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中央大学大学院理工学研究科情報工学専攻

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中央大学大学院理工学研究科情報工学専攻

修士論文

路線バスの遅延を考慮した旅行時間の

信頼性の評価

An Experimental Study on Reliability of Travel Time of

Local Buses Running in a Congested Road Network

入学年度

2004 年

学籍番号

04N8100036J

水本 剛四郎

Goshiro MIZUMOTO

指導教員 田口 東 教授

2006 年 3 月

(2)

概要

本研究では,遅延を考慮したダイヤグラムをネットワークで表現し,遅延を考慮した ダイヤグラムと時刻表通りのダイヤグラムとの旅行時間および旅行経路を比較するこ とで,旅行時間の信頼性を評価する. 路線バス交通は,近年の自動車交通の増加に伴い,交通渋滞,交通事故などの影響を 受けて,時刻表通りの運行が難しくなっている.特に,都心部においては,頻繁に遅延 が起きている.その結果,路線バス利用者は,遅延を考慮し,時間に余裕を持って路線 バスを利用せざるをえなく,利便性が損なわれている.そこで,本研究では,遅延が路 線バス利用者の旅行時間にどのような影響を与えているか分析する. 都営バスと京都バスのバスロケーションデータを用いて,路線バスの運行状況を示す ダイヤグラムを作成する.作成したダイヤグラムを基に,遅延時間を算出する.さらに, 算出した遅延時間と駅間の周辺の土地利用を基に,重回帰分析を行い,遅延時間推計モ デルを構築する. 次に,関西圏の路線バス会社8 社の路線バスと鉄道の時刻表に基づく,路線バス・鉄 道の時空間ネットワークを構築する.そして,遅延時間推計モデルを関西圏の路線バス 会社8 社に適用し,遅延を考慮した路線バス・鉄道の時空間ネットワークを構築する. 構築した二つのネットワーク上に,路線バス利用者のサンプルOD を移動させ,旅行時 間と旅行経路を算出する.そこで,路線バスの遅延が路線バス利用者に及ぼす影響を旅 行時間の信頼性という観点で評価する. キーワード:時空間ネットワーク,バス輸送,遅延時間推計モデル,旅行時間

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目次

第1 章 序論... 1 1.1 研究の背景...1 1.2 研究の目的...2 第2 章 遅延特性分析... 4 2.1 使用データ...4 2.1.1 バスロケーションデータ(都営バス) ...4 2.1.2 バス位置情報(京都バス) ...5 2.2 路線バスの遅延特性 ...6 2.2.1 ダイヤグラムの作成方法(都営バス) ...6 2.2.2 ダイヤグラムの作成方法(京都バス) ...8 2.2.3 時刻表の特徴...10 2.2.4 停留所間の遅延時間 ...12 2.3 遅延時間推計モデル ...13 2.3.1 重回帰分析 ...13 2.3.2 細密数値情報(10m メッシュ土地利用)...14 2.3.3 遅延時間推計モデルの構築 ...15 第3 章 ネットワークモデル ... 18 3.1 路線バスネットワーク...18 3.2 路線バス時空間ネットワーク ...20 3.2.1 概要 ...20 3.2.2 単一路線内のネットワーク ...21 3.2.3 路線バス内の乗り換えネットワーク ...22 3.2.4 路線バス・鉄道間の乗り換えネットワーク ...24 第4章 関西圏の路線バスへの適用... 27 4.1 シミュレーションの設定 ...27 4.1.1 遅延時間を考慮した路線バス・鉄道時空間ネットワークの構築 ...27 4.1.2 サンプル OD の設定 ...28 4.1.3 旅行時間の信頼性の評価基準...29 4.2 シミュレーションの結果 ...33

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4.2.1 旅行時間の信頼性の評価 ...33 4.2.2 旅行経路の信頼性の評価 ...42 4.3 都心郊外別のシミュレーション結果 ...49 4.3.1 サンプルの設定 ...49 4.3.2 乗車時間の評価 ...49 4.3.3 旅行経路の信頼性の評価 ...52 第5章 結論 ... 57 5.1 まとめ...57 5.2 今後の展望...58 謝辞... 59 参考文献... 60 付録A... 62 付録B... 64 付録C... 67 付録D... 69

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1 章

序論

1.1 研究の背景

自動車の発達や生活環境の変化などに伴い,交通行動において自動車による交通の重 要性は年々増加している.しかし,多くの都市において道路交通を中心とする交通需要 が急激に増加し,交通渋滞,交通事故などが多発しており,公共交通に多大な悪影響を 及ぼしている. このような影響を受け,路線バス交通は,運行が大きく乱れ,時刻表通りに運行され ないことが多くなっている.また,運行の定時性が保たれていないことより,路線バス の利便性が損なわれ,路線バス利用者が減少しているのが現状である.そこで,各路線 バス会社は,利便性を少しでも向上させるために,リアルタイムに路線バスの運行状況 がわかるバスロケーションシステムを開発した.バスロケーションシステムの一例とし て,都営バスのバスロケーションシステムを図1.1 に示す.図 1.1 より,リアルタイム に路線バスがどの停留所間を運行しているかがわかる.バスロケーションシステムより, 路線バス利用者は,乗りたい路線バスのリアルタイムな運行状況を携帯電話やPC から 取得できるようになった.また,乗りたい路線バスに遅延が生じている場合でも,その 停留所での待ち時間が減少するという利点がある.しかし,都心部では,頻繁に遅延が 生じているため,路線バス利用者は時間に余裕を持った経路を選択する必要があり,利 便性が損なわれている. バス位置情報を用いた研究では,ワンステップバスが乗降時間と運行時間に与える影 響の分析[7],路線バスの定時性の評価[8],路線バスの運行特性の分析と運行管理の高 度化に関する研究[9],一般道路の交通改善事業とバス位置情報の活用可能性の評価[10] などがある. 本研究で対象とする関西圏の路線バスは,首都圏の路線バスと運行本数を比較すると, 全体的に少ないのが特徴である.関西圏の高頻度に路線バスが運行されている区間にお いて遅延が生じた場合,時刻表からの遅れが,そのまま期待旅行時間からの遅れとなる わけではない.例えば,運行間隔が5 分である路線バスにおいて,その路線の全ての路 線バスに5 分の遅延が生じた場合,路線バス利用者は,1 本前の路線バスに乗車するこ

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とができるため,必ずしも期待旅行時間の遅れにつながるわけではない.しかし,関西 圏の低頻度に路線バスが運行されている区間の場合,時刻表からの遅れが,そのまま期 待旅行時間からの遅れとなり,他路線への乗り換えにも影響を及ぼす.そこで,非常に 正確に運行される鉄道ネットワークと組み合わせた場合に,路線バスがどの程度使える のかを知ることは興味深いことである. 図1.1 都営バスのバスロケーションシステム

1.2 研究の目的

本研究では,遅延を考慮したダイヤグラムをネットワークで表現し,遅延を考慮した ダイヤグラムと時刻表通りのダイヤグラムとの旅行時間および旅行経路を比較するこ とで,旅行時間の信頼性を評価することを目的とする.まず,都営バスと京都バスのバ スロケーションデータより,運行状況を示すダイヤグラムを作成する.そして,時刻表

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と運行状況を示すダイヤグラムの停留所間の所要時間より,遅延時間を算出する.算出 した遅延時間と停留所間の周辺の土地利用を基に,重回帰分析を行い,遅延時間推計モ デルを構築する.停留所間の周辺の土地利用は,細密数値情報(10m メッシュ土地利用) から取得する. 次に,関西圏の路線バス会社8 社の路線バスと私鉄(以下,鉄道という)の時刻表に基 づき,路線バス・鉄道の時空間ネットワークを構築する.また,遅延時間推計モデルを 関西圏の路線バス会社8 社に適用し,遅延を考慮した路線バス・鉄道の時空間ネットワ ークを構築する.構築した二つのネットワーク上に,路線バス利用者を移動させ,旅行 時間と旅行経路を算出する.そこで,路線バスの遅延が路線バス利用者に及ぼす影響を 旅行時間の信頼性という観点で評価を行う.

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2 章

遅延特性分析

2.1 使用データ

2.1.1 バスロケーションデータ(都営バス)

都内の路線バスの運行状況を把握するために,東京都交通局のホームページ[1]に掲 載されている都営バスの運行状況から,1 分毎に 6:00∼24:00 間の都営バスのバスロケ ーションデータ(以下,都営バスデータという)を取得する.都営バスデータは,路線バ スが何時何分にどの停留所間で運行しているかを1 分毎に把握できる. 対象期間は,2005 年 5 月 9 日(月)∼5 月 13 日(金)の 5 日間とする.23 区内を運行す る8 路線 102 停留所を対象とする.対象路線バスでは,1 日 669 本のバスが運行され ている.対象路線バスの運行区間と本数を表2.1 に示す.さらに,図 2.1 に,対象路線 バスの路線図を赤線で示す. 都営バスデータは,停留所の停車時刻,路線バスの車両番号を把握できないという欠 点がある. 表2.1 都営バスの対象路線バス 系統名 運行区間 平日の運行本数(本) 学02 高田馬場駅前−早大正門 200 橋63 小滝橋車庫前−新橋駅前 45 飯64 小滝橋車庫前−九段下 59 池65 江古田2 丁目−池袋駅東口 69 上69 小滝橋車庫前−上野公園 60 高71 高田馬場駅前−九段下 39 宿74 新宿駅西口−東京女子医大前 66 池86 渋谷駅東口−池袋駅東口 131

(9)

池袋駅 高田馬場駅 上野駅 渋谷駅 図2.1 都営バスの対象路線図

2.1.2 バス位置情報(京都バス)

京都市内の路線バスの運行状況を把握するために,京都バスのバス位置情報(以下, 京都バスデータという)を用いる.京都バスデータは,GPS より,路線バスの位置情報 を取得したものであり,車両番号,日付,時刻,経度,緯度がわかる. 京都バスデータの対象期間は,2005 年 4 月 7 日(月)∼4 月 12 日(金)の 5 日間とする. 京都駅周辺を運行する10 路線 63 停留所を対象とする.対象路線では,1 日 158 本の バスが運行されている.対象路線バスの運行区間と本数は,以下の表2.2 に示す. 京都バスデータは,都営バスデータに比べて,より詳細なデータが取得できるが,停 留所の停車時刻がわからないこと,データの欠損が多いことが欠点である. 図 2.2 に,京都バスデータのデータ取得の時間間隔(ある車両番号の京都バスデータ を取得してから次の同車両番号の京都バスデータを取得するまでの時間のことをいう) をヒストグラムで示す.対象は車両番号027428 の路線バスとする. 図2.2 より,京都バスデータのデータ取得の時間間隔には,ばらつきがあることがわ かる.全体の85%以上がデータ取得の時間間隔が 1 分以内であるが,不定期に京都バ スデータが取得されていることがわかる.

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表2.2 京都バスの対象路線バス 系統名 運行区間 平日の運行本数(本) 京7111 京都駅前−大覚寺 18 京7211 京都駅前−清滝 19 京7311 京都駅前−苔寺すず虫寺 20 五8111 京都駅前−大覚寺 10 五8311 京都駅前−苔寺すず虫寺 13 京7110 大覚寺−京都駅前 17 京7210 清滝−京都駅前 18 京7310 苔寺すず虫寺−京都駅前 20 五8110 大覚寺−京都駅前 10 五8310 苔寺すず虫寺−京都駅前 13 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0∼ 102030405060708090∼ 10 0∼ 11 0∼ 12 0∼ 13 0∼ 14 0∼ 15 0∼ 16 0∼ 17 0∼ 18 0∼ 19 0∼ 20 0∼ 22 0∼ 30 0∼ 10 00 ∼ 更新時間(秒) 更 新回数 図2.2 データ取得の時間間隔 データ取得の時間間隔(秒)

2.2 路線バスの遅延特性

2.2.1 ダイヤグラムの作成方法(都営バス) 本節では,都営バスデータを用いて,都営バスの運行状況を示すダイヤグラム(以下, 都営実ダイヤグラムという)を作成する.2.1.1 節で述べたように,都営バスデータは, 路線バスの車両番号と停留所の停車時刻はわからないので,都営実ダイヤグラムを作成 するために,各路線バスに車両番号を与え,停留所の停車時刻を定めることが必要であ る. 本研究では,以下の方法で都営実ダイヤグラムを作成する.

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<都営実ダイヤグラムの作成方法> Step1. ある系統の 1 日の都営バスデータより,路線バスが何時何分にどの停留所にい るかという情報(以下,バス位置情報という)を時刻順に並べる. Step2. 時刻順に,それぞれの時刻において,終着停留所に近いバスから順に車両番号 を割り振る.このときの車両番号は,前時刻において,ある停留所間を運行し ていたバスは,それより,手前の停留所間に戻ることはないということに注意 して,可能な限り小さな番号から割り振る. Step3. 車両番号ごとに,バス位置情報をまとめ時刻順にソートする. Step4. 車両番号ごとに,前後の時刻のバス位置情報を比べて,異なる停留所間を運行 していた場合,後の時刻をそれらの間の停留所の停車時刻とする. Step5. Step4 で定めた停留所の停車時刻より,都営実ダイヤグラムを作成する. 表2.3 に,Step1 でのバス位置情報の抽出例を示す.また,路線バスは,停留所 A か ら停留所F 間を運行しているとする. 表2.4 に,Step2 での車両番号の割り当て結果を示す.まず,7:00 に AB を運行して いる路線バスは,車両番号1 を与える.7:01 に,路線バスが CD を運行している.前 時刻にAB を運行していた路線バスが,CD を運行しているとし,同じ車両番号を割り 振る.7:02 に,路線バスが DE と AB を運行している.前時刻に CD を運行していた路 線バスが,AB を運行していると手前の停留所間に戻ることになるので,DE を運行し ているとし,同じ車両番号を割り振る.AB を運行している路線バスは,車両番号 2 を 与える.7:03 に,路線バスが EF と BC を運行している.前時刻に DE を運行していた 路線バスが,BC を運行していると手前の停留所間に戻ることになるので,EF を運行 しているとし,同じ車両番号を割り振る.7:04 に,路線バスが CD を運行している. 前時刻BC を運行していた路線バスが,CD を運行しているとし,同じ車両番号を割り 当てる.さらに,前時刻にEF を運行していた路線バスは,7:04 に EF を運行していな いので,終着駅に到着したとする.以上のように車両番号を割り当てていくと,表2.4 のようになる. 都営バスデータより,作成した5 月 9 日(月)の都営実ダイヤグラムの 1 日の運行本数 と平日時刻表の運行本数を比較したグラフを図2.2 で示す. 図2.3 より,都営実ダイヤグラムの1日の運行本数と平日時刻表の運行本数を比較す ると,ほとんど差がないことがわかる.都営実ダイヤグラムの作成方法では,95%以上 の路線バスのダイヤグラムを作成できる.

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表2.3 バス位置情報(○:路線バス) 停留所間\時刻 7:00 7: 01 7:02 7:03 7:04 7:05 7:06 EF ○ ○ DE ○ CD ○ ○ ○ BC ○ AB ○ ○ ○ 表2.4 路線バスの車両番号 停留所間\時刻 7:00 7: 01 7:02 7:03 7:04 7:05 7:06 EF 1 2 DE 1 CD 1 2 3 BC 2 AB 1 2 3 0 50 100 150 200 250 学02 橋63 飯64 池65 上69 高71 宿74 池86 系統名 運行本 数 5月9日運行本数 平日時刻表運行本数 図2.3 1 日の運行本数の比較 2.2.2 ダイヤグラムの作成方法(京都バス) 本節は,京都バスデータを用いて,京都バスの運行状況を示すダイヤグラム(以下, 京都実ダイヤグラムという)を作成する.2.1.2 節で述べたように,京都バスデータは,停 留所の停車時刻がわからないので,京都実ダイヤグラムを作成するために,停留所の停車 時刻を定めることが必要である. 本研究では,京都実ダイヤグラムを作成するために,京都バスデータより,車両番号,

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日付,時刻,経度,緯度を用いる.さらに,京都バスの停留所の緯度・経度(以下,京都停 留所データという)を用いる.本研究では,京都バスデータと京都停留所データの緯度・経 度を平面直角座標系に変換して用いる.以下に京都実ダイヤグラムの作成方法を示す. <京都実ダイヤグラムの作成方法> Step1. 京都バスデータを日付別に分割し,車両番号毎に京都バスデータをまとめ,時 刻順にソートする. Step2. 車両番号ごとに,各時刻の位置から,系統京 7111 の各停留所までの距離を算 出する.その中で,距離が最小になった停留所ID とその距離を京都バスデー タに付加する.ただし,最小距離が1km 以上の場合は,停留所 ID を 0 とする. Step3. 車両番号ごとに,系統京 7111 の京都停留所データの停留所 ID 順に停留所 ID が割り振られている京都バスデータがあるかマッチングを取る.マッチングが 取れた京都バスデータは,系統京7111 を運行していたとし,その京都バスデ ータを抽出する. Step4. 抽出された京都バスデータの中で,同じ停留所 ID を付加された京都バスデー タがあるとする.その中で,最も短いユークリッド距離のデータを付加された 京都バスデータが持つ時刻を停留所の停車時刻と定める. Step5. Step2∼Step4 を全京都停留所データについて行い,京都実ダイヤグラムを作 成する. Step3 で,途中で停留所 ID0 が付加されている,途中で停留所 ID の順序が逆転をす る場合は,マッチングが取れないとする.また,途中で停留所ID が抜けている場合で も,出発停留所ID と終着停留所 ID が付加されている場合は,マッチングが取れると する. 京都バスデータより,作成した4 月 7 日の京都実ダイヤグラムの 1 日の運行本数と 平日時刻表の運行本数を比較したグラフを図2.4 に示す. 図2.4 より,京都実ダイヤグラムの1日の運行本数と平日時刻表の運行本数を比較す ると,各系統で2∼4 本の差が生じているのがわかる.京都実ダイヤグラムの作成方法 では,80%以上の路線バスのダイヤグラムを作成できる.

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0 5 10 15 20 25 7111 7211 7311 8111 8311 7110 7210 7310 8110 8310 系統名 運行 本数 4月7日運行本数 平日時刻表運行本数 図2.4 1 日の運行本数の比較 2.2.3 時刻表の特徴 本研究では,2.2.1 節と 2.2.2 節で作成した都営実ダイヤグラムと京都実ダイヤグラム (以下,実ダイヤグラムという)を用いて,遅延時間の解析を行う.遅延時間の解析を行 うには,実際の路線バスの時刻表が必要である.時刻表は,東京都交通局のホームペー ジ[1]と京都バスのホームページ[2]に掲載されている時刻表より,手作業で作成した. 本節では,都営バスと京都バスの時刻表の特徴を分析する.都営バスと京都バスの時 刻表より,出発停留所から終着停留所までの所要時間(以下,系統所要時間という)を算 出し,系統所要時間の比較を行う.図2.5 と図 2.6 に,都営バス系統池 86 の渋谷駅東 口発池袋駅東口行きと京都バス系統京7211 の京都駅前発清滝行きの始発バスから終発 バスまでの系統所要時間を示す.

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図2.5 池 86 の系統所要時間 図2.6 京 7211 の系統所要時間 0 10 20 30 40 50 60 70 所要 時間 (分 ) 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 70 60 50 40 30 20 10 0 0 10 20 30 40 50 60 70 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 17 18 19 21 22 所要 時間 (分 ) 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 図2.5 と図 2.6 より,都営バスは,時間帯によって系統所要時間の変化が著しいこと がわかる.また,13 時∼17 時の昼の時間帯に系統所要時間が長く設定されていること がわかる.昼の時間帯に系統所要時間を長く設定していることより,朝と夜の時間帯に 比べ,昼の時間帯に交通状況の悪化(主に交通渋滞)が起こりやすいと推測できる.しか し,京都バスは,全時間帯において系統所要時間にあまり変化がないことがわかる.

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2.2.4 停留所間の遅延時間

本節では,停留所間の遅延時間を算出し,どのような要因に影響を受けて遅延が生じ るかを分析する.2.2.1 節と 2.2.2 節で作成した実ダイヤグラムより,ある停留所と次 停留所の停車時刻の差を取り,各停留所間の所要時間を算出する.例えば,停留所A の停車時刻が9:00,次停留所 B の停車時刻が 9:02 である場合,停留所 AB 間の所要時 間は,2 分とする.同様に,時刻表の各停留所間の所要時間を算出する.停留所間

i

の 遅延時間 i c は,停留所間の所要時間を用いて,以下の式(2.1)で定義する.

=

=

ni i i i i i i

t

t

d

n

c

1

1

(2.1) 停留所間 の実ダイヤグラムの所要時間 延時間 は,路線バスが1 分間運行する時に生じる遅延時間を表す.図 2.7 に,都営 i d :

i

:停留所間

i

の時刻表の所要時間 i

t

:停留所間 の路線バスの運行本数

i

i ni c バスの系統池86 において算出した各停留所間の遅延時間と時刻表の平均所要時間を示 す.図2.8 に,京都バスの系統京 7111 において算出した各停留所間の遅延時間と時刻 表の平均所要時間を示す.池86 と京 7111 以外の算出結果は,付録 A に示す. 渋谷駅東口 宮下公園 神宮前6 表参道 神宮前1  千駄ヶ谷小 北参道 千駄ヶ谷5 新宿4 新宿伊勢丹 日清食品 東新宿駅 大久保通り 新宿コ ズ ミ ッ 障害センター 習院女子大 高田馬場2 学習院下 千登世橋 東京音楽大 南池袋3 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 時間(分 ) 停留所間 遅延時間 所要時間 図2.7 池 86 の遅延時間

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京都駅前 烏丸七条 烏丸五条 烏丸松原 四条烏丸 四条大宮 壬生寺道 四条中振動 西大路四条 西大路三条 山之内 庚申前 蚕の社 太秦東口 太秦広隆寺 太秦開町 帷子辻 生田口 有栖川 車折神社前 下嵯峨 角倉町 嵐山 京福嵐山駅 野々宮 嵯峨小学校 嵯峨釈迦堂 小渕町 大覚寺 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 時間(分) 停留所間 遅延時間 所要時間 図2.8 京 7111 の遅延時間 図2.7 より,原宿・新宿・高田馬場の商業集積地周辺の停留所間,原宿駅・新宿駅・ 高田馬場駅・東新宿駅の鉄道駅周辺の停留所間で,遅延が生じていることがわかる.図 2.8 より,大覚寺・車折神社・太秦広隆寺の寺・神社周辺の停留所間,烏丸の商業集積 地周辺の停留所間,京福嵐山駅・烏丸の鉄道駅周辺の停留所間で,遅延が生じているこ とがわかる. 都営バスは,全体的に鉄道駅,商業集積地などの周辺の停留所間で遅延が生じている. 一方,京都バスは,鉄道駅,商業集積地で遅延が生じるのは都営バスと同様であるが, 寺・神社の周辺の停留所間でも遅延が生じている.停留所間の遅延時間は,周辺の土地 利用の影響を少なからず受けていることが推測できる.

2.3 遅延時間推計モデル

2.3.1 重回帰分析

本研究では,遅延時間推計モデルを構築するために,重回帰分析を用いる.重回帰分 析とは,2 変数以上の関係を分析,あるいは予測するときに有効な手法である.重回帰 分析を用いると,予測したい事柄(以下,目的変数という)と,目的変数に影響を与えて いると考えられる要因(以下,説明変数という)との定量的な関係の構造を明らかにする ことができる. ここで,変数

y

が変数xによって説明されるとき, を目的変数,

y

xを説明変数とい う.また,説明変数が2 個以上のときを重回帰分析という.重回帰分析の回帰方程式は,

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o m j ij j i x y

α

α

= + = 1

)

,

,

2

,

1

(

i

=

L

n

(2.2) i

y

:目的変数 ij

x

:説明変数 j

α

:回帰係数 と定義される[3].

2.3.2 細密数値情報(10mメッシュ土地利用)

2.2.4 節より,停留所間の遅延時間に周辺の土地利用が影響していると推測される. 遅延時間推計モデルを構築するために,対象路線バスの周辺の土地利用を把握する必要 がある.そこで,本研究では,停留所間の周辺の土地利用を把握するために,国土地理 院が刊行している細密数値情報(10mメッシュ土地利用)を用いる. 細密数値情報は,約5 年毎に行われた過去 4 回の宅地利用動向を基に作成された土地 利用に関する数値情報である.この調査は,首都圏,中部圏,近畿圏について実施され, 土地利用の現況及び変更状況について調査したものである. 本研究では,首都圏(1994 年版)と近畿圏(1996 年版)の細密数値情報を用いる.首都 圏に関しては,首都圏整備法に基づく首都圏の主要部約 8300km2の地域を対象とし, 近畿圏に関しては,近畿圏整備法に基づく近畿圏の主要部約 3600km2の地域を対象と している. 細密数値情報の位置表現は,平面直角座標に基づいたメッシュ区画で行われており, それぞれの圏域で設定された長方形のメッシュ(東西 4km×南北 3km)毎にデータが記 憶されている. 細密数値情報は,10mメッシュの土地利用データと行政区域データで構成されている. 土地利用データは,表2.3 で示した 17 種類の土地利用に分類し,コード化したデータ である.

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表2.3 土地利用分類表 コード 土地利用分類 定義 01 山林・荒地等 樹林地,竹林,篠地,笹地,野草地(耕作放棄地を含む), 裸地,ゴルフ場等 02 田 水田,季節により畑作物を栽培するもの 03 畑・その他の農地 畑,果樹園,桑園,茶園,牧場,牧草地,畜舎等 04 造成中地 住宅造成,埋め立て等の目的で人工的に土地の改変が 進行中の土地 05 空地 現在利用されていない土地,駐車場,テニスコート等 06 工業用地 工場用地,またそれに付随する倉庫,原料置き場,厚 生施設等 07 一般低層住宅地 3 階以下の住宅用建物からなり,1 区画あたり 100 ㎡ 以上の敷地より構成されている住宅地 08 密集低層住宅地 3 階以下の住宅用建物からなり,1 区画あたり 100 ㎡ 未満の敷地より構成されている住宅地 09 中高層住宅地 4 階以上の中高層住宅の敷地からなる住宅地 10 商業・業務用地 百貨店,飲食店,映画館,宿泊施設,事業所等 11 道路用地 有効幅員4m 以上の道路,用地買収済の道路用地 12 公園・緑地等 公園,動植物園,墓地,遊園地等の公共施設及び運動 競技場 13 その他の公共施設用地 公共業務地区,教育文化施設,供給処理施設,社会福 祉施設,鉄道用地,車庫,港湾施設用地,空港等 14 河川・湖沼等 河川,湖沼,溜池,養魚場,海浜地等 15 その他 防衛施設,米軍施設,墓地跡地,演習場,皇室に関す る施設及び居住地等 16 海 海面 17 対象地域外

2.3.3 遅延時間推計モデルの構築

本節では,遅延時間は周辺の土地利用の影響を受けていると仮定し,2.3.1 節で定義 した重回帰分析の回帰方程式と10m メッシュ土地利用を用いて,遅延時間推計モデル を構築する.また,朝の時間帯から夜の時間帯において,各停留所間の遅延時間に影響 を及ぼす周辺の土地利用が異なると考え,時間帯別に遅延時間推計モデルを構築する. 時間帯は,朝(6:00∼10:59),昼(11:00∼17:59),夜(18:00∼23:59)の 3 つに区別する.

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目的変数は,停留所間の遅延時間とする.ただし,式(2.1)で定義した停留所間の遅延 時間は,1 停留所間について算出したが,目的変数に用いる停留所間の遅延時間は,連 続した4 停留所間をまとめて算出した遅延時間とする.なぜならば,遅延時間は 1 分単 位でしかわからないため,単位時間当たりの遅延時間を求める時に,駅間の所要時間の 短いと誤差が生じやすくなるからである.そこで,4 停留所間をまとめて駅間の所要時 間を長くし,遅延時間を計算することにより,誤差を小さくする.サンプル数は,朝・ 昼が 42 で,夜が 40 である.説明変数は,細密数値情報の土地利用データより,畑・ その他の農地,造成中地,空地,工業用地,一般低層住宅地,商業・業務用地,道路用 地を用い,各停留所の半径100m 以内で集計した値と停留所間の平均所要時間とする. 以上で定めた目的変数と説明変数を用いて,重回帰分析を行う.表2.4 に,重回帰分 析の分析結果を時間帯別に示す.表2.4 に示した回帰係数を式(2.2)に適用し,回帰方程 式を構築する.構築した回帰方程式を,遅延時間推計モデルという. 図 2.9∼図 2.11 に,遅延時間推計モデルより算出した停留所間の遅延時間(以下,推 計値という)と バスデータから算出した停留所間の遅延時間(以下,データ値という)を 比較する散布図を示す.縦軸に推計値,横軸にデータ値を取る.図2.9∼図 2.11 は,デ ータ値と推計値の値が近いほど,45 度の線上に点がプロットされる.修正済み決定係 数は,朝が0.4758,昼が 0.4863,夜が 0.4830 である. 図2.9∼図 2.11 より,データ値と推計値が大きくずれている箇所は,あまり見られな い. 表2.4 時間帯別の分析結果 朝 昼 夜 説明変数(単位) 回帰係数 t値 回帰係数 t値 回帰係数 t 値 畑(100 ㎡) -0.0196 -2.0708 -0.0284 -2.0968 造成(100 ㎡) -0.1089 -1.8555 -0.0802 -1.3763 空地(100 ㎡) 0.0114 2.9217 0.0086 2.0693 0.0106 2.1835 工業(100 ㎡) 0.0071 3.0111 0.0116 3.9092 0.0110 3.6642 低層(100 ㎡) 0.0029 3.2354 0.0018 1.8637 0.0035 2.9356 商業(100 ㎡) 0.0014 1.3375 0.0026 2.3254 0.0022 1.9927 道路(100 ㎡) 0.0022 1.3214 所要時間(分) -0.5488 -3.6993 -0.3313 -2.9462 -0.4265 -3.0626

(21)

-1 0 1 2 3 -1 0 1 2 3 データ値 推計値 -1 0 1 2 3 4 -1 0 1 2 3 4 データ値 推計値 図2.9 時間帯朝の散布図 図 2.10 時間帯昼の散布図 -1 0 1 2 3 4 -1 0 1 2 3 4 データ値 推計 値 図2.11 時間帯夜の散布図

(22)

3 章

ネットワークモデル

本章では,関西圏の路線バス会社8 社・関西圏の私鉄(以下,鉄道という)に対し,時 刻表通りの運行を示す路線バス・鉄道時空間ネットワークモデル(以下,時刻表ネット ワークという)を構築する.関西圏の対象とする路線バスと鉄道は,路線バスが 646 路 線4,499 停留所,鉄道が 1,006 路線(列車種別毎に路線数をカウントしている)1,022 鉄 道駅(以下,鉄道駅と停留所を駅という)で構成されている.対象路線バス・鉄道では, 平日 1 日に約 120,000 本の路線バス・電車が運行されている.総延長は,路線バスが 4,544km で,電車が 23,848km である.関西圏の対象路線バス・鉄道網を図 3.1 に示 す. 京都市バス 京都バス 阪急バス 神戸市バス 山陽バス 阪神バス 大阪市バス 0 10km 南海バス 図3.1 関西圏の対象路線バス・鉄道網

3.1 路線バスネットワーク

路線バスネットワークとは,図3.1 のような平面的なイメージの路線図に似たネット ワーク構造を持つ.単一路線のみで構成される路線バスネットワークを,図3.2 に示す. さらに,複数路線で構成される路線バスネットワークを,図3.3 に示す.図 3.2,図 3.3

(23)

において,各ノードが駅を表し,ノード間を結ぶ各リンクが路線バスによる駅間の移動 を表現している. 対象とする関西圏の路線バス会社8 社に対し,路線バスネットワークを構築する.関 西圏の路線バス会社8 社の詳細は,表 3.1 に示す.さらに,図 3.4 に,京都バスの路線 バスネットワークを示す.京都バス以外の路線バスネットワークは,付録A に示す. より詳細な分析を行うためには,乗り換え,待ち時間などを考慮することが必要であ る.しかし,路線バスネットワークでは,乗り換え,待ち時間などを表現できない.そ こで,本節で示した路線バスネットワークに,時間軸を設けることによって,ネットワ ークを3 次元に拡張し,時空間ネットワークを構築する. 図3.2 単一路線の路線バスネットワーク 図 3.3 複数路線の路線バスネットワーク 表3.1 対象路線バス会社 8 社の詳細 路線バス会社名 対象路線数 停留所数 平日路線バス運行数 阪神バス 24 186 1576 阪急バス 44 297 1799 神戸市バス 42 210 2677 京都バス 10 63 312 京都市バス 39 463 2405 南海バス 113 744 6256 大阪市バス 323 2393 24293 山陽バス 51 143 3194

(24)

0 1km 四条烏丸駅 嵐山駅 京都駅 図3.6 神戸市バスの路線バスネットワーク

3.2 路線バス時空間ネットワーク

3.2.1 概要

路線バス利用者の移動を表現するために,駅間の移動を空間的に捉えることはもちろ んであるが,空間的な移動にともなって変化する時間の進行も考える必要がある.通常, 時間の進行を考える場合,動的に問題を解く必要があるが,本研究で扱う関西圏の路線 バス・鉄道網のように,大規模なネットワークフロー問題を,動的に解くことは非常に 困難である. この問題を簡単かつ正確に解く手段を考える.ここで,時刻表通りに走る路線バスに 対しては,時間変化が離散的であることを利用して,駅ノードを路線バスの発着毎に作 り,それらの間を路線バスの駅間移動を表すリンクで結ぶことによって,乗客の動的な 流れを静的なネットワークとして表現する[4][5].そうすることで,ネットワークは, 時間軸方向に拡張され,3 次元で表現される.ここで,拡張したネットワークを時空間 ネットワークという.時空間ネットワークは,もとのネットワークに比べて大規模にな るという欠点がある.その一方で,時間軸方向の近似や乗客の集約をすることなく,駅 に到着する路線バス利用者の移動を正確に表現できるという特徴がある.さらに,構造 が大変に簡単でかつ静的であることを使ってネットワークフロー問題が高速に解ける.

(25)

3.2.2 単一路線内の乗り換えネットワーク

図3.2 に示したような単一路線のみで構成された路線バスネットワークを,時空間ネ ットワークに拡張する. 単一路線のみの路線バスネットワークを考える場合,路線バス利用者は路線バスネッ トワーク上で,以下のような行動を取ると考えられる. ・ 駅に到着して,路線バスに乗車する行動 ・ 路線バスに乗車して,次駅へ移動する行動 ・ 駅で次の路線バスを待つ行動 ・ 路線バスから降車して,路線バスの利用を終了する行動 上記で示した行動を,ネットワークにおけるノードとリンクとして定義する. 出発リンク: 駅に到着して,路線バスに乗車する行動. 到着リンク: 路線バスから降車して,路線バスの利用を終了する行動. 走行リンク: 路線バスに乗車して,次駅へ移動する行動. 待ちリンク: 駅で次の路線バスを待つ行動. 駅ノード: 各駅における路線バスの発着. 出発ノード: 路線バス利用者の路線バス利用開始. 到着ノード: 路線バス利用者の路線バス利用終了. 路線バスの到着と出発とを分けて停車状態を表すことがあるが,参照した時刻表には ほとんどの駅で1 つの時刻しか記載されていないことから,路線バスの発着を区別せず に1 つのノードで表すことにする.走行リンクと待ちリンクのリンクコストは所要時間, 出発リンクと到着リンクのリンクコストは0 とする. ここで,出発ノード,到着ノード,出発リンク,到着リンクは,各路線バス利用者に おける固有のものであるため,これらのリンクとノードは路線バス利用者によって変更 される.よって,これらを除いた図3.12 に示すようなネットワーク(以下,単一路線乗 り換えネットワークという)を構築する. 次に,単一路線乗り換えネットワークに流入する路線バス利用者に対応する出発ノー ドと,同ネットワークから流出する路線バス利用者に対応する到着ノードを付加したネ ットワークを構築する(以下,利用者ネットワークという). 各路線バス利用者は,各自固有のリンクとノードをネットワークに付加することによ り,ネットワーク上を移動することができる.出発ノードは,路線バス利用者の路線バ ス利用開始時刻と路線バス利用開始駅(以下,出発駅という)で定義され,出発リンクは,

(26)

出発ノードから乗車可能な全ての駅ノードへのリンクと定義する.また,到着ノードは, 利用者の路線バス利用終了駅(以下,到着駅という)で定義され,到着リンクは,到着駅 を表すすべてのノードから到着ノードへのリンクと定義する.図3.13 に,単一路線の 利用者ネットワークを示す. 時 刻 走行リンク 待ちリンク 駅ノード 図3.12 単一路線乗り換えネットワーク 走行リンク 時 刻 待ちリンク 出発リンク 到着リンク 駅ノード 出発ノード 到着ノード 図3.13 単一路線の利用者ネットワーク

3.2.3 複数路線内の乗り換えネットワーク

前節で説明したネットワークは,単一路線のみを対象とした.しかし,本研究で対象 とする路線バス網は,複数の路線が結びついて構成されているため,「他路線への乗り 換え」を考慮する必要がある.路線バス利用者の乗り換え行動をネットワーク上で表現 するために,3.2.2 節で定義したリンクに加え,乗り換えリンクを以下のように定義す る.

(27)

乗り換えリンク: 路線バスから降車して,他路線へ移動する行動. 図 3.14 に示すように,単一路線乗り換えネットワークを乗り換えリンクによって複 数結びつけることにより,複数路線の乗り換えネットワークを構築することができる (以下,複数路線乗り換えネットワークという). 走行リンク 路線 待ちリンク 路線 駅ノード(路線 A) 時 刻 ( A) 走行リンク 路線 待ちリンク 路線 駅ノード(路線 B) ( B) ( A) ( B) 乗換リンク 図3.14 複数路線乗り換えネットワーク 乗り換えは,異なる2 本以上の路線が停車する駅,徒歩で移動が可能な駅対において 行われる.乗り換え可能な駅対における乗り換えリンクのリンクコストは,駅間の距離 を時間に換算して与える.乗り換え可能な駅対の座標を,それぞれ(x1,y1),(x2,y2)とし たときの駅間の移動時間は,

(

)

40

2 1 2 1

x

y

y

x

+

(秒) (3.1) する.駅対の座標は,単位を 秒とする緯度・経度で表す.式(3.1)の 40 という 度の1 と 1/1000 値は,約分速55m を,緯度・経 秒の距離を25m とした値である[6].乗り換え リンクコストは,式(3.1)で求められる駅間の移動時間に,移動後の駅で次の路線バスが 到着するまでの待ち時間を加算した値とする.

(28)

乗り換え可能な駅対における乗り換えリンクは,移動元の駅のノードから,移動先の ネットワークを構築する.図 3.15 に,神戸市バスの路線バス時空 駅のノードのうち式(3.1)で求めた駅間の移動時間を加えて間に合う最も早いノードへ のリンクとする. 以上より,時空間 間ネットワークを示す. 図3.15 京都バスの路線バス時空間ネットワーク

.2.4 路線バス・鉄道間の乗り換えネットワーク

3.2.3 節では,路線バスの複数路線までの時空間ネットワークを構築した.しかし, ス鉄道間リンク: 路線バスから降車して,電車へ移動する行動 図 3.16 に示すように,複数路線乗り換えネットワークにバス鉄道間リンクを付加す る

3

本研究では,図3.1 で示したように路線バス網に鉄道網が結びついて構成されているた め,「電車から路線バスへの乗り換え」,「路線バスから電車への乗り換え」を考慮する 必要がある.路線バス利用者の路線バスから電車への乗り換え行動・電車から路線バス への乗り換え行動をネットワーク上で表現するために,3.2.2 節,3.2.3 節で定義したリ ンクに加え,バス鉄道間リンクを以下のように定義する. バ 電車から降車して,路線バスへ移動する行動. ことによって,鉄道網を結びつけることが可能になり,路線バスと鉄道を統合した乗

(29)

り換えネットワーク(以下,路線バス・鉄道間乗り換えネットワークという)を構築する ことができる. 図3.16 路線バス・鉄道間乗り換えネットワーク 走行リンク(バス A) 時 刻 走行リンク(バス B) 走行リンク(鉄道) 乗り換えは,3.2.3 節で示した条件で同様に行われる.バス鉄道間リンクコストは, 式 道間リンクは,移動元の駅のノードから,移動先 の ットワークを構築した.図3.17 に,本研究で対象とする関西圏 路 (3.1)で求められる駅間の移動時間に,移動後の駅で次の路線バス・電車が到着するま での待ち時間を加算した値とする. 乗り換え可能な駅対におけるバス鉄 駅のノードのうち式(3.1)で求めた駅間の移動時間を加えて間に合う最も早いノード へのリンクとする. 以上より,時刻表ネ 線バスと鉄道の時刻表ネットワークを示す. 待ちリンク(バス A) 待ちリンク(バス B) 駅ノード(バス A) 乗換リンク 駅ノード(バス B) バ 待ちリンク(鉄道) 駅ノード(鉄道) ス鉄道間リンク

(30)
(31)

4 章

関西圏の路線バスへの適用

4.1 シミュレーションの設定

4.1.1 遅延を考慮した路線バス・鉄道ネットワークの構築

3 章では,時刻表通りに運行する路線バス・鉄道時空間ネットワーク(時刻表ネットワ ーク)を構築した.本節では,遅延を考慮したダイヤグラム(以下,遅延ダイヤグラムと いう)で運行する路線バス・鉄道時空間ネットワーク(以下,遅延ネットワークという) を構築する.それぞれのネットワークの鉄道は,時刻表通り運行しているとする. まず,2.3.3 節の遅延時間推計モデルを関西圏の路線バスに適用し,関西圏の路線バ スの駅間の遅延時間 を推計する.駅間

i

の遅延を考慮した所要時間 は, i c di i i i i

t

t

c

d

=

+

×

(4.1) i c :駅間

i

の遅延時間の推計値 i

t

:駅間 の時刻表の所要時間

i

と定義する.式(4.1)で算出された遅延を考慮した駅間の所要時間を用いて,遅延ダイヤ グラムを作成する.図4.1 に,推計した駅間の遅延時間をヒストグラムで示す.図 4.1 より,推計値が0 分以下である駅間は,全体の 15%である.路線バスは,駅に早着す ると駅で時間調整を行う.そこで,時間調整を考慮しないために,0 分以下の推計値を 0 分とする.さらに,駅の半径 100m 以内に 10m メッシュ土地利用がない場合,駅間 の遅延時間は0 分とする.そこで,作成した遅延ダイヤグラムを基に遅延ネットワーク を構築する. 時刻表ネットワークと遅延ネットワークの要素数の比較を行い,表 4.1 に示す.表 4.1 の駅間乗換リンクは,3 章で定義した乗り換えリンクとバス鉄道間リンクを足し合 わせたものである.表4.1 より,遅延が生じたことで駅間乗換リンクが増加し,ネット ワークの構造に多少の変化が生じていることがわかる.

(32)

∼-1 -1 ∼ -0. 5 -0 .5 ∼ 0 0∼ 0. 5 0. 5∼ 1 1∼ 1. 5 1. 5∼ 2 2∼ 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 遅延時間推計値(分) 図4.1 遅延時間のヒストグラム 表4.1 時刻表ネットワークと遅延ネットワークの比較 要素 時刻表ネットワーク 遅延ネットワーク ノード数 1,162,222 1,162,222 リンク数 2,805,640 2,807,540 停車リンク 537,455 537,455 走行リンク 581,095 581,095 待ちリンク 575,993 575,993 駅間乗換リンク 1,111,097 1,112,997

4.1.2 サンプル OD の設定

路線バス利用者の旅行時間を算出するために,時刻表ネットワークと遅延ネットワー ク上を移動する路線バス利用者のサンプル OD(以下,サンプルという)を作成する必要 がある.そこで,サンプルには,路線バス利用開始時刻,出発駅,到着駅の3 つの情報 をランダムに与える. サンプルの路線バス利用開始時刻は,朝の7:00∼8:59,昼の 11:00∼12:59,夜の 17:00 ∼18:59 の 3 つの時間帯に区別し,ランダムに与える.サンプルの出発駅・到着駅は, 「路線バス→鉄道→路線バス」「路線バス→路線バス」のような移動をする路線バス利 用者のサンプルを作成するために,路線バスの駅に限定する.さらに,出発駅は,各路 線バス会社の1 路線の各駅とする.サンプル数は,100,000 とする.出発駅として選択 した各路線バス会社の1 路線を,表 4.2 に示す.

(33)

表4.2 各路線バス会社の出発駅 路線バス会社 運行区間 運行本数(平日) 阪神バス 阪神尼崎−神戸税関前 59 阪急バス 宝塚−有馬 17 神戸市バス 神戸駅前−西丸山一丁目 80 京都バス 京都駅前−大覚寺 18 京都市バス 山越中町−京都駅前 57 南海バス 堺駅前−河内松原駅前 36 大阪市バス 大阪駅前−地下鉄門真南 81 山陽バス 垂水東口−名谷駅 57

4.1.3 旅行時間の信頼性の評価基準

本節では,旅行時間の信頼性の評価基準を定める.まず,サンプルの選択する経路は, 旅行時間が最小になるように経路(以下,最短経路という)を選択すると仮定する.最短 経路は,Dijkstra 法で算出する.そこで,サンプルが通る時刻表ネットワーク上の旅行

経路A を算出し,旅行時間 A(乗車時間 A+待ち時間 A)を算出する.次に,同じサンプ

ルが通る遅延ネットワーク上の旅行経路B を算出し,旅行時間 B(乗車時間 B+待ち時 間B)を算出する. 本研究では,旅行時間A と旅行時間 B を比較し,遅延が生じているか否か,早着が 生じているか否かで旅行時間の信頼性の評価を行う.さらに,旅行経路A と旅行経路 B が同じ旅行経路を通るか否かで旅行経路の信頼性の評価も行う. 以下に同じサンプルが遅延ネットワークと時刻表ネットワークを移動した時の旅行 時間と旅行経路の例を示す.ここで言う旅行経路とは,サンプルが通ったノード番号と する. <サンプル例> 路線バス利用開始時刻: 8:17 出発駅:a 駅 到着駅:d 駅 サンプルは,上記に示す情報を持っており,図4.2 のような時刻表ネットワーク上を 移動する.その時の旅行時間A と旅行経路 A を算出する.ノードとリンクの説明は, 図3.16 に従い,ノードの横にある数字がそのノードが持つ時間である. まず,出発駅がa 駅,路線バス利用開始時刻が 8:17 であるから,a 駅から出発する 路線バスで,8:17 以降に出発する路線バスの駅ノードに,出発ノードから出発リンク が張られる.次に,到着駅がd 駅であるから,d 駅に到着するすべての路線バスの駅ノ ードから到着ノードに到着リンクが張られる.そして,出発ノードから到着ノードまで の最短経路を算出する.図4.3 において赤色で示した経路は,旅行経路 A の最短経路を

(34)

示す.さらに,駅ノード内の数字は,ノード番号とする. 次に,同じサンプルが,図4.4 のような遅延ネットワーク上を移動する.遅延を考慮 することによって,時刻表ネットワークと多少異なるネットワーク構造を取る.その時 の旅行時間B と旅行経路 B を算出する.先程と同様に,サンプルの出発ノード,出発 リンク,到着ノード,到着リンクを張る.図4.5 において赤色で示した経路は,最短経 路を示す.表4.3 に,図 4.3,図 4.5 のように最短経路が決定した時の旅行時間と旅行 経路を示す. 鉄道 路線バス2 路線バス1 8:54 8:48 8:51 8:45 8:39 8:45 8:29 8:35 8:29 8:19 8:24 8:15 8:25 8:20 d 駅 c 駅 j 駅 i 駅 b 駅 a 駅 図4.2 時刻表ネットワーク(例)

(35)

図4.3 旅行経路 A の最短経路(例) 図4.4 遅延ネットワーク(例) a 駅 b 駅 i 駅 j 駅 c 駅 d 駅 8:23 8:28 8:18 8:33 8:27 8:35 8:29 8:45 8:39 8:45 8:51 8:48 8:54 路線バス1 路線バス2 8:38 鉄道 a駅 駅 駅 駅 駅 駅 b i j c 8 d 8:20 8:25 8:15 8:24 8:19 8:29 8:35 8:29 8:45 8:39 8:45 8:51 8:48 :54 7 8 11 12 13 14 10 6 3 9 5 2 1 4 出発リンク 到着リンク 出発ノード 到着ノード

(36)

図4.5 旅行経路 B の最短経路(例) 表4.3 サンプル例の旅行時間と旅行経路 旅行時間A(分) 31 旅行時間B(分) 32 乗車時間A(分) 17 乗車時間B(分) 24 待ち時間A(分) 14 待ち時間B(分) 8 旅行経路A 2→5→7→9→11→13 旅行経路B 1→4→7→9→11→13 利用駅A a→b→i→j→c→d 利用駅B a→b→i→j→c→d 表4.3 より,旅行時間に遅延が生じているのがわかる.遅延が生じたことにより,乗 車 経路A と 8:29 a 駅 b 駅 i 駅 j 駅 c 駅 d 駅 8:23 8:28 8:18 8:33 8:27 8:35 8:45 8:39 8:45 8:51 6 8:38 8:5 時間は増加したが,待ち時間は減少している.さらに,乗りたい路線バスより,1 本 前の路線バスに乗車でき,旅行経路にも変化が生じている.このような変化を全サンプ ルから取得し,旅行時間の信頼性の評価,旅行経路の信頼性の評価を行う. 旅行時間は,乗車時間,待ち時間の2 つから評価を行う.旅行経路は,旅行 旅行経路B で比較し,サンプルが通るノードがすべて同一な経路は「同一経路」,サ ンプルが通るノードは異なるが利用駅A と利用駅 B が同一な経路は「同一路線」,どち らも異なる経路は「異経路」の3 つに区別し,評価を行う. 表 4.3 のサンプル例の旅 行経路は,「同一路線」となる. 8:50 4 5 7 8 0 11 12 13 14 6 3 1 2 9 出発リンク 1 到着リンク 出発ノード 到着ノード

(37)

4.2 シミュレーションの結果

4.2.1 旅行時間の信頼性の評価

時刻表ネットワークと 4.1.1 節で構築した遅延ネットワーク上に,4.1.2 節で設定し たサンプルを用いて,路線バス利用者の旅行時間と旅行経路を算出するシミュレーショ ンを行う.図4.6∼図 4.8 に,シミュレーション結果を示す.縦軸は,旅行時間 B を取 り,横軸は,旅行時間A を取る.図 4.6∼図 4.8 は,対応する旅行時間のサンプル数を 色付け(赤が1番多く,青が 1 番少ない)して表示した散布図である.さらに,旅行時間 A と旅行時間 B がよく一致していれば,45 度の線上に点がプロットされる.サンプル は,出発駅を神戸市バスの神戸駅前∼西丸山一丁目とし,路線バス利用開始時刻は,3 つの時間帯別に作成したものを用いる. 図4.6 朝の旅行時間の散布図

(38)

図4.7 昼の旅行時間の散布図

(39)

図4.6∼図 4.8 より,全体的に大きなばらつきがあり,旅行時間の信頼性が損なわれ ているのがわかる.旅行時間が長くなると遅延の影響を強く受けてしまうため,ばらつ きが大きくなる.また,旅行時間B は遅延を考慮しているため,旅行時間 A に比べて 旅行時間が長くなるはずであるが,実際そうではないこともある.その原因は,後で述 べる. 時間帯別で見ると,昼が3 つの時間帯の中で,45 線より上の位置に青以外で表示さ れている範囲が1 番広い.昼の時間帯が,遅延を生じやすく,最も旅行時間に信頼性を 保つことが難しいことがわかる.2.2.3 節より,昼の時間帯は,交通状況の悪化が起こ りやすいと推測できる.そのことより,昼は旅行時間の信頼性を保つことが難しいとい う結果は,妥当な結果であると考えられる. 次に,旅行時間にばらつきがある原因を追究するために,旅行時間を乗車時間と待ち 時間に分割し,比較を行う.図4.9∼図 4.11 に,時間帯別に乗車時間の散布図を図 4.6 ∼図4.8 と同様な形式で示す.図 4.9∼図 4.11 は,縦軸に乗車時間 B を取り,横軸に 乗車時間A を取る.図 4.12∼図 4.14 に,時間帯別に待ち時間の散布図を図 4.6∼図 4.8 と同様な形式で示す.図4.12∼図 4.14 は,縦軸に待ち時間 B を取り,横軸に待ち時間 A を取る. 図4.9 朝の乗車時間の散布図

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図4.10 昼の乗車時間の散布図

(41)

図4.12 朝の待ち時間の散布図

(42)

図4.14 夜の待ち時間の散布図 乗車時間と待ち時間の散布図を比較すると,待ち時間は,ばらつきが非常に大きいの に対し,乗車時間は,待ち時間と比べて,ばらつきがあまり大きくないことがわかる. そのことから,旅行時間のばらつきの主な原因になっているのは,待ち時間であること がわかる. そこで,待ち時間にばらつきが起こる原因を追究する.まず,都内の路線バスと比べ, 対象とする関西圏の路線バスには,路線バスの運行本数が少ない地域が多く存在する. そのため,路線バスの運行に遅延が生じることにより,路線バス利用者は乗りたい路線 バスに乗れず,次の路線バスに乗るために長い時間待つことが起こりえる.しかし,路 線バスの運行に遅延が生じることにより,本来乗ることができなかった路線バスに乗れ ることがあり,長く待つことなく乗車できることもある.そのことより,待ち時間が急 激に増加したり,減少したりしてばらつきが大きくなっている. 次に,乗車時間に注目する.今回のシミュレーションの設定で,遅延ネットワークに は,マイナスの遅延時間を与えていない.それにもかかわらず,乗車時間B が乗車時 間A と比べて,短いことが多くある.その原因を探るために,乗車時間を同一経路, 同一路線,異経路の3 つに分割して比較を行う. 図4.15∼図 4.17 に,同一経路,同一路線,異経路別の乗車時間の散布図を示す.散 布図は,図4.6∼図 4.8 と同様な形式で示し,朝の時間帯を対象とする.縦軸は,乗車 時間B を取り,横軸は,乗車時間 A を取る.

(43)

図4.15 同一経路の乗車時間の散布図

(44)

図4.17 異経路の乗車時間の散布図 図4.15 より,同一経路は,ほぼ 45 度線上に多くの点がプロットされており,45 度 線上に青以外の色が目立つ.乗車時間は,遅延の影響をあまり受けていない. 図4.16 より,同一路線も,45 度線付近に多くの点がプロットされているが,同一経 路に比べ,遅延の影響を受けているのがわかる.しかし,乗車時間の短縮が少しみられ る.その原因は,サンプルが通る経路にある.サンプルは同じ駅を通る経路(同一路線) を選択しているが,途中で同じ駅を通る違う系統の路線バス・電車に乗り換えることが あり,選択した系統によって駅間の所要時間にずれが起こるため,乗車時間が短縮され る. 図4.17 より,異経路は,同一経路と同一路線に比べて,乗車時間にばらつきがある ことがわかる.さらに,乗車時間の短縮が多くみられる.その原因は,乗り換えにある. 時刻表ネットワーク上の旅行経路A で乗れなかった路線バス・電車に,遅延ネットワ ーク上では乗れることがあり,異経路を選択した方が乗車時間の短縮につながることが ある.このような場合は,京都市,大阪市,神戸市のような路線バス・電車の運行が多 くある都市に向かうサンプルに多くみられる. 次に,表4.2 で示した出発駅を用い,時間帯を朝とし,各路線バス会社別にサンプル を設定し,シミュレーションを行う.図4.18 と図 4.19 に,阪急バスと京都バスの 1 路 線を出発駅として選択した時のシミュレーション結果を,図4.6∼図 4.8 と同様な形式

(45)

で示す.縦軸は,旅行時間A を取り,横軸は,旅行時間 B を取る.それ以外のシミュ

レーション結果は,付録C に示す.

図4.18 阪急バスの旅行時間

(46)

シミュレーション結果より,全体的に旅行時間にばらつきがある.そのことから,どの 路線バス会社の路線バスに乗車しても,旅行時間の信頼性は保たれていない. 図4.18 は,路線バス会社 8 社の中で 1 番特徴的な散布図である.図 4.18 より,旅行時 間が40 分以内では,ばらつきが少ないことがわかる.その原因は,運行本数にある.出発 駅として選択した路線は1 時間に 1 本のバスしか運行していないことが影響し,遅延が生 じても乗り始めの待ち時間はあまり変わらない.短時間の移動に関しては,待ち時間にば らつきが少ないので,旅行時間の信頼性は保たれている.しかし,旅行時間が長くなると, 遅延の影響を強く受けるため,旅行時間の信頼性が損なわれている. 図4.19 は,運行本数が 1 時間に 1 本の路線を出発駅としたサンプルを用いたが,図 4.18 のような散布図にならなかった.なぜならば,出発駅として選択した路線には,京都市バ スの路線バスも運行しており,路線バス利用開始時に京都市バスに乗車するサンプルもい るからである.さらに,京都バスと京都市バスは,同駅間を運行することがあり,乗り換 えが容易に行える.そのために,旅行時間の信頼性を保つのが難しくなっている.

4.2.2 旅行経路の信頼性の評価

旅行時間と乗り換え回数に注目して,旅行経路の信頼性の評価を行う.旅行経路は, 4.1.2 節で示した「同一経路」,「同一路線」,「異経路」の 3 つに区別し,4.2.1 節で算出 した旅行経路を用いる.図4.20∼図 4.22 は,旅行時間 A を 10 分刻みに分割し,サン プルが通るそれぞれの経路の比率を表す.例えば,旅行時間A が 20∼30 分であったサ ンプルが10 個あるとする.そのサンプルが選択する旅行経路が,同一経路 5,同一路 線3,異経路 2 となる時,それぞれの経路の比率は,同一経路が 0.5,同一路線が 0.3, 異経路が0.2 となる.縦軸は,比率を取り,横軸は,旅行時間を取る.同様に,図 4.23 ∼図 4.25 は,乗り換え回数別の経路の比率を表す.縦軸は,比率を取り,横軸は,乗 り換え回数を取る.サンプルは,出発駅を神戸市バスの神戸駅前∼西丸山一丁目とし, 3 つの時間帯別に作成したものを用いる.

(47)

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0∼ 10 10 ∼ 2 0 20 ∼ 3 0 30 ∼ 4 0 40 ∼ 5 0 50 ∼ 6 0 60 ∼ 7 0 70 ∼ 8 0 80 ∼ 9 0 90 ∼ 1 00 10 0∼ 11 0 11 0∼ 12 0 旅行時間(分) 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.20 朝の旅行時間別の経路 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0∼ 10 10∼ 20 20∼ 30 30∼ 40 40∼ 50 50∼ 60 60∼ 70 70∼ 80 80∼ 90 90∼ 100 100∼ 110 110∼ 120 旅行時間(分) 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.21 昼の旅行時間別の経路 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0∼ 10 10∼ 20 20∼ 30 30∼ 40 40∼ 50 50∼ 60 60∼ 70 70∼ 80 80∼ 90 90∼ 100 100∼ 110 110∼ 120 旅行時間(分) 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.22 夜の旅行時間別の経路

(48)

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0 1 2 3 4 5 6 7 乗り換え回数 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.23 朝の乗り換え回数別の経路 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0 1 2 3 4 5 6 7 乗り換え回数 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.24 昼の乗り換え回数別の経路 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0 1 2 3 4 5 6 7 乗り換え回数 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.25 夜の乗り換え回数別の経路

(49)

図4.20∼図 4.22 は,時間帯を問わず同じような形状を取っている.どの時間帯も, 旅行時間が50∼100 分では,60%以上のサンプルが異経路を通っており,旅行経路の 信頼性が損なわれている.主な原因は,京都市,大阪市に多くの路線バスと鉄道が運行 され,乗り換えが容易に行えることである.そのことより,サンプルは異経路を通りや すくなる.しかし,神戸市も多くの路線バスと鉄道が運行されているが,サンプルは旅 行時間が短いと,同一経路や同一路線を通り,旅行経路の信頼性は保たれている. 図4.23∼図 4.25 より,時間帯においてサンプルが通る旅行経路に多少変化が見られ る.全体の傾向としては,乗り換え回数が3 回以上になると 60%以上のサンプルが異 経路を通っており,旅行経路の信頼性の評価が損なわれている.昼と夜の時間帯は,乗 り換え回数が増えていくと90%以上のサンプルが異経路を通るのに対し,朝の時間帯 は,70%程度のサンプルが異経路を通る.朝の時間帯は,昼と夜の時間帯に比べて,旅 行経路の信頼性は保たれている. 次に,表4.2 で示した出発駅を用い,時間帯を朝と設定したサンプルを用いて,シミ ュレーションを行った時の旅行経路の信頼性の評価を行う.図4.26∼図 4.29 に,京都 バス,京都市バス,阪急バス,大阪市バスの1 路線を出発駅として選択した時のシミュ レーション結果を,図4.20∼図 4.22 と同様の形式で示す.それ以外のシミュレーショ ン結果は,付録D を示す. 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0∼ 10 10∼ 20 20∼ 30 30∼ 40 40∼ 50 50∼ 60 60∼ 70 70∼ 80 80∼ 90 90∼ 100 100∼ 110 110∼ 120 旅行時間(分) 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.26 京都バスの旅行時間別の経路

(50)

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.91 0∼ 1 0 10 ∼ 2 0 20 ∼ 3 0 30 ∼ 4 0 40 ∼ 5 0 50 ∼ 6 0 60 ∼ 7 0 70 ∼ 8 0 80 ∼ 9 0 90∼ 1 0 0 1 00∼ 1 1 0 1 10∼ 1 2 0 旅行時間(分) 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.27 京都市バスの旅行時間別の経路 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.91 0∼ 10 10 ∼ 2 0 20 ∼ 3 0 30 ∼ 4 0 40 ∼ 5 0 50 ∼ 6 0 60 ∼ 7 0 70 ∼ 8 0 80 ∼ 9 0 90 ∼ 1 00 10 0∼ 11 0 11 0∼ 12 0 旅行時間(分) 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.28 阪急バスの旅行時間別の経路 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.91 0∼ 1 0 10 ∼ 2 0 20 ∼ 3 0 30 ∼ 4 0 40 ∼ 5 0 50 ∼ 6 0 60 ∼ 7 0 70 ∼ 8 0 80 ∼ 9 0 90∼ 100 100∼ 110 110∼ 120 旅行時間(分) 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.29 大阪市バスの旅行時間別の経路

(51)

旅行経路には,各路線バス会社の出発駅として選択した路線によって,特徴がある. 特徴として,全体的に旅行経路の信頼性が保たれていない,短時間の移動では旅行経路 の信頼性が保たれているなどが挙げられる. 図4.28 は,旅行時間が0∼40 分までは,旅行経路の信頼性が保たれている.なぜならば, 阪急バスの出発駅として選択した路線は1 時間に 1 本のみの運行なので,ほとんどのサン プルが同じ路線バスに乗車できるからである.短時間の移動は,旅行時間の信頼性が保た れている. 図4.26,図 4.27,図 4.29 は,全体的に旅行経路の信頼性が保たれていない.なぜならば, 旅行経路A で乗った路線バスに乗れず,違う系統の路線バスに乗り換えをする可能性が高 いからである.大阪市バスは,表3.1 を見るとどの路線バス会社よりも,運行本数が多く, 路線数が多いため,乗り換えがしやすい.京都市バスと京都バスは,路線によって同じ駅 間を運行することがあるため,サンプルに京都バスの1 路線の出発駅を与えても,京都市 バスに乗車するということが起こりえる.さらに,京都バスと京都市バスの駅間での乗り 換えもしやすい. 次に,図4.30∼図 4.33 に,阪急バス,京都市バス,南海バス,大阪市バスの 1 路線 を出発駅として選択した時のシミュレーション結果を,図4.25∼図 4.27 と同様の形式 で示す. 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0 1 2 3 4 5 6 7 乗り換え回数 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.30 阪急バスの乗り換え回数別の経路

(52)

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0 1 2 3 4 5 6 7 乗り換え回数 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.31 京都市バスの乗り換え回数別の経路 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0 1 2 3 4 5 6 7 乗り換え回数 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.32 南海バスの乗り換え回数別の経路 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0 1 2 3 4 5 6 7 乗り換え回数 比率 同一経路 同一路線 異経路 図4.33 大阪市バスの乗り換え回数別の経路

表 2.2  京都バスの対象路線バス  系統名 運行区間 平日の運行本数 (本)  京 7111  京都駅前−大覚寺 18  京 7211  京都駅前−清滝 19  京 7311  京都駅前−苔寺すず虫寺 20  五 8111  京都駅前−大覚寺 10  五 8311  京都駅前−苔寺すず虫寺 13  京 7110  大覚寺−京都駅前 17  京 7210  清滝−京都駅前 18  京 7310  苔寺すず虫寺−京都駅前 20  五 8110  大覚寺−京都駅前 10  五 8310  苔寺すず虫寺−京都駅
表 2.3  バス位置情報(○:路線バス)  停留所間\時刻 7:00 7:  01 7:02 7:03 7:04 7:05 7:06  EF   ○ ○ DE   ○ CD  ○ ○ ○ BC   ○ AB  ○ ○ ○ 表 2.4  路線バスの車両番号  停留所間\時刻 7:00 7:  01 7:02 7:03 7:04 7:05 7:06  EF   1  2   DE     1      CD    1     2  3  BC   2  AB  1    2    3   0 50100150
図 2.5  池 86 の系統所要時間  図 2.6  京 7211 の系統所要時間 010203040506070所要時間(分)135791113 15 17 196  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  70 60 50 40 30 20 10  0 010203040506070678910 11 12 13 14 15 16 17 17 18 19 21 22所要時間(分)6   7   8   9   10   11   12
表 2.3  土地利用分類表  コード  土地利用分類  定義  01  山林・荒地等  樹林地,竹林,篠地,笹地,野草地(耕作放棄地を含む), 裸地,ゴルフ場等  02  田  水田,季節により畑作物を栽培するもの  03  畑・その他の農地  畑,果樹園,桑園,茶園,牧場,牧草地,畜舎等  04  造成中地  住宅造成,埋め立て等の目的で人工的に土地の改変が 進行中の土地  05  空地  現在利用されていない土地,駐車場,テニスコート等 06  工業用地  工場用地,またそれに付随する倉庫,原料置き場
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