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リハビリテーション医療における糖尿病理学療法の重要性

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はじめに  糖尿病治療の目的は,合併症の発症や進展の阻止を通じて, 健康な人と変わらない QOL の維持や寿命の確保をすることに あるが,実際,糖尿病は健康寿命を 15 年短縮させるという報 告1)からもあきらかなように,目標の達成はかなり困難である。  糖尿病は,網膜症,神経障害,腎症といった 3 大合併症を引 き起こす。さらに,脳卒中,心筋梗塞,腎不全,壊疽など様々 な合併症も多く,高齢化とあいまって様々な障害を抱えること になる。本稿では,糖尿病がもたらす障害の多様性と重要性, 障害者の廃用症候群がもたらすインスリン抵抗性,合併症の存 在とスクリーニングの重要性,リハにおける注意点を解説し, 糖尿病と障害,障害者と糖尿病の密接な関係を解説する2)。こ れにより,リハ医療における代謝理学療法の重要性をあきらか にしたい。 糖尿病がもたらす障害の多様性と重要性  糖尿病は LDL コレステロールや喫煙と並ぶ最強の動脈硬化 性疾患の危険因子のひとつである。糖尿病が,動脈硬化性疾患 を増加させる影響力は,加齢 15 年分に匹敵するともいわれて いる1)。  糖尿病がもたらす障害の基本は血管障害であり,糖尿病性大 血管病(脳卒中,冠動脈疾患,末梢血管疾患),糖尿病細小血 管病(網膜症,神経障害,腎症),足病変など多様でありかつ 全身におよぶ特徴がある3)。糖尿病細小血管症の危険因子の中 では高血糖の重要性の比重がきわめて高いが,糖尿病大血管症 では高血糖,高血圧,高脂血症,喫煙,肥満などの危険因子が すべて重要であり,かつ,危険因子の数が増えると大血管症の リスクは相乗的に増加する。したがって,糖尿病患者における 大血管症の予防のためには,血糖管理だけではなく,上記の危 険因子をできるだけ取り除く必要がある。すなわち,大血管症 の予防には,糖尿病患者では非糖尿病者よりも厳格に危険因子 の管理を行う必要がある。 1.糖尿病性大血管病 1)脳卒中  久山町研究によると,糖尿病患者における脳梗塞発症リスク は,非糖尿病者の約 3 倍高い4)。糖尿病患者の脳梗塞のタイプ ではラクナが多いが,糖尿病はアテローム血栓性脳梗塞に対し てもリスクとなる。脳梗塞の予後に関して,糖尿病患者では死 亡率が高く,また再発しやすい5‒7)。 2)冠動脈疾患  糖尿病患者のみならず耐糖能が境界型のものでも冠動脈疾患 の発症リスクは正常型に比べて高い。糖尿病患者では,冠動脈 狭窄病変が広範囲にわたり,多枝病変例が多い。冠動脈疾患の 既往がない糖尿病患者の心筋梗塞発症率は,非糖尿病者で心筋 梗塞の既往がある者の再発率に匹敵する8)。また,心筋梗塞の 既往がある糖尿病患者の心筋梗塞再発率は心筋梗塞の既往があ る非糖尿病者の心筋梗塞再発率よりもさらに高い8)。さらに, 心筋梗塞後に心不全を併発することが多く,再発の頻度も 4 倍 高い9)。  知覚神経障害を基盤として症状がないあるいは非典型的で あったりして発見が遅れてしまいがちであるので,年に最低一 度は症状がなくても心電図をとる必要がある。心電図上心筋虚 血の存在が疑われるにもかかわらず冠動脈の有意狭窄のない例 もみられるが,その場合は微小循環の障害が原因と考えられて いる。 3)末梢血管障害  糖尿病患者における末梢血管障害の頻度は高く,壊疽,下肢 の切断の最大の原因となっている。 2.糖尿病細小血管病 1)糖尿病性網膜症  糖尿病網膜症は,進行すれば視力障害をきたし,成人におけ る失明原因の第 1 位の疾患である。糖尿病網膜症の初期には自 覚症状を有しないので糖尿病の診断が確定,または糖尿病が疑 われる時点で眼科医を受診させ網膜症の有無と病期を評価する 必要がある。HbA1c 値は正常に近ければ近いほど網膜症の発 症・進展はより抑制される。しかし,急激な血糖コントロール により一時的に網膜症が悪化する可能性があり10),HbA1c の 低下速度をどの程度までに抑えるのがよいかは十分にはあきら かになっていない。 2)糖尿病性神経障害  神経障害でみられる神経変性は,もっとも長い線維である下

リハビリテーション医療における糖尿病理学療法の重要性

上 月 正 博

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専門領域研究部会 内部障害理学療法 特別セッション「パネルディスカッション」

The Role of Physical Therapy in the Disabled Patients with Diabetes Mellitus

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東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻機能医科学講座内部障害学 分野

(〒 980‒8574 仙台市青葉区星陵町 1‒1)

Masahiro Kohzuki, Professor, MD, PhD: Department of Internal Medicine and Rehabilitation Science, Tohoku University Graduate School of Medicine

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肢への神経にみられやすく,四肢末端に知覚鈍麻,自発痛,し びれ感,灼熱感などの異常感覚を示すことが多い。単発性神経 障害は,脳神経障害,特に外眼筋麻痺,体幹・四肢の神経障害, 糖尿病筋萎縮を起こす。自律神経障害は,発汗異常,起立性低 血圧,消化管の運動障害(便秘,下痢),膀胱の機能障害,勃 起障害などを起こし,ADL や QOL を大きく損なわせる。 3)糖尿病性腎症  糖尿病腎症は,我が国における透析導入原因の第 1 位である。 透析に至った糖尿病患者の生命予後は不良で,5 年生存率約 60%と報告されている11)。したがって,糖尿病腎症の発症を防 ぐとともに,腎症をできるだけ早期に診断し,その進展を抑制 するように血糖や血圧コントロール(ACE 阻害薬あるいはアン ジオテンシン受容体拮抗薬を中心とした目標血圧 130/80 mmHg 未満の厳格な血圧管理)を行うことが重要である。 3.その他 1)糖尿病性足病変  糖尿病足病変には,足趾間や爪の白癬菌症から,足趾の変形 や胼胝,足潰瘍,足壊疽まで幅広い病態が含まれる。足潰瘍や 足壊疽まで進行すると,長期入院や切断に至ることも少なくな いので,患者の ADL や QOL は大きく低下する。糖尿病足病 変の特徴は,潰瘍や壊疽まで進行しても患者の自覚症状が乏し いことと,足の診察機会が少ないために早期診断が難しいこと である。足趾や下肢の切断や足潰瘍の既往,末梢神経障害合併, 末梢動脈疾患合併,腎不全や透析,視力障害,血糖コントロー ル不良は糖尿病足病変のリスクが高いので定期的に足を診察す るべきである。 2)悪性新生物,感染症  糖尿病患者の死因の第 1 位は悪性新生物である。糖尿病患者 の感染症も増加している。すなわち,糖尿病合併症は重要であ るが,それのみに心を奪われることなく,感染症に罹患する可 能性も常に念頭に入れるとともに,非糖尿病者と同様に悪性新 生物の早期発見に努めるべきである。 障害者における糖尿病 1.廃用症候群がもらたすインスリン抵抗性  身体障害者の身体活動は不活発になりがちであり,身体諸器 官における廃用症候群をまねくが,そのような不活発な生活習 慣自体が疾患・障害発症の新たな危険因子となる12)。すなわ ち,障害に対するリハにとっても生活習慣の是正はきわめて重 要である。筆者らが行った東北大学病院リハ科での調査13)14) では,脳卒中回復期リハ患者では,糖尿病を 24%,さらに耐糖 能異常を 76%に認めた。特に歩行困難例においてその割合が高 く,脳血管疾患罹患後の運動量低下が一因である可能性が示唆 された14)。脊髄損傷患者においても同様である15)。おそらく, 脳卒中や脊髄損傷発病前から糖尿病やメタボリックシンドロー ムである場合が多いことに加えて,脳卒中や脊髄損傷に起因す る身体障害により運動量が低下して,発病後にインスリン抵抗 性が増したことの両方の要因が考えられる15)16)。 2.糖尿病合併症の存在やスクリーニングの重要性  障害者においても,糖尿病による血管障害は,糖尿病性大血 管病(脳卒中,冠動脈疾患,末梢血管疾患),糖尿病細小血管 病(網膜症,神経障害,腎症),足病変など多様かつ全身にお よぶことはいうまでもない。  糖尿病を合併する脳血管疾患患者に対するリハ中の事故とし て,意識障害(低血糖発作など),胸痛,呼吸困難,不整脈(心 疾患が疑われる),転倒,骨折などが挙げられる。特に,糖尿 病患者では,冠動脈狭窄病変が広範囲にわたり,多枝病変例が 多いにもかかわらず,知覚神経障害を基盤として症状がないあ るいは非典型的であったりして発見が遅れてしまいがちであ る。年に最低一度は症状がなくても心電図をとる必要があるこ とは,糖尿病を有する障害者にも当然あてはまる。  脳血管疾患片麻痺患者では歩行や階段昇降で健常者の 1.5 ∼ 2 倍の酸素消費量を必要とする。すなわち,脳血管疾患片麻痺 患者では,健常者にとっては軽い動作に相当するものでも,心 負荷が大きくなり,狭心症や心不全の症状がでやすくなる。し たがって,脳卒中片麻痺患者においても,回復期リハの際には, 運動負荷試験などにより,虚血性心疾患の存在のスクリーニン グを行うことが重要である(表 1)17)。また,虚血性心疾患の 存在が,当初の到達目標への阻害因子となることがある。ただ し,脳血管疾患患者の中には失語症や,注意障害などのためス タッフの指示にしたがえず,また試験途中の自覚症状を適切に 訴えることができないため,負荷試験そのものに難渋する症例 も少なくない。 3.機能予後不良や再発率の高さ  糖尿病は脳卒中リハの短期的予後には影響を及ぼさないとす るいくつかの報告18)19)がある一方,糖尿病や高血糖が急性期 での機能予後や神経学的な回復を悪化させるとする多くの報告 があり,糖尿病は脳卒中リハの短期的予後に影響を及ぼすとい う考え方が一般的といえる5)20‒22)。また,糖尿病は長期的に も機能的予後の回復阻害因子になっている23)(表 2)。  すなわち,末梢血管障害と足病変による足趾の変形や胼胝, 足潰瘍,足壊疽,下肢の切断,糖尿病網膜症による視力障害・ 失明,糖尿病性腎不全による血液透析(透析時間のためのリハ 時間確保困難,腎不全による運動耐容能低下,下肢浮腫の変化 に基づく装具調整の困難さ,など),さらに,糖尿病性神経障害 でみられる四肢末端の異常感覚,単発性神経障害の脳神経障害, 特に外眼筋麻痺,体幹・四肢の神経障害,糖尿病筋萎縮,さら 表 1 脳血管疾患患者で可能な運動負荷法(文献 17)より) 1.臥位下肢自転車エルゴメーター 両脚使用,健側脚使用 2.座位下肢自転車エルゴメーター 両脚使用,健側脚使用 3.臥位上肢自転車エルゴメーター 両腕使用,健側腕使用 4.座位上肢自転車エルゴメーター 両腕使用,健側腕使用 5.車椅子エルゴメーター ホルター心電図使用 6.トレッドミル 運動障害が軽度な場合 7.日常生活でのホルター心電図 すべての患者に適応あり

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に,自律神経障害としての起立性低血圧,膀胱の機能障害など は ADL,QOL を大きく損なわせ,リハの大きな障害になる。  脳卒中再発率は,海外では 5 年間で 25 ∼ 42%23),我が国で も 5 年間で 35%,10 年間で 51%と報告されており24),脳卒中 患者は,リハを終了した後も高いリスクにさらされている。糖 尿病は,日本糖尿病学会の「科学的根拠に基づく糖尿病治療ガ イドライン」25)にしたがって,より厳格なコントロールが望 まれる。 糖尿病リハにおける注意点  糖尿病のリハにあたっては,個々の患者の身体的,精神・ 心理的,社会的背景および本人の希望の個人差を十分考えて, 個々に治療目標を立て,包括的に診療にあたることが肝要であ る(図 1)26)。  糖尿病の治療においては,血糖のみならず血圧,血清脂質, 体重などの適正化をはかり糖尿病細小血管症および大血管障害 の発症・進展を予防することが重要である(グレード A)25)。 しかし,糖尿病治療が QOL を低下させることがないように細 心の注意を払うべきことも強調しておきたい。 1.食事療法  食事療法の意義,個別対応,摂取エネルギーの決定,摂取成 分量については,コンセンサスが得られており,行うよう強く 推奨されている(グレード A)25)。糖尿病食は,高血糖,高脂 表 2  脳卒中患者の ADL 予後不良に関与する因子 (文献 23)より) 高齢 併存症  心筋梗塞  糖尿病 脳卒中の重症度  筋力低下  座位バランスの不良  視空間認知障害  認知症  失禁  日常生活活動スコア低値 リハビリテーション開始までの日数 図 1 糖尿病のリハビリテーションに必要な情報(文献 26)を改変)

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血症あるいは肥満の是正にも有用である。食事療法の指導にあ たり,基本的には日本糖尿病学会編集の食品交換表を用いた指 導を行うが,患者の理解やアドヒアランスを高めるために,簡 単な指導媒体の使用も考慮する。 2.薬物療法  薬物療法は,糖尿病の有用な治療法である。しかし,薬物療 法に伴う重症低血糖が後期高齢者,多剤(糖尿病治療薬以外) 併用例,退院直後の例,腎不全例,食事摂取量低下例などに発 症しやすいこと,高齢者では典型的な低血糖症状のみならず非 典型的な症状を訴える例が多いことにも注意する必要がある (グレード B)25)。 3.運動療法  運動療法は糖尿病の有用な治療法である(グレード A)25)。 また,運動は大血管障害の発症予防,ADL の維持・向上に有 用である。糖尿病患者は,インスリン抵抗性,肥満,高血圧や 脂質代謝異常を伴っている場合が多く,運動療法によってこれ らの異常が改善されるとともに血糖コントロールが改善する。 また食事療法と組み合わせることによりさらに高い効果が期待 できる(グレード A)。  運動は実生活の中で実施可能な時間であればいつ行ってもよ いが,食後 1 時間頃に行うと食後の高血糖が改善されると考え られている。インスリンや経口血糖降下薬(特にスルホニル尿 素薬)で治療を行っている場合には低血糖になりやすい時間に 注意する必要がある。運動療法の進め方は個人の基礎体力,年 齢,体重,健康状態などにより異なるが,最初は歩行時間を増 やすなど無理のない程度に身体活動量を増加させることよりは じめ,段階的に運動量を増加させていき,患者の嗜好にあった 運動を取り入れるなど,安全かつ運動の楽しさを実感できるよ うに工夫することにより,運動の継続が期待される。運動療法 の目標として一般的には,運動強度が中等度で,持続時間が 20 ∼ 60 分程度の運動を毎日,少なくとも週 3 ∼ 5 日間は行う ことが勧められる25)。  運動療法の注意点を表 3 に示す25)。運動療法を行うにあたっ て特別な配慮が必要なのは,心血管障害やそのリスクが高い場 合,あきらかな末梢および自律神経障害のある場合,進行した 細小血管障害がある場合,整形外科的疾患がある場合などであ るが,日常生活における身体活動量は可能な限り低下させない ように配慮すべきである(グレード A)25)。中等症以上の非増 殖性網膜症の場合は急激な血圧上昇を伴う運動は避け,重症ま たは増殖性網膜症では無酸素運動や身体に衝撃の加わる運動は 避けるべきである。  身体障害者の身体活動は不活発になりがちであり,身体諸器 官における廃用症候群をまねくが,そのような不活発な生活習 慣自体が疾患・障害発症の新たな危険因子となる。すなわち, 障害に対するリハにとっても生活習慣の是正はきわめて重要で あり,積極的に身体活動量を増加させることが必要である。 表 3 運動療法の注意点(文献 25)より) 1.運動療法の開始 グレード A 運動療法を開始する際には,糖尿病性慢性合併症や心血管障害の有無など,あらかじめ医学的評価が必要である. 2.2 型糖尿病患者における運動療法 グレード A 2 型糖尿病患者では基本的治療として,日常生活の中で段階的に運動量を増やしていき,それを継続することが重要 である.2 型糖尿病患者においては,運動により血糖コントロールの改善,脂質代謝の改善,血圧低下,インスリン 感受性の増加が認められ,食事療法と組み合わせることによりさらに高い効果が期待できる. 3.1 型糖尿病患者における運動療法 グレード B 進行した合併症がなく,血糖コントロールが良好であれば,インスリン療法や補食を調整することにより,いかなる 運動も可能である.1 型糖尿病患者においては,運動の長期的な血糖コントロールへの効果は不明であるが,心血管 系疾患の危険因子を低下させ,生活の質を改善させる. 4.合併症などのある糖尿病患者における運動療法 グレード A 運動療法を行うにあたって特別な配慮が必要なのは,心血管障害やそのリスクが高い場合,あきらかな末梢および自 律神経障害のある場合.進行した細小血管障害がある場合,整形外科的疾患がある場合などであるが,日常生活にお ける身体活動量は可能な限り低下させないように配慮すべきである. 5.薬物治療中の糖尿病患者における運動療法 グレード B インスリン治療をしている患者では血糖自己測定を行い,運動の時間や種類や量により,運動前や運動中に補食する, 運動前後のインスリン量を減らす,注射部位を運動の影響を受けにくい部位に変更する,など適切なインスリン療法 の調整が必要である. 経口血糖降下薬(特にスルホニル尿素薬)では投薬量を減らす必要がある場合もある。 6.糖尿病患者の運動療法における一般的な注意 グレード B 1)両足をよく観察し,適切な靴をはいて運動する. 2)血糖コントロールの悪いとき(空腹時血糖 250 mg/dL 以上または尿ケトン体陽性)は運動を積極的には行わない. 3) 運動は,インスリンや経口血糖降下薬(特にスルホニル尿素薬)で治療を行っている患者において,運動中およ び運動当日∼翌日に低血糖を惹起するおそれがあるので,注意が必要である.特にインスリン治療中の患者では, 運動前の血糖が 90 mg/dL 未満の場合には吸収のよい炭水化物を 1 ∼ 2 単位摂取することが望ましい. 4) 運動量は徐々に増加させていくのが望ましく,運動療法の目標としては,運動の頻度はできれば毎日,少なくと も週に 3 ∼ 5 回,持続時間は 20 ∼ 60 分,強度は中等度の運動が一般的には勧められ,運動の前後に準備運動と 整理運動を行う.

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4. 糖尿病合併症障害者(特に心臓機能障害,腎臓機能障害) のリハ心臓機能障害  糖尿病の合併症として虚血性心疾患や心不全などの心臓機能 障害がある。心臓リハのゴールは,脳卒中リハのように単に在 宅生活や復職ではなく,心血管疾患の再発防止,生命予後の延 長を含むものである。すなわち,心臓リハは長期的で包括的な プログラムである。このプログラムは,個々の患者の心疾患に 基づく身体的・精神的影響をできるだけ軽減し,突然死や再梗 塞のリスクを是正し,症状を調整し,動脈硬化の過程を抑制あ るいは逆転させ,心理社会的ならびに職業的な状況を改善する ことを目的とする27)。  心臓リハにより,①運動耐容能の増加,②冠動脈硬化・冠循 環の改善,③冠危険因子の是正,④生命予後の改善,⑤生活の 質(quality of life ; QOL)の改善などのめざましい効果が示さ れている28)。我が国では日本心臓リハ学会・日本循環器学会 を中心として「心血管疾患におけるリハビリテーションに関す るガイドライン(2012 年改訂版)」が作成され,心臓リハの実 際とその効果が詳細にまとめられ28),筆者も一部執筆した。  心臓リハは,心筋梗塞や心不全を発症して入院してから自宅 へ退院するまでの急性期心臓リハ,社会復帰を目標とした回復 期心臓リハ,社会復帰以後生涯を通じて行われる維持期心臓リ ハに分けられる。心臓リハのエビデンスは急性期心臓リハに よってではなく,その後の社会復帰を目標とした数ヵ月にわた る回復期心臓リハによって達成される。米国心臓学会のガイド ラインでは心筋梗塞患者の長期生命予後を改善する方法でエビ デンスレベル最高ランクのエビデンス A に挙げられているも のは 2 つしかないが,そのうちの 1 つに回復期心臓リハを挙げ ている(残りの 1 つはスタチン(脂質異常症治療薬))29)。  最近,我が国では診療報酬制度での心大血管疾患リハの適応 疾患が拡大された。すなわち,心臓リハの有効性が認められて いる循環器疾患は,心筋梗塞以外にも,狭心症,冠動脈バイパ ス術後,心臓弁膜症術後,大動脈瘤手術後,心不全,心臓移植 後,末梢動脈疾患などがありいずれも診療報酬に収載された。 これらの疾患に対する心臓リハのエビデンスも欧米ではエビデ ンス A に挙げられている。すなわち,回復期心臓リハは循環 器疾患にとって必須かつ最高レベルの医療として広く認知され たわけであり,我が国でも積極的に推進していく必要がある。 5.腎臓機能疾患  糖尿病は透析の原因疾患の第 1 位である。2011(平成 23)年 末の我が国の慢性透析患者数は 30 万人を突破した11)。透析患 者では,腎性貧血,尿毒症性低栄養,骨格筋減少・筋力低下, 骨格筋機能異常,運動耐容量の低下,易疲労感,活動量減少, QOL 低下などが認められる。長期間にわたって透析を行ってい ると,心不全や低血圧などの合併症が発生し,それが透析患者 の QOL を一層低下させてしまう。さらに,透析合併症や超高 齢化に伴う多疾患や透析合併症による重複障害により安静を保 つことで,運動耐容能はさらに低下し,廃用症候群に陥ってし まう。透析患者の運動耐容能は心不全患者や COPD 患者のもの と同レベルまで低下している。運動耐容能の低い透析患者や運 動をしない透析患者では生命予後が悪いことがあきらかになっ ている。定期的な運動習慣のある透析患者は,非運動患者に比 較してあきらかに生命予後がよいこと,週あたりの運動回数が 多いほど生命予後がよい。さらに,定期的な運動習慣をもつ透 析患者の割合が多い施設ほど,施設あたりの患者死亡率が低い。  腎臓リハは,腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影 響を軽減させ,症状を調整し,生命予後を改善し,心理社会 的ならびに職業的な状況を改善することを目的として,運動 療法,食事療法と水分管理,薬物療法,教育,精神・心理的サ ポートなどを行う,長期にわたる包括的なプログラムによるリ ハである30)。腎臓リハの中核である運動療法は,透析患者に 対して運動耐容能改善,MIA 症候群改善,タンパク質異化抑 制,QOL 改善などをもたらすことがあきらかにされている(表 4)30)。「透析患者の心血管疾患に対する K/DOQI 臨床ガイドラ イン 2005 年版」では,「医療関係者は透析患者の運動機能評価 と運動の奨励を積極的に行う必要がある」と明記してある31)。  透析患者に対する運動療法の標準的なメニューは,非透析日 に週3∼4回,1回に 30 ∼ 60 分の歩行,エルゴメーターなど の中強度(最大の 60%未満)有酸素運動が中心となる。低強 度の筋力増強訓練を加える場合もある。通常は運動施設か自宅 で行う。また,運動前後のストレッチング,関節可動域維持訓 練,筋力増強訓練を追加することが望ましい。最近は,透析の 最中に下肢エルゴメーターなどの運動療法を行う施設も増加し てきた。週 3 回の透析の際に運動療法を行ってしまうことで, 改めて透析以外の時間帯に長い運動時間を設定しなくてよい。 退屈な透析時間をどう過ごすかに悩んでいる透析患者にとって は,非常な朗報であるといえる。  さらに,透析には至らない保存的腎不全の患者においても, 適度な運動が腎機能には悪影響を及ぼさずに,むしろ運動耐容 能や QOL の向上,糖・脂質代謝の改善などのメリットをもた らす可能性があるという報告があり,腎機能障害患者の活動を 過度に制限すべきではないことが示唆されている。CKD ガイ ドラインでは,「運動疲労を起こさない程度の運動(5 METs 前後)が安定した CKD を悪化させるという根拠はなく,合併 症などの身体状況が許す限り,定期的施行が推奨される」とさ 表 4  腎不全透析患者における運動療法の効果(文 献 30)より引用) 1 最大酸素摂取量の増加 2 左心室収縮能の亢進(安静時・運動時) 3 心臓副交感神経系の活性化 4 心臓交感神経過緊張の改善 5 低栄養・炎症・動脈硬化(MIA)複合症候群の改善 6 貧血の改善 7 睡眠の質の改善 8 不安・うつ・QOL の改善 9 ADL の改善 10 前腕静脈サイズの増加(特に等張性運動による) 11 透析効率の改善 12 死亡率の低下

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れている32)。透析には至らない保存的腎不全の各種動物モデ ルでは,運動はむしろ腎保護に働くことが筆者の教室を中心に 報告されている30)33)。  腎臓リハの必要性に関しては,医療者・患者双方の腎臓リハ の必要性や有効性に対する理解は十分でなかった。また,科学 的かつ合理的な運動療法メニューの開発などの研究も必要であ る。2011 年 1 月に腎臓リハの一層の普及・発展を目的として, 職種を超えた学術団体である日本腎臓リハ学会が設立された。 また,2012(平成 24)年に我が国のみならず世界初の腎臓リハ の成書である「腎臓リハビリテーション」を発刊した30)。今後 大きなテーマとなることは確実な腎臓リハの普及と発展に貢献 し,多くの腎臓機能障害者の福音となることを期待したい。 リハ医やリハ関連職にとっての糖尿病  糖尿病では,複数の血管合併症,特に大血管障害に加えて ADL,認知機能など自立した生活,自己管理を困難とする生 活機能障害をもつ例の頻度が高くなる34‒36)。高血糖自体が認 知症やうつといった高次脳機能障害を進展させている場合も多 い37)。患者の理解度に合わせて繰り返し丁寧に説明をしなが ら適切に管理することが必要である。ただ,自立障害が著しい 場合は,患者に対する糖尿病教育はある程度断念せざるを得な いこともあり,その場合は家族や介護者への教育が重要とな る。インスリン自己注射が困難で家族や訪問看護,ヘルパーの サポートが必須である場合も少なくなく,介護負担感をます要 因になっている。そのため,QOL や家族の負担を考えてイン スリン導入せずに高用量の SU 剤を投与しており,慢性的に高 血糖状態が継続し,ケトーシスの状態に陥ったり,感染症に罹 患しやすい症例を見かける。また,老健施設への入所に際して 強化インスリン療法をしているという理由で断られる事態も生 じている。恐らくインスリン療法に対する恐怖感(アクシデン ト時にどう対応したらよいかわからないなど)や理由なき重症 感からくるものであろう。在宅酸素療法患者の受け入れ拒否な どと同根の問題と思われる。食欲もまちまちな糖尿病患者の場 合は,SU 剤よりむしろインスリン注射の方が血糖管理は楽な 場合もある。また最近は DPP-4 阻害薬がでてきたが,本薬は 単独では低血糖をほとんどきたさないので,安心して運動を行 うことができるのは,朗報である。  糖尿病は様々な障害を招くとともに,障害者の機能予後,生 命予後に大きな影響を及ぼす。多くのリハ医やリハ関連職は糖 尿病患者を診なければならないケースが今後ますます増えてく るわけであり,糖尿病について十分に理解しておく必要があ る。リハに際しては,特にインスリン療法や内服薬の選択・注 意点,シックデイの糖尿病治療薬の扱い方,運動に際しての 低血糖・高血糖対策などをよく理解しておくことが重要であ る2)25)。 おわりに  本稿では,糖尿病と障害,障害者と糖尿病の密接な関係を解 説し,リハ医療における代謝理学療法の重要性をあきらかにし た。糖尿病に対しては,発症予防,発症後の血糖コントロール, 合併症に対する多面的アプローチなどトータルケアを行う必要 がある。

 これまでの医療は寿命の延長(adding years to life),リハ ビリテーション(リハ),ADL や QOL の改善(adding life to years)をおもに目指してきた。しかし,糖尿病がもたらす心 臓機能障害や腎臓機能障害など内部障害に対するリハは,単に ADL を拡大し在宅,復職を目指すことが最終目標とするリハ ではなく,動脈硬化性疾患の発症・再発予防,生命予後の延長 などにもつながるきわめて有効な治療であり,生活の質の改善 と寿命の延長(adding life to years and years to life)を達成 できる医療である38)。今後ますます重要な分野となると考え られる本領域には,リハ医やリハ関連職の有する「技」と「環 境」が,大いに寄与できると考える(表 5)3)。

文  献

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表 5  リハ医やリハ医療職の有利な点(文献 3)より) 1 障害者は,身体活動が不活発になりがちであり,そ の不活発さが疾患発生や機能障害・能力障害の発症の新 たな危険因子となるため,リハに際しては必ずといって よいくらい生活習慣を是正する必要性(「環境」)がこれ までも存在し,その指導に習熟した人材が多い. 2 従来の内科外来などでの指導や保健指導に比較し, 運動療法や食事療法を実際にその場で患者に指導し,励 まし,確認し,患者が自信をもって行えるようにできる 「技」をもっている. 3 その安全かつ専門的な指導技術が,患者の生活習慣 の是正に効果的であることは,すでに内部障害,特に心 臓機能障害や呼吸器機能障害のリハでは実証されている という歴史的な強みがある. 4 リハの主要な考え方としての,患者の QOL や満足度 に配慮しながら,患者の環境や選択権に基づいた効果的 な指導を行うという考え方が,そのまま適応できる.

(7)

10) The Diabetes Control and Complications Trial (DCCT) Research Group: Early worsening of diabetic retinopathy in the Diabetes Control and Complications Trial. Arch Ophthalmol. 1988; 116: 874‒886.

11) 社 団 法 人 日 本 透 析 医 学 会 ホ ー ム ペ ー ジ  図 説  わ が 国 の 慢 性 透 析 療 法 の 現 況.Available from: URL: http://docs.jsdt.or.jp/ overview/index.html

12) 上月正博:脳血管障害.日本臨床増刊号 身体活動・運動と生 活 習 慣 病: 運 動 生 理 学 と 最 新 の 予 防・ 治 療.2009; 67(Suppl 2): 276‒283.

13) Kohzuki M, Yokogawa M, et al.: Heart disease and hyperlipidemia in Japanese stroke patients. Proceedings of the 1st World Congress of the International Society of Physical and Rehabilitation Medicine, Monduzzi Editore, Bologna, 2001, pp. 531‒535. 14) 上月正博,横川正美,他:シンポジウム:高齢者脳卒中の運動療 法.臨床運動療法研究会誌.2001; 3: 13‒16. 15) 内田浩之:脊髄損傷患者における虚血性心疾患の発病の背景.リ ハ医学.1998; 35: 215‒217. 16) 上月正博:脳卒中患者における虚血性心疾患の発病の背景.リハ 医学.1998; 35: 209‒212. 17) 上月正博,長坂 誠:脳血管疾患の予防と治療における身体活動 の位置づけ.臨床スポーツ医学.2007; 24: 175‒182.

18) Mizrahi EH, Fleissig Y, et al.: Functional outcome of ischemic stroke: a comparative study of diabetic and non-diabetic patients. Disabil Rehabil. 2007; 29: 1091‒1095.

19) Ripley DL, Seel RT, et al.: The impact of diabetes mellitus on stroke acute rehabilitation outcomes. Am J Phys Med Rehabil. 2007; 86: 754‒761.

20) Bruno A, Levine SR, et al.: Admission glucose level and clinical outcomes in the NINDS rt-PA Stroke Trial. Neurology. 2002; 59: 669‒674.

21) Bruno A, Biller J, et al.: Acute blood glucose level and outcome from ischemic stroke: Trial of ORG10172 in Acute Stroke Treatment (TOAST). Neurology. 1999; 52: 280‒284.

22) Kiers T, Davis SM, et al.: Stroke topography and outcome in relation to hyperglycemia and diabetes. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1992; 55: 263‒270.

23) Brandstarter ME: Stroke rehabilitation. In Physical Medicine & Rehabilitation: Principles and Practice. 4th Ed (edited by DeLisa JA) Lippincott Williams &Wilkins, Philadelphia, 2005, pp. 1655‒ 1676.

24) Hata J, Tanizaki Y, et al.: Ten year recurrence after fi rst ever stroke in a Japanese community: the Hisayama study. J Neurol

Neurosurg Psychiatry. 2005; 76: 368‒372. 25) 科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン策定に関する委員 会:食事療法.科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン,改 訂第 2 版.日本糖尿病学会(編),南江堂,東京,2007. 26) 上月正博:リハビリテーション心理学・社会学に望むこと(総論). 臨床リハ.2009; 18: 438‒442.

27) Wenger NK, Frölicher ES, et al.: In: Cardiac Rehabilitation. Clinical Practice Guideline No 17 (AHCPR Publication No 96-0672), 1995, pp. 1‒26.

28) 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2011 年度合同研究 班報告.心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイド ラ イ ン(2012 年 改 訂 版 )available from http://www.j-circ.or.jp/ guideline/pdf/JCS2012_nohara_h.pdf

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30) 上月正博(編):腎臓リハビリテーション.医葉薬出版,東京, 2012.

31) NKF-K/DOGI: K/DOQI Clinical Practice Guidelines for Cardiovascular Disease in Dialysis Patients. Am J Kid Dis. 2005; 45(Suppl 3): S1‒S128.

32) エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン,日本腎臓学会(編). http://www.jsn.or.jp/ckd/ckd2009_764.php

33) Kohzuki M, Renal Rehabilitation: present and future perspecives. In: Suzuki H, Hemodialysis, InTech Inc., Croatia, 2013, pp. 743‒752. 34) Araki A, Nakano T, et al.: Low well-being, cognitive impairment

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参照

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