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  八 木 行 雄

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Academic year: 2021

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行く川のながれは絶えずして、

しかももとの水にあらず

巻 頭 言

YAGI Yukio

病態研究領域長

  八 木 行 雄

題は方丈記の冒頭の言葉で、鴨長明が世 の無常を述べた一節です。昨年の東日本 大震災や福島の原発事故を経験すると厭 世的な気分になり冒頭の言葉を思い出しますが、表 題は「生物も社会も常に動いており、その流れの中 に事象が存在する;Dynamism(動力学)」という 意味で記載しました。研究の現場を離れて 8 年以上 になりますが、ここでは Dynamism について思い 知らされた昔の思い出を述べたいと思います。七戸 在住の 20 代の頃、小型ピロプラズマ病の貧血機構 の解明を研究のテーマとし、手始めに原虫寄生赤血 球と非寄生赤血球を分離する実験を開始しました。

当時、FACS が市販されたばかりで機械の性能も低 く、高価で手が出せないことから、密度勾配遠心で 分離を試みました。ところがいくら条件を変えても 一定以上の寄生赤血球は得られません。赤血球の酵 素活性等の生化学的性状を調べても貧血とは相関す るものの原虫寄生と関連するような成績は全く得ら れず、何年も悩みました。その後、試行錯誤の中で 貧血が溶血性貧血で赤血球クリアランスが寄生赤血 球だけでなく非寄生赤血球にも起きていることを幾 つかの論文にまとめました。つくばに転勤後、当時 最新の血球計算機で赤血球の粒度分布を見て愕然と しました。貧血のピークの数日前からピークにかけ て末梢血では正常な大きさの赤血球が全て消失し、

全く別の 3 倍以上大きな赤血球に完全に入れ替わっ ていたのです。しかし、これはよくよく考えれば当 たり前で小型ピロプラズマ病の貧血は溶血性貧血で あり、正常な大きさの原虫寄生、非寄生赤血球が共

に流血中からクリアランスされるのですから、ウシ が生き延びるためには骨髄を刺激し幼弱赤血球を産 生する必要があります。幼弱赤血球は比重が軽く、

酵素活性も高いので、七戸時代の当初の実験がうま くいかなかった原因はこの赤血球の入れ替わりと幼 弱赤血球の存在を無視していたことによります。赤 血球は赤血球達であり、常に変化しているのです。

寄生、非寄生ばかりに目がいき赤血球を単一なもの と思いこんでいたのが敗因でした。

 その後、北海道で同様の経験を味わいました。搾 乳牛の乳房に LPS を投与し、実験的に乳房炎を作 出しました。末梢血白血球を TUNEL 染色し、FACS にかけるとほとんどの白血球が TUNEL 陽性になっ ていると共に白血球機能が低下していました。当時 アポトーシスの定義が様々で、これをアポトーシス 細胞と定義づけるのに苦労しました。最終的には炎 症経過で血管外遊走能の低い老化白血球(TUNEL 陽性細胞)が末梢血中に留まっていることによると 証明したのですが、この場合も白血球は白血球達で あり、若い元気な細胞もあれば、年取って戦場に行っ て戦う能力の低い細胞もあることを当初思いつかな かったのが手間取った原因でした。赤血球や白血球 は単一ではなく、それぞれ個性をもった集団であり、

事象を偏見や固定観念で見るのではなく、時間の流 れの中で見て判断していくことの重要性を痛感しま した。そのとき冒頭の言葉を思い出しました。

 同様のことは私達の身の回りの人間関係や組織な ど様々なことにも言えるのかもしれません。無常の 境地を極めたいものです。

参照

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