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概説心理学 入試情報認知心理学発達心理学社会心理学臨床心理学卒業後の進路普遍性 多様性 可変性を持つ人の心を事実に基づいて探究する科学 近代化による科学の発展に伴い 人の心も科学的な研究の対象に 心理学と聞くと 喜怒哀楽などの感情や 心理ゲーム が扱うような深層心理などを思い浮かべる人が多いので は

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第29回  心理学は、心とは何か、どのようなはたらきをしてい るのかを探究する学問だ。実験や調査を行い、客観的な データを示すことで、心について科学的に説明しようと する点が特徴だ。  もうひとつの特徴として、分野の幅広さが挙げられる。 心理学には、「記憶」「思考」など人間の知的な活動につ いて調べる認知心理学、心に問題を抱えた人の支援をめ ざす臨床心理学など、さまざまな分野があり、それぞれ に研究が行われている。  しかし一般的には心理学というと、心理テストなどの 一部の技法や、スクールカウンセラーの仕事などが注目 され、心理学全体の成り立ちや特徴が見えにくくなって いる現状もある。  そこで今回は、まず概説で心理学成立の経緯や主だっ た分野、今後の心理学研究の方向性などについて概観し た後、認知心理学、発達心理学、社会心理学、臨床心理 学という心理学の代表的な4分野について、研究の内容 や方法を見ていく。さらにすべての分野の基礎になる、実 験や調査、統計処理といった心理学研究のための技法を 身につける学部での教育について紹介する。

学部

学科

心理学

概説

(京都女子大学 箱田裕司教授) �������

p59

・心の動きやメカニズムを科学的に調べる学問 ・さまざまな角度から人を見て、総合的に理解

入試情報  ����������������

p62

認知心理学

(広島大学 宮谷真人教授・中尾敬准教授) ��

p64

・「記憶」「思考」など人間の知的な活動を調べる ・実験による研究が多く、医学・生物学との連携も (例)回答のある問いとない問いで脳の働きに違い

発達心理学

(青山学院大学 坂上裕子准教授) ������

p66

・子どもから老人までの心の変化を調べる ・対象に合わせて、観察や実験、調査などを工夫 (例)2歳児の反抗期が希薄化、体力が低下

社会心理学

(追手門学院大学 浦光博教授) �������

p68

・社会との関わりが心にどう影響するかを調べる ・調査で多くのデータを集めて統計的に分析 (例)社会的排斥を受けると自分を制御する力が低下

臨床心理学

(東京大学 下山晴彦教授) ���������

p70

・心の問題を抱えた人を支援する ・科学的な根拠に基づいた治療・研究が重要に (例)強迫性障害の治療法研究、ウェブ上で自己診断

教育

(筑波大学 綾部早穂教授) ���������

p72

・実験・調査や、統計処理について実践的に学ぶ

卒業後の進路 ��������������

p74

・学部卒業後は幅広い分野へ進出 ・臨床心理士は大学院進学が必須

C

ontents

(2)

近代化による科学の発展に伴い

人の心も科学的な研究の対象に

 心理学と聞くと、喜怒哀楽などの感情や、心理ゲーム が扱うような深層心理などを思い浮かべる人が多いので はないだろうか。しかし、心理学が扱っている分野は もっと広範だ。例えば、臨床心理学の分野では心に困難 を抱える人の治療を行っている。また、感覚・知覚心理 学の分野では「錯視」などについて研究されている。錯 視とは目の錯覚で、例えば同じ長さの線分に内向きの矢 羽、外向きの矢羽をつけると違った長さに見えたりする 現象(ミュラー・リヤー錯視)だ。さまざまな種類があ り、メカニズムが解明されていないものも多い。  日本学術会議「心理学分野の参照基準検討分科会」の 副委員長である箱田裕司教授(京都女子大学)は「人は 知覚に加え、記憶や学習、感情、欲求といったさまざまな 心のはたらきを通して、周囲の環境や、自分の内面、自 分と環境との関係を理解しています。こうした多様な心 のはたらきを根拠に基づいて説明しようとするのが心理 学という学問です」と語る。  心理学が扱う心のはたらきが多岐にわたるのは、心理 学の成り立ちと無縁ではない。心とはどういうもので、ど んなはたらきをするのかという問いはギリシャ・ローマ時 代からあり、哲学者や宗教家がそれぞれに自分の考えを 展開してきたが、近代になって心理学という学問になっ た。近代にはニュートンの物理学など、物質を客観的に 観察し、背景にある法則を発見する自然科学が急速に発 展した。その中で、観察する主体(心)も観察の対象に しようという試みが始まり、それが現代の心理学につな がっていった。「心理学の源流の1つは、1879年にヴン トがライプチヒ大学に開設した心理学実験室です。ここ から心に関する科学的な探究が始まり、世界に広まって いきます。もう1つは、ヴントとほぼ同じ頃にフロイト によって始められた精神分析で、これが臨床心理学につ ながっていきます。このほか人格や知能の違いなどに着 目したゴールトンの個人差心理学、子どもの知的能力の 把握に努めたビネーの発達心理学などの分野が混ざり合 いながら心理学は発展していきました。また誕生当初か ら、哲学や生理学、物理学、生物学などの周辺諸科学の 影響を受け、今日でも医学(脳科学)や文化人類学、情 報科学などと相互に影響を与えています。学際性に富ん でいることも心理学の大きな特徴です」(箱田教授)  

実験を通して法則化をめざす研究法と

心の個別性を観察する研究法に二分

 このように、心理学は人の心の多様な側面を対象にし ており、それぞれ専門に分かれて発展してきた。代表的 な分野には、認知心理学、発達心理学、教育心理学、社 会心理学、臨床心理学などがある<表>。  心理学のいずれの分野も、それぞれの発展過程で固有 の研究方法を確立させている。研究法は大きく、「法則定 立的な研究法」と「個性記述的な研究法」に分けること ができる。「法則定立的な研究法」では、実験を行ったり、 調査・観察などの結果に対して統計処理を行い、数理的 に分析したりして、対象とする心についての一般法則を 得ようとする。これに対して「個性記述的な研究法」は、 面接や観察などを通して、特定の人の心の動きを詳しく 知ろうとする。臨床心理学や発達心理学などの分野で用 いられる。ただし、これらの分野においても、「法則定立 的な研究法」も行われており、すべて「個性記述的な研 究法」というわけではない。

脳科学との連携に注目

諸科学が持つ人間に関わる知見の分析にも期待

 近年注目されているのは、脳科学との連携だ。fMRI(注) などの脳波を観測する技術が進展した結果、ある心理状 態になると脳の特定部位の活動が盛んになるなどの現象 が観察できるようになり、脳のはたらきと心のはたらき

普遍性、多様性、可変性を持つ

人の心を事実に基づいて

探究する科学

概説

京都女子大学 発達教育学部

箱田

裕司

教授

(注)fMRI(functional magnetic resonance imaging)…核磁気共鳴現象を利用して体内を3次元画像で見ることのできるMRIを利用し、脳や脊髄の血流動態 反応を視覚化する方法。

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の関連を研究することが可能になってきたからだ。「例え ば脳科学で、自閉症の人の脳のはたらきを調査した研究 があり、自閉症の人はそうでない人と同じ心理状態の時 でも脳の異なる領域が活性化することがあるとわかりま した。こうした研究成果は人の認知の仕組みについて考 える認知心理学にとっても有益です」(箱田教授)  また、遺伝や環境と、心の関係を調べる研究も注目さ れている。人のさまざまな行動や人格に対し、遺伝や環 境がどれだけ影響を与えているかを明らかにしようとい うものだ。例えば、一卵性双生児と二卵性双生児を対象 に、外向的か内向的か、神経質か否か、協調性があるか ないかといった個人の人格や、空間的知能、言語的知能 などの違いを比較する研究がある。一卵性双生児で違い が少なく、二卵性双生児で違いが大きく出れば、その人 格や知的能力は、遺伝による決定率が高いということに なる。双生児研究自体は以前から行われているが、近年 ゲノム解析が進んだことなどから、改めて遺伝が人の行 動に与える影響が注目されている。  今後の心理学には、このように心のはたらきをより深 く理解することに加え、人文社会科学における、人の心 に関するさまざまな知見を整理・分析する役割も期待さ れている。「文学や哲学、経済学など多くの人文社会科 学では、それぞれに人間の心や行動などについての知見 を積み重ねています。心理学の手法でそうした知見を検 証したり、整理し直すことで、それぞれの分野に新たな 気づきをもたらすことができます。法律や社会制度も心 理学の立場から捉え直すことで、よりよいものにするこ とができるでしょう。心理学は諸科学が持つ、人間に関 わる知見を束ねる要としての機能も求められているので す」(箱田教授)

一般的なイメージによる心から

科学的探究の対象としての心へ

 では、心理学の教育はどのように行われているのだろ うか。多くの大学では、教養科目として心理学を設置し ている。教養科目として心理学を学ぶ最大の目的は、人 感覚・知覚心理学 感覚器官を経由して入ってくる外界からの情報や身体内部の情報を処理する過程を研究する学問。五感のすべての感 覚機能を問題とするだけでなく、感覚間の相互影響についても研究する。最近では、錯視、運動視、音声知覚などの 伝統的テーマだけでなく、バーチャルリアリティ研究、脳画像を用いた研究など新たな技術を用いた研究も進展して おり、これらについて学ぶ。 学習心理学 人間や動物のさまざまな行動が経験を通して習得されることを学習という。学習を可能にしている原理、学習を規定 する諸要因などが研究され、行動療法のように、得られた成果の臨床場面への応用がなされている。新たな行動の習得、 変容に関わる心理学の領域である。 認知心理学 注意、記憶、思考、推論、問題解決など人間の高次の認知機能を主な研究対象とし、情報処理システムとして人間を 捉える立場から研究する学問。この立場に立った研究は、下記の発達心理学、教育心理学、社会心理学の分野でもな されており、相互の関係は深い。最近では、感情や感性なども研究対象となっている。 発達心理学 受胎から老年期に至るまでに生じる身体的、精神的、行動的変化の一般的な特徴、その法則性、その変化に影響する 要因について研究する。特に人は生涯を通して成長を続けるという立場では、生涯発達心理学ということばが使用さ れる。多くの大学で授業科目として設置されている。 教育心理学 教育についての心理学的事実や法則性を明らかにし教育場面で起こる諸問題を心理学の知見を用いて明らかにする学 問。理論的側面の研究と実践的側面の研究があり、理論的側面としては、人と環境の相互作用という視点から、人間 形成の過程を研究する。実践的側面としては、教育現場に現れるさまざまな問題を心理学の知見をもとに理解し、説 明し、改善しようと試みる。 社会心理学 個人と個人、個人と社会との間の相互影響について心理学的方法を用いて明らかにする学問。人に対してどのように して魅力を感じるかといった対人魅力、他人に対する援助行動、同調行動、行動の原因をどのように帰属させるかと いう原因帰属、コミュニケーションの問題、リーダーシップなど、人と人、社会と人との相互の影響に関して学ぶ。 臨床心理学 心理学の知見を適用して、個人が抱えるストレスや不適応、精神疾患など、心理面、感情面、行動面の障害の研究、 診断と援助、予防を行う心理学の領域。また、これらを通じて、新たな理論や方法の開発も行う領域である。 パーソナリティ心理学 人の行動の時間的・空間的一貫性についてそれが形成される過程、それらに影響する要因を研究する心理学の領域。パー ソナリティ ( 人格 ) についての理論、パーソナリティの形成過程、測定方法などについて学ぶ。 法心理学・犯罪心理学 法心理学は、法システムに関わる人々の心理や行動を研究の対象とするもの。目撃証言や供述の信憑性などについて 心理学の知見を用いて明らかにする。一方、犯罪心理学は、犯罪に関わる諸問題について心理学の知見から解明しよ うというもの。これら二つの心理学は重なる部分が多い。このいずれかの授業科目を設置する大学が徐々に増えている。 <表>学部の心理学教育で学ぶ代表的な分野 (箱田先生提供)

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の心のはたらきを科学的探究の対象として考えられるよ うにすることだ。「誰にとっても心は身近なものですが、 心を科学的に学んだことがある人はごく一部です。その ため、一般に信じられていることと心理学が明らかにし てきた心の実態が乖離していることは多々あります。心 理学の教育では、まずこの乖離を埋めることを目的とし ています」(箱田教授)  例えば、凶器を持った犯人を見ても犯人の顔を覚えて いない心のはたらきを「凶器注目効果」というが、研究 者の間でも、凶器を凝視して顔に注意が向かなかったた めだと考えられてきた。ところが最新の研究で、凶器に 注目したからではなく、有効視野が狭くなったためであ るとわかった。緊急時に素早く適切な情報処理をするた めに、無意識に処理範囲を狭くした結果だと考えると合 理的に説明できる。このように、根拠のない思い込みで はなく、心を「科学的な知見」に基づいて捉える姿勢を 学ぶ。  その上で、人の心と行動には「普遍性」「多様性」「可変 性」があることを学ぶ。普遍性とは、全ての人に共通す る心理現象や行動パターンで、多様性とは、パーソナリ ティや認知能力などが人によって異なることだ。可変性 は、経験、訓練そして治療によって心のはたらきが変わ ることであり、臨床心理学はこの可変性に立脚している。  さらに、心理学の社会的な役割についても学ぶ。犯罪 防止や矯正、消費行動、リスクマネジメント、人事労務 管理、学習法や教授法、人間工学、災害心理、交通心理、 カウンセリングなど多くの応用例を通して、心理学が社 会にどのように貢献しているかを理解していく。

実験・実習でさまざまな研究法を学び

卒業論文を通してそれらの知識を統合する

 心理学部など心理学を専門的に学ぶ学部・学科では、 より学術的に心について理解するため、これらに加えて さらに2つのことを学ぶ。  1つは「心を生み出す仕組み(機構)と心理学の諸理 論」だ。心理現象の基盤になっている生物学的・認知 的・社会的なメカニズムや、心理学の主要領域に関する 一般法則や理論、学説、研究法などを理解する。  もう1つは、「心理学的測定法と心理アセスメント」 だ。心のはたらきは目に見えないため、心理学では、心 のはたらきによって起こる行動や身体的な反応などを測 定して、心のはたらきを理解しようとする。そこで実験 や観察などの測定方法について学ぶ。なかでも臨床心理 学の分野で患者に対して面談や質問紙調査などの測定を 行い、診断する一連の過程をアセスメントといい、こう した手法についてもあわせて学ぶ。心のはたらきは複雑 なため、さまざまな条件設定や工夫を行うことで、対象 としている心のはたらきを正確に測定する必要がある。  こうした力を身につけるため、心理学の教育では実 験・実習を重視する。実験装置の製作、実験計画の立案、 質問用紙の作成、自ら検査や調査を受けることなどを通 して、心のはたらきを捉える方法を訓練する。なお、実 験や観察データは適切な統計処理を行う必要があるため、 分散分析や多変量解析などの統計手法も並行して学ぶ。  心理学の理論や測定方法を学んだ後には、自分で問い を立て、検討の成果をまとめる卒業論文に取り組む。「卒 業論文執筆までには、心理学の多くの領域を学び、さま ざまな理論や技法に触れているはずです。卒業論文は テーマを設定し、過去の文献を調べ、研究方法や実験方 法を決め、データをとって、それを処理するという順序 で進めますが、その過程を通して、それまで学んだ知識 を応用、統合するという意味があります。ですから、心 理学の教育では卒業論文は特に重要だと考えています」 (箱田教授)

人間を総合的に理解できる力がつき

新発見も可能な学問

 心理学を学ぶことによってどんな力が身につくのだろ うか。最も大きいのは、人間を総合的に理解する力とい えるだろう。心は環境や経験など多様な要素の影響を受 けており、また発達や疾患などさまざまな視点から見る ことができる。こうした多様性を学ぶことで、人間を一 面的ではなく、多面的・複眼的に見て、理解することが できるようになるからだ。「心理学を学ぶと人の心が読め るようになる」などと単純に考えている高校生も多いが、 それは上記のように、人の振る舞いなどを見た時に、ど んな心の状態か、その原因は何かということを推測する 選択肢を増やすことができるという意味であることを補 足しておきたい。  また、科学的な探究を通じて、批判的・実証的態度や、 問題発見・解決力、情報収集・処理能力、コミュニケー ション能力なども養うことができる。これらの力は、研 究・臨床活動を続ける場合はもちろん、企業などで働く 場合においても役立つスキルだ。  箱田教授は心理学の魅力について次のように語る。「人 間の心は複雑であるにも関わらず、心理学の歴史は100 年ほどしかなく、まだわかっていない部分がたくさんあ ります。研究手法も次々と開発されていますから、これ から大発見ができる可能性は非常に高いといえます。今 後も大きな発展が期待できる学問分野だと考えています」 Kawaijuku Guideline 2015.4・5 61

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<表3>国公立大 2次試験教科パターン 科目数 教科パターン 募集区分数 前期日程 後期日程 教育 教育 5科目 【英、数、国、地2】 1 4科目 【英、数、国、地】 2 3科目 【英、数、国】 4 【英、国】(数、地→1) 4 計 8 2科目 【英、国】 11 (1) 1 (英、数、国→2) 5 (4) 【英】(数、国、理、地公→1) 2 【英】(数、国→1) 1 【英】(数、国、理→1) 1 【数、国】 1 (1) 計 21 (6) 1 1科目 【英、小】 3 (1) 1 【英】 2 (1) 1 (英、数、国→1) 2 (2) 1 (1) 【小】(英、数、国→1) 1 (1) 計 8 (5) 3 (1) 教科試験 なし 【小】 6 (4) 17 (3) 【小、面、調】 1 (1) 1 (1) 【小、面、調、他】 1 (1) 【面】 1 (1) 10 (7) 【面、実、調】 1 (1) 【総】 1 2 計 10 (7) 31 (12) 2次 課さない - 1 (1) 合 計 50 (18) 36 (14)

学べる学部系統は幅広い

国公立大はコースでの設置が多い

 <表1>は心理学が学べる主な学科を学部系統別にま とめたものだ。文・人文系の心理学科をはじめ、主に教 育、社会・国際、総合・環境・人間・情報系の人文系学 科、心理系学科、人間科学系学科で学ぶことができる。  国公立大では、文・人文系が半数、次いで教育系が4 割、その他の系統が残りの1割弱を占める。文学部や人 文学部などの学科の中にコースとして設置されており、 入学後や進級時に選択する場合が多い。教育系に分類さ れるのは、主に教育学部の教員養成課程に設置されてい る教育心理学、発達心理学のコースだ。入試傾向がその 他の系統とやや異なるため、国公立大の分析では教育系 を区別して見ていく。  私立大では、文・人文系が8割と圧倒的に多い。国公 立大と比べて教育系の割合は4%と小さく、経済・経営・ 商や農といった系統にもある。心理学全般を扱う学科に 加えて、こども心理学、社会心理学、経営心理学など、大 学によっては特定の領域を専門とする学科もある。

国公立大の2次試験は

教科試験の他、小論文や面接も多い

 <表2>は、国公立大のセンター試験の教科・科目パ ターンを日程別に集計したものである。5(6)教科7 科目を課すところが多く、前期日程では7割を超える。 前期・後期日程ともにこのうち半数以上は文型だが、教 育系では選択型の割合が高い。科目負担の最も少ないパ ターンは3教科3科目で、横浜市立大(国際総合科学- 国際教養学系B方式-前)が【英】(数、国、地公→2)、 金沢大(人間社会-人文-後)、高知大(人文-人間文化 -前・後)、北九州市立大(文-人間関係-前・後)が 【英、国】(数、理、地公→1)、鹿児島大(法文-人文- 後)が【英、国】(数、地公→1)で受験できる。  <表3>は、2次試験の教科パターンを日程別に集計 したものである。前期日程では2科目を課すパターンが 最も多く、そのうち【英、国】の割合が高い。教育系で は1~2科目の教科試験、または小論文を課すところが 多く、教科試験と組み合わせる場合も含めると4割で小 論文が必須である。

入試情報

ここでは、心理学が学べる大学の入試について見ていく。河合塾の学部系統分類で心理学が学べる大学(注)は、国公立大が40大学 46 学部 47 学科、私立大が165大学171学部190 学科である。 <表 1>学部系統別  心理学が学べる主な学科 <表2>国公立大 センター試験教科・科目パターン <表4>国公立大  センター試験ボーダー得点率 系統 主な学科 文・人文 こども心理 人文 心理 心理カウンセリング 心理・行動科学 心理コミュニケーション 人間心理 臨床心理 教育 学校-学校心理 学校-教育心理 学校-発達心理 心理-児童心理教育 心理-幼児心理教育 社会・国際 社会心理 福祉心理 経済・経営・商 経営心理 農 社会園芸 芸術・スポーツ 科学 健康・スポーツ心理 心身健康 総合・環境・ 人間・情報 心理情報 人間科学 人間環境 人間関係 教科・科目 パターン 募集区分数 前期日程 後期日程 教育 教育 5(6)教科 7科目 文型 25 (5) 13 (4) 選択型 12 (10) 9 (6) 6教科6科目 1 (1) 1 (1) 5(6)教科6科目 3 (1) 3 (1) 5教科6科目 2 4~6教科6科目 1 4(5)教科5科目 1 1 5教科5科目 2 (1) 4 (2) 3教科3、4科目 1 3教科3科目 3 4 合計 50 (18) 36 (14) ボーダー 得点率 (%) 募集区分数 前期日程 後期日程 教育 教育 85 ~ 89 1 1 80 ~ 84 2 3 75 ~ 79 11 11 70 ~ 74 12 (1) 9 (6) 65 ~ 69 14 (10) 9 (7) 60 ~ 64 8 (5) 2 59 ~ 55 2 (2) 1 (1) 合計 50 (18) 36 (14) ※教育系は国公立大の教育、私立大の 文・人文(教育)を対象とする ※学科はコース・専攻の場合も含む ※ボーダー得点率は 2015 年3月現在 ※表2~3は 2015 年度入試科目で集計 ※表2~5の( )内は教育系で内数

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<表6>私立大 一般方式教科パターン 科目数 教科パターン 募集区分数 3科目 【英、国】(数、地公→1) 57 42.5% 【英、国、地公】 12 【英、国】(数、地→1) 14 【英、国】(数、理、地公→1) 9 【英、国】(数、理、地→1) 10 【英、国、地】 7 他(20 パターン) 29 計 138 2科目 【英、国】 52 50.8% (英、数、国→2) 14 (英、数、国、理、地→2) 14 【英】(数、国→1) 10 (英、数、国、地公→2) 6 【国】(英、数→1) 5 他(38 パターン) 64 計 165 1科目 (英、国→1) 6 6.5% 他(10 パターン) 15 計 21 教科試験 なし 【小】 1 0.3% 計 1 合 計 325 小】、奈良女子大(文)が【英、国】となっている。なお、 教育系では面接を課す入試が主流で、調査書を重視する 大学もある。  入試難易度を見ると、センター試験のボーダー得点率 は、前期・後期日程ともに60 ~ 79%がボリュームゾー ンとなっており、このうち教育系は前期日程が65 ~ 69%、後期日程が65 ~ 74%に集中している<表4>。 2次試験のボーダー偏差値は、後期日程では教科試験を 課すのは前述の4大学のみで、前期日程では主に偏差値 50.0 ~ 62.4近辺で分散しており、教育系は偏差値50.0 ~ 57.4に集まっている<表5>

私立大は、一般方式、センター利用方式とも

2~3科目を課すパターンが中心

 私立大の一般方式では、2科目で受験できる募集区分 が約半数を占め、次いで3科目が4割を占める<表6>。 教科パターンが非常に多いが、2科目では【英、国】、3 科目では【英、国】(数、地公→1)を課す募集区分が大 半である。理系科目が必須となる募集区分はごく一部で、 桜美林大(リベラルアーツ-英数型・英理型・英数理型)、 東海学院大(人間関係-心理-ⅠⅡ期)、金沢工業大(情 報フロンティア-心理情報-中後期)、同志社大(心理- 心理-全学部日程理系)、関西国際大(人間科学-人間心  後期日程では教科試験なしのパ ターンが8割を超える。小論文や面 接を課す入試が中心だ。教科試験を 課すのは4大学のみで、山形大(人 文-人間文化)が【英】、岐阜大(教 育-学校-心理学)が(英、数、国 →1)、神戸大(文-人文)が【英、 理)、畿央大(教育-現代教育-中期3科目)を除き、そ の他では文系科目のみで受験可能である。  センター利用方式は、福島学院大、聖学院大、学習院 大、慶應義塾大、上智大、聖心女子大、京都文教大、梅 花女子大、甲子園大を除く156大学が実施しており、2 ~3科目を課す募集区分が多い<表7>。そのうち個別 試験との併用方式は36大学が実施しており、こちらも センター試験・個別試験で合わせて2~3科目を課す入 試が主流である。センター試験で4科目以上を課す場合 を除き、文系科目を中心とした入試科目となっている。  入試難易度は、一般方式では、教科試験を課す募集区 分の7割以上が偏差値49.9以下に集まっており、比較的 易しいところが多い<表8>。一方で、センター利用方 式は主に50 ~ 74%の範囲で幅広く分散しており、募集 区分によって難易度の差が大きい<表9><表5>国公立大  2次試験ボーダー偏差値 ボーダー 偏差値 募集区分数 前期日程 後期日程 教育 教育 67.5 ~ 69.9 2 65.0 ~ 67.4 1 1 62.5 ~ 64.9 1 60.0 ~ 62.4 8 1 57.5 ~ 59.9 6 1 (1) 55.0 ~ 57.4 5 (2) 52.5 ~ 54.9 10 (6) 1 50.0 ~ 52.4 6 (3) 47.5 ~ 49.9 1 ランクなし (教科試験なし) 10 (7) 31 (12) 2次課さない 1 (1) 合計 50 (18) 36 (14) ※ 2015 年度入試科目で一期入試を対象に集計 ※教科パターンが5つ以上ある場合は、該当募集区分 5件未満を「他」として集計 <表7>私立大  センター方式科目数 科目数 募集区分数 7科目 2 0.7% 6科目 3 1.1% 5科目 11 3.9% 4科目 13 4.6% 3科目 112 39.4% 2科目 123 43.3% 1科目 20 7.0% 合計 284 ※ 2015 年度入試科目で  一期入試を対象に集計 <表8>私立大  一般方式ボーダー偏差値 ボーダー偏差値 募集区分数 65.0 ~ 67.4 4 4.9% 62.5 ~ 64.9 4 60.0 ~ 62.4 8 57.5 ~ 59.9 11 20.7% 55.0 ~ 57.4 18 52.5 ~ 54.9 19 50.0 ~ 52.4 19 47.5 ~ 49.9 25 29.9% 45.0 ~ 47.4 16 42.5 ~ 44.9 24 40.0 ~ 42.4 32 37.5 ~ 39.9 34 44.4% 35.0 ~ 37.4 58 BF 52 ランクなし (教科試験なし) 1 合計 325 ※ボーダー偏差値は2015年3月現在 ※ボーダー偏差値は2015年3月現在 <表9>私立大  センター方式ボーダー得点率 ボーダー得点率 (%) 募集区分数 90 以上 2 0.7% 85 ~ 89 9 9.2% 80 ~ 84 17 75 ~ 79 28 23.9% 70 ~ 74 40 65 ~ 69 40 22.9% 60 ~ 64 25 55 ~ 59 40 27.5% 50 ~ 54 38 45 ~ 49 18 15.8% 40 ~ 44 27 合計 284 ※ボーダー得点率は2015年3月現在 (注)河合塾の学部系統コードの分野コードが「心理」の学科と、学科名に「心」を含む教員養成系学科の合計。 Kawaijuku Guideline 2015.4・5 63

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「刺激」と「反応」を調整し

人間の行動を詳細に観察

 認知心理学は、人の心のはたらき の中でも認知、すなわち「知覚」「注 意」「記憶」「言語」「思考」「意思決 定」といった人間の知的な活動につ いて、特徴やメカニズムを調べる分 野です。知的な心のはたらきは、人 間のほとんどの活動で発揮されてい るため、他の心理学領域の中で扱わ れることも少なくありません。発達 心理学では言語や思考の能力の発達 を扱いますし、社会心理学にも社会 や他者をどう知覚しているかといっ たテーマがあります。臨床心理学で も記憶の障害など、心の知的な側面 を研究することがあります。ただ、 認知心理学が認知機能自体の仕組み の解明に焦点を当てるのに対して、 他の心理学領域では、例えば言語の 発達が心の他の側面の発達にどう影 響し影響されるかを見るなど、研究 の関心や方向性は異なります。  認知心理学の研究では実験を重視 します。心に特定の働きかけを行い、 その際の心の動きに伴う行動などを 記録することで心のはたらきを調べ ようとします。行動を誘発するもの を「刺激」、刺激に誘発された行動 を「反応」と言い、どんな状況でど んな「刺激」を与えたらどんな「反 応」をするかを探ります。そのため には、「刺激」以外はできるだけ同じ 条件になるよう環境を整え、特定の 「刺激」に対する「反応」だけを取 り出さなくてはなりません。ですか ら、認知心理学では、実験方法の開 発も重要になってきます。  「反応」は客観的に観察できるも のであれば、言語や身体行動はもち ろん、脳波や脳血流の変化でもかま いません。脳波計やfMRI(注)を使え ば、その人自身が気づいていない 「反応」も取り出せます。ただし、 「刺激」に対する「反応」が取り出 せたとしても、それですぐ特定の心 のはたらきがわかるわけではありま せん。脳波や脳血流の変化がわかっ ても、それがどう心と関わっている のかは、直接的にはわからないこと も多いのです。「刺激」や「反応」 が、研究対象としている心の機能と どう関連しているのか、実験条件や 実験の種類を何度も変えながら探っ ていき、少しずつ心の機能の解明を めざします。

脳科学や遺伝子科学と連携

学校で役立つ

ワーキングメモリの研究も話題

 認知心理学の研究では、近年、医 学や生物学との連携が目立っていま す。特に脳科学や神経科学に関連し た研究が増加しています。脳を計測 する技術や解析法が発達した結果、 脳のどの部位にどれだけの神経伝達 物質が含まれているかまで測定でき るようになったため、脳内の化学的 な「反応」を取り出すことも可能に なりました。脳の「反応」を指標に することで、記憶や注意、感情と いった認知機能の解明をめざしてい ます。脳科学や神経科学は脳の仕組 みそのものの理解をめざしている点 で認知心理学とは方向性が異なりま すが、互いの知見を活用して研究が

宮谷

真人

教授

中尾

准教授 人は周りの環境を認識し、記憶したり、考えたりしながら生活している。 例えば視覚情報は視神経を通じて脳に伝達されるが、 その物体があると認識したり、 それをどう使うかを判断したりする過程には心のはたらきが関わっている。 このように、知覚した情報をもとに判断や思考といった 高いレベルの情報処理を行う仕組みについて、 科学的なアプローチで分析しようとするのが認知心理学だ。 他の心理学領域や脳科学などとも連携しながら、 主に実験的手法によって研究が進められている。

「記憶」

「意思決定」

「注意」などの

人間の知的な心のはたらきを

実験を通して解明する

認知心理学

広島大学大学院 教育学研究科 心理学講座

(注)fMRI…P.59下の注記を参照

(8)

進められています。  遺伝子を扱う心理学も登場してい ます。人の認知機能には、例えば物 事を全体的に捉える、詳細な部分に 目が向くといった人によって異なる 傾向があり、そうした認知の傾向を、 人格を形成する要素と考え、遺伝子 と人格の関係を探ろうとしています。  また、認知心理学を学校で応用し ようとする研究も増加傾向にありま す。子どもの能力を伸ばすために認 知心理学の知見を活用したり、学校 で起こっている課題から新しい認知 心理学のテーマを発掘したりといっ た双方向の研究活動が増えています。  特に注目されているのが、「ワーキ ングメモリ」の研究です。「ワーキ ングメモリ」は、単純な記憶ではな く、情報の蓄積と同時にその情報を 別の作業に活用できる能力に深く関 与しているとされる、新たな記憶の 概念です。例えば「5、8、4」と 聞いて、そのまま繰り返すのは単純 記憶の力ですが、それを小さい順に 答えたり、計算して答えたりする場 合には、記憶と同時にある種の作業 が必要になってきます。そこに関わ るのが「ワーキングメモリ」なので す。これまでの研究で、「ワーキング メモリ」の容量は、知的な能力と関 係が深いことが知られています。そ のため、学習についていけない子ど もや、学校に適応しづらい子どもな どに、「ワーキングメモリ」の容量 に応じた教育方法を提案するなど、 認知心理学的なアプローチに期待が 集まりつつあります。

正解のある課題と

正解のない課題では

脳活動のネットワークが異なる

 具体的な研究例を2つ紹介します。 かったのです。  しかし近年になって、誤答の場合 にも正答の学習促進の効果があるこ と、すなわち「プレテスト効果」が あることがわかってきました。具体 的には、まず「悪魔-地獄」などの 単語の組み合わせを60種類用意し ます。悪魔に対しては、ほとんどの 人が天使を想起することがわかって いるため、あえて異なる語を対にし ました。そしてある群にはプレテス トとして悪魔から天使を想起しても らい、実は地獄が正解であるという 「間違う」経験をしてもらった後に、 正しい単語を記憶させます。もう1 つの群には、最初から正しい組み合 わせを記憶させます。その後、しば らくしてから組み合わせを思い出さ せると、プレテストで間違った経験 をした群の方が、成績が良いことが わかりました。間違う経験も記憶を 促進することが確認できたのです。  もう1つは、脳科学と連携した意 思決定の研究です。正解がある課題 における意思決定については、既に 多くの研究成果がありますが、正解の ない課題、すなわちランチメニュー の選択や、職業選択などにおける意 思決定の研究はほとんど行われてい  1つは、プレテスト効果 に関する研究です。テスト は評価に用いるだけでなく、 記憶を定着させる効果があ りますが、従来は正答でき た場合のみ効果があるとさ れていました。誤答の場合 は正答の記憶と混ざって混 乱を起こし、記憶の定着に はあまり結びつかないため、 誤答の経験を少なくするス モールステップでの指導が 有効だと言う研究者も多 ません。そこで、2つの職業を単語 として提示し、好きな方を選ぶ課題 (正解がない)と、世の中で使用頻度 の高い単語を選ぶ課題(正解がある) を比べたところ、正解がある課題で 活発になる脳の部位と、正解がない 課題で活発になる脳の部位が異なる ことがわかってきました<図>。し かも正解がない課題で活発になる部 位は、「自分がどんな人間か」を考え ている時に活発になる部位と重なっ ているのです。  このことから、高校までの教科学 習で求められることの多い正解のあ る課題を解く能力と、職業選択や社 会で発揮される実践力のような正解 のない課題を解決する能力では、必 要とされる脳の部位が異なる可能性 があることがわかってきたのです。  これらの研究成果は、すぐに学習 や教育活動に応用できるものではあ りません。しかし、記憶や意思決定 という心の機能に関わる細かな過程 や脳活動を一つ一つ明らかにすれば、 将来的には、どういう条件の時に、 人間の知的能力が向上しうるのかわ かってくるはずです。認知心理学は こうした人間の知的能力を解明する ための研究を積み重ねています。 <図>職業選択といった正解のない課題 時に活動する脳部位(前頭葉の内 側部が活動している) (中尾先生提供) Kawaijuku Guideline 2015.4・5 65

(9)

発達は獲得と喪失からなる

生涯にわたる心の変化

 発達心理学は、生涯という時間軸 に沿って人の心のはたらきの変化を 捉えようとする心理学の一領域です。 発達と聞くと、一般的には生まれて から大人になるまでの、さまざまな 力を獲得していく過程を思い浮かべ る人が多いと思います。かつての発 達心理学も発達をそのように捉えて いました。しかし、人間の寿命が伸 び、高齢期の人の心や行動について の研究が進むにつれ、「生涯発達」と いう概念が現れました。つまり、生 まれてから死ぬまでの心の変化を発 達として捉えるようになったのです。  ここでいう発達には、何かを獲得 するプラスの側面だけでなく、何か を喪失するマイナスの側面も含みま す。誕生直後は獲得の割合が多く、 高齢になるにつれて喪失の割合が増 えていくと考えるのです<図>。例 えば、新生児は頬に触れられるとそ ちらに頭を向けたり、口に触れたも のを吸う動作を示したりします。こ れらは「原始反射」と呼ばれ、栄養 摂取のために胎児期から既に獲得さ れている機能ですが、生後3~4カ 月頃には見られなくなります。また、 生後6カ月の乳児はヒツジやチンパ ンジーの顔を見分けることができま すが、9カ月になるとその能力を喪 失します。つまり、発達の過程では、 自分の意志で動けるようになるに従 い反射的な行動が出なくなったり、 ヒトという特定の種の個体を細かく 認識する力をつける一方で多くの種 の個体を見分ける力が失われたりと いう、獲得と喪失が起きているので す。  高齢期になると、体力や運動機能、 認知機能などは徐々に喪失されてい きますが、経験や知識を統合して複 雑な問題に対応する知恵が獲得され ていきます。  このような加齢に伴う複雑な心の 変化を明らかにしようとするのが発 達心理学なのです。

加齢に伴う心のはたらきの

変化と個人差を分析し

そのメカニズムを考える

 発達心理学の研究は、方向性に着 目すると大きく3つに分けることが できます。第1は時間の経過に伴う 心の変化を知ろうとする研究、第2 は発達の個人差を明らかにしようと する研究、第3は心の変化や個人差 がなぜ生じるのかメカニズムを解明 しようとする研究です。  研究対象は人間の生涯すべての時 期であり、しかも心のはたらきは複 雑かつ多様であるため、研究テーマ は多岐にわたります。そのため研究 者の多くが、専門とする「時期」と 「領域」を持っています。時期とは、 乳児期や児童期、青年期、成人期、 高齢期などであり、領域とは、知的 能力の発達や、社会性の発達などで す。多くの研究者は、例えば「乳幼 児期における社会性の発達」など、 時期と領域を組み合わせた専門分野

坂上

裕子

准教授 発達心理学は、加齢に伴い、人の心のはたらきが どのように変化していくのかを明らかにしていく学問だ。 ただし発達心理学における発達とは、 単に子どもから大人へと成長する過程を意味しているわけではない。 人の心は死ぬまで変化し続けるという考え方に立ち、 受胎から死までの心の変化を時間軸に即して捉えようとしている。 そのため対象年齢や研究領域は幅広く、行動観察やインタビュー、実験など、 問題意識に合わせた多様な手法を用いて研究が行われている。 <図>適応能力における獲得と    喪失の割合 (坂上裕子他「問いからはじめる発達心理学 生涯 にわたる育ちの科学」(2014、有斐閣)より作成)

加齢に伴う心の変化を分析し

そのメカニズムの解明をめざす

発達心理学

青山学院大学 教育人間科学部 心理学科

獲得 喪失 年齢 相対量 高齢 誕生

(10)

を持っています。  研究方法には、実験、行動観察、 質問紙やインタビュー調査など多様 な方法があります。例えば認知機能 の発達を調べる研究では実験を多く 用います。また対象が言葉をまだ話 せない乳児などの時は、心拍数や唾 液の成分などの生理的な指標や、何 をじっと見るかを調べる選好注視法 などの行動観察を用います。小学生 以上になれば、質問紙やインタビュー による調査も行います。このように 研究対象とする領域や時期に合わせ て、適切な研究方法を選んで研究を 進めていきます。  研究を進める上では、小学校の協 力を得る必要があるため児童期の研 究は協力者を見つけることが難しい、 高齢者は身体機能も認知機能も個人 差が非常に大きくなるためデータの とり方に工夫が必要になるなど、専 門分野それぞれの難しさがあります。 また、発達心理学の研究は時間がか かります。発達は基本的には時間の 経過と共に進むため、時間の経過に 伴う変化を捉えようとすると、その 分の時間が必要になるからです。

親と子どもが共に変化する

「共発達」

 発達心理学研究の例として、私の 研究を紹介します。最初に紹介する のは、1、2歳児の時期における親 子の「共発達」に関する研究です。 この時期は子どもに自分の意志が生 まれてくる頃で、いろいろなことを 意欲的にやりたがるのですが、何が してもよいことで何はしてもいけな いことなのかがわからなかったり、 言葉をまだ巧みに話せなかったりす るため、自分の意に沿わないことが あった時には、泣き叫んだり物を投 げたりするなどして、強い反抗や自 己主張をします。一方、親は応えら れる子どもの要求には応じながらも、 してもよいことといけないことを子 どもに伝え、子どもをしつけていく ことが求められます。  こうした親子の関わりやその変化 を捉えるため、特定の親子の生活を 1週間に1度、1年間継続して観察し ました。親子の間で葛藤や衝突が起 こった時に、その場面がどう展開し ていくのかをビデオで記録し、親子の やりとりの様子を分析しました。あ わせて、この時期の子どもにどう接 したかを何人もの親にインタビュー し、その内容も分析しました。  その結果、親子の葛藤場面におい て、親の側が、子どもの変化や成長 に伴って対応の仕方や考え方を変え ていく様子を捉えることができまし た。子どもの側の物事や言葉の理解 が進み、また、言葉での表現が巧み になるに伴い、親の側も子どもへの 物事の伝え方を変えたり、子どもの 視点に立って物事を捉えたりするよ うになる、という変化が見られたの です。このように、親子はコミュニ ケーションを通して共に発達する、 「共発達」の関係にあることを示す ことができたのです。

2歳児の行動に変化

反抗する子どもが減り

身体能力も低下

 次に紹介するのは、現在も継続し ている2歳児の行動の変化に関する 研究です。  13年ほど前からある子育て支援施 設で2歳児親子を対象に親子遊びや 保育活動の実践に携わってきました が、10年前と比べて、反抗や自己主 張の仕方が変化してきていることに 気付きました。親子で一緒に遊んだ 後、「片づけをしてね」と親に言われ た子どもは、以前であれば駄々をこ ねたり泣いたりするなどして反抗す ることが多かったのですが、現在で は多くの子どもが親の言うことにす ぐに従うようになっています。ビデ オで録画した子どもの行動を数量的 に比較しても、反抗する子どもの数 は明らかに減っています。指示に 従って行動することは一見よいこと のようにも見えますが、子どもが大 好きな人に逆らってでも通したい自 分というものを持っていないとも見 ることができます。中学生・高校生 が親に反抗する第二次反抗期が希薄 になっているという指摘があります が、幼児期の第一次反抗期でも同じ ような現象が起こっているように思 います。  同時に、身体能力の低下も気にな ります。走る、跳ぶ、投げるといっ た基本的な身体能力が、以前より明 らかに低下しています。少しの段差 で転んだり、歩ける距離が短くなっ たと指摘する保育関係者も増えてい ます。便利な生活や基本的な運動不 足などが原因と推測していますが、 体が動かないことは新しい体験への 意欲がわかなかったり、行動範囲が 狭まったりすることにもつながり、 大きな問題だと感じています。今後 は実態の解明や改善のための方法な どについて、検討していきたいと考 えています。 Kawaijuku Guideline 2015.4・5 67

(11)

人間と社会との

双方向の影響過程を

実験や調査で明らかにする

 社会心理学は、社会学と心理学の 境界に位置しており、かつては、社 会を人の心が反映されたものとし て捉え、その社会の状況を描写す る「社会学的社会心理学」と、社会 の在り方が個人の心にどのような影 響を与えるのかを記述する「心理学 的社会心理学」に分かれていました。 しかし、人と社会は常に双方向的に 影響を及ぼし合うため、現在では両 者の区別はほとんどなくなり、「人と 人」「人と集団」「集団と集団」など の関係を心理学的に分析し、「特定 の社会的状況における人の行動」や 「人々が特定の行動をとるときの社 会の様相」を科学的に説明する学問 として展開されています。  当初の心理学は、ものの見え方や 聞こえ方、感情の動きなど、主に個 人の心の振る舞いに焦点を当ててい ました。しかし、心の振る舞いは他 人の存在によって変化することがわ かってきたことから、社会心理学が 誕生しました。1897年、1人で作業 するときと、他人と一緒に作業する ときでは、パフォーマンスが明らか に異なることを示す実験が行われま したが、これが社会心理学で最初の 実験とされています。  社会心理学は、人と社会の関わり 方によって、主に「自己」「対人関 係」「集団力学」「社会」「文化」の5 つの研究分野に分かれています。  「自己」の研究では、自分と自分 の関係、すなわち人は自己をどのよ うに捉えて、それが心や行動にどん な影響を与えるかを追究します。例 えば「自尊心」の研究であれば、自 尊心の高い(低い)人の特徴や、自 尊心の高さ(低さ)の行動への影響 などを解明しようとします。「対人 関係」は、個人と個人の関係を扱い ます。例えば恋愛に伴う心のはたら きを記述しようとします。「集団力 学」は、集団と個人の関係を扱いま す。自分が属している集団に対する 価値観と、その集団内部の人々の行 動の関係を捉えようとする社会的ア イデンティティの研究などが一例で す。「社会」の研究では、人々と社会 の関係を考えます。例えば、投票行 動や消費行動がどのように社会を変 えたのか、あるいは社会の影響で投 票行動や消費行動がどう変わったの かなどを分析します。「文化」の研究 では、例えば西欧と東アジアなど文 化的背景の違いが、人々の心の動き にどのような違いを生み出している のかを追究します。  社会心理学も他の心理学の分野と 同様、実験が中心的な手法ですが、 質問紙などを使った調査的な手法も よく用います。ただし人の行動は個 人差が大きく、その影響を相殺して 一般的な傾向を知るためには、調査 対象者数を多くする必要があります。 そのため、社会心理学の研究では、 膨大なデータを処理するのに高度な 統計手法が要求されます。ただ、現 在はさまざまな分析用のソフトウェ アが揃っているため、その使い方さ え熟知すれば、数学が苦手な人でも 研究は可能です。

実験や質問紙調査から

孤立や排斥の経験は

自己制御力を低下させると判明

 私は、社会的排斥の研究を10年 近く続けてきました。社会的排斥と は、所属する社会集団から仲間外れ や除け者にされたり、無視などの拒

 

光博

教授 人の心は、周囲の人々や組織、文化など、 外部の環境から大きな影響を受ける。 社会心理学は、心理学が扱う心のはたらきの中でも、 対人関係、組織と個人の関わりなど、 特定の社会的状況の中に置かれた人の心のはたらきや、 人と社会との関係などを研究する。 研究テーマも恋愛、消費行動、経済格差、文化的差異など多岐にわたる。 近年は脳科学との連携も進みつつあり、文系・理系の枠を超えて、 人の心と社会との関係を追究する学問分野として発展している。

恋愛関係から消費行動、

文化による行動の違いまで

あらゆる人間活動を

人と社会の関係に着目して分析

社会心理学

追手門学院大学 心理学部 心理学科

(12)

絶を受けたりすることです。社会的 排斥が人の心にどんな影響を及ぼす のかを調べるために、さまざまな実 験や調査を行いました。  「説得納得ゲーム」を用いた実験 もそうした研究の一つです。20人く らいの被験者のグループを、説得す る側とされる側に分け、前半と後半 で立場を入れ替えます。説得する側 は聞いてくれる人を見つけ、うまく 説得できると次の相手を探して同じ ように説得します。  このようなゲームでは、最初に説 得される方のグループの中に、多く の人から説得を受ける人もいれば、 あまり相手にされない人もいるとい う状況になります。すると、前半で 説得側から相手にされた程度によっ て、後半に説得する側に回ったとき の行動に違いが出ます。前半であま り相手にされなかった人の方がより 積極的にゲームに加わるようになっ たのです。この結果は、人が他者か ら十分な関心を向けられなかった場 合、そのことによって生じる心の苦 しさから逃れるため、積極的に他者 との相互作用を求めるようになるこ とを示しています。  こうした実験に加え、社会的排斥 を受けた経験の有無と行動傾向に関 する質問紙調査や実験などを行った ところ、社会的排斥の経験は、人に 「どうせ自分なんか」という自棄や 怒り、抑うつ的な気持ちを起こさせ ること、その結果、目的を意識して 自分の行動をコントロールする「自 己制御力」を低下させることがわ かってきました。例えばダイエット をする時、仲間に囲まれ、周りから 期待されている人は、自己制御力が 働くので甘い物を出されても我慢で きます。一方で孤立したり拒絶され たりしている人は、自己制御力が下 がっているため、衝動を満足させる ために甘い物に手を出しやすい傾向 があります。  人は、短期的な衝動や欲求を満た すか、それと相反する長期的な利益 を優先するかの選択を常に迫られな がら生きています。その選択にかか わる自己制御力に、社会的排斥の経 験がかなり大きな影響を及ぼすこと が研究からわかってきたのです。  

自己制御力は

経済的な豊かさとも相関

今後は脳科学との連携も

 自己制御力と経済的な豊かさの関 係についても研究を進めています。  例えば20 ~ 50歳代の社会人約 1,600名を対象にした質問紙調査で、 「人生最大の苦境に陥ったときに、明 らかにダークサイドにいる人間だが 必ず助けてくれる人と手を結ぶか」 という質問を投げかけると、世帯収 入が低い人の方が「手を結ぶ」と回答 する割合が高いという結果が出まし た。長期的な利益を考えるとこうし た人とは手を結ばない方が得策です。 にもかかわらず「手を結ぶ」と回答 した人は自己制御力が低いことを示 しています。つまり経済的な豊かさ も、自己制御力と相関があることが 明らかになってきたのです<図>。  また、大きすぎる経済格差は、貧 しい人たちの心の自己制御力を奪い、 社会の不安定さを増大させる可能性 があることもわかってきました。経 済格差が大きい地域と小さい地域を 比較すると、格差の大きい地域ほど 互いの排斥傾向は強まります。格差 が大きいと、貧しい層は豊かな層に 行くことを諦め、豊かな層に不合理 な憎しみを抱きます。加えて、貧し い層の人同士で少しでも優位に立と うとして争いが起こります。ヘイト スピーチ(注)はまさにそうした例な のです。  このように社会心理学は、若者に 身近な現象である恋愛から、経済格 差や政治、文化といった問題まで、 非常に幅広いテーマを扱うことがで きます。その幅広さは、フロイトが 「心理学はすべて社会心理学である」 と述べているほどです。つまり、社 会心理学は人の心という切り口から、 社会のあらゆる現象に切り込んでい くことができる学問だともいえます。  今後の展望としては、脳科学との 連携が深まることが予想されます。 例えば私の研究では、社会的排斥を 受けたときには身体的な痛みを受け たときと同じ脳の部位が反応してい ることなどがわかっていますが、こ のほかにも属している文化によって 特定の場面での脳の反応の仕方が違 うか、といったことなども研究され ていくのではないかと考えています。 <図>経済的豊かさ-貧しさが自己制御力を介してダークサイドに堕ちる傾向 に影響する (浦先生提供) (注)数値はパス係数と呼ばれるもので、値が大きいほど影響が大きいことを意味する。プラスの値は一 方が高まると他方も高まることを、マイナスの値は一方が高まると他方が低くなることを意味する。 自己制御力 経済的豊かさ (世帯年収) 苦境に立ったときダーク サイドの人と手を結ぶか (注)ヘイトスピーチ…国籍や人種、宗教など特定の属性を持つ集団への暴力や差別をあおったり、侮辱したりする行為。 -.27** .20** Kawaijuku Guideline 2015.4・5 69

(13)

問題を抱えた心に向き合い

その改善を助ける

実践的な学問

 臨床心理学は心の問題で支援を必 要としている人に対する実践活動を 基本としています。そのため、通常 の健康な人の心ではなく、問題行動 を起こしている人の心を主な研究対 象としています。問題を抱えた心に 向き合い、その改善を助ける実践的 な学問が臨床心理学なのです。  臨床心理学には2つの起源があり ます。1つは精神分析、もう1つは 行動主義・行動療法と呼ばれる考え 方です。精神分析はフロイトによっ て提案された、人の心に関する理論 と治療技法の体系です。ノイローゼ 患者などの実際の治療の過程から心 の機能を捉えようとしました。行動 主義・行動療法は科学的な心理学を 基礎とした考え方です。実験を通し て心の法則を見つけ、それを応用し て問題行動を解決しようとします。  このように臨床心理学は、経験に 基づく洞察と、科学的考察という、 2つの全く異なるアプローチを源流 に持ち、それらが混ざり合いながら 発展していきました。その後もさま ざまな理論や治療法ができました。 例えば、人の問題行動は学習だけで なく考え方(認知)の偏りによるも のだとして、考え方の転換を促す 「認知行動療法」、人の心には無意識 の部分だけではなく、個人の価値観 なども強く影響していると考え、患 者(クライエント)の主体性を尊重 することで解決をめざす「クライエ ント中心療法」、心の問題は家族内 でのトラブルに問題があるとする 「家族療法」、家族よりむしろ地域の 抱える問題に端を発していると考え る「コミュニティ心理学」などがあ ります。

さまざまな治療法の集合体から

科学的な知見を元に

治療法を選択、実践する学問へ

 日本の臨床心理学は、このような 専門分化した多くの理論や治療法の 集合体として認識されています。  しかし欧米では、こうした状況を 既に脱し、医療的治療が必要な精神 疾患も含めた多様な問題行動につい て治療結果を積み重ね、問題行動ご とに、どの治療法が効果があるかに ついての研究が進んでいます。その 知見を踏まえて、優先的に各問題行 動に効果の高い治療法を適用する 「科学的な臨床心理学」として再構 成されつつあり、日本の臨床心理学 もその方向をめざすことが望ましい でしょう。  さらに「科学的な臨床心理学」は 効果が高い治療法を適用するだけで なく、治療で得られた結果を科学者 としての視点から客観的に評価した り、他の患者に応用したりして発展 させていきます。このように実践だ けでなく科学的検討を行うことも 「科学的な臨床心理学」の大きな特 徴です。  こうした治療や科学的検討を行う には、有効性が実証された技法・療 法の実践的技術や心理学の研究手法 など、幅広い力を身につけなくては なりません。そのため、海外の多く の国では、臨床心理学の専門家とし て認定されるには博士課程修了が義 務づけられています。日本では指定 大学院の修士課程等(注)を修了すれ ば臨床心理士の受験資格が得られま すが、臨床心理学の専門家としては、

下山

晴彦

教授 臨床心理学は、心の問題を抱える人に対して、 その原因を探り、改善を図ることを目的としている。 人の心のはたらきに関する一般的な法則を見出そうとする心理学の中でも、 それらの法則を利用して問題行動の改善を行うという実践を 重視している点に大きな特色がある。 近年は、幅広い治療法の中から 有効性が実証されたものを選択して実践したり、 治療の評価・検討をしたりできる科学的視点を持った 専門家が求められている。

問題行動を起こす原因や

メカニズムを探り

効果的な方法を適用して

改善を図る

臨床心理学

東京大学大学院 教育学研究科 臨床心理学コース

(注)日本では日本臨床心理士養成大学院協議会が認証している指定大学院、もしくは国から認証を受けた臨床心理士養成のための大学院専門職学位課程を

参照

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