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Japanese Journal of Nursing Art and Science Vol. 7, No. 2, pp 4 11, 2008 総 説 温罨法 の統合的文献レビュー Integrative Literature Review of Heat Application 江上京里 Kyo

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Ⅰ.はじめに

看護実践の場では,足浴や温罨法などの温熱を用い た看護ケアは,温かさや気持ちよさの提供のみならず,

さまざまな目的で実施されている.温熱を用いた看護 ケアの中でも,熱布を用いた温湿布や湯たんぽによる 温罨法は,直接湯を対象の皮膚に用いないため,簡便 でありながらも局所表層の皮膚または全身に温熱によ る気持ちよい刺激を与えられる.看護学の教科書には 体温・循環調節の援助(深井 2002)や安楽の援助(井上 ら 2005;薄井 2003)として必ず記載され,実践でも頻

繁に用いられている.理学療法の領域では,恒温槽を 用いた温浴や赤外線による皮膚表層への温熱刺激

(Cameron 2003)が症状の緩和や機能の回復に用いら れ,医学においては深部へ温熱の効果を期待するハイ パーサーミアががんの治療(Takeuchi et al. 2006)に 用いられており,生体への温熱の効果は看護学領域以 外でも重視されている.

病の治療のために入院している患者は,生活の基本 である“食事”“睡眠”“排泄”が,不安や緊張や痛みに 伴う交感神経の異常な亢進によっていつもどおりに行 われなくなる.つまり,“食欲不振”“不眠”“排泄障害”

のような苦痛症状になりやすい(菱沼 2006).患者の

総  説

「温罨法」の統合的文献レビュー

Integrative Literature Review of “Heat Application”

 江

Kyouri Egami

上京里

現在実践で行われている温罨法については,方法や対象がさまざまであり,これまでの温罨法の 知見を統合し,包括的に捉えていく必要があると考える.よって Cooper の方法論を参考に温罨法 の 統 合 的 レ ビ ュ ー を 行 っ た. 医 学 中 央 雑 誌 web 版 1983 ~ 2007 年 で「 温 罨 法 」, そ し て CINAHL web 版 1982 ~ 2007 年で「heat application」で検索を行った.論文の質を評価し 国内文献は 28 件,海外文献は 5 件を対象とした.

結果,温罨法はさまざまな対象・方法で行われていた.その成果は「加温した局所のみではなく,

より末梢の皮膚温や皮膚血流量にも影響」すること,「加温した部位はさまざまであっても腸蠕動が 亢進」すること,そして腰背部への温罨法は「自律神経のバランスを整える」ことが整理された.心 理的側面では「温罨法の気持ちよさは,身体的な感覚によるところが大きい」ことが示された.方 法については,「適用の温度が高ければ短時間」実施する傾向があり,成果指標は,自律神経を主と する「生理学的な指標」が多くを占めていた.

キーワード:温罨法,文献レビュー

Key words : heat application, literature review

受付日 : 2008 年 3 月 4 日 受理日 : 2008 年 4 月 18 日

東京女子医科大学看護学部 The School of Nursing, Tokyo Women’s Medical University

連絡先:江上京里 東京女子医科大学看護学部 〒 437─1434 静岡県掛川市下土方 400─2 東京女子医科大学看護学部大東キャンパス TEL : 0537─63─2124 FAX : 0537─63─2122 E-mail:egami@nurs.twmu.ac.jp

(2)

生活が,病自体による心身の苦痛に加え,これらの交 感神経活動の過度の亢進症状によって障害されている 場合も少なくない.臨床で,交感神経活動が異常に亢 進しストレス状態にある患者に対して温熱を用いた看 護技術を実施すると,「ああ,気持ちいい」と,患者が 無意識に深呼吸したり,ふっと肩の力が抜けたり,生 き生きと動き出す,もしくは安らかに寝入る様子がみ られる.これは,一瞬であったとしても温熱を用いた 看護技術の気持ちよさによって苦痛や不安が軽減し,

異常に亢進している交感神経を調整し,ひとときの心 身の休息が得られたのではないかと考えられる.この ようなケアは,患者の入院生活における QOL を高め るためには非常に重要である.

現在実践で行われている温罨法については,方法や 対象がさまざまであり,方法や対象によって効果はど のように異なるのか,方法は異なっても“温める”こと に共通することはあるのか,など明らかになっていな いことは多い.温罨法の効果の測定については,非侵 襲的に測定可能な自律神経の指標を用いた報告が多い が,さまざまな目的,方法,対象で実践された報告が 集積された今,根拠に基づいてより効果的に実践され るための課題として,これまでの温罨法の知見を統合 し,包括的に捉えていく必要があると考える.よって 今回,温罨法の「対象」「方法」「測定指標」「成果」に 着目して温罨法の統合的レビューを行い,温罨法のプ ロトコルの作成に向けての資料とし,また今後何を明 らかにしていく必要があるのかについての課題を明ら かにする.

Ⅱ.方法

Cooper(1998)の統合的レビューの方法論を参考に 文献レビューを行った.Cooper は,統合的文献レ ビューは,総合的な結論を導くために過去の研究を要 約し,関心事の知を示し未解決の研究問題を明らかに する,と述べている.その方法論は,問題の明確化,

文献の収集,文献の評価,分析と解釈,投稿の 5 段階 に分けられている.当該方法論では,問題の明確化に おいては関連のない文献と関連のある文献を識別する ような仮の定義を組み立て,コーディングシートを作 成することを推奨している.本統合的レビューにおけ る概念的定義として,「温罨法とは身体の一部に温熱 刺激を与える方法である」とした.これは,看護学の 教科書(深井 2002;井上ら 2005;薄井 2003)において

共通して定義された内容である.また,文献の選定に おいて必要となる本統合的レビューにおける操作的定 義は,「温罨法とは,身体を湯に浸さない,湿熱,乾 熱による刺激を,主に皮膚表層に対して与える方法で ある.それは,一般的には湯たんぽ,温湿布,ホット パックとして用いられている」とした.よって,関連 文献を識別する際に,入浴,シャワー,足浴などの湯 に浸ける,湯で流すような清潔を保つことが,その大 きな目的となる看護技術は除いた.また,皮膚の“表 在性”の温熱に限定し,主に薬剤の効果を狙う温パッ プは除外した.

Research Question は,「温罨法が有効である対象 の特徴はあるか」「どのような方法(道具,部位,時間,

温度)で行われているか」「温罨法で患者に何がもたら されるのか」であり,[対象][方法][指標][成果]に ついてコーディングシートを作成してデータを整理 し,分析した.

国内文献については,医学中央雑誌 web 版 1983 ~ 2007 で全年検索を行い,看護学の教科書(深井 2002;

井上ら 2005;薄井 2003)で「温罨法」として示された

「温罨法」「温湿布」「湯たんぽ」「ホットパック」のい ずれかをタイトルもしくは抄録に含む,として検索し た.また,方法や対象,成果の詳細が記述されている 必要があるため,対象文献は会議録や解説を除き「原 著論文」に絞り込み,「看護」でかけあわせたところ,

ヒットした文献は 100 件であった.これら 100 件の抄 録を読み,温罨法の内容の記載に欠けるもの,対象が 人間ではないもの,教育内容に関するものを除くと 83 件となった.Cooper は,収集された文献の評価に 際し,論文内容の質を評価する必要性について述べて いる.今回は,83 件のうち,同一被験者での繰り返 しや,介入前後比較,または対照となるデータがある ような比較可能なコントロールが明示されているこ と,を選択する文献の質の条件としたところ,該当す る文献は 28 件となった.

海 外 文 献 に つ い て は,CINAHL web 版 1982 ~ 2007 年で全年検索を行い,日本の温罨法に該当する 看護ケアが含まれる subject headings の「heat/cold application」で検索した.「heat/cold application」は Analytical ; Diagnostic and Theraputic Techniques and Equipment─Theraputics─「heat/cold applica- tion」の tree 構造に位置づけられる.「heat/cold ap- plication」でヒットした 635 件から,国内文献と条件 を同一にするために research に絞り込み,nursing

(3)

journal に限定すると 37 件となった.37 件のうち

「cold application」に関する文献を削除したところ,

対象文献は 15 件となった.「heat application」に該当 する 15 件のうち 4 件は著者が日本人であり,国内文 献と重複する 3 件(江上 2002;菱沼ら 2000;塚越・菱 沼 1999)は除いた.また,温湿布の薬効を期待したも のは除外した.その他,方法の詳細が無記載のもの,

実態調査,文献レビュー,製品の使用方法についての 検証の文献を除くと,最終的には 5 件となった.

よって最終的に国内・海外文献の計 33 件で分析を 行った.以上のサンプリングプロセスについては図

1

に示す.対象文献 33 件は表

1

のとおりである.

Ⅲ.結果

1.温罨法の方法と成果(身体面)

対象者の特徴と温罨法の方法ごとの成果については 表

2

に示す.ホットパック,蒸しタオル,湯たんぽそ れぞれがさまざまな対象に用いられていた.

ホットパック,蒸しタオル,湯たんぽに共通してみ られることが 2 点整理された.1 つは「加温した局所 だけではなく,末梢など加温局所以外の部位まで温熱 の効果が行き届き,皮膚温や皮膚血流量が上昇」する こと,2 つめは「(加温した部位はさまざまであるが)

腸蠕動が亢進」することである.その他の成果につい ては,「蒸しタオル」による実施に関して,症状や身体 局所の反応に加え,生体の恒常性を保つ自律神経活動

から腰背部への温罨法の効果を捉えようと,健康成人 での報告(江上 2002;塚越・菱沼 1999)と術後患者で の報告(縄 2002)があり,温罨法は「自律神経のバラン スを整える」という視点での結果を導き出している.

温罨法の実施部位は頭部以外の全身にわたってい た.腰部・腹部・心窩部の温罨法によって腸蠕動や排 便・排ガスに関する症状を軽減させることについて は,健康な成人を対象者としたものに限らず,便秘の 症状がある場合でも報告が集積(菱沼ら 1997,2000;

細野・岩元 2007;深井ら 1996;飯田ら 2003;木下ら 2005;松浦ら 2003;酒井ら 1998)している.その起序 については,体性─自律神経反射(菱沼 1997)によっ て説明したものが多く,排便・排ガスを促す成果が得 られることは確立されてきている.しかし,海外文献 には「排便」を目的とする体幹部への温罨法の適用に関 する文献は見当たらず,国内における特徴であった.

下肢への温熱の効果として,下肢のうっ血性静脈潰 瘍の治療に温熱を用いた成果を報告したもの(Cherry

& Wilson 1999 ; McCulloch & Knight 2002 ; Robinson & Santilli 1998)があった.長谷部ら(1999)

は,足部への温熱の適用に際しては「湯たんぽ」を用い て血流の増加,皮膚温の上昇を報告しており,局所の 温熱刺激が下肢のうっ血性の静脈潰瘍部位の血流を改 善し,治癒を促進したこととその効果は一致する.

排便促進に対する体幹部への温罨法,下肢の静脈潰 瘍に対する下肢への温罨法以外にも,症状のある部位 に温罨法を適用した報告があった.呼吸苦に対して呼

医中誌〜 CINAHL〜

文献 文献

文献

その他 文献

下肢 文献

上肢 文献

胸・腹部 文献

腰・背

文献

会陰 文献

下肢 文献

上肢 文献

文献 文献

文献の質の選定 文献の質の選定と国内文献との重複の削除

/原著論文 research

/看護 nursing journal

/温罨法

/介入研究

/症例報告を除く cold heat

heat cold application

注:二重枠線内が文献レビューの対象文献(罨法貼用部位と文献数)を示している.

図 1 サンプリングのプロセス

(4)

表 1 対象文献 33 件の一覧

No. 著者 掲載 対象者 温罨法 部位

1 Albers, LL., Sedler, KD., Bedrick, EJ. et al.

2005 Journal of Midwifery & Women's Health. 50(5), 365─72.

1211 healthy women in mid- wifery

warm

compresses 会陰 2 Cherry, G. W. & Wilson, J. 1999 Ostomy/Wound Management. 45

(9), 65─70.

5 patients who had venous ulcers

warming dressing 下肢

3 江上京里 2002 聖路加看護学会誌,6(1),9─16. 健康男性16名 蒸しタオル 腰・背

4 濱中悦子,田中二見,上田住江,他 1996 第27回日本看護学会集録(成人看護Ⅱ),

92─94.

ストレプトマイシン筋肉注射が必 要な患者6名と健康成人9名

ホットパック

臀部 5 長谷部佳子,中山栄純,佐藤千史 1999 日本看護研究学会雑誌,22(5),37─45. 健康な女性19名 電気あんか,

湯たんぽ 足

6 長谷部佳子 2003 日本看護研究学会雑誌,26(5),45─57. 女子学生14名 湯たんぽ 足

7 Hasebe, Y. 2005 Journal of Nursing Science, 2(2),

107─114.

健康な女性11名 湯たんぽ

足 8 菱沼典子,平松則子,春日美香子,他 1997 日本看護科学会誌,17(1),32─39. 健康な女性8名 蒸しタオル 腰 9 菱沼典子,香春知永,横山美樹,他 2000 聖路加看護学会誌,4(1),30─35. 入院中,老人保健施設に入所中の

便秘のある54名

蒸しタオル

10 細野恵子,岩元純 2007 名寄市立大学紀要,1,31─34. 若年女性18名 温湿布 腹

11 深井喜代子,阪本みどり,田中美穂 1996 川崎医療福祉学会誌,6(1),99─106. 健康な女性20名 湯たんぽ,電気毛布 腹 12 福井美香,井山寿美子,安達秀雄,他 1993 鳥取大学医療技術短期大学部紀要,20,

27─40.

健康な女性2名 蒸しタオル,

ホットパック 上肢

13 飯田朋美,古川恵子,松本和美,他 2003 浜 松 労 災 病 院 学 術 年 報,2002,138─

140.

長期臥床,経管栄養を行っていて 便秘傾向にある脳血管障害患者4 名

湯たんぽ

腹 14 池田貴美江,田村久子,持田裕子,他 1999 松江市立病院医学雑誌,3(1),21─24. 下肢神経症状(下肢の痛み,しび

れ)で不眠のリハビリ期の患者 12名

湯たんぽ

下肢

15 岩崎眞弓,野村志保子 2005 日本看護研究学会雑誌,28(1),33─43. 女子学生31名 ホットパック 腰・背 16 加茂清美,吉田多重子,杉本有里 2006 第37回日本看護学会論文集(看護総合),

179─181.

看護師6名 ホットパック

足 17 川端京子,新田紀枝 1999 大阪市立大学看護短期大学部紀要,1,

69─72.

女子学生7名 ホットパック

鼠径部 18 木下彩子,酒井志保,佐藤美恵子,他 2005 第36回日本看護学会論文集(看護教育),

42─44.

健康な女性8名 蒸しタオル 腰・背・

腹 19 清岡仁美,坂口原子,岩佐貴美子,他 2005 第36回日本看護学会論文集(看護総合),

349─351.

看護師8名 蒸しタオル,

ホットパック 上肢

20 松浦康之,岩瀬敏,高田宗樹,他 2003 自律神経,40(4),406─411. 便秘を主訴とする女子学生10名 温湿布 心窩部 21 松村千鶴 2004 香川県立医療短期大学紀要,5,1─10. 健康な女性10名 蒸しタオル 体幹・

四肢 22 McCulloch, J. & Knight, C. A. 2002 Ostomy/Wound Management, 48

(3) : 38─44.

36 patients with neuropathic foot wounds secondary to di- abetes

radiant warming

device 下肢

23 縄秀志 2002 日本看護技術学会誌,1(1),36─44 子宮筋腫または卵巣嚢腫の開腹手 術を受ける患者4名

蒸しタオル

背 24 縄秀志,花村由紀,片桐志津子,他 2004 長野県看護大学紀要,6,11─18 深夜勤務のストレスを受けた夜勤

明け看護師31名

蒸しタオル

腰・背 25 大久保由賀里,代田悦子,花房文子,

1994 第25回日本看護学会集録(母性看護),

132─134.

温罨法群(初産26名,経産27名),

対照群(初産28名,経産25名)

カイロ 臀部

26 Robinson, C. & Santilli, S. M. 1998 Journal of Vascular Nursing, 16

(2), 38─42.

13 patients radient─heat

bandage 下肢

27 Saeki, Y. 2002 Nursing & Health Sciences, 4(3),

97─105.

25 healthy female subjects hot water bottle 上肢 28 酒井美香,田中亜由美,河野洋子 1998 第29回日本看護学会論文集(成人看護

Ⅰ),76─78.

CCU に入室し3日間排便がない 虚血性心疾患患者53名

湯たんぽ 腰

29 鈴木桂,橋本眞喜子,服部昌子,他 2007 第37回日本看護学会論文集(母性看護),

45─47.

分娩第1期の産婦13名 ホットパック

臀部 30 瀧澤琴美,鈴木美紀,一條久美,他 2000 第31回日本看護学会論文集(成人看護

Ⅱ),256─257.

慢性閉塞性肺疾患男性患者6名 ホットパック

腰 31 辻弘子 1985 三重医学,29(2),205─208. 産褥初期の褥婦36名 蒸しタオル+

マッサージ 乳房

32 塚越みどり,菱沼典子 1999 聖路加看護学会誌,3(1),11─18. 健康な男性4名,女性3名 蒸しタオル 腰・背 33 山田朋子,田中道子,竹谷英子,他 1991 第22回日本看護学会集録(看護総合),

123─126.

健康な女性8名 ホットパック

(5)

吸に関連する筋を加温して症状を軽快させた(瀧澤ら 2000)もの,臀部への筋肉注射の苦痛軽減のために臀 部を加温し血流をよくすることで改善した(濱中ら 1996)ものがあった.また,前述したように温罨法は 加温局所以外にもその効果がみられており,足部への ホットパックでも腸蠕動亢進の効果が示された(加茂 ら 2006).腰部・腹部の温罨法と同様の効果がみられ たことについては,結腸の蠕動運動を支配する S2 ─4 神経が下肢にも一部存在することから体性─自律神経 反射の視点で考察されていた.しかし,各症状に対し て温罨法をどの部位に用いることが有効かについて は,研究の集積のある排便・排ガスの効果と腰・腹部 の温罨法,下肢の静脈潰瘍への下肢の温罨法の関連以 外は報告数が少なく,今後の取り組みに可能性を残す.

温罨法の身体への接触面の温度と施行時間について は,温度が高ければ(60℃以上)短時間(10 ~ 20 分),

緩やかな温度刺激(40℃前後)であれば長時間(20 分~

数時間)行う傾向があり,湿熱(蒸しタオル,温湿布),

乾熱(湯たんぽ,ホットパック)両者で温罨法の効果は

あった.

2.温罨法の成果(心理面)

対象者の温罨法に対する主観的評価について整理し たものを表

3

に示す.国内文献 29 件のうち温罨法の 気持ちよさについての主観的評価,感想について報告 したものが 11 件あった.11 件のうち 7 件は「気もち いい」,1 件は「心地よい」という言葉で表現された.

その他 2 件は研究者が「快適感覚」,1 件は「快さ」とし て測定したものであった.対象者の特徴や温罨法の種 類に関係なく,温罨法の実施による「気持ちよさ」の成 果があることが示された.しかし,その気持ちよさに ついて指標を用いて実証した報告は少なかった.温罨 法によって生じる気持ちよさは,痛みやしびれなどの

「症状が軽減」されて「気持ちいい」ことと,「温かい」の で「気持ちいい」という説明で記述されているものが多 く,皮膚に存在する温度受容器,圧覚のような感覚受 容器を通して得られる「ああ,気持ちいい」という短時 間に生じる身体的な感覚であることがわかる.

表 2 対象者の特徴と温罨法の方法ごとの成果

対象者の特徴 温罨法の方法 成果 文献

健康成人

<共通>

ホットパック 蒸しタオル 湯たんぽ

・加温した局所以外の皮膚も温まった(皮膚温・血流量上昇) 福井1993;岩崎2005;川端1999;山田1991

・腸蠕動が亢進した(足部・腰背部・腹部などへの貼用) 菱沼1997;深井1996;加茂2006;木下2005 ホットパック ・加温15分間で加温した局所の血管拡張がみられた 清岡2005

蒸しタオル

・自律神経活動を調節した 江上2002;塚越1999

・気分が改善した 2004

・深部温は上昇,最高血圧は低下した 松村2004 湯たんぽ

80℃が55℃よりも主観的感覚に優れ,足底深部皮膚温が上昇

した 長谷部2003;Hasebe 2005

・痛覚を増長させ,皮膚血流と皮膚電気活動を増加させた Saeki 2002

・就床中の足趾皮膚血流量は増加した 長谷部1999 便秘

<共通>

温湿布 蒸しタオル 湯たんぽ

・腸蠕動亢進,排便・排ガスの促進,便秘が改善した 菱沼2000;細野2007;飯田2003;松浦2003;酒 1998

静脈潰瘍 heat application ・静脈潰瘍の治癒が促された Cherry 1999 ; McCulloch 2002 ; Robinson1998

妊産褥婦

カイロ ・ 陣痛発来から子宮口開大までの所要時間が短縮する傾向が

あった 大久保1994

ホットパック ・産痛緩和効果は得られなかった(臀部にホットパック) 鈴木2007 蒸しタオル ・乳汁分泌量が増加した(乳房に蒸しタオルとマッサージ) 1985 heat application ・ 会陰裂傷防止率はマッサージ・触診を控えること,と同じで

あった Albers 2005

急性期 蒸しタオル ・自律神経のバランスを整えた 2002

呼吸困難 ホットパック ・労作時の呼吸困難からの改善までの時間を短縮した 瀧澤2000 注射痛 ホットパック ・ 罨法局所の筋肉内温度と血流上昇,注射の痛みと硬結が減少

した 濱中1996

神経症状 湯たんぽ ・下肢の痛みやしびれを軽減し睡眠を促した 池田1999

(6)

3.温罨法の効果の指標

対象文献は,変数をコントロールした条件下での準 実験研究が多く,自律神経の指標は人体への侵襲の少 ない方法が検討されていた.表

4

に示すように,温罨 法の効果の指標は,自律神経を主とする生理学的な指 標,排便や睡眠などの生活行動の観察や,痛みや呼吸 の自覚の自己申告によるもの,温罨法に対する主観的 な評価があった.主観的な評価を測定する尺度は,標 準化されたものが使用されていた.これらの指標を組 み合わせて効果を捉えた報告が多かった.

Ⅳ.考察

1.温罨法の知

腰背部の温罨法では,「自律神経活動の調節」の視点 からの報告が集積しているが,対象者を症状や局所の 変化ではなく,体を正常に保つ恒常性を備えた個人と いう全体的な視点から捉えるためには,自律神経活動 から温罨法の効果を実証していくことは重要であると 思われる.

温罨法の対象については,今回のレビューの対象文 献の結果からみても,自律神経に関連した症状には温 罨法の効果がみられ改善につながると考えられる.特 に,交感神経を抑制・調整するような効果が報告(江 上 2002;縄 2002;塚越・菱沼 1999)されているため,

闘病中の患者にみられる交感神経活動の異常な亢進と 関係のある便秘,食欲不振,睡眠障害,痛み,不安・

緊張などの症状を抱える対象者に実施することで QOL の向上に貢献できるものと考えられる.斑目・

川嶋(2007)は,ペットボトルなど手軽に手に入るもの で湯たんぽを作成し大きな筋群を温めることを冷えの ある患者に推奨し,多くの症状が軽快したことを報告

している.局所加温による皮膚温上昇,血流改善を治 療として考えると,循環障害や体の冷えに関する問題 がある場合にはその効果が大きくみられる可能性もあ る.

温罨法の方法については,温度が高ければ短時間,

緩やかな温度刺激であれば長時間使用することでその 効果が得られていた.蒸しタオル(湿熱)は温度が下が ることを前提としているため,最初の皮膚接触温度の 設定は約 60℃と高く,10 ~ 20 分のみの短時間の実施 に な って い た. この 温 度 の 安 全性 は 実 証(菱 沼 ら 1997;塚越・菱沼 1999)されている.同じ温度がある 程度長い時間保たれるのであれば,高温で長時間の温 罨法は,熱傷の可能性があり控えたほうがよい.心疾 患や皮膚の脆弱化のみられる患者などには,身体への 負荷を考慮し,乾熱で皮膚熱傷の生じない 40℃程度 の温度で緩やかに長時間かけて温めるという方法を検 討したほうがよい.湿熱と乾熱の効果の違いについて は小田ら(2006)が,湿熱のほうが皮膚温と感覚におい て温まりの度合いが高いことを報告しているが,今回 の文献レビューでは湿熱,乾熱の成果に大きな違いは 見出せなかった.

2.問題提起と今後の課題

対象文献に関しては生理学的指標の測定を行うもの が多かったため,サンプル数が少なく特定の限定され たサンプルであった.該当領域における無作為化臨床 試験がなく,エビデンスレベルの高い研究はまだ報告 されていない.よって今後は,適切なサンプルによる 厳密な研究が求められる.その際,入院,疾患に伴う 痛みや緊張,不安に加え,日常生活においても苦痛症 状を抱えて生きているニーズの高い集団へのケアの効 果を示していくことが重要である.

表 3 温罨法に対する主観的評価

対象者の特徴 罨法種類 指標 感想(快) 著者

健康な男女

ホットパック

温熱的快感 快適感覚は皮膚温が最も高かった時に高かった. 山田1991

気持ちいい,リラックスする,眠い. 加茂2006

POMS,温感覚,快適感 筋肉がやわらいでいる.心地よい.体が温かい.眠い. 岩崎2005 電気あんかと湯たんぽ 温冷感と快適感,VAS 温熱刺激によって快適感が影響を受ける(著者コメント). 長谷部1999 蒸しタオル JUMACL,快不快尺度 実験群は有意に快さを感じていた(著者コメント). 江上2002

妊産婦 ホットパック 温めることで気持ちよさを感じることができた. 鈴木2007

カイロ 痛みが和らいだ気がする,気持ちよく思った. 大久保1994

入院患者・入所者

ホットパック 温めると気持ちがいい,痛みが楽. 濱中1996

温めると気持ちがよい. 瀧澤2000

湯たんぽ 痛み,しびれがとれた.軽くなった.気持ちよかった. 池田1999

蒸しタオル 気持ちよかった.温かかった. 菱沼2000

(7)

看護の実践においては,看護ケアが人間関係の上に 行われるものでもあり,ケアの効果を測る際に変数が 多く,さまざまな変数の複雑な相互作用効果として表 れた現象から,主効果としての温罨法の効果なるもの を取り出すことは困難である.主効果だけにこだわら ずに,多くの相互作用があることを前提として,看護 が重要視する「生活行動」を温罨法の効果として考えて いくことが重要であると思われる.そして対象者の症 状や身体感覚,感情,客観的指標としての生理学的手 法を用いた測定など多面的,包括的に記述していく必 要がある.今回の文献レビューでは,生理学的指標に 重点がおかれ,排便・排ガスの効果の指標以外は,そ の他の症状を経時的に記述できる指標がほとんど用い られていなかった.これは,研究の対象者が健康な成 人であり,何らかの症状を改善するために目的をもっ て実施した研究というよりは,温罨法を実施して生理 学的な指標から何が言えるか,の記述を目的とした研 究が多かったためである.

今回の文献レビューは,“温罨法”の知見の統合の第 一段階として看護学領域の文献に限定しており,今後

は,治療として温熱を取り入れている物理療法の領域 や,生理学,医学における知見も整理し,看護学で得 られた結果と併せて統合していくことが必要である.

Ⅴ.結論

統合的文献レビューによって,温罨法に関する以下 のことが整理された.

1.「加温した局所だけではなく末梢の皮膚温や皮膚 血流量が上昇」また「加温した部位はさまざまであって も腸蠕動が亢進する」という効果がホットパック,蒸 しタオル,湯たんぽに共通してみられた.

2.背部・腰背部への「蒸しタオル」による温罨法で 自律神経のバランスが整えられる可能性がある.

3.温罨法の成果としての気持ちよさは,痛みやし びれなどの「症状が軽減されて気持ちいい」と,「温か いので気持ちいい」であり,皮膚に存在する温覚,圧 覚などの身体的な感覚によるものであった.

4.腰部・腹部・心窩部の温罨法は腸蠕動や排便・

排ガスに関する症状を軽減させ,下肢(足部含む)への 表 4 温罨法の効果の指標

生理学的指標の測定によるもの 生活行動や症状の自己申告と観察によるもの 温罨法の気持ちよさに関する主観的評価によるもの

<皮膚・血管>

表面皮膚温 深部皮膚温 筋肉内温度 皮膚血流量 指尖脈波 血管超音波 皮膚電気活動 日本語版便秘評価尺度

<心臓>

心拍数 血圧 脈拍

心拍変動解析・心電図

<消化器>

腸蠕動音 胃内残留量 経皮的胃電図

<呼吸器>

SpO2

<核心温>

鼓膜温 腋窩温 前額部深部温

<排便>

排便の有無 排ガスの有無 便の性状 便の回数 腹部症状 下剤の服用状況 排便までの時間

<呼吸>

呼吸困難スケール

<痛み>

痛みの程度

<睡眠>

睡眠尺度 夜間の覚醒

<出産>

乳汁分泌量

陣痛発来から子宮口開大までの時間

<気分・感情>

POMS(Profile of Mood States)

JUMACL(日本語版気分形容詞チェックリスト)

快適感覚 温熱的快感 気分尺度

<温度>

温感覚 温冷感覚

(8)

温罨法は下肢の血流を改善した.

5.温罨法の温度が高ければ(60℃以上)短時間(10

~ 20 分),緩やかな温度刺激(40℃前後)であれば長時 間(20 分~数時間)行う傾向があった.

6.温罨法の効果の指標としては,自律神経を主と する生理学的な指標が多くを占め,排便や睡眠などの 生活行動の観察や,痛みや呼吸の自覚の自己申告によ るもの,温罨法に対する主観的な評価についてはまだ 報告は少なかった.

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参照

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