北畜会報 41 : 86-89, 1999
粗飼料主体飼養下での給与飼料の炭水化物組成と乳生産との関連
時 国 光 明 ・ 中 辻 浩 喜 ・ 近 藤 誠 司 ・ 大 久 保 正 彦
北海道大学,札幌市 060-8589R
e
l
a
t
i
o
n
s
h
i
p
b
e
t
w
e
e
n
c
a
r
b
o
h
y
d
r
a
t
e
component i
n
d
i
e
t
and m
i
1
k
p
r
o
d
u
c
t
i
o
n
on h
i
g
h
r
o
u
g
h
a
g
e
f
e
e
d
i
n
g
s
y
s
t
e
m
Teruaki TOKITA, Hiroki NAKATSUJI, Seiji KONDO, Masahiko OKUBO Faculty of Agriculture, Hokkaido University, Sapporo 060-8589 キーワード:粗飼料,炭水化物組成,乳生産 Key words : roughage, carbohydrate component, milk production
要 約
飼料の炭水化物組成の違いが乳生産に及ぽす影響を 検討するため, 1984年から 1992年まで、行ったエネル ギー出納試験の結果を用い,構造性炭水化物および非 繊維性炭水化物と乳生産との関連について検討した. 構造性炭水化物量は NDFの分析値を用い,非繊維性 炭水化物(NFC)は差し引き法によって算出した.183 例のデータを給与した飼料に基づき,主にコーンサイ レージを給与した区(CS),放牧地草とコーンサイレー ジを給与した区(PC),放牧地草とグラスサイレージを 給与した区(PG)の3区に区分した.飼料のエネルギー 消化率および代謝率は,各区ともほぼ同程度であった. M E摂取量の増加に伴つ FCM量の増加の様相は各区 で異なっていた.同程度のM E摂取量ではPGに比べ PCのFCM量が多く,また, CSではM E摂取量が高 まると FCM量の増加割合が小さくなる傾向を示し た.FCM量はNDF含量が高まるに連れて減少する傾 向にあった.NFC含 量 が 高 い 場 合 , 全 体 と し て は FCM量が多かったが, NFC含 量 が 低 い 場 合 で も FCM量が高い例が見られた.NFC/NDF比が高くな ると FCM量は増加する傾向にあった.緒 百
反努家畜は主に飼料中の炭水化物を基質としたルー メン内発酵によって産生される VFAをエネルギー源 としている.反努家畜である乳牛を飼養する上で,特 にこの炭水化物の利用が重要で、ある.飼料中の炭水化 物は,ルーメン内で、の発酵が比較的遅い構造性炭水化 物と発酵が早い非繊維性炭水化物 (NFC)に分けられ る.濃厚飼料主体飼養下では, NFCとNDFの 比 受 理 1999年 2月 22日(NOCEK and RUSSELL, 1988)や粗飼料からのNDF (FNDF)とルーメン内分解性澱粉(RDS)の比(POORE
e
t
al.,
1991; POOREe
t
α1.,
1993 A ; POOREe
t
al.,
1993B)によって乳量が異なることが報告されている. しかし,粗飼料を主体とした飼養条件下での報告はな そこで,本報告では粗飼料構成と乳生産との関連を 明らかにするため,粗飼料主体飼養下でこれまでに 行ったエネルギー出納試験の結果を解析し,飼料成分, 特に炭水化物組成の面から検討した.材料および方法
解析には北海道大学において, 1984年から 1992年 までに泌乳牛を用いて行った 183例のエネルギー出納 試験の結果を用いた.飼料給与基準は日本飼養標準の 養分要求量に基づき,維持および、13kg乳生産に必要 な養分を粗飼料から, 13 kgを上回る分を濃厚飼料で 補った.183例のデータを,給与粗飼料の種類に基づ き,主にコーンサイレージを給与した区(CS),放牧地 から刈取った生草(以下放牧地草という)とコーンサ イレージを給与した区 (PC),放牧地草とグラスサイ レージを給与した区 (PG)の3区に区分した.各区と もこれらの飼料の他に,乾草と乳量に応じた濃厚飼料 を給与していた.NDF含量を構造性炭水化物含量と した.NFC含量は, VAN SOESTe
t
al.,
(1991) の総 説の中で示された式をもとに,次式によって算出した. NFCニ100-(NDF+protein+fat十ash)結果および考察
各区の例数はCSが66例, PCが35例, PGが82例 であった.平均産次はおよそ2.8産であり,平均体重 は 620~660kgであった. 表 1に各区の平均乾物摂取量と飼料成分組成を示し-86-を示した.飼料のエネルギー消化率は65%前後,代謝 率は 55%前後と各区とも消化率および代謝率はほぼ 同程度であった.ME摂取量は CSが最も高く PGが 最も低い値であった.平均FCM量は, PCが最も高 かった.乳生産のエネルギー粗効率(GEE)も, PCが やや高く, PGが低い傾向を示した. 図1にME摂取量と FCM量との関係を示した.各 区とも FCM量 はME摂 取 量 の 増 加 と と も に 多 く なったが,ME摂取量が多くなると,データの分布も広 くなる傾向にあった.区ごとにみると,同程度のME 摂取量の場合ではPGに比べ,PCのFCM量が多い傾 向にあった.また, CSではME摂取量が高まると, FCM量の増加割合は小さくなる傾向がうかがえた. 図
2
,3
にはそれぞれ,ルーメン内での発酵が遅い と考えられる NDF含量およびルーメン内での発酵が 早いと考えられる NFC含量と FCM量の関係を示し た.全体としてNDF含量が高まるにつれてFCM量 は減少する傾向にあり,一方, NFC 含量が高い場合 は全体としてFCM量が高くなる傾向にあったが, NFC含量が低くても FCM量が高い例がいくつか見 られた.これらは飼料摂取量が多く, NFC含量が低く ても NFC摂取量が高かったためと考えられた.また, 図4にはNFC/NDF比と FCM量の関係を示した. NFC/NDF比が高くなると FCM量 が 増 加 す る 傾 向 にあったが, PCではNFC/NDF比 が 高 く な る と FCM量の増加割合が低くなる傾向にあった.放牧飼 養区である PCお よ びPGでは NFC含量と FCM量 との関連が少ないことから,放牧飼養ではコーンサイ レージ主体飼養に比べNFC以外の要因も乳生産に寄 飼料の炭水化物組成と乳生産 飼料乾物摂取量および成分組成 表1 た.平均乾物摂取量は, CSが最も高く, PGが最も低 かった.各区の粗飼料割合は, 62~74% であった.飼 料全体の成分組成をみると, CP含 量 はPC,PGで 15%前後, CSは12.7%とCSが他の区に比べてやや 低い値であった.NFC含量は, CS, PCでは35%を越 えていたのに対し,PGでは 25.6%とイ民い値であった. 一方, NDF含量ではこれとは反対に, CS,PCが37% 程度であったのに対し, PGは45.2%と高い値であっ た 表2
にエネルギー消化率,代謝率および乳生産成績 PG 16.7土3.0 74.0土8.6 15.2土1.3 25.2土7.3 45.5土6.6 PC 18.8::1::2.7 62.3::1::9.2 14.4::1::1.8 35.8士3.8 38.0士4.2 CS 19.3土 3.2 72.5土11.5 12.7土1.7 38.7土 6.8 37.7::1::7.2 乾物摂取量 (kg/d) 粗飼料割合(%) CP含量(%) NFC含量(%) NDF含量(%) Mean::tS.D. エネルギー消化率,代謝率および乳生産成 績 表2 PG 67.2::1::4.1 56.3士 4.0 176.7::1::38.3 18.3::1::5.1 32.8::1::7.5 PC 64.7::1::4.3 53.7土 4.0 187.9士37.4 24.0土 6.0 40.9士 6.4 CS 63.8::1::5.2 53.8士 5.0 194.4::1::42.4 23.3士7.4 37.4土 8.0 消化率(%) 代謝率(%) M E摂取量(MJ/d) FCM量 (kg/d) GEE (%) Mean::tS.D. GEE:乳生産のエネルギー粗効率 y=
0.0003x2 -0.0086x+ 11.514 R2=
0.4314 0 45ー
ー
ー
,
0:C5 問 問 口:PC ・ーー, ~:PG。
n u 凋 司 令 叫oa
+ =d
t
n u n UR
¥
¥
1
一 一
v e。
企 A ロ。
。
色 ロ 。。
A 企。
y=ー0.0001i
+ 0.1848x -5.4632 R2 = 0.6579 40 30 民 u n u 勾 '﹄ n t (司¥凶ぷ)酬 2 0 L 15 35 企 10 5 350 300 250 200 ME摂取量(MJ/d) 150 100 0 50 ME摂取量と FCM量との関係 -87-図1時田光明・中辻浩喜・近藤誠司・大久保正彦 A ー圃圃ー,O:OS 回出期,ロ:PO 圃 園 岨 ,..d.:PG
。
45 40 15 20 35 30 25 ( 司 、 必 ) 咽 2 0 L y = 0.0397i -4.0646x+ 119.3 R2=
0.2805 10 5 65 60 55 50 40 45 NDF含量(%) 35 30 25 0 20 飼料のNDF
含量とFCM
量との関係 図2 45。
。
A O。
A h O A A A/~ン
R2=
0.2067 A A 40 30 民 d n u h t n L ( ℃ ¥ 豆 ) 咽 2 0 L 35 15 10ー
ー
ー
,
O:OSロ
:PC ・・・,..d.:PG A A 5 50 45 40 35 30 NFC含量(%) 20 15 10 5。
。
飼料のNFC
含量とFCM
量との関係 -88-図3飼料の炭水化物組成と乳生産 45 40 35
。
d. E》にτ三t酬L 2 ョ25 20 15 10 5。
d.。
∞
00 口。
。
ーー, Q:CS 間都中,口:PC "・・, ..d.: PG 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80NFC/NDF
比 図4 飼料のNFC/NDFとFCM量との関係 与しているものと考えられた.N OCEK and RUSSELL (1988)は,濃厚飼料主体の泌 乳 牛 飼 養 方 式 でNFC/NDF比 の 最 適 な 範 囲 は 0.9~ 1. 2 であると述べており,また POORE et al. (1993 B)はFNDF:RDSが1: 1であれば乳量を減 少させることなく飼料の代替が可能であると述べてい る.しかし,本試験の結果では濃厚飼料主体時でいわ れているような NFC/NDF比の至適範囲は見られな かった.このことは,濃厚飼料主体時と粗飼料主体時 ではNFC/NDF比が乳生産に与える影響が異なるこ とを示している.粗飼料主体時では濃厚飼料主体時に 比べ,その物理性の違いから飼料成分によるルーメン 内発酵の変化にともなう pHやVFA組成などの違い が小きかったためと考えられる.一方,粗飼料主体時 でも,同程度のM E摂取量であっても炭水化物組成の 違いによってFCM量が異なるということが示唆され た.したがって本試験のような粗飼料を主体とした飼 養方式下で飼料構成を考える場合,ルーメン内発酵へ の影響も含め炭水化物の組成,すなわち NFC/NDF 比について考慮する必要があると考えられた. 文 献
N OCEK,
J
.
E. andJ
.
B. RUSSELL (1988) Protein andenergy as an integrated system. Relationship of ruminal protein and carbohydrate availability to microbial synthesis and milk production.J. Dairy Sci., 71: 2070-2107.
POORE, M. H., J. A. MOORE, R. S. SWINGLE, T. P. ECK, and W. H. BROWN (1991) Wheat straw or alfalfa hay in diets with 30% neutral detergent fiber for lactating Holstein cows.
J
.
Dairy Sci., 74: 3152-3159.POORE, M. H., J. A. MOORE, R. S. SWINGLE, T. P. ECK, and W. H. BROWN (1993A) Response of lactating Holstein cows to diet varying in fiber source and ruminal starch degradability.
J
.
Dairy Sci., 76: 2235-2243.POORE, M. H., J. A. MOORE, T. P. ECK, R. S. SWIN-GLE, and C. B. THEURER (1993B) Effect of fiber source and ruminal starch degradability on site and extent of digestion in dairy cows.
J
.
Dairy Sci., 76: 2244-2253.VAN SOEST, P.