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environment Update

6 号

−海外環境関連情報誌−

Vol.1 No.6 (2000.3)

目次≫

1. WEEE 最新動向

P.

1

2

2. モニタリング

1) 米国関連

・連載 米国における環境関連動向

∼在ワシントン/コンサルタントのモニタリング情報 ③

P.

1

4

P. 14

2) 欧州関連

・連載 欧州環境規制動向

~在ブラッセル弁護士モニタリング情報 ⑥

P.23

P.36

3. トピックス

1) 台湾「使用済み乾電池に

表示する回収マーク」の改正

P.53

2) New York 駐在員報告

P.57

4. その他 環境・安全グループ関連ニュース

1) 担当委員会の活動状況

P.58

2) 新書籍紹介

P.60

5. 事務局便り

P.63

(2)

●はじめに

EU における廃電気電子機器(回収・リサイクル)指令∼WEEE∼の制定の動きを巡り、最近の委員 会内の動きや今後の見通し、さらには関連する廃自動車指令の欧州議会での議論や動向などが新聞で 報じられています。 指令案に関しては、昨年 7 月に環境総局が提示したいわゆる第 3 次ドラフトを基に inter service consultation(欧州委員会総局管協議)がなされ、これに平行して欧州内外の関係業界によるロビイン グ活動も活発に行われてきました。

WEEE 指令制定は、欧州委員会環境総局の思惑どおり展開していれば、昨年末までに inter service consultation を終えて、遅くとも 2000 年 1∼2 月までには欧州委員会の公式提案が提示されるという シナリオでした。しかしながら、内外の関係産業会の活発な動き、日米等主要国の国際機関ないしは バイ会議・協議における改善方働きかけ、日欧・欧米民間ビジネスダイアローグ、欧州の環境 NGO の動きを受け、さらには欧州委員会の他総局(通商、企業、域内市場総局や法務局)との意見調整も あり、3 月中旬現在これまで予想されていた第 4 次ドラフトの提示に至っていません。 最近の現地情報を総合すると、まもなく第4 次ドラフトが提示され、これが欧州委員会の理事会な らびに欧州議会に対する正式なプロポーザルになるものとも伝えられています。すなわち、WEEE 指 令法制化プロセスにおいて、欧州委員会内検討という行政プロセスが終了し、理事会ならびに欧州議 会の審議という政治プロセスへ移る局面を前にしているといえます。

●廃自動車指令/改正電池指令の動きと

WEEE

WEEE 指令は廃自動車指令(EOLV: End of Life Vehicle ; ELV とも称する)と改正電池指令とあわせ て姉妹指令と言われ、先行するEOLV の動向が WEEE の行方を示唆するものとして注目されています。 去る2 月 3 日、欧州議会は EOLV 指令を採択しました(本誌 P.36 欧州環境規制動向⑦参照)。 その主な内容は、①分担責任は認められずメーカーの単独責任、②特定物質の使用禁止、③ヒスト リカル・ウエイスト(historical waste;法律施行前に販売した製品の廃棄にも遡及的に責任を適用す ること)などとなっています。

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特に、特定物質の使用禁止条項が残ったということが、WEEE 指令にも影響を及ぼすのではないかと の観測がなされている模様です。このため、同条項を巡る産業界のロビイングは、政治プロセスの終 盤を迎えますます活発化しているようです(ORGALIME の活動については、本誌 P.23 欧州環境規制動 向⑥参照)。 また、改正電池指令は法制化プロセスにおいて現在WEEE とほぼ同じ位置にあり、専門誌は、欧州 委員会は4 月に正式提案の採択を目指しているものの、ヴァルストレム環境コミッショナーはカドミ ウム禁止に関わる論点で関係産業界からの反対に直面していると報じています。産業界はカドミウム に替わる物質は困難であり、かつ禁止措置は国際貿易ルールに抵触すると主張しています。

また、環境NGO の EEB(欧州環境ビューロー)は WEEE に関し環境水準の向上を求めるペーパー を欧州委員会に提出しています(本誌P.37 欧州環境規制動向⑦参照)。

●今後の見通し

最近の情報を総合すると、欧州委員会は、復活祭(4 月 23 日)前には修正ドラフトの方向を決め、 第4 次ドラフトを出したいと伝えられています。どこがどのように扱われるかが関心の的となってい ますが、欧州委員会としては第4 次ドラフトについて再度総局間協議を行うことなく、委員会として の最終ドラフトとしたいようです。即ち、EU 指令の法制化プロセスにおける行政プロセスの最終局面 にあって、間もなく理事会・欧州議会という政治プロセスへ移行しようとしている状況にあります。 □

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∼在ワシントン/コンサルタントによるモニタリング情報 ③

● はじめに 本報告書は1999年12月から2000年1月末までの最新の米国の環境関連動向を包括的にまとめている。今回は、 深刻な水質汚染源と指摘されているMTBE の使用規制を求める動きのほか、バイオ技術で作られた生物・食品な どの国際貿易を規制する「バイオ安全議定書」の採択と米国内の遺伝子組み換え作物対策の動きなどに触れてい る。また、EPA(環境保護庁)の環境情報部設立とその背景にある情報公開に対する問題や、企業とパートナー シップを組んでリサイクルを進めるEPA の「ウエイストワイズ」などについてもまとめている。 ポイント ・ 1990 年大気浄化法で義務づけられた改質ガソリンに配合される含酸素添加剤 MTBE の地下水混入が 全米的に広がっており、人気報道番組の特集以来、規制を呼びかける声が一気に広がっている。 ・バイオ技術で作られた生物・食品などの国際貿易を初めて規制する「バイオ安全議定書」が採択さ れたが、米国の猛反対で食用、飼料、加工用の組み換え作物については、輸入国への事前通知と同 意取り付けの対象外となっている。 ・遺伝子組み換え作物の世界最大の生産国である米国では、農業ロビーが強いこともあって各種対策 は遅れており、米政府はこれまで遺伝子組み換え作物の特別の表示は必要ないという立場を貫いて いるが、高まる消費者の不安から次第に規制を訴える声が強まっている。 ・EPA は環境情報部を発足させ、環境情報の収集から分析、提供までシームレスな環境情報サービス の提供を目指しているが、発足の背景には、脆弱であるといわれているネットワークセキュリティ ー問題などの強化など複雑な事情もある。 ・企業とパートナーシップを組んでリサイクルを進めるEPA の「ウエイストワイズ」は次第に会員数 も増え好評を得ている。 ・新ラウンドの枠組みづくりが決裂したWTO 閣僚会議では、農業を通じた環境問題も参加国間で大 きな争点となり、農産物を工業製品と同等に見る米国と、環境保全など農業の多面的機能を重視す るEU などとの溝は埋まらなかった。

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● MTBE 汚染規制を訴える声、急速に強まる

ここ1、2 年、発ガンや深刻な水質汚染の可能性が指 摘されてきたMTBE(methyl tertiary butyl ether: メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)の使用規 制を求める動きがここに来て、急激に高まっている。 きっかけは、高視聴率を誇るCBS の報道番組、「60 Minutes」1 月 16 日の特集であり、番組では MTBE が 深刻な影響を与えたため、ゴーストタウンになりつつ あるとされるカリフォルニア州の都市の状況をショッ キングに取り上げる一方、一刻も早い規制を呼びかけ ている。MTBE の問題は業界誌などで取り上げられて きた以外にはほとんど報じられていなかったが、「60 Minutes」の報道以後、全米各地で規制の声が一気に高 まりつつあり、石油会社を訴える市民団体の動きが急 になっているほか、州規制当局や連邦議会も積極的な 規制に向け、1 月下旬には連日のように米国のニュー スをにぎわした。 MTBE は、大気浄化に効果があるといわれる改質ガソ リン(reformulated gasoline)を製造するときに配合す る含酸素添加剤(oxygenate)であり、1990 年大気浄 化法(Clean Air Act)で改質ガソリンの使用が義務づ けられて以来、広範に利用されるようになった。含酸 素添加剤にはMTBE のほかにはエタノールがあるもの の、これは高価なため石油会社のほとんどはMTBE を 利用している。現在、一般的に利用されているガソリ ンの場合、全含有成分の10%程度は MTBE が占めてい るといわれている。また、MTBE を含有するガソリン は、オクタン価を上げるオクタンブースターと信じら れており、酸素分子が多いため寒い時でもエンジンが かかりやすく、燃焼性能がアップし燃費が良いとみら れている(なお、従来のハイオクもMTBE ハイオクも オクタン価は変わらず、理論的には出力は同じである とする説も多い)。そのため日本でも90 年代初期から、 「MTBE ハイオク」などの名前で、一部のハイオクガ ソリンの中に含有されている。 しかし、MTBE は発ガンの可能性が指摘されているほ か、ここ1、2 年ガソリンスタンドの地下ガソリン貯 蔵タンクからMTBE が漏洩し、地下水を汚染している という指摘も増えている。特に問題となっているのが、 水に解けやすいが分解しにくいというMTBE の性質で、 水に混入した場合、加熱してもシンナーやテレピン油 のようなにおいが消えないほか、一説には悪臭がさら にきつくなるといわれている。またMTBE は拡散しや すいといわれており、1 ガロン(3.785 リットル)分 のガソリン(MTBE の含有率は約 0.1 ガロン)が地下 水に混入した場合、500 ガロンもの地下水が飲料水と して使えないといわれている。 EPA は現在、MTBE の環境に及ぼす影響を調査してい るほか、昨年夏から庁内に検討諮問部会を作り、規制 を検討し始めている。また連邦議会においても、MTBE 使用を段階的に廃止する方法が一部で検討されつつあ るほか、エタノールへの全面切り換えやMTBE の使用 継続を認める代わりに、石油精製時に他の毒性物質の 除去を求めるという案を支持する議員もいる。このう ちエタノールへの切り替えは、エタノールを精製する 農作物を生産する中西部の農業州の議員らが訴えてい るが、明らかな利権誘導(ポークバレル)政策であり 地元ロビーとのつながりが深すぎるため、エタノール への転換がなかなか法的にまとまらないという事情も ある。 MTBE の地方レベルでの規制は、MTBE が原因とみら れる事例が多いカリフォルニア州が先行しており、昨 年からカリフォルニア州政府はMTBE を発ガン物質に 指定する方向で調査を進めているほか、ロサンゼルス 市は昨年末、MTBE の汚染の原因となったシェル石油 に、他地域からの水道水購入のための料金負担を命じ ている。また、昨年春、地下貯蔵タンクや精製送油施 設からのMTBE 漏洩により、州地下水が汚染され飲料 水が危機的状況にあるとして、環境保護団体が14 の 石油会社を相手に訴訟を起こしている。 今回のCBS の報道番組「60 Minutes」でもカリフォル ニア州の都市が取り上げられており、著名なベテラン 記者のスティーブ・クロフト氏が同州サンタモニカ、 サウスレイク・タホー(South Lake Tahoe)、グレンビ

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ル(Glennville)を訪れ、関係者を取材した結果を報じ ている。「60 Minutes」では通常、1時間の番組放映中、 4 つのテーマを取り上げるため、一つ一つのニュース の放映時間は13 分程度だが、MTBE については異例の 26 分を費やして、入念に取材・報告している。 「60 Minutes」の報じた内容は次のとおりである。 ・MTBE は、全米 49 州で都市飲料水用の井戸の 20%既に混入しており、カリフォルニア州では 州内1000カ所の地中でMTBEが検出されている。 ・都市の中には上水道システムが崩壊状態にあ り、閉鎖して他地域の水源から水を購入してい るケースも出ている。MTBE のために、上水道の ための井戸を閉鎖した都市が少なくとも1 つあ る州は既に21 になった。 ・カリフォルニア州サンタモニカではMTBE の ために、上水道システムを閉鎖せざるを得ず、 他地域の水源から水を購入している。同州サウ スレイク・タホーではMTBE 汚染のために、市 が大手石油会社12 社を訴えている。シェラネバ ダ山脈のふもとにある田舎街グレンビルは、 MTBE 汚染のためにゴーストタウンになりつつ あり、残った住民は皮膚荒れや呼吸困難で苦し んでいる。 ・1990 年大気浄化法で改質ガソリンの使用が義 務づけられた際、MTBE は既に発がんの疑いがあ った。既に1990 年大気浄化法の制定前の 1987 年に、4 州で 2 万人もの飲料水に混入し、問題に なっているという報告がEPAに寄せられていた。 また、MTBE のために吸引困難に陥ったというケ ースも同年に報告されている。 ・しかし、EPA をはじめ、人体への影響を誰も十 分に検査しなかった。また、MTBE の難分解性に ついても調査は少なく、浄化方法についても全 く研究されていなかった。石油会社もしっかり とした調査を怠ってきた。 ・これについて、EPA のボブ・ペルシアセプ(Bob Periciasepe)副長官は「MTBE の問題が広がる可 能性は知っていたが、大気浄化に効果があると いわれる改質ガソリンの導入への期待の中、 MTBE の有害性を指摘する声は消えてしまった」 と述べ、自らEPA の落ち度を認めている。 ・EPA は 1998 年にガソリンスタンドの地下ガソ リン貯蔵タンクの強化を義務づけたが、いまの ところ、まだ40 万のタンクがこの義務に従って いない。 ・大手石油会社は1 社を除く全てが取材を拒否 したが、取材に応えたスノコ(Sunoco)の CEO であるボブ・キャンベル氏は、「石油会社は状況 を無視しているわけではないが、十分な情報が なかった」と述べている。 この「60 Minutes」の特集では、皮膚荒れや呼吸困難 で苦しんでいるグレンビルの住民の状況が、ショッキ ングに描写されているほか、EPA のペルシアセプ副長 官が、「(対策は)十分ではなかった(not enough)」 という言葉を番組の中で4 度も使い行政が自らの落ち 度を認めている。そのため一般からの反響も多く、番 組終了後CBSには「一刻も早いMTBE対策が必要」「後 手後手にまわっているEPA の対策は許せない」などと いう電話が殺到したという。 「60 Minutes」は米国のテレビ番組の中でも最高レベ ルの視聴率を誇っており、これまでもタバコの有害性 を報じたドキュメントがきっかけとなり、タバコ規制 を大きく変化させるなど高い影響力で知られている。 この報道以後、全米各地で規制の声が一気に高まりつ つある。MTBE 汚染が深刻になりつつあるといわれる メイン、コネチカットら8 つの州が共同で連邦政府に 対策を求める意見書を提出したほか、連邦議会でもバ ーバラ・ボクサー上院議員(Barbara Boxer:カリフォ ルニア州選出/民主党)らが積極的な規制を盛り込ん だ新法案の作成を呼びかけたほか、イリノイ州などの 農業州選出議員らが中心となり、MTBE からエタノー ルへの全面転換を求める書簡を大統領に送っている。

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また、ニューヨーク州では市民団体が、MTBE 汚染を 起こした石油会社を訴える集団訴訟をニューヨーク州 裁に起こした。さらに、上水道関連事業者らの業界団 体であるアメリカ水道事業協会(American Water Works Association)も、クリントン政権に対し対策を 呼びかける陳情を行った。 一方、石油事業者の業界団体の一つ、含酸素添加燃料 協会(Oxygenerated Fuels Association)のテリー・ウ イグルズワース(Terry Wigglesworth)代表が「60 Minutes」の報道に公開反論しており、「問題なのは地 下ガソリン貯蔵タンクの性能強化である。また、改質 ガソリンの大気浄化への効果を全く無視している」と 述べている。 ● バイオ安全議定書採択 遺伝子組み換えなどバイオ技術で作られた生物などの 国際貿易を規制する「バイオ安全議定書(Biosafety Protocol)」が 1 月 29 日、カナダのモントリオールで 開 か れ て い た 生 物 多 様 性 条 約 (Convention on Biodiversity)の特別締約国会議で採択された。議定書 は 、 遺 伝 子 組 み 換 え 生 物 (genetically modified organisms = GMO)の輸出国に対し、輸入国への事前 通知と同意取り付けを義務付けており、組み換え生物 の国境を越える移動を規制する初の法的強制力を持つ 協定となっている。しかし、食用、飼料、加工用の組 み換え生物の規制については、遺伝子組み換え作物の 世界最大の生産国である米国などが強く反対し、緩や かな規制をとることで妥協した。 バイオ安全議定書は、議定書採択を目指した会議が昨 年春初めて開かれたコロンビアの都市カルタヘナにち なんで、「バイオ安全性に関するカルタヘナ議定書 (Cartagena Protocol of Biosafety)」と名付けられてお り、採択には日本や欧州を含む世界130 カ国が加わっ た。環境を守るための法的拘束力のある議定書として は、オゾン層保護のためのモントリオール議定書、温 室効果ガスの削減を目指す京都議定書に続く史上3 番 目となっている。議定書は、野放しだった輸出入に歯 止めをかけるのを目的としており、事前に危険性を評 価し組み換え生物が輸入国の生態系に悪影響を及ぼす のを防止する。しかし、組み換え食品の扱いなど主要 な争点で難航し、最終的には食用、飼料、加工用の組 み換え生物は、事前通知を伴わない緩やかな規制にと どまっている。バイオ安全議定書は今後、採択国の中 で50 カ国が自国の議会・国会で批准した段階で発効 される。 生物多様性条約自体の批准を連邦政府上院が行ってい ないため、今回の特別締約国会議では投票権のないオ ブザーバーとして参加した。しかし、投票権はないと いっても、米国は遺伝子組み換え作物の世界最大の生 産国であり、昨年のカルタヘナ会議では投票権を持つ、 カナダ、オーストラリア、アルゼンチン、チリ、ウル グアイなどと共同で、規制の議定書採択を阻止させた。 今回のモントリオール会議でも米国の意向が会議を大 きく左右し、EU などが組み換え食品規制を盛り込むこ とを声高に主張したのに対し、米国は規制対象に組み 換え食品を含むどんな案にも同意できないという主張 を貫いた。また、大統領選挙予備選・党集会の最中で あり、1 月はじめには民主党の最有力候補のゴア副大 統領がアイオワ州でのテレビ討論の際、「遺伝子組み 換え作物に関する決定は科学データに基づくべきだ」 「EU と日本に米国の貿易政策を決めさせてはいけな い」とし、バイオ安全議定書策定をけん制した経緯が ある。 一方欧州の場合、英国の狂牛病が96 年に広がったほ か、ベルギーではダイオキシンに汚染された鶏が問題 となっており、遺伝子組み換え穀物などに対する反対 の声が強い。今回の会議でもEU が中心となり、強い 規制を求めていた。 最終的には米国の反対のため、バイオ安全議定書では 組み換え作物の規制は非常に限定されており、アナリ ストの間では米国の主張はほとんど通ったという見方 が強い。そのため、強い規制を求めた発展途上国やEU

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関係者からは「ザル法である」という指摘があがって いる。 米国代表(オブザーバー)として会議に参加したフラ ンク・ロイ(Frank E. Loy)国務次官は「バイオ安全議 定書が今後発効した際、尊重する」と述べている。 バイオ安全議定書で決まった主な内容は次のとおりで ある。 ・バイオ安全議定書は環境保護を目的としてお り、バイオ技術で作られた生物・食品が人体に 与える影響は、貿易などの際十分に考慮する。 ・遺伝子組み換えなど「バイオ技術で作られた 生物(living modified organism)」を輸出する際 輸出者は、輸入先の国から事前に通知と許可を 受けなくてはならない(「バイオ技術で作られた 生物」は例えば、種子、微生物、魚などが含ま れる)。つまり、輸入国が危険性評価に基づき輸 入の可否を判断、輸入禁止の措置をとることも 可能で、環境に悪影響を与える恐れがあれば、 科学的に明確な根拠がなくても規制できる。 ・ し か し 、 農 業 関 連 生 物 (agricultural commodities)で、食用、飼料、加工用になる組 み換え生物の規制については、事前通知や許可 を伴わない。 ・「バイオ技術で作られた生物」に関するクリア リングハウス機関を設置し、国内で特定の生物 (例えば、遺伝子を組み換えた大豆やトウモロ コシ)を許可した場合、その情報をクリアリン グハウス機関に送り、他国が参考として情報を 入手できるようにする。 ・遺伝子を組み換えた大豆やトウモロコシなど を含む食品の店頭表示義務などにはふれていな い。 ・また、医学利用のための遺伝子組み換え生物 については、規制は適用されない。 一方、遺伝子組み換え作物については、12 月中旬経済 協力開発機構(OECD)が加盟国の政府代表による作 業グループを設置する方針を決めており、先進国が遺 伝子組み換え作物について初めて包括的な論議をする ことになった。遺伝子組み換え作物への対応は、沖縄 サミットでも主要議題となっており、OECD での論議 の行方が注目されている。 ● ようやく動きだした米国内の遺伝子組み換 え作物規制 米国内でも、遺伝子組み換え作物を使った食品の安全 性に対する規制策定の動きがようやく始まりつつある。 米国の場合耕作地ベースで、世界シェアの75%を占め る世界最大の遺伝子組み換え作物の輸出国であり、こ れまで、米国穀物評議会などの強力な農業ロビーの議 会・政府活動のために、日本や欧州に比べ大きく対策 が遅れていた。しかし消費者の間で不安が広がる中、 議員や規制当局も少しずつ規制に積極的になりつつあ る。 米国では90 年代初めから遺伝子組み換え作物や野菜 が店頭に並び、加工食品の材料に使われてきた。現在、 米国で生産されるトウモロコシの3 分の 1、大豆の半 分が既に遺伝子組み換え作物であり、大部分が日本な どへの輸出用として利用されている。米国では特に NIH(国立衛生研究所)やメリーランド大学を抱えて いるメリーランド州南部が、遺伝子組み換え作物研究 で知られている。 米政府はこれまで実験を繰り返した結果、作付けも食 用も安全とし、1992 年に FDA(食品医薬品局)は遺 伝子組み換え作物に対する特別の表示は必要ないとい

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う見解を示している。そのため、1995 年から、害虫を 殺す物質を自ら作るよう遺伝子工学技術で改良された 作物(例えば、ジャガイモ)などについても、EPA は 「人体、環境への影響はない」と販売を許可している。 また、米国政府は同作物の栽培や貿易を積極的に推進 してきた。これは害虫に強く農薬散布が少なくて済み、 経済性と持続型農業に不可欠な環境負担の軽減を両立 するにはバイオ技術の発展が不可欠、という考えに基 づいている。また、例えば昨年夏開発され、組み換え 技術でビタミンAや鉄分を増やし、途上国の栄養改善 に画期的な効果があると期待される稲の新品種、「ゴ ールデンライス」のような革新的な遺伝子組み替え研 究を促進したいという意図もある。 しかし、性質を変えられた植物が野生環境に与える影 響や、自ら殺虫力がある穀物を子供が食べたときの副 作用など、消費者の間での懸念は広がりつつある。例 えば、米国最大の消費者団体であるコンシューマー・ ユニオン(Consumer Union)は昨年秋、全米で購入し たトウモロコシ、大豆製品について、遺伝子組み換え の有無を検査した。コンシューマー・ユニオンによる と、粉ミルク3 種類やトルティーヤチップス、タコス 用外皮、マフィンなど10 数種の製品に遺伝子組み換 え作物が使われていることが判明し、これを受け連邦 政府に対して、遺伝子組み換え食品との表示義務付け を制度化するよう要請している。 遺伝子組み換え作物を使った食品の安全性に対する不 安は、米国の農業従事者にとって大きな問題となって おり、既に、大豆などの組み換え作物の作付面積も急 速に減少しているといわれている。全米トウモロコシ 生産者協会(ACGA)、全米家族経営型農家連合 (National Family Farm Coalition)など 30 の米国の農 業団体も、それぞれの加盟生産者に対し、「遺伝子組み 換え作物は消費者の評判が悪く、今後こうした作物を 栽培すれば生計が立たなくなる可能性すらある」とし た共同警告を通知している。既に、食品加工大手のフ リトレー(Frito-Lay)やハインツ(Heinz)などが遺伝 子組み換え作物を利用しないとしている。また、穀物 大手のアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(Archer Daniels Midland)が昨年秋、組み換え作物と従来の作 物を完全に分別させるべきであると発言し、注目され ている。 農業従事者の不安を背景にし、遺伝子組み換え作物の 安全性を確認せずに種子を販売したとして、1999 年 12 月中旬、環境保護団体のエコノミック・トレンド財 団と全米家族農業者連合は、遺伝子組み換え作物の種 子販売事業者で世界最大手の米モンサントに対し損害 賠償を求める集団訴訟を起こした。訴状によると、モ ンサントは他社とカルテルを結び市場支配を狙い、安 全性を十分確認せずに組み換え種子を販売したと原告 側は主張しており、国内外の農家が被った損害を賠償 すべきだとしている。損害賠償の金額は明らかではな いが、数億ドル規模に上る可能性もあり、種子業界に 大きな打撃を与える可能性も指摘されている。既存の 科学データでは「遺伝子組み換え作物は問題がない」 とされているため訴訟自身の行方はまだ分からないが、 訴訟をきっかけに同作物の安全性をめぐる論議が一段 と高まるのは必至である。 遺伝子組み換え作物に対し、グリックマン農務長官も 「これまで考慮されなかった影響もあるかもしれな い」などと指摘している。2001 年 4 月から表示を義務 付ける日本や、義務化で先行するEU やオーストラリ アなど遅れる形となっているが、米国でも表示を求め る声が議会や政府内からも次第に強くなっており、 FDA は昨年末、遺伝子組み換え作物に対する公聴会を 開くなど、遺伝子組み換え食品に対する対策は徐々に 進みつつある。 とりわけ注目されるのが、EPA が 1 月中旬、イモムシ などの殺虫作用がある遺伝子組み換えトウモロコシ 「Bt コーン(Bt corn)」に対して導入した新規制で、 EPA はこのコーンを利用する農業従事者に対し、1) 大規模な害虫の被害に遭っているトウモロコシ畑のみ に利用する、2)利用者は殺虫作用について記録を付 け、状況を常に見守らなくてはならない――としてい る。Bt コーンに対する規制は、これまで容認してきた 米国内の遺伝子組み換え作物行政を大きく変える可能 性もある。一方、マイケル・クレイポ上院議員(共和

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党/アイダホ州選出)ら中西部州選出の議会内農業属 議員の多くは、いまだ規制に対しては慎重である。ま た、50 社のバイオテクノロジー企業からなる BIO (Biotechnology Industry Organization)も規制反対を となえ、議会・政府に熱心なロビー活動を続けており 状況は規制強化に一気に進むとは考えられない。 ● 決裂したWTO と環境問題 シアトルで12 月に開かれ、次期多角的貿易交渉(新 ラウンド)の枠組みづくりが決裂した世界貿易機関 (WTO)閣僚会議では反ダンピング(不当廉売)協定 問題などのほかに、農業を通じた環境問題も参加国間 で大きな争点となった。農産物を工業製品と同等に見 る米国と、農業の持つ環境保全など「多面的機能」を 重視する欧州連合(EU)や日本との溝はなかなか埋ま らなかった。WTO は小国を含む参加 135 カ国・地域 の全会一致による意思決定方式を採用しているため、 一部では新ラウンド開始を危ぶむ声も出てきている。 米国は、カナダ、オーストラリアなど農産物輸出国で 構成する「ケアンズグループ」と共同で自由化を主張 した。農業と環境問題に関するWTO 閣僚会議での米 国の立場は一貫しており、1)農業も工業品など他品 目と同じように扱うべきである、2)世界の農産物関 税は平均50%に達し米国の10%弱と比べ著しく高い、 3)そのために日本などの諸国は一層の自由化を要求 する、4)EU は農業補助金を削減すべきである、5) 過去の多角的貿易交渉が世界の消費者に巨大な利益を もたらした――などの点がポイントとなっている。ま た、米国政府代表は「我々の調査によると、林産物の 関税撤廃を実施した場合2010年までにフィンランド、 インドネシアなどで伐採量が増加するものの、日本、 韓国、フランスなどでは伐採量が急減する。そのため 完全自由化した場合でも、世界全体では地球環境への 悪影響はほとんどない」などと主張し、「自由貿易と環 境は共存できる」としている。 一方、欧州や日本は、1)農業の多面的機能にもっと 配慮すべきである、2)特に、環境問題や遺伝子組み 換え作物にも適切な対処が必要、3)一定の自給率を 守るなどの「食糧安全保障」も重要――などと主張し 続けた。両グループは大きく対立し、閣僚会議の決裂 で2000 年からの新ラウンド開始は絶望的になった。 シアトル会議では、米国が初めて非政府組織(NGO) の参加を認めた。消費者運動家のラルフ・ネーダー氏 の市民団体「パブリック・シチズン(Public Citizen)」 が、世界の環境保護団体に対しシアトルに結集するよ う呼び掛けたほかAFL-CIO などの労働組織も合流し、 ワシントンポストなどによるとシアトルに集まった NGO の数は数万人を超えるという。WTO 閣僚会議の 初日には、環境保護団体を中心に貿易自由化に対する 抗議デモが繰り広げられ、一部が暴徒化し会議は5 時 間ほど遅れた。会議の2 日目には、立ち入り禁止地区 に入ろうとしたNGO のメンバーら 450 人が州兵や地 元警察に拘束された。環境保護団体主張の具体的な内 容はまちまちだったが、多くは農業の多面的機能を主 張しており、農業が洪水調整や国土保全、緑や生物の 保護などに役立っており、先進国の主張する急速な自 由化を行った場合、農業が衰退すれば国土自体が荒廃 を招くと訴えていた。 その後、クリントン大統領は1 月末、スイス・ダボス で開かれた世界経済フォーラム(ダボス会議)で演説 し、WTO の新ラウンド開始に強い意欲を示した。環境 問題に対しては、途上国対策の重要性を訴えている。 米国は大統領選挙を控えており、クリントン政権は民 主党最有力候補のゴア副大統領のために、なるべく失 点を抑えたいため、今回の発言も玉虫色的であるとい う声がアナリストの間では多い。

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● EPA のウエイストワイズ・プログラム 一般的に欧州に比べて遅れているといわれている米国 のリサイクルを促進するために、EPA は企業とパート ナーシップを組んでリサイクルを進めるプログラム 「ウエイストワイズ(Wastewise)」を 1994 年から行 っており、好評を得ている。 米国の場合、リサイクルの状況は州によって大きく差 があり、例えば、オレゴン州はアルミニウム缶などの リサイクルを奨励するデポジット制度(Deposit Refund System:預り金払い戻し制度)を1972 年とい う早い段階で導入するなど、非常に積極的なリサイク ル政策をとっていることで知られている。しかし、新 聞、アルミニウム缶、段ボール以外のリサイクルはな かなか進んでいないのが現状である。また米国の場合、 1980 年代以降、政府が民間企業に介入することを比較 的控える政治風土があるため、リサイクル事業を民間 事業者が担当することも多いものの、米国のリサイク ル市場は歴史が浅く価格の変動も大きい。例えば段ボ ールの場合、供給量(リサイクルのための廃棄物)が 急増し、ここ4 年で価格は5 分の 1 程度になっている という。 このような事情の中、米国のリサイクルを連邦レベル で促進するのが、EPA のウエイストワイズである。ウ エイストワイズは、1)ごみの減量、2)リユース(自 社内の再利用)、3)リサイクル(廃棄物の再利用、再 利用可能な形での廃棄)、4)リサイクル製品の利用― ―の4 点について、EPA と参加企業が協力し行うもの で、EPA が参加企業に出向き企業との協議しながら、 ごみ減量やリサイクルのための計画を作り上げる。計 画は3 年にわたり、参加企業は計画に従って努力する ほか、年間報告書をEPA に提出する。また、EPA は参 加企業間の横のネットワーク作りも担当し、ごみ減量 のためのノウハウや技術交換などを促進する場を設け ている。 ウエイストワイズの参加費は無料であり、現在の参加 企業はイーストマン・コダック、ベルアトランテック、 ダウコーニングなど約900 社にのぼっている。参加企 業は1998 年には計 61 万トンものごみを減量し、2000 万ドルのごみ処理費を節減できたほか、リサイクル製 紙の利用で2000 万ドルを節減したという。企業は無 料で、ごみ減量・リサイクルに伴う各種経費を節減で きるほか、ごみ減量・リサイクルの先進企業のノウハ ウを学ぶことができ、役立っているという声が特に多 いという。また、“環境に優しい企業”というPR 効果 も大きいといわれている。 ● EPA の環境情報部設立とその背景 EPA は 1999 年末、環境情報の公開をさらに積極的に 行うために、環境情報部(Office of Environmental Information)を発足させた。これまでは、行政・リソ ース管理局(Office of Administration and Resources Management)内にある情報リソース部(Office of Information Resource Management)が主に情報シス テム関連を担当していたほか、情報の収集、分析、公 開に携わっていた部門は、コミュニケーション部 (Office of Communication)、教育・公共政策部 (Education and Public Affairs)、環境情報・統計セン ター(Center for Environmental Information)など、さ まざまだった。これを一本化したのが、環境情報部で あり、環境情報の収集から分析、提供までシームレス な環境情報サービスの提供を目指す。発足の背景には 情報公開の充実・事務の効率化という目的のほかに、 連邦政府の中でも最も脆弱であるという指摘が多いネ ットワークセキュリティーを何とか強化し、他省庁や 議会からの非難をかわしたいという意図もあるとみら れている。 具体的に、環境情報部は、1)環境情報管理(環境情 報の収集から、分析、一般公開までの全てのプロセス を効果的に行う)、2)環境情報の質の向上(情報の確 度の向上や情報データの重複などを防ぐ)、3)政策決

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定のための環境情報利用(環境政策決定に収集した情 報が利用できるように情報を分析)、4)一般からの情 報アクセスの改善(EPA ホームページの改良)、5)企 業に課している報告義務の効率化・簡素化(TRI 報告 手段の効率化など)、6)情報の標準化(省内のデータ の定義やフォーマットを標準化)、7)情報セキュリテ ィの向上・プライバシー管理――などを目標にしてい る。また、環境保護のための“戦略的な情報利用 (strategic resource for protecting the environment)” を行うことを一大ビジョンとして掲げている。 環境情報部長は副長官レベルの職務であり、政治任命 (political appointee)される。初代の環境情報部長職 は、まだ正式任命されておらず、マーガレット・シュ ナイダー(Margaret Schneider)女史が部長代理とし て、職務を遂行している。職員数は350 人で、これま で情報リソース管理部のほか、コミュニケーション部、 環境情報・統計センターなど、環境情報に携わってき た職員を集めた形になっている。 情報公開自身は、EPA にとって非常に重要な政策の一 環であり、EPA は連邦政府機関の中でも特に政府情報 の公開を積極的に推進していることで知られてきた。 これは、情報公開は国民の健康と環境を保護するのに は必要不可欠であり、環境情報へのアクセスを容易に することにより住民の環境保護への参加を促すアプロ ーチをEPA が取り続けているためである。今回の環境 情報部設立で、情報公開がさらに促進されると期待さ れている。 また、環境情報部がEPA における業務の効率化を促進 させるとみられている。行政府における情報インフラ の整備はIT(情報技術)を利用し、行政府における業 務の効率化を図る「リインベンティング・ガバメント」 はクリントンが1992 年の大統領選の選挙公約にした 経 緯 が あ り 、 政 権 発 足 後 に 政 府 実 績 評 価 法 (Government Performance and Results Act)と書類削 減法(Paperwork Reduction Act)が法制化された。政 府実績評価法により米国の各官庁は、戦略計画 (Strategy Plan ) 及 び 年 次 業 務 計 画 ( Annual Performance Plan)を提出することが義務づけられい

る。報告書に基いて施策の立案、予算編成、分析、財 務管理がなされ、統合されたプロセスの導入が進めら れている。また、書類削減法(Paperwork Reduction Act) では、規制緩和やIT を利用した効率化がうたわれてい る。EPA は 1997 年 7 月から5 ヵ年にわたって、情報・ データの標準化や環境情報提供の充実をうたった「環 境情報改革計画(REI=Reinventing Environmental Information)」を進めており、環境情報部が計画を施 行する中心組織となるものとみられている。 情報公開の促進やIT を利用した効率化という理由の 他、行政府関係者の話によると、今回の環境情報部設 立の背景には様々な複雑な事情もある。例えば、EPA のネットワークセキュリティー問題であり、環境情報 部の設立で、政府や議会内のEPA のネットワークセキ ュリティー問題に対する不安を静めようという狙いが あるとみられる。会計監査院(GAO)は、これまで何 度かEPA のネットワーク・セキュリティーの脆弱性に 関する警告を行ってきた。1997 年 9 月には「EPA はハ ッカー攻撃に対して脆弱性がある」とした報告書をま とめ、EPA において不正進入やデータ紛失が起こって いたとしている。また、98 年にも「EPA の情報セキュ リティー改革計画は存在しないに等しいほど遅れてい る」とした分析を議会に提出している。下院商務委員 会(健康環境小委員会を有し、環境関連立法への影響 力が大きい)のトマス・ブライリー委員長は常々、 「EPA のコンピュータ・システムやデータベースにあ る環境規制情報だけでなく、EPA のシステムに接続さ れている他の連邦機関のシステムを危険に晒すことに なる」と述べ、EPA を度々けん制してきた。環境情報 部設立直後の、1999 年 12 月の会計監査院の最新報告 書でも、「EPA のコンピュータ・ネットワーク・セキュ リティーにはいまだ問題が多く、インターネットを通 じた不正侵入に対して非常に脆弱である」とされてお り、会計監査院は、全米コンピューティング・センタ ーから派遣された担当官と共同で、EPA に対しネット ワーク・セキュリティー上問題が存在する個所に修正 を加える方法について勧告している。 一方セキュリティ問題は、ネットワークの不備にとど まらないという指摘も多い。例えば、前号(1999 年

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11 月)でふれたウエッブ環境情報データベース「エン バ イ ロ フ ァ ク ツ ・ ウ ェ ア ハ ウ ス (Envirofacts Warehouse)」では米国内の特定地域の地図を見ながら、 その地域の環境関連データ(汚染レベル、工業排水基 準合格度)を誰でも無料で閲覧でき、有害物質を大量 に含んでいる工場などを簡単に突き止めることができ る。このような工場は、テロリストの攻撃対象にもな りかねず、安全保障上の問題になりつつある。国防総 省関係者の多くは「化学兵器などを使うテロリストに とって、EPA のサイトは格好の情報収集源である。安 全保障上、非常に問題である」と指摘する声も多くな っている。また企業にとっては、自社の環境汚染の度 合いが工場などの立地する周辺の住民に簡単に知られ るほか、ライバル会社に企業情報を公開することにも なるため、「経営上のプライバシーの侵害である」とい う指摘も増えている。批判が多い中環境情報部の設立 で、EPA は現在の情報公開手法の見直しを狙っている。 セキュリティ問題以外にも1980 年代から連邦議会で は、ほぼ毎年のようにEPA のプログラム予算削減の動 きが共和党保守派を中心に起こっており、今回の環境 情報部設立もこのようなEPAをめぐる政治状況と無関 係ではない。前号でふれたように、現在連邦議会上院 で環境関連立法の中心となる環境公共事業委員長には、 親ビジネス派で常々「EPA の独裁を許してはならない」 と主張しているロバート・スミス(Robert Smith:ニ ューハンプシャー州選出)議員が就任したばかりで、 EPA の今後を不安視する声は多い。既に「電動自転車 開発」「風力発電援助」の名目でここ2 年間、また EPA が中国に対して助成した事実がここ2 カ月間議会で問 題となっており、「中国に支援する必要があるのか」 「税金の無駄遣い」「中国から民主党へ渡された不正 献金にからんでいるのではないか」という声が共和党 議員から上がっている。そのため、年間18 万ドルと 比較的小額の助成も大幅にカットされるか廃止になる 可能性も高くなっており、EPA の立場は苦しくなって いる。このような政治状況の中、情報公開を通じた国 民からの支持固めで、各種の予算確保を狙う意図も環 境情報部設立の背景にある。

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連載 米国における環境関連動向

∼在ワシントン/コンサルタントによるモニタリング情報 ④

● はじめに 本報告書は2000 年 2 月から3 月初めまでの最新の米国の環境関連動向を包括的にまとめている。今回は、2001 会計年度の予算教書に盛り込まれた各種環境対策プログラムのほか、次期大統領最有力候補者の環境政策、EPA のインターネットアクセス一時停止問題などを取り上げている。また、「1997 年を転換点に既に急速な温暖化が 始まった」とする海洋大気局の最新研究についても触れている。 ポイント ・クリントン大統領は2001 会計年度の連邦政府の予算案を盛り込んだ予算教書を発表し、環境 関連では地球温暖化対策のため、前年比4 割増の24 億ドルの予算を要求するなど、積極的な 環境保護政策をうたっている。 ・予算案には、環境負荷の少ないクリーンエネルギー開発・利用政策や、環境にやさしい技術へ の投資促進、他国への環境技術援助、環境保護のための特別国債なども盛り込まれている。 ・次期大統領を目指す民主党ゴア副大統領、共和党ブッシュ・テキサス州知事の環境政策にも注 目が集まっており、積極的な環境保護を打ち出すゴア氏に対し、劣悪な環境汚染で知られるヒ ューストンを抱えるテキサス州の州知事であるブッシュ氏は環境政策ではやや遅れがちであ る。しかし、両候補にとって、環境政策はリベラルなイデオロギーの“踏み絵”とみる選挙関 係者も多く、選挙戦術上とても微妙である。 ・全米海洋大気局は、二酸化炭素排出のために来世紀に起きるとされていた地球温暖化が急速に 進んでおり、特に1997 年を転換点に勢いが増しているとする分析結果を明らかにした。 ・ネットワーク・セキュリティーの脆弱性に関する議会の批判を受けて、EPA はウエブサイトや 電子メール受付など、一般からのインターネットアクセスを連邦政府機関過去最悪の4 日間 にわたり自主的に一時停止させた。

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● 2001 会計年度の予算教書に盛り込まれた環 境対策予算(1)概観 クリントン大統領は2 月上旬、2001 会計年度(2000 年10 月∼2001 年 9 月)の連邦政府の予算案を盛り込 んだ予算教書を発表した。環境関連では地球温暖化対 策のため、前年比4 割増の 24 億ドルの予算を要求す るなど、積極的な環境保護政策をうたっている。 米国の環境政策の要となるEPA(環境保護局)の予算 要求総額は73億ドルと2000会計年度実質予算よりも 2 億ドル少なくなっているものの、核となる政策であ る大気と水質浄化対策予算は11%増とクリントン政 権になって最大の伸びを示している。また、環境負荷 が少ないエネルギー源開発などを進めるエネルギー省 の予算要求は189 億ドル(2000 会計年度実質予算比 9%増)、国立公園の環境保全を行う内務省の予算要求 額は92 億ドル(同 11%増)となっている。なお、米 国では中西や西部は全て連邦直轄地という形で開拓が 進められたため、現在でも国土の約3 分の 1 は連邦政 府によって所有されており、内務省の行っている国立 公園の環境保全は環境政策上、非常に重要な位置を占 めている。 米国の場合、行政部と議会の連携体制は日本に比べて 非常に弱い。日本のような議院内閣制では予算案作成 の過程で、実際に政策の執行を担当する担当官庁と与 党議員の間で緊密な交渉が行なわれるため、予算案が そのまま実質予算になるケースが多い。しかし米国の 場合、予算策定過程においても、厳格な三権分立の下、 行政部(環境関連では主にEPA)と議会はチェックア ンドバランス原則上の敵対関係でもあり、大統領の予 算案は半年以上かけて細部まで検討され、大規模に変 更されるケースが多い。 EPA の予算については、昨年 11 月末に成立した 2000 会計年度(1999 年 10 月∼2000 年 9 月)の連邦政府 予算審議の際、上院環境公共事業委員会のロバート・ スミス(Robert Smith:ニューハンプシャー州出身) 委員長らが中心となり、2000 会計年度の EPA 予算を あまり削らない代わりに、2001 会計年度からは、① 320 もの小型で影響力のないプロジェクトを廃止する、 ② その代わりに核となる(「エッセンシャルな」)政策 での予算増は認める――というオフセット条項を盛り 込んだためである。 また、EPA の予算は、ギングリッチ議長の強いリーダ ーシップで、親ビジネス(pro-business)の立場から、 環境規制撤廃と徹底したEPA縮小を狙った第105議会 (1995∼1996 年)の際に大幅減額されたものの、こ こ数年やや持ち直しつつある(下図参照)。 EPA予算の推移 58 60 62 64 66 68 70 72 74 76 78 1996 1997 1998 1999 2000 2001(案) 年 額(単位:億ドル)

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環境保護政策予算の中で特筆されるのが、地球温暖化 対策予算、5 大湖地域の環境改善計画、環境負荷の少 ないクリーンエネルギー開発・利用政策などで、1 月 末、大統領が議会に対し、その年の主要政策を明らか にする1 月末の一般教書演説でもそれぞれ簡単ながら 触れられていた。また、一般教書演説では「ゴア副大 統領とともに政権を始めた際、環境保護に配慮した上 で産業界の経済成長を両立させる“持続可能な開発 (sustainable development)”は不可能であると思った 国民も多かった。しかし技術の発展で、環境と経済発 展の共存は可能になった」とし、環境保護を強調する ゴア副大統領の訴える政策を側面から支援する形とな っている(主要プログラムについては次項参照、「次期 大統領最有力候補者の環境政策」については後述)。 2001 会計年度の予算教書では、連邦政府の歳出総額は 前年実績比2.5%増の1兆8350億ドルと過去最大規模 に膨らむ一方、歳入も2 兆 190 億ドルとそれ以上に拡 大し、そのため米連邦政府の財政黒字は過去最大の 1840 億ドルを見込んでいる。地球温暖化対策などの環 境保護政策関連予算増もこの黒字に裏打ちされている。 しかし、財政黒字の使途をめぐっては、共和党保守派 を中心に大型減税を要求する声も多く、環境保護政策 への予算が要求どおりになるという見方については、 かなり不安定要素も多い。特に、グリーンスパン連邦 準備制度理事会議長がしばしば述べているように、現 在の米国の繁栄はバブル経済の上に成り立っている可 能性が強く、景気が減速した場合共和党側の反発も強 くなるのは必至といえる。 予算を審議する連邦議会上院の環境公共事業委員会や 上下院の予算委員会などからは、環境保護政策予算に ついて、既にかなり厳しい意見が飛び出している。特 に、環境公共事業委員会のスミス委員長は常に、開発 推進(pro-development)と EPA の規模縮小を訴えて おり、オフセット条項で核となる政策での予算増は認 めるとしているものの、EPA の要求通りにはなるかど うかは微妙である。例えば、3 月はじめに行なわれた EPA 関連予算をめぐる公聴会などでは、EPA のキャロ ル・ブラウナー長官に対し、「“より良い米国のための 国債(Better America Bonds)”プログラムなどは他の 政策プログラムと重なる部分が多く、昨年廃案にした はず。どうしてまた予算申請をするのか。根拠をはっ きりと示すべきだ」など、スミス委員長自身からかな り厳しい質疑が約2 時間に渡って続けられ、長官が声 を荒げることも何度もあった。 ● 2001 会計年度の予算教書に盛り込まれた環 境対策予算(2)主要プログラム EPA、エネルギー省、内務省など予算要求のうち、主 な環境対策プログラムと予算案は次のとおりである。 なお、多くのプログラムは目的や主旨が部分的に重な っている。例えば、「環境変化に対する技術イニシアテ ィブ」にバイオマス・エネルギー開発も部分的に含ま れており、重複しているケースもある。 大気清浄化 普通乗用車やSUV(スポーツユーティリィビークル)、 トラックなどの廃ガス規制強化のための予算で、今年 度の予算要求額は2 億 1500 万ドルである。

大気清浄パートナーシップ基金(Clean Air Partnership Fund)

大気浄化のために利用できる政策案・技術案を持って いる自治体に対し、技術革新費用として基金の利用を 促進する。今年度の予算要求額は8500万ドルである。 環境変化に対する技術イニシアティブ(Climate Change Technology Initiative)

クリーンエネルギー開発やエネルギー効率の良い環境 技術などを目的にした予算で、環境にやさしい技術へ の投資促進なども盛り込まれている。予算教書では前 年度の実質予算の1 億 1100 万ドルから大幅予算増を 狙い、2 億2700 万ドルが要求されている。 バイオマス・エネルギー(biomass energy)開発 環境負荷の少ないクリーンエネルギー開発・利用政策

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の一環で、バイオマス(生物体、植物・動物廃棄物) をエネルギー源に用いるバイオマス・エネルギーは、 太陽の光エネルギーを有機物として固定化・再生でき るバイオマスを原料としてエネルギーを取り出せば、 無限に再生可能であり、クリントン政権は昨年からバ イオマス・エネルギーの開発に予算を組んで取り組ん でいる。今年度の予算要求額は2 億 8900 万ドル。 また、今回の予算教書とは別に、議会ではバイオマス・ エネルギー研究に対する特別予算を設ける法案を検討 しており、上院では3 月はじめ、2000 会計年度から 5 年間に渡って、毎年4900 万ドルの予算を充当する法 案(S-935)が通過したばかりである。同法案は 3 月 10 日現在、下院での審議が進んでいる。 環境負荷の少ない製品利用税制優遇措置予算 クリーンエネルギーを使った自動車、エネルギー効率 の良い住宅などの購入に対する税制優遇措置予算で、 エネルギー効率の良い住宅購入に対し最高2000ドル、 電気モーターとガソリンエンジンの両方で走行するハ イブリッド車の購入に対して同3000 ドルの税制優遇 措置を盛り込んでいる。予算要求額は今後、10 年間で 90 億ドル。 再利用可能エネルギー、エネルギー効率の良い建設・ 輸送技術の研究と応用 エネルギー効率の良い建設・輸送技術に14 億ドルが 割り当てられている。 水質清浄化

Clean Water Action Plan(清浄水質アクションプラン) と呼ばれ、水質清浄化のために、環境技術の応用や情 報収集などを行うほか、州や郡政府の水質清浄化プロ グラムへの助成などが含まれている。総額7 億 8400 万ドル。清浄水質アクションプランには「5 大湖地域 の環境改善計画」「全米を通じた、より良い水質確保」 などが含まれている。また、水質基準の全国での遵守 徹底を図るための飲料水基準を簡素化など、EPA の通 常の水質清浄化に関する施策も含まれている。 5 大湖地域の環境改善計画

5 大湖(The Great Lakes)の環境保全や水源確保のた め、5 大湖周辺自治体に 5000 万ドルの助成をする。マ ッチングファンド形式で、周辺自治体にも4 割程度の 負担を要求している。 全米を通じた、より良い水質確保(Cleaner Water Across America) 全米2 万の水源保全のために、自治体に計 4500 万ド ルの助成を行う。また、水質汚染物除去のために自治 体に2 億 5000 万ドルの助成をするほか、連邦清浄水 質州リボルビング基金(Federal Clean Water State Revolving Fund)の用途を改善し、利用する自治体の 利用方法に柔軟性を持たせ、様々な水質汚染対策に対 応できるようにする。 地球温暖化政策 環境保護政策予算の中で目立っているのが、地球温暖 化対策予算でEPAとエネルギー省の関係予算を総合す ると24 億ドルで、2000 会計年度実質予算比 42%増と なっている。また、地球温暖化研究予算にも17 億ド ルを要求している。

全米の子供たちを守る(Protecting America’s Children) ぜんそくなどの原因となる大気汚染物の浄化や、家屋 に使われている鉛入りのペンキなどの浄化を通じて、 子供たちの健康を守る政策である。予算要求額は6800 万ドル。また、鉛汚染に対しては、「鉛汚染のない家屋 (Making Homes Lead-Safe)」プログラムとして、別 に1 億 2000 万ドルが予算要求されているほか、EPA と司法省の予算に鉛汚染規制特別摘発費として600万 ドルが盛り込まれている。

食品安全確保(Ensuring the Safety of America’s Food) 「1996 年食品品質保護法(1996 Food Quality Protection Act)」を執行するために、2000 会計年度実 質予算比13%増の 7500 万ドルが要求されている。同 法は子供たちの健康を守る目的で、食品安全規制を厳 格にしている。

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国民の知る権利(Public’s Right-To-Know)拡大 国民の知る権利拡大を目指したクリントン大統領の 「情報統合イニシアティブ(Information Integration Initiative)」に基づき、EPA のサイトなどにおける環境 情報公開を促進し、情報の電子化を急ぐ。また、事業 者が規制準拠のために提出する書類の簡素化なども目 指す。国民の知る権利(Public’s Right-To-Know)拡大 予算として、3000 万ドルを要求している。

より良い米国のための国債(Better America Bonds) 「より良い米国のための国債(Better America Bonds)」 は、環境保護のためのユニークな特別国債である。環 境汚染が激しい工場跡地(ブラウンフィールド)や水 質汚染などの対策や、交通渋滞解消のために、自治体 を助成するために発行される。発行は5 年間にわたり、 計108 億ドルとなっている。投資者(債権者)に対し ては15 年間の税制優遇が盛り込まれており、優遇の ための予算は計6億9000ドルになる。「より良い米国 のための国債」は、クリントン政権環境政策の目玉の 一つとして昨年大々的に宣伝され、2000 会計年度の予 算案に盛り込まれたが、議会の猛反対に遭いプログラ ム自身がスタートできなかった。導入については、今 年度も激しい論議を呼ぶとみられている。 スーパーファンド関連予算 「1980 年スーパーファンド法」(包括的環境対処・補 償・責任法=Comprehensive Environmental Response and Liability Act)は環境規制とともに、州や地方自治 体への廃棄物処理補助金、放置された有毒廃棄物投棄 場、ブラウンフィールドなどの浄化などに対して、16 億ドルの信託基金を確保している。2001 年度には汚染 サイトの浄化作業や改善措置のために14.5 億ドルが 割り当てられているほか、汚染サイトの再開発や企業 誘致・雇用促進を目指すパイロットプログラム予算に 約1 億ドルが要求されている。 開発途上国での環境保全投資 アフリカ、ラテンアメリカ、アジア途上国の環境保全 のために1 億ドルを投資する。開発途上国での環境技 術導入援助なども盛り込まれている。国際開発局 (USAID)の予算案に含まれており、前年実質予算比 6 割増である。 債務―自然スワップ取引(Debt-for-Nature Swaps)プ ログラム 開発途上国が環境保全のための投資をした場合、その 国抱えている米国に対する債務について、同額を相殺 する制度で、制度実施のための予算として、前年実質 予算の3 倍にあたる 3700 万ドルが要求されている。 野生生物保護研究 野生生物保護研究予算として1000 万ドルが要求され ているほか、象、虎、サイなどの絶滅の危機にある動 物の保護予算として300 万ドルが要求されている。 宇宙からの森林の減少状況調査 他国と協力し、熱帯雨林の減少など宇宙からの状況調 査するプログラムで、今回初めて導入された。国際開 発局とNASA の予算から割り当てられる。

米国の国土遺産保全(Permanent Lands Legacy for America)

「米国の国土遺産保全(Permanent Lands Legacy for America)プログラム」は貴重な野生生物・植物が生 息する地域の環境保全や史跡の保護を目指した総合的 なプログラムで、前年実質予算比の倍以上である14 億ドルが要求されており、今年でクリントン政権の“遺 産”として、重点的に予算が組まれている。保護対象 には、ミシシッピー河のデルタ地帯やシェラネバダ山 脈、南カリフォルニア砂漠、エバーグレーズ国立公園、 南北戦争跡地、ルイス・クラーク探検隊足跡などが含 まれている。 ● MTBE 汚染規制予算を求める声 深刻なMTBE(メチル・ターシャリー・ブチル・エー テル。methy tertiary butyl ether)汚染浄化予算が 今回の2001 会計年度予算に盛り込まれなかったこと に対する反発が市民団体などから上がっている。 MTBE は深刻な水質汚染の可能性が指摘されており、 今年になってから、全米各地で規制の声が一気に高ま

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りつつある(前号参照)。上水道関連事業者らの業界団 体であるアメリカ水道事業協会(American Water Works Association)もクリントン政権に対し、対策を 呼びかける陳情を再び、行った。 MTBE は、大気浄化に効果があるといわれる改質ガソ リン(reformulated gasoline)を製造するときに配合す る含酸素添加剤(oxygenate)であり、1990 年大気浄 化法(Clean Air Act)で改質ガソリンの使用が義務づ けられて以来広範に利用されるようになったが、発ガ ンの可能性が指摘されているほか、カリフォルニア州 などでガソリンスタンドの地下ガソリン貯蔵タンクか らMTBE が漏洩し、地下水を汚染している。そのため 今年に入って、全米各地でMTBE 汚染を起こした石油 会社を訴える集団訴訟が起こされている。 深刻なMTBE 汚染浄化予算が今回の予算案に盛り込ま れていない点について、クリントン政権は明言してい ないが、関係者の意見を総合すると、①今回の予算案 に既に昨年から検討されていたため、MTBE 汚染浄化 のみをうたった項目を盛り込めなかった、②他の様々 な浄化プログラムを柔軟に応用できる、③MTBE の影 響について、EPA は調査中であり、調査を待ってから、 本格的な対策や規制を始めるのが筋である――などの 理由があるという。 一方、アメリカ水道事業協会は「MTBE 対策が後手に まわると、全米の環境が大きく汚染される。一国も早 い全面規制と本格的な浄化対策が必要だ」と指摘して いる。また、全米資源防衛協議会(National Resource Defense Council)などの市民団体も新たなアクション を起こすとみられている。一方、MTBE に代わる含酸 素添加剤であるエタノールの生産する全米穀物生産者 協会(National Corn Growers Association)などの農業 ロビーも、上院環境公共事業委員会のスミス委員長や インフォフ議員(いずれも共和党)に積極的にロビー 活動を行っており、今後の動向が注目される。 ● 「1997 年を転換点に既に急速な温暖化」― ―海洋大気局研究 商 務 省 の 全 米 海 洋 大 気 局 (National Oceanic Atmospheric Administration)は 2 月末、二酸化炭素 (CO2)排出のために来世紀に起きるとされていた地 球温暖化が急速に進んでおり、特に1997 年を転換点 に勢いが増している、とする分析結果を明らかにした。 急速な地球温暖化は21 世紀になってからというのが 通説だったが、既に始まっているという今回の発表で、 早急な温暖化対策を求める声が広がっている。 この発表は 3 月 1 日付の「地球物理学研究レター (Geophysical Research Letters)」に掲載されたもので、 全米海洋大気局のトマス・カール(Thomas Karl)氏ら が中心となり、研究をまとめている。分析結果による と1976 年から 1998 年までの気温上昇率は、100 年当 たりに換算して摂氏3 度で、同期間を除く 20 世紀と 19 世紀のうち、この上昇率はどの期間よりも大きくな っている。世界全体の月平均気温が16 カ月連続で各 月の最高記録を更新した1997年から98年の気温の温 度変化が特に重要で、1997 年は温暖化傾向が始まる転 換点だったと結論を出した。統計的にみて、この1年 の温度変化が偶然の変動の結果である確率は20 分の 1 と小さいという。これを裏付けるように、1999 年の 気温も記録上5 番目の高温であり、同年が高温である エルニューニョではなく、通常低温であるラニーニャ の年だったことを考慮に入れると、異常に高温である という。 全米海洋大気局によると、高温傾向が始まった原因に ついて完全には結論を出していないが、温室効果があ る CO2の大気中濃度が上昇し続けていることから、 「人為的な温暖化である可能性が高い」と分析してい る。各国の科学者や行政官が参加して温暖化の科学的 な検討を進めている「気候変動に関する政府間パネル」 (IPCC =Intergovenmental Panel on Climate change) は、100 年当たり摂氏 1 度から 3 度の気温上昇は 21 世紀になってから起きると予測していたが、今回の分 析では「温暖化はIPCC の分析よりも、予想以上に急 速。これまで以上に対策を急ぐ必要がある」と指摘し

表 1  環境目標  団体名  団体の要求事項 欧州冷蔵庫コンプレッサー工業会 (ASCERCOM)  HFC, PFC および SF6 ガス  ・法制化反対  冷却剤の責任ある使用を促進する欧 州協会(EUCRAR)  HFC, PFC および SF6 ガス  ・法制化反対  欧州セメント工業会(CEMBUREAU)  二酸化炭素ガス  ・クレジットとしての取引権・研究開発資金 ・新エネルギー税反対 欧州鉄鋼産業連合(EUROFER)  二酸化炭素ガス  ・法制化反対  ・新エネルギー税反対温暖化ガス削減

参照

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