か ら 科 学 技 術 に 対 し て の 要 望 や 規 制 と い っ た 働 き か け が 存 在 し
て い る 。
従 来 ' 科 学 技 術 と 人 間 ・ 社 会 の 関 係 に 関 す る 国 の 対 応 と し て は ' 「科 学 技 術 政 策 大 綱 」 ( 叫 九 九 二 年 四 月 閣 議 決 定 ) を 始 め '
科 学 技 術 会 議 の い く つ か の 答 申 の 中 で 社 会 と 科 学 技 術 の 調 和 の 重 要 性 が 指 摘 さ れ て き た 。 具 体 的 に は 、 一 九 七 1 年 の 科 学 技 術
会 議 第 五 号 答 申 、 1 九 七 七 年 の 科 学 技 術 会 議 第 六 号 答 申 、 1 九 八 四 年 の 科 学 技 術 会 議 第 二 号 答 申 ' 一 九 九 二 年 の 科 学 技 術 会
議 第 7 八 号 答 申 な ど の ほ か 、 7 九 九 五 年 に 制 定 さ れ た 科 学 技 術 基 本 法 に お い て も 、 科 学 技 術 と 人 間 ・ 社 会 と の 調 和 に つ い て の
言 及 が 見 ら れ る 。
1 方 、 こ れ に 対 応 し た 具 体 的 施 策 と し て は 、 本 論 第 二 編 で 述 べ る テ ク ノ ロ ジ ー ア セ ス メ ン ト が 、 l 九 七 〇 年 代 か ら 我 が 国 で
も 注 目 さ れ 実 施 さ れ た が 、 こ れ も 科 学 技 術 の 正 ・ 負 両 面 の 影 響 評 価 (ア メ リ カ で は 科 学 技 術 の も つ 危 険 性 へ の 早 期 警 戒 と し て
考 え ら れ た ) と い う 意 味 で ' 科 学 技 術 と 人 間 ・ 社 会 の 調 和 を 目 指 す 初 期 の 施 策 と し て あ げ て お く べ き で あ ろ う 。
な お 、 個 別 分 野 の 中 で は 、 特 に 生 命 科 学 技 術 と の 関 連 で 、 科 学 技 術 と 人 間 ・ 社 会 の 関 わ り が 問 題 と さ れ 、 関 係 省 庁 部 内 で の
検 討 も 進 め ら れ て き て お り 、 こ れ に つ い て は 第 1 編 第 三 早 第 一 節 の 「生 命 科 学 技 術 の 現 状 と 戦 略 」 の 項 の 中 で ふ れ る こ と と す
る 。
科 学 技 術 政 策 研 究 所 は 7 九 八 八 年 (昭 和 六 三 年 ) の 発 足 以 来 ' こ の (科 学 技 術 と 人 間 ・ 社 会 ) を 主 要 な 調 査 研 究 テ ー マ の 1
つ と し て 取 り 上 げ 、 科 学 技 術 と 人 間 ・ 社 会 に 関 す る 世 論 調 査 の 分 析 や 国 際 比 較 、 科 学 技 術 が 人 間 ・ 社 会 に 及 ぼ す 影 響 や 生 活 関
連 科 学 技 術 課 題 に つ い て の 意 識 調 査 な ど を 行 っ て き た と こ ろ で あ る 。
主 な 成 果 と し て は ' 「科 学 技 術 に 対 す る 社 会 の 意 識 に つ い て 」 ( 一 九 八 九 年 ) 及 び 「日 ・ 米 ・ 欧 に お け る 科 学 技 術 に 対 す る 社
会 意 識 に 関 す る 比 較 調 査 」 ( 1 九 九 二 年 ) に よ り ' 科 学 技 術 に 対 す る 人 々 の 意 識 調 査 を 基 に 分 析 し 、 科 学 技 術 に 対 し 社 会 や 人
々 の 生 活 の 発 展 に 大 き く 貢 献 す る こ と が 期 待 さ れ て お り 、 人 間 の 生 存 や 安 全 の 実 現 へ の 貢 献 が 重 要 で あ る こ と 等 の 指 摘 を 行 っ
た 。 ま た 、 「科 学 技 術 が 人 間 ・ 社 会 に 及 ぼ す 影 響 に 関 す る 調 査 」 ( 1 九 九 四 年 ) に お い て ' 意 識 調 査 に 基 づ き 、 科 学 技 術 と 人 間 二 二
三ページ〜参
照
二一ページ〜参 照
・社会との調和を図っていくために科学技術に対する価値観、因子'機能等の新しい分析を行い、科学技術が人間・社会に及
ぼす問題面(人間の精神面への影響や人間性軽視等)に注意を払うことが必要であること等を指摘した。さらに、「生活関連
科学技術課題に関する意識調査」(中間報告一九九五年及び最終報告一九九六年)では、生活関連科学技術の推進方策として'
環境保全、健康・医療'防災'福祉関連分野の重要性や'生活者のニ
ー
ズの把握及び生活関連科学技術に関する情報提供の必要性などを指摘したO
近時の動きとして、従来の意識調査の分析を中心とした調査研究のみならずへ科学技術の進歩を契機とした社会的変化への
対応'あるいは科学技術に解決が期待される社会的問題への取り組み'例えば'クローン技術をはじめとする生命科学技術'
情報科学技術、廃棄物・環境問題などに関して'新たなアプローチによる'具体的問題事例'行政事例を踏まえての検討、政
策琴吉が求められるようになっており、本調査研究もこのような新しい問題意識に立って行ったものである。
二.新しいアプローチと社会的関心
‖
科学技術の新しい捉え方科学技術をめぐる社会の変化を踏まえて'近年tSTS(Sci
enc e,
Tec hn oto g
yan
dSoc iet
y)と呼ばれる新しい研究分野への関心が高まっている。その定義は必ずしも確立されていないが、例え
ば「科学技術の社会的側面についての人文・社会科学的な研究・教育である」(中島秀人﹃科学とは何だろうか﹄)とされる。
その歴史を概観すると、1九七
〇
年代初め'イギリス各地の大学等による科学教育への取り組みの中で、科学技術をめぐる諸問題について多角的側面からの分析を取り入れようと試みたことに始まるとされる。(いわゆるS‑SCOZ⁚Sci
enc e in
aSocia‑Context)
他方、アメリカにおいても'一九六
〇
年代以降、環境問題などをきっかけとして、大戦での勝利以来の科学技術に対する社会の期待感に疑問が投げかけられるようになり、イギリスでの動きが導入されたことともあいまって'一九六
〇
年代から一九七
〇
年代初めにかけて、大学において科学技術と社会との関係に関するプログラム(STS)が登場した。近年の科学技術社会論の大きな流れとしては'科学技術と人間・社会との関わりのあり方をめぐって、科学技術についての
公衆理解増進(専門家が市民の啓発を図る)という方針から、科学技術と社会とのコミュニケーションを図り、さらに科学技
術についての意思決定に市民が参加するという方向に推移しており、情報公開'アカウンタビリティ(専門家の市民への説明
[s T S の 紹 介 ]
2
義務)の重要性が意識されるに至っている。
また、科学技術の抱える問題、例えば地球環境問題'生命倫理'国際的な技術摩擦等が注目される今日'健全な社会運営の
ためには'一般市民から政策決定者まで'すべての人々が科学技術に関する社会問題への理解を持つことが不可欠であること
が認識され、科学技術の現実へのコミットが重視される方向へと推移している。
このような新しい科学技術論(sTs)の展開には'いわゆる「モ
ー
ド論」の果たした役割も見逃すわけにはいかない。これは、1九九
〇
年代に入って登場し話題となったもので、マイケル・ギボンズ(イギリス・サセックス大学科学政策研究ユニット所長⁚当時)らによる著書﹃づheZewProductionofKno
w
‑edg e
﹄(小林信一監訳﹃現代社会と知の創造〜
モー
ド論とは何か﹄)により提唱されたものである。ここでは'科学技術活動を編成
する社会的な様式をモー
ドという概念でとらえ、既存の学問領域内の研究者集団の価値や方法により研究が進められ評価されるモ
ー
ド1の科学に対し、現実の問題解決や社会的応用を指向するモ
ー
ド2という科学の様式が出現したことが指摘されているQモード2は、近年の環境問題、医療保険問題、ビッグ・サイエンス等'従来型のモ
ー
ド1では説明のできない諸問題の進展を背景として登場したものであり、トランス二アイシプリナリ
ー
で問題指向型であり'
知識を利用する立場からの研究活動様式である。このようなモー
ド論の登場により、科学技術のあり方について考えるに当たって、様々な学問的手法を用いた(すなわち人文・社会科学と自然科学の両者のアプロ
ーチによる)問題解決型の視点がより明確に意識されるようになって来たものと考えられる。sTsそのものの評価については、研究対象となっている科学者そのものと論争もあり'反論を受けている部分もあるよう
であるが、科学技術政策研究に新しい視点を盛り込んだ提案として注目する必要があると考える。特に、その方法論からトラ
ンスデイシプリナリを特徴とするために、様々な分野との競合を生じて新しい方法論が生まれてくる可能性がある。そうした
例として'科学技術史学'科学技術哲学、科学技術政策学のようにすでに研究の始まっているものから、科学技術法学、科学
技術経済学'科学技術政治学、科学技術倫理学、科学技術大衆化論のような従来なかった分野も提案されてきている(中島秀
人﹃科学とは何だろうか﹄)ところであり'こうした新分野についてはまだその実体は見えにくいものの科学技術政策の調査
研究に当たっては配慮して行く必要があると考える。
このような学問の新しい潮流の現れるT方で'科学技術をめぐつては、この叫
○
年余にわたり大きな変化が見られた。経済社会'特に経済問題の中で、産業の活性化に果たす科学技術の役割は大きな期待を受けるようになり'各国とも先端科学技術
に対する戦略的な政策が次々と取られるようになっている。一方'特許や標準等の国際協力の求められる問題が増える一方、
生命科学技術や情報科学技術などの分野では高度な研究やその研究成果の活用そのものに一定の制限が必要であるという議論
[ モ
ード 論 ]
[s T S の 評 価 と
新 し い 対 応 ]
も行われるようになっている。そのために、科学技術に関する検討も単に特定分野の専門家だけで決定するのではなく、公開
やアカウンタビリティ、施策への国民の声の反映などが求められるようになってきており'最近の科学技術行政のかなりの部
分は従前考えられなかったこうした新しい対応に向けられたものとなっている。
∽新しい課題とそのアプローチ
科学技術政策研究所としては、科学技術と人間・社会の検討に当たってはすでに述べたように様々な検討を進めてき'また
これから検討すべき課題も広範な分野にわたって存在していると考えるが'上記のような科学技術をめぐる状況の変化にも配
慮しっつ'特に第二調査研究グループの当面取り上げるべき課題として'現在現実に問題が生じているか'ないしごく近い将
来問題が生ずることが予測される技術であって、早急な回答を求められている分野事項について検討を進めることにした。平
成一
〇
年度に機関評価を受けた科学技術政策研究所としては、機関評価において当研究所の役割として指摘されたアドバイザリ
ー
機能を果たすためにも、このような問題に対応していくことが求められていると考えるからである。一方このような分野については'行政事例が比較的豊富にありtかつ検討の過程で立法化や制度化のような問題を控えているために、一般的な学
術機関と行政機関の中間に位置する政策研究所の能力が発揮しやすいというメリットのあることも補足しておく。
もちろんこのような分野の検討を進めることにより'科学技術と人間社会の1般的な検討の中で積み上げ的な実証を進める
こととなり'従来比較的一般論から議論が進んでいる(科学技術と人間・社会)の研究とのバランスのとれた進捗が図られる
こととなると考えたものである。
このように検討の対象を設定する時'対象となるジャンルは大きく二つに分けて考えることができる。それは'①原子力開
発'宇宙開発など国が主体となって推進する先端的科学技術と、②国が比較的中立的な立場から国全体の推進や規制を考える
先端科学技術である。一概に個別の科学技術がどちらに属するかは定めがたいが'一応後者の科学技術の検討の方が原理的な
回答を期待でき、前者はそうした原理の応用と考えて行くことができるので'当グループとしてはまず'②の分野について検
討を行い'それらの成果を踏まえて'①についての検討を行うこととした。
次に、②の科学技術についてもその対象は極めて広範囲な分野にわたり'研究は網羅的に行うことは困難であり'特定の視
点からその代表分野を選び'順次検討を行うことが必要である。その際'近年の科学技術政策の中で「規制」が重要なポイン
トになっていることに着目した。従来'研究に規制はなじまないものと考えられてきたが、現在社会的に問題となっている②
に属する研究については、ほとんどが規制について考慮しなければいけない科学技術分野となっている。