よさこいにおける鳴子打撃音の評価
Estimation of Naruko Impact Sound at Yosakoi
1W110517-6 持舘 邦彦 指導教員 及川 靖広 教授
MOCHIDATE Kunihiko Prof. OIKAWA Yasuhiro
概要:よさこいのコンテストには「鳴子打撃音の一致」という審査項目があり,打撃音の到来情報が分かれば審査に おける評価や練習の向上が期待できる.そこで本研究では到来時刻と到来方向の推定を行い,鳴子の評価システムの 構築を目指した.この研究では,観測信号を線形結合モデルで表し,「観測音源内における打撃音の到来時刻はスパー スである」という事前情報を用いた.そしてLASSOによるスパース性を考慮した最小二乗推定によって,観測信号 の最小化と到来時刻のスパース化を同時に行った.また,複数のマイクロホンに到来した信号の時間差から,到来方 向を推定した.
キーワード:鳴子,スパース,LASSO,時刻推定,方向推定
Keywords: naruko,sparse,LASSO,Estimation of time delays,Estimation of direction
1.
ま え が き
よさこいにおいて,鳴子を鳴らすことは重要な演技表 現のうちの1つである.全国的に行われるコンテストに おいて「鳴子の打撃音が揃っているか」という審査項目 があるが,審査は主観的な判断で行われている.そこで,
打撃音の到来時間差を定量的に推定するシステムがあれ ば,公正な判断ができると考えた.また打撃音の到来方 向を検出することで,チームで鳴子打撃音の一致を目指 す練習の支援に繋がると期待できる.
そこで本研究では,複数のマイクロホンに到来する信 号の時間差から到来時刻と到来方向の推定を同時に行い,
鳴子の打撃音の評価システムの構築を目指す.
2.
線形結合モデルとスパース推定
すべての鳴子の打撃音を単一の打撃音で良好に近似で きると仮定した場合,1つの打撃音a0に対し時間を1サ ンプル遅らせた打撃音をa1,tサンプル遅らせた打撃音 をatとすると,観測信号bは
b=x0a0+x1a1+x2a2+…+xtat
=∑
i
xiai (1)
と表すことができる.ここでxiはiサンプル遅らせた音 源が信号bに含まれている大きさを表す係数とする.
このモデルを用いて観測信号bを近似すると
min
x ∥Ax−b∥22 (2) となる.ここで,aiをまとめた行列をA,xiをまとめ たベクトルをxとしている.しかし,これでは観測信号 内の雑音にオーバーフィットしてしまい,雑音の影響を 大きく受けることがある.
そこで,雑音に左右されない頑健な解を得るのに有用 な方法として,最小二乗項とℓ1正則化項を併せ持つ定式 化であるLASSO
minx ∥Ax−b∥22+λ∥x∥1 (3) を用いる[1].ここで,∥ · ∥pはℓpノルム,λは最小二乗 項と正則化項との相対的な重要度を調節するパラメータ である.ℓ1ノルムには値の小さい係数をスパースにする という特徴がある.本研究では,時間をずらした信号を まとめた行列と観測信号をLASSOによって比較し,非 ゼロ係数がどの時刻に表れるかを調べ,観測信号に含ま れる音源の到来時間差を導き出した.
3.
単一の鳴子の基底生成
到来時刻推定の前に,単一の鳴子打撃音の主となる波 形を導き出すため,打撃音の測定と主成分の分析を行っ た.その結果図–1のような基底を得た.以降の実験では,
この基底を式(1)のatとして用いる.
4.
到来時刻推定
LASSOによってスパースな到来時刻を求めることで,
正確な時間推定ができるか評価実験を行った結果を表–1 に示す.これより,スパースを導く最小二乗推定によっ て正確な到来時刻推定ができることが確認できた.
0 5 10 15
time [ms]
図–1 主成分分析を用いて得た基底打撃音
表–1 合成音それぞれの信号の時間差と推定時間差 合成信号の時間差[ms] 推定時間差[ms]
第1ピーク 0.0000 0.0000
第2ピーク 0.5669 0.5669 第3ピーク 1.7007 1.7007 第4ピーク 3.9683 3.9683
0 1 2 3 4
time [ms]
推定結果 雑音無しでの推定結果
図–2 SN比-5 dBの雑音を加えた合成音の到来時刻推定
表–2 実角度と実角度に対する推定角度の誤差 実角度 推定角度誤差[◦]
a+b a+b+c
スピーカa 0 1.104 5.530
スピーカb 10 1.133 10.369
スピーカc 22 - 6.072
次に,実際の鳴子打撃音に対して推定実験を行った.3 章で録音した100個の打撃音の中から,鳴子打撃音を無 作為に3つ(a,b,c)選び,合成音を作成した.
実環境を想定し,合成音に0 dBから−10 dBまで5 dBずつのSN比をとるようにホワイトノイズを加えた.
−5 dBのときの推定結果を図–2に示す.測定結果より,
SN比が−5 dBの場合は雑音下でも雑音が無い場合と同 一の推定結果が得られた.
5.
到来方向推定
2つのマイクロホンに到来する信号の時間差tsから,
音速をc,マイクロホン間の距離をdとすると,信号の 到来角度θsは
θs= arcsin(cts/d) (4) より求めることができる.本研究では,4章に用いた到来 時間差推定のシステムを利用して到来方向の推定を行っ た.実験図を図–3に示す.はじめに,M1に対するそれ ぞれのスピーカの角度を分度器を使用して測定した結果 を表–2に示す.またスピーカ2つからの信号到来角度,
スピーカ3つからの信号到来角度を推定し,表–2にある 実測値との誤差を求めた.その結果を表–2,図–4,図–5 に示す.
測定結果から,スピーカを2つ同時に鳴らした場合は 最大5◦後,3つ同時に鳴らした場合は最大10◦前後の 誤差が検出された.これは4.2.1章の考察で述べたよう に,到来時刻推定を行うときに小さなピークが検出され にくく,本来の到来時間と異なる時間を使用して角度推 定を行ったためと考えられる.
0.2 m スピーカ a スピーカ b スピーカ c
M1 M2
3.6m θ θ
1 2
図–3 実験時の様子
-50 0 2 50
3 4 5 6 7 8
angle [°]
time [ms]
推定結果 実測値
図–4 スピーカ1+スピーカ 2の到来方向
-50 0 2 50
3 4 5 6 7 8
angle [°]
time [ms]
推定結果実測値
図–5 スピーカ1+スピーカ2 +スピーカ3の到来方向
-50 0 50
0 20 40 60 80
推定結果実測値
図–6 打撃音2つの到来情報
-50 0 50
0 10 20 30 40 50
推定結果実測値
図–7 打撃音4つの到来情報
6.
実打撃音に対する到来情報の評価
実際の打撃音に対して到来情報の推定を行った.その 結果を図–6,図–7に示す.推定結果より,打撃音2つの 場合,到来角度の誤差は最大10◦検出された.打撃音4 つの場合,図–7の推定角度から3音の検出しか出ておら ず,誤差も大きく出てしまった.これらの誤差は,到来 時刻推定時のピークの未検出,地面からの反射音などが 影響しているためであると考えられる.
7.
む す び
本研究ではまず,鳴子打撃音の到来時間差を求めた.
その結果,SN比が−5 dB以上であれば雑音下でも正 確に到来時刻の推定ができた.また複数のマイクロホン を用いて方向推定をした結果,2信号同時に鳴らした場 合は誤差が小さかった.この方法から実鳴子音を評価し た結果,打撃音2つに対してのみ誤差が小さく表れた.
今後の課題として,打撃音の数が多い場合の到来情報推 定の精度を高め,鳴子の評価システムを構築する所存で ある.
参 考 文 献
[ 1 ] R. Tibshirani, “Regression Shrinkage and Selection via the Lasso,” Journal of the Royal Statistical Society. Series B (Methodological), vol.58,no.1, pp.267–288, Jan. 1996.