緒 言
近年,気管支喘息の罹患率は世界的に大きく増 加している.1)気管支喘息とは,空気の通り道で ある気管支に慢性的なアレルギー性炎症が生じ, 様々な刺激に対し過敏に反応することで気管支が 収縮することで発症する.その結果,喘鳴や夜間・ 早朝の咳といった症状を呈し,重症化すると呼吸 困難に陥り死に至るケースもある.その治療薬2) * 〒650-8586 兵庫県神戸市中央区港島1-1-3 40(12) 716―725 (2014)吸入ステロイド薬の副作用である嗄声発現の要因解析
岡田 章1,松本結希1,山越達也2,西川 誠2,福島恵造1,杉岡信幸*1 神戸学院大学薬学部臨床薬物動態学研究室1,サン調剤薬局2Factorial Analysis of the Onset of Hoarseness,
the Side Effect of Inhaled Corticosteroids
Akira Okada1, Yuki Matsumoto1, Tatsuya Yamagoe2, Makoto Nishikawa2, Keizo Fukushima1 and Nobuyuki Sugioka*1
Department of Clinical Pharmacokinetics, Faculty of Pharmaceutical Science, Kobe Gakuin University 1, Sun Pharmacy 2
Received April 17, 2014 Accepted September 23, 2014
Recently, use of inhaled corticosteroid anti-asthmatic drugs has been increasing due to the increase of bronchial asthma patients. However, there are some side effects of inhaled corticosteroid, such as hoarseness, which can affect a patient’s quality of life (QOL). Therefore, to contribute to the proper and individual use of these anti-asthmatic drugs, we conducted a statistical analysis to determine the cause of hoarseness by collecting information to find a relationship between the rate of patients suffering from hoarseness, their personal backgrounds and each inhaled corticosteroid. In our present study, the rate of hoarseness onset in smokers was 4.15 times higher than that of non-smokers. On the other hand, fluticasone propionate (FP) is the component of inhaled anti-asthmatic drugs, which has the largest average particle size. Rate of hoarseness onset of inhaled FP was higher than any other component of inhaled corticosteroids. However, in inhaled anti-asthmatic drugs having FP as the main corticosteroid component, difference of the onset of hoarseness was observed between five nozzle types of devices. This result suggested that the cause of this difference was derived from the individual shape of the device’s nozzle.
In this study, it was revealed that the difference in nozzle types of devices and the particle size of drug components affect mainly the occurrence frequency of hoarseness. These results provide helpful information about appropriate use of inhaled anti-asthmatic drugs including effective patient education for self-administration.
Key words ―― inhaled corticosteroid, hoarseness, side effects, anti-asthmatic drug
として,気管支の炎症を抑制する薬剤や,収縮し た気管支を拡張させる薬剤が存在する.前者には 吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid: ICS)が,
後者には気管支拡張薬(β2刺激薬やテオフィリ ン)が主に用いられる.また,ステロイド薬と β2刺激薬を合剤として使用する吸入薬も存在す る.その他,抗アレルギー薬や減感作療法を用い たり,各個人の体質(証)に合わせた漢方薬を用 いた治療法も行われたりしている.このなかで最
も頻繁に用いられる治療薬は吸入ステロイド薬で あり,治療全体の 43.5%を占めている. 吸入ステロイド薬が頻繁に使用される理由とし て,3 つの優れた点を有することが挙げられる. すなわち,1)炎症を強力に抑える効果があるため, 喘息発作を大幅に抑制することが可能である.ま た,製剤によっては,長時間作用型吸入 β2刺激
薬(long-acting beta-agonist: LABA) と の 合 剤 も あり,抗炎症作用・気管支拡張作用のある薬剤を 同時に吸入することも可能である.2)吸入する ステロイドを微量とすることで作用を肺に限局 し,ステロイドの全身的副作用(副腎皮質機能の 抑制・骨代謝異常・小児の発育遅延など)を軽減 することが可能である.3)長期管理薬として継 続的に使用することで,患者自身で発作をコント ロールすることが可能である. 2000年以降,吸入ステロイド薬は急速に普及 し,現在では主成分や用法の違いなどから多くの 種類が存在している.そのため治療の選択肢の幅 が広がり,患者に適した薬剤の選択が容易となっ た.ここで今回の検討に用いた吸入ステロイド薬 を(表 1)に示す.3)しかしながら,最近では嗄声, 口腔カンジダ症,咳嗽など局所的副作用の問題が 表面化しており,4)そのなかでも最も発現頻度が 高い副作用は嗄声であると言われている.5)嗄声 は,その程度によっては日常生活に大きく支障を 来す場合もある.6)一方,薬剤師の使命として, 薬剤の使用による副作用を軽減し,患者個々に とって最も有効で安全な薬物療法を提案すること で,日常生活を快適に過ごせるよう導いていくこ とが重要であるのは言うまでもない.7)そのなか でのリスクマネジメントとして,個々の患者に とって最も嗄声が発現しにくい薬剤を薬剤師の立 場から提案していくことが必要である.8) そこで本研究では,患者背景,使用薬剤および使 用方法・投与量の分析結果から嗄声の発現する原 因(リスクファクター)が何であるかを分析し,そ の対処法に有用な情報を与えることを目的とした.
方 法
1.調査対象患者 2008年 12 月~2013 年 9 月の期間中に,サン調 剤薬局において吸入ステロイド薬を処方されてい る気管支喘息と診断された外来患者からアンケー ト調査(図 1)を実施し,嗄声・うがい・喫煙の 有無がすべて確認できた 566 人の解答を得た.性 別構成は男性 203 人,女性 363 人であった.また, 年 齢 構 成 は 1~9 歳:84 人,10~19 歳:47 人, 20~29 歳:55 人,30~39 歳:126 人,40~49 歳: 90 人,50~59 歳:61 人,60~69 歳:59 人,70 ~79 歳:34 人,80~83 歳:10 人であった.なお, 本薬局の薬歴にて内服ステロイドの処方が確認さ れた患者は除外した.また,これらの調査で用い た患者データに関しては,倫理的側面から患者個 人が特定されないよう匿名化を行った.アンケー トに際しては,その都度不明な点を聞き取り,正 確性を保持した.なお,嗄声発現については,解 答が否であっても聞き取りの際に薬剤師が是と判 断した場合はその旨を指摘し,乳幼児においては 表 1 本調査で使用した吸入ステロイド薬の分類 吸入器具 デバイスの分類 pMDI DPI エアゾール ロタディスク ディスカス タービュヘイラー ツイストヘイラー ステロイド分類 BDP CIC FP FP FP BUD MF 長時間作用型 吸入 β2刺激薬 ― ― ― SM ― ― SM ― FM ― 吸入速度(L / 分) ― ― ― ― 60 30 35 35 平均粒子径(μm) 1.1 1.1 3.1 5.2 5.2 4.4 2.6 2 肺内沈着率(%) 約 50 約 50 約 30 約 11~16 約 15~17 約 32 約 40薬剤をエアゾールとして噴霧する pMDI (pressurized metered dose inhaler)と, 薬剤を乾燥粉末として吸入する DPI (dry powder inhaler) の分類. (BDP: beclometasone dipropionate, CIC: ciclesonide, FP: fluticasone propionate, BUD: budesonide, MF: mometasone furoate, SM: salmeterol xinafoate, FM: formoterol fumarate hydrate)
両親への十分な確認により判断した. 2.使用された吸入ステロイド薬
ステロイド薬には,加圧式定量噴霧式吸入器 (pressurized metered dose inhaler: pMDI)とドライ パウダー定量吸入器(dry powder inhaler: DPI)が 存在する.pMDI はエアゾールとも呼ばれており, 1回分量の薬液が霧状となって噴出するため,噴 霧に合わせて吸入しなければならない.一方 DPI は,ステロイド薬などを乾燥粉末(ドライパウ ダー)とし,患者の吸入力・吸入速度を利用して 吸入できるようにしたものであり,複数の種類が 存在する. 本研究ではデバイスの種類により,pMDI であ るデバイスとして pMDI エアゾール,DPI のデバ イスとして形状・吸入法の異なる DPI ロタディス ク,DPI ディスカス,DPI タービュヘイラー,DPI ツイストヘイラーの 5 種類に分類した.pMDI エ アゾールのステロイド成分としては,ベクロメタ ゾ ン ジ プ ロ ピ オ ン 酸 エ ス テ ル(beclometasone
dipropionate: BDP), シ ク レ ソ ニ ド(ciclesonide: CIC), フ ル チ カ ゾ ン プ ロ ピ オ ン 酸 エ ス テ ル (fluticasone propionate: FP)の 3 種類があり,同 様に DPI ロタディスクおよび DPI ディスカスに は FP,DPI タ ー ビ ュ ヘ イ ラ ー は ブ デ ソ ニ ド (budesonide: BUD),DPI ツイストヘイラーはモ メタゾンフランカルボン酸エステル(mometasone furoate: MF)がそれぞれ含有されている.また, pMDIおよび DPI ディスカスには LABA としてサ ルメテロールキシナホ酸塩(salmeterol xinafoate: SM)が,DPI タービュヘイラーにはホルモテロー ルフマル酸塩水和物(formoterol fumarate hydrate: FM)が含まれている製剤もあり,これら成分別 にも検討を加えた.これら分類のほかに,各薬剤 の効果を最大限発揮するための適切な吸入速度, 肺内沈着率について(表 1)に示す.なお今回の 調査で用いた吸入ステロイド薬成分の略語は, 2009年版喘息予防・管理ガイドラインで使用さ れている用語に準じた. 3.変動要因の評価方法 確認が必要と考えた要因(下記 1~3)について, それぞれ単独での嗄声発現頻度に対する影響を比 較検討した. (1)吸入器具(デバイス)の違いによる嗄声発 現頻度 エアゾール製剤である pMDI エアゾールに対 し,ドライパウダー製剤である DPI ロタディス ク・DPI デ ィ ス カ ス・DPI タ ー ビ ュ ヘ イ ラ ー・ DPIツイストヘイラーによる嗄声が発現する頻度 の違いを,嗄声発現率を目的変数とするロジス ティック解析により得られた各デバイス使用時の オッズ比により評価した. (2)ステロイド成分の違いによる嗄声発現頻度 BDPを基準とし,それに対するほかのステロ イド成分の嗄声発現頻度の違いを前項と同様に解 析した.なお,FP についてはデバイスが異なっ ていても,同一ステロイドと見なした(表 1). (3)LABA を含有する吸入ステロイド9)における 嗄声発現頻度 吸入ステロイド薬には主成分であるステロイド 以外に,気管支拡張作用を持つ LABA を含む合 剤がある.10)そこで,ステロイド単剤使用に対し てステロイドと LABA の合剤を使用した時の嗄 声が発現する頻度の違いを前項と同様に解析し た.なお,最も症例数が多く,ステロイド単独製 剤と LABA との合剤がある DPI タービュヘイラー (BUD または BUD + FM)について比較解析した. ほかに pMDI エアゾール(FP または FP + SM), DPIディスカス(FP または FP + SM)があるが, 単独製剤と合剤のいずれか,または両方に嗄声発 現症例がないため,検討から除外した. (4)年代,性別,うがいの有無,使用している 吸入器具( pMDI または DPI ),喫煙の有無 による嗄声発現頻度の比較 吸入ステロイド薬の使用による嗄声発現頻度の 差異は,各患者が使用する吸入ステロイド薬が異 なることのほかに,各患者の生活習慣が関連する ことは容易に想像できる.そこで嗄声に影響を及 ぼす要因として考えうる年代・うがいの有無・喫 煙の有無,11)さらに,本検討で嗄声発現に関連す ることが明らかとなった吸入デバイスの種類につ いてこれら要因を独立変数とし,嗄声発現率を目 的変数とするロジスティック解析を試み,各要因 の嗄声発現に対する寄与,および嗄声発現の予測 の可能性について検討した.独立変数とした要因 それぞれの分類基準を以下に示す.また,吸入ス テロイドを処方されている母集団に対して,独立 要因とした項目について必要である情報は喫煙や うがいの可否であるため,母集団内において未成 年等の除外基準は設けず,アンケート結果を反映 させて解析を行った. 年代:生活習慣の違いを考慮するため 10 歳毎に 分類 うがい:しっかりうがいを実施している人と,全 くうがいをしていない或いはほとんどうがいをし ていない人の嗄声発現割合(5 歳以下,もしくは 何らかの原因でうがい実施が困難な患者に対して は,代替して飲水を指導し,それによりうがいの 有無を判断.また,それ以外の患者に対しては, 経口ステロイド使用時の副作用が生じる可能性が あるため,飲水や食事によるうがいの代替指導を 行わなかった.) 喫煙:非喫煙者(未成年を含む)に対する喫煙者
の嗄声発現割合 デバイス:pMDI エアゾール使用者に対する各 DPI製剤使用者(未成年を含む)の嗄声発現割合 4.統計解析 分析結果については,P < 0.05 を有意差ありと 判定した.なお統計解析ソフトウェアには SPSS (version 18.0; SPSS Inc, Chicago, IL, USA)を使用
した.
結 果
1.吸入器具(デバイス)の違いによる嗄声発現 頻度 嗄声発現率を目的変数,各デバイスによる嗄声 発現を独立変数とするロジスティック回帰式は有 意(P < 0.01)であり,デバイスの違いによる嗄 声への影響が認められた.pMDI エアゾールに対 し,ドライパウダーである DPI ロタディスクの オッズ比は 3.12,同・DPI ディスカスは 5.00 で あり,それぞれ有意に嗄声が発現しやすかった. 一方,DPI タービュヘイラーおよび同・DPI ツイ ストヘイラーの嗄声の発現しやすさに違いは見ら れなかった(図 2). 2.ステロイド成分の違いによる嗄声発現頻度 ステロイド成分について1)と同様に検討を行っ た結果,BDP に対し FP は嗄声発現頻度がオッズ 比として 1.79 と高い傾向が認められ,また,BUD・ MFのオッズ比はそれぞれ 0.52・0.55 であったが, 有意性は認められなかった.CIC については,嗄 声を発現した症例報告がなかった(図 3). 3.LABA を含有する吸入ステロイドにおける嗄 声発現頻度 pMDIエアゾール(FP または FP + SM),DPI タービュヘイラー(BUD または BUD + FM)に ついて嗄声を発現した症例は,ステロイド単独製 剤または LABA との合剤のいずれか,または両 方の群に存在しなかったため,統計処理が不能で あった.また,DPI ディスカス(FP または FP + SM)において,ステロイド単独製剤(FP)より も LABA との合剤(FP + SM)のほうが嗄声は 発現しにくい傾向(オッズ比 0.444)にあったが, カイ二乗検定により有意性がなかった. 4.各要因が嗄声発現頻度に与える影響の解析 嗄声発現率を目的変数とするロジスティック回 帰式を以下に示す. 図 2 エアゾールに対する各デバイスによる嗄声発現 頻度の違い各デバイスがエアゾールである pMDI 製剤(pressurized metered dose inhaler), ド ラ イ パ ウ ダ ー で あ る DPI 製 剤(dry powder inhaler)のどちらに属し,どのステロイド成分が含有されてい るのかは(表 1)に示す.
図 3 BDP を基準とした時の各ステロイド成分による 嗄声発現頻度の違い
各ステロイド成分がどのデバイスに属するかを以下に示す. *BDP: beclometasone dipropionate,pMDI エ ア ゾ ー ル に 分 類. **CIC: ciclesonide,pMDI エアゾールに分類.***FP: fluticasone propionate,pMDI エアゾール,DPI ロタディスク,および DPI ディスカスに分類.****BUD: budesonide,DPI タービュヘイラー に分類.*****MF: mometasone furoate,DPI ツイストヘイラー に分類.
嗄声発現率= 1 e-6.16+(0.028×年代)+(喫煙)+(デバイス)+(うがい) 年代は10歳毎に群分けし,0~8の連続変数とした. ( 0-10:0,11-20:1,21-30:2,31-40:3,41-50:4,51-60:5,61-70:6,71-80:7,81-90:8) 年代以外の各独立変数の係数を以下に示す. 喫煙…非喫煙者:0,喫煙者:1.44 デバイス…pMDI エアゾール:0,DPI タービュ ヘイラー:-0.02,DPI ツイストヘイラー:-0.06, DPIディスカス:1.71,DPI ロタディスク:1.48 うがい…しっかりした:0,全くあるいはほとん どしていない:1.40 得られた回帰式は尤度比検定の結果,P < 0.0001 で有意であった.年代に関しては,10 歳年齢が 増すごとのオッズ比は 1.03 であり,高齢になる 程嗄声発現率は有意にやや上昇した.pMDI エア ゾールに対する嗄声発現のオッズ比は DPI ディ スカスが 5.52,DPI ロタディスクが 4.38 と有意 により高かった.しかしながら DPI タービュヘ イラーは 0.98,DPI ツイストヘイラーは 0.94 で 嗄声発現に影響は認められなかった.また,オッ ズ比として喫煙者は非喫煙者に対し 4.15,うがい を全くしていない患者は 4.05 を得た.
考 察
本調査で取り上げた嗄声は,吸入ステロイド薬 によって起こる副作用の 1 つであり,その発現頻 度はほかの副作用よりも高い傾向にある(図 4). 吸入ステロイド薬による嗄声の主な原因はステロ イド筋症であり,12)まれに免疫抑制作用による喉 頭カンジダ症を引き起こすこともある.13)ステロ イド筋症とは,喉頭にステロイドが付着すること で喉頭筋の障害が生じ,その結果筋力が低下し発 声時に声帯を閉じる方向にうまく動かせなくなる 病態のことである.従って,ステロイドの喉頭へ の付着率が嗄声発現率に大きく関係してくると考 えられる. 今回検討した吸入ステロイド薬のデバイス別嗄 声発生頻度は,DPI ディスカス > DPI ロタディス ク > DPI タービュヘイラー・DPI ツイストヘイ ラー・pMDI エアゾールの順に高値であった.エ アゾールである pMDI 製剤よりドライパウダーで ある DPI 製剤のほうが,嗄声発現頻度が高い傾 向にあることがわかる.pMDI 製剤と DPI 製剤を 比較すると,吸入時の薬剤性質,吸入方法14)が 異なっている.pMDI 製剤は薬液がエアゾールと なって噴出され,使用時にはエアゾール噴霧に合 わせた吸入動作をしなければならず,高齢者や子 供にはタイミングが難しく上手く吸入できない ケースが多いと考えられるため,スペーサー(吸 入補助具)を併せて使用する方法がある.スペー 図 4 各吸入ステロイド薬により起こる副作用のう ち,嗄声が発現する割合(インタビューフォー ムより) 本調査を行うきっかけとなった現状である.吸入ステロイド薬 は局所的副作用が問題となっている.局所的副作用には嗄声, 口内乾燥,カンジダ症,咽頭刺激症状,咳嗽などが主にある が,嗄声がいずれの薬剤においても高頻度に発現する.(BDP: beclometasone dipropionate,CIC: ciclesonide,FP: fluticasone propionate,BUD: budesonide,MF: mometasone furoate,SM: salmeterol xinafoate,FM: formoterol fumarate hydrate)サーの使用により通常の呼吸リズムに合わせた吸 入が可能となり,スペーサーを付けていない pMDI製剤を使用する場合に比べて吸入効率が上 昇する.また,直径 5 μm 以上の大きい粒子がス ペーサーの内壁に吸着されるため,口腔や咽喉部 への不要な薬剤の沈着を防止するとされている. 喉頭部への薬剤沈着に関してはスペーサーを付け ていない pMDI 製剤についても,薬液を飛ばすた めに噴射剤である代替フロンが含まれているの で,後に述べる DPI 製剤よりもステロイドの喉 頭部への付着は少ないと思われる.一方,DPI 製 剤は乾燥粉末を吸い上げるため,吸入のタイミン グを合わせる必要はない.しかし,吸気流速によ り乾燥粉末を吸い上げ,乱気流を発生させて吸入 するため適切な吸入速度が必要であり,特に乳幼 児は使用が困難である.必要な吸入速度が得られ なければ,薬剤を十分に吸入できず効果が減少す るうえに,ステロイドが喉頭部へ付着しやすくな ると考えられる.以上のことから DPI 製剤のほ うが口腔内付着率は高く,pMDI 製剤より DPI 製 剤において嗄声発現頻度が高くなったと考えられ る.pMDI 製剤と DPI 製剤はこのように口腔内付 着率に差があるために,肺内沈着率に大きな差が 表れているものと思われる(表 1).また,肺内 沈着率の差は薬剤粒子径にもよると思われる.そ もそも平均粒子径が pMDI 製剤(平均 1.7 μm) より DPI 製剤(平均 3.9 μm)と大型であるため に口腔内沈着率に差が表れ,肺内沈着率にも差が 表れていると考えることもできる.しかしながら, 本調査において,pMDI 製剤使用者が嗄声発現頻 度を抑制させると思われるスペーサーを併用して いたかは,本調査では不明である.従って,吸入 補助具となるスペーサーを pMDI 製剤と併用した 場合,併用しなかった場合と比較して実際に嗄声 発現頻度が低くなるのか,検討の余地がある. 一方,各デバイスによる嗄声発現率の差は,使 用器具の形状の違い,さらに細かく言うと吸い口 の形状の違いが影響する可能性が考えられる. pMDIエアゾールの吸入方法にはクローズドマウ ス法,オープンマウス法の 2 種類がある.前者は, 吸入する時に吸入口を歯で咥え,舌を下げなけれ ばならない(直接口に咥えて薬剤を吸入する方 法).従って薬剤が口腔内に噴射されているだけ で,うまく吸入できていない可能性がある.一方, 後者は吸入する時に口から吸入口を 3~4 cm 離し た状態で構え,息をゆっくり吸い込み始めると同 時に薬剤を吸入しなければならない(吸入口を咥 えず薬剤を吸入する方法).従って,前者よりも 吸入動作と薬剤噴射のタイミングを合わせなけれ ばならず,またうまくタイミングを合わせること ができたとしても,全ての薬剤が口腔内へ吸入さ れるとは限らないため,薬効が弱まる可能性があ る.いずれにせよ高齢者や子供にとってはタイミ ングを合わせることが難しい.そこで,前述した ように,吸入補助具であるスペーサーを取り付け る方法がある. DPIタービュヘイラーや DPI ツイストヘイラー は吸入口が先端部へすぼむ細長い円筒形になって いため,吸入口を咥える際,同様に口もすぼむこ とで吸入力が通常より弱まる可能性がある.しか しながら,次に述べる DPI ロタディスク・DPI ディスカスよりは吸入が容易である.DPI ロタ ディスクは,吸入口は楕円筒で,口で咥えやすい 形になっているため,吸入は容易である.DPI ディ スカスは,吸入口は浅く,口の横幅長さと同等の 楕円形をしているためしっかり吸入口を咥えてお かなければ,息を吸った際に口と吸入器具との隙 間からステロイドが漏れる可能性がある.また, 吸入口が咥えにくいことで吸入力が通常より弱ま る可能性もある.さらに両者とも DPI タービュ ヘイラー・DPI ツイストヘイラーよりは吸入口が 咥えにくい形状である.以上より DPI ロタディ スク・DPI ディスカスにおいては,吸入口が咥え にくい形状であることが,嗄声発現頻度の高い原 因の 1 つであると考えられる. 一方,平均粒子径の違いは主薬となるステロイ ド製剤に使用される添加物(乳糖等)の配合量の 違いからくるものである.最も嗄声発現頻度が高 いのは FP であった.FP の平均粒子径はほかのス テロイドと比較して,約 2~5 倍と大型である(表 1).粒子径が大型であると,より肺の深部へと 到達する薬剤の割合が減少し,声帯付近に滞留す る割合が増加するため,粒子径が大きいと嗄声発 現頻度が上昇すると考えられる.一方,BUD・
MFに関しては対象となる BDP より平均粒子径 が大型であったにもかかわらず,嗄声発現頻度は BDPよりも低かった.これは各薬剤の性質・作 用機序の違いに因るものと思われる.15) BDPは, 気管支および肺のグルココルチコイド受容体と結 合し,気道の慢性炎症を抑制すると言われている (キュバールTM インタビューフォーム,大日本住 友製薬株式会社,2011 年 7 月改訂(改訂第 14 版)). 一方 BUD は,気道局所において,不活性な脂肪 酸エステルから細胞内リパーゼの作用により,活 性 BUD が 遊 離 さ れ る( パ ル ミ コ ー ト® イ ン タ ビューフォーム,アストラゼネカ株式会社,2011 年 11 月(改訂第 9 版)).そのため,平均粒子径 が BDP よりも大きいことにより口腔内に付着し やすいが,付着した段階では活性体ではないため ステロイド作用を示さず,嗄声が発現しにくかっ たと考えられる.また,MF も BDP より嗄声発 現頻度が低かったことについて,BUD 同様作用 機序の観点から解明することができると思われた が,嗄声発現に何らかの関係性があると思われる 機序を特定することはできなかった.16)Yangらの 報告17)によると,MF を含有する DPI ツイスト ヘイラーは,吸気流速にかかわらず薬剤が安定し て放出されると言われている.そのため,ステロ イドよりもデバイスによる影響が大きく現れてい るのではないかと考えられる.また,CIC で嗄声 を発現した症例報告は得られなかった.これに関 しても CIC の作用機序が関係してくるものと考 えられる.18)CICは肺内のエステラーゼによる加 水分解後,活性型 CIC となり作用を発現する. そのため,たとえ喉頭に付着したとしても,不活 性型であるために嗄声が発現しにくいと言われて いる(オルベスコ® インタビューフォーム,帝人 ファーマ株式会社,(2011 年 4 月改定(改訂第 4 版)).従って,本調査においても CIC の使用者 に嗄声発現者がいなかったことから,CIC は患者 の生活の質(quality of life: QOL)を著しく低下 させることなく治療効果を発揮する薬剤であると 思われる. LABAを製剤中に含有する薬剤において,FP を含有する pMDI エアゾールにおいて嗄声発現症 例がなかった.DPI タービュヘイラーにおいては 使用総数 108 人であったが,LABA との合剤を使 用した症例がそのうちの 13 名のみと少数であり, また,嗄声発現症例はなかった.DPI ディスカス においては,症例数が少ないものの LABA との 合剤のほうが嗄声発現はやや少ない傾向にあっ た.以上より,LABA との併用薬による嗄声発現 への影響は極めて少ないと考えられる.しかし合 剤処方とすることで使用する薬剤を 1 本で賄える ことから,患者の吸入コンプライアンスが向上す るという大きな利点がある.今後各薬剤の使用症 例数をさらに増やし統計解析ができるならば,結 果により単剤処方・合剤処方のどちらを推奨した ら良いのか,患者の生活習慣・ライフスタイルな ども考慮したうえで判別可能であると予想できる. 以上の結果・情報を考慮し,年代,うがいの有 無,喫煙などの嗄声発現に影響すると思われる要 因に加えて吸入器具の種類を独立変数とし,嗄声 発現を目的変数とする多変量解析を試みた. MDIエアゾールに対する嗄声発現のオッズ比 は DPI ディスカスが 5.52,DPI ロタディスクが 4.38 と有意により高かった.しかしながら,DPI ター ビュヘイラーは0.98,DPIツイストヘイラーは0.94 で嗄声発現に影響は認められず,吸入器具別単独 での解析(図 2)よりも DPI ディスカス・DPI ロ タディスクの嗄声発現への影響がより明らかと なった. うがいは嗄声発現に寄与しないという結果と なった.通常うがいをする際は咽頭までしか漱ぐ ことができない.吸入ステロイド薬を吸入すると, 薬物が喉頭より奥まで届いて付着するため,うが いでは付着した薬剤を十分取り除くことは不可能 であるとされている.13)以上から程度や頻度にか かわらず,嗄声発現頻度の違いにうがいは関係な いと考えられ,前述した通り薬剤の平均粒子径の 違いからくる口腔内付着率の差により嗄声発現頻 度に差が表れるものと考えられた.しかしながら, 一般的には吸入後うがいをすることで,吸入ステ ロイド薬による嗄声発現の原因の 1 つである口腔 カンジダ症を抑制できると言われている.19)口腔 カンジダ症は,口腔・咽頭粘膜にステロイドが付 着することで粘膜局所の免疫力が低下し,カビの 一種であるカンジダが生えやすくなることで発現
するが,本調査においては,口腔カンジダ症を発 症した例数が 11 例と少なかったため,正確な統 計解析には至らなかった.しかし,11 例中 5 例 が嗄声を発現し,口腔カンジダ症は高率で嗄声を 発現させるという結果となった.ただしそれら 11例のうがいの有無について,嗄声発現者と非 発現者の間に大きな違いはなく,本調査において, うがいが口腔カンジダ症発症例において嗄声発現 を抑制させるという結論を導き出すことはできな かった. 喫煙に関しては,有意性はみられなかったが非 喫煙者(527 名)に対し喫煙者(39 名)は約 4.2 倍嗄声が発現しやすいという結果になった.喫煙 により嗄声の発現率が上昇したとされる報告もあ り,20)常識的に考えても喫煙習慣が嗄声発現に影 響を及ぼすことは明らかであろう.21)一方,本調 査における性別要因による解析では,男性のほう が嗄声発現頻度は高くなる傾向にあった.本調査 のうち,性別に関しては女性より男性の嗄声発現 頻度が高かった.これは喫煙率が女性 4.31%(15 名)に対し男性 11.82%(24 名)だったことから, 男性の嗄声発現頻度が高くなったと考えられた. このことから,多変量解析において,性別は喫煙 習慣の交絡因子であることは明らかであるので, 喫煙のみを独立変数とした.また,女性に対し男 性の生活習慣が関与している可能性も考えられ る.22)特に男性は吸入ステロイドの使用の有無に かかわらず仕事により比較的飲酒の機会が多いと 思われる.23)本調査において就労についてのアン ケートはとっていないが,男性の就業年代に属す る例数は全体の約 6 割を占めていたために,全体 として男性に飲酒者が多くなり女性よりも嗄声発 現頻度が高くなったと考えた.また,嗄声発現時 の飲酒や喫煙の期間なども嗄声発現率に影響を及 ぼすことも考えられるが,本調査においては不明 である.従って,嗄声発現時の嗜好品使用頻度が どの程度影響を与えるのか,検討の余地がある. 本調査の結果より,嗄声発現には喉頭付着率が 大きく関与している可能性が示唆された.従って, ステロイド薬の咽頭付着を極力回避するため,次 に述べるような各製剤の利点・欠点を踏まえて, 患者個々に適した特色・吸入方法を持つ製剤を選 択し,それに適した服薬指導が重要である.エア ゾール剤である pMDI 製剤は喉頭に薬剤が付着し 難いが,エアゾール噴霧に合わせた吸入動作をす る必要があるため,高齢者や子供にはタイミング が難しい.吸入補助具であるスペーサーを取り付 けると,通常の呼吸で容易に吸入できるようにな る.一方ドライパウダーである DPI 製剤は,各 個人が乾燥粉末を吸い上げるため吸入のタイミン グを合わせる必要はなく自分のタイミングで吸入 できるが,十分な吸気力が必要であり,特に乳幼 児では使用が困難である.24)そのため,使用方法 に関しては薬剤師の適切な吸入指導が鍵となって くる.また,同一のデバイスを用いているのにも かかわらず,嗄声が発現していない症例も多数存 在する.ここで,吸入口をしっかりと咥えること で嗄声発現の抑制も示唆されるため,服薬指導時 に患者が適切に咥えられているのかも,薬剤師が 注意して確認するべき項目として推奨したい.ま た,嗄声が発現した場合には,吸入手技をチェッ ク・指導したうえで,場合によっては薬剤やデバ イスを変更していく対応が求められてくる. また,吸入ステロイド薬の使用により発現する 嗄声は,使用薬剤の切替え・中止により回復する 副作用であることを患者に伝え,不安を与えるこ とのないよう十分配慮した服薬指導を心掛けるべ きである.一方,嗄声は吸入ステロイド薬の副作 用であると安易に判断することはできない.重度 の喘息を発症している患者では,度重なる咳によ る一時的な嗄声も発現することから,吸入ステロ イド薬を継続して使用してもらうように指導を行 うことも必要である.25)
利益相反
著者らは本稿作成に際し,開示すべき利益相反 はない.引用文献
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