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Sons and loversにおける"Wait"について

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(1)

Sons and loversにおける"Wait"について

著者 岡野 圭壹

雑誌名 主流

号 37

ページ 38‑53

発行年 1976‑09‑25

権利 同志社大学英文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014911

(2)

38 

S o n s  and L o v e r s における Wait 円について

岡 野 圭 萱

Sons αnd Loversは作者 D.H. Lawrenceの自叙的小説といわれてい るが9 この作品の第一部と第二部とでは,かなり異質な点が見られる.第 一部では,村落共同体ともいえる Bestwoodの炭坑村の theBottomsで の生活を中心に, Morel家の生活記録がリアルに描写されている.それは Morel夫婦の起伏の多い生活, 長男 Williamの出世と死, Paulの成長 といったように展開されていく.炭坑労働者として,過労と低賃金の恵ま れぬ状態にある Morelを一家の柱として頼る MrsMorelや子供らが,

如何に生活の貧困の苦汁をなめ,愛の葛藤にもがきつつ生きて行くかとい う生々しい生活の足跡が主に描かれている.一方,第二部になると,次男 のPaulをとりまく家庭や社会の枠組は第一部より広くなる.そして彼が 成長するにつれて,性への欲求が強まり,恋人の Miriamや Claraと彼 の母親を交えた複雑な関係から起こる愛の相殖が中心となる. この第二 部では Paulを中心に人物の意識や感情の変化などの内面的なものが,

Lawrence特有のリアリステイヅクな,明快な,柔軟性に富んだ文体で描 かれている.

第一部に見られる Morel家の悲劇的状況はこの作品の基調となってい る1が,そこに漂う情感は悲哀に満ちたものである. この悲哀については 二つに分けて考えるのが妥当である. 一つは Morel家での人間関係か ら来るものであり,他の一つは, PaulとMrsMorel, Miriam, Claraと の愛の相互[に見られるものである.前者は主に第一部で,後者は第二部で

(3)

Sons and Loversにおける vVait"について 39  見られる.

作品の理解には,作者の思想、や主張を適確に把握することが必要である が,この作品では特に作者の苦悩に,そしてそれが作品に与える悲哀に満 ちた情感に注意が向けられなければならない.そしてそれを理解するには,

その苦悩や悲哀をよく伝えると思われる言葉にも注意が払われなければな らない.では,その言葉は一体何であろうか.その言葉を手がかりに,少 しでも作品の核心に近づこうとするのが,この小論の目ざす所である.

その言葉を考えるにあたって, Lawrenceが作品を書く動機となったも のを考察してみなければならない.彼は自分自身を描くということと同時 に,恵まれずしてその生を終えた愛する母親の一生を描きたいという強い 願いがあったであろう.彼にとって自己を描くということは同時に母親を 描くことになったのである.それほどに彼は母親との幹は強く,自己の苦 悩を作品の上に吐露することにより,息子として死に,作家として新たな 世界へ生まれ出ずる必要があったのである.従って,当然のことながら,

作品の展開は生まれ出ずる天才作家の若き日の苦悩を描くといった形をと る.そして,その苦悩が悲哀に満ちた情感を作品に漂わすのである.

この作品に見られる悲哀は,愛情が離反していく Morel夫婦に見られ るように,登場人物おのおの特有の本質的なものとか,本来の個性や人間 性といったものが尊重されないでおり,未だ充実した生の実現を見ていな いということから発するように思われる. それは MrsMorelがいう I wait, and what 1 wait for can never come." (Italics  mineJ2という言 葉に代表されるが,登場人物,特に Morel家の人々は, いつも何か満た

されぬ思いを抱き,より良い明日を待ち望んでいるように思われる.

従って, wait円という言葉こそが9 作品に見られる悲哀に満ちた情感 を最も表わすものといえる. 作品の中で用いられている wait"の用問 は「待つ」という意味が大半であるえ 最も多く用いられているのは Mrs Morelに対してである.息子であり恋人である WilliamやPaulに期待

(4)

40  Sons and Loversにおける Wait"について

し, そしてその期待が最終的に裏切られてしまう母親 MrsMorel‑‑彼 女が作品に占める比重が大きいだけに, wait"している彼女の姿が大き く浮彫りにされてくる. wait"の意味は OEDによると, toremain  for a time without something expected or promised"であって,満た されていない状態にあるζとである.

このように, wait"という単一の語を通してでも,作品との車接の関 連においてその意味をとらえて行くことができれば,それは作品研究の基 礎的作業としても意義がある上に,作品の特質と同時に, Lawrenceの特 質をも見出す乙とができるのではないかと思われるのである.以下作品の 第一部と第二部に亙って, 作品における wait円のもつ意味と働きとを 採っていきたい.

Mrs Morelは結婚して8年目に theBottomsに引越して来た.その頃 は,既に夫婦の愛情にひびが入っていた.二人の子持である上に,今度は 三人目の子を出産する予定で,その事を考えてもみじめな気持になり,こ の世は物寂しい場所に思えてくるのであった.頼みとなるはずの夫Morel は居酒屋で給仕をしながら楽しんでいる (He was extraordinarily  pleased  with himself

, 

because  of  his day's  helping  to wait in  the  Moon and Stars.)  [Italics  mineJ  (p.  14)祭から帰った Wil1iamは次 の様に父親のことを母親にいう.

'Has my dad been?'  he asked.  'No,'  said  the  mother.  'He's  helping to wait at  the Moon and Stars.  1 see him through that  black tin stuwi'holes

, 

on the  window

, 

wi'  his  sleeves  rolled  up.' [Italics  mineJ (pp. 11‑12) 

母親は息子に 1お父さんはね,お金を全然持っていないのよ.だから

(5)

Sons and Loversにおける Wait"について 41  手当をもらえば,それ以上もらわなくても満足なんだよ.Jと説明する.

Morelは給料が少い上に仕事が激しく過労となるので, 給仕をしながら でもビーノレにありっき,疲れを癒す.同時に家庭での憂さを晴らそうとす る.彼には給仕する必然性があるのである.しかし彼が酔って帰ると,夫 婦の喧嘩が始まる.その様な日々を過ごす MrsMorelのやるせない不満 は I私,待つわ. 待ってもだめでしょうけれどJ(p. 13)という独語に 出ている.こζには,祭から家族連れで幸福そうに帰っていく善良なよそ の夫を,横目で見詰める彼女の心境が,表現されている.彼女は娘時代の 夢や希望を捨てがたく,現実の悲哀にくれる. 居酒屋で給仕してくwait) いた夫が帰って来て, I俺を待っているのかい.J (Waitin' for m巴, lass?)  (p. 14)という. 妻は家に居て,家事育事に精出しているのに,夫は酔っ ぱらって帰って来る.そして度々,喧嘩が,どちらかが死の一歩手前にく る迄の凄まじい血の闘いがなされる.

そういう夫でありながら, もともと働き者で,やさしい一面を持ってい る Morelは,妻に早起きさせないで, 自分から朝食の支度をする.その 間,妻は目がさめていても,寝床にいる. (When she  could  not  sleep,  his wife lay ωaiting for this time

, 

as for a period of  peace.) [Italics  mineJ  (p.  38).  しかし不機嫌な時には,彼は妻に当る.特に,酔って帰

った時はそうである.

'What are you doing

, 

clumsy

, 

drunken fool?'  the mother cried.  'Then tha should get the flamin' thing thysen.  Tha should get  up, like  other women have to, an' wαit  on a man.'  'Wait on  you一ωait0 you?' she cried.  'Y es

, 

1 see myself.'  'Yis

, 

an'  1'11  learn thee tha's got to Waiton me

, 

yes

, 

tha  sh'ltταlit  on  me ... ' 'Never, milord.  I'dτ:vait on a dog  at  the  door  first.'  (Italics  mine J (pp. 52‑53) 

(6)

42 

s o

andLoversにおける Wait"について

ここには waiton" (給仕する〉がふんだんに使われている これは失 われつつある妻の愛を,夫が求めているのである.

子供達は,父親が夕方,居酒屋へ行くのを待っている (Thechildren  τvaztedin restraint during his pr&!parations.  When he had gone

, 

they  sighed with relief.) (ItaliωmineJ (p.  57).その子供達でも,父親が,

母親の財布から6ペンスを持出した事を, 母親に問い詰められて家出し た時は, 泣き出すのである. 夫に二度と会わないのは救いだと思う Mrs Morelも待っている.(Mrs Morel was waiting.)  (p. 59)次のヲ

l

用文に は,一日の仕事が終っても,帰らないで,炭坑の垢にまみれたまま9 居酒 屋で酒を飲んでいる Morelを待つ妻子の状況がよくでている.

Then Paul ran anxiously into the kitchen.  The one candle  stm  burned on the  table, the  big :fIre  glowed  red.  Mrs Morel sat  alone.  On the hob the  saucepan  steamed;  the  dinner‑plate  lay  waiting on the  table.  All  the  room was full  of  the  sense  of  waitg

waiting for  the  man who was sitting  in  his  pit‑dirt

, 

dinnerless, some mile away from home, across the darkness, drink ing himself  drunk. ••• The minutes ticked away.  At six  o'clock  still  the cloth  lay  on the  table

, 

still  the  dinner  stood waiting

, 

still  the  same sense  of  anxiety  and  expectation  in  the  room. 

The boy could not stand it any longer. [Italics mineJ (pp.79‑80).  母子の Morelを待つ不安な気持が, waiting"という語を通してよく感

じられる Morel家にみられるこういった waitingevenings円の雰囲 気は,作品に一層哀感や緊迫感を漂わせ,作品の第一部の特徴となってい

4

Mrs Morelは,夢や希望をもはや夫に託すことが出来ないので, 子供 に夢を託す.子供の成長が唯一の楽しみとなる.(She was a woman who 

(7)

Sons and Loversにおける Wait"について 43  waited for her children to  grow up.)  (pp. 88‑89).既に, Williamは Nottinghamで仕事についている.今や,彼に代わって Paulが母親と の交わりを深めている. 母親が外出先から帰るのを, Paulは心待ちして 、る.

Paul was waitingfor  her.  He loved  her  home‑coming.  She  was always her best 80 ‑ triumphant, tired, laden  with  parcels,  feeling  rich  in  spirit.  He heard  her  quick

, 

light  8tep  in  the  entry and looked Up from his drawing. [Italics mineJ (pp.95‑96)  母親と Paulは,母親が買って来たものを見て,楽しい一時を過ごす.

そんな時 Londonにいる Williamがクリスマスに帰ってくることに なり,家族は協力して歓迎の準備に取り掛かる.興奮して,皆はまるで気 が狂ったかの様になる Morel家の人々にとって, 長男の Williamが Iρndonから地方の炭坑町の坑夫の家へ,立派な若者となって帰って来る ことは,彼らの誇りであり,大きな喜びであるa 村人達も,彼の出世振り を見に来るほどである.何よりも母子を喜ばすのは,満たされぬ日常生活 が,興奮と喜びに包まれることである.恐らく,待つ喜びと興奮を,これ ほど痛烈に読者に訴える箇所は,本文には他にないであろう.次の

5 1

用文 にも,待つ状況が心にくいばかりのリアリスティックな筆致で描写されて いる.

Everybody was mad with e玄cItement. William was coming on  Christmas Eve. Mrs Morel surveyed  the  pantry.  There  was a  big plum cake, and rice  cake, jam tarts, lemon tarts, and mince‑ pies ‑ two enormous  dishes.  Everywhere  was decorated.  The  kissing bunch of berried holly  hung with  bright  and glittering  things, ••• A great五re roared.  There  was  a scent  of  cooked 

(8)

44  Sons and Loversにおける WaIt"について

pastry.  He was due at seven o'clock

, 

but he would be late.  The  three children had gone to meet him. ...  'What time dost say he's  coming ?'  Morel asked for  the  fifth  time....Goodness

, 

man!'  she said.  'You're like  an ill‑sitting  hen.'  'Hadna you better be  gettin' him summat t'eat  ready?'  asked  the  father.  'There's  plenty of time,'  she answered, turning crossly in  his  chair.  She  began to  clear the table.  The kettle was singing.  They waited  and waited. Cltalics  mine 

(pp. 101‑102) 

兄を迎えに駅迄行っている三人の弟や妹らも 1時間半も遅れた列車を待 っている.(Sti1l they waited in the dark and cold.)  (p. 103)  William  が玄関に着いた時,母親はドアに二三歩走りより,待つのであった.(The  mother  ran  a few steps  towards  the  door  and  waited.)  (p. 104)  Williamの帰宅は家庭の中のすきま風を,一時でも防いでくれる.喜びの

うちに,母親の不満も消え, 彼女の Williamへの愛を一層かき立てるの であった.

Morelは, 不注意な上に, 危険に対して無頓着であるから, よく怪我 をした. 彼が, 脚を複合挫骨して,病院に担ぎ込まれた時, Mrs Morel  は看病に出かけるが,背後から, herson's heart waiting on her" (p.  108)を感じる.母親が帰宅すると,子供らは父の容態を聞こうと,かた ずを飲んで言葉を待つ.(The children waited in silence.)  (p. 109)父 親の怪我を心配する気持が, この waitin silence"に込められている.

ζれは子供達に,父親への愛情があるというよりも,むしろbreadwinner として,父親は大事な人なのだという方が妥当であろう.父親がいない方 が家庭は楽しし父親が間もなく退院するという時には,彼らはつまらな いと思う{立だからである.

Paulが母親と Jordan製作所へ,就職の面接に出向いた帰りに,食堂

(9)

So dLoversにおける WaIt"について 45  に入る彼女が干ぶどうタートを一つ注文した時にも,彼らは待つ.

So the mother and son waited for  the  girl's  pleasure

, 

whilst  she :flirted  among the  men.  'Brazen  hussy!'  said  Mrs Morel  to Paul.  'Look now, she's taking that man his pudding, and he  came long after us.' ...  Mrs Morel was angry.  But she  was too  poor

, 

and her orders were too meagre

, 

so that  she  had not  the  courage  to  insist  on her  rights  just  then.  They waited  and  waited. [Ita1ics  except his mineJ (pp.  122‑123) 

更に母親は, W ehave waited quite 10ng enough," (p.  123)と主張す る.彼女のその冷やかさは,長年の苦闘の生活の結果,身についたもので あると Pau1は知る.母親は,長年待たされているという意識から,被害 者意識が強くなっているのであろう.彼女が貧しい生活を強いられている 事は,黒ぶどうを見ていう次の言葉が充分に語っている.

Now

, 

just  look  at  these  black  grapes!'  she  said.  ' They  make your mouth water.  I've waI1ted some of  those  for  years,  but 1 s'l1  have to wait a bit  before  1 get  them.  [Ita1ics  mineJ  (p.  123) 

Mrs More1は, WilliamとPaulが位に出る事によって,彼女が待っ ているものを実現してくれるだろうと期待している Pau1が Jordan製 作所に初出勤の時にも, 待つというイメージがある 二人の男性が出勤 する迄30分間, Hewaited and waited." (p.  128)であり,更に,仕事 の 前 に も Hesat on his stoo1 nervously awaiting the arrival of his  'boss 円.'(p.129)である. この様に, wait"という語の中に,仕事に 従事する Paulの不安と期待が込められているのである.

女工も工場で

i

動いているが, Thereal woman never seemed to  be 

(10)

46  Sons aπd Loversにおける "¥Vait"について

there at  the task

, 

but as if  left  out

τ:vaiting." (Italics mineJ (p. 141)  と思われる.こζでいう「真実の女性」とは,母親のことであろう.Paul  が12時間もの勤務を終えて帰宅すると, His  mother  sat waiting for  him rather anxiously." [Italics  mineJ (p.  136)とある様に, 今や母と 子は, 待ちつ待たれつ円の関係にある

Londonに住む Williamは結婚問題に行き詰まる彼は依然として,

母親との腐れ縁につながれていて,彼の行く手には,死の世界が待ってい る.出世の道をめざしながら,皮肉にも,ホワイトカラーの象徴ともいえ るカラーのために,あごの下に出来た傷が原因で丹毒にかかり,肺炎にも かかって死の床につくa 電報を受取った母親は, Londonへ急行するが,

Nottinghamで一時間近くも待たされる.

She had to wait in Nottingham nearly an hour.  A small五gure in her black bonnet, she was anxiously asking the porters if they  knew how to get to Elmers End.  The journey was three hours.  She sat in her corner in  a kind of stupor, never moving. [Italics  mineJ (p.  168) 

簡潔な文体で書かれているこの引用文には,待たされていらいらする Mrs Morelが,不安な気持をじっと我慢している様子がよく出ている.看病す るほどの事もなく死んだ Williamをふびんに思う母親の帰りを待つのは,

The boy waited." (p.  171)とある様に, Paulである固 そして棺に入 っている Williamを待つのは, Downthe middle of the cleared room  ωaited six chairs, face to  face."  [Italics  mine J (p.  172)とある様に,

もはや肉身ではなく,部屋の中の六脚の椅子なのである。

この様に, 第一部では, Morel家の人々に, wait"というイメージ が濃厚に感じられる. 即ち Morelには, waiton円(給仕する〉が,

母と子には, wait"(待つ〉が主に用いられている. これが第一部に見

(11)

So andLoversにおける Wait"について 47  られる特質で, 作品に哀調や緊迫感を与えるのに成功している. 更に,

Paulの成長期における家庭やその人間関係を, 如実に, そして具体的に 読者に伝えるという大きな役割を果たしているのである.

作品の第二部に入ると, wait円というイメージは,第一部と趣を異にし て, Paulを囲む女性関係の中に感じられる.Wil1ey Farmに住むMiriam は,彼女の母親と同じく,神秘主義的な物の考え方をし,宗教的な女性で ある.徴妙な親密さと,自然のものに対する共通の感情から始まったPaul とlVIiriamの恋愛は, 精神的な色彩が強かった. しかし Paulが生命そ のものになっている母親にとって

r

愛を吸いとって,それで自分を一杯 にしなければ承知しないJ (p. 268) Miriamは,妻子きな女性で、はない.母 親は Miriamに嫉妬して, You only want me to wait on you ‑ the  rstis  for Miriam.円(p.261)と嘆く.それでも愛の最深部は,やはり母 親のものだった. Paulは, Miriamとは友達以上にはなれない. 彼の魂 は母親と共にあったからである.そのため彼は,彼女との交際を断つ決心 をする.絶交を告げられた彼女は,その理由を説明されるのを根気よく待 つより他なかった.

She τvaited in silence

, 

sadly

, 

patiently・Itwas no good  being  impatient with him.  At any rate, he would tell  her  now what  ailed him. ...  He was so wearying. There was something he would  not  yield.  Yet she  must  be  patient  with  him. (Italics  mine 

(p. 271) 

wait"するには9 patient"でなければならない.彼女の「待つ」気持 は持続する.Paulは WilleyFarmが好きなので, よく出かけたが,披 女とは余り一緒にならない.人生を宗教というかすみの中でとらえ,尼の

(12)

48  Sons and Loversにおける Wait"について

様な女性として, 孤独な生活を送る Miriamは, She waited.…She  was nearly always alone, walking, pondering  in  the  wood, reading,  studying, dreaming, waiting." [Italics  mineJ (p.  278)といった様に,

Paulを待つのである.

Miriamは, Paulが生きて行くには,自分が必要であるζとを信じてい る.彼女は,高尚なものに対する欲望と,もっと低劣な性質の欲望が, Paul  に併存していて, 前者が後者に勝つと信じている. だから, she could  simply trust to  theβdure." [Italics mineJ  (p.  280)なのである. ここ でいう trustto  the future"は, wait"と同じ意味と考えられる.

そういう信念で Miriamは PaulをClaraに会わせる. Claraは夫 の Dawesと別居している30歳の女性である Paulはいつも彼女の美し い身体の線に気をヲ

l

かれていた.彼は彼女と肉体関係に迄入るが,精神は やはり彼女のものにはならない. Miriamは, Claraが彼にとって大きな 魅力であるにせよ,きっと彼は彼女の所へ戻って来るに違いないと信じて,

ただ待つばかりである. [""待つ」という事には,それだけの理由と期待が ある.次の引用文がそれに対する説明をしているのである.

. .

  still  she was certain  that  the  best  in  him would triumph.  His feeling for Mrs Dawes ...  was shallow and temporal, compared  with his love for herself.  He would come back to  her, she was  sure; with some of his young freshness gone

, 

but  cured  of  his  desire  for  the  lesser  things  which other  women than  herself  could give him.  She could bear all if he were inwardly true  to  her and must come back. (p.  337) 

Miriamは, Paulが comeback円することを wait円する. 従って,

∞me back円は wait円と内容的に関連している.作品に comeback" 

という言葉が頻出するのは当然であろう.

(13)

Sons and Loversにおける Wait"について 49  Paulは Miriamの祖母の家で Miriamと二人で留守番をしている 時, 肉体関係を結ぶ. それでも二人の仲は好転しない. 1 want us to  break off ‑ you be freofme, 1 free of you." (p.  360)とPaulが 宣 言しても,彼が Claraにあきれば,彼は自分の所へ戻ってくると Miriam は思う.母親が, shedoesn't give up hopes of you yt.円(p.366)と いうように, Miriamは彼をただ待つだけである.

'Well, leave her alone,'  replied  his  mother.  So he  left  her,  and she was alone.  Very few people cared for her

, 

and she for  very  few  people.  She  remained  alone  with  herself,ωaiting.  [Italics  mine 

(p.  366) 

この様に, Miriamは Paulを待つが,母親も彼を待つのである.母親 の生活は, Paulがあってこそ成り立つものであった. 彼がどこへ行って も, 彼女の心は彼と共にあった. 果たぜるかな Hehad come back to  his mother.  Hers was the stronger tie  in his life.  When he thought  round, Miriam shrank away."  (pp. 272‑273)であった strongに比較 級が使われているのは,勿論母親と Miriamを比較してのことである.母 親は, Paulを Miriamに奪われまいとして必死なのである.二人の女性 はお互いに, hewould come back"と信じながら待っている. 母親が Miriamを嫌うのは, Miriamが Paulの心を吸い取って,後に何も残さ ないという母親と同質の女性であるからである.Claraの場合には, Paul  の心を吸いとるということはない. それは花の接し方で分る.Miriamは 花に口付けして,花の心を吸い取るが, Claraは,花は摘まないで,自然 のままで見る方が良いという. この様に,母親と Miriamには, 共通性 一‑Paulを待ち, Paulの魂を吸い取り, Paulが戻ってくると信じてい る一一ーがある.

では, Claraには wait円のイメージはないか. いや, あるにはある.

(14)

50  So andLoversにおける Wait"について

彼女が, 製作所で機械を回している時, Paulは彼女に waiting"の雰 囲気を感じる.

'There  is  always  about  you,'  he  said

, 

'a  sort  of waiting.'  Whatever  1 see  you  doing, you're  not  really  there:  you are  waiting一一likePenelope when she did her weaving.' [Italics mineJ 

(p. 325) 

布を織っている Penelopeのようだというのは,夫の帰りを待つ貞節な妻 を思わせるが, Claraには, Paulの魂を吸い取ることも, Paulが必ず自 分の所に戻ってくるという自信もない. そんな彼女だから, Paulが彼女 にすべてを与えてくれないことに不満を示す.そして彼女の失に男らしさ を感じて,夫の所へ戻って行く.

Claraの母親 MrsRadfordとPaulとの会話に,蜘妹が出てくる.

A house  o'women is  as  dead  as  a house  wi'no  nre, to  my  thinkin'.  I'm not a sPider as likes a corner to  myself.  1 like  a  man about

, 

if he's only something to snap at.  CItalics  mineJ  (p.  318) 

自分の場を守って離れず,餌を待っている蜘妹のイメージこそ,MrsMorel  とMiriamに共通したものであるように思われる.Mrs Radfordの言葉 は,特に MrsMorelに当てはめて考えられる.父親の権威が失墜し,崩 壊しかかった家で最後迄死を拒み,生き続けようとする MrsMorelは,

まさに烈風で痛めつけられた巣の中で,自分の場を守る蜘昧である.日本 では「朝の蜘妹は福の神,夜の蜘妹は親と思っても殺せ」といわれている が, Paulは,少年期に慈愛深かりし母親が, 盲目の愛に魔性を秘めてく

る晩年への変化をよく見て,母親を安楽死へと向かわぜたといえよう.

作品の終りに近い第14章に,解放 (TheRelease")という章がある.解

(15)

Sons and Loersにおける Wait"について 51  放とは,母親の血の紳から Paulが自由になることである.解放される前

には待たなければならない.Paulには母親の死が待たれる. 母親の病気 は,心臓の発作が時々起きるということで,以前から予測されているが,

腹部の腫物でやせ表えてしまう 医者の診察を受けに行くが, 待合室に は多数の女の人々が待っている.母親も同様に待つ.二人の医者に往診し てもらっている時, Paulらは心配して待つ (waiting in  the  parlour  anxiously)  (p.  456)医者は, we must wait and see (p.456)  とい

って様子を見る.Mrs Morelはなかなか死なない.死のうとしないつ いに Paulは Arthurと相談して,母親にモルヒネを多量にミルクに入れ て飲ます.二人は口を大きく開け9 荒々しく,苦しそうに息をしている母 親の枕元で待つ.

Annie huddled into th dressing‑gown,Paul  wrapped  himself  in a brown blanket.  1t  was three o'c1ock.  Hmendedthe五re. Then the two sat waiting.  The great, snoring breath was takn

‑ held awhile ‑ then given back.  There was a space  a long  space.  Then they started. ...  He bent c10se down and looked  at  h(;")r. (Italics  mineJ (p.  481) 

Paulは待つことに耐えられなくなる.(He could not bear it ‑ the wait

ing.)  (p.  482)死を待つのは悲しいことであるが,笑って母親の安楽死を 決意した二人には,彼女のがんによる死亡後,一種安堵感が得られる.彼 女の死後, Paul ~;J:まるですべてを奪われたかの様に, 復女の死の世界に かり立てられる.しかし彼女の安楽死に見られる様に,母親への反抗心を 培う彼の自我,意志力によって9 彼女の死の世界から,生の世界へと歩も うとする.作品の最後のパラグラフは,それを描写したものである10 母 親の死を待つということが, 結果的に, Paulを生の世界へ歩まぜること になったといえよう.

(16)

52  Sons and Loversにおける 1Tait"について

この様に, 第一部と第二部と共に wait"は作品展開の基調となって いる.第一部では, Mrs Morelを中心に,満たされぬ望みと,歪められ た家庭生活及び人間関係を, wait円という期待と不安の入り交じった心 理状態の中で,うまく表現している.第二部では, Paulを中心として,母 親と Miriamの関係を wait"という状態の中で, うまくとらえている.

作者 Lawrenceは, wait"という語を通して9 作品に哀調を漂わせ,

緊迫感を与えて,作者の苦悩の半生と同時に,母親の恵まれぬ一生を描こ うとしたのである.いいかえれば, wait"の持つ普遍的な意味内容が,

Lawrence独特の個性的表現を通して,含蓄のある,生きたものになり,

作品に一種独特の哀調を与える.この様に, wait月という単一の語の中 に, この作品の特質, ひいては Lawrenceの特質の一端が見られるので ある。

これについては, 拙論

i W

息子と恋人』の悲劇一ーモレル夫人にみられる機械 文明による破壊性の視点より一一J(W ロレンス研究~ No. 3, D. H.ロレンス研 究会, 1975), pp. 31‑49を参照されたい.

D. H. Lawrence, Sons and Lovers (Penguin Books, 1973), p. 13.  以下,

同テキストからの引用は本文に頁数のみ記す.

3 その他の用例には, waiton" (to  minister to  the comfort  of;  to  accom‑ pany on on'sway)がある.

4 Lawrenceの妹Adaも次のように当時のことを述懐している.Ada Lawrene

and G. Stuart Gelder, Young Loreπzo (New York, Russll Russell, 1966),  pp. 2526. Mother would wait up for  him, at  night, her  rage  sething, until on his arrival it  boiled over in a torrent of biting truths which turned  him from his slightly fuddled and pleasantly apologetic mood into  a brutal  and coarse beast.  With palpitatirtg hearts we waited until he came to  bed,  knowing that not until  then could we safely sleep." 

5 Sons and Loers,p.  128,At eigl:u o'clock he  climbe

r

the  dismal  stairs  of Jordan's Surgical Appliance Factory, and stood helplessly against th己五rst great parcel‑rack, waiting for somebody to  pick him up." (ltalics  mine.) 

(17)

S sand Loversにおける Wait"について 53  6 Ibid., pp. 143‑144, Mrs Morel clung now to Paul.  He was quiet and not 

brilliant.  But still  he stuck to  his  painting, and still  he stuck to his mother.  Everything he did was for her.  She waited  for  his  coming  home in  the  evening, and then she unburdened herself of all  shhadpondered, or of all  tha t had occurrεd to  her during  the  day...Th two shared  lives." (I talics  mine) 

7 彼が婚約者の MissWesternを連れて帰った時にも, wait"という語は使 われている.(p. 147, p. 149, p. 150)彼女が浅薄で,知性がないために 2人の 仲は余りうまく行っていない.母親は3 彼らは別れるだろうと思川様子を見守

る. Shewaited, and she kept Paul near to  her. (p.166) 

8 Mrs Morelの病気も長年待たされ続けて, いらいらしたことに一因がある と考えられる Barbara Weekly Barrは Lawren伎の母親について, His  mother died in  herftiesof  cancer, a disase Lawrence  told  me ζusually  caused  by  fret '."  Stephen  Spender (ed.), D. H  Lawreπce  (New York,  Harper Row, 1973), p.  22.といっている.

She did not consεnt to  die; she would not."  (p. 477)  この引用文には,

彼女が満たされずして生を終えなければならない悔しさと,それ故に一層強い生 への執着が感じられる.

10 Ibid., p. 511.尚,The Rainbowの結末に, Ursulaが人間関係の葛藤を超え て,大地にかかった虹の中に,大地の新しい建築3 生ける「真理」の構造の上に 築かれていく世界の姿を見て,大いなる望みを抱くとL、う場面がある Paulも Ursulaも, trust  to  the future"という点では共通している. それは Lw‑

renc己の作品によく見られる一つのパターンとなっている.

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