AOAC公定法による食物繊維定量値の検証を目的とし た難消化性デキストリン類の消化管内動態に関する 研究
著者 近藤 位旨
発行年 2017‑12
出版者 静岡大学
URL http://doi.org/10.14945/00025256
静岡大学 博士論文
AOAC 公定法による食物繊維定量値の検証を目的とした 難消化性デキストリン類の消化管内動態に関する研究
2017 年 12 月
大学院 自然科学系教育部 バイオサイエンス専攻
近藤位旨
博 士 学 位 論 文 目 次
近 藤 位 旨
審査申請論文名 AOAC公定法による食物繊維定量値の検証を目的とした 難消化性デキストリン類の消化管内動態に関する研究
目 次
緒論 1頁 第1章 難消化性デキストリン類のin vivo小腸消化抵抗性 9頁
1. 1 緒論 10頁
1. 2 回腸-直腸吻合ラットの作成 11頁
1. 3 小腸消化抵抗性の測定を目的とした回腸-直腸吻合ラットの妥当性の評価 15頁
1. 4 回腸-直腸吻合ラットにおける難消化性デキストリン類の小腸消化抵抗性
の測定 27頁 考察 33頁 第2章 難消化性デキストリン類のin vitro小腸消化抵抗性 50頁 2. 1 緒論 51頁 2. 2 ラット小腸粘膜からの刷子縁膜小胞の調製 53頁 2. 3 難消化性デキストリン類およびアラビノース, ガラクトース, キシロース
およびマンノースからなる縮合糖のin vitro小腸消化抵抗性 56頁 考察 58頁 第3章 難消化性デキストリン類の全消化管での消化抵抗性 65頁 3. 1 緒論 66頁 3. 2 正常ラットにおける難消化性デキストリン類の消化抵抗性の測定 68頁 考察 73頁
第4章 難消化性デキストリン類の消化管内動態と排便促進作用 81頁 4. 1 緒論 82頁
4. 2 難消化性デキストリン類の排便促進作用の再評価 84頁
考察 93頁 総括 106頁 参考文献 109頁 謝辞 116頁
緒論
食物繊維は, 本邦において“ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化 性成分の総体”と定義されており, 現在ではこの定義に加え重合度3以上の不消 化性多糖も食物繊維に属するとされている 1)。食物繊維には植物細胞壁成分に 由来するセルロース, ヘミセルロース, ペクチン質, 天然芳香族化合物である リグニン (化学的実体は糖ではないが他の細胞壁成分と不可分であるため) に 加え, 現在では, 天然物から抽出・単離された, または酵素反応や化学反応を用 いて人工的に合成された難消化性の多糖類やオリゴ糖 (重合度 3 以上) などが 含まれる。本邦における食品成分分析法の多くは, AOAC 公定法 (Official
Methods of Analysis of AOAC INTERNATIONAL) が採用されており, 食物繊維
の定量も AOAC 公定法に基づいている。食物繊維の定量には AOAC 公定法と して, AOAC985.29 2), AOAC991.43 3)およびAOAC2001.03 4)等があるが, いずれ も耐熱性α-アミラーゼと細菌由来のアミログルコシダーゼによる消化を基本と
したProsky消化を用いている (別図1)。これらの定量法はProsky消化後, エタ
ノール沈殿処理を行い, この沈殿から灰分とたんぱく質を差し引いた残渣の重 量を食物繊維量としている 2)。一方, イヌリンおよびオリゴ糖や難消化性デキ ストリンなどの人工合成食物繊維は低分子であるためエタノール処理では沈殿 を形成しない, または沈殿による回収が不完全である。そのため, エタノールろ 液に含まれる重合度3以上の多糖を液体クロマトグラフィー (HPLC) で定量し, エ タ ノ ー ル 沈 殿 残 渣 の 重 量 と の 総 和 を 食 物 繊 維 と す る 酵 素-HPLC 法
(AOAC2001.03) が考案されている4)。
食物繊維は特定保健用食品 (トクホ) 素材として多くの製品に汎用されてお り, その代表に難消化性デキストリン (resistant maltodextrin, RM) やポリデキ ス ト ロ ー ス (polydextrose, PD) な ど の 難 消 化 性 デ キ ス ト リ ン 類
(digestion-resistant dextrin derivatives, DRDDs) がある。DRDDsには新規に開発さ
れた難消化性グルカン (resistant glucan, RG) も含まれる (別図2)。これらはで
んぷん, グルコースまたは水飴を酸触媒または活性炭触媒下で加熱することで 調製される水溶性食物繊維であり5-7), 平均分子量は1600-2000 程度と低分子で ある。いずれもαあるいはβ-配座からなる1,2-, 1,3-, 1,4-および1,6-グルコシド 結合を有しており, その複雑で乱雑な構造から小腸では消化を受けないとされ ている。これらの AOAC 公定法 (AOAC2001.03) における食物繊維定量値は
80-92% (dry matter basis) と高い消化抵抗性を示し, なかでもRMは低カロリー,
無色, 無臭, 酸安定性という特徴からトクホ素材で最も多くの食品に汎用され, 食物繊維市場の価値を押し上げた製品の一つであると考えられる。本邦に限ら ず諸外国でも食品基準を満たした製造法によりDRDDsのような, 所謂, 人工合 成食物繊維が開発されている。これらの人工合成食物繊維は AOAC 公定法
(AOAC2001.03) に基づけば, “小腸消化を受けない多糖およびオリゴ糖”の属性
で括れるが, 生体位での消化性の検討は不十分である5, 8, 9)。
当研究室ではこれまでハイアミロースコーンスターチ (HAS) 10) やセロビオ ース11)の経験からAOAC公定法 (AOAC985.29, AOAC2001.03) はかならずしも 生体位における不消化の実体を反映しないことを明らかにしている。我々は外 科的に回腸末端を直腸に吻合した回腸-直腸吻合ラット (大腸切除ラット) を用 いてHASおよびセロビオースのin vivo小腸消化抵抗性を測定している。AOAC 公定法 (AOAC985.29) によれば, HASの食物繊維定量値はでんぷんのアミロー ス含量に伴って増加するが, 回腸-直腸吻合ラットで推定した in vivo 小腸消化 抵抗性はこの関係を支持せず, でんぷん粒子の相対表面積と結晶性がHASの不 消化性を決定づける主要因であることを明らかにしている 10)。HAS に限れば, アミロース含量70%前後のとき小腸消化抵抗性は最大になる。セロビオースに
おいてもHASと同様にin vivo推定値はAOAC公定法 (AOAC2001.03) での定
量値と乖離するが, この原因はセロビオースを構成する β-1,4 結合が小腸刷子 縁膜に存在するラクターゼにより消化されることによる11)。哺乳類における炭 水化物の小腸消化は, 膵外分泌酵素に含まれる α-アミラーゼによる管腔内消化
と, 小腸上皮細胞膜に存在するスクラーゼ・イソマルターゼ複合体, β-グルコア ミラーゼ・マルターゼ複合体やラクターゼなどの糖分解作用の異なる膜消化酵 素が複合的に作用する接触消化からなる12)。一方で, Prosky消化を基本とする AOAC公定法 (AOAC985.29, AOAC2001.03) はでんぷんの完全除去を目的に耐 熱性α-アミラーゼと細菌由来のアミログルコシダーゼによる酵素消化が行われ ているが, この消化法が接触消化 (膜消化) を十分に反映しているか, 否かは 考慮されていない。おそらく, 人工合成食物繊維の多くは, 結果としてこの公定 法の欠点を利用した疑似食物繊維である可能性が高い。意外なことに, 我々は
DRDDsをラットに経口投与したとき, 有意な血糖・インスリン応答を観察して
おり, 血糖およびインスリン応答曲線下面積を比較するといずれもグルコース
投与時の30-40%に相当していた (別図3) 13)。これらの結果はAOAC公定法で
の食物繊維定量値からは説明することができない。なぜなら, RM, PDおよびRG
など DRDDs の AOAC 公定法 (AOAC2001.03) による食物繊維含量, いいかえ
れば小腸消化抵抗性は80%を超えており, 可消化部分は20%を下回ることにな るからである。つまり, 現行の AOAC 公定法 (AOAC2001.03) による食物繊維 定量値には, 過大評価の疑義が持たれる。もし, これが事実であれば, 現在推定 されている DRDDs のカロリー値や製 品 上の成分表示にも 疑 問がもたれ,
DRDDs で報告されている様々な生理作用の解釈にも再検討が必要になってく
る。
本研究では, AOAC 公定法による食物繊維定量値の検証を主目的とし, 人工 合成食物繊維として最も汎用されているRMおよびその類縁化合物の消化管内 動態 (小腸消化性および大腸発酵性) を詳細に検証した。第 1 章では, 回腸-直 腸吻合ラットにおける小腸消化抵抗性測定の妥当性を検討した後, DRDDsの生 体位における小腸消化抵抗性の測定を行った。第 2 章では, ラット小腸粘膜か ら調製した刷子縁膜小胞を用いた人工消化法によりDRDDsのin vitro小腸消化 抵抗性を測定した。第3章では, 正常ラットを用いDRDDsの全消化管消化抵抗
性を測定するとともに, これらを摂取したときの内臓脂肪量, 血中脂質および 盲腸内短鎖脂肪酸濃度への影響を検討した。1, 2章の結果を合わせ, DRDDsの 小腸消化抵抗性の実体を考察し, 1-3章からDRDDsの全消化管内の動態を明ら かにすることで, これらのカロリー値を推定した。
ところで, RM は排便量の増加作用 14)およびプレバイオティクス特性 (ビヒ ィズス菌誘導能) 15) などの生理作用を有するとされ, トクホの健康強調表示と して「おなかの調子を整える」が認められている。食物繊維の排便促進作用に 関しては, 英国海軍医である Burkitt らの疫学調査が古典として有名である 16)。 彼らは居住地域や人種の違いから食物繊維摂取量が異なると推定される3つの グループを対象に大規模調査を行い, 排便量と消化管通過時間の関係を調べた ところ, 排便量と消化管通過時間の間には負の相関があることを見出し, この 排便量の違いは食物繊維摂取量の違いによると推定している。近年, McRorieら は食物繊維の排便促進効果について排便量, 便の水分含量および腸内容物通過 時間など客観的指標を測定した臨床試験結果のみを抽出し, システマティック にレビューしたところ, 食物繊維が排便促進効果を発現するには以下の条件を 満たす必要があると結論づけている17)。すなわち, (1) 一定の嵩を持ち, 機械的 に腸粘膜を刺激する不溶性でかつ難発酵性の性質を持つこと。(2) 非発酵性で 粘性またはゲル形成能を有し, 大腸通過時に水分を保持する性質を持つことで ある。いずれも大腸において腸内細菌による完全分解を逃れ, 大半が糞便中に 排泄される食物繊維にだけ可能な特徴である。これらを勘案すれば, 水溶性で かつ発酵性の高いRMで報告されているラットおよびヒトにおける排便促進作
用14, 18)は極めて不可解である。そこで, 第4章では, 正常ラットにDRDDsを摂
取させ, そのときのDRDDsの糞中排泄量, 糞便性状および消化管通過時間を測 定することでDRDDsの排便促進作用を再評価した。
本研究の最終目的は, 現在, 世界基準として用いられている AOAC 公定法に よる食物繊維定量の重大な欠点を指摘すると同時に, その改良法を提案するこ
とにある。
AOAC Method 985.29 and AOAC 2001.03 * HPLC condition Column : ULTRON PS-80N, φ 8.0 mm× 300 mm Column temperature : 80 °C Mobile phase : distilled water Flow rate : 0.3 mL/min Detector : refractive index Injection vol. : 100 µL
Sample 1 g Filtration Residue Ash and protein corrections Dietary fiber
Thermo-stable α-amylase (pH 6.0, 100°C, 30 min) Protease (pH 7.5, 60°C, 30 min) Amyloglucosidase (pH 4.3, 60°C, 30 min)
50 mL of 80 mM phosphate buffer Filtrate Evaporation Desalting by ion exchange column Determination of polysaccharides (DP3 or more) by HPLC*
1.0 mL of 5% glycerin solution
95% Ethanol solution 別図 1 AOAC 985.29およびAOAC 2001.03の実験手順
AO AC985.29はProsky消化後, エタノール沈殿処理を行い, この沈殿から灰分およびたんぱく質を差し引いた残渣の重量を食物 繊維として定量している。難消化性デキストリンや難消化性オリゴ糖ではろ液中の重合度3以上の多糖をHPLCにより測定し, AOAC985.29の残渣重量とろ液中の重合度3以上の多糖の総和を食物繊維としている。
HPLC profiles of RM and maltotoriose ↓DP 3 (maltotoriose)
DP≧3 area
Det ector res ponse
Retention time, min 0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30 33
Prosky digestion
RM ↓
別図2 難消化性デキストリン (A), ポリデキストロース (B) および難消化性グルカン (C) の推定構造5-7) 難消化性デキストリン類 (DRDDs) は難消化性デキストリンおよびポリデキストロースに加え, 新規に開発された難消化性グルカ ンが含まれる。これらはでんぷん, グルコースまたは水飴を酸触媒または活性炭触媒下で加熱することで調製される水溶性食物繊 維であり, 平均分子量は1600-2000程度と推定されている。いずれもα/β-配座からなる1,2-, 1,3-, 1,4-および1,6-グルコシド結合を有 しており, その複雑で乱雑な構造から小腸では消化を受けないとされている。
B
O OH
CH2O OO OH
CH2OH OH OO OH
CH2OH OH OO OH
OH O OH
CH2OH OH OO O
CH2OH OH O
O OH
CH2OH OH O
O
O OH
CH2OH OH O HO
O O OH
OH
O OH
CH2OH OH HO HO
O
O OH
CH2OH OH HO O OH
CH2OH OH OO OH
CH2OH OH OO OH
CH2OH OH HO
CH2
CH2 OO OH
OH
O OH
CH2OH HO
O CH2 O O OH
O OHO HO
O CH2 O O OH
CH2OH OH OO OH
CH2OH OH HO
O OH
OH
O OH HO
O CH2 OH R
O OH
CH2OH O CH2
HOOH HO
O OH
CH2OH O CH2
HO O OH
OHCH2OH CHOH
OH HO OOH
OO OH
CH2OH O OH
CH2 OOCH2OH HO
O OH
CH2 O
OH
O HO
O OH
CH2OH O OH
CH2
O HO O OH
CH2 HO
OH
O HO
O OH
CH2OH O
CH2 O HO
O OH
CH2OH O OH
CH2OH HO
O HO
O OH
CH2
OH
O HO
O OH
CH2OH HOOH OH OH OH
OHOH OH OH
O O O
A C
別図3 グルコース, RM, PD, RGまたは生理食塩水投与後の血漿中グルコース (A), インスリン (B) 濃度および血漿中グルコース (C), インスリン (D) 応答曲線下面積
20 時間の絶食後, 20%グルコース, RM, PDまたはRG溶液 (投与容量1000 mg/kg 体重) または生理食塩液をラットに経口投与した。 Values are means ± SEMs, n = 5.
Glucose RM PD RG Saline
B
Time (min)0 6 10141822 0 306090120Plas ma i nsul in, pm ol/L
Glucose RM PD RG Saline
Plas ma gluc ose, mmol
/L
A
0 6 8 1012 0 306090120 Time (min)a a b b b b b b c b 0
100
200
300
400 Glucose RMPDRGSaline
AU C of plas ma gluc
ose, L in/ ・120m mmol
bb b
a c
C D
02000
4000
6000 Glucose RMPDRGSaline
AU C of plas ma ins
ulin, L min/ ・120 pmol
a b b c
b
第 1 章 難消化性デキストリン類の in vivo 小腸消化抵抗性
第1節 緒論
たんぱく質の小腸消化率は, 全動物の窒素摂取量と糞中窒素排泄量の差し引 きから求めることができる。なぜなら, 大腸に流入した未消化のたんぱく質が腸 内細菌によって分解されても, アミノ態窒素として菌体に固定され糞中に排泄 されるからである。でんぷんなどの炭水化物は, 小腸での消化を免れ, 大腸に到 達すると細菌による発酵を受けるため, この過程で有機酸やガス (CO2, H2) に 変換され, 宿主の腸管から吸収, または呼気中に放出されてしまう。そのため, 全動物では大腸に流入する不消化性の炭水化物, つまり, 食物繊維を定量する ことはできない。一方, ヒト (哺乳類) が食事として摂取し, 小腸で消化できる 炭水化物は基本的にでんぷんである。食品の食物繊維含量は酵素消化によりで んぷんを完全に除去した後, 不消化残渣として定量される高分子多糖類の量か ら推定されており, この方法がAOAC公定法で採用されている食物繊維定量法 の基本概念である。
生体位における食物繊維の定量, すなわち, 小腸消化抵抗性は, 回腸造瘻術を 施された患者 19)や回腸末端にカニューレを挿管したブタ 20)などの小腸通過物 を採取することで可能である。我々は, 外科的に回腸末端を直腸に吻合した回腸 -直腸吻合ラット (大腸切除ラット) を用いてHAS 10)やセロビオース 11)の生体 位における小腸消化抵抗性を検討してきた実績がある。一方, このモデルラット では, 糞の定量回収性を高める目的で直腸を一部温存しているため, 排便反射 が機能する。その結果, 小腸内容物の滞留 (小腸通過時間の延長) や直腸に残存 する細菌による被験素材の実状を上回る消化 (分解) が予測される。特に細菌に よる分解は, 重合度の異なるフラクタンの細菌資化性に関する報告 21)にもある ように, 重合度が低い難消化性オリゴ糖類の場合 (DP<10), 細菌に分解されや すく, 注意が必要である。第1章ではDRDDsのin vivo小腸消化抵抗性を明らかに することを目的とした。初めに, 回腸-直腸吻合ラットの作成方法を紹介する。
次に, このモデルラットの出納試験で予測される正あるいは負の誤差について
検討し, その特性を明らかにすることで, このモデルラットで得られる結果の 妥当性とともに, 本モデルの効用と限界を明らかにした。その後, モデルラット にDRDDsを添加した飼料を与え, 出納試験を行いDRDDsのin vivo小腸消化抵抗 性を測定した。なお, 本章における動物実験は, 静岡大学動物実験管理委員会に おいて定められた「動物実験に関する指針」に則って実施した。(approved No.26-14, 27-14)
第2節 回腸-直腸吻合ラットの作成
実験方法 (1) 実験動物および飼料
5 週齢のSprague-Dawley (SD) 系雄ラット (体重130~150 g; 日本SLC㈱) 18 匹
を用い, 室温23 ± 2ºC, 相対湿度45~55%, 12 時間の明暗周期 (7:00に点灯) の条 件下, ステンレス製ケージ内で個別飼育し, 体重および飼料摂取量は毎日記録 した。試験飼料には, AIN-76組成を基本とし, 65.25%コーンスターチ, 25%カゼイ ン, 5%コーンオイル, 3.5%ミネラル混合物, 1%ビタミン混合物, 0.25%酒石酸コリ ンで構成されたものを標準飼料として用いた。ラットは搬入後, 飼育施設への馴 化と搬入後の回復を目的に標準飼料で4-5 日間予備飼育を行った。
(2) 手術手技
回腸-直腸吻合ラットの作成はLambertらの方法 22)を一部改変し行った。なお, ラットの消化管手術手技の基礎については宮田らの方法 23)を基本とした。ラッ トは一晩絶食後, 麻酔し (ペントバルビタールナトリウム 50 mg/kgの腹腔内投 与), 深麻酔状態であることを確認した後, 回腸-直腸吻合術に供した。なお, 手術 は2 日間に分けて行った。術式はFigure 1に示したように以下の手順で実施した。
①腹部を広範囲に剃毛する。
バリカンで術野周囲の体毛を刈った後, カミソリで剃毛する。人工肛門を作成 する左腹壁は術野よりも広く剃毛する。
②術野を1%ヒビテン溶液で消毒する。
③皮膚, 腹筋の順に正中線に沿って切開する (後ろ足の付け根から肝臓の下近 くまで)。
④開腹器で腹部を開け, 処置部位の視野を確保する (Figure 1, 左)。
⑤胸部にコットンパフを置き, この上に盲腸をのせ, 小腸と腸管膜動静脈二か 所を結紮する (Figure 1, 中央上)。なお, 小腸側は血管のみ, 盲腸側は小腸ごと 血管を結紮する。
⑥結紮部位の間を小腸ごと切断する。
⑦小腸の内容物を切断部位 (A) から除去する (Figure 1, 中央上)。
綿棒を小腸の上で転がすようにして行う。
⑧結腸と直腸の間の結腸動静脈二か所を結紮する (Figure 1, 中央下)。
⑨結紮部位の間を結腸ごと切断する。
⑩回腸末端部 (A) を直腸断面 (B) に吻合する (Figure 1, 右上)。
吻合部は4番が回腸と直腸の腸間膜側になるように合わせる。1, 2番では糸を 管腔内に通し, 縫い合わせる。このとき, 1, 2番は縫合糸を3~4 cm程度残す。糸 にクレンメを付け, クレンメを体外へ出すことで, 吻合部位が固定され, 作業 がしやすくなる。次に, 3, 5, 8, 4, 6, 7の順で縫い合わせる。このとき, 3, 4では, 糸は結腸の管腔内, 回腸は筋層を通す。5~8では結腸, 回腸共に糸は筋層を通 す。なお, 4, 6, 7を縫うときは縫合糸に付けたクレンメの左右を入れ変えるこ とで処置部位を術者に向けることができる。
⑪ラット左腹壁にイヤーパンチャーで穴をあける。
皮膚はイヤーパンチャーの跡に沿って切開する。
⑫結腸 (C) の切断部位を腹壁に吻合し, 人工肛門を作成する (Figure 1, 右下)。
1~8の順番で縫い合わせるが, 1~4では, 糸は筋層と皮膚に通す, 5~8では糸は皮 膚のみを通し, 縫い合わせる。
⑬生理食塩水 (37°C) で腹腔内を洗浄する。
腹腔内に生理食塩水を注いだ後, キムタオルを敷いたトレイにラットをうつ ぶせにすることで, 生理食塩水を排出し, 血餅などを除去する。腸の切断部位 からの出血が多い場合2-3 回行う。
⑭吻合部2か所 (回腸-直腸吻合部, 結腸と腹壁の吻合部) にスルファメトキサゾ ールを小量塗布する。
⑮腹筋, 皮膚の順に縫合する (腹筋縫合部にスルファメトキサゾールを塗布す る)。
⑯マイシリンゾル (50 μL/rat) を後ろ足の筋肉 (臀部) に投与する (筋中投与)。 細菌による感染予防を目的に, 術後4日間はマイシリンゾル (50 μL/rat) を投 与する。
⑰翌日まで絶食絶水を保ち, 翌日の朝から飼料 (繊維質を含まない) および飲料 水を与え, 回復するまで飼育を行う。
なお, 手術に用いた器具および資材は以下にまとめたとおりである。
手術器具
ハサミ (大) ‐皮膚, 筋肉の切開用, 外科剪刀14.5 cm ハサミ (小) ‐ 消化管切断用, 眼科剪刃
ピンセット (大) ‐ 開腹用
ピンセット (小) ‐ 縫合用, 先の曲がったタイプ 丸ピンセット (先端大) ‐ 臓器を触る場合に用いる 丸ピンセット (先端小) ‐ 臓器を触る場合に用いる 有鈎ピンセット‐ 筋肉などを掴む場合に用いる 動脈クレンメ (1組) ‐ 縫合糸の保持固定
持針器 開腹器
イヤーパンチャー‐腹部に人工肛門用の穴を開けるために用いる 外科針 (湾曲角針, 針17 mm) ‐皮膚および腹筋縫合用
眼科手術用糸付き針 (エルプ針, 針11 mm, 秋山製作所) 縫合用絹糸4号‐皮膚縫合用
縫合用絹糸2号‐腹筋縫合用
プラスチックトレイ‐手術はこの上で行う
消耗品 (剃毛用用具以外はオートクレーブによる滅菌処理を行う) 綿棒
化粧用コットンパフ キムタオル
剃毛用用具 (I字のカミソリ, バリカン) 生理食塩水 (0.9%NaCl溶液)
消毒液
70%エタノール ‐ 術者の手指やトレイなどの消毒用
0.1%ヒビテン溶液 ‐ 手術器具の消毒用 マーキュクロム液 ‐ 皮膚消毒用
殺菌剤および抗生物質
スルファメトサキゾール(塩野義製薬) ‐ 吻合部の殺菌剤 マイシリンゾル (明治) ‐ 抗生物質
手術器具の消毒
剪刀, ピンセット, 縫合用の糸および針などの器具は1%ヒビテン溶液に30 分 間以上浸した後 (殺菌処理) , 手術に用いる。また, 手術中, 器具は可能な限り
1%ヒビテン溶液に浸し, 消毒状態を保つようにする。
結果
回腸-直腸吻合術前後の飼料摂取量および体重の変化
ラット搬入から回腸-直腸吻合術および回復期間までの体重変化はFigure 2に 示した。体重は術時侵襲に加え, 手術前日から手術翌日にかけて2 日間絶食して いるため, 手術直後の体重は大幅に減少しているが, 体重は術後2 日目から回 復を示し, 回復期間後半にはすべてのラットで8 g/day前後の体重増加を示した。
また, 飼料摂取量も体重変化と同様に, 回復期間後半では手術前と同等の20
g/day前後にまで回復した。ラットは術後8 日目で術前と同様の成長を示すこと
がわかった。
第3節 小腸消化抵抗性の測定を目的とした回腸-直腸吻合ラットモデルの妥当性 の評価
実験方法 (1) 被験素材
被験素材には難消化性デキストリン(Fibersol®-2, 松谷化学工業㈱, RM), ポリ デキストロース (Litesse®, ダニスコ・ジャパン, PD), 難消化性グルカン (日本食
品化工㈱, RG) およびRGと同様の活性炭触媒法 6)で調製されたアラビナン, ガ
ラクタン, キシランおよびマンナンを用いた。
DRDDs, アラビナン, ガラクタン, キシランおよびマンナンの食物繊維量の定
量
別図 1に示したAOAC2001.03 4)に従い, 被験素材の重合度3以上の多糖量
(DP≧3多糖) をHPLCで定量し, 食物繊維量とした。なお, この方法では原法のエ
タノール沈殿処理を行っていない。予備検討の結果, エタノール沈殿処理後の残 渣重量とエタノールろ液中のDP≧3多糖量の総和は, エタノール沈殿処理をせず に得たろ液中のDP≧3多糖量と一致することから, この処理は省略している。分 析操作の詳細は以下に示したとおりである。
被験素材1.0 g前後を正確に秤取り, 500 mLトールビーカーに移した。この中に
50 mLの0.08 M リ ン 酸 緩 衝 液 (pH6.0) を 加 え た 後, 耐 熱 性α-ア ミ ラ ー ゼ
(Novozymes, 120L) 0.1 mLを加え, アルミホイルで蓋をして沸騰水中30 分間反
応させた (5 分ごとに撹拌) 。反応終了後, 溶液を常温に戻し, 0.275 Nの水酸化
ナトリウム溶液でpHを7.5 ± 0.1に調整した。続いて60ºCで5 分間の予備加温後, プロテアーゼ (Sigma, P3910) を含むリン酸緩衝液 (プロテアーゼ50 mg/mL) 0.1
mLを加え, 振盪させながら60ºCで30 分間反応させた。反応終了後, 溶液を常温
に戻し, 0.325 Nの塩酸溶液でpHを4.3 ± 0.2に調整した。次いで再度60ºCで5 分間 予備加温後, アミログルコシダーゼ溶液 (Sigma, A-9913) 0.1 mLを加え, 振盪さ せながら60ºCで30 分間反応させた。反応終了後, 予め約1.0 gのセライトでろ過 層を形成したガラスろ過器で吸引ろ過し, ろ液を蒸留水で250 mLに定容した。こ
こから100 mL採取し, 内部標準物質として5% (w/v) グリセリン溶液1 mLを加
え, エバポレーターで濃縮後, 蒸留水で40 mLに定容した。ここから5 mLを採取 し, カラムクロマトグラフィー (カラム, ガラス管, φ15 mm x 10 mm; 充填剤, イオン交換樹脂 5 mL (アンバーライトIRA-67 (OH型, オルガノ) : アンバーライ
ト200CT (H型, オルガノ) = 1 : 1); 溶離液, 蒸留水, 15 mL; 流量, 5 mL/h) を用い
て脱塩処理を行った。カラム溶出液は20 mLを目安に採取し, ここから1 mLをフ
ィルター (Millex®HP, PES, 0.45 µm; MILLIPORE) でろ過した後, 示差屈折検出
器 (RID-10A㈱島津製作所) を用い, HPLC (カラム, ULTRON PS-80N, φ8.0 mm x
300 mm; カラム温度, 80ºC; 移動相, 蒸留水; 流量, 0.3 mL/min; 検出器, 示差屈 折計; 注入量, 100 µL) に供した。
食物繊維量はDP≧3多糖量として以下の式よって算出した。
DP≧3多糖 (%, w/w) = DP≧3多糖 (食物繊維に相当) ピークの面積* ÷ グリセリンピークの面積 x グリセリンと構成単糖のピーク感度比** x グリセリン添加量 (g) x (250 mL ÷ 100 mL) ÷ 試 料採取量 (g) x 100
*各被験素材の構成糖から成るトリオースをHPLCで分析し, 検出された保持時間を基準にDP≧3
多糖を同定している (検出時間, マルトトリオース, 20.0 min; アラビノトリオース, 19.8 min; ガ ラクトトリオース, 19.9 min; キシロトリオース, 20.1 min, マンノトリオース, 20.4 min)。
**グリセリンとグルコース感度比は, HPLCでグリセリンとRM, PDおよびRGの構成単糖 である
グルコースの0.03125%~0.5% (w/v) 溶液を分析し, 各濃度でのピーク面積比を平均化した値を採 用している。なお, グルコース以外の単糖についても検討を行った結果, 感度比に違いがあるこ とを確認している (グリセリンとの感度比, グルコース, 0.818; アラビノース, 0.847; ガラクト ース, 0.817; キシロース, 0.882; マンノース, 0.836)。
(2) 動物試験
5 週齢のSD系雄ラット (体重130~150 g; 日本SLC㈱) を用い, 本章第2節と 同様に飼育を行い, 体重および飼料摂取量は毎日記録した。飼料は, 本章第2節 と同様の標準飼料を用い, 標準飼料に飼料中の炭水化物源であるコーンスター チとの置き換えで, セルロースを 5%添加したものを対照飼料として用いた。な お, セルロースは糞便に保水性を付与し, 糞便を定量的に回収する目的で添加 している。ラットは搬入後, 飼育施設への馴化と搬入後の回復を目的に, 標準飼 料で4-5 日間予備飼育を行った後, 以下の試験①~③に供した。
試 験 ① セ ル ロ ー ス を 指 標 と し た 糞 便 回 収 率, 難 消 化 性 デ キ ス ト リ ン 類
(DRDDs) の糞便からの抽出効率および細菌代謝活性の評価
SD系雄ラット11 匹を用い, 本章第2節の方法に従い, 回腸-直腸吻合ラットを
作成した。ラットは外科処置後, 飼料摂取量および体重増加量が一定の回復を示 した後 (群分け時, 平均体重189 ± 8 g) 体重を基準に5 匹を対照飼料群に振り分 け, 残り6 匹を標準飼料群とした。なお, 標準飼料群は糞便回収率の測定でのブ ランクを想定し設けている。ラットには標準または対照飼料および飲料水とし て抗生物質飲料 (0.1%ネオマイシン溶液) を与えた。10 日間の試験飼育を行い, 試験飼育3, 4 日目に対照飼料群の糞便を採取し, DRDDsの糞便からの抽出効率 測定のための糞便標品として用いた。また, 試験飼育4 日目に, 各群の新鮮便を 採取し, 細菌代謝活性の指標として有機酸濃度の測定を行った。試験飼育の最終 4 日間には糞便を採取し, セルロースを指標とした糞便回収率の測定に供した。
新鮮便以外の糞便サンプルは, 凍結乾燥後, ミルで粉末化した。
糞便回収率の測定
セルロースは小腸で消化吸収されることなく, 事実上, 摂取した 100%が大腸 へ流入する (回腸-直腸吻合ラットでは糞便中に排泄される)。また, セルロース
はProsky法 (AOAC 985.29) 2)でほぼ100%が食物繊維として定量される。したが
って, 摂取したセルロースの糞便回収率は, 糞便自体の回収率とみなすことが できる。そこで, 試験最終 4 日間に採取した対照飼料群の糞便中セルロースを
Prosky 法に従い分析し, セルロース回収率を求めることで, 回腸-直腸吻合ラッ
トの糞便回収率を評価した。
乾燥糞便サンプル0.5 gを用いて, 本章第3節(1)で示したAOAC2001.03と同 様の操作でProsky消化を行った (この操作はProsky法と同様である)。Prosky消 化終了後, すみやかに 60ºCに加温した 95%エタノールを 4 倍量加え, 室温で 3 時間以上放置した (エタノールの添加により最初は懸濁状態になるが, 十分放 置しておくと沈殿が生じる) 。これを予め約1.0 gのセライトでろ過層を形成し,
525ºCで灰化後, 風袋重量を測定したガラスろ過器で吸引ろ過した。沈殿を含む ガラスろ過器は 105ºC で一晩加熱 (約 16 時間) した後, 重量を測定し, ガラス ろ過器内の沈殿物中たんぱく質量および灰分量を測定した。
沈殿物中たんぱく質量はKjeldahl法24)に基づいて測定した。すなわち, ガラス ろ過器内の沈殿物全量を分解用ケルダールフラスコに移し, その中に沸騰石を3 個, 分解促進剤 (硫化カリウム : 硫酸銅 = 9 : 1) を小さじ山盛り一杯, 濃硫酸
20 mLを順次加えて混和した。その後, 電気コンロを用いて初めは300 Wで加熱
し, 粘性が弱まったところで600 Wに切り替え, 液が透明になるまで加熱した。
分解終了後, 室温まで冷却し, 氷水中で分解用ケルダールフラスコを冷やしな がら蒸留水を加え, メスフラスコに移し, 100 mL に定容したものを窒素測定用 の試料溶液とした。次に, 蒸留水50 mL, 沸騰石2 個, 0.05% (w/v) メチルレッド
-メチレンブルー・エタノール溶液 3 滴を入れた蒸留用ケルダールフラスコに,
試料溶液5 mLをホールピペットで正確に採取し混和液とした。最後に, 混和液
に30%水酸化ナトリウム水溶液を加え塩基性 (緑色) になったことを確認し, 直
ちに窒素蒸留を開始した。発生したアンモニア態窒素は20 mLの3%ホウ酸水溶 液に集め, 1/50 N硫酸で直接滴定し, この滴定値を用いてたんぱく質量を以下の 換算式から算出した。
たんぱく質量 (mg) = 0.28 (1/50 N硫酸1 mLは0.28 mgの窒素に相当) x 滴定量 (mL) x 力価 (1.00) x 100/5 (総液量に換算) x たんぱく質変換係数 (6.25)
沈殿を含むガラスろ過器は525ºCで5 時間加熱し, 灰化した。その後, デシケ ーター内で常温に戻した後, 全重量を測定し, ガラスろ過器の風袋重量との差 し引きから灰分量を算出した。
Prosky 法 (AOAC985.29) 2) による分析は, エタノール添加により得られる沈
殿から, たんぱく質と灰分を除いた残渣を食物繊維量として定量する。なお, 分
析に用いる試薬類にも食物繊維として検出される成分 (緩衝液中のミネラルと
Prosky 消化に用いた酵素のたんぱく質) が含まれているため, ブランク値とし
て差し引く必要がある。そのため, 緩衝液のみでProsky消化を行い, そのエタノ ール沈殿残渣からたんぱく質および灰分を差し引いた重量をブランクとした。
したがって, 食物繊維量は下記の式から算出される。
食物繊維含量 (%) = (残渣量 – たんぱく質量 – 灰分量 – ブランク) ÷ サンプル量 x 100
セルロース回収率は下記の式から求めた。
セルロース回収率 (%) = (セルロース排泄量* ) ÷ (セルロース摂取量**) x 100
*セルロースを含まない標準飼料を摂取した標準飼料群でも食物繊維成分が検出される。し たがって, 各対照飼料群の値から標準飼料群の平均値を差し引いた値がセルロースの排泄 量に相当する。
**標準飼料自体にも少量であるが食物繊維成分が Prosky法で検出される。そのため各飼料
の食物繊維量をProsky法で測定し, その差し引きから対照飼料中のセルロース含量を求め, 飼料摂取量に乗じセルロース摂取量を求めた。
DRDDs抽出効率の測定
試験3, 4 日目に採取した乾燥糞便粉末1.0 gに, 被験素材 (DRDDs, アラビナ
ン, ガラクタン, キシランまたはマンナン) 0.2 gを含む水溶液3 mLを添加し, 均一に懸濁した。再度, 凍結乾燥を行い, これをミルで粉末化し, 被験素材添加 サンプルとして以下の分析に供した。
サンプル0.5 gを正確に秤取り, 50 mLガラス遠沈管に移した。この中に15 mL
の蒸留水を加えた後, シェーカー (Shaker SA300, ヤマト科学㈱) で30 分間振
盪し (250 rpm/min) , 添加した被験素材を抽出した。その後, 100 x gで2 分間遠 心分離後, 上清を採取した。同様の抽出操作を計3 回行った。この上清をエバ ポレーターで乾固し, 抽出サンプルを0.08 M リン酸緩衝液 (pH6.0) 50 mLに溶 解し, 本章第3節(1)と同様にProsky消化, ろ過, 濃縮および脱塩処理後, HPLC でDP≧3多糖を分析した。なお, 被験素材を添加していない糞便にもDP≧3多 糖が検出されるため, この値をブランクとして差し引いた。糞便からのDRDDs, アラビナン, ガラクタン, キシランおよびマンナンの抽出効率は下記の式から 算出した。
抽出効率 (%) = ( 糞便から抽出されたDP≧3多糖量-糞由来DP≧3多糖量 (ブランク) ) ÷ ( 被験 素材0.2 g中DP≧3多糖量 ) x 100
腸内細菌の代謝活性の測定
試験飼育4 日目に採取した新鮮便の有機酸濃度は, 分析用カラム (SCR-102H,
㈱島津製作所) および電気伝導度検出器 (CDD-10AD, ㈱島津製作所) を用いて 内部標準法で測定した。糞便からの有機酸の抽出は以下に示した手順で行った。
すなわち, 新鮮便100 mgに重量が0.5 gになるように蒸留水を加え懸濁した後,
内部標準として0.3 mg/mLのクロトン酸を含む10 mM水酸ナトリウム溶液を0.5 mL 加えた。これをホモジナイザー (PT-2100, KINEMATICA.AG) を用いて均一 化 (4ºC, level 22, 30 sec) した後, 20,630 x g, 4ºCで15 分間遠心分離し, 上清0.5 mL に等量のクロロホルムを加えボルテックスミキサーで 1 分間攪拌した後,
20,630 x g, 4ºC で 15 分間遠心分離した。この上層 (水層) をフィルター
(DISMIC-13HP, 13HP020AN, ㈱アドバンテック) ろ過した後, HPLCの分析に
供した。本分析の検出限界はおよそ5 μg/mL (新鮮糞便中乳酸として0.5 μmol/g) である。
試験② RMおよびRGの小腸滞留時間の推定
SD系雄ラット18 匹を用い, 本章第2節の方法に従い, 回腸-直腸吻合ラットを
作成した。ラットは外科処置後, 飼料摂取量および体重増加量が一定の回復を示 した後 (群分け時, 平均体重207 ± 2 g), 体重を基準に3 群 (対照, RM, RG; n = 6) に振り分けた。試験開始までに対照飼料に馴化させるため, 7 日間の馴化期間を 設けた後, 試験を行った。試験飼育初日の1 日間のみRMまたはRG飼料を与え (自由摂取), その後, 再び対照飼料に切り替え, 4 日間の飼育を行った。また, RM およびRG飼料を与えた試験飼育当日を含む試験飼育最終日までの5 日間糞便を 採取し, 凍結乾燥後, ミルで粉末化し, 分析に供した。
糞便中RMおよびRG量の測定
糞便サンプルは小腸通過物であり, AOAC公定法 (AOAC2001.03) に従い分析 を行うと小腸消化と試験管内消化の 2 回の消化を受けたことになる。そこで,
Prosky消化の過程を省き, 糞便からのRMまたはRGの抽出操作を加えた以下の
方法を用いた。すなわち, 糞便は凍結乾燥後, ミルを用いて均一化し, ここから 試料として0.5 g付近を正確に秤取り, 50 mLガラス遠沈管に移した。この中に
30 mLの0.08 M リン酸緩衝液 (pH6.0) を加えた後, シェーカー (Shaker SA300,
ヤマト科学 (株)) で30 分間振盪し (250 rpm/min), RMまたはRGを抽出した。
その後, 100 x g, 25ºCで2 分間遠心分離後, 上清を採取し沈殿にさらに20 mLの
蒸留水を加え, 再度, 同様に 30 分間振盪し, 先と同様に遠心分離後, 上清を採 取した。予め約1.0 gのセライトでろ過層を形成したガラスろ過器で採取した上 清を吸引ろ過し, さらに20 mLの蒸留水を沈殿に加えろ過した。ろ液は蒸留水で
250 mLに定容した。以下は本章第3節(1)と同様に内部標準の添加, 濃縮, 脱塩
処理を行いHPLCでDP ≧3多糖を定量した。
試験③ Cr-EDTAを指標とした胃-小腸通過時間 (transit time, TT) の測定
SD系雄ラット6 匹を用い, 本章第2節の方法に従い, 回腸-直腸吻合ラットを 作成した。ラットは外科処置後, 飼料摂取量および体重増加量が一定の回復を示 した後, 対照飼料に馴化させるため12 日間の馴化期間を設けた。その後, 胃-小 腸通過時間を測定するためにミールフェッドに適応させた。ミールフェッドは, 1 日の飼料摂取時間を朝7:00~9:00, 夜19:00~21:00に切り替え, 各時間10 gずつ の制限摂取とし, 短期間に飼料を摂取するように行った。ミールフェッド期間 中, 給餌は自由摂取ではなく20 g/day/ratに制限しているため体重増加量は3
g/day前後であった。ミールフェッドへの適応が確認された後 (TT測定時, 平均
体重 351 ± 5 g), ミールフェッド開始23 日目の朝8:00~8:30に0.4%Cr-EDTA飼料
5 gを, 次いで8:30~9:00に対照飼料5 gを一斉に摂取・完食させ, 0.4%Cr-EDTA飼料
を与えた8:00から1~24 時間後 (翌日の朝8:00まで) まで糞便を採取し, Cr-EDTA
排泄量の分析まで凍結保存 (-30ºC) した。
Cr-EDTAの調製
塩化クロム・六水和物 (Sigma) 2.13 gを蒸留水30 mLに溶解した塩化クロム溶 液と, EDTA-2NA (DOJINDO) 3.0 gを蒸留水45 mLに溶解したEDTA溶液を調製し た。この2つの溶液を混合し, 沸騰石2 粒を加え時計皿で蓋をして加熱し1 時間 沸騰させた。その後, 1 Mの塩化カルシウム水溶液を0.6 mL加え, pH6-7に調整し,
蒸留水で150 mLに定容した。これを凍結乾燥して得られたものをCr-EDTA粉末
とした。なお, 0.4%Cr-EDTA飼料は対照飼料に全置換でこのCr-EDTA粉末が0.4%
含むように添加した。
糞便中Cr-EDTAの測定
胃-小腸通過時間は, 摂取したCr-EDTAの糞便中累積排泄率が50%に達した時 間と定義した。Cr-EDTA 含有飼料の摂取開始から 1~2 時間間隔で摂取後 24 時 間まで糞便を回収した (実際には, 摂取開始から1, 2, 4, 6, 8, 10, 12, 24 時間後に
糞便を回収した) 。
糞便中の Cr-EDTA 量は以下に示した方法で測定した。すなわち, 採取した糞
便に蒸留水20 mL加え, 4ºCで一晩 (およそ16 hr) 放置した。これをホモジナイ ザー (PT-2100, KINEMATICA.AG) を用いて均一化 (4ºC, level 11) した後, 2,300
x g, 4ºCで15 分間遠心分離し, 上清を採取した。その後, 沈殿に蒸留水10 mL
を加え, ボルテックスミキサーで均一し, 先と同様に遠心分離し, 上清を再度採 取した。この抽出操作を3 回行った後, 100 mLメスフラスコで定容した。この 抽出液とトリクロロ酢酸を1 : 1で混和し, 14,000 x gで2 分間遠心分離し, 上清 を得た。Cr標準液で作成した検量線の範囲 (0.01~1.00 ppm) に収まるように, こ
の上清を 0.05%塩化セシウム溶液で適宜希釈した (1, 2, 4 時間後に回収した糞
便は3倍希釈, 6, 8, 10,12 時間後は5または10倍希釈した) 。卓上型ICP発光分
光分析装置 (SPS7800, エスアイアイ・テクノロジー㈱) で溶液中Cr量として分 析した。
(4) 統計解析
実験結果は, 各群の平均値 ± 標準誤差 (等分散) で示した。二群間での各デ ータの統計処理は, Bartlett検定により分散の均一性を確認した後, 群間の差の 検定をt検定により行った。不等分散を示すデータについては, ウェルチのt検定 を行った。三群間以上の各データの統計処理は, Bartlett検定により分散の均一性 を 確 認 し た 後, 群 間 の 差 の 検 定 を 一 元 配 置 分 散 分 析 (one-way analysis of
variance, ANOVA) 後, Tukey-Kramerテストを行った。不等分散を示すデータにつ
いては, 実数値を対数に変換後, 再度Bartlett検定を行い, 等分散であることが確 認できた場合は上記に示した解析を行い, 不等分散の場合は対照群と被験群間 でKolmogorov-Smirnovのtwo-sampleテストを行った。なお, 不等分散場合, 実験 結果は中央値 (範囲) で示した。いずれの統計解析結果も, 危険率が5%未満のと き有意とみなした。
結果
DRDDs, アラビナン, ガラクタン, キシランおよびマンナンのAOAC公定法
(AOAC 2001. 03) における食物繊維の定量
各被験素材のAOAC2001.03による食物繊維値 (無水物含量) は, 91.5% (RM),
79.8% (PD), 82.2% (RG), 93.2% (アラビナン), 93.2% (ガラクタン), 88.3% (キシラ
ン) および90.4% (マンナン) であった (Table 1)。
試験① 糞便回収率
大腸のない状態での小腸通過物は, 水分が多く軟便を呈する。このため糞便の 一部が飼育ケージに付着する場合が多々見受けられる。そこで, 飼料中に添加し たセルロースの回収率を糞便が正確に回収できているかの指標とした。試験最 終4 日間の飼料摂取量は群間で差はなく, 糞便排泄量は標準飼料群に比べ対照 飼料群で有意な増加を示した (Table 2)。飼料中の食物繊維 (この場合, セルロー ス) 量を求めたところ, 標準飼料 (0.65%) でも僅かではあるが食物繊維成分が 検出された。対照飼料の食物繊維値 (5.60%) からこの値を差し引いた値を対照 飼料群の飼料摂取量に乗じてセルロース摂取量を算出した。また, 標準飼料群の 糞便でも同様に食物繊維成分が検出されたので, この内因性の食物繊維値を平
均化し (0.40 ± 0.0 g/4 day, n = 6), これを対照飼料群の糞便中食物繊維値から差
し引いた値を糞便中セルロース排泄量とした。その結果, セルロース回収率は
94.5%と算出された。つまり, 糞便回収率の精度は94.5%と考えられた。
DRDDsの糞便からの抽出効率
被験素材を添加していない糞便にも僅かではあるがDP≧3多糖が検出された。
そのため, 被験素材を添加した糞便のDP≧3多糖量からこの値を差し引いた値 が糞便から抽出された被験素材量のDP≧3多糖量となる。この値を糞便に添加し
た被験素材量のDP≧3多糖で除し, 被験素材の糞便からの抽出効率を求めた。糞 便からの抽出効率は, 95.0% (RM), 97.9% (PD), 96.2% (RG), 100.0% (アラビナン),
96.6% (ガラクタン), 94.1% (キシラン) および100.0% (マンナン) であった
(Table 3)。
腸内細菌の代謝活性
標準飼料群および対照飼料群から採取した新鮮便の有機酸濃度は, 11 検体中 1 検体でのみ微量の乳酸 (1.9 μmol/g fecal wet weight) が検出された。他の検体で は腸内細菌の代謝産物である有機酸は一切検出されなかった。ネオマイシンの 投与は小腸内での細菌代謝をほぼ完全に抑制できることが明らかになった。
試験②
RMおよびRGの小腸滞留時間
Table 4およびFigure 3に試験期間中 (5 日間, day 1 ~ 5) の糞便および糞便中
DP≧3多糖排泄量を示した。RMまたはRG飼料を摂取させた試験初日の糞便量 は, 対照群に比べ被験群で有意に増加した。Figure 5-Aに示したように, 被験群 の糞便排泄量は, 対照群に比べ RM および RG 摂取後 3 日目まで多い傾向を示 したが, 4,5 日目では対照群と同等であった。糞便中DP≧ 3多糖排泄量も被験群 では試験初日および翌日 (day 1, 2) は対照群に比べ有意に高い値を示し, 試験3 日目では群間の差は消失した (Figure 5-B) 。なお, 試験 4 日目の糞便は各群 2 検体を, 試験 5 日目は各群 1 検体を分析したが, 対照群と同等であったので, それ以降の分析は行わなかった。糞中DP≧ 3多糖排泄量は, RMやRGを摂取し ていない対照群においても, 常に一定量が検出された。従って, 被験群から対照 群の値を差し引いた値が未消化で排泄された真の RM および RG 値となる。つ
まり, Figure 5-Cに示すように試験初日に摂取したRMおよびRGは試験2 日目
でほぼ排泄されることになる。
試験③
Cr-EDTAを指標とした胃-小腸通過時間
Cr-EDTAの糞便への排泄はCr-EDTA含有飼料摂取2~4 時間後に観察され, 8~10
時間後には50%以上が, 10~12 時間後には90%以上が排泄された (Table 5)。
Figure 4はTable 5に示した累積回収率をグラフ化したものである。点線で糞便中
Cr-EDTAの50%累積排泄率を示した。グラフから回腸-直腸吻合ラットの50%胃- 小腸通過時間は9.0 時間, 曲線式から求めた50%累積排泄時間は9.7 時間とな った。なお, Cr-EDTAを含まない飼料を摂取させたラットの糞便でもCrが検出さ れたが, この値は検出限界の0.01 ppm以下であったため無視できるものとし た。
第4節 回腸-直腸吻合ラットにおける難消化性デキストリン類の小腸消化抵抗 性の測定
実験方法
(1) 被験素材
被験素材は, 本章第3節と同様のRM, PDおよびRGを用いた。
(2) 試験飼料
試験飼料は, 本章第3節と同様の標準飼料および対照飼料を用い, 対照飼料中
にRM, PDおよびRGをそれぞれ5%ずつ炭水化物源 (コーンスターチ) と置き
換え添加した飼料を調製し, それぞれRM, PDおよびRG飼料とした。
(3) 動物試験
5週齢のSD系雄ラット (体重130~150 g; 日本SLC㈱) 24 匹を用い, 本章第2節
と同様の飼育条件下で飼育し, 体重および飼料摂取量を記録した。ラットは搬入 後, 標準飼料で4-6 日間予備飼育を行った後, 本章第2節の方法に従い, 3 日間に 分けて回腸-直腸吻合ラットを作成した。Figure 5に示したように, ラットは術後 順調に回復し, 飼料摂取量および体重増加量が一定の回復を示した後 (群分け
時, 平均体重207 ± 2 g) , 試験に供した。試験はFigure 6に示したように, 第1期と
第2期の2 回に分け, 第1期を9 日間, 第2期を10 日間とし, 各期の初めにはラッ トの体重を基準に4 群に振り分けた。また, 第1期と第2期の間には3 日間標準飼 料を与える洗浄期間を設けた。第1期では, ラットは体重を基準に4 群 (n = 6) に振り分け, 対照, RM, PDおよびRG飼料を自由摂取させた。第2期は再度, 体重 を基準に第1期と同様にラットを4 群 (n = 6) に振り分け, 第1期と同様の飼料 を自由摂取させ, 飲料水には抗生物質飲料 (0.1% ネオマイシン溶液) を用い た。各期の最終3 日間には糞便を採取し, 凍結乾燥後, ミルで粉末化し, 各分析 に供した。
糞便中DRDDs量の測定
本章第3節の“糞便中RMおよびRG量の測定”と同様に測定した。
DRDDsの糞便回収率の算出
DRDDsの糞便回収率は, 試験最終3 日間の被験素材の摂取量と排泄量をもと
に, 以下の式から求めた。
回収率 (%) = (3 日間の被験素材排泄量*) ÷ (3 日間の被験素材摂取量**) x 100
*対照群でもDP≧3多糖が検出される。したがって, 各被験群の値から対照群の平均値を差し引い
た値を被験素材の排泄量とした。また, これらの値はセルロース回収率 (94.5%) および糞便から の抽出効率で補正した (RM, 95.0%; PD, 97.9%; RG, 96.2%) 。
**飼料摂取量と飼料中に添加した被験素材の重量比および飼料の水分含量から換算して求めた。
糞便中でんぷん量の測定
凍結乾燥糞便をミルで粉末化したものを試料とし, 糞便中でんぷん量は市販 の測定キット (Total starch assay kit ; Megazyme) を用い, Muirらの方法25)に従っ て測定した。すなわち, 試料100 mgを正確に秤り取り, 15 mLメス付き試験管に移 した。なお, 糞便中の遊離グルコースを測定する目的で, 同様に盲検を設けた。
試料は0.2 mLの80%エタノールで膨潤させた後, 2.0 mLのジメチルスルホオキシ
ドを加え, 10 分間隔で攪拌しながら沸騰水中で30 分間反応させた (でんぷんを
完全に溶解した)。次いで, ミキサーで攪拌しながら3.0 mLの耐熱性α-amylaseを 含む50 mM MOPS緩衝液 (終濃度19.2 U/mL, pH7.0) を加え, 2 分間隔で攪拌しな がら沸騰水中で10 分間反応させ, でんぷんを分解した (ブランクにはMOPS緩 衝液のみを加えた)。続いて4.0 mLの0.2 M 酢酸緩衝液 (pH4.5) を加え, 50ºCで5 分間予備加温した後, 0.1 mLのアミログルコシダーゼ (終濃度2.15 U/mL, ブラン クには加えない) を加え, 10 分間隔で攪拌しながら50ºCで30 分間反応させ, グ ルコースを遊離させた。この溶液を室温に戻してから蒸留水で10 mLに定容し, 攪拌した後, 通常の試験管に移し, 遠心分離 (1,710 x g, 4ºC, 20 分間) して上清 を得た。この上清を適宜希釈してグルコース測定に用いた。グルコース濃度の
測定には0.1 mLを採取し, 酵素発色液を3.0 mL加えて50ºCで30 分間反応させ
た。反応後は510 nmの波長で吸光度を測定した。グルコース濃度から, 総グルコ ース量を求め, デンプン換算係数0.9 (=162/180) を乗じてでんぷん量とした。
糞便中たんぱく質量の測定
糞便中たんぱく質量は乾燥糞便粉末0.5 gを用い, 本章第3節の糞便回収率の 測定で用いたKjeldahl法 24)と同様に測定した。
糞便中脂質量の測定
総脂質はFolchらの総脂質抽出法に基づく重量法にて測定した 26)。50 mLガ
ラス遠沈管に乾燥糞便粉末0.5 gを秤り取り, この中にクロロホルム/メタノー ル混和液 (2:1, v/v) を20 mL加え, シェーカー (Shaker SA300, ヤマト科学
(株)) で30 分間混和し (レベル8, 250 rpm/min), 脂質を抽出した。これをろ過し,
20 mLに定容した後, 0.37%塩化カリウム溶液4 mLを加え激しく混和し, 4°Cで一 晩放置した。その後, 水層を除去し, クロロホルム/メタノール/蒸留水混和液
(3:48:37, v/v/v) で試験管壁を2 回洗浄した後, メタノール1 mL加えて脂質抽出
液を完全に一層にした。これをクロロホルム/メタノール (2:1, v/v) で20 mLに 定容し, 恒量済のビーカーへ全量移し, ホットプレート (100ºC) 上で溶媒を除 去した後, 通風乾燥機 (90ºC) で30 分間乾燥させ, 全重量を測定し, 風袋重量 との差し引きから脂質重量を算出した。
糞便中灰分の測定
ルツボを525ºCで2 時間加熱・恒量 (蓋付き) し, 風袋重量を測定した。この中
に乾燥糞便粉末0.5 gを正確に秤り取り, ドラフト内でガスバーナーを用いて煙 が出なくなるまで焼いた (約15 分間)。これを525ºCで5 時間加熱し, 糞便を灰化 した。その後, デシケーター内で常温に戻した後, 全重量を測定し, 風袋重量と の差し引きから灰分重量を算出した。
糞便および飼料中水分の測定
ビーカーを105ºCで一晩加熱・恒量し, 風袋重量を測定した。この中に各試料
1.0 gを正確に秤り取り, 再度105ºCで一晩加熱・恒量した。デシケーター内で常
温に戻した後, ビーカーごと全重量を測定し, 風袋重量との差し引きから水分 重量を算出した。
主栄養素 (でんぷん, たんぱく質, 脂質) の小腸消化率の算出
主栄養素であるでんぷん, たんぱく質および脂質の糞便回収率は, 試験最終3
日間の各栄養素の摂取量と排泄量をもとに以下の式から求めた。
糞便回収率 (%) = (3 日間の各栄養素の排泄量) ÷ (3 日間の各栄養素の摂取量*) x 100
*試験最終3 日間の飼料摂取量と飼料中のでんぷん, たんぱく質および脂質の重量比および飼料
の水分含量から換算して求めた。
(4) 統計解析
本章第3節と同様に行った。
結果
試験第1期, 第2期を通して飼料摂取量は群間で差は認められなかった。体重増 加量は第1期で対照に比べRM群で有意な低下を示したが, 被験3群間で差は認め られなかった。各期の試験最終3 日間の飼料摂取量, 各被験素材摂取量および凍 結乾燥糞便重量は第1期, 第2期を通して被験3群間に差は認められなかった。試 験最終3 日間の被験素材の摂取量と排泄量から算出したDRDDsの糞便回収率, つまりin vivo小腸消化抵抗性 (第1期, 第2期) は, RM (68%, 66%), PD (58%, 61%) およびRG (62%, 66%) であった (Table 6)。なお, 小腸消化抵抗性は各被験群間で 有意な差はなかった。ネオマイシンの影響はPDとRGで認められ, 小腸消化抵抗 性は3-4%上昇した。
各期における糞便成分は主に炭水化物であり, これはDRDDsおよび飼料に添 加したセルロースに由来すると考えられた (Table 7)。これらの分析値と飼料摂 取量から, 主栄養素であるでんぷん, たんぱく質および脂質の小腸消化率を算 出すると (Table 8), 脂質の消化率は各期ともに群間に差は認められなかったが, でんぷんの消化率は各期ともに対照群に比べ, 被験群で有意な低下が認められ た。また, たんぱく質の消化率は, 第2期では群間に差はなかったが, 第1期では
対照群に比べ, PDおよびRG群で有意な低下が認められた。
第1章 考察
DRDDs の食物繊維含量, すなわち小腸消化抵抗性は, AOAC 公定法により耐
熱性 α-アミラーゼと細菌由来のアミログルコシダーゼによる消化を基本とした
Prosky消化後に残存するDP≧3多糖量を測定することで推定されている。AOAC
公定法 (AOAC2001.03) による DRDDs の小腸消化抵抗性は, 92% (RM), 80%
(PD) および82% (RG) であった。一方で, 回腸-直腸吻合ラットを用いた出納試
験におけるDRDDsの小腸消化抵抗性 (第2期, 腸内細菌の代謝を抑制した状態) は, 66% (RM), 61% (PD) および67% (RG) であり, これらの値はAOAC公定法で の推定値よりも15-26%低いことが明らかとなった。
AOAC公定法と回腸-直腸吻合ラットの間で, DRDDsの小腸消化抵抗性が乖離 する原因を, モデルラットの側から考えると, (1) 糞便回収の精度, (2) 分析時の 糞便からの抽出効率, (3) 腸内細菌による分解, さらに (4) 小腸消化時間の延長 を明らかにしておく必要があると考えた。つまり, モデルラットの妥当性の検討 である。そこで, 先に示した DRDDs の小腸消化抵抗性は, セルロースを基準と した糞便回収率 (94.5%) および糞便からの各DRDDs抽出効率 (RM, 95.0%, PD,
97.9%, RG, 96.2%) で補正した。また, 飲料水に非吸収性のアミノグリコシド系
抗生物質を添加することで, 細菌代謝の抑制を計ったところ, ほぼ完全にこれ を押さえ込むことができた。つまり, (1) ~ (3) の要因は乖離の原因から棄却され る。一方で, 回腸-直腸吻合ラットは直腸の温存により排便反射が機能する。そ のため, 小腸での滞留により消化時間の延長が予測される。RMおよびRG添加 飼料を単回摂取させ (1 日のみの摂取), RMおよびRGの糞便中排泄を追跡した 結果, 未消化の RM および RG は 1 日以内にほぼ完全に糞便に排泄されること が明らかになり, 直腸温存による異常な小腸内滞留は認められないことがわか った。また, Cr-EDTAを指標とした回腸-直腸吻合ラットにおける胃-小腸の50%
通過時間は9 時間であった。ヒトの胃-小腸通過時間は回腸造瘻術を受けた患者 で7 時間と推定されていることから27), 回腸-直腸吻合ラットの小腸通過時間は